IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#123 彼女が能力を持つ理由

「……はい、これで良し」

 

 そう言って零夜はつい先ほど自分が処置した部分を叩くと、マドカは苦痛で顔を歪めた。

 

「………ナノマシンを入れれば早いだろう」

「いくら早いって言っても、多用は体に毒なんだから不賛成。ということで、地道の治療に専念しましょう」

「しかしだな―――」

 

 ―――モニュッ モニュッ

 

 急にマドカの胸を触る零夜。マドカは羞恥を顔を赤らめ、殴ろうとした。

 

 ―――ガチャッ

 

 急にドアが開き、スコールが中に入ってくる。

 

「入るわよ、M………」

 

 惨状を見てそのまま無言で退場してドアを閉めるスコール。彼女はその辺りの経験も豊富だが、ティアとできているはずの零夜がマドカとそういうことをしているのは予想外だったのか、そのような行動に出た。

 

「待て、スコール! 今のは誤解だ! というかこいつが変態なだけだ!」

「そんなことよりマドカ、おっぱいが成長している気がするけど……毎晩一人でレズプレイを夢見て―――」

「貴様は死ね!!」

 

 黒い球体を精製して零夜に飛ばすも、それがすべて水によって阻害された。

 

「男日照りだったら、入れてあげようか?」

「黙れ! 死ね! 胸はただ成長しているだけだ!」

 

 今度は〈サイレント・ゼフィルス〉を部分展開して零夜を殴ろうとするが、それをかわされた挙句に余計なアドバイスもされた。

 

「大丈夫。容姿が容姿だから、重役には受けると思うよ。でもまぁ、そんなところにいたら間違いなく近い内に消滅するだろうけど」

「何のアドバイスだ、それは!!」

 

 暴れ狂うマドカをなだめた零夜は、未だに外にいるスコールを中に入れた。

 

「………ところで、昨日の無断接触の件だけど、説明してもらえる?」

「………………」

 

 圧力はあるが、微妙に慈愛の視線を感じるマドカは内心やるせない思いでいた。

 

「あなたにとっては劇的な出会いであっても、こちらは困るのよ。あまり無軌道に動かれるとね」

「………わかっている」

「あなたの任務は各国のISの強奪もあるのよ。それ以外のことに、あまりISを使うようなら―――」

 

 途端にスコールは消える。マドカも同じように消えるが、勝負はすぐに決着が付いた。壁に重い衝撃が襲い、マドカが首を絞められた状態で叩きつけられた。

 

「ふふっ、流石にいい反応―――ひゃんっ」

「やっぱり水だと性感帯を刺激しやすいな。スコールは趣味じゃないけど」

 

 そう言いながら零夜は水を蒸発させた。

 

「零夜、あなた………」

「でも、悪いけどいずれマドカはどこかの金持ちに売るつもりだから、できれば商品には傷つけてほしくないかな」

「「…………」」

 

 二人は零夜を睨みつける。だが零夜はどこ吹く風と言わんばかりに二人の無言の訴えを受け流した。

 

「まぁ、冗談だよ。流石に戦力を減らしても得は………」

 

 途中で言葉を切り、それ以上話さなくなる零夜。あることに気付いたからだ。

 

「………何か言いたそうね?」

「それはないよ、スコール」

 

 そう答えるが、零夜の脳内はあることを占めていた。

 

 ―――別に、彼女らがいなくても僕とティアがいればIS学園ぐらい落とせるんじゃないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これは酷いわね」

 

 〈黒鋼〉の消耗を見た朱音ちゃんは素直に感想を述べる。ちょうど反省文を終わらせたこともあって顔を上げると、朱音ちゃんが《デストロイ》の部分を見ていた。

 ……あの引きこもりちゃんがここまで活発なってくれると、お兄ちゃんは涙が出ます。

 

「お兄ちゃん《デストロイ》使いすぎ。消耗が激しいよ」

「多機能だから、つい甘えてしまうんだ。本当に使い勝手が良くて……」

 

 おかげで最近は荷電粒子砲とかミサイルとか全然使ってないや。

 とか内心思っていると、朱音ちゃんが頬を膨らませる。思わず俺は写真を撮り、それを十蔵さんのパソコンに送った。

 

「でもお兄ちゃん、何で平日なのにこっちに来てるの?」

「馬鹿をボコったら停学になった」

「………お兄ちゃん」

 

