IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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ということで、第8章開幕です。


第8章 世界分離-ワールド・トラベル-
#136 とんでも小学生、無双する


 その小学校の今期入学生の頭髪異色率は比較的高い方だった。

 だが、所詮は子供。親からの報告から、その子供たちの地毛がその色だから、先祖に外の人間の血があるだろうと教員たちは思っていたのだが、まさかそれが原因で問題が発生するなんて思っていなかったのだ。

 

「いや、やめて!」

 

 8時も15分が過ぎた頃、教室内に女子児童が嫌がる姿があった。男子児童の一人が色が違う髪という理由で雑巾で拭いているのだ。

 周りにいる他の男子児童もそれを見て囃し立てる。もっとやれなど、誰も助ける気配は見えない。それもそのはず、その男子児童はクラスのガキ大将のような存在だったからだ。

 

 ―――もっとも、彼の天下はすぐに終わるが

 

 18分になると、ドアが開いて銀髪金眼の男子児童が入ってくるが、他のものは青髪紅眼の少女を虐めるのに夢中で気付いていない。

 男子児童の中で唯一そんな特異な容姿を持つ男の子はランドセルを自分の机に置くと、汚れて誰も使わない雑巾を手に取って水道から水を出さずに水を含ませ、少女を虐める男子の髪に引っかけた。

 

「まってろ。今、ちゃんと落としてやるからな」

「う、うわぁあああああ!?」

 

 突然そんなことをされた男子児童は情けない声を上げる。

 それでようやく、周りも特異な男子がいることに気付いた。

 

「ちょ、動くなよ。髪の毛についている汚れを落としているんだから」

「や、止めろ! 汚いだろ!」

 

 さっきまで自分のしていたことを棚に上げて、特異な男子に叫ぶ。

 

「大丈夫。まつふさくんの髪の毛も汚いから」

「ぎゃあああああ!!」

 

 「まつふさ」と呼ばれた児童は叫び、抵抗するが特異な男子はまったく動じず雑巾で彼の髪の毛を洗う。

 少しすると特異な男子は「まつふさ」から離れて雑巾を洗うためか一度廊下に出る。それを確認した「まつふさ」は半泣きの状態で特異な男子の机に向かった。

 

「ねぇ、何をしようとしているの?」

 

 「まつふさ」は動きを止めた。何故なら、さっき出て行ったばかりの特異な男子の声をしたからである。

 

「ど、どうして……」

「石鹸を取りにきたんだよ。って、ここにもあるんだけどね」

 

 特異な男子の手には泡が付いていて、男子は蛇口を捻って水を出し、泡を落として水を止める。

 

「ふざけんなよ。お前、俺の親を怒らせたらどうなるかわかってるのか?」

「君の親が死ぬ。それだけだよ」

 

 事もなげに答える特異な男子。すると、緑色の髪に青い瞳を持つ女子が特異な男子に話かけた。

 

「ユウさま、あの子ですか?」

「うん。お願いね、ミア」

「わかりました」

 

 ミアはさっきまで虐められて今も泣いている女の子の手をつなぎ、教室から出て行く。

 

「絶対にゆるさねえ! 覚悟しろ!」

「同級生が天国に行くことになることを?」

「お前が死ぬ覚悟だ!」

 

 そう言って「まつふさ」は椅子を持つと、ユウに向かって突進した。

 だがユウはことも無げに椅子を掴んでちからに逆らわずにまつふさを投げ、まつふさは引き戸に叩きつけられる。

 ユウは奪った椅子を床に置き、左手を上げて親指以外を動かして挑発するが、今のでまつふさは気絶したようだ。

 

「………あれ?」

 

 もっと戦うことになると思っていたユウは、動かなくなったまつふさを見て固まる。

 その状態は一人の児童が先生を連れてくるまで続いた。

 

 

 

 

 

 ユウは校長室に呼ばれ、そこでまつふさの母親に校長と共に怒られていた。

 

「よくも、私の可愛い小太郎ちゃんを虐めてくれましたわね! しかも気絶させるなんて……」

 

 キッとユウを睨む母親。だがユウは平然としており、それどころか何故怒っているのかわかっていないようだった。

 

「あの、せんせー。どうしてこのおばさんは狐顔なのにサルみたいに喚いているの?」

 

