IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#135 自由奔放な桂木一族+α

 〈紫水〉、〈仕狼〉を展開した零夜とティアはレーダーステルスモードで海を飛ぶ。

 彼が向かっているのは、モノクローム・アバターが使用する戦艦へと戻っているのである。

 

「それにしても、面白かったぁ」

 

 ティアがそう言うと零夜は顔を引き攣らせた。

 ティアの場合、システムを奪い取って教師陣を事実上無効化したのが主な働きだったが、零夜は違う。一歩間違えれば世界を崩壊させかねない戦いだったのだ。相変わらずのんきな従者に内心ため息を吐きつつ、これから起こるであろう別の祭りに意識を向ける。

 

「ところでマスター、まだですかぁ?」

「いや、もう来る様だ」

 

 零夜の言う通り、弾丸が零夜に迫る。だが零夜に当たるよりも早く、砕け散る。

 

「そこまでだ」

「止まりなさい、テロリスト」

 

 一人は国家代表の戸高満。そしてもう一人は候補生の教官を務める瀬戸優香だ。

 それぞれに改造された打鉄を装着しており、二人に敵意を向けている。

 

「どうしてわかったんだい?」

「タレコミがあったのよ。亡国機業の一味がここを通るって」

「君たちの所業を見逃す気はない。投降しろ」

「そう。じゃあ精々僕らのサンドバッグになってよ」

 

 そう言って零夜は姿を消し、優香を攻撃する。

 あまりの早さに反応できなかった満。ライフルを構えるよりも早く、鎌鼬に襲われた。

 

 

 

 

 

 ―――更識家

 

 その家は表向きは豪邸として家が建てられてはいるが、実際は暗部の本部。比較的に都会よりの場所に建てられているその場所で、今や少しばかり戦闘能力が高い一般人となった幸那がギルベルトと共にお世話になっていた。

 

「あ~。可愛いわぁ~」

 

 楯無……もとい、刀奈と簪の母親である「更識(さらしき)雪音(ゆきね)」が幸那を着せ替え人形にして遊んでおり、今の幸那の様子をそんな感想を漏らす。今の幸那は全身に紫色のフリルを着せられているが、実は元々雪音が簪用にと買って来たのだから当然である。

 そんな状況にあると、着替えている部屋の襖の一つが何者かによってノックされた。

 

「誰かしら?」

『ギルベルトです。珍客が来られまして、16代目から至急幸那嬢を呼ぶように、と』

 

 それを聞いた幸那は内心ホッとしていた。

 精神を調整された時は贅沢三昧をしていた彼女だが、元々気が強い性格ではない。それ故に高そうなフリルを着せられてさっきから気が気でなかったのである。

 今すぐ着替えようと服に手にかけると、雪音がそれを止める。

 

「そのままで行きなさい」

 

 並々ならぬ雰囲気を感じ取った幸那は、少し絶望しながら大人しく従うのだった。

 

 

 

 

 

 ギルベルトに案内されたのは大広間―――ではなかった。小さな、それこそプライベートルームとも言えるような、明治初期に見られた西洋の文化が入っている部屋に案内された部屋で、信じられない姿を見た。

 

「―――やぁ」

 

 その声を聞いた幸那ができたことは、精々力を抜いてその場に座り込んでしまうことだった。

 ギルベルトはすぐに幸那と修吾の間に割って入る。

 

「って、ちょっと待って! 僕は別に幸那ちゃんに危害を加えるために来たわけじゃないからね? むしろとっくの昔に気付いてたから!」

「……え?」

 

 そんな爆弾発言をした修吾に対し、幸那は驚く。

 

「どうして気付いたって? だって幸那ちゃんは常に悠夜にべったりなのに急に冷たい態度をとってたからさ。「思春期」か「精神操作」のどちらかかなぁ……と」

「………だったら―――」

「まぁ、悠夜がいるし、本気を出したら女権団なんて生身で潰せるのは知ってたからさ。むしろ、〈ルシフェリオン〉とかオーバーキルすぎると思ったよ。あ、後これも言っておこうか。「あの程度の雑魚に、僕が負けるわけがないだろ」」

 

 平然と答える修吾に、幸那に対して茂樹が言った。

 