 可哀そうなものを見るような目で俺を見てくる朱音ちゃん。

 

「仕方がなかったんだ。だが、やはりあそこで息の根を止めるべきだったな」

「………そう言えば、お祖母ちゃんが昨日はこっちに泊まりに来てた」

「何でまた……」

 

 ふと、織斑の顔がよぎったが気のせいだと思いたい。

 

「なんか、昨日はとある男子生徒が馬鹿なことを言っていたから、もうちょっとで殺しかけたって」

「………うわぁ」

 

 十蔵さんが浮気をしない限り怒ることはないだろうと思えるほど温厚な菊代さんが「殺しかけた」って、よっぽどなことなんだろう。っていうか絶対によっぽどのことだ。

 

「轡木主任。やはり、パーツのほとんどが消耗して使い物にならなくなっています。いっそのこと、武装を入れ替えましょう。そっちの方が早いです」

「う~ん。でも、そっちは難しいんでしょう?」

「そうですね。ですが、予備は既に作ってあるのですし、使えるものは他の部品に流用した方が良いと思います」

「……わかった。無理しないでね」

「はい」

 

 新しく入った人なのだろうか、新人と思われる少女……もとい、女性は作業着姿で帽子を目深に被っている。防止の後ろの調節部からは邪魔だからか長い髪を纏めていた。

 

「新人?」

 

 こっちに来た朱音ちゃんに尋ねると、「そうだよ」と言って説明を始めた。

 

「彼女は黒田愛子さん。身長は私と変わらなくて学歴はないって話だけど凄く優秀なの」

「……なるほど」

 

 独力か。それでこの業界に作業員として入るなんてかなり凄いことだと思う。

 思ったより見ていたからか、彼女と目が合った。

 俺は仕事の邪魔になると思って視線を外すと、こっちに近付く気配がしたので顔を上がる。黒田さんが俺の所に来ていた。

 

「あの、男性IS操縦者の桂木悠夜さんですよね?」

「え、ええ」

「わぁ、やっぱり! 初めてテレビで見た時から思ったんですが、やっぱり強い人はオーラが違いますね」

 

 ……しょ、初対面の女性が俺に対して優しいだと!?

 俺は思わず彼女から距離を取ってしまう。

 

「……あの、何か……?」

「あ、すみません。今まで初対面でまともに優しくされたことがなかったので、つい」

「……あー、そういうことですか……」

 

 気を悪くしただろうか?

 何も彼女が悪いわけじゃない。むしろきちんとした礼儀で接してくれているし、距離を取る必要はなかったな。

 

「確かに、今の女性ってそういうところ酷いですもんね。何もかも一人で作り上げたわけでもないのに、まるで自分たちが凄いみたいな言い方して、恥ずかしくないんですかね?」

「どうせ法律で勘違いしたんでしょうね。権力だけ上がったところで、やろうと思えばこの世界を壊すことなんて容易にできると言うのに」

 

 話していて思う。この人と俺、結構話が合うって。

 俺は思わず自分から手を出していた。その意味をわかったのか、黒田さんも手を出してお互い握りあった。

 

 ―――?

 

「―――そこにいましたか、桂木君」

 

 黒田さんと握手していると、菊代さんがラボの方に来ていたようだ。十蔵さんが来るならともかく、菊代さんが来るとは本当に珍しい。

 手を離して、菊代さんのところに行くと彼女は俺の両肩を掴んだ。

 

「………本当に、すみませんでした」

「…何が、ですか?」

 

 何のことだかわからないのでそう聞き返すと、菊代さんは話し始める。

 

「今まで本当にごめんなさい。まさか織斑君があそこまで救いようがない人だとは思わず、ずっと放置していました」

「……あの、何かあったんですか?」

「……ここで話すのは少し問題ですね……朱音。部屋を貸してください」

「う、うん。これ、使って」

 

 俺の予想通り、菊代さんだったら織斑が言ったことがどれだけ問題か理解してくれたようだ。

 朱音ちゃんの部屋に入ると各々適当に座り、菊代さんは話を続ける。

 

「昨日、あなたが指定した通り、私と織斑先生のみで彼の聴取を行ったんです。あなたが私のみをした理由がよくわかりましたよ。今一人、IS適性Aの人が入学を希望しているようですね」

