IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#106 「桂木」の秘密

 十蔵と陽子が悠夜の元に訪れる少し前。

 目を覚ました楯無は状態を起こすと、目の前には最愛の妹の姿があった。

 

「簪ちゃん……」

「おはよう、お姉ちゃん」

「………おはよう」

 

 挨拶が終わるとお互い沈黙する。しばらくすると簪が口を開いた。

 

「……お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫。………ダサいよね、侵入者に負けるなんて」

「そんなことよりも聞きたいことがある」

 

 ―――そ、そんなこと?

 

 自分の敗北を「そんなこと」呼ばわりされたことに少しショックを受ける楯無だったが、次の言葉に別のショックを受けることになった。

 

「お姉ちゃんが急に織斑君に構いだしたのは、日本政府からの指示?」

「………そうよ。でもまぁ、流石にそろそろ手を出しておいた方が良いって気持ちはあったけど―――」

「手を出す?」

 

 謎の殺気に襲われた楯無は、唐突のことに身震いした。

 

「手を出すってどういうこと? 織斑君と何かあったの?」

「ちょっ、待って。少なくとも、簪ちゃんが考えていることじゃないわ!」

 

 楯無の言葉を信じられないのか、簪は訝しげに楯無を見た。

 

「だってほら、周りがあんなに織斑君を推すからどんなのかなぁって思ったけど………正直、アレはないわぁって思うほどよ。わかりやすいサインを見逃しすぎ」

 

 ダメ出しを始める楯無。だが簪は首を傾げてはっきりと言った。

 

「そんなの、今に始まったことじゃない」

「……もしかして、悠夜君みたいにワザと無視しているのかなって思ったのよ」

「………ああ」

 

 日頃から華麗にとは言えないがそれなりにサインを無視する悠夜を思い出しながら簪は相槌を打った。

 悠夜がわざとサインを無視する理由を二人は既に知っている。本当なら苛立つ行為とも取れるが、要するに悠夜が自分に自信がないとも思っている。

 それでも簪は秘密を知っているということもある。そして何より、悠夜と一緒にいるのが心地いいのだ。そしてそれは、他のメンバーにも言えることだ。

 すると簪が持つスマホから音が鳴る。

 

「……どうしたの?」

「……師匠に呼ばれてるから、行ってくる」

 

 ―――どうして師匠に?

 

 二人……布仏姉妹を合わせた四人の師匠とは陽子のことだ。

 一昔前、長期休暇を利用して四人で陽子のところに世話になっている。悠夜と会わなかったのは、まさしく奇跡と言ってもいいほどだった。

 

「いってらっしゃい」

「……そうだ」

 

 楯無の部屋は個室となっている。

 生徒会長ということが理由の一つであり、場合によっては重要な書類に目を通す必要もあるので、敢えて個室が用意されていた。

 簪はドアの前で止まり、楯無の方を向く。

 

「……悠夜さんのこと、どう思う?」

「またその質問? もう何度も言ってるでしょ」

「それ、これを見てもまだそう言える?」

 

 そう言って簪はファイルをフリスビーを投げる要領で楯無に渡した。

 

「ちょ、簪ちゃん」

「虚さんからの報告書、読んでおいて」

 

 簪が部屋を出たことを確認した楯無はファイルから報告書を取り出すと、そこには悠夜が陽子と戦い、その顛末が書かれていた。

 

「……何これ……」

 

 それは楯無の常識を覆すほどだった。

 二人は異能とも言える能力、そしてシェルターに被害が起こっても終わらない戦い。それを止めるため、自分たちが無理やり人質にさせられ、それ故に悠夜が重役を殺しかけたが、本音のキスによって力が霧散し、奇跡的に死者が出なかったことが書かれていた。

 そして重傷者リストには「織斑千冬」の名が記載されていて、治療に関する経過が書かれていた。そこには、「未だ目覚めず」という記載もある。

 

「………嘘でしょ」

 

 だが、事実だった。

 もはや、ISが世界最強など言えない。むしろ悠夜と陽子がISを超えている恐れがあり、世界各国からそれに関する問い合わせ、二人を誘拐または殺害を目論む国が出てくる可能性があり、IS学園がより危険な立ち場になる可能性も示唆されている。

 そこで楯無は、簪が自分に何をさせたいのかを察した。

 

「……まさか簪ちゃん、私に悠夜君をコントロールをさせようとでも言うの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――俺の秘密?」

 

 唐突にそんなことを言うババア。見た目は幼女だが、もしかしてというかようやくというか、狂ったのだろうか?

