……もう、泣いていい?
C言語勉強しよ
―――過去
「桂木」という表札がある豪邸とも言える家、その庭で剣嗣はため息を吐く。
右腕から血を流しているが、相対するユウは構わず攻撃をした。
「―――もう止めろ、悠真。俺は今回のことで話す気は何もない」
「そう。だったらもっと痛めつけてやるよ」
そう言ったユウは黒い球体を生み出し、分離させて剣嗣に飛ばした。
だがそれは剣嗣に届く前に、ユウは止める。
「……何のつもり、リアお姉ちゃん」
「もう止めてください、ユウ様。これ以上あなた方が戦うのは、ただの消耗戦です」
リアに言われ、ユウは剣嗣を睨みつけるとそのまま家の方へと去って行った。
■■■
悠真が家に帰っていくのを確認した俺は、近くのベンチに腰を掛ける。
するとリアが…そしてその後ろからユウと同い年ぐらいの子どもがこっちに来た。一斉に話しかけられたが、どうやら全員俺のことを心配してくれているらしい。回復能力は高いから、もうそろそろ傷は塞がると思う。
「悪かった、リア。君を危険な目に遭わせたな」
「構いません。我々ガンヘルドは本来、リードベールを守るために存在するのですから」
まぁ、アレが止まることはなんとなくわかっていたが、正直なところ気が引けた。
実は悠真がリアに攻撃しなかったのは、リアの事を好いているからだ。姉として懐いていると言えば良いのだろう。もし本気で好いているなら、三人を選ばせた時にリアを選んでいるはずだから。
「……だが、これでわかったな。……悠真は置いていく」
「…わかりました」
どこか悲しそうに返事をするリア。彼女はこれからのことを考えているのだろう。俺も確かに不安だからな。
話は少し前に遡る。
「夜叉」が戻ってくる少し前。一足先に家に戻ってきた俺は、すぐに両親を呼んで言った。
「二人には本気を出してもらいたい」
本来、俺は「白騎士」に負けるつもりだった。おそらく「白騎士」に乗っているであろう織斑千冬のみでは空中戦は不慣れだろうと思って出撃したが、適当に挑発してISの有能性を示すつもりだった………のだが、悠真が「夜叉」を奪い取って「白騎士」を地に伏せさせたことで問題を生じさせた。
これから世界は「IS」ではなく、「夜叉」に注目を集めるだろう。世界に溶け込もうとしている俺たちにはそれは都合が悪いのだ。
「で、だ。俺はこれから国を作ろうと思う」
「………はい?」
父さんは聞き返し、母さんは工具を落としてしまう。……アンタらよりかまともなことを言ったつもりだが、そんなに意外だったのだろうか?
「剣嗣、もしかして何かあった? 精密検査をした方が良いかい?」
「二人に比べれば至って正常だ。父さんにはこれから働いてもらうが、「白騎士」の有能性を証明してもらいたいんだ」
「……ちょっと待って。それがどうしてあなたが国を作るってことになるのかしら?」
母さんに言われた俺は説明した。
「俺たち神樹人の科学力は国が滅ぼされた今でも世界を超えている。「夜叉」を発表すれば、それこそマスコミが乗り込んでくる可能性がある。篠ノ之一人が犠牲になったところで家族ぐらいしかダメージがないが、この家はそうはいかない」
「そのための避難口として、新たに国を作ろう、と? お義母様は反対しそうね」
俺たちはただの人間じゃない。全員が異能力者であり、それぞれが家族単位で一つの能力を持っている。母さんを除けば俺たち一族は一つだけではなく様々な能力を使うことができる。そしてそれは、王族のみだ。
かつて俺たち神樹人は第二次世界大戦が始まる前に、日米ともに目障りと言うことで殺されかけた。それを俺から曾祖父に当たる夫婦と四元属家の当主が力を合わせて自滅し、国民や次期当主を逃がしたという。本来ならそう言うことはありえないが、織斑一族が配下のものと裏切ったらしい。異能力者集団が負けた理由として、これまでまともに戦ったことがなかった。当然だが、国内では徴兵制度もあるのでまったく無警戒だったわけではないと思うが、それでも敗北してしまった。そして祖母が勝手に他国の人間と結婚したことでミューゼル家と仲違いしたのである。
元々、この国造りの計画は最初からあった。兄弟最強の悠真を新たな王として据え、四元属家の再誕という流れを。だが、今のままでは支障をきたしてしまう恐れがある。それは―――悠真の、とてつもない常識の欠如である。
