IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#153 京都攻略作戦会議

 新学園部隊の募集が終わり、修学旅行の下見が始まる数日前。イージスコンビを含んだ専用機持ちと主要教員らは視聴覚室に集められていた。

 集会では「専用機持ちたちが京都に下見に行く」と言っておいたが、実際は亡国機業掃討作戦である。

 その説明をすると、普段からは想像できない真剣さがあった。

 

「はっきりと言うが、現時点で亡霊共が現れるかもしれないという情報があるだけで実際はエンカウント率は低いと思われるが、それでも警戒は絶対にしろ。特に強い機体を持っている雑魚2匹」

「……面と向かって言わなくてもいいだろ」

「言わないとお前らは理解できないだろ。そして、これが当日の行動メンバーと範囲だ」

 

 指を鳴らすと、それぞれの前にモニターが投影される。

 

「まず、A班はラウラ、織斑、篠ノ之、オルコット。ラウラは当日、3人が下らない茶番を始めたらこのハリセンで叩いて潰せ」

「わかりました。必ず任務を果たして見せます」

 

 そう言ってラウラは俺の前に現れてハリセンを受け取った。

 

「次にB班だが、俺とダリル・ケイシーにフォルたん……じゃなくて、フォルテ・サファイア」

「今変な名前で呼んだな!?」

「落ち着けフォルたん。話が進まない」

「ふっざけんな!」

 

 暴れようとするフォルたんをケイシー先輩が止めてくれた。あまりの暴れっぷりに一同ドン引きである。

 

「続いてC班にはジアン、簪、ミア、鈴音」

「………あの人も、作戦に参加するの?」

「もちろんです!」

 

 上から回転しながら降りてくるミア。綺麗に着地して俺に抱き着いてきた。

 

「待て。そいつが学園にいることは知っているが、学園の生徒ではないのだろう? 何故参加する?」

 

 篠ノ之の質問に答えようとしたが、その前にミアが言った。

 

「主が戦地に赴くのに、妻である私が残るわけにはいかないでしょう!」

「単純に! 戦力の問題だ」

 

 ミアを引っ込ませて本当のことを言った。

 

「知っての通り、これまでの襲撃はたいてい複数で攻めてきている。特に亡国機業が攻めてきた場合は圧倒的に数が増える。おそらく………いや、向こうには篠ノ之束に匹敵するほどの頭脳を持つ技術者がいる。そしてあろうことかそいつは、キャノンボール・ファストにも、おそらく学園祭の時にも現れていた」

 

 全員が唖然とする。特に織斑先生は一際特殊だったな。

 

「と、ということは向こうはISコアを作り放題なの!?」

「そういうことになるな。ちなみにその子の名前も素性もわかっている。というか、これの妹だ」

 

 ミアを指しながら言うと、奈々は驚いていた。

 

「特徴はたぶん、胸以外はミアと同じはずだ。だが、確か目が黄色だったか?」

「……ねぇ」

 

 鈴音が挙手しながら尋ねてきた。

 

「その子の情報を出していいの? 仮にも、アンタの義妹なんだし」

「おそらく彼女がすべての制御をしているだろうからな。その後には装置を取っ払って逃がした方が良いけど」

「こういう時は拷問とかかけるべきなのでは? さらに情報を引き出すためにも」

 

 それを聞いた俺はため息を吐き、拷問とか言った教師に質問する。

 

「俺とレイの決定的な違いって何かわかるか?」

「何かしら? 私には皆目見当も―――」

「殺せるか殺せないかだ。そしてレイは俺と違ってずっと亡国機業にいたから他人を殺すことに躊躇いはないだろう。逆に聞くが、この中の誰がそんな人間を敵に回して生き残れる自信がある?」

 

 機体スペックを除くという条件であるとすれば奈々ぐらいだ。もっとも、奈々をレイと戦わせるつもりは毛頭ないけど。

 

「ってわけだ。後の構成員はこの前学園祭に現れたオータムという性格の悪い女だが、単純なので少し挑発すれば捕まえやすくなるだろう。たぶん、実働部隊の中で一番の雑魚だが、油断するなよ。特に織斑」

