IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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テスト前だと言うのに、これを書いたりポケモンGOをしたり。


#132 堕天皇帝

 一方、簪とラウラは戦線を離脱していた。悠夜がいた場所には大きな卵状の球体があり、水色に近い光を放っている。

 

「ここから、〈ミステリアス・レイディ〉の波動が感じられる」

「……お姉ちゃん」

 

 心配そうに触れようとする簪。だが、後ろからそれ止める声がかかった。

 

「―――いくらあなたたちでも、それに触れない方が良いわ」

 

 ラウラは素早く戦闘態勢を取る。だが、簪がすぐにそれを制して相手を観察する。

 その女性の髪は腰ぐらいまであり、どこか不気味な雰囲気を漂わせている。

 

「誰だ、貴様は」

「風間遥……あなたたちにわかるように言うと、桂木(かつらぎ)(はるか)よ。名前で気付いたと思うけど、あそこで暴れている人たちの妻にして母親ってところかしら」

「………元々、織斑勢力にいた科学者だけど、理論や方式などが下らなく、指摘したことで勢力から殺されかけたところに桂木修吾に助けられ、王族入りをした史上初の女性」

「よく知ってるわね、更識簪。撫でてあげましょうか?」

「……いらない」

 

 そう言われると、遥はショックを受けたことをもろに顔に出した。

 

「え? いらない? 本当?」

「本当」

「い、いくらマッドサイエンティストって呼ばれても、ちゃんと実験動物と愛玩動物の区別はついているわよ?」

 

 本気の焦りようにどこか引く様子を見せる二人。ますます遥は絶望し、今にも泣きそうになっていた。

 

「何が目的だ?」

 

 構わずラウラが質問すると、どこかかっこつけるように握りこぶしから人差し指を出した状態で卵状の球体に向けた。

 

「もちろん、更識楯無の回収、そして治療と保護よ」

「……あなたに渡すことはできない」

「でも、このままじゃあなたのお姉さん、死ぬわよ」

 

 その言葉に簪の顔が青くなる。それを見た遥はゆっくりと近付いていくと、彼女の周囲に次々と無骨な機体が着地してきた。

 

『開発長、ターゲットはこいつらですか?』

「呼んだ覚えはないのだけど?」

『しかし……』

 

 遥はため息を吐きながらそう言うと、隊員と思しき人が弁解する。

 

「まぁいい。君たちに言えるのは、何も考えず今すぐここから去ることだ。残念ながら、下級機体で四神機の相手はできない」

「え―――?」

 

 途端、その隊員がいる場所のすぐ後ろで爆発が起きる。そして、先程まで遥と話していた隊員が後ろから強襲を受け、海に吹き飛ばされた。

 

「ふーん。二人以外に奈々を狙う奴はいたんだ……じゃあ、死ね」

 

 〈ダークカリバー〉を向けた悠夜は、次々と下級機体に攻撃していく。そして、遥に剣先を向けると驚きを露わにした。

 

「まぁ、あれらが生きているから不思議じゃないか」

「久しぶり、ユウ。君のことだから、てっきり全員妊娠させているかなって思ったけど、意外に理性が働いていたようだね」

「随分とご挨拶だな、母さん。俺は織斑みたいな馬鹿とは違うから」

「当たり前でしょう。あんな出来損ないと一緒だなんて、それじゃああなたたちを作った意味はないわ。今のこの現象は驚愕はあれどある意味予定調和よ」

 

 すると、悠夜に向かって剣戟が飛んでくる。それを防御して耐えると、流星の如く何かが突撃してきた。

 

「どこに逃げてるんだい、悠夜」

「逃げてるつもりはねぇよ、クソオヤジ!」

 

 刀に形状が近いブレードと〈ダークカリバー〉がぶつかり合う。火花が散り、二人は鍔競りあう。

 

「いやぁ、やっぱり持つべきものは戦える相手だ。悠夜がそんな風に育ってくれてパパは嬉しい―――よ!」

 

 飛ばされる悠夜はすぐに制動をかける。修吾は黒い球体を精製して分離、発射する。

 すると悠夜に黒い稲妻が落雷し、右手が帯電。そして撃った。だが修吾の前に水が現れ、修吾の上方へと飛んでいく。

 

「零夜、君は下がってなさい」

「父さん。言っておくけど暴れたりないのはこっちもだからね?」

 

 〈デュランダル〉に水を纏わせ、戦闘態勢を取る零夜。そして〈デュランダル〉を振り、氷の礫を悠夜に飛ばす。

 

