IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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ちょっと過去と現代をわかりやすくしてみました。


#141 少年、覚醒

―――過去

 

 レイとティアちゃんが去って、早数日。元々家族は兄弟ですら興味対象ではないのか、元々レイが文献を読み漁ることが多いインドア派だったからか、何気ない日常が繰り返していた。そして俺も、その日常に慣れつつあった。あの選択はどうしようもなかったのだと、思い始めていたのだ。

 

 ―――とはいえ、今はそんなことはどうでもいいか

 

 レイには悪いが、生憎今の俺には家族を含めてどうこう思う暇はない。

 

(やってくれたな、あの女……!)

 

 逃げ惑う部活中の生徒たち。その中で俺はリアと共に空を飛んで家の方へと移動する。人混みに抗うよりもこっちの方が早い。

 物の数分で家に着く。中では騒ぎになってはいるが精々噂程度で済んでいるぐらいで、周辺に住んでいる子供たちが物珍しそうに俺を見ているが、今は無視だ。地下へと急ぐと、待ってましたと言わんばかりに俺の専用機と化してしまった夜叉のセットアップが行われていた。

 レイが家を去って数日間、下校した後は勉強せずにこいつに触れてばかりいた。今となっては幸いなことだが、正直なところ嫌だったな。

 

「剣嗣、今すぐ出れるわよ」

 

 母さんがそう言ったのを聞いた俺はすぐに研究室のわきにある控え室に入って専用のスーツに着替え、外に出ると避難状況を聞いた。

 

「他のみんなは無事か?」

「ええ。少なくとも、周囲にいた神樹人は全員ここに避難できたそうよ。ただ、ユウとミアちゃんがまだ帰っていないわ……」

 

 それを伝えられた俺は特に気にしないことにした。

 ユウの能力は高い。おそらく、現時点で俺を超えるほどの力を持っている。何しに出かけているかはわからないが、大抵のことはなんとかするはずだ。

 

「どうせ近くの避難場所にでもいるだろうが、一応探しておく」

「お願いね」

 

 やはり子供の安否が気になるのか、それともただ実験材料がどこにいるのか気になるかは定かではないが、今は気にせずIGPS1号機「夜叉」を装着し、うつ伏せ式のカタパルトに乗った。

 

「剣嗣様!」

 

 大声で俺を呼んだリアは、心配そうに言った。

 

「…ご武運を」

 

 こういう時は普通、妹の安否を気にするものだと思うがな。

 内心突っ込みながら研究員の一人のカウントダウンを聞き、「1」が聞こえるとすぐに意識を前方に向けた。

 

 ―――0

 

 発射台が高速で移動する。しばらくすると加速した状態で地下から地上へ上りはじめ、さらに加速した状態で空へと投げ出された。

 動かし方は幸い頭に入っている。天使や妖精が背中の翼を羽ばたかせるようなイメージで飛行し、既にいるであろうISを探す。

 ステルスモードで移動していると国会議事堂辺りだろうか、白い甲冑のような何か……いや、ISが現れた。それはすぐさま俺の方を向き、話しかけてくる。

 

「誰だ」

 

 機械音声のようだが、雰囲気といい誰かさんを思い出す。

 こちらも機械音声で答えることにした。

 

「それを聞くのは野暮というものだ」

 

 ディスプレイからミサイルの接近が知らされる。意識をそっちに向けた俺はすぐさま三叉槍《トライデント》を展開して薙ぎ払う。俺の能力による追加効果《鎌鼬》が生じ、ミサイル群を破壊していく。

 ISもそれに倣うように刀に近いブレードで破壊していく。

 

「中々やるな」

 

 向こうからそう声をかけられるが、こっちにしては日常茶飯事なことだ。

 無視して続いて飛んでくるミサイルの処理を行う。武装は三叉槍だけと心もとないが、もう一人のおかげで比較的に安全に処理ができる。

 まだ飛んでくるミサイルの処理を行っていると、途端に向こうから声をかけられた。

 

「―――お前、誰?」

 

 さっきとは違う雰囲気。同じ機械音声だというのに、どこか冷たい雰囲気を放つ。

 意識と視線を向けると、IS操縦者も驚いているようだ。

 

