IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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タイトルを変えようと考えたことはあったけど、結局変えなかった。



#157 絶望的な差

 悠夜がいなくなったことで停止した戦いは再開された。

 未だ暴走を続ける「白騎士」。「黒騎士」を駆るマドカは防御に徹する。先程のことで衝撃を受けたまま、戦闘に突入したのだ。

 

「く……この―――」

 

 振り下ろす《フェンリル・ブロウ》が弾かれ、瞬時加速で懐に入る。《雪片参型》が振られた瞬間、「白騎士」の腕部装甲に水がまきつく。

 

「やれやれ。面倒だな」

 

 「リヴァイアサン」を駆る零夜が「白騎士」を引っ張って「黒騎士」から距離を取る。

 

「レイ! 貴様―――」

「君はいつまで「織斑」という鎖に縛られるつもりだい?」

「何?」

 

 「白騎士」が体勢を立て直してマドカを消そうとビームライフルを展開、引き金を引く。

 零夜はそれをデュランダルで防いで水の球体で「白騎士」を閉じ込めた。

 

「女は所詮、結婚すれば家を離れる。それなのに君は未だに「織斑」なんかに縛られるのかい?」

「……それが私の生きがいだからだ!」

「僕にはわからないけどね。あんな雑魚なんかに囚われる理由が」

 

 「白騎士」は水の牢を破ってビームを撃ちながら接近してくる。零夜もマドカも回避した。

 

「資格無き者よ……」

「笑わせるよ。真に資格がないのは君自身だろう?」

 

 零夜がそう言うと「白騎士」が一瞬だけ動きを止めた。

 

「マドカ、亡国機業はこの戦いで終焉を迎える。実働部隊はIS学園が、そして幹部会は既にHIDEが抑えているだろう」

「貴様、まさか裏切ったのか!?」

「残念ながら、僕は最初から茶番を楽しんでいただけさ。亡国機業という箱庭でね」

 

 すると零夜はマドカを引き寄せてキスをする。突然のことで混乱するマドカだったが、その間に零夜はマドカの口内を支配し、目的を達して口を離して何かを吐き出した。

 

「い、いきなりキスなど―――」

「悪いね。君を縛っていた楔を取り出すにはこの方法しかなかったのさ」

 

 水の球体で作られた球体。その中には何か黒い靄が存在している。

 

「それは……」

「楔の正体。これで君はスコールに命を握られることはなくなった」

「何故だ。そんなことをしたら貴様も―――」

 

 接近してきた「白騎士」を牽制しながら零夜は言った。

 

「悪いけど、亡国機業には十分すぎるほどのお土産を置いてきた。無人機の設計といい、性能を落としたコアの製造方法といい、ね。後は彼女ら次第ってことさ。―――まぁ、この戦いが終わった後にあいつらが人を集めて戦う気力があるかどうかはわからないけど―――ね!」

 

 マドカを抱えてビームを回避する零夜。そして彼はマドカを解放して言った。

 

「今から、二次移行した「黒騎士」の性能を完全開放する」

「何? 二次移行……って待て。解放ということはまさか―――」

「そ、今の今まで「黒騎士」の性能をある程度セーブしていたわけ。でも約束して。あの機体を潰したら僕らと一緒に来てくれるって」

 

 「仕狼」が飛び出し、「白騎士」と戦い始める。マドカはどうすれば迷い始めた。

 

「大丈夫。IS学園に通いたいって言うなら通ってもいいよ。だけど、一度HIDEに来てもらう必要があるんだ。本当に君に適性がある機体を開発するために」

「私の……機体……?」

「そ。だから、僕と一緒に来てほしい。スコールとオータムの処遇はわからないけど、君やレインならHIDEに行けばちゃんとした処置はされるから」

 

 零夜はマドカに手を差し出す。すると、マドカはゆっくりと零夜の手を掴んだ。

 

「………わかった。絶対に戻ってくる。私がどうするかは、考えるのはその後だ」

「OK。ちょっと待ってね」

 

