IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

107 / 160
#107 過去の騒乱

 ―――桂木悠夜を選ぶ

 

 そう思った楯無だが、彼女の脳裏に自分が一夏と密着したのを見た時の悠夜を思い出す。

 あの時は爆発が近かったこともあって念のために選択した。場合によってはその身を挺して守るためだ。

 

 ―――もしかして、それが原因で……?

 

 そんなはずはない、と楯無は首を振る。

 だが彼女にはどこか、「もしかしてそうかもしれない」という妙な確信があった。

 

 しかしそれがわかるのはずっと後になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライバル……その意味をなんとなく察した俺は、簪の方を見る。

 だが肝心の簪は何とも思っていないようだ。

 

(…………耐えて正解、だったみたい……?)

 

 しかしあのババア、何もあんな堂々と言わなくてもいいだろうに。

 

「―――とまぁ、普段なら言っておるところじゃがな、今となってはそうは言っておられん」

「…どういうことだ?」

 

 思わず聞くと、ババアが俺を見てニヤニヤし始める。

 

「ほほう。それを聞くにお主、まさかどっちかに惚れているな?」

「……………いや、それはない」

「怪しいのぅ。もしかして、姉の方に惚れているとか―――」

「惚れている、惚れていないに関係なく冷静に考えてみろ。あれだけ女性としては魅力的な体型をしているのにまったく襲わない俺だぞ。どう考えても惚れてない―――」

「何を言う。単にお主がヘタレなだけじゃろう」

「上等だババア、表出ろ!」

 

 今こそ決着付けてやらぁ!!

 そんな勢いで立とうとする俺だが、何故かその場から動けなかった。

 

「やれやれ。悠夜君、君が暴れてどれだけ大変だったかわかりますか?」

「あの場合、本音と虚さんさえ無事なら全く問題ありません!」

「それに関しては同意しますが、今回ばかりは流石に反省してください。大体、二人が戦ったせいでVIP用シェルターが破壊されたんですよ?」

「えー。だって相手は悠夜だったしぃ」

「すみません。相手は一見ロリにしか見えないババアだったので、つい……」

 

 言い訳がするが中々移動させてもらえなかった。

 

「ともかく、しばらくは暴れるのは控えてください。特に今は大人しくしてくださいね」

「………わかりました」

 

 そう返事すると、十蔵さんは「よろしい」と答えてババアに続きを話させる。

 

「さて、さっき言った通り、今は四元属家との婚姻は例外的に認められている。理由は既に我々が長年築き上げてきた土地がある者の手によって滅ぼされたからじゃ」

「ある者?」

「織斑一族じゃよ」

 

 ……そう言えば珍しく、本当に珍しくババアが織斑に敵対意識を持っていたな。

 ババアにしてみればあれくらいの存在は小物として認識するから、あれほどの意識を向けることはないはずなのに。

 

「まぁ、あの辺りの話を聞くのはフローラの方が―――」

『呼びましたか?』

 

 ババアの後ろに急に水が形成され、人の形をした水人間と呼べるべきそれが立っていた。

 

「いたのか」

『はい。退散するつもりでしたが、次代の王がどのような存在か一目見たいと思いまして。曾孫たちが随分とお世話になっているようですしね』

 

 何だろう。今の言い方、誤解されているような気がしてならない。

 すると入り口のドアが開き、そこから20代の女性が入ってくると同時に水人間が霧散した。

 

「初めまして、悠夜王子。私はフローラ・ヴァダー。水の従家です」

「……どうも。っていうか王子はマジで止めてください」

 

 物凄く恥ずかしいんです。

 そもそも俺、義母がアレですけどほとんどお手伝いみたいなことばかりしていましたから一般の出と言っても差し支えないんですが……。

 

「では、陽子様に代わってここからは私が説明しましょう」

 

 そう前置きしたフローラさんは話を始める。

 

「あれは今から60年前。我々神樹人がまだ外界との交流をほとんど禁じていた頃、突如としてアメリカと日本の連合軍が神樹国を攻めてきました」

「60年前? なら、あなたはまだ―――」

 

 近くに座っているラウラの口を塞いで俺はそっと耳打ちした。

 

