IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#19 逃げ遅れた者は危険フラグ

―――第二アリーナ付近

 

 カウンターからの叩き落とすという、とある携帯可能な獣たちを駆使するRPGですらもほとんど見られない技を披露した凰の姿を見た俺は満足げな笑みを浮かべているだろう。俺があそこまで苦労したんだからその成果を見れたのは素直に嬉しい。

 

「———ねぇねぇ、かっつん」

「うわっ!?」

 

 急に話しかけられた俺は思わず激しく反応してしまう。

 

「な、何っ!?」

「いや、なんでもない」

 

 しかし何でこんなところに? さっきまで遠くから観察するだけだったのに。

 なんて思っていると答えという概念に当てはまるであろう人たちがすぐに現れた。

 いきなり飛んでくる蹴りを、体を左方向に転がして回避しつつ立ち上がると、徒党を組んで現れた奴らの顔ぶれを見る。全員見覚えがあると思ったら一組の人間だった。

 

「えっと、何か用?」

 

 裏切り行為ぐらいしかないんだが、今更その報復に来たのだろうか。……ありえる。

 

「何って、制裁しに来たのよ」

 

 予想通り、そう反応する一人を見た俺はため息しか出なかった。……そこまで予想通りに行動しなくてもいいじゃない。

 そもそも、そういうのは篠ノ之やオルコットがすると思ったが。

 

「制裁ねぇ。そんなことより、高が男一人すら自分たちの魅力で落とせなかったことに対して反省したら? ましてや俺みたいなどこにでもいる一般人一人落とせないようじゃ、織斑を振り向かせるなんて夢のまた夢だと思うけど」

 

 正直なところ、織斑に対しての恋愛攻略ならば今の俺には成す術はない。もっと言えば俺の方が簡単に落ちるのに、それすらしないなんてな。

 

(いや、むしろ―――)

 

 ———ヒュッ

 

 灰色の物体が俺の横を通り過ぎる。気づかなければ即死……はないと思うが、危なかっただろう。

 

「は? なんでアンタみたいな屑に私たちが体を使わないといけないのよ」

 

 屁理屈をこねるなら、今していることも十分体を使っていると思うけど。

 どうやら全員が各々武器を持っているようだ。

 布仏以外で俺に迫ってきた女たちが円を作り、さっき攻撃した奴が俺を攻撃しようとしたが、その前に倒れた。

 

「「「………は?」」」

 

 わけがわからず、俺も含めそこにいる全員がそんな声を漏らす。

 唯一何の反応どころかさっきから何もしていない布仏がいつもと変わらずニコニコしていた。

 

(いや、違う)

 

 確かにニコニコしているけど、普段のものとはまるで違う。

 俺の場合、よく会っていた年齢詐称をしているであろう祖母がそうだったからわかるが、布仏に纏わりつく雰囲気は殺気だった。

 

「いやー、かいちょーの言う通りだったね~」

 

 まさか……そんなことがあるはずがない。

 おそらくここにいる全員が思っていることだろう。のほほんとしてぬいぐるみとして見ても違和感がない女が、強いわけがないと。

 

「さーて、げんこーはんたいほだ~」

 

 どこかの風紀委員みたいに手錠を回しながらそう言うや否や、彼女は素早く俺の後ろに周る。

 

 ———その時だった

 

 ———ズドォオオオオオンッッッ!!!

 

 上の方からいきなり爆発音がし、揺れが俺たちを襲う。

 

「な、何っ!?」

「何アレ?!」

 

 周囲にいた奴らが口々を上を見てそう叫ぶ。揺れはほんの数秒程度だったみたいですぐに終わったようだ。

 

「……アリーナに対して攻撃か?」

 

 でも普通ならそんなことをしても防がれるだけだろうに………なんて、考えてみればすぐにわかることか。

 

(全員でこの場から離脱か)

 

 IS学園のセキュリティは、おそらくこの世界のどこよりも高いと思われる。そして周囲に目視できる物体はない。

 俺は近くにいる女たちから少し距離を取って打鉄を展開し、ハイパーセンサーでIS反応を追った。

 

「……やっぱり中だったか」

 

 専用機持ちとはいえ初心者で策にはまった織斑では使い物にならない。となると凰が単独で戦うことになるだろう。

 

(援護は……逆に邪魔か)

 

 打鉄は防御型。一応、射撃武器は持っているが俺も凰も自分勝手なところがあるから合わないということもあるが、何よりも性能が違いすぎる。

 言い訳にすぎないが、すぐに学園の部隊が事態を収拾するだろう。

 

(ともかく今はここから全員で逃げること―――)

 

 ———ズドォオオオオオオオオオオオオンンンンンッッッッッッッ!!!!!!!

 

 さっきとは段違いの揺れを俺たちが襲う。

 

(また来たのかよ!?)

