IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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大変長らくお待たせしました。ちょっとリアルが立て込んでて中々書き上げることができませんでした。


#139 対策は必要ではある

 あの騒動の次の日、更識家の壊された入り口は謎の科学力によって修復されていたが、慣れているのか茂樹も雪音も驚かなかった。

 

「いやぁ、まさかあの子がセキュリティをすべて壊してるなんてね。ごめんごめん」

「まったくだ」

 

 半ばイラつきながらそう答える茂樹に対し、修吾は笑いながら尋ねた。

 

「ところで、清太郎君はどこだい?」

「………お前、殺されたいか?」

「君たちが殺そうとしたところで僕に勝てないのは知ってるよね?」

 

 笑みを浮かべながら馬鹿にするように言う修吾だが、茂樹はため息を溢すだけに留める。

 自分の当主に対する侮辱とも取れるその言葉を聞けば従者たちは間違いなく切れるだろうが、事を荒立たせたところで茂樹は自分も含めて修吾に……修吾だけじゃなく、彼の家族にすら勝てることはできないと理解していた。茂樹も使えることは使えるが、それでも修吾のみの相手すらできないだろう。それほどこの二人の差は開いていた。

 

「………で、今日は息子は置いてきたのか?」

「もちろん連れてきたよ」

「そうか……ちょっと待て、連れてきた!?」

「さっき急いでどこかに行っていたけどね」

 

 嫌な予感がして立ち上がる茂樹を修吾はなだめる。

 

「落ち着きなよ」

「昨日のアレを見て落ち着いてられるほど、生憎肝は据わってない!」

「まぁ、君たちみたいに普通に生きていれば動揺はするだろうけど、仮にも僕の息子だからその辺りは大丈―――」

「お前の息子だからだ!」

「……確かに遠慮はないけどさ。それでも大丈夫だよ。昨日のことはミアちゃんに聞いたし、少なくとも君が想像していることにはならないと思うけど」

 

 

 

 

 

 実際、修吾の予想は当たっていた。

 ユウは屋敷に忍び込み、ある人物を探しているのである。彼の右側には苦無が刺さっており、実はさっきまで殺されかけていたのだ。しかも、気配を察知したという理由で。

 

「ど、どうしたの……?」

 

 近くでは刀奈の声がしたので飛び出して抱き着きたい衝動にかられたユウだが、なんとか抑えて目的の人物を探すが、更識の家は小学生には広いと感じられるほどであり、普通に探すのは中々骨のようだ。

 

(一体どこにいるんだろ……)

 

 そう思った瞬間、彼の耳に何かが連打される音が聞こえる。ユウはばれないように音がする場所を覗くと、暗い部屋で一心不乱にコントローラーで何かを操作する簪がいた。

 その姿を見てユウは呆然とする。ちょうどゲームが終わったのか一息ついたらしい簪と目が合った。

 

「…あ………あの……」

 

 昨日のことを思い出した簪は震え始めるが、それよりも先にユウが中に入り、簪の口を塞いだ。

 

「しー」

 

 自分の顔の前で人差し指を立てて黙らせるも、簪は既に涙目。ユウは素早く作ってきていた物を簪に乗せた。

 簪は視線を上にすると、上から白い花びらが落ちてくる。

 

「昨日は驚かせちゃってごめんね。ってことで、お花の冠を作って来たんだ」

「………」

 

 簪は鼻冠を手に取る。雑だが一生懸命さが伝わってきて、どこか幸福的な気持ちになった。

 

「……ありがとう」

「いえいえ。……そういえば、このゲームって何?」

 

 ユウが視線を移動させ、さっきから自動的に4人のキャラクターが戦っている―――所謂デモプレイというものが展開されていた。

 簪は「知らないの?」と言いたげにユウを見ると、悠夜は頷いた。

 

「アクションゲームはちょっと苦手なんだ。僕の反応速度にコントローラーが付いてこれなくてさ、3個くらい壊した」

 

 おそらく「アクションゲームが苦手」という人間なんて五万といるが、3個もお釈迦にしたのはユウぐらいだろう。ちなみにユウが言っているのは正方形のアレだが、そのコントローラーはスティック部分が根元で折れていたたりする。

 

「……じゃあ、これをする?」

 