「い、言われなくてもわかってるさ」

「学園祭からかなりの日数が経過している。おそらく改修されてより強化されているからより警戒することだな。特に織斑と篠ノ之」

「だから何で俺!?」

「私も含まれるのは心外だぞ?!」

「はいはい、わかったわかった。ともかくオータムに関しては馬鹿みたいに突っ込まずに対処すればどうにかなる………が、問題はその他の構成員だ。今の確認していて、レイとティアちゃんを除いた場合の脅威なんだが、専用機持ちは全員知っているだろう。「サイレント・ゼフィルス」を装備する「エム」、そして実働部隊のリーダーと思われるスコール・ミューゼルだ」

 

 織斑と篠ノ之は無視して話を続ける。エムの方は「サイレント・ゼフィルス」を装着している状態で、スコールの方は奈々が対峙した時に写真を撮っていたらしい。織斑は驚いていたが、それはあえて無視しておく。

 

「技量はもちろん、機体スペックからしてどちらも単機では対処は難しいだろう。特にエムが駆る「サイレント・ゼフィルス」に備わっているビット兵器の多彩さはオルコットを超える。少なくとも、同じくビットをメインで扱っている俺と戦うつもりで臨んだ方がいい。そして、スコール・ミューゼルの方は―――」

「そこは私の方から説明するわ」

 

 これはあらかじめ、この作戦会議を設ける時から決まっていたことだ。

 スコールとまともに対峙したことがあるのは、この中では奈々ぐらいだろうからな。

 

「まず、スコール・ミューゼルと戦う時に注意すべきことなんだけど、彼女の周りには常に炎の壁が張り巡らせられているわ。そのため、それを突破するには「零落白夜」が必要不可欠よ」

「……ということは、その人の相手は一夏がするってことですか?」

「無理ね。いくら織斑君が成長しているって言っても向こうは国家代表とも渡り合えるほどの実力者。つまり、彼女を倒すには同じく「零落白夜」を使える人じゃないといけない」

 

 篠ノ之の言葉を奈々は否定し、織斑先生の方を向いた。

 

「……何が言いたい」

「織斑先生、今回の作戦にはあなたにも出てもらいます」

 

 途端に会議室に悲鳴に近い驚きの声が上がった。

 

「何を言う。あの機体は―――」

「IS学園の地下にあるんだろう? アンタの「暮桜」は」

 

 本来なら、国家代表を国の許可なしにやめることはできない。いくら3年前のモンド・グロッソで逃げ出して日本に泥を塗ったとしても、だ。何せこの女の実力は俺らがいなくなればいつでも第一線に返り咲いても活躍できるほどの実力は残っているからだ。そして、同時に彼女は篠ノ之束の関係者。ISを1機程度都合することは可能だろう。

 

「ちなみにごまかしたところで見つけ出すことは可能だからな。なんだったら、今すぐにでも地下に行って見つけてきてやろうか?」

「……それもサードアイシステムとやらの力か?」

「いいや。ルシフェリオンがあるなら使うことはできるが、この前の騒ぎで崩壊した。今は別の奴から情報をもらっている」

 

 さすがはクロ様だ。コア・ネットワークを使って現在地を特定した。

 

「ちょっと待て。ルシフェリオンがなくなったことは―――」

「ああ、リヴァイアサンに対抗する術は一つだけある。俺が生身で倒すだけだ」

 

 もっともそんなことをした場合は京都が沈むだろうが。

 周りは騒ぎはじめるがとりあえず黙らせ、話を続ける。

 

「さて、織斑千冬。アンタの「暮桜」は轡木ラボに回収させてもらう」

「………何故そんなことをする?」

「今回の組織襲撃を無事完遂すれば、あとはこまごまと各国からのスパイを掃討する程度だ。なぁに、下見の日までにはしっかりと返還する。山田先生の機体と一緒にな」

「わ、私の機体ですか……?」

「そうだ。他からの文句はあるだろうが、これは最初から織斑先生と一緒にいることが多い山田先生に決まっている。それに過去のデータを洗わせてもらったが、織斑先生のフォローを含めて山田先生が武装使用回数を含めて相性が良いと結果を出した」