 

 地面にいたのですぐに動くことができず、視線だけを落下したと思われる、黒い煙が立っている場所を見る。ここからだと5つの赤い瞳が見え、詳しいことは「所属が明かされていない」ということしかわからない。

 

「全員今すぐ逃げろ!」

 

 後ろに向ってそう叫び、撤退を促す。さっきまで俺に対して危害を加えようとしていた奴らの姿はすでになく、残っているのは状況が呑み込めていない奴らだけだ。

 

「何をしている! 早く―――」

「…………なに、あれ」

 

 所属不明機の方に視線を向けると、煙はさっきよりも晴れていて全貌が明らかになっていた。

 

(随分センスのない姿だな)

 

 だが両手首に付いている銃口……というよりも砲口から出るであろう飛び道具が危険だということは予想が着く。

 視線を逸らすのは危険だろうが、もう一度固まっていた女の方を見ると腰が引けて座り込んでいた。

 

「何をしているんだ! とっとと逃げろ!!」

 

 どうにかして動かそうとするが、それでも動かないようだ。

 すると所属不明機は女生徒の方に砲口を向けた。

 慌ててカバーに入って《バウンド》を使用し、飛んできた熱線を防ぐ。

 

(もうこんなにボロボロなのかよ)

 

 大型シールドがこんなんじゃ、この機体でもそう長くは耐えられないぞ。

 

(こうなったら仕方がない)

 

 あまり大声を出すのは得意じゃないんだが、ほかにもその場から離れられない女たちが腰を引かせている以上、鼓舞的なものは必要ないだろう。

 

「いい加減にしろよ貴様らぁッッッ!!!」

 

 拡声モードが自動でONになっているようで、思っていたよりも声が響く。

 

「さっきから見てればどいつもこいつもただの屑か! 男アンチ気取るならば同性ぐらい助けろや! 大した根性ねぇくせに「強い」とかほざいてんじゃねえぞくそボケ共がッ!」

 

 その声で逃げようとした何人かがこっちを見て、また、さっきまで腰を引かしていた奴らが俺を睨んでくる。我ながらナイスな暴言だったと思う。

 

「な、何ですって!」

「根性無しはアンタでしょうが!」

 

 全員が活気づき、動けない人間も連れていき始める。たぶんこれで俺の永遠のボッチは決まったな。

 

【警告! 所属不明機にロックされています!】

 

 ハイパーセンサーにそう表示される。どうやら奴はやる気らしい。

 すると警告は解除された。

 

(? どういうことだ?)

 

 増援が来るとしてもしばらくはかかるはず。そう思いながら辺りを見回していると、後ろから布仏の叫び声が飛んできた。

 

「———かんちゃん!」

 

 咄嗟に所属不明機が向けている砲口が狙う場所を予測して確認すると、そこにはどこか見覚えがある少女がアリーナの入口付近で震えていた。どうやら布仏はそいつを助けようとしているらしい。

 

(……どいつもこいつも……)

 

 あれだけ威張ってるんだったらまともに動けよ!

 そう言いたくなった衝動を抑え、すぐさまその女を守るために間に入り、飛ぶ熱線を防いだ。

 

「何をやってるんだ! とっとと逃げろ!!」

 

 どうせいたって何もしないのに。邪魔ばっかりだけはして。

 アサルトライフル《焔備》を展開して第二アリーナ管制室に連絡を取る。

 

「聞こえるか管制室! 応答しろ!」

 

 しかし向こうからは何の返事もなく、ただノイズのみだ。

 

(……まさか、あの機体が妨害しているのか?)

 

 もしくはさっきの機体が、だ。洒落にならないビームと、しかもジャミングですか。

 

(…………生きて戻れたら、絶対に俺の理想を体現してもらおう)

 

 むしろ生徒を守ったんだから多少の称賛はあるだろうと期待しながら、仕方なくその機体の注意を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこはどこかにあるとある移動型研究所。そこには空中投影型のディスプレイが所狭しと並んでいた。その中でも二つだけは大きく映し出されており、左には一夏と鈴音が、そして右には悠夜がプロフィールと共に表示されている。

 それは今交戦しているのは彼女の関係者か同義の何かの証拠でもあるが、生憎そこを撮影している人間はいなかった。

 それを見ている女性はブルーのワンピースの上に白いエプロンを付け、そして頭には白ウサギのカチューシャをしていた。そのカチューシャは機械でできており、時折彼女の感情と同期して動いている。

 

「うーん、やっぱり邪魔だなぁ」

 

 一夏は二人で戦っている自分が作った作品を、悠夜の方はシールドとブレードを駆使して防御、回避と繰り返していた。総ダメージでは一夏たちが勝っているが、シールドエネルギーの残量は作品の前に戦っていない悠夜の方が残っていた。