「はい。それを聞いた時は流石に驚きました。それまで自分もその人の兄と同じ反対派だったのですが、場合によってはIS学園に入学させざる得ないとも説明しておきました」

「それは結構。ですが、その子の死を以て家族の仲を修復するのはどうかと思いますよ」

「あ、それは冗談です」

 

 痛い目に合わせる気はあったけど、本気で死んでもらう気はなかった。

 

「冗談としても、言って良いことと悪いことがあるでしょう。これからは誤解を招くようなことは言わないように」

「場合によりけりです」

「………はぁ」

 

 ため息を吐かれても正直に困る。奴らのいう「卑怯汚い」は俺にとっては上等であり、昨日はそう言う意味では黙らせる必要があったのだ。……半分はノリだが。

 

「………本当に、この状況でまたあんな行事をするべきか……」

 

 どうやら独り言らしいのだが、菊代さんの言葉が俺の耳には届いてしまった。

 

「また行事でもやるんですか? 体育祭は11月だと聞きましたが」

 

 ちなみに11月末には2学期末テストがある。

 

「ええ。昨日の襲撃のこともあって、10月中旬ぐらいに特別措置として専用機持ちのみでのタッグマッチを行うことになったのです」

「………そう、ですか」

 

 学園部隊を焚きつけて潰しにかかろうと思ったのだが、どうやらそれは叶わぬ夢となるようだ。

 

「何か問題でもありますか?」

「いえ。大丈夫です。修正できる範囲ですから」

 

 そう答えて、俺はとりあえず今後の対策を練ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 菊代が悠夜を連れて自分の部屋に入っていたのを見た朱音は、黒田愛子を見る。

 

「ねぇ()()、握手した感想はどう?」

「本当に信じられないわね。それなりに筋肉は付いているけど、とてもこれまでの騒動を解決してきた中心人物の一人だとは思えないわ」

 

 さっきまでの敬語はどこへ消えたのか、通常の口調で話をする黒田愛子。彼女のその名前は入社する時の偽名であり、本当は人間ですらなければ神樹人でもない。―――ISである。

 悠夜が陽子と戦った日の翌日、朱音の部屋で目が覚めたクロは本当に驚いた。朱音に起こされた彼女は状況をまったく把握できず、何度も自分が具現化していることを確認したのである。

 朱音は誰から聞いたわけでもないが、悠夜が普通の人間でないことを前々から知っていた。冷静に考えて、たかが12歳の少年が大人を殴り飛ばすことなんてできないからである。ましてや、悠夜が殴り飛ばしたのは細身ではなく、筋肉質の男性。とても殴って7m離れた場所に移動させることはできない。

 それでも悠夜に甘えられるのは恐怖ではなく、兄のように慕っているからだ。むしろ、科学で証明できないほどの能力保持者であることに内心物凄く喜んでいた。

 

 ―――悠夜には超常的な能力があり、行使することができる

 

 それをクロから聞いて納得し、十蔵に事情を話して社員登録し、今はカモフラージュしていた。もしクロがISと知られた場合、とんでもないことになるのが目に見えているからだ。

 

「でも、悲しいけどあの男がこれまで解決してきたのよね。それも凄い力で」

 

 クロがそう言うと朱音は自分が褒められた気がするが、決してそのようなことはない。

 

「まぁ、クロもそのおかげで具現化できているわけだし、感謝しようよ」

「…………そうね」

 

 そう返事したクロは姿を消す。すると〈黒鋼〉のシステムが作動し、予備の《デストロイ》と接続を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スコールが出て行ったその部屋で零夜はベッドでくつろいでいる。

 シャワーを浴び終えて部屋に戻ってきたマドカは同僚のその姿を見て呆れていた。

 

「くつろぐなら自分の部屋でくつろげばいいだろう。何故まだここにいる」

「僕の予想だと、マドカのことだから髪の毛とかそのままにして出てくると思ってね。血筋的に」

 

 実際、零夜の言う通りマドカの髪は濡れていた。

 零夜はマドカに風で吸い寄せ、股の間に座らせて髪をふく。

 

「自分でする」

「どうせ適当に済ませて「やったぞ」とか言うでしょ」

 

 実際その通りだったこともあって、マドカは反論の手立てを失った。

 

「まったく。どうして織斑の女ってこうもズボラなのかねぇ」

「貴様ら男は女に夢を見すぎだ………って待て。どうして姉さんがズボラだと知っている!?」

「王族を舐めないでよ。やろうと思えばばれずに学園内に潜入するなんて余裕だよ」

 