 小型端末を展開した零夜は設定を弄る。すると「黒騎士」のモニターに「制限が解除されました」と表示された。

 

「行ってこい」

「ああ!」

 

 体勢を変えてマドカは「黒騎士」を「白騎士」の所に向かわせる。

 しばらくするとティアが駆る「仕狼」が戻ってきて零夜に尋ねた。

 

「良かったの? あんなことを言って」

「今まで織斑の非道な実験を受け続けたご褒美だよ。見ようじゃないか。僕らの妹がどんな決着をつけるのか」

 

 どこか楽しそうにマドカを見る零夜。ティアはそれを見て頬を膨らませて肘討ちをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前には「白騎士」と「仕狼」が戦っている。マドカはティアにすぐに退くように言った。

 

「交代しろ、ティア!」

「……わかった」

 

 「仕狼」が四足歩行タイプに変形して戦闘区域の離脱を図る。「白騎士」は追おうとするがマドカの乱入に対応した。

 

「資格無き者よ、散れ」

「その言葉、もう聞き飽きたわ!!」

 

 《スターブレイカーMk-Ⅱ》の引き金を引くマドカ。今までとは違って倍以上の出力が放出され、「白騎士」に当たる直前に2つに分離してスラスターを2基、完全に破壊した。

 

「ここまでの威力とは……予想以上だ」

「何故、そこまでの力を―――資格無き者よ」

「散れ、か。散るのは貴様の番だ、偶像!」

 

 蝶を模していたスラスターとは打って変わって翼に近い形状をしたスラスターが開き、黒い光を放つ。そして瞬時に「白騎士」の前に現れたマドカの手には《フェンリル・ブロウN》が握られ、振り下ろした。それを《雪片参型》で受け止める「白騎士」。しかし、《雪片参型》にヒビが入り、やがて砕け散った。

 

「あり得ない」

「あり得るさ。これほどの力を持った「黒騎士」ならな!」

 

 「黒騎士」の胸部装甲が開く。そこから闇で形成された大型のレールが4枚形成された。「白騎士」は脚部スラスターで逃げようとするが、今まで2基の大型ウイングスラスターの恩恵が強かったのか、マドカは遅く感じた。

 

「吹き飛べ、「グラビトンダークガン」!」

 

 その声に合わせて膨大な出力のエネルギーが放たれる。それが「白騎士」を呑み込んだ。

 やがてエネルギーが消失し、「白騎士」の装甲が吹き飛んでいたことが確認された。「白騎士」になったことで展開された「バイザー」は壊れ、一夏の顔が露わになる。「白騎士」に支配されているからか、赤が混じる黒い瞳は白くなっていて、顔は「信じられない」と言わんばかりになっている。

 一夏は「白騎士」の装甲を撒き散らしながら落下する。それを「仕狼」が回収した。

 

「おめでとう、マドカ」

「……助けたのは気に食わないがな」

「まぁ、今は我慢してよ。IS学園に入ったら思う存分織斑一夏を潰していいから」

 

 零夜は拳を上げる。意図を察したマドカは拳を上げて零夜のものにぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キスをし終わった後に来たのはビンタだった。

 今にも泣きそうな顔でビンタされたが、それよりも先に通信が入る。

 

『た、大変です! 織斑君の機体シグナルがロストしました!』

「予定通りだ」

『よ、予定通りって………それってどういう―――』

「いずれわかる」

 

 通信回線を閉じた俺はレインの方を向く。

 

「お、おま、な、き―――」

「本当に耐性がないんだな。意外過ぎてびっくりした」

「テメェと違うんだよ!」

「俺もまだ童貞だぜ?」

 

 そう返すと本当に耐性がないレインはさらに顔を赤くする。

 

「この作戦の、俺たち側の本当の意味を教えてやるよ。レイン、お前を一度裏切らせてから回収するためだ」

「え?」

「………聞いてない」

「敵を欺くにはまず味方から。実際、これを知っているのは俺とミア、そしてあの子だけだからな」

 