悠真は、生まれながらにして最強だった。実はこれはある意味間違っていない。産声で周囲を破壊し、高い実験器具を壊したのである。………幸いなことなのは、彼の周囲にはそれぐらいしかなかったことだ。それから3歳の時点で小学生の過程をほとんど学習して能力も大人顔負けに使えている。まともな教育をしなかったというのもあるが、それ以上に力を持ってしまったアレはいつしか自分が最強と思い込み始めたのだ。実際、現時点でガチで戦ったら辛勝……とまではいかないだろうが、かなりの苦戦は強いられると思う。
「それに、悠真と父さんを残してな」
「……ミアは連れて行く、ということですか?」
尋ねてきたリアに対して俺は頷いた。
「言ってはなんだが、今のミアちゃんは姉妹の中では平凡だ。既に一戦力として数えられてもガンヘルドでは致命的、というのもあるが………表でも仕事があるこのオッサンと傍若無人のユウに挟まれて、何らかの間違いが起こっても困るからな」
「剣嗣、オッサンと言ったことはともかく、いくら何でもそれは僕を見くびり過ぎだよ。僕が小さい女の子に手を出すはずがないだろう?」
「アンタの名案という迷案に振り回される彼女の身にもなれ、って言いたかったんだがな。というか、記憶を消して普通の小学生にするためには、どっちみち同居する女の子は姉妹以外には必要がない」
そう言うと、全員が驚きの声を上げる。が、それを遮るように母さんが言った。
「悠真が戻ってきたわ」
周囲にいる全員を避難させる。リアは残ると言い張ったが、まぁそれはいつも通りか。
「夜叉」が通路から移動されていると、ハッチが吹き飛ぶと同時に中から子供が飛び出してきた。着地もせずに、俺に向かって飛んでくるので回避すると、悠真は黒い球体を出して細い触手みたいなものを飛ばすので回避し、提案。
「
すると肯定の意味かすぐさま姿を消す悠真。……おかしい、悠真はテレポートみたいなものはできなかったはずだ。
―――いや、今はいいか
そう思った俺は地上に出て、悠真と戦闘した。
で、現在。
あらかた傷が回復すると、子どもなのに子供じゃない人が現れた。
「―――あろうことかユウが闇属性を習得してしまうとはな」
「珍しい。滅多に来ないあなたがここに来るなんて」
「………」
茶化して話題を逸らそうとしたが、どうやら向こうは真剣なようだ。
「……ところで、闇属性とは?」
「能力者が極限まで絶望した状態で目覚める、最悪の力じゃ。ワシも目覚めておる。そして、修吾もな」
「……それは本当か?」
「そうじゃ。ワシもかつて、爺さんが殺された時に暴走して軍隊を跡形もなく吹き飛ばしたことがある」
そういえば、聞いたことがあるな。
かなり昔、父さんが生まれて数年ぐらい経った時にお祖母ちゃんが異能力者とばれてしまい、米軍に狙われたとか。それでお祖父ちゃんがお祖母ちゃんを庇って死んだことがきっかけでお祖母ちゃんが暴走。目の前にいた兵士は文字通り骨すら残せてもらえずに消し去られ、作戦本部を置いていた場所は更地に変わったという話だ。
「ということは、今の悠真もそれをできる、と?」
「今は堕ちたきっかけが生きていること、そして犯人が未だわからないことで今は抑え込んでいるが、それも時間の問題じゃな」
………やはり、か。
となれば、本格的にやるしかない。
「…頼みがあるんだが」
「……記憶操作、か? だが、完全に消すことはできぬ。場合によってはさらなる災害を巻き起こす可能性もあるぞ?」
「………ならば、あの二人を会せないようにするべきだな」
俺はお祖母ちゃんにあの時見たことを話した。
「戦闘中に白昼夢を、のう。可能性があるとするなら、それは時戻しじゃな」
「……時、戻し?」
「そうじゃ。おそらく剣嗣が見た白昼夢は本物じゃろう。悠真が時戻しを発動したことで、事象が上書きされて何事もなかったことにされたのじゃ。ワシはそれよりも、悠真の体力が未だに残っていることが気になる」
「……それほど体力が消耗するのか?」
「時戻しを最初に使用したのは、おそらく修吾じゃ。ワシを倒そうと何度も巻き戻した結果、丸5日は寝込んでいた」
………あの人、何でそんな使い方してんだよ。
10数年生きていて、本当にあの親父の思考パターンがわからない。