 

 生徒会長という立場はこういう時に役立つからなぁ。まさか教師の過去の戦績なども調べられるなんて思わなかったが。

 

「あの、そんなことを勝手にしていいんですの? 織斑先生は今は一教員とはいえ、勝手に技術披露に使うなんて―――」

「IS委員会にの許可は取ってないが問題はない。確かに周りからは文句は言われそうだが、技術的には轡木ラボが一番高いのは否定できないことだし、何よりも俺を唸らせるほどの技術者がいるんだ。逆に弟同様機体に振り回されるだろうよ。それとも何か? いくらブランクがあるとは世界最強に低能技術を使わせるつもりか?」

「そ、そういうわけではないですわ。それに、IS委員会に黙っているのは流石に問題があるのでは?」

「んなもん適当に聞き流せばいいんだよ。大体考えてみろ。これから亡国機業を潰しに行くのは誰だ? 言うまでもないが俺たちだ。適当に仕事をして将来の敵をどうやって潰そうか考えているような奴らじゃない。だったら味方の能力を上げようが武装を強化しようが文句を言われる筋合いはないし、討伐をするのに広告塔代わりに使われちゃはっきり言って迷惑だ。だから、「暮桜」並びに「ラファール・リヴァイヴ」の改修は行う。お前ら代表候補生はそのことを行ったのは俺の単独って報告すりゃあいい」

 

 そもそも、討伐作戦がIS学園の人間主導でやること自体、話がおかしいんだけどな。

 

「話を戻す。そしてこれは今回の仮設本陣での待機を命じるが、いざとなれば主力として出てもらうが、D班に更識楯無、織斑先生、山田先生についてもらう。ちなみに仮設本陣には教員が適宜オペーレーターの役割をしてA~C班にも状況を伝えてもらう。先に言っておくが、私情を挟んで適当な報告をしたら、生徒会長の権限を持ってクビにするから覚えてろ」

 

 理事長と学園長の両名には了解済みだ。あの2人は元々女尊男卑には反対だし、この機会に邪魔者を減らすつもりだろう。

 

「さて、ここからはそれぞれの班の役割だが、まぁ適当にぶらぶら見学をしてろ。いざ会敵したら戦闘開始だ。当日はできるだけ人を減らすつもりらしいから安心して戦え。だがまぁ、先に言っておく。篠ノ之、お前はできるだけ戦闘するな」

「……それは私の腕を信用していないからか?」

「俺の中ではお前の価値は『絢爛舞踏』以外は一切ないが?」

「いくら何でもそれは言い過ぎだろう!?」

「あ、展開装甲も切っておけよ。無駄にエネルギーを放出してちゃあ意味がない。それとオルコット、お前は篠ノ之の近くで前衛とそのフォローをする織斑とラウラのサポートだ。エネルギーが切れたら織斑たちとは別のタイミングでエネルギーの補充するようにしろ。織斑はとりあえず囮にでもなっとけ。後は大抵ラウラがなんとかしてくれる」

「囮って酷いだろ!?」

「俺は燃費が悪いその機体を黙って使っているお前の神経が酷いと思うけどな。他の班は特に言うことはない。適宜行動して各個撃破に当たってくれ」

 

 とりあえず会議をこれで閉めて解散させる。だが織斑先生と山田先生にだけは残ってもらった。

 

「それで、私たちに用とは何だ?」

「これがアンタらように考えておいた改修プランの概要だ。目を通して、今日の内にまで俺に連絡をくれ」

 

 そう言ってファイルをそれぞれに渡す。2人は早速開いて目を通し始めたが、織斑先生の方からすぐに声が上がった。

 