「とか言って、レイ兄はユウ兄と戯れてたじゃん! こっちも暴れたりないんだし、下がってあのメス共の救助に行って来たら?」

「暁こそ下がれよ。どうせお荷物なんだし」

「殺すよ、お前」

「やれるものならやってみなよ、雑魚」

 

 すると二人は同時に接近し、〈デュランダル〉と〈レーヴァテイン〉の刀身がぶつかった。

 

「二人とも、血気盛んなんだから」

「呆れているところ悪いが、どっちもお主の子供なんじゃがな?」

「あなたの孫でもありますけどね」

 

 陽子と修吾は互いにそう言い、どちらも戦闘態勢を取る。すると上空が黒い球体で占められ、それが何を意味するか理解した。

 そして下では、簪とラウラを守るように別のバリアが発生するという現象が起きている。

 

「まったく。揃いも揃って血気盛んなんだから………」

 

 遥は傘を差すと、ほとんど同時に球体が落下した。IS学園が破壊されていくが、悠夜は気にせず家族の元へと飛び込む。

 

 ―――ただ、殺意のみで相手を潰すために

 

 その移動を捉えていたのか、炎と水が同時に飛んでくる。悠夜は回避すると鎌鼬が飛び、〈ルシフェリオン〉の装甲を刻みつつ通り過ぎて行った。

 

「そこじゃ!」

 

 急だった。

 悠夜の目の前に陽子が現れ、軽く陽子の腕の通常の三倍はあろうかと思わせるほどの巨大な装甲腕で悠夜を殴ろうとした。とっさのことで回避しようにも間に合わず、意識が飛びかける。

 陽子の攻撃はそれだけにと留まらなかった。

 彼女の装甲腕が分離し、オータムが学園祭の時に使用していた〈アラクネ〉の装甲脚の数を超える16本の腕が形成され、陽子はランダムに連打したのである。

 その威力に〈ルシフェリオン〉で守られているとはいえ、悠夜は意識を飛びかけた。

 

「悪いのう、悠夜。お主の怒りは理解できるが、お主を怒らせすぎれば世界が崩壊する恐れすらあるからのう」

 

 かつて、陽子は夫を殺されている。その時彼女に差し向けられた部隊は骨すら残さず、戦地は荒廃し跡形もなく消滅したほどだ。今では割り切ってはいるが、当時の彼女は心を病んでいた。そして今度は孫がなりかけているため、こうして現れたというわけだ。

 そして、今の彼女の役割は悠夜を痛めつける役だけであり、悠夜を相手にしている兄弟と親、祖母は誰一人としてそれだけで倒せるとは思っていない。

 その頃、修吾は自身が駆る灰色の機体と彼が使用する〈カラドボルグ〉が光り輝かせる。

 

「悠夜、悪いけど君には少し眠ってもらうよ」

 

 修吾が駆るIGPS〈スサノオ〉は上級ランクの一般機体だ。そもそも上級ランクの機体は一定の条件を満たさなければ支給されない、その人間専用の機体である。当然だが、スペックは悠夜たち四人が使う四神機とは比べものにならない。だが、〈スサノオ〉には四神機と遜色がない機能がある。

 

「魔法陣、展開。現れよ、アッシュ・フェニックス」

 

 灰色の不死鳥を召喚すると、不死鳥は〈カラドボルグ〉に自ら同化し、修吾は悠夜に斬りつけた。

 

 ―――だが、それは勘違いだった

 

 悠夜と〈ルシフェリオン〉は徐々に白くなり、蒸気と化して移動した。

 

「逃がすか! 絶対零度(パーフェクト・フリーズ)!」

 

 零夜がそう唱えると、周囲が凍てついて蒸気を捕らえる。その隙に暁が〈レーヴァテイン〉で蒸気を攻撃しようとしたが、周囲に《ファントム・サーヴァント》がばら撒かれ、ダメージを食らった。

 

「おのれ! まだ屈しないか!」

 

 陽子の巨大化したマニピュレーターで攻撃しようとするが、悠夜はそれを《ディス・サイズ》で切り裂いた。

 後ろから不死鳥が飛翔するが、《ディス・サイズ》を投げて竜巻を形成し、切り刻んで破壊した。

 

「流石だ。流石だよ、悠夜。よもやここまで成長してくれているとは思わなかった」

 

