12月13日って妙に続いているので気分が良いですね。……2011年ならもっと良かったんですが(笑)
プライベートジェットというものはご存知だろうが?
政府の役員やデュノア社規模の社長家族となると、そういうものを持ったりらしい。そう言えば以前、オルコットが新聞部の一年にそういうことを聞かれていたことを思い出した。
「まさか、俺がプライベートジェットなるものを乗ることになるとは思わなかったな」
「何をおっしゃいますか!? ユウ様は今後の神樹人の未来を担う者。そんな方がプライベートジェットの一台や二台、持っていてもおかしくないです!」
「忘れていると思うが、ここ10年は庶民暮らしだったからな」
ましてや記憶がなかった頃なんだ。プライベートジェットなんて乗ることはない。
「私も、なんだかんだで乗ったことないな~。2年前にファーストクラスに乗ってハーバーなんとかって大学に行って、変な人と話をしたことぐらいだったけど」
「………」
実は晴美さんから聞いてことだが、彼女は2年前に有名な教授と対談して会話で打ち負かしたことがあるらしい。その時に表彰をもらったらしいけど、長い間見知らぬ人といたからか、ストレスで倒れたと言う話だ。
そんな子が、あのような変人にならなくて良かったと心から思っている。
「そう言えば、私もプライベートジェットには乗ったことがないな」
「意外だな。ラウラはそういうのに縁があると思ったが」
「一時期、成績が落ちていたからな。いくらアドヴァンスドでも育成費に時間もかかる。そう意味で護衛任務から外されることが多かったからな」
「だったら、これで3人ともデビューしたってことだね」
確かに。なんだかんだでミアはこういうのに乗ったことがありそうだしな。
「ええ。ご存知の通り、私もこういうものには縁がありました。ただし、常にいたのは前方の操縦席ですが」
「………はい?」
「操縦席です。これでもガンヘルドの一族故、戦闘、勉強、いざという時の操縦各種のスキルは最低でも身に着ける必要はありましたので。以前も言いましたが、私は元々4月にはあの家と女権団を壊滅させるつもりだったので、それなりにスキルは身に着ける必要はあったのです」
「………まぁ、4月は女権団絡みで色々あったからな。着替え中に襲われたりしたし」
ぽつりと漏らしたが、それがいけなかったのかもしれない。
「ところでユウ様、その方々がどうなったのかご存知ですか?」
「いや、逃げるのに成功したらしいから追跡は不可能だと聞いていたが」
「一人は逃がしましたが、それ以外は全員今頃妊娠しているかもしれませんね。女なんて、ある程度の部位を固定すればただの性処理玩具でしかないですから」
………たぶん、常日頃からそう思っているからこそ彼女は強いのかもしれない。
背筋に冷汗をかいていると、俺の膝の上に平然と座っていた朱音は俺の服を握って言った。
「……お兄ちゃんに惚れて良かった」
こんなジョーカーがいる以上、下手すれば明日は我が身だからな。
特に人のことを言えないから俺は注意しなかったが、ラウラは別のポイントに気付いたようだ。
「ん? さっき一人は逃したと言っていたが、その者はどうなったのだ?」
そういえば、そんなこと言っていたな。後から言われたことがインパクトありすぎて頭から飛んでいた。
「その女は、弟のために自分の手を汚すタイプだったので、弟を人質にとって仲間の居所を吐かせた後はレヴェルに移動させました。ユウ様の恥ずかしい姿を口外しないことを条件に」
「手段は酷いが、後処理は凄いな」
……考えてみれば、俺もそんなタイプだったな。人生を潰したと言う意味で。
そんな雑談をしていると、機内アナウンスでもうすぐレヴェルに着くことを知らされ、俺たちは大人しく席に着いてシートベルトを締める。朱音は俺の膝上が良いと言ったが、今は我慢させることにした。
「ようこそ、そしてお帰り。我が弟よ」
「ただいま。わざわざ出迎えなんてご苦労なことだな。こんなことをするなら自分の責務を務めろよクソ兄貴」