「私の武装に関しては特に変更はないのか?」

「アンタが慣れているのは剣技だろう? 一応、パイルバンカーの類なども装備しておくが?」

「おそらく使わないと思うが……一応お願いできないだろうか?」

「りょーかい。その辺りのことも要請しておくよ。で、山田先生は何かあります?」

 

 さっきからだんまりな山田先生に話を振ると、おそらく大抵の男を落としてしまうかもしれないほどの破壊力がある上目遣いで聞いてきた。

 

「………あの、私が本当にこんな機体を使用しても良いのでしょうか?」

「そんなに気に入らなかったか? とすれば後でプランを練り直すが……」

 

 ちなみにその被害はすべて奈々の所に向かう。

 

「ち、違います。その、何と言いますか……」

「桂木、見てもいいか?」

「ええ、どうぞ」

 

 ……そんなに問題があったか?

 だが、山田先生の怯え方は尋常ではない。ちょっとしかロマン要素は含んでなかったはずだが。

 

「……桂木、これは本気か?」

「当たり前だろ。アンタの緊急退避の援護はもちろんのこと、D班の3人の構成を考えるなら更識姉と教員2人のペアぐらいしか思いつかないし」

 

 本当は奈々の水分身を仮設本陣においていざとなれば防衛してもらうとかってのも考えているけど。だが、どっちにしろ山田先生は射撃で援護してもらうことが多くなる。

 

「だからと言って銃火器オンリーなのもどうかと思うがな」

「いざって時は近接パッケージを装着して戦ってもらえばいいだろ」

 

 そう。山田先生の機体は中・遠距離仕様の武装しかない。一応BT兵器も搭載しているが、それは完全にコンピューター任せ。一応はスコール、エムとの対戦に重きを置いた武装構成になっている。

 

「一応、盾も装備してもらっているが防御の面は周囲に置いているタートルシールドでも防御は間に合うはずだ。アンタの力量を信じているからこそのプラン提供だ。気にせずオルコットと凰の両名を倒した時のように、思う存分力を発揮すればいい」

 

 そうじゃなければ担任と副担任のIS如きにプラン提供なんてしねえよ。

 

「ありがとうございます。当日は頑張ります!」

「お願いしますね。じゃあ、俺はこれで失礼します」

 

 そう言って部屋を出ると、タイミングよく音楽が流れたので何かと思ったらメールだった。……朱音からだ。一体何の―――

 

『お兄ちゃん、さっきお祖父ちゃんが今度の作戦が終わったら1週間休みをくれるって! だから2人で旅行に行こうよ! 私の頭は良いから冬休みの宿題を手伝えるよ。手続きとかはこっちでするから、お兄ちゃんは今度の作戦頑張ってね』

 

 そんな内容のメールだった。そうか。君は1週間まるまる旅行に使うのか。せめて1日は家でダラダラ過ごそうぜ。俺、そっちの方がいい。

 なんてことを心の中で思っていると、今度は十蔵さんからメールが入った。

 

『言わなくても、わかっているな?』

『もちろん。精々抱きしめて寝るくらいに留めます』

 

 すぐさまメールを送り返す。『それなら結構』と返ってきたので内心ホッとしていた。

 

(それに、今度の下見はただの下見じゃないし、やりたいこともあるしな)

 

 なにせ、この作戦は誰にも伝えていないおまけ。おそらく誰もがびっくりすることだ。ただでさえ、これまで実験動物扱いされたんだから、あの屑共にはもっと困ってもらわないと。

 

「……クフフフフ」

 

 誰もいない廊下で、俺はひっそりと笑う。これから起こるであろう未来を夢見て。




目前に迫る亡国機業掃討作戦。それぞれの意思は今後とも迫る脅威の排除へと向かっている。だがたった1人だけ、それ以外のことを考える人間がいた。

自称策士は自重しない 第154話

「掃討作戦の闇」

「何で……何で止めなかったんだよ! アンタは知ってたんだろ!?」

そして物語は最終局面へと向かって行く。










ということで次回から京都で戦闘が行われる予定です。
観光? そんなことよりも討伐だ!(笑)

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