IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#20 相性が成せる戦闘スタイル

(……やっぱり勝てなかったか)

 

 機体損傷は……かなりやばいな。

 あの後、時間を稼ごうとしたがどうにもならず、俺は二人が隠れている入口を塞ぐように座っていた。

 

(……情報は集めたのに、それを知らせることもできないなんてな…)

 

 いくら作戦立案者として目覚めたといっても、それを実行できる機体や装備がなければ話にならない。あるものだけで作戦を考え、突破するなんてそれはあくまで相手の技量や性格を知っていたらの話だ。

 打鉄ではなく、三年前に俺を優勝させてくれたあの機体ならISなんて数秒で片付けられる自信はあるが、ないものねだりしてもしょうがないか。それになにより、あの機体はISがあろうとなかろうと、現代科学で実現させようにもファンタジー要素が多すぎる。グラ○ゾンじゃないんだから。

 

(…………でも、遅すぎないか?)

 

 俺の思考を読んだのか、ハイパーセンサーに時間が表示される。ISの試合は一般的に長くても20分はかからず、あの試合からすでに40分が経過していた。

 様子を見ているのか、敵は動く気配がない。停止しているわけではないが、どうやらこれ以上危害を加えるつもりはないようだ。

 

(確かに俺の戦い方に型なんてないけどさ……)

 

 それでも敵が動かなくなって5分ぐらいは経つ。さすがに不気味に感じ始めているが、それよりも救援の方だった。

 

(いくら何でも、さすがに来るだろ)

 

 確かにアリーナ内からドンパチは辛うじて聞こえる。でも、それでもこっちに回すぐらいの余裕はあるはずだろうに。

 

 ———そんな時だった

 

 ハイパーセンサーに突然顔を「SOUND ONRY」と表示されたウインドウが現れる。

 

『聞こえてる?』

「………何だよ」

 

 声からして女なんだろう。が、随分とタイミングが悪い。

 

『よかった。まだ生きてるわね』

「……だったら何だ?」

 

 本当にイラつかせてくれる。

 無駄に高いというわけではない。ただ、今の状況から女と接することが原因だろう。

 

(邪魔だな)

 

 通信を無理やり切るが、またすぐにウインドウが開いて接続される。

 

『ちょっと! 切らないでよ!』

「………」

 

 こんな状況で一体何だと言うんだ。それとも、作戦か? こんな時に?

 

『それどころじゃないのはわかるけど、ちょっとはこっちの話も聞こうとしてよ!』

「だったらさっさとこっちに救援をよこせ。どうしてか向こうは動かないからなんとかなっているが、この先どうなるかわからん」

 

 早いものに当たる保証がない手榴弾ぐらいしか手持ちはない現状、補給部隊や鎮圧部隊が出るのは当たり前だ。少なくともその場の領域を放棄しない限りはな。

 ましてやここは外だが学園内。いくら何でももう来るはずだろう。

 

『悪いけど、学園の部隊はそっちの救助に向かう気はないみたいよ』

「………は?」

 

 ちょっと待ってくれよ。まだこっちには逃げ遅れてどういうことかそこから動けない生徒が二人もいるんだぞ。それなのに、来ない。

 

「………なんだよ、それ」

 

 仮にも俺は学園の生徒だ。だというのに部隊の奴らは誰一人として来る気はないらしい。

 

(いや、違うな)

 

 考えてみれば俺が間違っていたんだ。

 だってそうだろう。女なんてものは所詮ISに守られているだけの存在。だと言うのに、思いあがった愚かな連中だ。過度な期待をする方が間違っていた。

 

「……やるか」

 

 ふと、思いついた唯一の勝ち方。無謀だが、今この状況で唯一生還できるその方法を採用した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー、なんとか終わったじぇ~」

 

 そう言いながら束は10回お気に自分の肩を交互に揉むと、後は今座っている椅子のマッサージ機能にその身を預けてリラックスしていた。

 悠夜たちの方の無人機が動かなくなったのは一夏たちが相手をしている無人機に束にとってのアクシデントが起こったからである。

 

(いやぁ、まさか箒ちゃんに攻撃を向けるなんて思わなかったよ)

