IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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2日連続投稿。
インフルエンザって治ってもしばらくバイトとかできないのがつらいですよね。またしばらく私用に戻るので更新頻度は遅くなります。


#146 そして展開は次へと放つ

「……なぁ、ミア」

「ユウ様が、まさかこのような方法がお好きだったなんて。いえ、私は別に構いません。ユウ様がどのような性癖を持っていようとも、私は必ず答えて見せます!」

「更識の家が襲われることを知っていたのか?」

「……ええ。いずれはそうなることは」

 

 観念したのか、ミアは大人しく答える。ちなみに今の彼女の格好は全身を亀甲縛りにされていた。……ラウラは一体どこからこんな知識を仕入れてきたのだろうか。

 本来なら、今回の騒ぎ(更識家消滅事件除く)について事情聴取を受けることになっているのだが、俺は俺でこの馬鹿を尋問すると言う役目があるので後にしてもらった。

 

「いずれ、ってことは前々からその予定はあったのか」

「はい。私も全容は聞かされていたわけではないので詳しい日数までは知りませんでしたが、おそらく今年度―――つまり3月末までには消えると予想はしていました。ユウ様がISを動かしたので」

「……俺が?」

 

 ミアが頷く。まさか、あの家の消滅に関わっていたとは思わなかった。

 

「いえ、正しくはユウ様がISを動かしたことで時期が早まったと言うべきでしょう。これはもう隠すことでもないでしょうから言いますが、ユウ様はISを動かすにしろそうでないにしろ、ISには関わることになっていました」

「……それは俺が、「リードベール」だからか?」

「そうです。ユウ様は元々次代の王にするためにエヴォノイドとして生み出された存在。王になることで一番最初にすることは、IS学園にいる3つの四元属家の末代を口説き落とし、日米合同軍によって落とされた神樹国を私を含めた4人の末代と共に復活させることともう一つ」

 

 ミアは隣にいる朱音とラウラを見て答えた。

 

「風、水、土、火。この純粋な4つの元素になぞらえた四元属家の復興のために末代と、それ以外の女性をできるだけ多く孕ませて減少しつつある国民の増加。並びに女性優遇制度とISの不要性の証明と女権団の破壊」

「……随分と多い難題だな」

「実のところ、ユウ様は最後に関しては既に成功させています。もっとも、予定よりも随分遅れていたのですが」

「……遅れている?」

「私は元々、この時期ではなくもっと早く来る予定でした。その時期は4月。つまり、私は藍越学園のあなたと同じクラスに転校する予定だったんです」

 

 そう言われて俺は思わず顔を引き攣らせた。いや、ちょっと待て。その時期に接触して、女権団の破壊がもっと早くってことは―――

 

「……まさか、幸那は最初から俺の女として勘定に入れていたのか?」

「はい。もっとも、彼女は精神を操られていただけで救いようがありましたが、問題は郁江の方です。彼女は根っからの男性否定者。理由は同情しなくもありませんが、ユウ様の本当の姿を見れば例え義息とはいえ殺しに来ていたでしょう。なので始末……とはいかずとも、精神は崩壊させるかどこかに監禁することは考えていました」

 

 次々と明かされることに、朱音は顔を青くする。

 俺が寝かされていた部屋はドロシーによって既に改築されており、それなりの部屋になっている。なのでベッドに座っている俺の膝の上に彼女を乗せて頭を撫で、落ち着かせた。いくらIS製作者と言っても中身はまだ15歳の女の子。そんなことを平然と受け入れられるかどうかは別問題だ。……ラウラは元軍人だから大丈夫だと思いたい。

 ちなみにここにいるのは俺たち4人だけで、奈々たちはそれぞれ別の部屋にいるらしい。そりゃあ、家があったはずの場所がぽっかりと穴が開いていれば誰だってショックを受けるだろう。

 

「軽蔑しましたか?」

「……少しな」

「まぁ、本当のところは精神変換装置で元に戻すよりも、無理やり発情薬を使ってユウ様直々に静めてもらわなければ社会的に抹殺できる方法を取りたかったのですが」

「アウト! ラウラまで顔を青くしてふらつくレベルとかアウトだろ!」

「冗談です。そんなことをすればどのような形であれ受け入れていたユウ様の妨害に遭うことは想定済みでしたから。いくら風鋼を持っていようとも、ユウ様の相手はしたくありませんし」