「あのババアが未だにロリなんだ。だとしてもあの容姿で60年以上生きていてもそこまで驚くべきことではない」

「ふむ。確かにな」

「続けさせていただきますね。 

 神樹人はこれまで外界との接触を完全に禁じたわけではありませんでした。日本に百聞は一見に如かずという言葉がある通り、完全に聞くだけではいくら我々の能力が高いとはいえ後れを取るという方針があったためです。雑族と言っても要は多岐にわたる能力保持者。火、水、風、土以外にも様々な能力を持つ者がおり、王族と四元属家は隠密に長けた能力を持つ一族を選んで密偵を飛ばしていました」

「その内の一つは、織斑ってことなんですね?」

 

 ラウラの言葉にフローラさんは頷いた。

 

「はい。ですが織斑は禁忌を犯したのです。密偵と言う立ち場を使い、まずは日本に密告と同時に雑族の一部にある噂を流しました。王族と四元属家が本格的な奴隷制度を取り入れようとしていると。元々王族は神樹様の声を聴き、それを皆に伝える役割を担っていたより力が強い一族が代々務めていただけの役柄。万が一に外界との接触を行った場合、代表がいるからと取り入れただけの制度に過ぎなかった」

 

 前々から碌なことをしていないとは思ったが、まさかそんなことを先祖がしていたとはな。……ってことは待てよ?

 

「つまり織斑も能力者、ということですか?」

「敬語じゃなくてもいいんですよ?」

「敬語にしますから」

 

 というか、水人間を精製できる時点でただ者じゃないことぐらいわかるし、そんな奴らに対して無駄に喧嘩を売る気はない。

 

「いえ。織斑一族が能力を持つことはありません。彼は裏切り者として処分されたため、王族に伝わる「永封縛」を駆けられたため、能力そのものを失ったのです。その内の一人である織斑千冬があれほどの能力を持っているのは本来ならばありえません」

 

 ………となると、何らかの形で封印が解かれたと考えるべきだろう。

 いくらババアの存在があったとはいえ、7月の時点で織斑千冬の能力は俺を下回っていた。純粋種(厳密にはそうではないが)は超えられなかったと考えるべきか。

 もしくは弟の方に何か仕掛けが施されているとか?

 

「聞くところによると、悠夜様も織斑の巻き添えを食らっているとか?」

「ええ。まぁ………でも今では何だかんだで結果オーライとは思っていますがね」

 

 黒鋼をリアルで使えるのは、本当に今までの苦労を報えるぐらいの価値はあると思う。

 

「あの~」

 

 すると本音はゆっくりと手を挙げた。

 

「何でしょう、本音」

「それで、公平を期すために結婚できないって話ですけど~、結婚以外に愛人とかなら大丈夫なんですか~?」

「いえ、愛人も一切ダメでした。確かに過去、愛人を作る方はいましたが、それはすべて雑族でしたから。ですが、崩壊したことにより神樹人は離散。事実上、法律なんて崩壊しているようなものですから」

 

 気のせいかな。簪が腕を隠しながらガッツポーズしている。そんなに俺がいいのか疑問だ。

 だってそうだろう。結局俺はわがままで救いようがないほど幼いのだ。独占が強いのも、王族の出ではなくわがままだからと言う理由でしかない。

 

「それに、今は風の一族―ガンヘルドが取り入っている……というか制限がなくなったことで恋愛に発展しているという話ですし」

 

 そこまでフローラさんが言うとドアが勢いよく開かれた。

 また織斑なのだが、いい加減学習しろよとため息を吐きたくなる……はずだったが、何故か様子がおかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、とある場所では暴動が起こっていた。

 その場所はまるで嵐が過ぎ去ったかのような惨状となっており、何人かが犯人と思われる少女の周りで倒れている。幸い、命に別状はないようだ。

 

「―――もう我慢できません」

 

 そう言って少女―――ミア・ガンヘルドはジャマダハルに風を纏わせた。

 

「私は今日限りでここから出て行かせていただきます」

「―――何度言えばわかるの。あなたにはあなたの役割があるのよ」

「それは嫌味ですか!」

 

 そう言ってミアはジャマダハルを振ると、風が鞭のようにしなって辺りを破壊する。

 だが突然、それが霧散して破壊活動が終わらされた。

 

「サーバス様。あなた様は下がってください。これはガンヘルド一族の問題。あなた様の手を煩わせるわけには―――」

「だが、彼女をHIDEに縛っているのは私だ。組織の長として、私が彼女の理由を聞く権利と義務がある」

 

 サーバスは自分に従うミアの同種を下がらせて前に出た。

 

「さて、ミア。君の意見を聞こうか」

「ユウ様の所に行きたいです」

「バカにするつもりはないが、予想通り過ぎて逆に笑いが漏れそうだよ」

 