 帰ったら十蔵さんと菊代さんにボロカス言われそうだけど。

 

「それに、教えたら簪は本気を出さないだろ? だから言わなかった」

「………」

 

 頬を膨らませる簪。それが可愛かったので頭を撫でる。

 

「いや、ちょ、待てよ。じゃあ、お前がオレらと一緒にいたのは―――」

「本当ならさっさと終わらせるつもりだったんだけどな。向こうのご機嫌取りと「ルシフェリオン」の復活は予想外だった。ま、こいつが復活したらお前だってガチでやり合いたくないだろ?」

「………そうだけどよ」

 

 慌てるレインを見ていると、レイたちも終わったのかこっちに移動してきた。その近くには鈴音とサファイアもいる。

 

「悠夜、どういうこと? すべて説明してほしいんだけど?」

「終わってからな。ミア、そっちはどういう状況だ?」

 

 篠ノ之、オルコット、ジアン、そしてラウラは未だに無人機と交戦中。おそらくスコール・ミューゼルと教師陣、他に1人が戦っているようだ。

 

『あ、終わりましたか。ではこちらも終わらせますね』

 

 すると竜巻が発生して辺りを破壊していく。ミアが本気を出したらしい。

 

「よし。レイ、お前は無人機の掃討を頼む」

「言われるまでもないさ」

 

 するとレイはさも当然と言わんばかりに水を使って無人機を破壊していく。さっすが弟。やることが大胆だな。

 

「悪いなレイン、お前を拘束させてもらう」

「………好きにしろ」

 

 鎖を作り上げてレインを拘束する。それを簪に渡した。

 

「簪、お前はレインと共に戦線を離脱。鈴音とサファイアはレイたち3人と協力して無人機を撃破し、戦闘中の4人を回収した後に簪と合流しろ―――で、暁。お前はどうするつもりだ」

 

 上の方に問いかけると、光学迷彩を切って暁が姿を現す。

 

「私は傍観だよ」

「そうか。じゃあ、しばらく手を出すな」

「はいはーい」

 

 手を振って光学迷彩を起動させる。気配が消えたのでどこかに向かったのかもしれない。

 

「ところで、兄さんはどうするんだい?」

「スコールを倒してくる」

「じゃあ、いざって時の準備もしておくよ」

 

 そう言ってレイはラウラたちがいる方向に向かう。

 さて、俺もスコールがいる方に向かうとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮設本陣周辺。そこでは、スコールとリアさんのタイマンが行われていた。

 

「リアさん、離脱してくれ!」

 

 そう言いながら《バイル・ゲヴェール》を展開してスコールを攻撃する。実弾、熱線共にスコールのバリアで防がれた。

 

「ユウ様」

「他の3人は?」

「動かないように言っておきましたが、今はイタリア代表が織斑千冬と交戦しているはずです」

「そうか。じゃあ、な……楯無と一緒にレイたちと合流してくれ」

「わかりました」

 

 兄貴の従者……というよりも嫁だから言うことを聞いてくれるかわからなかったが、なんとかなったな。

 俺の方に炎が飛んできて、それを叩き落とす。

 

「レイはやられたようね」

「いや、寝返ったさ。こっち側にな」

 

 もう隠す意味もないのでネタ晴らし、そしてもう一つ伝えておく。

 

「ティアちゃんも織斑マドカだったか? そいつらもこっち側に着いたよ。レインも既に拘束済み。後はオータムだが、そいつが捕まるのも時間の問題だろう。我が軍門に下れ、スコール・ミューゼル。貴女の功績を称え、優遇するつもりだ」

「………それは現王権に従えってことかしら?」

「そうだな」

「ふざけないで。私は腐った王権なんかに従う気はないわ!」

 

 どうやらかなりご立腹らしい。まぁ、仕方ないか。俺たち王族はしたいことを散々してきたんだし。

 

「そうか………なら、アンタを倒す。この力でな」

 

 「ルシフェリオン」の装甲が霧に変わり、消えてなくなる。

 

