それにしても、最近ポケモン関係が凄い騒ぎですね~。私は既にムーンを予約してきましたよ~。
自分で言うのもなんだが、俺は苦労人だ。
自分勝手に振舞う祖母に両親、さらに弟で位的には第二王子なのに第一王位継承権を持つユウ。日頃から文献を読み漁っているレイ。まともなのは無邪気な暁ことキョウだけという不思議な家族なうえ、二人の女の監視に最近従者の様子がおかしいし。ともかく平穏が欲しい。
だけど平穏なんて訪れない。少なくとも、今の状態ではまず無理か。
「相変わらずじゃのう、貴様は」
「そっちこそ。相変わらず成長していないようですわね」
俺はクラウドさんを見ると、どうやら彼も同じ気持ちらしい。本当、うちの家族がすみません。
ちなみに彼と今祖母の陽子と彼女の直属の部下であったはずのスコール・ミューゼルは今となっては犬猿の仲だ。元々二人は仲が良く、神樹国崩壊後も交流していたはずなのだが、陽子が突然祖父と駆け落ちしたことが原因らしい。ミューゼルは何故か血のことを強くこだわる節があったこともそうだが、どうやら祖母の独断が続いたことで、裏切り者の織斑一族と手を組んだそうだ。
今となっては過ぎたことでもあったのと、何よりも親父という高個体の存在があるため譲歩しているようだが、それでも何度かいがみ合ってはいるようだ。いや、今すらガチで殺し合おうとしている辺り、もう修復は不可能かもしれない。
俺とクラウドさんで二人を止め、なんとか会議を始める。
■■■
「ねぇ、良かったら一緒に遊ばない?」
背中に妹を背負い、弟の手を引きながら廊下で待たされたユウは偶然会った金髪の少女に声をかける。彼女は「レイン・ミューゼル」で、あのミューゼルの末子であることに考えを至らなかったユウは平然と声をかけたのである。
「何だよ、お前」
「僕はユウ。何故かこんなところに連れてこられたけどさ、正直何がどうなっているのかわからないんだ。良かった教えてくれない?」
「せっかく奈々と遊んでたのに」と最後に付け足すユウは、まだ名乗らないレインに手を伸ばしたが彼女はそれを払いのけた。
「馬鹿じゃねぇの? 何でアタシがお前みたいな雑魚と慣れあわなくちゃいけないんだよ」
「だってみんなで遊んだ方が楽しいじゃん」
「とんだ馬鹿だな、お前は。いいか? 今日のこの会議だって、お互いの立場の確認ってやつをしに来ただけ! 別にアタシらが慣れあったところで無意味なんだよ! 大体、アタシとお前の上の奴らは不仲なんだぜ?」
怒鳴るレインに対してユウは頭上で疑問を浮かばせる。
「何で不仲なの?」
「何も知らねえみたいだな。いいか、アタシの家はお前らの親とかが迷惑かけたから愛想つかして出てったんだよ!」
「………へぇ」
どうやら納得したらしいユウは言葉を返す。
「でもそれって、僕らには関係ないよね?」
「え!?」
意外そうな顔をするレインに、ユウは続けた。
「だって、そんなのは所詮大人の因縁でしょ。いくら自分より早く生まれたからって、変な因縁を子どもたちにまで引き継がせるのも正直どうかと思うんだけどなぁ」
本人は悪気はないようで、あっけらかんに答えたユウはぼそりと本音を漏らす。
「というかごめん。ちょっと面倒見てくれると嬉しい」
「良いこと言っておいて本音はそれかぁ!!」
すかさず大声で突っ込むレイン。それを楽しむ暁はユウの背中で暴れ、レイはジト目でレインを見ていた。
「ユウ様! ようやく見つけ―――って、どうしましたか? もしかして、スパイ?」
「やばっ、見つかった―――」
「ねぇ、ボク本読みたいから椅子座っていい?」
「にいに、にいに」
レイの手を離したユウはそのまま逃げだそうとするが、ミアが素早くユウの前に立つと、レインに平手を見せて力を手に集中させる。
「ユウ様、この人は危険です」
「なんだよ、やる気か?」
レインも警戒すると、ユウはレイに暁を渡して二人の間に入る。