 そう言いながらサーバスはミアに慈愛の笑みを浮かべた。

 

「だがミア、今の君には暁の世話をする役目がある。それじゃあ不服かい?」

「………確かに、神樹国が荒らされ、再起ができなくなった今、四元属家は王族と共にあるべきでしょう。ですが、私はユウ様と共にいたいんです!」

 

 そう言ってミアは周囲に竜巻を展開して無差別に攻撃を繰り出した。

 

「ミア、力を納めさない。サーバス様の御前です」

「それはリア姉様がサーバス様と共にいれるからでしょう!」

 

 まるで子供の癇癪だとリアと呼ばれた女性は思った。

 

「ティアもそうです。リア姉様もティアも、それぞれ望んだ主の元にいれるから、そんなことを言えるんです! ですが私は違います!」

「だがあなたがここにいるのを望んだでしょう?」

「それはユウ様のためです!」

 

 リアの言葉をかき消すようにミアは叫んだ。

 

「10年前、私はまだ未熟で今の世界にユウ様といるのが危険で、私みたいなのがいたらユウ様の迷惑になるから離れました。ですがそもそも、本当なら今年4月からユウ様と一緒に暮らしていいという話だったじゃないですか!」

「事情が変わったのです。それぐらい聞き入れなさい」

 

 厳しく言い含めるリアに対して、ミアはさらにわがままを言う。

 その光景を見ていたサーバスは一人、考えていた。

 

(確かに、そろそろ頃合いか)

 

 サーバスは今すぐ二人の喧嘩を止めさせ、ミアに準備させようとした。しかしそれよりも早く喧嘩を止めたものが現れた。

 

「―――悪いねミアちゃん。もう少し大人しく待ってもらえないだろうか?」

「………技術主任。どうしてですか」

「僕の予想だよ。来月ぐらいにウサギが動きそうだと思ってね。それも世界の命運を左右するほどの」

 

 技術主任は楽し気にそう言うが、ミアは訝し気にその技術主任を見る。

 

「あー、勘違いしないでほしいんだけど、別に僕は君の家が「ガンヘルド」だから嫌っているとか、そういうわけじゃぁない。むしろいいじゃないか。10年間も何度も過ちを繰り返し続けたあの子を慕ってくれるなんて。今すぐ行かせたいっていうのが本音なんだが………君にはもう少し待ってもらいたいんだ。それ以後は好きにしてもらって構わない」

「本当ですか!?」

「………大丈夫なのか?」

 

 すると男は「もちろん」と自信満々に答えて堂々と言った。

 

「僕たちの目的を考えても、その時期に彼女を向こうにやった方が良いと思ってね」

「………確かにそうだが」

「それにまだその時期なら彼女もいるだろう」

 

 技術主任の言葉に納得するサーバス。ため息を吐いて改めて命令する。

 

「ではミア、君は時が来るまで暁の面倒を頼む」

「わかりました!」

 

 そしてミアはすぐに力を使い、周囲に壊されたものの修繕に当たる。

 

「……で、実際はどこまで本当なんだ?」

「すべてだよ。今日から大体1か月後、地球は消滅の危機に瀕する。そして彼女はそれを止める鍵の一つだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然現れた織斑の様子はおかしいの一言に尽きる。

 何故か怒りを露わにしており、まっすぐ俺の方へと来た。

 俺はすぐさまベッドから飛び出して織斑の行く手を阻もうとしたが、それよりも早くラウラが俺と織斑の間に割って入る。

 

「何用だ? 今は我々がこの部屋を使っているんだぞ」

「退けよラウラ! 俺は悠夜に用が―――」

「だから、こっちは話してんだよ。終わるまで待て」

 

 だが織斑は聞く耳を持たないのか、ラウラを押して俺に掴みかかってきた。

 

「どういうつもりで千冬姉に攻撃したんだよ」

「は? ………ああ、何度か攻撃したな」

 

 そう言えば忘れてた。あの女、今はどうしているんだ?