「後で聞くと、1回使うごとに1時間の休憩は欲しいらしいと言っておったが…」
「あの後平然とミサイル潰して白騎士倒して、俺を痛めつけてたな」
「よくもまぁ、そんなことができたわい」
呆れ果てるお祖母ちゃんに、俺は提案した。
「……悪いんだけど、悠真のことをお願いしていいかな?」
あれから、数日が過ぎた。
神樹の民は各々土地を離れる準備をし始めている。元々、孤島だったことや王族制度があったことで親父の一声で全員が移住の準備を始めてくれた………のだが、
「リアが戻ってこない?」
「はい。さっきまで近くにいたはずなのですが……」
ミアちゃんがそう報告する。
しかし、今更だがよく彼女は悠真と残るなんて言わなかったな。実は結構懸念していたからすんなり承諾してくれたのは嬉しい誤算である。
とはいえ、今は何故かいるはずのリアがいないのだが……。
「そうか。じゃあ、ちょっと様子を見てくる」
「わかりました……」
ミアちゃんは一礼して、自分の仕事に戻る。……そう言えば彼女はガンヘルド三姉妹の中で突出して秀でていることがないだけで、言われたことはできているし主人が異常なだけじゃないか? 何であんなに低く見られているんだろうか……謎だ。
学校に移動すると、見知った顔が俺に声をかけてきた。
「風間先輩」
左を向くと、フランス出身の剣道部員「ジュール・クレマン」が袴姿でいた。どうやらランニングをしていたようだ。
「ジュールか。ミアを見ていなかったか?」
「え? あの人ならさっき私服姿の女と校舎の中にいましたけど?」
………私服姿の、女?
嫌な予感がする。この学校で私服姿の女なんて、教師を除けば一人しかいない。
「……その女は、若かったか? 20代とか、そういうんじゃなくて……」
「そうですね。胸が異常に大きいってことを除けば、たぶん同年代と思いま―――」
ジュールが途中で口を塞ぐ。彼には悪いが、風を起こして周囲の視界を悪くしたからだ。
その前に父さんに連絡し、準備ができ次第すぐに出発するように知らせた。
(……見つけた)
校舎の屋上。そこではリアが篠ノ之と戦っていた。
リアの戦闘能力は高い方だが、何故か彼女が追い込まれている。俺は慌てて二人の間に割って入り、妨害した。ちょうど篠ノ之が飛び蹴りを繰り出すところで、俺はそれを空中で受け止める。
「剣嗣様。……ダメです、逃げてください!」
後ろでリアが叫ぶ。俺はその意味がわからずに動かずにいるが、次の瞬間に俺の肩が撃ち抜かれた。
(銃!? あの女、そんなものまで調達していたのか?)
だが、今のは銃弾じゃない。銃弾なら俺の肩を貫通するよりも前に防護壁によって粉々に砕かれているはずだ。それに、どれだけ早かろうと俺の眼ならばほんの少し視認できる。
(とすれば、レーザーか?)
それしかない。やれやれ、天才というものは厄介だな。
「いやぁ。今日はいい日だ。化け物を2匹も狩れるなんて」
「単位間違っているぞ、天才。「匹」じゃなくて「人」だ」
「ISを使わずに空を飛べる人間なんていないよ。化け物で十分だ」
そう言った篠ノ之の周りから何かが光る。リアを引き寄せて攻撃を回避すると、篠ノ之に警告する。
「そこまでにしろ、篠ノ之。悪いが俺はお前と戦っている暇はない」
「やなこった。何でこの束さんがお前らみたいな化け物の言うことを聞かなければいけないんだ―――よ!」
またもレーザーが俺を貫く。
「ねぇねぇ、どうしてあれを出さないの? あの黒いのってお前が束さんの技術をパクッて開発したものでしょ? いやぁ、恐れ入ったよ。まさかあそこの部分だけであんなものを作り上げるなんてね」
「……さぁ、何のことだ―――」
今度は左肩にもらった。
―――とはいえ、流石にそろそろおふざけが過ぎるな
「リア、先に帰れ」
「………わかりました」
リアは素早く立ち上がって逃げる素振りを見せると、篠ノ之の近くが光る。だがそれがリアに当たることはなかった。
「―――やれやれ。随分と好き勝手してくれたな……自称天才」
「………やっぱり化け物だね、お前」
―――化け物はお前もだろうに
内心そう思いながら、俺は周囲に結界を張った。
「……何をしたの?」
「なに。ちょっと場を整えただけだ。お前だって自分の秘密をばらされたくないだろう?」
「……はぁ?」
言われていることがわからなかったのか、間抜けな声を漏らす篠ノ之。