「ストップだよ、ミア」
「ですが、この女は敵です!」
「例えそうだとしても、いざとなれば僕がなんとかするから」
そう言ったユウはレインの方を向くと、同時にドアが開く。中からは会議に出席していたリアが姿を現した。
「レイ様、ティア、剣嗣様がお呼びです。来ていただけませんか?」
連れてこられていた二人は返事せず、大人しくリアの所に行く。
二人を中に連れて行こうするリア。その前にと言わんばかりにレインとミアの方を向いて言った。
「わだかまりがあるのであまり騒ぐなとは言いませんが、喧嘩は止めてくださいね」
そう言って二人を連れて中へと消えるリア。二人は何も言わずに黙り込むが、ユウは首を捻ってかけてくる暁を受け止めた。
■■■
面倒なことになった。
先程までミューゼル家と話し合いをしていたが、和解の条件の中に「王族の者を一人、亡国機業に派遣する」とスコールは言い始めたのだ。クラウドさんもそれに関しては了承していたようで、ガンヘルドの夫婦二人はもちろん、俺と祖母も了承しなかった―――のだが、
「別に構わない」
なんと親父がそんなことを言ったのだ。
本当にこの家に生まれたことを後悔している。できるなら誰かに代わってもらいたいくらいだ。
「が、条件を付け足させてもらおう。一つ、ティアちゃんには一切の殺しをさせない。二つ、ティアちゃんの生存だけは絶対的に保証してもらう。そして最後、二人とは自由に会うことを許す」
「いいわ。だけど、最後の場合はちょっと承服できないわね。任務によっては長時間身を隠さないといけないし」
「………仕方ないね。じゃあ、任務外の時は自由に合わせる許可を出すようにしてもらおうか」
レイのことが全く触れられていないことに突っ込むべきだろうか?
「ねぇ、サーバス兄さん。二人は一体何の話をしているの?」
「…………」
俺の口から言いたくはない。というか、言えるわけがない。
普通、家族を裏の世界に渡すか? 悪いけど俺にはそんなことはできな―――
「もしかして、今よりも面白いところ?」
「それはない。だから、悪いがあなたたちの言うことに従うことはできない」
俺はミューゼルに向けてそう言った。
「契約を反故にする気?」
「当たり前だ。よりによって何も知らない子どもを裏の世界に入れることなんてできるか」
「だからこそ、よ。子供なら、裏の世界にでもすぐに馴染むことができる」
「だったら、俺を引き入れれば良いだろう」
「あなたはもう育ちすぎたわ。そして、表の常識を身につけすぎた」
………仕方ないか。
俺は四神剣〈風雷〉に手をかけようとすると、レイが手を出して止めた。
「いいよ。ボクが行く」
「レイ、止すんじゃ。お主が行こうとしている世界は甘くない」
おばあちゃんが珍しく静止するが、レイは言葉を続けた。
「でも、誰かが行かないといけないんだよね? ユウ兄さんは更識姉妹と離れることになるから駄々をこねるだろうし、キョウはまだ幼いし、さっきそこのおばさ………ババアが言っていた通り、サーバス兄さんは無理っぽいし」
わざわざ言い直したレイ。お祖母ちゃんと父さんは同時に噴き、俺らはあまりのことに呆気にとられた。そしてスコールはわざわざ突っ込む。
「レイ君。どうして言い直した理由を教えてもらえないかな?」
「ボクの見立てだと、おばさんは見た目の倍は生きていると思ったからかな。どう見ても僕の少し上程度にしか見えないおばあちゃんと対等に話しているし、それなりの年齢だと思う」
「どうだ」と威張るようにレイは胸を張る。しかし彼は褒められることはなく、スコールを煽っただけに終わった。
「ところで、サーバス兄さん。さっきの条件って飲んでもらえるの?」
「レイ」
「当然飲むわ」
何かを言おうとした俺を遮るようにスコールが言った。こめかみに血管が浮き出ているが、対応は普通だった。