 そう言って簪はカート系のゲームパッケージを見せると、ユウは「やろう」と言ってすぐに行動に出るのだった。

 

 

 

 

 その頃、茂樹はユウの姿を探していた。その後ろには修吾もおり、呆れを見せながら追いて来ている。

 

「ねぇ茂樹、もう諦めたら?」

「できるか! 仮にもお前の息子だぞ。万が一ということもある」

「いや、ユウの場合はその心配から」

 

 そう突っ込むが、茂樹は聞く耳を持たず捜索を続ける。それもそうだ。何故なら修吾は過去に裏組織の抗争に勝手に乱入した挙句、「手加減しろ」という無視して相手の屋敷を木っ端微塵に素手で破壊したのだ。「手加減したけど相手の家が脆いんだよ」と修吾は行ったが、茂樹にはそんなことはどうでもよかった。

 

「どうしましたか、17代目」

 

 茂樹らの下から可愛らしい声がする。奈々を引き連れた虚が慌ただしい様子の茂樹に声をかけたのだ。

 

「虚君か。君はすぐに安全な場所に避難をしなさい」

「いやいや、だからそこまで危険じゃなって!」

「まさか、昨日の鼠ですか?」

「そうだ」

「そろそろ僕も怒っていい? 怒っていいよね?」

 

 奈々はそう言いつつも笑顔でいる修吾に頭を下げる。

 

「私も同行してもよろしいでしょうか?」

 

 虚がそう提案するとすぐに茂樹は首を横に振った。

 

「ダメだ。万が一ということもある」

「いや、あのね。いくら僕という前例があるからってユウも同じだって思わない方が―――というかそもそもその子が生きている方がおかしいと思うけど?!」

 

 素早く突っ込む修吾を無視する2人。奈々だけは同情していると、彼女の耳に聞き覚えがある音が届く。

 ほんの少し襖を開けると、クラスメイトと自分の妹が暗い中で一心不乱にコントローラーを操作していた。

 

「か、簪ちゃん!?」

 

 大声を上げる奈々。それもそのはず、彼女の目に映っている光景が信じられなかったのである。ユウが自分を含めて誰とでも仲良くできる人間であり、簪のことを気に入っていることは知っていたが、まさか人見知りが激しい簪がコントローラーを渡して協力プレイをしているとは思わなかったのである。

 

「簪!? 一体何を―――その冠は何だ?」

 

 だが誰もその質問に答えることはない。

 本当は修吾は知っていたが、黙っている方が良いと判断したし、知っている2人は簪が運転を、ユウが砲撃をして全国にいるライバルを蹴散らしているからである。

 やがてトップでゴールした2人はハイタッチをすると、簪はマズい何かを見た顔をしてユウは後ろを向くと軽く会釈する。

 すると奈々はすぐさまユウの元に移動して自分の引き寄せる。すると簪はユウの方に近付いて行った。

 それを見た茂樹は目眩がして倒れそうになり、修吾に受け止められる。

 

「……そんな……簪様がああも簡単に他人に心を開くなんて……」

「どっちかって言うとそっちに驚いているんだ……」

 

 虚の言葉に修吾は突っ込みを入れると、邪魔者は不要と言わんばかりに茂樹を引きずって虚をその場から移動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬が初めて剣嗣と出会ったのはいつだったか覚えていない。だが、気が付けばいたという関係だった。

 

「お前も、遊びに行く相手がいないのか?」

 

 一人でいる剣嗣に話しかけた千冬。あの時はただ、「一人寂しく本を読んでいる男子」というぐらいだった。

 

「……いや、一人で本を読んでいる方が楽なんだよ」

 

 そう言って剣嗣は本を読み続ける。どんな本を読んでいるのか気になった千冬は後ろから確認すると、いかがわしい雰囲気の絵が描かれていた。

 

「き、貴様、そのような本を読んでいるなど、破廉恥だぞ?!」

「この絵は主人公とプールに行ったヒロインの一人がたまたまこけただけだ。こうやって角度を付けてエロく見せることで、思春期真っ盛りの男性を刺激し、次回も内心そう言った描写を期待して買わせる。そんな商法だよ。それに、破廉恥って言ってもこの小説じゃそんな描写なんてむしろ少ないがな」

