IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#116 新技開発中

 ―――ルシフェリオン

 ―――イフリート

 ―――リヴァイアサン

 

 今、わかっているのはこの三つ。そして「四神機」と言うのだから、少なくとも同等の機体が後一機あるのだろう。

 もしそんなのがいたら、間違いなく俺が調子に乗るのはわかりきっている。ルシフェリオンの力を遠慮なく行使し、周囲に甚大な被害が及ぶだろう。

 さらに言えば、俺は前々から昨日会った二人に追いて行った方が良かったのではないかと思い始めている。

 

「ねぇねぇ、ゆうやん」

「何だ、本―――」

 

 ―――チュッ

 

 考え事しながら相手と話すのを止めたくなってきた。

 本当に俺の危機管理能力はちょっと問題がありすぎる。戦闘になればスイッチが入るから問題はないだろうけど、日頃から少し無防備すぎないか?

 そんなことを考えていると、ラウラは唖然としているが鈴音の様子がおかしいことに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――昨日

 

 悠夜は知らないことなのだが、実は鈴音もデートに同行する予定だったのだ。

 だが急に候補生管理官である(ヤン)麗々(レイレイ)が現れたことでキャンセルしたのだ。

 

「何で悠夜に敵意を向けるのよ!? 彼の危険性に関するレポートは前に送ったでしょ!?」

 

 中国用に借りた格納庫で鈴音は叫ぶように言うと、麗々はため息を吐きながら言った。

 

「はい。確かに読みましたが、今回ここに来たのは彼がどういう人間か把握するという目的もありましたので」

「だからって睨みつける?」

「その割には意外と普通でしたね。もう少し敵意を見せるかと思いましたが―――」

「その敵意に問題があるって気付いて!」

 

 怒らせると洒落では済まないということを知っている鈴音はそう叫ばずにいられなかった。

 だが麗々は何とも思っていないのか、平然と続ける。

 

「凰鈴音。あなたに政府から伝言があります」

「何よ?」

「桂木悠夜と仲良くするように、と」

 

 その言葉の意味。それを察した鈴音は内心舌打ちをした。

 

 

 

 

 そんなことがあったためか、鈴音はどこか悠夜と会いたくないと言う感情があった。

 殺されるとか、そう言った恐怖ではない。ただ友として政府に利用されたくはないのだ。

 どう説明しようかと考えていると、鈴音の両頬を引っ張った。

 

「うわぁ。もちもちしてる」

ひょ(ちょ)ひゃにひゅんひょよ(なにすんのよ)!」

「何か悩んでそうだったのでな。……もしかして、政府に何か言われたのか?」

 

 それを聞いた鈴音は思わず思ってしまった。

 

 ―――一夏も、これくらい察しが良ければいいのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数分前

 

「ほ、本音!? 貴様何をしている?!」

「スキンシップだよ~」

 

 そう言ってまだ暑いというのに俺の体にスリスリと寄り添ってくる。

 

「いや、あの本音?」

「ゆうやん。何か勘違いしているようだけど、私はただゆうやんと一緒にいたいだけだよ? それじゃあダメ?」

「……いや、その……」

 

 だって俺、場合によっては本音を殺してしまうかもしれないんだよ?

 そう言おうとする前に、ラウラが言った。

 

「兄様、時間がありません。早く済ませましょう!」

「……何を?」

「? 私たちで処理をするために呼んだのではないのですか?」

 

 俺たちの話はイマイチかみ合っていなかった。と言うかラウラ、さっきの俺の話をちゃんと聞いてた?

 

「いや、ラウラ? 俺はそんなことをするために呼んだんじゃないからな?」

「そうなのですか……やはり、通販サイトで見たアレを買うしかないのか?」

 

 どうやらラウラは俺の話を聞いていないようだ。

 そのことに対してため息を吐いてしまう。

 

「あのな、ラウラ。俺はお前たちに別れをと―――」

「? 何を言っているのでしょうか? 私は元々、兄様に拾われた身。確かに私の能力では兄様の足元にも及びませんが、幸いにして私を使い、兄様に溜まった性欲を晴らすことができます!」

「………そのために、使えと?」

「はい!」

 