 

「そうじゃ。その前に、本音、簪、ラウラ。お主らは、悠夜と共に歩む覚悟はあるか?」

「覚悟、ですか?」

「そうじゃ。内容次第では、今後悠夜との関わりを絶ってもらう」

 

 ――ちょっ!?

 

 いや、俺的にはありがたいことだ。そうすれば性欲と戦わずに済むし、何よりもこれ以上、俺のせいで犠牲になるわけには行かないだろうし―――

 

「確かに、ゆうやん……悠夜君のあの力は怖いって思いました」

 

 ……そりゃあ、近くで人が血だらけになっているのを見せられ、挙句に人を躊躇いなく殺そうとしたなら怖いだろうよ。

 これで本音とはおさらばだなぁと何故か内心悲しみながら思っていると、

 

「でも、私は悠夜君が悪い人だとは思いません。昨日のアレも、私たちを人質に取ったからしたことだし……」

「………まぁ、あやつらの言い分はわからくもないんじゃがな。目の前であんなことをされたら、誰だってあの行為に走る」

「……それは……」

 

 本音は口を閉ざした。……やっぱり本音も怖かったんだろうか。

 俺の場合は確信犯だったんだが、何よりもババアを倒すことしか頭になかったから本音や虚さんを気にする余裕なんてなかった。知らなかったってのは、やはり理由にならないだろう。

 

「悠夜。一つ聞くが、あそこにはワシがおったからあそこで戦ったのか?」

「ああ。それもあるが、何よりも織斑千冬に他の雑魚もいたからな。いい加減、ウザく感じていたから自信喪失させることも狙いに入れてあそこで戦った。まぁ、それで死んだとしてもどうでもいいがな」

 

 流石にここまで言ったら誰か俺に見切りをつけるだろうと期待したが、誰もそんな風じゃない。……何故だ。

 

「もしそれが原因で、彼女らの誰かが誘拐されたらどうするつもりですか?」

 

 十蔵さんが尋ねてくるが、俺は思わず顔を逸らした。まったく考えていなかったのだ。

 

「そこまで考えて行動してもらいたいものですね」

「………すみません」

「まぁ、私もあれほどの物を見せられては倒そうなどとは思いませんがね」

 

 そうだとしても流石に対策を練るべきだったな。

 

(一人一人にバリア発生装置とかでも作るべきか……?)

 

 そんなことを考えていると、ババアが次にラウラに尋ねていた。

 

「して、ラウラは?」

「兄様に拾われて以降、私は兄様の物です。例え師匠のお眼鏡に叶わないにしろ、兄様が私を求めないにしろ、私は兄様の傍を離れません」

「……………」

 

 どうやら予想外の答えみたいだったな。俺もそこまで言われて思考が飛んでしまった。

 ババアが呆気にとられていると、それに続くように簪も言った。

 

「私は曾祖母から聞いています」

「………そうか」

 

 ………マジで?

 というか曾祖母が生きてるって凄いな。いや、今ではそれって珍しくもないのだろうか?

 

「まぁ、最初から誰も追い出す気はなかったんじゃがな」

「じゃあさっきまでの問答、いらねえだろ!?」

「それほど大事なことなのじゃよ。なにせワシと悠夜は他の人間と異なる構造をしているからの」

 

 それを聞いた俺の思考はクリアになる。俺が他の人間と異なる構造をしている? まさか俺、アンドロイドとか?

