―――イマイチ実感がわかないとはこのことだろうか?
確かに、俺にはおかしな力がある。ルシフェリオンもそうであり、ダークカリバーなんて女権団戦で手に入れたものだ。止めにはババアを倒したあの力。アレは間違いなく一般常識を超えている。
(まぁ、俺は躊躇いなく行使したけどさ)
一般的に「世界最強」を指すのは二人いる。
一人は織斑千冬。元日本代表で世界最強。身体能力も高い。
そしてもう一人はイタリア代表のアリーシャ・ジョセスターフ。第二世代型IS「テンペスタ」の操縦者であり、数少ない
―――だがそれは、あくまで「IS」という力を使っての最強である
実際、力を解放した俺の前に戦う意思がなかったとはいえ、俺にあっけなく敗れ去った。おそらくイタリアの女の方も過度な期待をしない方が良いだろう。
さて、現実逃避もそれくらいにしようか。
「おはようございます、ご主人様」
「……ああ、おはよう」
隣にいるのはリゼットだ。
そう。俺がいるのはIS学園内にあるVIP用のホテルで、リゼットの部屋だ。俺はあの話を聞いてから一泊したのである。
当然だが、俺はリゼットに手を出したということはない。俺は奥義が強力すぎて自分にすらかかってしまう幻術の赤ん坊みたいな格好で来たら、リゼットの謎センサーが働いたようで俺を回収したのだ。しかも何故か外泊の許可が降りており、そしてそれをリゼットが知っており、さらに何故か明日の用意もされていて、絶句した俺はこうして一泊したのだ。
これでもかなり抵抗した方である。特にリゼットはやっぱりというか俺と夜の営みをするつもり満々のようで、最初はパンツのみでダイブしてきた。それ、男がするもんだと思うんだけど……。
(……おっぱい、大きくなってたな)
もちろんバッチリ見ちゃいましたよ。しかも本人から無理やり触れさせてくるから俺の下半身は準備OK。結果、折衷案で俺がリゼットを抱き枕にする形で決着した。
―――チュパッ
そして今、俺の首筋はリゼットの餌食となっている。
確かにこれは傍から見れば羨ましい行為だ。今となってはロリ巨乳ぽくなっているので一部の男はより俺に対して嫉妬を向けるだろう。しかし本人にしてみれば溜まったものではない。正直な話、リゼットが12歳の時に中学に来ていなかったら俺は本能の赴くままに行動していたと思われる。
「ご主人様、キスしてください」
「………いや、妹にするのは流石に………」
「わたくしは奴隷ですよ?」
俺は仕方なく……おでこにキスをした。
大体、リゼットは俺を怖くないのだろうか? 仮にも俺は自分のためにIS学園の損傷なんて気にせずに暴れた男だ。そんな奴を前にしては普通は怖がる。
………まぁ、殺されかけた本音が無防備な姿を晒している時点で今更だと思うが。
「わたくしは別に、何も思っていませんわ」
「………よくわかったな」
「当然。それにあれくらい、三年前から知っていましたもの。今更世界が崩壊したところで大して驚きもしませんわ」
「いや、そこは驚けよ」
「それにわたくしは生きていますから大丈夫です。そう、わたくしさえ生きているならそれで構わないのです!」
堂々と言うリゼットだが、人としてそれは仕方がないことだ。まぁ、齢15の少女に死ねなんて言うつもりはないが―――
「それにわたくしはまだ一人もご主人様の子供を産んでませんのよ? 最低100は産んで当たり前なのですから」
………死ななくていいから、狂いに狂ってしまったその思考はどうにかしてほしい。
以前の状態になってリゼットを空港まで送った俺は、ペガスで帰る。お別れのキスを10秒以上させられたけど、VIP用待合室の出来事なので速報に乗ることはないだろう。
(来年にここに入学するつもりなのか、あいつ)
先程、リゼットに「絶対入学して本当の奴隷になる」と宣言された時は全員が苦笑いしていたものだ。
