しばらくはこんな感じの投稿スピードになるかと思われます。
あの騒動が終了して、俺はすぐに家に帰った。髪の毛も元の短髪に戻っているし、今は男の格好でのんびりしている。
「兄様、お風呂が沸いたそうです」
「そう。じゃあすぐ行く」
……いかん。妙に女口調になっている気がする。
ラウラがいなくなったのを確認した俺は、思考を切り替えて着替えを持って風呂場へと急ぐ。
ここで気を付けなければならないのは、ババアとラウラと幸那がいることだ。
気配を感じるのは後にし、衣類などで誰かがいるかを判別する。見た感じ、誰かがいるってわけではないな。
―――だが、ラウラの場合はそう言うわけには行かない
最悪の場合、洗濯物を隠している可能性すらあるのだ。ここは慎重に気配を探る。
―――ちゃぷっ
よし、いた! 今絶対誰かいる! ここで入ったら間違いなく人としてアウトだ!
妙に確信めいた俺は、先に目的をすますことにした。
■■■
「……くっ。流石は兄様」
トイレから成り行きを見守っていたラウラは、二人分の着替えを持って洗面所に入り、洗濯機の上に置いた。
そして風呂場への引き戸を開けると、中は暗いだけで誰もいない―――のだが、ラウラは構わず風呂蓋を開けた。
中には水着姿の幸那がいて、ラウラの姿を見るやショックを受ける。
「……兄さんじゃないんだ」
「悪かったな。どうやら思っている以上に、兄様の気配察知力は高い様だ」
「せっかく、水着姿で迫ろうとしたのに……」
そんなことをすれば、逆に気絶する可能性すらあるのだが、彼女らの頭にはそんなことがなかった。
今回、悠夜は二人を引き合わせると言う大失態を犯してしまったのである。二人は勉強をする傍らに作戦会議をして、二人で協力して決行したのだ。今回のそれも、まず幸那が悠夜に抱き着き、ラウラはすぐに服を脱いで同じように抱き着いて無理やり一緒に入れるという理性崩壊待ったなしの行動に出たのだが、並みではない成長によって、誰かが風呂内にいると察知されたのだ。
「………こうなったら、残る手段は―――」
「アレしかないな」
二人の脳内には今、一つのアイテムがよぎっている。そしてそれは意外にも、二人の可愛さを引き出すのにうってつけのものだった。
■■■
部屋のドアをノックすると返事され、ドアを開ける。
普通、老人と言えば和室と言うイメージがあるが、桂木陽子の場合は好んで洋室を使っている。ここだけでなく山奥の方もだ。
「何じゃ、悠夜」
「ちょっと聞きたいことがあってな。………何で、あの時に楯無や虚さんも話し合いに同席させなかったんだ?」
忙しいにしても、後から話せばいい。だが二人からはそのことで一切の話がなく、当たり前のように時間が流れていた。
「………なぁに。まだ二人には早いと思ったまでよ。それに、あの三人はお主に好意を寄せておるからの。簪はともかく、本音とラウラには知った方がいいじゃろうて」
「……楯無は知らなさそうだが?」
「…………まぁ、あの娘はの」
楯無が俺に惚れているとは思わない。だが、簪の姉であり、同様の能力を保持していると考えてもおかしくはないだろう。―――つまり、関係者である彼女が仲間外れにされるのはおかしいのではないか、と言う話だ。
「なんじゃ? まさかようやく、あの娘が好きになったのか?」
「それはないんだが、ちょっとまずくなってな。楯無に能力の使用方法を教えてほしいって言われてな」
それを聞いた瞬間、ババアは固まった。
「………嘘じゃろ?」
「こんな嘘をついたところで、一体何のメリットがあるんだよ」
「…それもそうじゃな。だとすれば、少々まずい」
「?」
何が問題なのかわからない俺は首を傾げる。ババアはため息を吐いて説明した。
「お主と簪、そして楯無とでは大きな差がある」
「………胸の大きさ?」
「確かに揉み心地はよさそうじゃのう。一度捕えて何度も揉んでみたい―――じゃなくて、想像力じゃ。お主は能力を使う時、何を糧にしている?」
「いや、何も………」
たぶん俺の中にある魔力とやらを糧にしているだろうが、俺にはその自覚がない。
「体内エネルギーじゃよ。お主はそれを無意識に使用し、消耗しておるのじゃ。それもかなりの量をな。そしてそれは、能力を使うだけではない。十蔵から聞いておる。お主、襲撃があるたびによく寝ているそうじゃな」
「………」
「言っておくが、体内エネルギーと一言に言っても人がそれぞれ持つ体力だけではない。……お主は何故、神樹人があれだけの能力を行使できるか知っておるか?」
唐突にそんなことを言われた俺は、すかさず答えた。
「ト○オン器官みたいなものが、体内にあるから?」
「そうじゃ。名は「サイコヴェガ」。その部分から能力に必要なエネルギーを摂取、放出することで力を行使することができる。じゃが、それだけではダメじゃ。必ず、ヴェガからの供給と同時に想像力による物質の操作のイメージが必要になる」
「………ええと」
つまりは、想像力とエネルギーの二つを使わないと、エネルギーを行使することはできないってことでいいのだろうか?