「普段からふざけているように見えるが、ああ見えてあの男は強いからな。内心死んだと聞いて驚きを隠せなかったが………やっぱり生きていたか」

「とか言って、最初からそこまで本気じゃなかったくせに」

「当たり前だろう? お前みたいな奴の何を信じろって言うんだ」

 

 茂樹が睨むが、修吾はその睨みを平然と受け流して幸那に質問した。

 

「ところで幸那ちゃん。今も悠夜のことが好きなの?」

「おい待てや、万年迷惑男。何当たり前のように俺の嫌味をスルーしてんだよ」

「え? だって別にどうでもいいし」

「OK、表出ろ」

 

 茂樹が殺気を放ったことで幸那はビクッ、と震える。

 その姿を見て修吾が口を尖らせて言った。

 

「茂樹、君の殺気は刺激が強すぎるんだからちょっとは大人しくしてよ」

「すべてテメェが原因だゴラァッ!!」

「茂樹様、会えて嬉しいのはわかりましたから、ここは大人しくしてください」

「……たまに布仏が謀反を企ててる気がしてならない」

 

 いい歳した男が膝を抱えて泣きそうになっている様を気を使って敢えて見ないふりをして幸那は答えた。

 

「………好き。本当はもっと、一緒にいたいなって……」

「大丈夫。今だから言うけど悠夜は王族で、次男だけど王位継承権第一位だからハーレムも作れるし、おそらくそこの二人の娘4人も入るだろうからまったくもって問題ないよ」

「ありすぎだぁ!!」

 

 察知したのか、ギルベルトが現れて幸那を庇うように立つ。

 

「ギル君、君はそのまま幸那ちゃんを外に連れて行って」

「わかりました」

 

 素早くその場から離れるギルベルト。そしてその場に3人となった時、茂樹が掴みかかった。

 

「あれ? 清太郎くーん。ちょっとこの惨劇は止めてほしいんだけど~」

「悪いがこちらも事情を聞いておきたいのでね」

「あ、そういうこと」

 

 二人から殺気を飛ばされているが、修吾は構えすら取らない。いつも通りの緩いスタンスで平然と言った。

 

「どうやら、悠夜と刀奈ちゃんの記憶が戻ってしまったようなんだよね。だから、10年前の約束通りに、暗部としての「更識」を畳んでもらうようにお願いに来たんだ」

 

 そんな爆弾発言、おそらく戦闘員がいれば間違いなく騒がしくなっただろう。それほどのものを修吾は平然と言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑一夏が目を覚ましたのは、状況が終了して2日が経った頃だった。

 静かに目を開けたため、しばらく状況が理解できなかった一夏だが、やがて自分の四肢を切断されたことを思い出した。

 

「………お、俺は……アレ?」

 

 改めて自分の身体を確認する。切断されたはずの四肢がまるで何事もなかったように自分の体に存在しているのだ。

 

「……あれは気のせい、だったのか……?」

「あら、目が覚めたのね」

 

 カーテンが開かれる。本来ならそこには晴美がいるはずなのだが、現れたのは遥だった。

 

「おはよう、織斑一夏君。体の調子はどうかしら?」

「……さ、さぁ……?」

「まぁ、私の術力は高いし白式の自己回復能力に任せれば問題ないでしょう。あなたの白式を調べさせてもらったけど、それなりの回復能力があるじゃない。データはもらっちゃった」

「え? あの、それって―――っていうかあなたは……?」

 

 一夏がそう尋ねると、遥は簡単に自己紹介を始めた。

 

「私? 悠夜の母親だけど?」

「へぇ………え?」

「まぁ、2,3日すれば普通に歩けるわよ。良かったわね。私みたいに知識欲しさに様々な能力を得た優秀な人間がいて。じゃ、私は帰るわね」

 

 遥は鞄を持って医療室から出ようとすると、一夏が呼び止めた。

 

「ま、待ってください! あの、あれは夢だったんですか!? 俺がその、手足を斬り落とされたのは」

「……疑うのは無理もないわね。だって、私の腕は超一流だもの。あなたの馬鹿な両親と違ってね」

 

 その言葉に一瞬顔をしかめる一夏。そして、自分の親の事に触れられたことに気付いた。

 

「ちょっと待ってください。俺の親を知っているんですか!?」

「知ってるも何も、私は元々あなたの両親……というより、あなたの母親の「織斑秋恵(あきえ)」の部下だったもの」

 