『今はミサイルの処理に集中したらどうだ? それとも、俺と言う予想外の存在にどう処理をしようかと考えているのか、()()()()

 

 個人間通信を無理やり接続して答えてやる。当然、ミサイルを処理することは忘れない。

 

「何の話だ」

『すべてを知っている、というだけだ。大方、この騒動も篠ノ之が仕組んだことだろう。いくつかの軍施設をハッキングしてミサイルを飛ばし、それをそのIS―――白騎士だったか、ともかくその機体で破壊していき、ISの有能性を示すのが目的か』

『何言ってるの。これは全部偶然起こったことで、私は日本を守るために仕方なくISを出しただけだよ』

『他人に対して極度に見下して関心を持たない奴が何を言う』

 

 ちょっと言い過ぎたか?

 だが、篠ノ之の行動の異常性は教員すら手に焼くほどだ。そんな奴が何か目的を持たないのに自分の作品を出して周りの人を助けるとは思わない。……それに、軍のセキュリティーは驚くほど強固でどれだけ経験を積んだクラッカーだろうが受け付けることはできない。親父が言っていたが、篠ノ之束のレベルはそれぐらいは余裕らしい。

 

(……内心、あの家族も怪しいとは思うがな)

 

 やりかねんとは思うが、信じたいという気持ちはある。

 

(とはいえ、今はこのミサイルをどうにかするしかない、か)

 

 おそらく、しばらくすれば軍関係者が出てくるだろう。そうなったら俺は退避してあの馬鹿どもを探させるつもりだ。

 《トライデント》を振って鎌鼬を精製していると、白騎士の方から何かが飛んできた。それが何かを理解した俺は鼻で笑って挑発し、尋ねる。

 

「どういうつもりだ?」

「…………」

『こちらの通信でなら答えられるか、()()()()

「………何のことだ」

『通信に出るのは二通り。それで、お前は篠ノ之が気を許す唯一の人間だからな。そして、どういうことか篠ノ之は自らの手を汚そうとはしない。弱いか、もしくはパソコンを動かせる代わりに身体能力それらが救いようのない残念系かのどちらかだろう』

『ふざけてるの、お前』

 

 冷気を帯びた声を無視してミサイル群を破壊していくと、妙な違和感を覚える。

 日本に向けて発射できるミサイルには数に限りがある。確か、3000にも満たないはずだが、俺はさっきからそれ以上の数を壊している気がするのだ。

 

『気を付けろ。何かがおかしい』

「何かとは何だ?」

 

 そんな質問を投げられた瞬間、俺は信じられないものを目にした。

 

 ―――空中にミサイルが召喚されている!?

 

 本来ならあり得ない。いや、織斑一族の科学力なら何もないところからミサイルを出すこと自体は問題ではないのか?

 そんな疑問に襲われつつ、俺はミサイルを破壊していく―――が、突然その下にミサイルの反応が現れた。

 

「何!?」

 

 流石の白騎士もそれには驚いたようだ。

 現れたのは俺たちの下方。そしてそのミサイルは―――俺達が破壊していたもののどれよりも早かった。

 追うも間に合わず、引き離していくミサイルはやがてビルに激突し、爆発した。

 

(―――!? そんな……嘘だろ……)

 

 すぐさま俺は見つけたミアちゃん、そしてその近くにいたもう一人に結界を張る。

 崩落による二次災害が起こる。だがそれはやがて緩やかとなり、不自然に小さな穴が開いた。

 

(……ユウ)

 

 ユウ、そしてミアちゃんを発見したことをリアに知らせようと、全身から冷汗が発した。

 嫌な予感がした俺は振り向くと、ミサイルが俺の後ろで爆発した。今までは既に避難が済んでいた場所で破壊していたので特に問題はないが、今は街中。すぐに破片を細切れにして誰もいない場所に流す。

 すぐさまビルの崩落に巻き込まれた人らを助けるため、近寄ろうとした俺はあり得ない現象を見た。

 

 ―――ビルが、無事なのだ

 

(……あり得ない)

 

 おかしい。確かに俺はビルにミサイルがぶつかって壊れる様を見た。だがどういうことだ。ビルはヒビどころか何もない。さっきから、その周辺では人間が逃げ惑っている。

 

 ―――瞬間、俺は重力に引き寄せられた気がした

 

 奇妙な違和感を感じた後に目に入ったのは、色とりどりのレンガのブロック。そして、何やら小さく柔らかい感触が伝わる。

 俺はおそるおそるその感触がする手を見ると、今にも泣きそうな少女が怯えた目で俺を見ていた。

 

「サーバス様?! どうしてここにいるんですか……?」

「ミアちゃんか。ユウはどこに……」

 

 ちょっと待てよ。

 今俺がいる場所は、確かユウがいた場所だ………ということは、まさかユウは「夜叉」の中にいるんじゃないのか?

