IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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おまたせしました。今回は短めです。


#152 暴君な会長

 そこはとある喫茶店。黄緑色の髪をした女性は紅茶を飲んでいる。その隣では白い猫が入っているキャリーケースが揺れている。

 

「あなたは大人しいですね」

 

 女性は出してやりたいとは思っているが、これも任務の一つであるため容易にそうはできない。

 すると喫茶店のドアが勢いよく開かれ、秋なのにまだ暑い今には似合わないニット帽を被り眼鏡をかけた女性が現れた。応待しようとする店員に「待ち合わせ」と伝えて姿を探すと、近くを通った時に女性は言った。

 

「―――あなたの宝物はここにいますよ」

 

 ぴたりと、脚を止めるのを見た女性。いつもの彼女の姿を見たら、大半の人が逃げていくだろう。

 

「座ってはどうですか? 周りに迷惑かと思いますが」

「その迷惑をあたしにかけているアンタがそれを言うサね」

「そうでもしなければあなたはここに来なかったでしょう?」

 

 黄緑色の髪の女性―――リア・ガンヘルドはイタリア代表「アリーシャ・ジョセスターフ」に言った。

 アリーシャはリアを睨むが、リアが何のアクションも起こさないのを見て大人しく座る。

 

「それで、一体何の用サね? 事と次第によってはこの場でアンタを八つ裂きにする」

「1か月前にあなたはスコールから亡国機業に加入するように言われましたね。それを止めに来たんです」

「………何でそれを? あの話は誰も聞いていなかったはず」

「こちらにもそれなりの伝手はあるんです。例えば、風とか」

 

 最初は意味がわかっていなかったアリーシャだったが、メニューが弾け飛んでのを見た彼女はリアを見た。

 

「……なるほど。アンタが風の一族「ガンヘル ド」って奴サね」

「ええ。仮に、あなたがここで「テンペスタ」を出したところでどうしようもないことはご理解ください。人……いえ、猫質もいるわけですし」

「……いい度胸してるサね」

「これでもかなり手を抜いていますよ。本当ならあなたが大好きな織斑千冬の四肢を捥いでおきたかったのですが」

 

 そう言ってリアは紅茶を飲む。アリーシャはリアを睨み続けた。

 

「……まるで、千冬如きいつでも殺せるって言っている風に聞こえるサね」

「その認識で間違っていませんよ。彼女も、そしてあなたも」

 

 ―――腕が目がなくなったことで余計に弱く見えますよ

 

 そこまでは言わなかったが、リアが言ったことは要はそう言うことだ。

 だがそれは間違いではない。今ではミアが性能を凌駕しているが、リアとて負けてはいないのだ。むしろ、レヴェルではミアが色々していた分目立っていないだけである。

 この姉妹は、本質的にはまったく同じなのである。そしてその本質は―――手段は選び、選ばない。

 

「でも、私はこれで。先に失礼させていただきます」

 

 まだ少し残っていたはずの紅茶は空になっている。リアは伝票を持って立ち上がり、アリーシャの隣を通り過ぎた時に思い出したように言った。

 

「そうそう。今度の作戦に織斑千冬に協力するそうですが、引き際は見極めた方が良いですよ」

「ふん。言われなくてもわかってるサね」

「いいえ。あなたは少しもわかっていません」

 

 ―――殺気

 

 ガラスにヒビが入る。アリーシャはすぐに戦闘態勢を取りたかったが、濃度が濃く、動けなかった。

 

「その日、あなたは行動を間違えば一瞬で消え去ります。古都は滅び、戦場と化す。その勢いはISでは起こりえない現象が、あなただけではなく、あらゆるものを消滅と導き、黒が進化し、白が黒と化す。そんな渾沌の中じゃ機械の風は呑まれるだけですので」

 

 伝え終わったリアは何一つ表情を変えずに会計を済ませてそこから出て行く。

 アリーシャがようやく動くことができたのは10分程後で、彼女はゆっくりと愛猫を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は体育館の壇上に登り、全校生徒の前に立っていた。

 

「昨日は観戦、お疲れさまでした。どうでした? 調子に乗って禁止項目の武装を使った結果、無様に負けて行く教員たちの姿は」

 

 毒を交えて話すと、沈黙が起こった。たぶん、この中で笑っているのは簪くらいだろう。

 

「さて、どうやら特に反論とかもないようなので本題に行きましょう。本日から一週間、1、2年生から学園部隊に入隊希望者を募ります。希望者がいるなら、生徒会室前にて応募用の紙と投函用の箱があるからその中に入れるように。ちなみに今回はより作戦通達率を強化するため、通信・情報科志望の生徒も募集しているので興味があるなら投函しろ」

 

 そう言うと生徒たちからブーイングが起こった。

 

「誰がアンタの指揮下に入るのよ!」

「ふざけないでよ! そんなのごめんだわ!!」

 