「………そうなのか?」

「今これは4巻なんだが、2巻では他国の首脳の一人を説得してもう一人の方のヒロインを形的には助ける頭脳派だし、3巻では敵のほとんどの撃退をしているハイスペック人間だ。これくらいの褒美をもらったところで、彼がここまで歩んできた悲惨なことを考えれば足りないくらいだろ」

 

 淡々と述べる剣嗣。だが千冬はその言葉の半分もわからず頭を抱えていると、別の児童が声をかけてきた。

 

「ねぇねぇ、織斑さん。そんな奴を放っておいて遊ぼうよ」

「そうだよ。変態が移ったら大変だしさ」

「………変態?」

 

 剣嗣は男子児童の言葉に反応すると、男子児童は言葉を続けた。

 

「だってそうだろ? そんな絵がある本を好んで読むなんてよっぽど変態じゃないと―――」

「だとしたら、俺はお前らより成長が早いと言えるな」

 

 勝ち誇ったような笑みを浮かべて剣嗣は立ち上がる。

 

「知らないようだから教えてやるよ。人間を含むすべての生物はいずれそう言うものに興味を持つ。認めたくないだろうが、子孫を残す以上そういうことだ。だからお前ら先に変態に成長した俺に対して敬意を払え」

 

 後から考えれば十分に恥ずかしい言葉だが、その時の千冬は何故か剣嗣に対して奇怪な感情を抱き始める。それから数日後、彼女は剣嗣が一つ下の少女と仲良く下校する姿を見て自覚したのだ。これは恋かもしれない、と。

 

「……束、一つ聞いていいか?」

 

 これまで千冬は束にこの気持ちを告白したことはない。そしてそれはこのままのつもりだが、今彼女には突然呼び出されて現状を戸惑っていた。

 

 ―――束が、涙を流していたのである

 

「何があった」

「昨日ね、ようやくできた私のISのことを説明に行ったの。だけどあいつら! まったく束さんのことを信じるどころか、嘲笑ったんだよ?!」

「………」

 

 近い内に発表しに行くと聞いていた千冬だが、まさか本気だったとは思わなかったのである。

 そしてなんとなく、束が何を言われたか理解した千冬は束の肩に手を置いて言った。

 

「束。やっぱり今は止めておかないか?」

「……どうして?」

「束は確かに天才だ。ISのシステムといい、こんなものは素人の私でもわかるくらい今の技術では実現は不可能だ。だが、お前にはある物が足りない」

「何?」

「資格だ。もしくは、束が天才だと証明するものだ。今までISの開発ばかりでそっちにも目を向けていなかっただろう? この際、そういうのにも手を出してはどうだ?」

 

 そうすれば、束が天才だと証明できるかもしれない。強いては、彼女が心血を注いできた「インフィニット・ストラトス」の存在が認められるだろう。

 そう思った千冬は勧めると、束は驚いた顔をしてマジマジと千冬を見た。

 

「……何だ?」

「いや、そう言えば一人だけ私に興味を持った奴がいてさ、そいつも同じようなことを言ってたなぁって」

「気を付けろ。それは絶対にお前の技術が目的ではない」

 

 束は15歳には不釣り合いなグラマーな体型をしている。しかも、どういう構造なのか千冬が知る限りあまり運動している風には見えないがくびれがキッチリとできている。自分もそれなりのプロポーションを持っていると思っているが、彼女の幼馴染はそれを超えていた。

 

「? そうなの?」

「ああ。そうだ」

 

 実際、修吾は束に対してそんな目で見たことはないが会ったことがない千冬にとっては知らないことだ。

 だが束は話し半分で聞いており、内心では別のことを考えていた。

 

 ―――証明するもの

 

 さっきから、束の中でそれが反復される。

 まさか千冬は思っていなかっただろう。この言葉が後にあんな事件を起こすことになるとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の夜。そろそろ亡国機業と会談の日が差し迫っているので準備をしないといけないと言うのに、その準備をしていた俺は母親に呼び出されていた。

 俺の母親「風間」……もとい「桂木遥」は科学者だ。元々ガンヘルドの血を引いているらしいので、本来なら規則「四元属家は「全属家から最低一人ずつ囲わない限り」王族と結ばれてはいけない」が働いて結婚できなかったはずなのだが、雑民の出ということもあって婚姻が認められた。