 瞬間、まるで答え合わせをするかのように強大な黒い気が「夜叉」から放出されはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し前にさかのぼる。

 休みということもあり、ユウは奈々と簪を連れて遊びに行っていた。その後ろではミアや虚が尾行しており、その後ろにはさらに更識の人間が尾行している。

 

「こらこら、あまりはしゃいじゃ危ないわよ」

 

 後ろでは雪音が先に行くユウと奈々を注意する。すると、先導するユウは言うことを聞いたのかゆっくりと移動した。

 

 そんな時だった。

 突然、街に警報が鳴り響く。内容はミサイルが飛んでくるため、至急シェルターに避難しろというものだった。

 

「みんな、こっちよ!」

 

 雪音が簪を抱き上げてその場から移動を始め、ユウと奈々はその後ろに追随した。

 第二次世界大戦後、日本は発展していったが一般人が容易に避難できるほどのシェルターはあまり建設されていない。日本がまた攻められることはないと踏んでのことだろうか、シェルターに避難できるのは一般人用の者では都会に通う人間のおよそ1/10程度だけであった。

 その状況で、ユウは今すぐ飛んで行って逃げようと思った。だが、家からは絶対にそうすることを禁じられている。そしてユウはそれを従うことにした。

 ユウの戦闘能力は高い。バンのみならず、あらゆる鉱物は構わず破壊することができ、自由に飛ぶことができる。だがそれはあくまで「自分のみ」を能力付与をしているから他ならない。それをユウは、この時はまだ気づいていなかった。

 

 ―――それ故に

 

 ミサイルが「夜叉」そして「白騎士」を回避してユウたちが通り過ぎようとしていたビルに向かって飛ぶ。ユウはそれをいち早く気づき、周囲にいる更識の家の者を安全地帯に引き寄せる。そしてミア、虚、雪音、簪を同時に引っ張った。

 

 ―――そして、着弾

 

 剣嗣が見ていた通り、ミサイルが着弾したことでビルは爆散、倒壊する。ユウはその中でも能力を使って生き残った。

 そして彼は、あくまで奈々を―――更識刀奈も助けていると思っていた。

 

 だが、声をかけようと奈々に目を移したユウは、絶望の淵に叩き落とされた。

 

「……何で……」

 

 思わずユウはそう呟く。

 奈々の体には鉄骨が刺さっていたのだ。

 

 ―――嫌だ

 

 ユウは恐る恐る奈々に近付き、手首に触れる。

 普段なら動くはずのその部分は、動いていなかった。

 

「……嫌だ……」

 

 ユウの周りに黒い靄が現れる。靄はまるで主人を気遣う蛇のように辺りを這う。

 

「動いて……動いてよ……奈々!!」

 

 だが叫んでも奈々は動かない。そしてユウは―――

 

 

 ―――こんなの、認めたくない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ユウ君?」

 

 呼ばれた気がしたユウは顔を上げると、目の前には奈々がいた。

 奈々は心配そうな顔でユウを見ていると、ユウはいきなり奈々の頬に触れた。その様子を見ていたミアは奈々に殺気を飛ばすが、ユウは気にせず奈々に抱き着いたのだ。

 

「……殺しましょうか」

 

 そう呟いたミアを虚で止めている時、警報が鳴り響いた。

 ユウはすぐさま上空を見ると、少しして黒と白の機体がミサイルを撃墜し始める。

 

「………ああ、そういうことか」

「ユウ君、逃げよう!」

 

 奈々に催促されてユウはそこから走る。すると、急に立ち止まったユウは今自分がいる場所に目を向けた。

 