 

 たぶん今の、本音だ。

 考えてみれば、こいつは幼少期の頃の消したい記憶を全部知ってるわけだし、一度切れれば手を付けられないくらいは理解している。……今更ながら、どうして俺はあんなことを平然としたのだろう。

 

「まぁ、とりあえず聞きたいところはそれくらいか。あと、このことはクソ兄貴は知ってるのか?」

「もちろん。あの人が発案者ですから」

 

 ………あのクソ兄貴か。

 一体何を考えてあんな作戦を立てたのやら。そう思っていると、例の黒いアタッシュケース型の辞書が現れた。

 

「あれ、何?」

 

 そう言えば朱音は見るのは初だったか。

 俺は二人から手を離し、飛んでくる辞書を受け取る。そして開くと、「通信中」と表示されてクソ兄貴の顔が現れた。

 俺は思わずそれを捨てると、辞書は独りでに動いて元の体制に戻る。

 

『酷いな。私が現れると同時に捨てるなんて』

「目の前に気持ち悪い顔を晒されたからな」

『うっわ』

 

 明らかに引く様子を見せるクソ兄貴。こっちは言いたいことが山ほどあるんだと言おうと思ったら、先に言われた。

 

『ところでユウ、そろそろこっちに帰ってこないかい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……まだ、こんな時間か)

 

 ふと、目が覚めた俺はトイレに行き、もう一度戻って寝ようと思ったら……ミアに占領されて寝れなかった。

 どういうことか目も冷めてきたし、リビングで何か飲もうと思いついて向かうと、

 

「………」

 

 既にそこには先客がいた。

 

「…奈々か?」

「ユウ君」

 

 まさか、何でこんなところに。……ここは仇敵がいるからてっきり近づかないものと思ってた。

 

「私がここにいるってわかって来たの?」

「いや、偶然だ。あんなことをするのはうちの馬鹿一族のみだ。てっきりもう近付かないものだと思っていたし。よく入れたな。時間的にも無理があったろ」

「あなたを出しにすればすんなりと通してくれたわ」

 

 ……一体何をしたのだろうか。いや、大丈夫だ。俺の学生生活……中二病的なことしかしてなくて。

 

 ―――クスッ

 

 色々と考えていると、楯無は俺を笑った。

 

「……何だよ」

「ちょっと昔のことを思い出しちゃったのよ。簪ちゃんが泣いた時みたいに慌ててるなって」

「あれは本気で焦ったからな」

「その後にユウ君も大泣きして、虚ちゃんに抱き着いてたわね」

「人の黒歴史を掘り起こしてそんなに楽しい!? ねぇ、そんなに楽しい!?」

 

 今すぐにでも消したい記憶を平然と掘り起こしやがって、この悪魔!

 内心そう思っていると、ふとあることを思い出す。

 

「……お前は、俺を恨んでないのか?」

「え? 何で―――」

「俺はお前の家族を消した奴らの身内だ。今までどう付き合っていようが、恨んで当然だろう」

 

 そう尋ねると奈々は笑って答えた。

 

「確かに、本当にあれは驚いたわね。でも、私たちの家を考えれば当然の措置かもしれないとは思ったわ。私たち更識だって布仏を近くにいることを強制していたから」

「………そのことも知っているのか」

「すべてお父様が残していた手紙に書かれてあったわ。私と簪ちゃんの両方、あるいはどちらかがユウ君と子供を作らないといけないってことも。あなたの生まれが普通じゃなくて、エヴォノイドだってことも」

 

 マジかよ。どうやら他の奴らも普通に知っていたしな。俺の孤児情報が漏えいしているってことか。

 

「気持ち悪くなった?」

「まさか」

 

 そう答えた奈々は、俺の方に来て抱き着いた。

 

「………たぶん。私はあなたに惚れる運命だったかもしれないわね。あなたに力があろうとなかろうと」

「………………唐突に、何言ってんだよ」

「本当は、簪ちゃんが羨ましかった。あなたがすべての記憶を取り戻す前からこうしたかった」

 

 大きな胸が俺の体で広がる。より強く抱き着かれた俺は、そっと彼女の背中に腕を回した。

 

「やっぱり、ユウ君は温かい」

「………」

「そして、優しい。こんなことは、いくら作られても精神が操られていなければできないよ」

 

