IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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手書きで何かを書くことって、あんなに辛いとは思わなかった。
本当パソコン様々だ。


#149 我、怠惰を欲す

「………どうか、それだけは勘弁してくれ」

「…でも、私はお兄ちゃんにおっぱいを揉んでほしいの」

 

 そんな、少し不穏な会話。あのシステムの反動か、筋肉が悲鳴を上げている俺が部屋に戻ると病んでいるラウラと放心していると朱音と、マッサージセットを何気なく用意しているミアという、意味不明な構図だった。

 最初はどういうことか、というか疲れていることもあって特に怪しまずマッサージを受けると、たまたま朱音と視線が合ったので格好はおかしいだろうがとりあえずお礼を言っておいた。

 

「助かったよ、朱音。あの抑制システムのおかげで本気で戦えた。ありがとな」

「……それ、私じゃないもん。それに胸を言うならお礼を揉んで!!」

 

 俺は呆然とした。何かが違うこともそうだが、なによりも唐突にそんなことを言われたからだ。

 いつもの思考混乱から導き出した答えを言うと、復活したラウラが突然迫ってきて言った。

 

「兄様、私の胸も揉んでください!」

「はいはい、二人とも。ユウ様が先に揉むのは私の胸ですから、どちらも揉まれるのは後ですよ」

「それフォローになってないからな!!」

「したつもりもありません」

「もうやだ!!」

 

 泣きそうになったが、それでもかなりやり込んだのかマッサージが気持ち良く感じ始めた。

 するとドアが勢いよく開かれ、見覚えがある赤い髪の少女が入ってくる。

 

「うまい具合に私の目的通りに混乱しているわね!」

「………お兄ちゃん、この人。さっき胸を揉んだの………」

 

 朱音に言われ、俺はため息を吐いた。

 

「すまん。そいつは俺の妹だ………たぶん」

「たぶんじゃないわよ! 見た目じゃ判別できないけど、正真正銘の妹!」

「それを言ったら、俺たち全員見た目じゃ兄弟だってわからないだろ」

 

 兄貴が黒髪、俺が銀、零夜は青に暁は赤。見事にバラバラだ。……とはいえ、昔からそうらしいけど。

 

(むしろ、一時期でも黒色だった俺が異質だったかもしれないが)

 

 そう思いながらミアのマッサージを受けていると、俺の謎のセンサーが危険人物を感知した。

 

「久しぶりね、ユウ」

「させるか!」

 

 俺はすぐさま鎖を展開して現れた女性―――もとい、母親を縛る。

 

「ちょっとユウ。マッドサイエンティストとして名高い私でも近親相姦には興味はないわ」

「安心しろ。いくらアンタでもそっち方面に興味がないこと自体は俺も知っている。ところで、さっきから視線が俺を無視して左右に揺れているようだが?」

「それは必要な行動だからよ」

「必要ねぇ………朱音、ちょっとおいで」

 

 手招きすると、顔が明るくなり甘えるような顔で朱音が近寄ってくる。

 

「ちょっ、そんな、この状態でそれは生殺しよ!」

「……お母さん」

「ミア、ありがとう。ラウラ、こっちに」

「はい」

 

 一体どこから出したのか、ハンカチを噛みしめて俺を睨む母親に、暁すらも引き気味だ。

 

「ユウ様ぁ~」

「胸を後頭部に引っ付けるな。……まぁ、嬉しいけどさ」

「じゃあ、もっとしますね」

 

 ミアの行動を真似てか、二人もそれぞれ行動を起こそうとするが俺がやんわりと阻止したので二人は渋々といった感じで諦める。

 

「ユウ、少し明日のことで話がしたいんだが………できるだけ早く済まして、終わったら連絡をくれ」

「さも当然と言わんばかりにフェードアウトするのを止めろ!」

 

 ご丁寧に母と暁も引っ張っていく兄貴。

 

「こういうのは誰にも見られない方が良いだろう?」

「まだ時間的に早いからな! ……まぁ、この二人はそれぞれの部屋にぶち込んでおいた方が良いだろうけど」

「ちょ、それが兄の言うこと!?」

「そうだそうだ! 私もあの子たちを堪能させろ!」

 