「じゃあ、もう一つ付け足してもらっていい?」
「……何かしら?」
「僕らには、ふんだんに金を使ってほしいんだ。って言っても流石に使用用途は知らせるけどね。僕ら二人を迎えるって言うならそれくらいはしてくれるよね」
「…………いいわ。その代わり、ちゃんと使用用途は明示してね」
「わかった」
レイはガンヘルドの二人の方に移動し、ティアを抱えるように持って言った。
「ということで、悪いけどティアは借りていくね」
「……それが、我々ガンヘルドの務めですから」
できるだけ平静を装ってそう答えるガンヘルド家の当主。レイは一瞬表情を崩して本性を見せるが、それも一瞬のことですぐに笑顔に戻す。
だが俺は納得できていない。なんとか諭そうとすると、親父が俺の肩を持って止める。
「さて、今回はこれでお開き―――」
スコールが口を開けて言ったその時、俺たちがいる場所が突然揺れる。
俺はすぐさま戦闘態勢に入ると、さっきよりも激しい揺れが豪華絢爛な会場を襲った。
■■■
彼らが現れたのは一瞬だった。
突然窓が割れ、特殊部隊を思わせる黒ずくめの装備をした彼らは乗り込んですぐさま廊下にいたユウたち3人を囲う。
「ねぇ、君たち誰―――」
ユウは構わず話しかけたが、黒ずくめの男たちは銃を向けて黙らせる。だが、そこからも一瞬だった。
全員が力なく倒れ込む。意識を失わったわけではない。ただ、その場に伏せさせられたのだ。
「―――図が高いぞ、雑種」
さっきまでの無邪気さはどこに行ったのだろうか。
本当に子どもかと疑問を抱かせる程の威圧感を出したユウは男たちを彼の能力である重力で抑えつけたのである。
すると援軍か、別の場所から同様の格好をした者たちが現れる。ユウはつまらなさそうに腕を横に振ると、援軍を壁に叩きつける。
「ねぇ、その程度なの? 君たち大人は」
目の前で倒れている、先程ユウに銃を向けた男に対して尋ねた少年。その問い答えるようにヘリコプターが現れ、下部に設置されたガトリングがユウたちに照準を向けた。
すると主の手を離れた武器が宙に浮き始め、ナイフは窓を割って飛び、銃は火を噴いてヘリコプターに攻撃した。
「ミア、今は敵味方関係なく僕の後ろに移動させて。そっちの方が楽だから」
「わかりました。暁様、私から離れないで」
「はーい」
惨状を楽しみ、元気よく返事する暁。ミアは今度はレインを見て手を伸ばした。
「何だよ?」
「あなたも早くこっちに来なさい。危ないわよ」
「侮るな。これくらい、アタシだって―――」
「いや、単にユウ様の邪魔だから」
無慈悲に言ったミア。ユウはまるで部隊を率いる歴戦の隊長のようにヘリコプターを見据えて言った。
「―――つまらない」
馬鹿にするように、心からそう愚痴を溢す。どこか寂しそうに言葉を溢したユウは、瞳をうるわせ、そして見下し、ヘリコプターを完全に空中に停止させた。
「何の用かは知らないけど、僕に喧嘩を売るなら相応の実力を付けてから来てよ」
そう言って壁や床に張り付けた黒ずくめをヘリに引っ付けさせ、ヘリは彼らを引っ付けたままどこかへと飛んで行った。
すべてが終わった時、会議室のドアが開かれる。
―――現在
轡木朱音はその惨状に戸惑っていた。
放課後になったのを見計らってIS学園の制服を着用し、怪しまれないようにボストンバッグを持ってユウの部屋に訪れた彼女は、悠夜以外の先客がいたことに驚いていた。何度か見舞いに来ている彼女は最初はミアが裸で寝ていたことにも驚いたのはもちろんだが、何よりも自分を遥に凌ぐ巨乳に気絶しそうになったこともあるが、それ以上に今は彼女を驚かせている。
「ほ、本音ちゃん……?」
まるで犬猫のように悠夜の傍らに丸まって寝る知り合いの姿に唖然とする朱音。何故なら朱音は生徒会が悠夜やこの前のことでの対応に追われ、さらに楯無が不在という最悪な事態に陥っているのである。生徒会役員は問答無用で呼び出されているはずなのだが、その一人である本音は今も寝息を立てていた。