 よほどストレスをため込んでいたのか、甘えるように奈々は顔を摺り寄せてくる。

 

「………奈々」

「ユウ君」

 

 もう離してくれ。そう言うつもりだったが、奈々が瞳をうるわせてこちらを見ていた。

 次第に顔を距離が近くなる。お互いが名前を呼び、そっち唇を近付けて行く。だが残念だ。おそらくここでミア辺りが邪魔してくるだろう。俺たちがキスすることができ―――てしまった。

 お互いを求めるように、舌を入れてキスをしていた。いや、あれ? おかしい。ここらあたりで誰かが乱入してくるのが今の俺の現状なのに、俺たちキスしているのに、人っ子一人乱入してこない。

 やがて口を離すと、奈々は満足そうにこちらを見ていた。

 

「……ねぇ、ユウ君。ユウ君があの時私を助けてくれたのって、私がヴァダーの末代だから?」

「………俺はそういう計算で人を助けたことは一度もねえよ」

 

 他人を助けているのは、いつだって俺のわがままだ。

 その他人からは見返りが欲しい。でも、本当は失いたくないからだ。そしてあの時―――初めて彼女と会った時も、そしてあの家に変な奴らが来た時も、ただ邪魔だったから、障害になったから潰してきただけ。

 

「これからは、私があなたを「ご主人様」って呼ばないといけないわね」

「笑えない冗談だな、全く」

 

 今度は俺からキスすると、奈々はまた舌を入れてきた。

 そしてまた口を離し、奈々はそっと呟く。

 

「じゃあ、しよっか」

「……ああ」

「―――ここは流石に怪我するから、するならベッドの方が良い」

 

 ………………………はい?

 俺たちは恐る恐るそちらを見ると、さも当然と言わんばかりに簪が俺たちを見ていた。

 

「……い、いつから?」

「お姉ちゃんがにいにに迫ったところから」

 

 ……ほとんど最初じゃないですか。

 

「いやぁ、やっぱり成長するとああも積極的になるんですねぇ。ところで刀奈、あなた本当に処女ですよね?」

「だから処女だって言ってるでしょ!? そ、そういうあなたはどうなのよ!」

「狙われたことは何度かありますが、股間を斬り―――」

「ちょ、その話はやめろ!!」

 

 ……なんか、興がそれた。というか…無駄に疲れた。

 でも俺、奈々だけでなく他には最低一人は落とさないといけないんだよな。……本当、そのたびに弄られるとか前途多難だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スコール・ミューゼルは現実逃避をしていた。

 

「ねぇ、まどっち。新しい機体はどんなのがいいかな?」

「まどっち言うな!」

「はいはい。ブタさんは他のブタさんとセックスしようねぇ」

「誰がブタだ!」

「あ、牛だっけ?」

「いや、それって違いあるのか?」

 

 世を天才と騒がした希代の天才と、騒がれていないが十分恐れるべき存在である零夜が喧嘩を始め、

 

「この衣装はどうでしょう?」

「分析データ上ではそこまで高くない。ユウ・リードベールはチラリズムが好きだから、もう少し意識した方がいいい」

 

 天才の娘とされているクロエ・クロニクルと束以外にもコアを生み出せる少女―ティアが結託して萌え衣装の研究しているのである。

 

(なんか最近、こんな感じよね)

 

 彼女の指す最近は、軽く数10年は遡ったりする。スコールは大人しくスープを飲んでいると、後ろからオータムが現れた。

 

「いつつ……あのガキ、何の手加減もせずに……」

「油断したあなたも悪い……って言いたいけど、状況が状況だから仕方ないわ。傷は大丈夫なの?」

「幸い打ち身程度だとよ。まさかいきなり肘討ちだからな……あいつは何を殺す気だ?」

「次代の王を殺すため、じゃない」

 

 スコールは適当に答える。ユウを殺すとなると、あの程度では無理なのは十分承知しているが、今の彼女はすべてにおいて投げやりだった。

 

「篠ノ之束。あなたは本当に我々に協力してくれるのね」

「もちろんだよ。だからこうして来たんじゃない」

 

 今回、スコール主催でパーティが催された。だがそのパーティの招待状は殺される前に送ったもので、束が死んだと聞かされた彼女はキャンセルしようと思っていたのだ。だが、

 

『そういえば招待状もらったけど、パーティやるの? おいしいもの食べ放題?』

 

 そんな電話がかかってきたのだ。用意しつつも怪しんだが、実際に束は現れたのである。

 

(……というか彼女、死んだんじゃなかったの?)