 こんな質問をする始末である。

 まさかまつふさ母もそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。度肝を抜かれたような顔をする。

 

「あ、あのね、風間君。他の人にそんなことを言ったらいけないって教わらなかったかい?」

「うん」

「………正直だね、君」

 

 校長は困り果てる。

 まさかここまで教育が行き届いていないとは思わなかったのだ。

 どうしたものかと考えていると、ドアがノックされたので校長は返事をする。ドアが開かれ、男性が現れた。後ろには女子児童が二人いて、緑色の髪をした少女はユウの姿を見ると駆けだして抱き着いた。

 

「ユウさま、彼女の髪を洗ってきました。この高級シャンプーで!」

「それってリアお姉ちゃんのだよね?」

 

 どうしてそんなものを持っているのかユウは質問しそうになったが、「今は違う」と思ってぐっとこらえた。

 

「えっと、あなたは……?」

「先程お電話いただきました。風間悠真の父、風間修吾です」

 

 修吾が一礼するとまつふさ母は睨んだ。

 

「あなたがこの子の父親ですか。あなたは一体どういう教育をしているのですか? 小太郎ちゃんの髪を雑巾で拭いた挙句、椅子でドアに向かって飛ばしたとか。野蛮にもほどがありませんこと!?」

「ちょっと待ってくれませんか、松房さん。そう言う話はもう一人揃ってからにしてもらいましょう」

 

 修吾がそう言うと、松房母は疑問を浮かべる。するとまたドアがノックされると、今度は綺麗な女性が顔をのぞかせた。

 

「あの、あなたは………」

「その、更識刀奈の母なんですが……呼ばれたので来ましたが……」

 

 ユウ―――悠真はその女性を見ると驚き、修吾のズボンを引っ張る。

 

「おとーさん。あの人、凄いね。おかーさんよりあるよ」

「悠真。そうやって特定の部位を見つめちゃだめだよ」

「だって、大きいんだもん」

「あの子も将来そうなる可能性があるけどね」

 

 すると悠真は刀奈に狙いを定めた。視線を感じたからか、刀奈の体が震え始める。

 

「ともかく悠真。これで役者は揃ったよ」

「ホント? じゃあ、まつふさを再起不能にするね」

「しないでね」

 

 洒落にならないことを知っているからか、修吾は悠真を止めた。

 

「しつもんいいですか?」

 

 悠真が挙手して尋ねると、校長は「何ですか?」と尋ねると、一度咳払いした悠真はさっきとは違って雰囲気が変わった。

 

「さっきから松房君は被害者ヅラしているけど、そもそも気絶したのは向こうが椅子を構えて突撃してきただけで、こっちはそれを掴んで受け流しただけ。それに原因は、松房君が更識さんの髪の毛を雑巾で拭いていたことだし」

 

 自慢げにそう言うと、全員の視線が松房に集中した。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! それは―――」

「ユウさまの言う通りです! その男がこの女の髪を雑巾で拭いていましたわ!」

 

 ミアもフォローするように言ったことで、校長の視線は厳しいものとなる。

 困り果てる松房親子だったが、松房がとうとう言った。

 

「それは、お前らが気持ち悪い格好をしているからだろ! この化け物共が!!」

 

 その叫びを聞いた刀奈は再び泣き始めるが、悠真はそんな彼女を抱きしめて頭を撫でる。

 一方、ミアは鞭を出して攻撃しようとしたが修吾に止められていた。

 

「―――じゃあ、ひれ伏せよ。人間」

 

 ―――ドンッ

 

 上靴のまま、机の上に乗った悠真は黒い大剣を出して松房親子に向けた。

 

「オレらは化け物なんだろう? だったら、今すぐひれ伏せ、下等種族共。それとも、わが剣の錆にしてくれようか?」

 

 校長がすぐさま悠真を止めようとするがそれよりも先に修吾が悠真を殴った。

 

「その剣を出すなって言っただろ?」

「だってぇ。松房がオレを化け物っていうから、化け物は化け物らしく振舞っただけだよ。大丈夫、俺が作る国は正しい人間にも優しいから」

 

 悠真は机から降りて刀奈の所に言って再び抱いた。

 