 考えていると前方から拳が飛んできたので俺はそれをいなした。

 

「何で千冬姉を攻撃したんだよ! 千冬姉が一体何をしたって言うんだ!」

「周りに俺との差異を見せつけるために利用しただけだ。アンタの姉を使えば少しは理解が追いつくとは思ったが、どうやら女尊男卑に染まった馬鹿はただの馬鹿ではなくて救いようのないゴミだったようだな」

「それだけじゃない! どうしてあの時、素直に白式を返してくれれば、俺だって力になれたのに!」

「……力になれた、か。それはないと断言できる」

「何で!?」

「少しは俺とお前の差を理解しろ、クズ斑。現にお前はあの時、バックアップをしている俺のことを考えず動いていただろう」

 

 指摘すると図星を突かれたからか、織斑は黙った。

 するとドアが開かれると、慌てた様子で篠ノ之と鈴音が入ってきた。

 

「何をしている一夏! ここでは話をしているだろう」

「ごめんね、悠夜。今すぐ出て行くから」

「待てよ! 話はまだ終わってない!」

「こっちの話も終わってないっての」

 

 まったく。何でこいつはこうも教養がないのか。……人のこと、言えないけどさ。

 鈴音が申し訳なさそうにドアを閉めると、全員が呆れを見せていた。

 

「さっきの織斑一族の末裔か。随分と慌ただしい存在だな」

「じゃろう? あれが将来、ワシらを脅かした存在と同種になると思うとゾッとする。どうにかできんのか、十蔵」

「無理ですね。彼、以前悠夜君にボコボコにされましたが、結局向上心が見られなかったようです」

 

 少しは成長する意思はないのだろうか。

 そう思ってため息を吐いた俺は、ラウラを抱えてベッドの上に座る。

 

「話を戻しますが、色々あって私たちは離散しました。しかし国民の大半が殺されてしまい、国は核爆発と自爆奥義によってすべて破壊しつくされてしまったのです」

「その自爆奥義って?」

 

 本音が質問する。俺の脳内にメガ○テが出てきたが、フローラさんの口からとんでもない言葉が出てきた。

 

「『ニュークリアエクスプロージョン』……つまりこちらも国を消し、私たち神樹人を逃がすために、陽子様の二代前の王と王妃が自爆しました」

「……………」

 

 俺たちは思わず黙ってしまった。

 奥義が核爆発で、やりようによってはそれを実現可能なのだと。

 

「どうして二人はそこまでして国を燃やしたのですか?」

 

 ラウラの質問はどうやらかなり重要なようで、三人は軽く指を動かす。

 

「結界を張りました。ここからは特に口を割らないでいただきたい。特にラウラ・ボーデヴィッヒ」

「わ、私ですか……?」

「あなたがかつて、織斑千冬を師として教えを請い、軍の教官になってもらおうと動いていたのは知っています」

 

 そのことを指摘されたラウラは顔を青くする。が、それを庇ったのは簪だった。

 

「大丈夫です。今のラウラは悠夜さんのもの、きちんと忠誠を誓っています」

「ですが、万が一と言うことも―――」

「それに関しても問題ありません」

 

 そう言って簪は懐から液体の入った瓶を出した。

 

「これは強力な媚薬です。あなたから借りた本の中にあったものを調合しました」

「……アレですか。なるほど。確かに強力ですね―――

 

 

 ―――なんせアレは、性病にかかる要素がないのにも関わらず、人の尊厳を失う代わりに○EXすることしか考えられなくなるもの。やりようによっては今後は性行依存症にできますからね」

 

 ヴァダーの一族はそろって俺を見る。ちょっと待って。まさか俺に使おうとか考えていないよな!?

 

「………たすてけ」

 

 どうやらラウラも自分が使われると思ったらしい。どうやら俺たち二人は意外な人物に尊厳を持っていかれそうになっていた。

 十蔵さんが密かに殺気を飛ばしつつ俺に合掌しているのは、気のせいだと心から思いたい。

 

「あ、あの、そもそも二人はどうして自爆なんてしたんですか!?」

 

 話題を変えるために質問すると、「そういえば、その話をしているんでしたね」とフローラさんが言った。

 

「自分たちの科学力を隠すためです。外界が核爆弾が切り札に対して、私たちは今の数十倍先の科学力を持っていましたから」

 

 科学と異能が交差させるできるならそれぐらいの科学力を持っていてもおかしくはないと、俺は思わず納得してしまった。




ということでなんとか秘密編に区切りをつけることができました。意外に長かった。


※次回予定

自分の本当の立場を知った悠夜。だが彼は育ち故か未だに実感がわかないでいたが時間は止まらない。
後夜祭はなくなったが学園祭が終了し、あることが発表された。

自称策士は自重しない 第108話

「結果発表~ヒミツの催し~」

「これで俺は……手に入れられる!!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。