 

 亡国機業の構成員が偽情報を流すことはない……とは残念ながら断言できないが、「篠ノ之束」に関する情報だけは信頼していた。

 

(………一体、何が目的なの……?)

 

 おそらく、今回の話し合いは成功したと言える。だがスコールはどこか束を信用することはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――過去

 

 自分は、馬鹿だった。どうしてあんなことをしてしまったんだろう。

 いや、自分だったらなんでもできる。そう思っていた。あんな―――子供の姿をした化け物を見るまでは。

 

(………怖い)

 

 自分の常識がすべて通じなかった。すべて防がれた。変な格好……ううん、正真正銘の化け物となって私を襲ってきて、殺そうとしていた。いや、実際私の手足は斬り落とされて……

 

(……斬り落とされて、いない………)

 

 私には再生能力が備わっていない。でも何で? 何で私の足が、手がどちらもあるの……?

 

「それは物好きな中年がお前を回収させたからだよ」

 

 唐突に、私の耳に声が入ってくる。

 目の前には私が殺したはずの男がいた。

 

「もし勘違いしているなら先に言わせてもらうが、生憎裸には興味がないし、篠ノ之が入っている培養カプセルにはちゃんとぼかされているしな」

『……死んだんじゃないの?』

「お前もうちの次期王様とガチでやりあったらわかるだろう。俺はアレの規格外な能力が一部移ってしまっている。それによってパスがなんやかんやしているってことはないが、幻術を作ることはできた」

 

 自慢げに語る剣嗣。すると先程とは一変して真面目な表情で答えた。

 

「もう、お前一人ですべてできるなんて思うな」

『………私は……』

「お前のその頭脳も、そしてその身体能力も否定する気はない。そのすべてはお前が勝ち取ったものだ。実際ISの存在とその考え方には同意できるからな」

『………お前に言われても嬉しくない』

「そうか。それも結構。先に言っておくが、今のお前がそこから出れば間違いなく死ぬ。まだ手足は完全につながったわけではないからな。何かあるなら今の内なら聞いておいてやろう」

 

 ―――誰がお前なんかに借りを作るか

 

 思わず叫びそうになったが、ふと箒のことを思い出した。白騎士の搭乗者に関しては完全に隠蔽した彼女だが、家族に関してはそうではない。不仲になっている両親はともかく、箒は何も悪くない。

 

「………そう言えば、お前の分身は作らなくていいのか?」

『……何で』

 

 先に言われた束は驚きつつ感情を隠しながら尋ねる。

 

「白騎士のデータは既に政府に提出したのだろう。そんなところでお前が行方不明になったら家族が人質にされるだろうな。俺の場合はリア以外はどうでもいいし、全員が化け物だからIS並み……いや、IS以上に暴れるが、お前の妹はそうじゃないだろう」

『…………』

 

 ………嫌だ。

 束は一瞬、箒が無茶苦茶にされる状況を想像してしまった。自分が助けに行かないから大変な目に遭う。両親はもうどうでもいい……けど、

 

『………私の分身、作ることはできるの?』

 

 それを聞いた瞬間、剣嗣はしてやったりという顔をしていたが束は気付いていなかった。

 

「……ああ。できるさ。その培養器からお前の記憶と肉体データを吸い出したら、俺の母親は普通に作り出す。後はお前の実験室にでも置いておけば黙々とISを作り出すだろうな」

 

 本当はISではなくISコアなのだが、剣嗣はコアが重要だと知らない。

 そこに突っ込むことは束は涙を流しながら言った。

 

『………お願い。私の分身を……作って』

 

 自分の分身を作り出すなど、屈辱的だった。それでも束は箒を守りたかったのである。たった一人の、自分の夢に同調してくれた妹を。

 

「……良いだろう。その分身が不要になれば爆弾でも使って消せばいい」

 

 剣嗣は待ってましたと言わんばかりに早速パネルを操作した。




※次回予定……といきたいですが、今回は特別なので、また活動報告に載せようと思います。

URL:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=134428&uid=15171

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