 ……何だろう。妙に楽しみしているって感じがするんだが。

 明らかに教育方法を間違えている気がしてきた。大体何でこの子はそこまで俺に執着する―――あ、俺が手に入れたからか。それによって別視点から世界を見る余裕ができて、今の世界に対して絶望したか、俺に依存するようになったかだろう。いつか俺以外に好きな人ができたらなぁと思う。

 とりあえず、ラウラの問題は置いておこう。それよりもさっきから気になるのがいるからな。

 ラウラを軽く下げて、俺は鈴音の所に行く。

 

「鈴音、大丈夫か?」

「……………」

 

 どうやら何かを考えているらしい。

 ふと、鈴音の頬が柔らかそうだと思って寮頬をつまんで引っ張る。意外に伸びるので思わず楽しんでしまった。

 

「うわぁ。もちもちしてる」

ひょ(ちょ)ひゃにひゅんひょよ(なにすんのよ)!」

「何か悩んでそうだったのでな。……もしかして、政府に何か言われたのか?」

 

 そう言うと、鈴音が図星を突かれたようで苦虫を噛み潰してしまったような顔をした。

 

「ホント、アンタには敵わないわね。ええ、そうよ。言われたのよ。アンタに取り入れって」

 

 予想通り―――っていうか、何人か重役を精神崩壊させかけたのだから、それはそれで当たり前かもしれない。

 

「……ホント、何でこんなことになるのかしらね……」

「……そうだな」

 

 それはそっと、彼女を抱き寄せた。優しくしたからか、涙を見せて泣き始める鈴音。

 

(………ああ、そういうことか)

 

 俺はおそらく、彼女らをただの妹としてしか見ていない。

 それは年頃の彼女らにしてみれば失礼に当たるが、それでも俺は家族と言うものに飢えているから、そう言う目で見てしまうのだろう。

 

「……別にいいよ」

「え?」

「政府の言うことを聞き、とりあえずは俺に対してそう言う目で見ればいい。でも鈴音は知っているだろう? 俺がどういう人間か?」

 

 そう言うと唖然として固まる鈴音だったが、意味を悟ったのか笑い始めた。

 

「……やっぱりアンタは凄いわ。正直、惚れて正解だって思う」

「激戦区だけどな」

「だからこそ、燃えがいがあるってものよ」

 

 そう言って鈴音は俺の頬にキスをした。女の子が、率先してキスをしてはいけません。

 

「……アタシは一度、あなたたちから離れるわ」

「いいのか?」

「しっぺ返しが怖いってのもあるけど、アタシは大切な人を利用なんてしたくない」

「そうか」

 

 そう聞いた俺は、今度は鈴音の口にキスをした。

 

「――!?」

 

 まったく、俺は何をしているんだか。

 俺に構わず、一介の学生としての人生を歩んでもらいたいのに。

 

「悪いな。つい、可愛かったから」

「……いいよ」

 

 顔を赤くしながら去っていく鈴音。俺はその姿を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら織斑がまた、何かをやらかしたようだ。昨日からテニス部に貸し出されていると聞くが、どうやらそこで色々とやったらしい。相変わらずの問題児である………人のこと、言えないけどさ。

 

「はい、それではみなさーん。今日は高機動についての授業をしますよー」

 

 珍しく一組のみの授業が行われる。鈴音の様子を伺おうと思っていたけど、宛てが外れた。

 

「この第六アリーナは中央タワーと繋がっていて、高機動実習が可能であると先週言いましたね? それじゃあ、まずは専用機持ちのみなさんに実演してもらいましょう!」

 

 そう。今回の実習場所はIS学園のシンボルでもある白い塔が建った下であり、俺は何故か織斑とオルコットの二人と一緒に前に出ていた。

 

「まずは高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したオルコットさん!」

 

 すべて武装《ブルー・ティアーズ》を腰部に集中させ、推進力として使用しているパッケージを装備した姿のオルコット。どうやら武装を封印して彼女のメインウェポンである《スターライトmk-Ⅲ》以外は使えなくするらしい。確か、後一丁と一本のナイフが会ったような気がするが。

 

「そして、通常装備ですがスラスターに全出力を調整して仮想高機動装備にした織斑君!」

 

 まぁ、噂じゃあ白式は他の装備を受け付けないって話だからなぁ。そう言う意味では同情する。

 

 ―――ホント、馬鹿よねぇ。武装なんてとりあえず使って馴染めばいいだけなのに

 

 ………?