「………舐められたものね。「黒鋼」で相手をするだなんて」

「いいや。舐めていない。だから「手加減する癖」がない「黒鋼」で相手をするんだ。それに少し勘違いしている」

「勘違い?」

「ああ。「黒鋼」を、ただのIS程度と評価していることだ」

 

 そう。残念ながらそうではないのだ。

 そもそも、それならば今まで「ルシフェリオン」として()()した意味がない。

 俺はその証明のために、背部に新たに顕現したウイングスラスターを展開する。

 

「貴女も闇に染まりし者だろう、スコール・ミューゼル。ならば本気を出せ―――闇がなくば、闇に染まりし我が愛機「黒鋼・堕天」の相手は務まらぬぞ?」

 

 後ろで黒い翼が広がっているのがわかる。その姿に怖気づいたか、それとも予想していなかったことによる驚愕か、唖然としていた。

 

「………実に愚かね、あなたは。わざわざ敵である私に本気を見せるだなんて。でもいいわ。その潔さは気に入った。………見せてあげる、この私、スコール・ミューゼルと闇の力を浴びつつもなお金色の輝きを放つ、この「ゴールデン・ドーン」の真の力をね!!」

 

 《ディス・サイズ》を展開して黒い竜巻を起こしつつ、投擲する。その間、その場から離れたスコールは黒が混じった火球を展開して俺に向かって放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮設本陣に警告音が発せられる。だけどその場にいる教員たちは突如現れた迷彩服の男たちに銃を向けられて動けない。

 

「何の警告音だ?」

「わ、わからないわ。状況を見ないと」

「そうか。ならばすぐに状況を見ろ」

 

 リアが何故彼女らを拘束したのか。それは外部への情報を漏らさないためだ。

 特にこれからの戦闘はISを纏っただけの妙技によるぶつかり合い。そんなものをIS委員会に渡ればまた悠夜を実験台にしようと言う声が上がるからである。また、力の優位を示しておけば避難などがスムーズにできるという考えもあった。

 

「……そんな」

「どうした?」

「ディ、ディメンションバリアの耐久値が著しく下降。原因は、謎の高圧エネルギーが分散できないため……ですって」

 

 ―――ダンッ!!

 

 突然木箱の一つが吹き飛ぶ。その中から朱音が飛び出してきて原因を告げた教員を退かせる。

 

「………そういうこと。お兄ちゃん、本気を出すんだ」

「誰だ?」

「ヤードの末裔。今はディメンションバリアの耐久修復プログラムを更新するために乱入させてもらった。あの人間たちが力を合わせればもっと固い物が作れるかもしれないけど、それまでの時間稼ぎのためにお兄ちゃん…ユウ・リードベールに頼まれた仕事をこなさせてもらう」

 

 彼女らにしかわからない言葉でやり取りをする。すると男の一人が「わかった」と答えてシステムの更新を始めた。

 

「ちょっと待って。ここは関係者以外立ち入り禁止―――」

「このシステムを開発したのは私だけど?」

 

 そう答えると教員らはもう何も言えない。だが、思わずにはいられなかった。「あんな凄いシステムを、こんな子供が作ったの?」と。

 

「想定値よりも2人のエネルギーが高い………」

 

 そう言いながらもキーボードを叩く。そのスピードはとても速く、この中にもタイピングの素早さに自信がある人間は何人かいるが、その人たちが舌を巻く速さだ。

 

「ったく。何でイタリアの国家代表がこんなところにいるのよ。お兄ちゃんよりも弱いくせに暴れちゃって。余計な負荷がかかるってのに」

 

 そんなことを呟きながらもタイプを続ける朱音。そしてエンターキーを叩いて仕事を終わらせた彼女は安堵する。

 

「お、終わったの……?」

「うん。じゃあ、私は寝るから」

 

 そう言って朱音は木箱の中に入って鍵をかける。中はベッドになっていることは悠夜以外は誰も知らないことである。




マドカが主人公になっている気がするけど、気のせい気のせい。

次回はあの2人が暴れます。

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