「相変わらず口を開けば罵倒だな。よくそんなことで女をたくさん口説いてこれたものだ」
「その分の活躍が凄まじいからな。まともな世界なら、IS学園の女全員を口説き落としているさ。……とか言ったが、はっきり言ってあんな女共を口説き落とすなんて吐き気を覚えるがな。マジであの女共を口説くなら、アンタとリアさんを巡って戦った方が建設的だ」
本気で本音を漏らす。すると、首辺りに何かが飛んできたので、誰もいない場所に吹き飛ばした。
「今のは冗談として捉えておいてやる」
「ハハハ、抜かしよる」
明らかに殺すつもりで風の球を射出しておいて何を言うか、あの兄は。
「ユウ様、やはり姉の方が良かったんですか……?」
「というか、昔は年上にそういう憧れはあったな。今はないけど」
……幼心に美人だなぁという気持ちはあったな。というか、後ろからの視線が怖い。
「立ち話もなんだし、今の家へと案内しよう。ユウの部屋も用意してある。そこで楽しむといい」
「………何を楽しませるつもりだ、アンタは」
会話をほどほど(ただし命のやり取り込み)にして、俺たち4人は兄のサーバス、そして彼女の付き人であるリアさんに部屋の奥に案内された。
メイド服を着た女性の人種は様々だが、黒人女性が圧倒的に多い。
「……気になりますか?」
リアさんが俺に話しかける。俺は思わず「…まぁ」と答えると、リアさんはそのまま前を向いた。……教えてくれないんですね。
「さて、ここがお前の部屋だ」
そう言って案内された部屋は、意外と質素だった。
おそらく素材はかなり高級な物が使われているのだろうが、とはいえ部屋のパターンとしてはベッドがダブルベッドの1.5倍はありそうなものという点以外は案外普通なのである。
「どうした? 高級過ぎて言葉も出ないか?」
「いや、むしろ高級感が薄れてる……というよりも、デザインが思ったよりも庶民……?」
「確かに、もう少し高い部屋を期待していたならばすまなかったな。我々は部隊内でも兵力に力を注ぐ反面、一般的な暮らしは耐久度を除けばかなりランクが下だ」
「民が貧乏だから、少しでも楽させるために王族たちの部屋も質素にしようってか。いつの時代の考え方だよ……まぁ、落ち着くけどさ」
なにせこっちは記憶は取り戻したはいいが、人格的には庶民の方が強い。……別に二重人格ってわけじゃないけどね。
「ユウ、二人だけで話をしたい。少しいいか?」
「………別に良いけど、他の奴に手を出したらどうなるかわかっているか?」
「その心配はない。部下にはあの映像と共に彼女らに手を出さないように強く言っている」
それを聞いた俺は、朱音にいつでも非常事態を知らせるブザーを抜くように言って兄貴と共にそこから離れる。
どこまで歩くつもりか。無言でしばらく歩いていると、兄貴は城によくある街中を見渡せるテラスへ案内した。
「………発展中、と言ったところか」
最初に見た印象がそれだった。言うなれば、某リアルロボットシリーズではほとんど必ず出てくる「コロニー」とやらの建設中にも見える。
「これでもかなり建設は進んだ方だ。俺たちはまず、日本国外に移動した後にアフリカに移動した。………そこのほとんどの国が貧困で困っていたからだ」
「……神樹人の技術はISで革新的に技術が進歩した一般人らの技術を遥に凌ぐ。自給自足なんて普通にできるって話だったな。食料などを分け与え、信頼を築いたのか?」
「ああ。それが一番手っ取り早いからな。知っていると思うが、ISの登場の以後、難民の出没率、そしてISコアのほとんどが先進国が独占したことにより、発展途上国の大半が飢餓に陥った。彼らには我々の能力のことは既に公にしているが、よほど余裕がなかったのだろう。かつての雑民たちのように神や仏やと敬ってくれたさ」
かなり悪い顔をしているなぁ、うちの兄貴は。
要は、弱っている人間を引き込んで味方として引き入れたのだ。
「ユウ、お前をこの国に呼び戻したのは他でもない。本来の役目通り、お前にこの国を任せたい」
「………は?」
ここまでしておいて!?