 実のところ、こういう形での結婚は昔からあるらしいが、所謂外様的な立ち位置なので発言権は皆無である。それを利用してか、母親は好き勝手なことをしているが。

 

「………一つ聞いていいか?」

「? 何かあるかい?」

「ああ、あるね。……で、どうしてこれを開発した?!」

 

 思わず大声を出してしまう。何故なら、俺の目の前には鎧のようだが背部にはブースターが備えられている、所謂パワードスーツみたいなものが置かれているからだ。

 

「いやぁ、あったら何かと便利―――」

「いいか馬鹿母。そもそも俺たち王族が没落気味なのはアンタら大人が好き勝手したから…つまり、自業自得だ。そこから何か学ぼうとは思わなかったのか!」

「だって私は発言ないし……」

「その結果、一方的に責められる可能性も考えなかったのか……」

 

 とはいえ、この女は元々織斑側の人間だ。俺たちがいる今裏切るということはほとんどないと言っていいかもしれないが、それでも念には念を入れておいた方が良いだろう。

 

「でも、インフィニット・ストラトスだっけ? それが発表された今、備えられることは備えておいた方が良いんじゃない?」

 

 言われてみればそうだが、だからと言って何もこれを作る必要はない。

 俺ら4兄弟は炎、水、地、風と得意分野があるが、あくまで得意分野であって何も一つしか使えないわけではない。俺は風を操るのが得意だが、炎や地はあまり得意じゃない。そしてユウは地が一番得意だが他の属性をほとんど遜色なく使える。この辺りは出生順による調整もあるらしいが、今まで科学を発展させても万能的に能力を使ってきた王族を調べるわけにはいかなかったらしいから、あまり研究が進んでいないようだ。

 とはいえ、確かに母親の言う通り対策はしておいた方が良いとはいえ、いくら何でも西洋と和洋が合体したような甲冑なんて必要あるのか甚だ疑問ではあるが。

 

「一つ良いことを教えてあげるわ。科学者という生き物は自分の発表を否定されたら、何が何でも見返したい生き物よ。あなただって篠ノ之束を伊達に観察しているわけではないでしょう?」

「…………」

 

 心当たりがありすぎる。

 篠ノ之束という女は、周りの人間を見下している。認めているのは精々織斑千冬とその弟妹、そして自分の妹の篠ノ之箒ぐらいだろう。それが格下でしかない奴らに一方的に否定されれば見返したいと思えば可愛い方かもしれない。

 それに言ってはなんだが、この甲冑みたいなのは身を隠すと言う一点に関して言えば最適といえば最適なのだ。悔しいことにな。

 

「……で、これを俺に使えと?」

「ええ。安心して。スペックはあなたが十二分に戦えるほどに調整してあるわ。そして、あなたの能力もフルに発揮できるように機構を改造してあるの」

「……最初から俺用ってことか」

「ちなみに、これを後4機は作るつもりよ。最初からそのつもりだったし」

「最初から? ってか、4機って……確かISは1機だけでも十分1国を制圧できるって話なんじゃ―――」

「あら? 誰がISを開発したって言ったかしら?」

 

 盛大に嫌な予感がする。

 

「開発案が被るなんて今では日常茶飯事。私だって同じようなものを開発していたわよ。でも、発表したら流石に世界が荒れる。でも幸いなことに「似たようなものを作ったよ」と言って見せびらかせても問題ない機体が先に発表されて、あなたが勝てば万々歳ってことよ」

 

 世界の実権を握る気か、アンタは。

 わざとらしく大きなため息を溢して敢えて言ってやった。

 

「頼むから、俺が許可するまでこいつは発表しないでくれ」

「大丈夫、大丈夫」

 

 そう言うが心配だ。何かのはずみと見せかけて盛大に発表するかもしれない。

 

(……監視カメラ、増やそうかな)

 

 そんなことを思いながら、俺は目の前の甲冑に触れたのだった。




ということで、簪とユウの仲直り回、そして剣嗣の胃がキリキリする回でした。

簪の割にはユウとの仲直りが早いとか、言ってはいけない。

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