 当然言わんばかりに答える遥。すると一夏は遥の服を掴もうと手を伸ばしたが、気配を察知したことで回避された。

 

「求められても困るわよ。私には大事な夫がいるし、4児の母だもの」

「そ、そんなつもりはないですよ」

「それに私、あなたみたいな馬鹿には興味がないの」

 

 何か刺さった感触を味わう一夏。その感触に疑問を感じつつ、気になったことを話した。

 

「あの、俺の親は今どうしてますか?」

「さぁ? 馬鹿だから死んだんじゃない?」

「………あっさりと言いますね」

「今の私は遺伝子化学分野には手を出していないし、そもそも私、他人に興味ないから。それに、「織斑」とか「篠ノ之」みたいな仮初の強者なんてどうなろうと知ったことじゃないわ。雑魚は雑魚らしく、其処らにいるビッチや家畜程度の雌豚共と大人しく人生を謳歌しなさい」

 

 わかりやすい嫌味を吐き、一夏がどういう反応をするか待つ遥。すると一夏は怒りを露わにしたが冷静に尋ねた。

 

「それ、どういうことですか?」

「そのままの意味よ。私たちからしてみればISというそれなりに凄いのを作っても、兵器として運用している時点で正気を疑ったわ。そして思ったの。ああ、やっぱりあの時私が作った「IGPS」を見せても作り方を開示しなくて良かったな、って」

「え? あなたがIGPSを作ったんですか!?」

「何か問題でも?」

 

 問題どころじゃなかった。

 一夏が知るIGPSは、〈ルシフェリオン〉と〈イフリート〉の二機。実際、以前現れた〈紫水〉もその一機だったりするのだが、実はISとIGPSを外見で判断するのはかなり難しい。もっとも、IGPSを敢えてそう言う風にしたのは剣嗣の指示だ。例え任務中にばったり会ったとしても、ISと間違えてくれるのを狙うためである。

 そんなことを知らない一夏は悲壮感を漂わせるが、それを遮るようにドアが開いた。

 

「一夏!」

「一夏さん!」

 

 箒、セシリア、そして少し遅れてシャルロットが入ってくる。そして、

 

「貴様は、どうしてこんなところにいる!?」

「私がどこにいようと勝手でしょう? それとも、わざわざ無駄に大きいだけどのおっぱいを持っているあなたにわざわざ許可をしないといけないのかしら。……ミアちゃんもそうだけど、ホントに大きいわね」

 

 自分のものと箒のものを比較する遥。そして素早く箒の背後に回り込み、双丘を揉んだ。

 

「な、なにを……はぅ」

「あなた、声はいいのだからもう少し慎ましやかに振舞ったらどう? そしたら別に口調とか関係なくモテると思うわよ」

「や、止めろ!」

「あなた、いい加減になさいまし!」

「ちょっと待ってね。彼女が終わったらあなただから」

 

 そう言って箒の胸を揉み続けていると、ドアの方から突風が吹いて遥に直撃した。

 

「……何をしているのですか、奥様」

「リアちゃん、あなたこそ、今何をしたのかしら?」

「お仕置きです」

 

 そう言ってもう一度風の球体を作り出すリアを、剣嗣が腕を取って止める。

 

「剣嗣様、何か?」

「いや。すまないな、篠ノ之箒。うちの母親が粗相をしたようだ」

「粗相じゃないわよ。奥手な女の子に適切なアドバイスをしているだけ」

「やりすぎだ。普通に考えろ」

 

 ため息を吐きながら、剣嗣がそう言って磁力を放って遥を浮かす。その様子を見た4人は驚きを露わにする。

 

「あの、それって―――」

「我々兄弟が共通して使える能力だ。悠夜がBT兵器を容易に扱えるのは、この能力を持つことに起因している……と思う」

「……思う、ですか……」

「あまり期待しないでくれ。なにせ俺たちは10年間、まともに会話すらしていない。それに悠夜は記憶を失っていたから、逆にこうして能力を行使できるのが不思議なくらいだ」

 

 一夏に……というよりもこの場にいる全員に説明するように言った剣嗣は自分の手元に遥を引き寄せた。

 