来年には入学したら「ご主人様と記念撮影」とか何かと理由を付けては迫ってきたり、部室とかに来て「調教してください」とか言われたりする可能性が高い。……ちなみにこれ、全部三年前に言われたことだ。……まぁ、部室とかはこれからできるだろうが、絶対そういうのに使う気はない。
IS学園に戻ってきた俺は体育館の前で降ろしてもらう。
遅れてきたが、そのことは既にニヤニヤ顔で理事長から許可を得ているから大丈夫だろう。
そう思いながら中に入ると、全員がこちらに注目しなかった。俺が気配を消していたということもあるが、何よりも織斑千冬が怪我をした状態で出席しているからである。
俺は密かに列に紛れていると、タイミングよく楯無が派内を始めた。
「みなさん。先日の学園祭ではお疲れさまでした。それはこれより、投票結果の発表を始めます」
あぁ、そう言えば色々あったけど、学園祭ではそんなことをしていたな。
そもそも俺が参加することにはなっていなかったはずなのだが、おそらく俺という雑魚(ただし世間体から見て)を餌にすれば何か操作しやすかったのだろう。
「一位は、生徒会主催の観客参加型劇『シンデレラ!」
「「「………え?」」」
まさかの答えに一同は驚きを露わにした。
そりゃそうだろう。客を呼び寄せるために色々と回ったが、どの部活動もそれなりに頑張っていたからな。
「卑怯! ズルい! イカサマ!」
「何で生徒会なのよ! おかしいわよ!」
「私たち頑張ったのに!」
「劇の参加条件は「生徒会に投票すること」よ。でも、私たちは別に参加を強制したわけではないのだから、立派に民意と言えるわね」
…………絶対何かヤバい提案したな、あの女。
ブーイングを制した楯無はある提案をする。とうとう織斑を生徒会の奴隷にするのだ。
「はい、落ち着いて。生徒会直属のボランティア部に入部する織斑君は、適宜各部活動に派遣します。男子なので大会参加は無理ですが、マネージャーや庶務をやらせてあげてください。それらの申請は、生徒会に提出するようにお願いします」
改めてボランティア部と聞くと、ろくでもない奴らが脳裏によぎる。主人公の叔母が同い年で、あるワードを言えば切れるあれだ。
「ま、まぁ、それなら……」
「し、仕方ないわね。納得してあげましょうか」
「うちの部活は勝ち目がなかったし、これは棚ボタね!」
すぐさま各部活動がアピールを始めたが、すぐに楯無が制した。
「続いてクラス別の発表ね。この一位はみんな知ってる通り、一年一組の「ご奉仕喫茶」。クラス代表は前へ」
言われて織斑は壇上に登る。
だがまぁ、当然の結果だ。俺があれだけアピールしただけではなく、教師を利用するという汚い手すら使ったのだ。勝てないわけがない。
(あとは、特権でアイデア部の部室を提供してもらうだけだ)
なぁに。喧嘩になったところで自分たちが最強とかほざく雑魚共如き、どうとでもなる。
賞状を受け取った織斑は列に戻る。ようやく解散だと思った矢先、予想外のことが起こった。
「さて、最後にミスIS学園の発表をするわ」
途端に体育館が湧いた。
(……ああ、そう言えばそんな行事があったな)
読んで字の如くとでも言うのだろうか。IS学園の中で一番人気なのは誰か、というのを決める投票だ。
流石に男だから参加する気にはなれなかったので当然スルー……するつもりだったけど、虚さんみたいな人が不人気なのはおかしいので投票した。
楯無は結果が書かれている紙を出して発表する。
「まず第三位 一年一組 シャルロット・ジアンちゃん」
自分には関係ないのであまり反応を出さない。いや、もしかしたらジアンは執事服の影響もあるかもしれないな。男装の評価も結構高かったし。……本人は嫌らしいけど。
「そして第二位 三年二組 布仏虚さん」
一応、年齢的に先輩だからかさん付けに変えたな。
次はいよいよ第一位だが、おそらく楯無だな。……もしくは意外…というわけではないが、本音やラウラもあり得るかもしれない。特にラウラは最近妹力が上がってきているからな。
「最後に第一位は……………桂木悠子……さん」