「ちなみにじゃが、エロいことを考えながら能力を発動すると発情する」
「何故それを今言った?」
ババアの発言にため息を吐いていると、ババアは遠慮なく言ってきた。
「正直に言うが、悠夜、お主の能力は既に上位の位置にある。少なくとも、生身でISを相手取ることなんぞ容易じゃろう。例えそれが世界最強と言われる織斑千冬が、第四世代とやらを手にしてしたとしてもの」
「………さぁ、それはどうだかな」
「とか言って、随分と余裕が顔に出ているぞ」
そ、そりゃあ……本気で殺しに行ったら訓練機だったら勝てたし。ISでも案外どうにかなるんじゃないかなぁって思う。
「で、一体何が言いたいんだよ」
「つまりじゃ。今のお主の立場なら彼女を作ることなど造作もないということじゃ」
「いや、何でそうなる」
「? そりゃあお主、自分の立場を気にして何もしないからじゃろう? 別に王族なのじゃし、100や200ぐらい孕ませて、子供が1000人超えたとしてもなんら問題ないのじゃし」
「個人的に問題しかねえよ」
100や200って、俺にそこまでの体力はない。
「まぁ、多少は女にも手を出してみればいいのでは、と言う話じゃ」
「………いや、あのなぁ」
「なら聞くが、お主はラウラが他の男―――例えば織斑一夏に寝取られたとか」
「やだなぁ。そうなったら姉諸共殺してその状況を全国ネットで無修正で流すしかないじゃないか」
おそらく、解体されていって各パーツが並べられていく……なんて程度のものだろう。些細なことだ。気にするな。
「………………つまり、そういうことじゃ。少しはそのことも考えるんじゃな」
「って、脱線しまくったが、結局はどっちなんだよ」
なんだかんだで話を逸らされている気がする。
「別に構わんよ。ただ、あの娘がうまく扱いきれるかどうか……」
「………なら、いいけど」
素質なら十分だろうよ。だって日頃から水を操る機体を操作しているわけだし。
―――そろそろ、考えろか
王族って言っても没落しているようなものだし、再興しようにもそれだけの金はないし。
父親から少しは金をもらっていたけど、それはほとんど消えているしなぁ……趣味に。
(でも、ラウラにはまだ早いだろ………)
幸那は論外。そもそも、日本の結婚可能年齢は男は18歳、女は16歳だ。楯無や虚さんはすでに超えているが、それとこれとは話は別である。
そんなことを考え、濡れた髪をタオルで拭きつつドアを開けると、そこには人間サイズの猫が二匹いた。
「……何、やってんだ?」
確かにまだ9月は暑い……とはいえ、流石に胸部とパンツ、そして猫耳カチューシャだけでは寒すぎるはずだ。
その格好をした銀髪ロングと黒髪ロングは俺を確認するや否や、すぐに近く寄ってきた。
「「にゃ~」」
俺の理性が超合金でなければ、間違いなく二人とイケないことをしていただろう。
考えろ、考えるんだ。今ここで何をするべきか―――つまり彼女らを観察することだ。
まるでご褒美がもらえる犬みたいに長い尻尾を回す二人。……その尻尾がどうなっているのか気になるが、今は二人を注意する方が先か。
「………あのなぁ、そんな格好をして何のつもりだ。恥ずかしいと思わないのか」
大体、いくら可愛くてもその格好は反則だ。猫耳、首輪、面積が少ない布上下に自動的に動く尻尾……そこまではまだいい。色も幸那が黒でラウラが白と全体的に統一されているし、はっきり言って贔屓目抜きで可愛い。
だが、さっきあんな会話をしていたタイミングで、その格好をするのはいただけない。しかも下手すれば二人を向いて襲うことだってあり得なくもないのだ。いや、むしろ襲いたい。今すぐどちらにもキスしてそういうことをしたい―――って、何を考えているんだ俺は!?