 女性二人はブーイングをしてくるが、俺たちは協力してトレーニング場と研究施設にそれぞれ閉じ込める。前者はともかく、後者に関しては脱走していたらしく、俺たちは感謝された。

 

「………で、話ってなんだ?」

「王位継承の話だ」

 

 ………それかよ。

 さっきはあの二人から逃げたくて乗る風にしたが、今となっては少し後悔している。

 

「さっきのあれでアンタの目的は達成されたと思うがな」

「一つは、な。だがまだ我々の目的は完全に達成されていない」

「……どうしてそんなに俺が王になることに拘る? あいつらの言う通り、アンタがこのまま指導者を続ければ良いだろ」

 

 はっきり言って、俺はこういうことには興味がある。だが、だからと言ってこれまで築いてきた他人の城の王になる気はない。……まぁ、兄貴が死ぬか事故で壊れるかしたら流石に成り代わる可能性はあるが。

 

「言っただろう? この国は元々、ユウに渡すことを前提に作ったと」

「その割には俺を襲うほど慕われているじゃないか」

 

 だとしたらずっと続ければいいと思うが。

 

「……実は、あの両親の代わりに色々と立ち回ってわかったことが一つだけある」

「……何?」

「リアとの時間が取れないんだ」

 

 …………………………真顔で何を言った?

 予想の斜め上の発言した兄貴から俺は少し引いた。

 

「忘れているようだから言っておくが、私もあの両親から生まれている。正直、もう私は限界だ。奴らはこちらの戦力を恐れているのか、全く認めようとしない。もういっそのこと私単独で主要国を滅ぼそうかなと思っている」

 

 ………そういえば。

 俺と兄貴は昔から同じ部屋で、中学生の頃に何かすごく「仕事をしている」って感じな行動をしていた覚えがある。

 

「なぁ、俺が小さい頃にアンタは夜遅くまで起きていたよな? それって―――」

「篠ノ之束と織斑千冬の調査だ。当時はどちらも危険人物だったからな。片や世界を変えるほどの技術力を持ち、片や我々の討伐対象の末代だ。織斑の方は下に弟妹がいたが、妹の方は亡国機業ようだがな」

「………「サイレント・ゼフィルス」の操縦者か?」

「そうだ。お前も何度か戦っただろう?」

 

 むしろ、一時期はあの女を狩る為に動いていたからな。後からレイが出てきたが。

 

「比較的相手になるからな。というか、織斑って裏切ったから力を封じられたんじゃなかったのかよ? まさか闇の力を操れるとは思わなかったぞ」

「闇属性は憎悪によって目覚める。存在そのものが一般的な力とは違うから使えるのだろう」

「………ということは、織斑弟も闇の力を使えるわけか」

 

 だが、アイツには無理かもしれないな。………性格的に。

 

(………いや、あるいは……)

 

 もしかして、アレでも使うことができるのではないだろうか?

 ふと、俺の頭に名案が浮かんだ。それを感じたのか、兄貴が何かを言ってくる。

 

「何か名案でも思い浮かんだのか?」

「……さぁな」

「何にしろ、明日には集会を開いてお前が次代の王になることを宣言する。準備はしておけ」

 

 俺に拒否権はないそうです。……どんだけサボりたいんだ、あの兄貴は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 司会者は尊敬できる仕事かもしれない。そんなことを、ふと「HIDE」本部のテラスから色とりどり……いや、大半が黒人の戦士たちを見て思った。

 軽く辺りを見回すと、見知った(と言っても会うのは10年ぶりだ)顔を見つける。どうやら無事に更識家の人たちはこっちに移動できたようだ。

 俺はリアさんからマイクを受け取り、語り始める。

 

「さて、ここにいるみんなは既に俺……私の出生を聞かされているだろうが、改めて説明させてもらおう。私はユウ・リードベール。神樹国王族の末代次男、そして第一王位継承権を持つ次期国王として作られて生まれたエヴォノイドだ。今は「桂木悠夜」という名でIS学園に通っているが、知っての通り無駄に高い身体スペックのおかげで力を持て余している」

 