もう一度周囲を見る。確かに発展途中とはいえ、いやだからこそ今の状況で俺に引き継ぐのはおかしいだろう。
「なに、最初の頃はこっちでもサポートをする。だが、やがてはユウが―――」
急に殺気が飛んできて俺は周囲にバリア―を張る。すると機械型の拳が飛んできて、バリアーを揺らした。
「何だ、これ?」
「……ユウ、私はさっき言ったな。「彼女らには手を出さないよう強く言っている」と」
「……確かに聞いたが……まさかそれって、「俺には手を出しても良い」と言っておいたってわけじゃないよな?」
「ご名答。私は前もって「HIDE」には言っておいた」
「………最後に何を言った? どうせアンタのことだから「まぁ、ユウが死んだら私が続けるしかあるまい」とか言ってんだろうけどな」
「まさかこのような事態に発展するとはな」
「謀ったな、サーバス!」
バリアーを解除して、テラスから飛び出す。そして飛んでくる炎の拳を受け止めた。
「何っ!?」
「ISだろうが、IGPSだろうが、大して差はないだろうよ」
すると、目の前の白い機体は一瞬で黒色に変色して消え、後ろから殺気と共に現れた。
バリアーで防ぎ、地面に叩きつけられないように重力を相殺。真正面から突っ込んだ。黒い機体もそれに応えるつもりか、近接ブレードを抜いて突撃してくる。
そして俺の拳と相手のブレードが当たりそうになる瞬間、黒い機体は消えた。すぐさま後ろを向いて防御態勢に移ると、一瞬だけ姿を現してまた消え、後ろから切断された感触を味わう。
(……ただの突撃かと思ったら、ラグで攻撃してくるとはな……)
思わず笑ってしまう。最初は白い機体ということもあって「白式」が脳裏にチラついたが、向こうは学園にいる雑魚共とは違ってちゃんと訓練を積んで実戦経験もある奴だ。一筋縄ではいかないか。
「暴れるぞ、「黒鋼」!」
右手の中指から黒い光が発し、俺は黒鋼を装着する。
チューンされたとはいえ、久々な上に俺の身体能力は向上している。ISに操縦者の能力を自動更新する機能があるとはいえ、俺の場合はもう一度「初期化」と「最適化」をした方が早いだろう。
「「ルシフェリオン」じゃねえのかよ」
「その機体に合わせてやってんだよ。っていうのは3割ぐらい本音だが、問題は下だ」
「下?」
「今下では色々開発を行われている。ここの技術力を考慮しても、ルシフェリオンで戦えば面倒なことになる………テメェならそれなりに楽しめることは確信できるが、だからこそ「
まぁ、本当は起動しなくなったんだがな。
「……傍若無人な部分が多いと思ったが、案外下の事は見ているんだな」
「おいおい、勘違いしてもらっては困るな。俺がIS学園で調子に乗っているのは、周りがどうしようもない雑魚のくせに未だに自分の力を認めることができず、威張っているからだ。アンタみたいに何か譲れないもののために戦う奴に対しては寛大な対処をするさ」
「………だとしても、俺はアンタを認めない!!」
そう言って黒い機体はもう一度消える。俺は黒鋼を飛行形態にして適当に飛びながら兄貴に言った。
「けしかけた責任は取れよ。今すぐ周囲にバリアを張れ」
「………わかったわかった」
俺を中心に大きな球体が精製される。黒い機体は思わず動きを止め、信じられないように周囲を見ていた。
「これで思う存分本気を出せるぜ。お互いな」
―――少し前
「お兄ちゃん、黒鋼のことで話があるんだけど」
「……何だ?」
「もし誰かと戦うことになったら、できるだけ黒鋼を使ってほしいの」
話の意図が理解できない俺は首を傾げて考えていると、朱音が補足する。