 修吾は笑みを浮かばせながら斬りかかる。それを〈ダークカリバー〉で流そうとした瞬間、刀身がぶれて悠夜に直接当たった。

 

「―――だからこそ、君とは1対1で戦いたかった」

「過去形にするのはまだ早いと思うがな、クソオヤジ!」

 

 悠夜の周囲に5つの球体が精製され、それぞれに飛ぶ。だが全員、何らかの方法を用いて球体を破壊して、ほとんど同時に悠夜に向かった。

 

 ―――その時だった

 

 彼らを超えるスピードで悠夜に一筋の金が迫る。それに気付いた陽子は悠夜を庇うように光の筋を妨害しようとするが、急停止した光はフェイントをかけ陽子をかわした。

 他の四人が飛び出す。しかし時すでに遅し、その光は悠夜の体にぶつかると、彼を中心に半径5mの球体を生み出した。

 

「………鞘が、ユウを選んでしまったか」

「やはり未来は変えられないってことか……でも―――」

 

 修吾はその膜に触れる。すると触れた部分から電気が発生して球体の一部が開いたが、すぐに修復が始まった。

 

「………受け入れるしかないということか。「鞘」が王を選定するなんて、滅多にないんだろう?」

「「鞘が王を選定する時、崩壊した全が修復を始める」……それが歴書の最後のページに書かれておったが……」

 

 陽子が思い出しながらそう言うと、剣嗣が「仕方がないな」とどこか悲しそうに言った。

 

「ここからは二人で話がしたい。だから、下がってくれ」

 

 零夜は呆れ、暁がため息を吐いて先に降下する。その後を追うように陽子も下に降りた。

 

「……父さん」

「………仕方ないか。僕みたいに好き勝手生きた人間に、説教を垂れる資格はないだろうし。でも一つ忠告しておく。今の悠夜は間違いなく10年前のまま……唯我独尊の状態だ」

「わかってる。あの時のユウには俺もリアも手を焼かされたからな。どこかの馬鹿夫婦は研究に没頭していたから」

 

 皮肉を込めた剣嗣の言葉に修吾は頬をかいた。

 

「それはそれ、これはこれってことで一つ」

 

 そう言い、修吾も下降していく。

 その様子を見ていた剣嗣は視線を球体に移す。それがひび割れを起こした時、各所で警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカのハワイ沖の管制室。そこでは異常事態が観測された。

 それを聞いたアルド・サーシャスは端末からの情報から、すぐさまある場所へアクセスして少し前の映像を確認すると、どこか見覚えがある機体を見て、すぐさま検索をかける。

 

「……ビンゴ」

 

 改修されたからか、細部のディテールが異なっている。だがアルドは何かを理解したのか、すぐさま管制室に足を運んだ。

 するとすでに戦闘員は集まっており、遅れてきたアルドに視線を移した。

 

「遅ぇぞ」

 

 イーリスがそう言うと、茶化すように「悪ぃ」と答え、すぐに端末を操作しながら質問した。

 

「で、作戦はどうするんだ。どう考えてもこれは故障としか思えねぇだろ」

「………ああ。だが、上は出撃するように言ってきた」

「はぁ?」

 

 端末から視線を離すと、ちょうどアルドの視線は投影型ディスプレイを捉える形となった。

 そこには、アメリカが密かに送り込んでいたある部隊からの生中継の映像が特殊な回線を使って映像が送られてきている。先程、アルドが手に入れたものは、軍事衛星からの少し前―――つまり、〈ルシフェリオン〉を装着した悠夜が嬲られているところだった。

 もっとも、あの映像を見たところで悠夜がやられるなんてことはあまり考えていないが、意外とは思っていた。

 

「前々から、上はどうにかしてあの機体を手に入れようとか考えていたんだろ。今はいねえが、その代わりにあのボールがある」

「……〈ルシフェリオン〉か」

「まさか、本気?」

 

 ナターシャが尋ねると、イーリスはため息を吐いた。

 

「アタシだったあんまり事は構えたくないけど、命令ってんなら仕方ねえだろ。それとたぶん、今も残っているあの機体だな。たぶん―――」

「白夜事件の時の一機、か?」

 

 アルドが言葉を引き継ぐと、イーリスは頷く。その場で様々な反応を見せるが、それは画面に現れた変化によって静まる。

 球体から生々しい化け物のような手が現れたのである。それを中心にひび割れが広がり、球体が砕け散った。

 黒と光のコントラストから現れた禍々しいもの。その正体に気付いたアルドは顔を青くする。

 