(……まぁいいや)
本来いるはずのミアがいないことも気にせず、朱音は洗面所に入って手洗いとうがいをして悠夜の隣に横たわった。場所は少しずれ、黒鋼の待機状態である黒曜石の指輪を中指にはめる。
―――その時だった
急に城が揺れ、朱音はベッドから放り出された。その音で目を覚ましたのか揺れで起きたのかはわからないが、本音が顔を上げて周りを見回し、うつ伏せで痛さに呻いている朱音を見つける。
「あかにゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
弱々しくそう返事した朱音は起き上がる。
「ねぇ、今の―――」
「たぶん攻撃されたと思う」
すると朱音は自分の腰から通信ケーブルを出して悠夜に返したばかりの指輪に差す。彼女の顔が段々と険しくなり、本音に言った。
「……なんか、またIS学園の方で何かあったみたい」
「―――それに関しては大丈夫よ」
突然の声に二人は入り口の方を見る。彼女らにとっての普段とは違ってちゃんと私服を着ているミアの姿を驚くも、顔に出さないようにする。
「さっきドロシーから聞いたけど、どうやら何かが当たったみたいね。おそらくどこかの戦闘部隊でしょう」
「そんなところが、何かにぶつけるなんて真似はしないと思うけど……」
本音の意見にミアは何かを思ったのか、ドロシーに連絡を入れる。
「ドロシー、念のために風鋼を用意しておいて」
『わかりやしたー!』
通信機の向こうから機械と思えないほどのボイスで返事をするドロシー。ミアは本音と朱音に向き直って行った。
「今からここは戦場になるわ。あなたたちはここから動かないで」
「うん。でも、ここの防御は大丈夫?」
「そこは問題ないわ。元々戦艦だし」
そう言ったミアは部屋を出て行く。ドアが閉まると、本音と朱音は偶然か、声を揃えて言った。
「「……戦艦?」」
その頃、専用機持ちたちは地下へと集められていた。ちなみに、今学園にいてまともに動けるのは一夏を除いた1年生のみで、楯無は自身の病室でアンドロイドに固定されているため、向かうことはできなかった。固定方法はかなり本物で、手首、足首総計4本が鋼鉄の重石で固定されている状態である。その状況をミアから聞いた簪はすぐに千冬に伝えていた。
「現在、IS学園ではすべてのシステムがダウンしています。これはなんらかの電子的攻撃……つまり、ハッキングを受けているものだと断定します」
真耶の説明に全員が戦慄を走らせるが、簪だけが一人疑問を抱いていた。
(……篠ノ之博士は死んでいるはず。あの人たちならこんな攻撃じゃなくても、直接殴れば陥落するはずなのに……)
あの場にいた簪はただ一人、束が殺されたことを知っている。だがそれを伝えているのは千冬のみであり、他には誰にも知らせていないはずだ。知らされていたら、一夏か箒のどちらかが簪に迫っているか悠夜の所へと向かっているはずだからだ。
思考を巡らせる簪の隣にいるラウラは挙手して質問した。
「IS学園は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それがハッキングされることなどあり得るのでしょうか?」
「そ、それは……」
返答に困る真耶。その様子を見ていた千冬は話を進めるために厳しい口調で言った。
「今はそれは問題ではない。問題は、現在なんらかの攻撃を受けているということだ」
「敵の目的は?」
「それはわかれば苦労はしない」
内心、「束ならば」と思う千冬だが、篠ノ之束は既に死んでいる。それを知っているからこそ千冬も簪と同じ結論に達しているが、その相手が攻撃するにはあまりにも謎が多すぎる。
そして、彼女らにハッキングに対する対抗策を知らされる。それは―――電脳ダイブというものだった。