相手はどちらもまだ体ができていない女の子なんだぞ! しかもどういうことなのかどちらも美少女。片方はまだ中学生だ……容姿だけ見ればラウラは小学生でも通りそうだけどな。
それなのに襲いたい? キスしたい? バカか俺は。完全に犯罪者じゃねえか!!
「そりゃあ……恥ずかしいけど……兄さんが好きそうな格好だから……」
相手は脱ぐ気満々なようだ。って、何でだよ! 落ち着けよ! いや、好きだけどね!
いや、ホントもう俺の股間が限界を迎えそうだ。相手は中学生なのに、もしかして俺ってロリコンだったりするのか?
(いや、落ち着け……俺の理性は固い。だから、ここで耐えきって見せれば――――)
意志を固める。そして目の前に存在する煩悩に耐えきるんだ。
それを心の中で叫んでいると、脳内である言葉がよぎった。
―――他の男に寝取られてもいいのか?
盛大な自慢且つ過大評価だが、正直なところ俺以上の男なんていないと思う。特に戦闘能力で言えばリヴァイアサンの使い手で「零夜」という男ぐらいなもんだろう。
俺は二人を持ち上げ、どちらもベッドに寝かせる。
「………兄様?」
「に、兄さん?」
まさか俺がそんな行動に出るなんて思わなかったのだろう。
俺はそのままラウラとキスをした。
■■■
悠夜が暴走を始めている頃、簪は自分と一夏が戦っているシーンを再生していた。
その様子を見ていた楯無は、視線だけで画面の向こうにいる一夏を殺しそうな簪に戦慄している。
何故学年が違うこの二人が同じ部屋にいるというと、簪が一夏と組む条件として癒しを求めた結果、楯無と共に悠夜と同居させるように楯無に働きかけたからである。完全に権力を私用で使った結果だ。もっともこの場合、「使った」というより「使わされた」と言うのが近いだろうが。
「あの、簪ちゃん……?」
「何?」
「………ごめん。なんでもない」
そう言って楯無は掛布団で自分の体を覆い、まるで何か脅威から守るために体を丸くする。
(……どうして、こうなったんだろう……?)
つい最近まで「大人しい」と言う印象が強かったはずの簪。だがそれは、悠夜という存在で完全に変わってしまった。
能力を行使し、強力な機体を使い、今では自分ですら及ばない存在ではないか―――楯無はいつの間にかそう思うようになった。キャノンボール・ファストの時、自らかって出てスコールを倒しに行こうとしたのは、「そうではない」と証明したかったからかもしれない―――だがそれも、有耶無耶になるどころか成功せず、悠夜が切れてようやく向こうも本気を出し始めたようなものだ。
(……簪ちゃんが、強くなってくれるのは私として嬉しいことだけど……)
それでも内心、楯無は喜べなかった。
自分の立場―――「楯無」が自分から消えるかもしれないのだ。
―――もっとも、それは彼女がすべて知った時、喜ばしいことなのかもしれないが
しかしそれは、
彼女はもう、「裏」がどれだけのものかを知ってしまった。いくら簪が自分を超え、「楯無」としての適性があると見出されたとしても、今の彼女は譲る気はない。
―――いや、譲りたくない
譲ったら最後、自分と同じ―――いや、それ以上の苦しみを遭う可能性がある。冷静に考えれば、簪を生徒会に誘うべきじゃなかった。そこまで後悔していると、何やら騒がしいと感じた楯無はベッドから出る。簪はおらず、玄関の方から誰かが簪を責める声が聞こえた。
楯無は音を立てず廊下側のベッドの近くの壁に移動すると、誰かが叫んだ。
「―――いい加減にしなさいよ!」
鏡で確認すると、女生徒がたくさんいる。その内の一人が簪に掴みがかった。
「他の専用機持ちから離してくれたのは感謝しているわ。でもね、独占した挙句にボロボロにするってどうなのよ!?」
「今日、彼はインタビューがあったんでしょ? だったら手加減するとか、そういうのを考えなかったわけ?」
一人は温厚そうだが、それでも簪に対して厳しい目を向けている。
すると簪は楯無が「庇おう」の「か」の字を思いつく前に言った。
「―――あんなの、いてもいなくても一緒だもの」
瞬間、周囲が凍りついたような気がした。
一見、簪の行動は厳しい鬼教官が「実戦形式」で鍛えているようにも見えなくはない。だが、当の簪はあろうことか「いてもいなくても一緒」と言ったのだ。つまり―――最初から簪は一夏のことをどうでもいいと思っているのである。実際、簪自身も「一応はあることを目的に鍛えているけど、ならないならそれはそれで構わない」としか思っていない。もしならなければ、「耐久値が少ない盾」程度だと思っているのだ。
「………最悪ね、あなた。何でこんな人が専用機持ちになれるのかしら?」
「簡単な話、あなたたちよりも私が強いから」
瞬間、一人が簪を叩いた。
(―――ちょっ!?)