「……まさか、〈ルシフェリオン〉がバージョンアップしたって言うのか……?」

 

 その問いに答えられるものは、残念ながらそこにはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………クフフフフ……クハハハハハ!」

 

 その高笑い。それだけで空気が汚染されるようだ。

 そんな雰囲気を持つその存在を中心に、さらに禍々しく情景が変わる。おそらく、そこが世界の最先端技術を扱う施設の一つであるなんて、初めて見る人はそうは思えないだろう。それほどまで景色が変わっていた。

 それだけではない。新たに姿を現した機体も禍々しく、雰囲気だけでやられる可能性もある。いや、大半がやられるだろう。

 

 ―――それほどまで、その姿は異常だった

 

 装甲すべてが有機物を感じさせるデザインへと変更されている。いや、力を吸収したが故にその姿へと変貌した、というのが正しいのかもしれない。

 〈夜叉〉に搭載されている投影モニターに機体名が現れる。その名は―――

 

 ―――堕天皇帝(ルシフェリオン・カイザー)

 

 それを見た剣嗣の顔は引き攣ったが、すぐに視線を戻して警戒を強める。剣嗣が攻撃を準備を行うと、悠夜は翼をはためかせる。

 

「ユウ、まさか―――」

「どけ」

 

 剣嗣はすぐに防御態勢を取る。すると黒い波動が周囲に飛ばされ、剣嗣が纏う〈夜叉〉は吹き飛ばされた。

 そして空に黒い何かが展開し、悠夜はその中に入った。

 

「待て!」

 

 伸ばした装甲が空を切ったが、剣嗣はすぐに思考を切り替えて黒い何かに入った。

 それを見ていた簪は後を追おうとすると、その前に何かが通ろうとしていたのを見てしまう。

 

「待って!」

 

 下がる隊列から離れ、簪は穴の方へと向かう機体に声をかける。唐突のことだったので、機体の主であるミアは動きを止めた。

 

「更識簪。……何か用?」

「……追うの?」

「……もちろん。今のユウ様は危険だから」

 

 その言葉を聞いた簪はミアの機体〈風鋼〉の肩部を掴む。

 

「…………私が行く」

「あなたは必要ない。今は私たちの誰かが行けばいい」

 

 否定するミアだが、それでも簪は首を振って答えた。

 

「……今回のアレは、お姉ちゃんが殺されたことで起こったもの。だったら、私が「お姉ちゃん」になって行く」

「……本気で言っていますか? あの人が10年前、どれだけあの女を大事にしていたのか知っているでしょう!? 場合によってはあなたが殺される可能性もあるんですよ!?」

「………そう、かもしれない」

 

 悲しそうな雰囲気を出し、簪は言った。

 

「でも、そうでもしなければならない理由がある。それに、あなたの代わりはいないけど、私にはお姉ちゃんがいる。「更識」は消滅してしまうけど、それでも、今は悠夜さんを止めたい」

 

 それを聞いたミアは少し迷いを見せた。しかし、ため息を吐いて「わかりました」と答える。

 

「………不本意ですが、非常に不本意ですが、あなたに協力しましょう」

「……ありがとう」

「ですが、必ず帰ってきてください。それが条件です。あの方の周りに、あなたが欠けることが最悪の形を引き起こす可能性だってあるのですから」

「……もちろんそのつもり。私だって、簡単に死ぬ気はない」

 

 そう言って簪は未だ閉じない何かに入ろうとすると、今度はミアが止めた。

 

「待ちなさい、更識簪。そのまま行くつもりですか?」

「……ダメ?」

「当たり前です。代役なら、それなりの格好をして行きなさい」

 

 そう言って二人は地上―――ではなく、地上すれすれを飛ぶ戦艦へと着艦する。

 その戦艦は彼らが所有しているものであり、簪はその一室に案内された。そこには、簪がよく知る人物がいた。

 

「か、かんちゃん!」

 

 そう、本音である。

 まさかいるとは思わなかった簪は驚きを露わにするが、ミアは構わず簪を鏡台の前に座らせた。

 

「さて、やりますよ。一世一代の大勝負を」

「……うん」

 

 簪はまだ理解していなかったが、ミアがそれをした時、彼女の狙いを理解したのである。




ミアのターンはまだまだ先です。ですが、いずれ彼女のターンも来ます。



それと、今度の更新は2週間ぐらい遅れる可能性があります。

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