「何言ってんだか。私に秘密?」
「何だ。俺はてっきり知っていると思ったんだがな。お前は、お前の親友の親に遺伝子から作られた
それを聞いた瞬間、篠ノ之は高笑いをした。
「なぁ~に言ってんのぉ? そんなわけないじゃん。ちーちゃんの親は一般社員―――」
「裏の人間がそう簡単に表の人間に素性を明かすわけがないだろ」
馬鹿にすることを意識しながら言うと、篠ノ之の顔が無表情になって行く。同時に殺気が大きくなっていることから、おそらくは怒っているのだろう。
「大体、普通に考えてみろ。あんな機体なんて発表したところで一体何になる。お前がしたことはただの自己満足でしかないし、何よりもそれによって一番不幸になるのはお前の家族だ。両親にはもう興味がないようだが、お前の妹はどうなる」
「それは愚問だよ。箒ちゃんは私が守る」
「―――無理だな」
ああ、無理だ。
確かに今のこいつの科学力ならばあらゆる妨害から妹一人ぐらいなら守れるはずだ。だが―――
「科学ぐらいしか取り柄がない女に何ができる? 所詮、この世界は暴力で牛耳られているというのに」
すると、篠ノ之が一瞬で俺の前に現れて鳩尾を突いてきた。それを間一髪で回避すると、驚いている風に見せてやる。
「もう死ねよ、ゴミ」
そう言った篠ノ之はレーザーを飛ばすと同時に接近する。それを回避しつつ、相手してやる。
決して上回らず、それでいて負けない程度に打ち合うとしびれを切らしたのか手の方にエネルギーを集中して放った。
■■■
―――やっぱり大したことないや
上下真っ二つに割れた剣嗣を見て、束は微笑む。そして満足したのか彼女はその死体を跡形もなく消失させた。結界が解かれたことで音が響き、生徒たちが校舎外に出てくるが、束は構わずその場を去った。
「………やれやれ」
束がその場にいれば、おそらく発狂していただろう。かわせないはずの距離で撃たれた熱線。それを浴びたはずの剣嗣はさも当然と校舎の屋上にある出入り口の上に立っていたのだから。
剣嗣は最初から束と戦っていない。戦っていたのは、彼が生み出した幻覚だ。闇の力である幻術を扱えるのには理由があり、剣嗣はあの騒動後も慣れるために何度か「夜叉」に乗っていたのだが、何度か気分が悪くなった後は何事もなかったので放置していたある日、本来「夜叉」に備わっていない分身機能が使えたのだ。修吾曰く、「悠真の闇の力の一部が「夜叉」に浸透していたのかもしれない」ということ。なので彼は、自分の能力を確認して使えるようにしたのである。短時間でそれができるのは、彼も「遺伝子進化素体」だからである。
「………よろしいのでしょうか? 仮にもあそこはあなたの生家。それが壊れることになっても」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
呆れを見せながら剣嗣はリアに言うと、彼女の顎を持って自分の口と合わせた。リアは激しく動揺するが、剣嗣は構わずする。やがて離されたリアは問い詰めた。
「ど、どういうことですか!? 一体どうして―――」
「ちょっとしたくなったから」
そう言った剣嗣はリアを抱き寄せつつも、内心悠真を馬鹿にできないと思っていた。
「………悪いな、リア。お前をこういうことには巻き込みたくなかったが」
「…それ以上は言わないでください」
やがてリアも受け入れるように、剣嗣の背中を抱えるように腕を伸ばす。そして剣嗣は、そのままの状態で言った。
「後処理は親父に任せている。こういう時に、多少は役立ってもらわないとな」
すると二人はその場から消え、しばらくすると教員たちが現れた。
―――現代
楯無は、居ても立っても居られなかったな。
自分の妹が自分の代わりに今も何かと戦っている。そう思うとじっとしていられなくて、厳重にされた拘束から逃れようと暴れ始める―――すると、拘束は解かれて床に落下して騒音を慣らした。
「………どういうつもり?」
拘束を解いた犯人に問いかけると、犯人は無言で彼女のIS「ミステリアス・レイディ」の待機状態を渡した。
「………面倒な敵が現れたわ。あなたは戦える?」
「愚問ね。伊達に「楯無」は名乗ってないわ」
楯無はすぐにベッドから降りると、そのままの格好で行こうとしたので犯人は肩を掴んで止めて無言で服を差し出した。