 ドヤ顔をし、胸を張る零夜を見てマドカは呆れを見せが、同時にさらに警戒を強めた。

 千冬の戦闘能力は常人をはるかに凌ぐ。気配察知能力の高さも異常なのだが、それに気付かれずに無事に戻ってこれるほどの能力を持つ零夜はやはり異常なのだろう。

 

「ところで、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「……何だ?」

「何でマドカは能力を使えるんだい? しかも本来なら持つことはない「闇」の能力を」

 

 その言葉にマドカは「そのことか」と思い出すように言った。

 

「さぁな。どういうことかはわからないが……気が付けば使えるようになっていた」

「いつぐらいから?」

「両親と一緒にこっちの世界に来てしばらくしたぐらいだろうな。変な幻覚を見てからだ。その時は心身共に参っていた」

「…………」

 

 零夜は手を止める。どうやら思い当たる節があったようだ。

 

「………なるほど。君も随分と絶望を味わったみたいだね」

「…君も?」

「ユウ兄さんもだよ」

 

 一体どこにあったのか、櫛を取り出した零夜はマドカの髪を梳き始める。

 

「あの男もか」

「これでも僕は小さい頃はよく本を読んでいたから、それなりに知識はあるんだ。文献によれば王族でも「闇」の力を持つ人間はそういない。過去、日本で言えば戦国時代に相当する時が神樹人の間にもあったんだ。って言っても王族の王位継承権を争うことなんだけど……」

「随分と物騒だな」

「その時に親が殺された、とか。目の前で好きな人が惨たらしく殺されたとか、それで闇の力を手に入れた王族もその時はいたらしい」

 

 思い出すように零夜は言う。マドカは興味深く聞いていた。

 マドカは自分の一族が王族と四元属家に対して酷い仕打ちをしたことを知っている。両親から話を聞いてたが、当時、幼いマドカも疑問が思うことがあった。

 

 ―――何故余計なことをしたのだろうか?

 

 要は、先祖は王族が権力を握り続けるのが古いと考えたのだ。日本のようにもてはやされるだけの存在ではなく、政治に深く関わることが疎ましかったのだろう。

 

 ―――下らない

 

 当時の人間が何を思ったのかマドカは知らない。だが、心の底からそう思っているのは確かだ。

 もっとも、今となってはどうでもいいことに変わらないことも彼女は十分理解しているが。

 

「まぁ、兄さんの場合は記憶を失っている時に散々サブカルチャーに触れた結果、あそこまでの攻撃方法を思いついているんだけど」

「………色々な意味で恐ろしいな」

「でも、おそらく織斑一族で発現するのはマドカだけかもね。織斑千冬はありそうと言えばありそうだけど、織斑一夏みたいな能天気には無理でしょ」

 

 あっけらかんと答える零夜は、さりげなくマドカの髪をいじり始める。

 

「どうかな。貴様や桂木悠夜がいたぶり、周りから殺せば発現するかもしれんぞ」

「だとしても無理でしょ。織斑一夏は、サブカルチャーに触れていない分、ISのような機械がどういうものか理解していない。僕ら兄弟は道は違えどそれなりに理解がある。だけど、織斑一夏の機体は夏に一度オーバーホールされているけど、特殊故にそこまで弄られていないから、そろそろ白式が壊れるかもしれないよ」

 

 どこか心配するように言う零夜。そんな彼を見ながらあることを疑問に感じ、尋ねた。

 

「そう言えば、桂木悠夜が記憶を失くしているとはどういう意味だ? 何故それを知っている?」

「……だって兄さん、僕が亡国機業に入れられることを知っていて、どれがどういうことか理解してんだもん。でも、キャノンボール・ファストの時に適当に叫んでみたけど、全く反応がなかったから。おそらく、お祖母ちゃん辺りが消したんだろうね。僕が知る限り、あの人も大概色々なことをしているから」

 

 零夜の言葉が終わると同時にマドカが保有する端末が振動する。ティアからの連絡であり、こう書かれていた。

 

 ―――ブルー・ティアーズとの戦闘データ、抽出してクライアントに送った




ということで、今回は色々なことが判明した回でした。
賛否両論あれど、とりあえず見守っておいてくれるとありがたいです。

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