 予め兄貴がどれだけ話したのか聞いて、説明することに問題ない程度に改めて説明する。

 

「今、おそらく「HIDE」内では私が次期王として、指導者として成り代わると言う話を聞いていると思うが、約束しよう。私はIS学園を卒業し、さらに3年は就任する気は一切ない。むしろあり得ないと断言しておく」

 

 途端に下の方からざわつきが起こり始める。それもそうだろう、聞いていたこととは違うことを本人から否定されたのだから。

 

「私はもう少ししてから一度IS学園に戻る。そして、現生徒会長からその座を奪い、そこで長というものがどういうものか学んで来ようと思う」

 

 まぁ、好き勝手できると睨んでいるけどな。俺強いからやりたい放題だし。

 

「その後に王子として、次期指導者として国を周り、状況を視察した上で方針を決めてから就任するつもりだ。大体、考えてみてほしい。民あっての国であり王だ。だというのにすぐに就任は自殺行為だろう。昨日の時点でこちらの実力は把握してもらっただろうが、まだ国事情に関しては触れていないし、何よりそろそろ限界が来ているのだ。性欲が」

 

 全員が静まり返った。

 

「ここからは本音を言わせてもらうが、俺はこれまで童貞を守り続けてきた! 理由は、俺には自分を守れるほどの後ろ盾が存在していなかったからだ! 一歩間違えれば犯罪者扱い。おかげでボコられるは中傷されるはでストレスは溜まっていく。かといって、好いてくれていることを理由にむやみに発散するのは問題だろう。だが、今では違う!」

 

 さて、ここからが本番だ。

 

「俺にはもう、力がある。国一つを容易に消滅させられる力が! それを使い、俺は愚女が集まるあの学園で生徒に対して、他国に対して力を振るいたい! だからこそ、あの学園で生徒会長にならなければならないのだ! 女尊男卑という愚かな思考を嘲笑うために!」

 

 レヴェル(ここ)に住む連中は、女尊男卑を嫌っている。

 男はISと無理やり適合させるために、女はより適合率を上げるために実験させられ続けた存在。中にはラウラと同じ遺伝子強化素体も存在し、迫害を受けていた。

 だが、俺は俺自身が作られた存在であり、ラウラもいる。作られたからってそれがどうしたというのだろうか?

 

 そんな境遇にいたからこそ、絶対的に女尊男卑を、ISを推進する大人が悪と知るからこそ、この演説は成功すると思っていた。

 

「それに心配しなくていい。俺は兄貴から場所を奪っても、「HIDE」のボスの座を奪う気はない。日本で言うところの摂政や関白に就いてもらおうと思っている。あくまでも予定だがな」

 

 すると、国民が湧いた。それも尋常じゃないほどにだ。

 

「以上だ。これからも、王家ではなくこの国の発展のために動いてくれ!」

 

 そう閉めて俺はテラスから中に移動する。そして誰にも気づかれない場所に移動して、膝をついた。

 

「ゆ、ユウ様?! 大丈夫ですか!?」

 

 ミアがすぐに駆け寄ってくる。俺は右手を挙げて制し、立ち上がった。

 

「大丈夫だ。ちょっと、緊張しただけで」

「な、ならいいんですが……。今日は私を抱いて寝てくださいね。私ならもう妊娠したって大丈夫なんですから」

「……考えておく」

 

 さっきも言った通り、俺はもう限界だ。その心に嘘偽りはない。

 なら、甘えられるようにすればいいと、今思った。

 俺は改めて時間を見ると、まだ大丈夫と思ってラウラを呼び、「HIDE」の訓練施設に足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この子を鍛えたいの?」

 

 タイミングが良かったのか、訓練中だった暁を呼んでもらって説明する。

 俺は頷くと、聞かせていなかったからかラウラも驚いていた。

 

「兄様? 何故私がここで鍛えることになっているのですか?」

「……実は、ラウラにはどうしても担ってほしい役割があるんだ」

 

 ラウラには、IS学園生の中で(俺が把握している範疇で)唯一の軍属だった少女だ。元々、ISはスポーツと掲げてはいるが、彼女の存在がそれを否定していると言っても過言ではないだろう。そう言う意味では「ISの軍事利用禁止」の形骸化を示している。