今すぐ出て行きたい衝動に駆られた楯無だが、すぐさま踏みとどまる。
「ふざけんじゃないわよ! 姉の七光りで専用機をもらったくせに!!」
「………コネがない人は苦労するわね。可哀想に」
仲裁するために楯無は出たが、それよりも早くさっき叩いた女生徒がもう一度簪を叩こうとした瞬間、簪が先に相手の耳を掴んで相手を柱にぶつけた。さらに悪いことに、相手は庇うために手を前に出していたため中指が突き指してしまったのである。
いや、むしろその程度で済んでよかったかもしれない。悠夜という悪魔や魔王、死神の称号を持つ男の影響を受けている簪が相手ならなおさらだ。
「ちょ、簪ちゃん?!」
「あ、お姉ちゃん。起こしちゃった?」
「そ、そういうことじゃないでしょ?! 今何をしたの―――」
「別に。ただ頭蓋骨を割ろうとしただけ」
何でもないと言わんばかりに簪がそう言うと、他から楯無に疑問が飛んだ。
「どうして生徒会長がここにいるんですか? ここ、一年寮ですよ!?」
「前もここにいたんだけどね。今回はちょっと―――」
「桂木悠夜専用抱き枕として、同じ部屋にいるというだけ」
楯無の代わりに簪がそう答えると、初耳のことに楯無は驚いてしまう。
そしてそれは他も同じのようで、非難の目が簪―――そして楯無にも向けられた。
「本気ですか!? 何でまだ、あんな男に拘るんですか!?」
「そうですよ! あんな野蛮人と一緒にいるなんて―――」
それを聞いた瞬間、簪は静かに笑った。ただ視線は先程よりも見下しており、その目を見た一人は簪を睨みつける。
「何よ。何かおかしいって言いたいの!?」
「……別に。ただ、可哀想だなって思っただけ。そうやって何も知らないくせに、悠夜さんを非難して恥ずかしくないのかなぁって思って」
その言葉に今度は別の生徒が簪に掴みかかろうとしたが、それよりも早く簪が腕を取ってその場に倒す。
「簪ちゃん、待って。それ以上は―――」
「お姉ちゃんも知らないんだから黙ってて」
そう言って簪は伸びてくる腕を掴んで壁に叩きつける。
「簪ちゃん!」
「―――これは一体何の騒ぎだ!!」
怒号が辺りに響く。まだ夜8時すぎと言うことで寝ている者が少なく、また目の前の人だかりを見てその声の主は叫んだ。
「お、織斑先生……」
「一体これは何の騒ぎだ?」
近くにいたギャラリーらしい生徒に尋ねると、彼女も興味で来たからか全貌を理解していないのだ。
視線を人だかりの方へと向けるのを見た千冬はその方向へと進むと、簪の姿が顕わになる。
「またか」
「今回の発端は彼女らですが?」
そう言って簪は視線を移動させ、怪我をしている生徒たちを千冬は見た。
「……何故怪我をしている?」
「あ、あの人がしたんです! 私は何もしてないのに―――」
「織斑先生。彼女は外科よりも脳外科の方かもしれません。記憶障害が発生している可能性があります……クスッ」
「アンタねぇ!!」
掴みかかろうとした生徒の一人を千冬は抑える。
「まぁいい。ともかく今回の関係者は寮長室に来い。全員な」
渋々と言った感じに全員が頷き、大人しく従った。
ただ一人、簪だけは殺気を放っていたが、その荒々しさに誰もそのことに何も言うことはなかった。
果たして悠夜が一線を越えてしまったのか、そして簪たち以下数名はどうなるのか。
それはすべて次回! 乞うご期待!……って堂々と言えるほどの内容なのは悪しからず。