「それに、オレが化け物なら人間から生贄をもらえるから、この子をもらうね」

 

 そう言って刀奈をお姫様抱っこして校長室から出て行く悠真。その後ろからミアが後を追う。

 松房親子は未だ固まっている。校長もどうすればいいか慌てていると、修吾の肩を刀奈の母―――雪音が掴んだ、

 

「修吾君、ちょっといいかしら?」

「僕は被害者だ」

「そう言う問題じゃないわよね?」

 

 結局、そのものの発端は松房君が原因ということで松房家は更識家に多額の謝罪金を払ったとか。

 そんなことを知らない子供たちは誰もいない場所に移動すると、悠真は刀奈を立たせる。

 

「あー、面白かった!」

 

 そう言って悠真は階段になっている石段に腰を掛ける。刀奈もそれに倣い、悠真の隣に座った。

 

「……あり…がと……」

 

 小さな声だったが、悠真の耳には聞こえたようだ。

 

「どういたしまして」

 

 笑顔でそう答えた悠真の顔はとても綺麗で、とても男の子には見えなかった。

 

「ところで、君の名前って変わっているね」

 

 言葉―――言刃が刀奈に突き刺さる。それは本人も理解していることだからだ。

 一般の家の子なら親の影響で大河ドラマを見ていれば知っているかもしれないが、刀奈の読みは「かたな」―――とある人切りの道具を連想させるだけでなく、名前にも入っている。

 

「………あまり触れないで」

 

 話題があまりなかった悠真なりの一生懸命な策のつもりだったのだが、地雷を踏み抜いたようでたじろぐ悠真。すると、ドアが思いっきり開いて悠真に何かが抱き着いた。……もっとも、この小学校にいる人間の中で悠真のようなすぐに剣を持ち出す問題児に抱き着ける人間なんてたった一人しかいないが。

 

「ミア、重い」

 

 本来、女性にそんなことを言ってはすぐに殴られてもおかしくはないが、ミアは気にするどころか未だに発達していない胸にあえて悠真の頭を引っ付けた。

 そんな二人を見て、刀奈は小さい声だが言う。

 

「……仲、いいね」

 

 どこか羨ましそうに言う刀奈に、悠真は肯定する。

 

「まぁね。だって一緒に寝るぐらいだし」

 

 今も抱き着くミアと、離れてほしいと言いながらもそこまで嫌がっていない悠真。その仲の良さを見て刀奈は本当に羨ましく思っていた。

 彼女の家―――更識は、未だに女子に対しては男性との付き合いはうるさく、男所帯の組織であることから共学の小学校に通わせているが家では家族かある一家の男性以外との付き合いは極力避けさせている。

 

「ねぇ、刀奈(かたな)ちゃん」

「…名前で呼ばないで」

 

 まさか、そんなことを言われるとは思わなかった悠真はどうしか尋ねた。

 

「……家で、そうだと決まっているから……」

 

 規則のことを言うと、悠真は少し考える。

 

(……嫌われちゃったかな)

 

 黙ってしまった悠真に対してそう思っていると、名案が浮かんだ顔を輝かせて言った。

 

「じゃあ、これからは「ななちゃん」って呼ぶよ」

「……どういう、こと?」

「だって、かた……更識さんの名前って、「刀」に「奈」でしょ? 続けて読んだら、「かたなな」だから、後ろの2文字だけなら、「なな」になる。名前がダメなら、ニックネームで呼べば良いじゃない、マリー・()ント()ネット方式だよ!」

「『()ント()ネット』です、ユウさま」

「そうそう、それそれ」

 

 満足気に言う悠真に、刀奈は恐る恐る尋ねる。

 

「……変な子だって、思わないの……?」

「そんなことで思わないよ。それなら、世界基準で言えばオレたちの方がよっぽど変だし」

 

 胸を張れることではないのだが、ミアに引っ付かれた悠真は胸を張った。

 

「じゃあ、ななちゃんに秘密を教えてあげる」

「……秘密?」

 

 どうして自分に? ―――聞こうとしたが、それよりも先に悠真は言った。

 

「実は、風間悠真ってのは偽名なんだ。本当の名前は―――ユウ・リードベールって言うんだよ」

「……そうなの?」

「うん。だから、ななちゃんもオレのことは「ユウくん」とでも呼んでよ」

「………わかった、ユウ君」

 