「実は黒鋼には、お兄ちゃんの能力を抑制するシステムを新たに搭載しているの。サーバスって人に協力してもらってね」
「………兄貴が?」
「うん。そのシステムはお兄ちゃんが黒鋼を展開している間に作動し続ける。でも、その分お兄ちゃんにとてもストレスがかかってしまうの」
「その点に関しては問題ないってあの人は言っていたけど……」と、朱音は続けて話した。
あの時は、よくわからなかったが、今ならわかる。確かにこれは物凄く辛い……が、相手が強い分は興奮できるため、ストレスは相殺されていく。
「らぁっ!!」
「おせぇ!!」
相手の近接ブレードと《蒼竜》の刃がぶつかり合い、火花を散らす。
俺はすぐさま《フレアマッハ》を左手に展開して引き金を引くと、至近距離でダメージを食らった相手の機体が徐々に白色に戻っていく。
「舞え、《サーヴァント》!!」
8基の《サーヴァント》がラグを生じさせつつ舞い、相手を攻撃した。
すると黒鋼が周囲に何かが接近していることを知らせると、次々と見たことない機体が接近してきた。
「………いいねぇ、この感じ。まるで俺を殺そうとせんばかりに殺気を飛ばしてきやがって。嬉しすぎてゾクゾクしてきた」
迫りくる攻撃。それを回避しつつ、俺はIGPSの操縦者共に喧嘩を売りに行った。
■■■
サーバスは―――風間剣嗣という男はユウが嫌いだった。
生まれながらにして、自分にはない王として作られたがゆえに王位継承権を持つ弟を憎く感じていた。
「………まぁ、これだけ暴れればユウを認めざる得ないだろう」
サーバスは確かにユウに対してけしかけた。次の王になる奴が弱ければ、自分が続けてやる。しかしそいつには暴れても大丈夫なように制限を設けさせている。という二点の説明を付けて、だ。
(しかし……渡しておいてなんだが、あの母親はよくあんなものを思いつくな。それを理解し、組み込めるあの少女も凄いが)
母親である遥から能力抑制のシステムを渡されたことを思い出しつつも、サーバスは内心ため息を溢しながら頭をかく。
(……本当、母親だが何を考えているかわからないな)
悠夜の周囲で爆発が起こる。その音で視線を上げると、大半の戦闘員が悠夜に喧嘩を売っていることを理解したサーバスは、頭を抱えた。
少し離れた場所で、朱音はその様子をモニタリングしている。
システムは正常に働いており、既に同時に動いている「サードアイ・システム」と特に問題を起こしている様子はない。
そのことに安堵していると、突然ドアが開かれた。
「……暁様? どうしてこんなところに―――」
ミアを無視して暁と呼ばれた赤髪の少女はそのまま暁に接近すると、胸を掴みだした。
「………大きい」
そう、ポツリと漏らす。
それを見ていたラウラが改めて朱音を見て、もう一度自分の胸を見る。朱音の胸のサイズは比較的平均サイズだが、暁とラウラに比べれば確かに大きい。
突然乱入した暁は本気で泣き始め、そのまま大声を出しながら走り去った。
「おかあさーん! どうしてアタシの胸のサイズを大きくしなかったのよー!」
離れたはずなのに、未だに悠夜専用の部屋に届くほど大きな声。ミアはショックを受けたラウラと朱音を放置して、開けっ放しのドアを黙って閉めた。
………この中で、いや、世界規模でも上位に入る大きい胸を持つ彼女が、一番とばっちりを受けるとレヴェルにいたからよぉく理解しているのである。
ミアはずっと、暁に胸のことで弄られていました。
コロコロと呼び名が変わっているのは、その人から見てどの呼び方が相応しいか、と意識しています。
……次こそは、遅くなるかなぁ。