 俺はマイクのスイッチをオフにして軽く壇上を踏む。すると体育館に地震が起こり、全員がバランスを崩した。

 そして再び、マイクのスイッチをオンにして話を始める。

 

「この通り、俺が少しでもその気になればここにいる全員を―――引いては世界を崩壊に導くことは簡単だ。なにせ俺の能力は常人程度じゃ抑えられないからな。もっと言えば俺がキャノンボール・ファスト前の授業でサボって新技開発していたことは一年一組は知っているだろうが、あの技は最初にISを、最後に人間を球体に取り込んで消滅させるための物だ。これまでは持続時間が発射後5秒程度でしか持たなかったから大した害はなかったが、今の俺ならその気になれば国一つ消滅させるのは簡単なんだよ。そんな俺が部隊を必要とするか? むしろどうしてさっさと国を滅ぼした方が早いのに無駄に人件費を使わないといけないのか甚だ疑問だ」

 

 俺には奈々のようなカリスマ性はない。あるのは異常な能力程度だ。

 だが今までその異常な能力で様々なことを乗り切った。時には助けてもらったが、今はもう何の後ろ盾が必要ないほどに成長……いや、覚醒した。

 

「だが、その力で学園が守られるのは後2年と少し………いや、場合によってはもっと少ないかもしれない。そんな中、貴様ら雑魚がまともな訓練も積まずにいればどうなる? かつて俺の義妹が言っていたが、お前らは「兵器を扱っているという自覚が少なすぎる」。いや、「無い」と言っても過言じゃない」

 

 これは以前から思っていたことだ。もし少しでも思っていたらIS学園に入学することを躊躇うはずだ。

 

「そのせいで男に対して見下したりするんだろう? 忘れていると思うが、未だに各国の有権者は大半が男。そして俺もが男だ。つまりどういうことかわかるか? こんな雑魚しかいない学園なんざ、1時間あればテメェら全員を骨すら残さず消し飛ばせる」

 

 ちなみにこれは本当だ。まぁ、あくまでも1時間は目安だがな。

 

「それに、お前らは一体何のためにISを学ぼうと思ったんだ? ISで大成するためだろう? 織斑千冬みたいになりたいんだろう? 整備や開発で新たな武器を作り上げたい、機体を作りたいなど、それぞれの夢を持っているんだろう? 整備や開発、情報ならまだ良い。優秀ならばいくらでも仕事は見つかるが、操縦科は違う。改めて聞くが、高が467個の椅子を勝ち取れるほどの技量はあるのか? いや、俺や織斑が既に持っているし、専用機持ちも既にいる。さらに言えばISコアは完全なブラックボックスだから解析のためにいくつかのISは犠牲になっているから、本当はもっと低いだろう。その少ない椅子をアンタらは取れるほどの実力はあるのか?」

 

 そこまで言うと、生徒たちは完全に黙った。本当はIGPSとかがあるだろうが、あの国にはISに興味ない奴らがゴロゴロいるし、今は機密事項だから知らないだろう。

 

「勘違いするなよ、ゴミ共。俺が「学園部隊」というのを用意するのはアンタらにチャンスを与えてやっているだけだ。そこだけは頭に入れて今後の身の振り方を考えておくんだな。ちなみに教員枠も再編する予定だから、落ちたくなければ頑張れよ? 話は以上だ」

 

 マイクのスイッチをオフにして俺は袖の方へと移動すると、涙目で簪と本音が俺に訴えかけてきた。

 

「やるなら前もって言ってほしかった」

「急にやられて怖かったんだから!」

「ついカッとなってやった。後悔はしていない」

 

 たぶん震度4は観測されているんじゃないかって思う。いや、むしろその程度で済んだことに安堵するべきか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全校集会はつつがなく終了。そして、俺たちは生徒会室に残って書類整理に戻る。

 会長の席にはたくさんの書類が並んでおり、その整理をしていると奈々がこっちに近付いてくる。

 

「手伝おうか?」

「いや、いい。これくらいは自分でこなさいといけないだろう。……っていうか、この学園って色々と特殊だよな。期間ずらして毎年全生徒が修学旅行に行くなんて贅沢の極みだろ」

 

 そう言いながら書類の一つをつまんで奈々に見せる。重要書類だが、奈々は国家代表だし元々会長だったんだから大丈夫だろう。

 

「確かにそうね。でも、進級すればますます訓練や研究に力を入れることになるし、その息抜きとして修学旅行があるわね。それに今頃の3年生なんて大変よ? 虚ちゃんはずっと生徒会に力を入れていたから卒業課題は今取り込んで所だし」

「……大丈夫なのか?」

「前々からアイデアはあったみたいだから。それに、仮にも私の右腕なんだし卒業してもらわないと」

 

 まぁ、その辺りは大丈夫だろう。あの人も去年までは奈々と二人でやってきたんだし。

 

「じゃあ、この時期で欠員が出るのは仕方ないわけか」

「あら、虚ちゃんは行くわよ」

「……マジで?」

 

 今、忙しいとか言ってなかったか?