「ユウ君!」

 

 奈々はユウの腕を引っ張るが、ユウは動こうとしない。するとあろうことか上空に指を向けたのだ。

 示された先には黒い機体がこっちに向かってきており、奈々は何度もユウにいうがユウは頑なに動こうとしない。

 

「下がれ」

 

 そう呟いたユウ。誰も気づかなかったが、ミサイルはワープして黒い機体―――「夜叉」に当たった。

 

「……奈々」

「ユウ君、早く!」

「……大丈夫」

 

 奈々に笑顔を向けたユウ。そして優しい声色でもう一度奈々を抱きしめて言った。

 

「絶対に、戻ってくるから」

 

 ユウは、あの黒い機体に意識を向ける。すると、ユウの視界から奈々が消えた。

 

 

 

 

 

『剣嗣! 応答しろ、剣嗣!』

 

 視界がぼやけ、はっきりした時、通信機からユウの耳に聞き覚えのある声が届いた。

 

『剣嗣様、応答してください!』

 

 次もまた、ユウが知っている声。それを聞いた瞬間、ユウは確信した。

 

「―――やっぱり、ここに剣嗣兄さんがいたんだね」

『!? どうした悠真が―――』

「わからないよ。でも、今はどうでもいい」

 

 そう言ってユウは()()()()()に飛ぶ。

 ユウの視界にもう一つの機体が入ると、機械音声が話しかけてきた。

 

『どこに行っていた。やる気がないなら最初から―――』

 

 だが、ユウは無視して笑みを浮かべてミサイル群に突っ込んだ。

 

『何をやっている! そんなことをしたら破片が街に―――』

「うるさいんだよ、雑種」

『何!?』

 

 両手首から大剣級の刃が現れ、素早い動きでミサイルを破壊していく。何基かを撃ち漏らしたようで、それに気付いた白騎士はすぐさま荷電粒子砲を起動しようとしたが、すぐに戻ったユウの手で破壊された。

 

(……操縦者が変わったのか?)

 

 白騎士はすぐに行動するが、ユウは器用に刃を伸ばして破壊しっていった。そして―――すぐにターゲットを切り替える。

 

 ―――ガッ!!

 

「何をする!?」

「いや、たださっき俗物の分際で命令してきた気がするから、命を取ると行かずとも、人としての機能を壊しておこうと思っただけだよ」

 

 平然と言ったユウは「夜叉」の後ろで黒い球体を精製。そしてそれからいくつもの柔軟な針を白騎士に飛ばす。

 

『ちーちゃん、危ない!』

「―――クッ!」

 

 ダメージを受けながらも攻撃から脱出する。

 

「―――は? ふざけるなよ」

 

 急にユウはそんな言葉を放ち、右手を右耳に当てる。

 

「……わかったよ」

 

 何かに答えるように言ったユウは自分の足元に黒い靄を出し、消えた。

 その姿を見た白騎士は声を漏らす。

 

「……何だったんだ、一体」

『わからない。それよりも何か来るよ、ちーちゃん。ステルス機能は無事?』

「大丈夫なようだ」

 

 そう答えた白騎士は周囲から視認されないようにし、その場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――現代

 

 IS学園の現在の防衛可能人数はかなり減っていた。悠夜の暴走によって大半の機体が中破から大破であり、小破のものはわずか1機。大半のものが修復されておらず、学園にいる生徒たちに着ける防衛はISでは1機もないのだ。

 

「早く校舎に戻りなさい」

「わ、わかりました」

 

 菊代に言われて戻る生徒たち。彼女の目の前では十蔵が、そして黒ずくめの男たちが銃器を構えて戦っていた。

 

「くそ、埒が明かない。アレを使うぞ」

「良いのか? アレはまだ試作段階のはずだが―――」

「データ取にはちょうどいいだろ」

 

 そう言って男がカプセルのようなものを出して宙に放り出す。十蔵は警戒すると、カプセルから化け物が現れた。

 

「………気持ち悪いですね」

 

 十蔵の言葉に内心菊代は同意する。気持ち悪いと言われた化け物は十蔵がいる場所に腕を向けると伸び、攻撃した。




ちなみに化け物の元ネタは、美人らしいアフロに付き従う元人間4体です。

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