元々楯無だろうというムードを氷漬けにしたような雰囲気が漂う。わかるぞ。アンタらだって焦るというか驚いているんだろう。
―――俺だって驚いているからな
そもそも何で女装が登録されているのかは甚だ疑問だが、今はそれどころじゃない。
すぐさま女装した俺はその雰囲気に溶け込んだ。
「ではそれぞれに賞状を渡します。まずは桂木悠子さん、前に来てください」
どうせ女の子っぽいものだろうから、後でラウラにあげようと考えながら前に向かう。そして壇上に登って楯無の前に立つ。
規則で指定敷地外のISの使用は原則禁止されているのでどういうことかは聞けないが、後で念入りに聞いておこう。
そう心を決めて平静を保っていると、待ったがかかった。
「―――待ちなさいよ」
あれは二年生のところか。
その二年生と思われる奴は俺を親の仇と言わんばかりに睨んでいる。
「何でミスコンに男が選ばれるのよ。おかしいじゃない!」
それを聞いた俺はある名案を思い付いたのですぐに言ってやった。
「簡単な話。あなたたちのような俗物と違って私が美しいからよ」
■■■
実のところ、悠夜=悠子と知っている人間は意外と少ない。
「シンデレラ」の一件で参加しているのは学園内の生徒の大半を占めていたが、先輩からの圧力などで大半が辞退したのである。
だがそれでも悠夜の顔が顕わになったり、見たことがない女生徒のことで情報が出回ったことで一夜にして悠夜
=悠子という構図が一瞬で知れ渡っていた。
ちなみに、女権団の生き残りが報復のために悠夜と幸那をターゲットにして殺そうとしたが、悠夜の姿を見たものはリゼットの一件のみで以降は「シンデレラ」ぐらいしか目撃されていないこと、その後の騒動で完全に断念することになった。幸那の場合、何人か現れていたがある幼女によって全治3か月の大怪我を負わされていた。
そして悠夜の知らないところで登録されているのは、簪が原因だったりする。
予め女装をすることを知っていた彼女は密かに悠子をぶち込んでいた。もし入賞したら、その時は日頃の感謝を込めて学園から支給される賞金10万円を渡そうとしていたのである。もっとも、これまでの功績を考えれば常に多数の人間を助けてきた悠夜に対して少なすぎると簪は思っていたが。
「―――簡単な話。あなたたちのような俗物と違って私が美しいからよ」
それを聞いた簪は顔に出さなかったが物凄く笑っていた。悠夜が大抵、自分たちを含めて侮辱する時は心中で後悔するからである。
「な、なん―――」
「楯無。私の票はどこで稼がれているのかしら?」
「えーと……主に外部票ね。この投票は外部……つまり外からの人たちからが多いわ」
「そう。つまり、外からの人間にしてみればあなたたちなんかより私の方が魅力的に映ったってことでしょ? そんなこと、言われないとわからないのかしら? ただでさえ、弱すぎて話にならないと言うのにそれ以上に馬鹿だなんて……ホント、可哀そう」
先程まで茫然としていた女子たちも、それを聞いて怒りを露わにする。
だが悠夜の……悠子のある一言で全員沈黙した。
「―――何人かは知っているみたいだけど、織斑千冬をああいう風にしたのは私よ」
全員が騒然とした。
世界最強として名高い織斑千冬。その身体能力の高さは彼女から教えてもらった生徒はよく知っている。それが雑魚と思っている男子生徒が大怪我を負わせた。事実、千冬じゃなければこうして出歩くこともできないレベルのものだが、大半の生徒が信じられなかった。
「―――自白したな」
壇上から降りていちゃもんを付けた生徒を精神的に潰そうとした悠子の前に列から離れた一夏が現れた。
今の一夏は昨日のこと、さらに千冬をあんな目にしたことで怒りを露わにしているが、当の悠子はどこ吹く風。最初から一夏は眼中になかった。
「ええ、したわよ? だったら何?」
「謝れよ」
「…………何故かしら?」
一夏の言う通り、ここは悠夜に非があるだろう。