 

 その設定を改変し、同時進行で中継室に張られているバリアの質を遠隔で上げた。あそこで一夏が特攻をしていなくても大丈夫なように、そして特攻しても間に合うように対処していたのである。

 

「あ、忘れてた」

 

 彼女にとってはそれなりにリラックスしたようで、すぐもう一方の方に意識を向ける。

 画面の向こうでは悠夜が対IS用手榴弾を手に持って接近していたが、束と、彼女が操る機体にとってそれは脅威ではなかった。

 

「まっさかぁ、もう自爆?」

 

 「やけになったのかなぁ」と続ける束だが、彼女はむしろ好都合だと思っていた。

 

「まぁ、余裕だけど」

 

 束はキーボードで操作し、彼女が作った無人機を回避させる。

 するとスピード越しに爆発音が彼女のラボに轟かせた。彼女はすぐに異常を調べると、左腕が破壊されたという表示があった。

 

「でも、アレの腕も壊れてる―――」

 

 だが悠夜の打鉄にはそんな損傷は見られず、無人機によって痛めつけられた傷以外は損傷はなかった。

 不思議に思いつつも束はそこから退避して撃つと悠夜はそれを回避。

 

(……今の、何で―――)

 

 さっきの攻撃、悠夜は見ておらず体だけを動かして回避したのだが、束にはそれが理解できなかった。

 だがそんな思考はすぐに払い除け、悠夜を殴ろうと接近する。

 

 ———ズガンッ!!

 

 途端にラボ中を警告アラームが鳴り響く。画面には「所属不明の戦闘機を確認」と表示されていた。

 

「な、何なん―――」

『………のろま共が―――え?』

 

 束は悠夜の発言が信じられず、彼の視線の先を確認する。そこには確かに戦闘機が飛んでいたが、すべての国が開発しているどの戦闘機の型にもはまらないものだった。

 

『………冗談だろ?』

 

 いよいよ束は悠夜が何を話しているのかが気になりだし、コア・ネットワークに接続して悠夜が使用するコア『No.96』にアクセスした。その間、わずか10秒である。

 

『———何も、あれが支援物資よ』

『戦闘機にでも乗れって? 俺は戦闘機の操縦経験なんてな―――』

(まぁいいや、落としちゃえ)

 

 まだ使える右腕の砲口から戦闘機に向けて熱線を飛ばす。だが―――

 

 ———クイッ

 

 野太い熱線が急に進路を変え、彼方へと飛んで行った。

 

『………ああ、これ、そういうことか』

 

 その声の主―――悠夜はすでに滞空していて、後ろにいる戦闘機を守るような立ち位置にあった。

 

(もう、邪魔だなぁ)

 

 殴り落とすために束は戦闘機の下へと移動。そこから殴ろうと上昇させるが、危険を察した悠夜は体を横にひねった。

 そこで束にとって理解し難い事が起こった。

 まるで悠夜の動きに追従するように戦闘機が軌道を変える。

 通常、戦闘機が突然機体を変えることなんて不可能である。ましてや、転回せずに90度を車体を変えずになど不可能だ。

 それを今、悠夜はそれをやってのけた。

 

『なるほど……もうこれは勝つしかないわけだ。まぁ、勝てるけどな』

 

 ———勝利宣言

 

 さっきまでの弱々しい表情は完全に消え、瞳は髪の間から見える程度では光を失っていた。

 

「戦闘機が着いたからって、勝てるわけがない」

 

 束はそう判断し悠夜に対して攻撃を仕掛けるが、悠夜は先ほどからは考えられないほどの機動力を見せる。

 

『……やっぱり、俺はこれくらいでちょうどいい』

 

 スピーカーから悠夜の声が響く。それを聞いた束は余計にわからなくなり、悠夜の意図が読めなくなった。

 

(どっちみち、落とすからいいけどさ)

 

 瞬間、無人機の左方に光が走り、画面では悠夜の後ろで何かが爆散した。

 カメラアイでそっちを見たら、今度は完全に腕が消失している。

 