 すると、悠真は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 そこで、彼女の記憶は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました楯無が最初に思ったことは、眩しいということだった。

 

「起きまシタか」

 

 限りなく人に近いが、音声がロボット調であることでナース服を着ているそれがロボットだということに気付く。

 

「……あの、私はどうして……」

「説明はミア様がシマス。少々お待ちヲ」

 

 するとドアが開く。楯無はその人物を見て誰かわかった。

 

「半月ぶり……それとも、10年ぶりとでも言うべきかしら?」

「記憶は戻ったようですね、奈々」

「ええ、おかげさまでね」

 

 「デハ、私はコレで失礼しまス」という、アンドロイドナースが部屋から出て行く。楯無は少し呆然とする頭を起こすためにミアに話しかけた。

 

「どうして私は生きているのかしら? あの時、間違いなく死んだと思ったのだけど」

「ユウ様のおかげよ。あの方が、あなたの体の時間のみを遅延させた。過去に時を戻したことがあるから、それくらいは容易……と、本来ならば言いたいけれど、時操作は一族最強のユウ様でも難しいようよ。むしろ、今までなんとかできたって感じ。だから今も眠っているわ」

 

 ―――今も眠っている

 

 本来なら、とっくに起きていてもおかしくはない。だが、時操作に加えて〈ルシフェリオン〉の限界突破だけでなく、悪魔的な能力を手に入れて破壊し回ったのだ。さらに、四神機3機とも立ち回ったことで消耗が激しく、今では少ない体内に残る魔力を増やしている状態である。

 もっとも、記憶が戻っても「悠真」、そして「悠夜」という名前が偽名であることしか知らない楯無にはわからないのだが。

 

「……あなたがいるってことは、暁ちゃんもいるのかしら?」

「みんなはもう帰った。IS学園に残ったのは私と私用に割り振られたアンドロイド兵ぐらい。そして今は、少なくなった教室でやりくりして授業をしているわ」

 

 ―――教室が、少なくなっている?

 

 さらなる疑問が楯無を襲う。質問するよりも早くミアが教えた。

 

「ユウ様の暴走によって、IS学園は施設のほとんどが機能を失ったわ。幸い、遥様があなたと織斑一夏を治療して救ったから死者は0。でも、教員用の訓練機は数機を除いて大破。あなたの〈ミステリアス・レイディ〉は布仏虚がなんとか直していたわよ」

 

 ミアは入院患者用の机に〈ミステリアス・レイディ〉の待機状態「ひし形のストラップ」が付いた扇子を置いた。

 

「じゃあ、もしかして完全には―――」

「それは大丈夫。遥様がナノマシンシステムをばれない程度に措置したって言ってたし」

 

 事もなげに答えるミア。だが楯無には聞き覚えがない言葉が出たので、補足した。

 

「そう言えば、あなたは遥様がユウ様の母親だって知らないんだっけ」

「は、初耳よ」

「ユウ様は自分の本名しか言ってないからなぁ。忘れてたわ」

 

 実のところ、楯無がユウに関して知っているのは「桂木悠夜」の人生の事しか知らない。後は、兄弟が4人いることと、雪音に会えば物凄く委縮していたことぐらいだ。後は本当に好き勝手していたことで、記憶が戻った今、今までの悠夜としての活躍は彼のスペックを考えれば「当たり前」とすら思うほどなのだ。

 

「それにしても、本当に成長したわね」

 

 ミアは楯無の胸に視線を移動させる。雪音の胸も大概だったが、楯無の胸は本当に成長した。もっとも、それはミアにも言えることではあるが。

 

「あなただってそうでしょ」

「暁様には羨ましがられたけどね。でも、ユウ様の好みを考えれば努力するのは当たり前よ」

 

 するとドアが開かれる。入ってきたのは簪で、人がいるとは思わなかったのだろう。そして楯無、ミアの順に二人の胸を見ると二人に聞こえるように簪は舌打ちした。




まさかこんな入り方をするとは思わなかった人は挙手! ……というのは冗談で、記憶を取り戻したのでこういう入り方にしました。……10話行けたら儲けもの。

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