だが悠夜にしてみれば邪魔な奴の後ろ盾が偽善で自分の価値を証明をするのを妨害されていると認識であり、それ故に潰しただけである。むしろ、「最強と呼ばれた奴がその程度かよ」と落胆するレベルだ。
「だって、千冬姉は止めようとしたんだぜ! それを一方的に攻撃してあんな状態にして! 嫁に行けなかったらどう責任取るつもりだよ!?」
それを聞いた悠子は盛大に笑った。
そして女装を解いて服装だけがIS学園の男用制服になった悠夜は言った。
「嫁に行けたら? そもそも嫁に行く宛てがあるか怪しいものだろ」
「何?」
「まさか、本当にIS学園に入った女がまともに結婚できると思ってるのかよ? だったらお笑い草だな。女尊男卑でああまで女が狂った以上、男尊女卑で男が猛威を振るわなければまともな結婚なんてできるわけがないだろう。そんなことすらわからないのか? 本当に馬鹿―――いや、未だに白式を使うことに疑問を持たない奴に言うのも今更か」
「何だよそれ! 何でそんなことを言われなきゃいけないんだよ!?」
その言葉がおかしいのか、悪い顔をする悠夜。
「忘れたのか? そもそもお前の機体は「データ取り」の名目で渡されたものだ。だというのに、他の武器は受け付けない、エネルギーを食らいすぎる。特に前者は致命的すぎるだろう。さらに言えば、操縦者であるお前が「零落白夜」の特性に依存している。楯無との訓練で多少は解消されたようだが、それでもまだまだだ。おとといのことでよぉーくわかった。俺とお前は合わない。女尊男卑の中で生きてきた俺と、姉の栄光の陰で良い思いをしてきたお前とはな」
「そんなこと、あるわけ―――」
「いいや。お前はそういう風に生きてきた。だからこそ、周りがどんな思いを感情を向けているのか理解していないんだ。そんな輩に俺が負けるわけがないだろう」
一夏は戦闘態勢を取るが、それを止めたのは千冬だった。
「止めろ織斑。昨日も言ったが、お前は桂木に勝てない!」
「止めないでくれ! あの時はあの時、今は今だ!」
そう言って一夏は悠夜に殴りかかるが、その勝負は一瞬で決着が付いた。
一夏の前から消えた悠夜。だがそれは後ろに回っただけであり、その手にはルシフェリオンに搭載されている《ディス・サイズ》が握られていた。刃は一夏の首元を捉えており、やろうと思えばすぐに狩れる位置にある。
「今は今、か。随分と都合の良い言葉だ。この学園に所属する大半の奴らが本気になり、ISを展開して束になって来たところで、本気になった俺に勝てるわけがないだろ。たかがあんな機兵如き、さっさと倒せない時点で俺以下だ」
そして悠夜は《ディス・サイズ》を収納し、楯無の横に置かれているトランクに鎖を飛ばして回収する。
「今日は退散させてもらおう。昨日は精神的に寝れなかったからな」
「待ってください、兄様」
後ろからラウラが後を追う。それを見て簪と本音が羨ましいと思っていた。
その光景を見ていたダリルは、二人と同じく歯がゆい思いをしていたが、もう一つの感情を抱いている。
(このままいけば……あいつはかつての……いや、それ以上の力を取り戻す。なら、早めにオレと来るようにしないと……でも―――)
本当にそれができるのだろうか?
かつてダリルは悠夜と会ったことがある。その時は従者と妹を連れ添っていたのだが、情報によると悠夜はその場に妹と昔ともにいた従者がいたのにも関わらず追い返したと聞く。
そんな奴相手に、大した交流がない自分が本当に相手を口説き落とせるのか疑問を感じ始めていた。
(………というか、無理じゃね?)
なにせガードが物凄く固い。信じている者以外は一切寄せ付けない。さらにさっきの見下し発言も自分に敵意を持たせて敢えて人を寄らせないようにしているだろう。
そんな周りと比べて少しは交流がある彼女は、内心自分の相棒を犠牲にする案を出していた。
たぶん次回ぐらいで次章に行くかなと思います。
もう話数なんか気にしてられるか!