 それはともかく、どうしてラウラを鍛えてもらおうと思ったのかというと、IS学園の軍備関係を整えようと思っているのである。

 

(実際、戦闘になったら俺がいの一番に出るけどな)

 

 要は彼女には部隊の指揮と指導……いや、調教をしておいてもらいたいのだ。

 俺の前では見事に崩れているが、彼女にだってカリスマ性ぐらいはある。それに強くない奴が部隊を指揮しても誰も付いてこないだろうし、ここなら弱くてもそれなりに鍛えてくれるだろう。

 

「ラウラには俺が会長になった時の学園の部隊の隊長をやってもらいたい」

「……た、隊長にですか?」

「ああ。会長就任後は一度学園の部隊を解散する」

 

 これまでの敵が異常だと言うこともあるが、それでも少しばかり動きが鈍い。………そもそも、いくら男だからと言って助けるのを怠る奴らなんて解雇で十分だろうに。

 

「そして新しく募集するから向上心がある奴らを入れて、鍛えればいい」

 

 IS学園は、普通にISを申請して動かしていればまず操縦者になれない。

 そもそもISの数……というよりも、コアの数が圧倒的に足らないのだ。ISコアを作成できるのはレヴェルの陣営内でも本当に限られた奴……それこそ、あの母親やミアの妹であるティアちゃんぐらいか。

 故に、救済措置でありいざという時に戦える戦力である「学園部隊」なるものがIS学園では存在する。そこならば少なくとも週一回はISを動かすことができる。

 

「ならば、兄様が隊長になれば良いのでは? 私よりもよっぽど適任かと」

「ダメダメ。ユウ兄が隊長になったら部隊として機能しないよ」

 

 俺よりも先に否定する暁を叩く。

 

「いったい。でも本当のことじゃん。ユウ兄が隊長になってもIS学園にいる人たちって更識姉妹を除けば雑魚ばっかなんでしょ? だったら生身でも先行できるユウ兄が攻撃を仕掛けて敵部隊を壊滅ってのがオチじゃない。だからこの子に隊長をさせるんでしょ?」

「………否定はしないがな」

「じゃあ、最初から叩かないでよ」

 

 睨んでくる暁を無視して俺はラウラに言った。

 

「つまりそういうことだ。生まれ持った宿命というか、俺は部隊を率いるより単独で攻めた方が早いし他人を育てられるほどの知識はない。だがラウラは強くなれば軍にいたしそれなりの知識はあるだろ? だからお願いした」

「……わかりました。このラウラ、絶対にあの部隊を強くしてみせます!」

 

 胸を張って答えるラウラに、俺と暁は思わずラウラの頭を撫でた。

 

「じゃあ、これからラウラちゃんに部隊員とリンチ組手をしてもらうね」

「……唐突に物凄く物騒な組手が聞こえたんだが?」

「大丈夫。名前みたいに物騒じゃないから。まずラウラちゃんには、あそこに描かれているサークルの中央に立ってもらうわ」

 

 言いながら暁は白いテープで描かれた円……その中央にマークされている場所を指す。

 

「そこで、HIDEに所属する最低ランクの戦士から順に捌いていってほしいの。ああ、安心して。たぶんラウラちゃんレベルでも3ぐらいには食い込めると思うから」

「……4以上は?」

「うーん。難しいんじゃないかな? あ、別にドイツの軍レベルが低いってわけじゃないよ? ただ、4から本当に精鋭の―――それこそ肉体改造を受けて人の限界を超え始めているのが多いから」

 

 一度その組手をしてみたい。そんな欲求にかられたが、今は我慢することにした。

 

「あ、強いって言ってもユウ兄が本気出したら消し飛ぶレベルだから」

「………泣いていい?」

「ユウ兄、組手は私がするから元気出して?」

 

 何だろう。俺、強くなってからというもの、まともな訓練とかした覚えがない。

 などと思っていたが、この時はまだ暴力だけではどうすることも圧力を体感することになるとは、この時は思っていなかった。




たぶん、次回でレヴェル編は終了になると思います。

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