 俺は後ろを、そして前を見る。どこからともなく声が聞こえたようだが、何か電波を受け取ったのだろうか?

 不思議そうな顔をしていると、山田先生は俺の紹介をした。

 

「最後に、織斑君と同じ通常装備ですがIS史上初の可変機で状況によって戦闘の幅を大きく変えることができるトリッキーな戦い方をする桂木君! この三人に一周してきてもらいましょう!」

 

 とはいえ、黒鋼はバックパックを換装することで真の力を発揮することができるけどね。流石にスペックが規定を超えるから大会では使用しないが。

 二人には声援を、俺には罵倒を飛ばしてくる。相変わらずで何よりです。

 二人が会話をしている横で、本音と目が合ったので手を振ってやると、どこぞのピンクの球体を超える速度で両手を振ってきた。

 

「では、……3、2、1、GO!」

 

 山田先生がフラッグを振り、俺たちは一斉に飛ぶ―――が、二人を先に行かせて俺は通常形態で後を追った。最初は織斑が先だったが、今ではオルコット、織斑、俺の順で並んでいる。中央のタワーの頂上へと向かって織斑がオルコットと並走し始めた。そして、先に二人が頂上で折り返す。それを見届けつつ、頂上に達した俺はPICをオフにしてそのまま自由落下を始める。ある程度速度に乗った状態で加速した。

 

『え?』

『わっ!?』

 

 さらに《デストロイ》を後ろに向けて加速する。おそらく俺が一般人なら、この時点で心停止はしているだろう。

 急接近してくる俺に慌てて機体バランスを狂わせてしまう織斑。動きを予想し、回避し、オルコットを追い越して先にPICを起動して減速、着地した。

 それによって本来なら地面が亀裂を走らせるはずが、それもない。俺はそこから少し離れてISを解除した。次々に着地するオルコットと織斑。そして、俺に対して信じられないと言わんばかりに見てくる。

 

「はいっ。お疲れさまでした! 三人とも凄かったですよ! ですが桂木君、最後の急加速は危ないので二度としないように」

「わかりました。次はちゃんと相手を戦闘不能にしてからすることにします」

「そういうわけじゃないですからね!」

 

 と突っ込まれたけど、ISでドライブすることはないだろうと内心では思っている。

 

「いいか、今年は異例の一年生参加だが、やる以上は各自結果を残すように。キャノンボール・ファストでの経験は必ず生きてくるだろう。それでは訓練機組の選出を行うので各自割り振られた機体に乗り込め!」

 

 IS学園ができてから数年後に始まり、毎年恒例となっている行事の一つであるキャノンボール・ファストだが、本来は一年生が参加することはないのだが、今回は一年生に専用機持ちの数が多いこと……そして何より、クラス対抗戦が中止になり、そこでの賞品を消化するためとして急遽一年生の訓練機レースが開催されることになった。参加するかどうかは本人の意思によるらしいが、大半の生徒が参加するようだ。まぁ、織斑がクラス代表だが専用機持ち組として参加するため、一組には参加する人間がいないらしい。二組、四組も同様で、三組もそれに触発されてもう一度レースして決める様だ。

 そのレースの中、俺は―――

 

「…はぁあああああ!!」

 

 新技を開発していた。

 理由としてはこれまでの行事はすべて何かしらの妨害を受けているため、その対策として攻撃手段を増やしているのである。さらに言えば、俺の持つ力が戦力に加われば百人力である。そのため、十蔵さんと朱音ちゃんに許可を得てISを装着した状態で黒い球体を精製し、的にぶつけようとしている。最終的な目標としては敵を認識すると自動的にそちらに向かってビームが発射されるトラップを目指している。

 

「はぁああ!」

 

 あらかた球体ができると、右手を伸ばすと同時に球体を飛ばし、的を破壊しようとする―――のだが、何故か当たらない。

 試しに声を出さずに球体を精製して的に飛ばすが、的にすら当たらなかった。

 

「………あっれぇ?」

 

 おかしい。ババアと戦った時は結構戦えたはずなんだが、何故か今はできないでいる。

 

(………もしかして、気持ちの問題だろうか)

 

 そんなことを考えていると、誰かがこっちに近付いてきた。

 