「……そんな能力を持って、よく周りから命を狙われないですわね」

「悪いがスペックが高い分、君たちと同レベルの鍛え方はしていないのでね。伊達に10年前から組織の長に立っていたわけではない」

「……10年前?」

「『白夜事件』、そして君たち3人は既に知っているだろう。私が白騎士と共に戦った〈夜叉〉の使い手ということだ」

 

 そんな重大なことを事もなげに答える剣嗣に、事の重大さを知る4人は驚きを露わにする。さらに一夏に至っては、さっき遥が言っていたことを合わせてさらなる驚きを味わったのだ。

 

「では、我々はこれで―――と、忘れていた」

 

 去ろうとした剣嗣は一番近くにいたシャルロットに向き、スーツの内ポケットから封筒を取り出して差し出した。

 

「シャルロット・ジアン。君にこれを渡しておこう。いずれ君には必要になる」

「……僕に?」

「ああ。そこに君が知りたいことが書かれているだろう。連絡はいつでも待っている」

 

 今度こそ去る剣嗣。そしてその去り方は黒い何かを展開して中に入るといったもので、とても一般人ができることではない。

 シャルロットは渡された封筒を開ける。それには、招待チケット、そして彼女が知りたいことが同封されていた。

 

 ―――君の母親を預かっている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまさしく隔離だった。だがそれを行っているミアはとても嬉しそうだった。

 彼女の後ろには限りなく人に近い形をしたアンドロイドが悠夜と楯無のベッドを運んでおり、彼女らはIS学園のとある場所へと移動している。その先には、今までその島になかったものが設置されていた。

 

 ―――それはまるで家だ

 

 しかもそこらにあるようなマイホームであり、一見すれば何の変哲もない建物だろう。……ただし、場所が「海の上」になければの話である。

 さらに、その家にはとんでもない奴が存在していた。

 

「あ、お帰りなさい、ミアさん」

 

 桂木家の地下の番人であり、おそらくとんでもない物を作っているはずのドロシーがそこにいた。

 ドロシーは自分の周りにある空中投影ディスプレイのパネルを操作すると、入り口が自動的に開く。

 ミアの前にディスプレイが現れると、彼女は容赦なく尋ねた。

 

「これはどういうことかしら? まだ終わっていないようだけど?」

『まだ調整中なんですよ! 大体、急に外見も整えろって言ったのはミアさんでしょ!?』

「私にはユウ様の体内で狂い始めているエネルギーを修復する手伝いをするという仕事があるの」

『とか言って、ただイチャイチャしたいだけですよね!?』

「当たり前でしょう?」

 

 さも当然と言わんばかりにそう言ったミアは通信を切る。実際、ミアや簪などとある条件を満たした彼女らは悠夜の暴走を止めるために能力の調子を操作するこごはできるが、ミアは心から寄り添う気満々だった。

 楯無は別の部屋で処置するように指示し、悠夜だけは別の部屋―――ダブルベッドの3倍はあるであろう巨大なベッドの上に寝かせた。

 そして自分と悠夜以外は追い出してドアも鍵も閉める。

 

 ―――これで、その部屋は完全に外部と遮断された

 

 緊急時に限り、そうなくなるのだがこの家にいるのは悠夜、ミア、楯無を除けば全員がアンドロイドである。ドロシーのように感情豊かのものは存在しないため、野暮なことはしない。

 ミアは風呂などで使われるプラスチック製の桶とタオルを持ってきて、悠夜の服をすべて脱がす。そして濡らしたタオルで悠夜の体をふき、今度は自分が風呂場でシャワー浴びて悠夜の前に立つ。

 

 ―――約10年

 

 厳密に言えば9月時点では既に10年は過ぎているのだが、本来ならばミアは4月の時点で悠夜と再会することができたのだが、悠夜がISを動かしてしまったことですべてが変わってしまった。

 だからこそ、より彼女はある意味壊れてしまったのである。……もっとも、ほとんど既に壊れているが。

 

 巻いていたタオルを解き、パンツのみを履いたミアはそのままの状態で未だに眠る悠夜に引っ付いた。それだけでない。今すぐ押し倒せるように自分の右足を悠夜の両足に引っかける。

 

「大好きです、ユウ様」

 

 悠夜と唇を重ねるミア。その行為で悠夜は目は醒めなかったが、それでも満足そうにミアは悠夜に迫った。




タイトル通り、自由奔放すぎる人たち。これで第7章は終わりです。
今度は第8章。ワールドパージ編です。

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