『………なるほど。打鉄のウェポンセレクトで少し絶望的になっていたが、ようやく時代は俺のロマンに付いてこれたというわけか』

 

 どういうわけか、悠夜が纏う打鉄の右手からはビームが伸びている。どうやらそれで無人機の左腕を完全に消失させたらしい。

 

『しかしどういうことだ? さっきから肌色が見えない』

 

 だが悠夜の顔には(実際には書かれていないが)「どうでもいい」と出ていた。

 

『まぁ、この際中身のあるなしなんて些細なことだ。どうせお前は今の俺に勝つことなんてありえない』

 

 その言葉が束の逆鱗に触れ、束は無人機を悠夜が先程まで座っていた場所に飛ばした。

 

(さっきの二人を殺して自分がどれだけ無力か教えてやる)

 

 すぐに気づいた悠夜は無人機の妨害を試みるが、元からある機動力と束の操縦技術の高さからあっさりと回避された。

 

『やめろ! そいつらは関係ない!!』

 

 さっきまでの余裕はどこに行ったのだろうか、悠夜から悲痛な叫びが飛んだ。

 だからこそ、束は勝利を確信した。これで悠夜に勝てると。そう。彼女はまだ気づいていないのだ。

 

 ———自分がハッキングして聞いていたはずの二人の会話が途切れていることに

 

 本音が友達を助けようとしたところは長い廊下から出られるように設けられた出入り口であり、ぽっかりと空いた四角い部分から左右とも少し歩かないと入口がない。

 それはちょうど荷物の運搬にも使われるからかISも入れるようになっていて、もちろん無人機も入れた。

 

「そこ!」

 

 だが、画面には何も映っていない。

 慌てて束はもう一方にも右手の砲口を向けるが、そこにも誰もいなかった。

 

「…………何で?」

 

 瞬間、画面に一瞬だが何かが横切った。そのせいか今度は無人機の右腕が完全に吹き飛んだ。

 

『いやぁ、我ながらすごい演技だ。これなら世界にこの名を馳せることもそう遠くはないだろうな』

 

 そう言いながら悠夜は持っていた武器を背中に戻す。彼の顔は元に戻っており、さっきまでの泣きそうな顔はもうない。

 

(…………まさか)

 

 空中投影キーボードを叩き新たなパーツを生成、そしてそれを展開させた。

 

(まぁ、こんな芸当をできるのは束さんぐらいだけどね~)

 

 確かに束の目論見通り、悠夜はその予想をしていなかった。だが悠夜にとってそんなことはもうどうでもよかった。

 だが彼は笑い始めた。

 

『………まさか、こんな形で抗ってくれるとはな』

 

 瞬時に調整を済ませた束はすぐに悠夜に向けて熱線を放つが、悠夜はいとも容易くその攻撃を回避した。

 さらに右手にライフルを展開し、威力は少ないが的確に右手の砲口を撃ち抜いた。

 

『うれしい……が、まさかその程度の回復で俺の心を折れるとでも思ったのか? だとしたらつまらないな』

 

 そしてライフルを消すと同時にまっすぐ飛び、背負っている対艦刀らしきものを抜いて左腕を切り落とした。

 

『襲うならばちゃんと俺のことを調べておくべきだったな』

 

 束は無人機をその場から移動させ、再び腕を修復させた。

 だが今度が腕にはブレードが用意されており、今度は「こっちの番だ」と言うかのように仕掛けた。けれど――それすらも無駄になった。

 

『何故なら俺は―――』

 

 そして悠夜はもう一本ある対艦刀を抜き、抜いていたもう一本と非対称に連結させ、

 

『———オタクで―――』

 

 右腕を落とし、左から発射される熱線をしゃがんで避け、

 

『———頭が切れる―――』

 

 そして左腕を連結した対艦刀を振り回して細切れにして使えなくし、

 

『———探究者だからなぁあああああッ!!!———』

 

 そして戦闘機から二本のノズルが伸びると同時に八本のミサイルが発射され、ノズルから熱線が飛んでそれぞれ胸部と腰部を撃ち抜く。

 さらに止めと言わんばかりに先ほどのミサイル群が無人機を襲ったのだった。


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