「なぁ悠夜。ちょっといいか?」

「取り込み中だ」

 

 そう言って突っ返し、俺は再び手で球体を精製する。

 

「ん? 何だそれ―――」

「ちょっ―――」

 

 急に手を伸ばしてくる織斑。俺はすぐさま織斑を蹴り飛ばした。

 

「何するんだよ!?」

「急に触れようとするからだろうが、この考えなしが」

 

 ため息を吐きながらそう言ってやる。

 

「か、考えなしって……俺はちゃんと考―――」

「嘘乙」

「嘘なんてついてねぇ!」

 

 ここまで来ればもう駄目だろう。

 可哀そうな目で見ると、織斑が俺を睨む。

 

「まったく。貴様は迷惑製造機なんだから、少しは存在することすら自重しろ。目障りだ」

「何が―――」

「もっと言えば単細胞。それでいて使えない雑魚。まだ自分の弱さを自覚できていない痴呆症」

「言い過ぎだろ!?」

 

 むしろ十分だと思うけどな。

 俺は踵を返して、もう一度球体を形成、腕を突き出して発射した。だが、何故かすぐに地面に落下する。

 

(………どうすればいいんだ……?)

 

 イメージ的には暴れる黒い球体で、触れた者すべてを破壊していく、そんな化け物なんだが…。

 

「桂木、話がある」

「あ、こっちの方が重要なんで後にしてください」

 

 そう言って織斑先生に断りを入れてどうしようか考えていると、敵意を感じた俺はその場で180度回転して目標の首筋に展開していない左手で作った手刀を止める。

 

「………」

 

 生徒如きに後れを取るとは思わなかったのか、織斑先生は驚いていた。

 

「さっきの件で聞きたいなら、アンタの弟が勝手に死のうとしていたから止めただけだ。それとも、俺の新技開発の的にアンタがなってくれるのか? まぁ、かつて世界最強だったアンタも今はその程度にしかなれないがな」

「……随分と言ってくれるな」

「あの程度の機兵如きに、ISを使っても苦戦するアンタにはそれくらいの価値しかないって言ってんだよ」

 

 正直言って、織斑一族とか過去の事件とかどうでもいい。

 だけど強者として動けないなら戦力として入られては困る。というか目障りだ。

 

「今、馬鹿どもが別の兵器の出現で揉めているってんならアンタから言っとけ。向こうの方がISよりよっぽど役に立つから黙って静観してろってな」

 

 そう言って俺は少し離れ、未だに展開している右腕部装甲の上から球体を作る。

 

(……そう言えば、王族の周りには炎、水、風、土の四属性がいるんだったな)

 

 確か楯無と簪が水、そして朱音ちゃんが土だったよな。というか土って一体何のために……。

 

(……重力?)

 

 そう言えば、さっきから妙な軌道を描いて的を避けているよな。じゃあ、最初から的ではなくその下の棒を狙えばどうなるんだ?

 その結論に至った俺はあるイメージを描く。球体が地面すれすれを爆走し、目標に向かって駆けるイメージを。

 そして球体を飛ばすと、イメージ通り―――というかそれ以上の威力を発揮しながら的を支える棒を破壊してアリーナの壁にぶつかった。

 

「………わぉ」

 

 その威力に思わずそんな声を漏らす。………やっておいてなんだけど、予想以上の威力に驚きを隠せない。

 

「……この技を「グランドストライク」と名付けよう」

 

 空と大地を揺らし、上下から最大威力の厄災をぶつけるのが「サンダーボルケーノ」、そして球体を走らせ、相手を穿つのが「グランドストライク」。

 

(……やばい。楽しくなってきちゃった)

 

 顔がニヤけているのはわかっていたが、元に戻す気にはなれなかった。

 ちなみにこの時間は専用機持ちは機体の調整になっているが、俺はいつも通りだから今更弄る要素はなかったりする。

 

「……桂木」

「はい?」

 

 出席簿を振り下ろされたのを回避し、俺は大人しく授業を受けることにした。




鈴音は、一応悠夜のところからログアウトしました。決して尻軽とか、導入自体が無意味とかそういうわけではありませんので悪しからず。


桂木悠夜の技リスト

・サンダーボルケーノ
・グランドストライク[new]

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