 本来動かす男は一夏一人のはずで、桂木悠夜という男が動かすなんてありえるわけがなかった。今もどうして動かしている理由も検討が付かない状態だからこそ、この事件を影で起こしているのだ。

 

「まぁいいや。それよりもいっくんだね」

 

 ディスプレイが一つ消失し、一夏と鈴音が映し出される。

 そこには順調に育つ彼の姿が映し出されており、その女性―――篠ノ之(しののの)(たばね)は一瞬で上機嫌になった。

 現在IS学園の通信以外は彼女が掌握しており、観客席にいる生徒が閉じ込められているのは彼女の目論見の一つだった。

 今の世界は女尊男卑という女優位の世界になっている。今も学園内にそんな考えを持つ生徒や教師はもちろんいるが、その中で一夏が活躍すればどうなるか、彼女には予想が着いていた。

 もっとも一夏にもこれをぶつけたのは一つ理由がある。

 

「あ、箒ちゃん」

 

 管制室から出てくる自分の妹の姿を見つけた束は「予想通り」といわんばかりに笑い、投影されたキーボードを操作した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、第二アリーナピット前扉ではまた別の戦闘が行われようとしていた。

 

「いい加減にしなさい」

 

 そこには部隊長を務める楯無と、打鉄やラファール・リヴァイヴを装着している戦闘に秀でている生徒と教師の部隊員たちがにらみ合いをしている。

 

「今するべきことは戦ってる人たちの援護。でも織斑君たちはいくら破ろうにも扉が厚く、ほかの生徒たちを逃がそうとしては「外からだと危ないから控えるべき」って言ったわね」

 

 楯無の専用機『ミステリアス・レイディ』には《蒼流旋(そうりゅうせん)》という先端から少し後ろに四門のガトリングガンが搭載された槍があり、それをベースに第三世代兵器『アクア・クリスタル』から放出されるナノマシンが含まれた水を使用して小型気化爆弾4個分に相当する「ミストルテインの槍」を作り出すことができる。

 それを使えばアリーナの扉を壊すことができるが、破壊行為自体を千冬から禁止されていた。

 

(………だとすれば私たちが優先的にするのは桂木君の救助…なんだけど……)

 

 現在、楯無は部隊員たちに囲まれていた。理由は簡単で、全員楯無が悠夜の救助に行くことを拒否しているからだ。

 本来ならばIS学園の生徒を守るのが役目の彼女らは悠夜も守らなければならないが、全員が全員悠夜に対していい感情を抱いていない。さっきの悠夜の言葉が部隊全員の耳に届いており、これまで中立(というよりも無関心)だった人も全員が敵意を持つようになっていたからである。

 

(自業自得………と言いたいところだけど、どう考えても何らかの意図があってあんなことを言ったとしか考えられないわ。……けど)

 

 いくら何でも内容がひどすぎたのだろう。楯無や、あと二人を除く全員が「助けに行く必要はない」と判断していた。

 どうにか説得しようと口を開こうとする楯無に対して、別チャンネルから通信が入る。

 

『………更識君。今あなたはどこにいますか?』

 

 相手は十蔵であり、多少いらだっている様子だった。おそらく彼も楯無たち学園部隊が悠夜の救援に入ることを期待していたのだろうが、楯無は今の声色からその様子は感じられなかった。

 

「すみません。まだ第二アリーナにいます」

『………なるほど。そうでしたか。……では桂木君のサポートはこちらでしましょう』

 

 現状、楯無は邪魔をする部隊員を説得することしかできない。楯無は悠夜のことを頼もうとすると、付け足すように言った。

 

『しかし残念です。私は更識家が持つ暗部としての未熟な精神は評価していましたが』

「……何が言いたいんですか」

 

 「こんな時に」と楯無は内心付け足すが、十蔵から出た言葉で固まる。

 

『あなたの妹を桂木君が体を壊してまで守っているというのに、あなたはそれを見捨てるというのですね』

「……どういう、こと?」

 

 敬語すら忘れた楯無は目を見開き、意図せず周りに不穏な空気を漂わせた。

 

『彼女、従者と一緒に逃げ遅れたようです。それを桂木君が―――』

 

 最後まで聞かず通信を切った楯無は一人に《蒼流旋》を向けた。

 

「これから桂木君の救援に向かうわ」

「それは必要ないって―――」

「———そう」

 

 ———ガンッ!!

 

 楯無は向けていた相手を《蒼流旋》で殴り、黙らせた。

 

「これは生徒会長としての命令よ。今すぐ桂木君の援護に向かう。行きたくないなら結構。私一人で行くから。……ただし」

 

 ———パチンッ

 

 楯無の手元が音が鳴るや否や、部隊員の一部が吹き飛んだ。

 

「邪魔をするって言うのならば、実力で通らせてもらうわよ」

 

 そして楯無は、目の前にいた部隊員に対して攻撃した。


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