 

「1か月で仕上げるって言ってたわ」

「……それ、死なないよな?」

 

 そういえば、最近整備員に無理ばかりさせている気がするが、本当に大丈夫か? 少し不安になってきた。

 改めてスケジュール表を確認する。昨日のことで今日も学園の整備員は大忙し。来週はテストで、その1週間後には京都の下見が始まる。

 

「なぁ、今回って結構乱入されたからIS学園所属の整備員ってボロボロだよな?」

「そうね。でも、今までが暇すぎたから勘を取り戻すには良かったと思うわよ」

 

 まぁ、今までが平和だったしな。そう考えるとこれまでの騒動は彼らにとっても良かったのかもしれない。

 

「……ところで、奈々はあの話は聞いたか?」

「…下見の話かしら? それとも、下見の本当の目的かしら?」

「二つ目だな。ということは、亡国機業が京都で何らかの動きを見せるというのは本当なのか?」

「そうね。でも、この情報は出所自体が不明なのよ。一応、IS委員会から持たされた情報ってことになってるわ」

 

 俺が生徒会長になってからというもの、対談を設けてくる奴らか。

 実は、生徒会長に就任した場合はIS委員会と会談しなければならないらしいが、俺はその申し出を一切無視している。どうせ色々と言ってくるのは目に見えているからだ。

 

「念には念を…ってことか。面倒だな」

 

 いっそのこと、レイがこっちに戻ってくれれば俺は戦わずに済むがそうは言ってられないな。

 

「……そう言えば、奈々は織斑先生の機体がどこにあるのか知ってるか?」

「……それはわからないわ。でも、ある程度当たりは付けている」

「学園の地下区間、そのどこかか」

「ええ。あの襲撃以降、織斑先生は何度か地下に訪れている」

 

 なるほどな。どうしてそれを使わないかわからないが、そろそろあの女にも働いてもらおうか。

 いくら過去に軍の教官をしていたと言っても、アレの本質は先陣を切って戦うタイプだ。そして本人もそれに気付いているはず。

 

(一度、全員の前でネタ晴らししたいな)

 

 今度の下見で、ほとんどのことに決着が着くかもしれない。俺は何故かそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイ様、今度の仕事なんですが」

「ああ。IS学園の連中が下見に襲撃するって話?」

「はい。本当に私たちは出ないといけないのでしょうか?」

 

 ティアの質問にレイは頷く。

 

「まぁ、仕方ないんじゃないかな? スコールも僕も今の世界は嫌いだからね。少しでもIS学園を崩壊に導こうとしているんだろう。そしてもう一つの目的は、ユウ兄さんをこっち側に引き込むことだし。僕もそろそろスコールには諦めてほしいとは思うけどね」

 

 レイはそう言いながら、ティアのお尻を触る。ティアはティアで気恥ずかしさがあるのか顔を赤くするが、それでもなされるがままだった。

 そして今度はお互いが求めるようにキスをしはじめる。場所は格納庫で技術主任を務めるティアを呼ぼうとした一人が首を振って2人には聞こえないように邪魔しないように通達した。

 お互いは気が済んだのか、キスを終える。

 

「ところで、ティアは本当にアレに乗るのかい?」

 

 レイの質問にティアは頷く。

 彼女の後ろには20m近い物が立っており、今も作業が続けられている。

 

「戦争でもおっぱじめる気かって突っ込まれてもおかしくないよね、これ」

「ISを落とせれば、万々歳」

「確かに、馬鹿な女に対しては有効だろうね。……でもさ、僕が直々にすべての女尊男卑の女を殺して回った方が早くない?」

「スコール曰く、デモンストレーションは必要だって」

 

 それを聞いたレイはため息を吐いた。

 

「そのために京都は犠牲になるわけね」

「……私は必要以上に撃つ気はない」

「いや、それ以前に君には戦場には出てほしくないんだけどな」

 

 レイは本音を漏らす。だがティアは、レイと常にいたかった。

 それ故に「嫌」とはっきりと断り、レイに抱き着く。

 

「わかった。でも、死にそうになった時はすぐに逃げろよ」

「………りょーかい」

 

 2人がじゃれつき始めたことで、気が利く整備兵はブラックコーヒーを配り始めた。それほど汗と油にまみれているはずのその空間はとても甘くなっていた。 




ユウとレイの差

ユウ……2人だけでもいちゃつかない

レイ……周囲に興味がないから普通にいちゃつく

実はIGPSが来るまでレイはずっと生身で出撃していたので、大怪我を負った時に離れたくないからということで始まった過度な愛情表現。


次回から、次回から本編に入ります。

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