 いや、だとしたらあんな魔法を使えるわけがない。

 

「ところで本音、お主ら、三世代前以降から更識の誰か布仏と結ばれたという話を聞いたことはないか?」

「う~ん。聞いたことないなぁ」

「そうか。ではここにいる中で、本音とラウラだけが違うということじゃな」

「そろそろ本題に入ってくれよ」

 

 俺が急かすとババアは「そうじゃな」と言って話を進める。

 

「実はな、悠夜。ワシらの先祖は恐竜が生きていた時代に存在していたのじゃ」

「……………はい?」

 

 いやいや、確か恐竜が生きていた時ってだいぶ前。人が存在するどころか、まともな知能すらない状況だろ。

 そんなことを考えていると、ババアはさらに言ってくる。

 

「たまにアニメでもあるじゃろう、花から人が生まれる、とかなんとか」

「いや、あるけどさ。………まさかそれが俺たちに当てはまるとか言わないよな?」

「そのまさかじゃ。もっともワシらの場合、地球が形成されて同時期に存在した植物―――ワシらが神樹(しんじゅ)と呼んでいる大樹が生み出したがな。ワシも日本に来る前にその樹を見たことがあるが、かなりの大きさがあったぞ」

 

 そう説明されるが全然ピンとこない。

 

「ともかくじゃ。ワシらの祖先は神樹から生まれ、長い時を世代交代を繰り返した。何度も氷河期を乗り越え、侵入してきた恐竜共をも退けて、な」

「……なるほど。それを可能にしてきたのが、兄様や師匠があの戦いで見せた超常現象の数々なのですね。しかし、それはどうやって知りえたのですか? 人はどのように生まれても必ず指導者が必要となります。原始人のように自ら力を試したのでしょうか?」

「そうだな。現代で言うと、その神樹様が意識を持っていた頃に教えられたと残された文献には書かれていた。まずは字を、それから力をじゃな。もっとも生まれ方が違うと言うだけでワシらも差異はあれど構造は似ている。やがてワシら神樹人(しんじゅじん)がある程度増えた頃に神樹様は旧石器時代には神樹人にすべてを託し、去ったようじゃ」

 

 ……やばい。頭がこんがらがってきた。

 頭に残っている情報を軽く整理する。

 

 地球が生まれた頃に一番最初に誕生した芽。それがしばらくして大きくなり、神樹人を生み出した。自分たちの子である神樹人を教えた神樹人がたくさん生まれ、今の人のような生活ができることを理解した神樹様と呼ばれた大木の意識は消え、以後、ご神木として神樹人の神的存在となった、ということだろう。

 だがこれはあくまでも設定だと言わざる得ないが……ラウラが言っていたように、俺とババアには通常、人が持たない能力を持っているのだ。もし普通の人間と違ってそんな生まれ方をしたなら、そんな力を持っていても不思議ではない。

 

「結局、俺はその神樹人だから、あんな力を使えるとでも言うのか?」

「そうじゃな。それにワシと悠夜は神樹人の中でも力の強い王族の出身じゃ」

「へぇ。そいつは凄いや…………って、今なんて言った!?」

 

 適当に相槌を打った俺は一度流したが、今物凄く大事なことを聞いた気がする。

 簪は前々から知っていたからか特に反応を示さなかったが、初耳だろう本音とラウラは違った。

 

「だから、王族じゃ。そして王族を中心に火、水、風、土の四つの属性を司る一族がいて、後は雑族と分類されていた。もっとも、名前は酷いがちゃんと大切にされていた。まぁ、ワシもそこまで長くその土地にいたわけではないので、その辺りの記憶は曖昧じゃがな。ちなみに十蔵は土を司るヤードの一族の現族長でもある」

「はぃいいいいい!?」

 

 驚かずにはいられなかった。

 だってそうだろう。今まで俺は王族で、一般人と思っていたのは従家の一つなんだから。ということはつまり―――

 

「朱音ちゃんも、そのヤードの一族ってことですか?」

「そういうことになります、悠夜様」

「お願いですから今まで通りの呼び方で呼んでください!」

 

 恥ずかしいというか、正直悲しい。

 ここで俺はあることに気付いた。つまり、俺は今まで織斑と同じで守られるべくして守られていた、ということなのかと。

 

「…………」

「ねぇねぇ、ゆうやん」

 

 つまり俺は、今まで自分のことを棚に上げて織斑に対して無駄に恨んでいたということなのだろうか。

 

「本音、キスしてやれ」

「え? でも―――」

「じゃあラウラ」

「わかりました」

 

 急に唇を塞がれた俺は一気に現実に引き戻された。

 

「ちょ、ラウラ!? 何をしてんだよ!?」

「ワシの命令じゃ。お主は王族じゃが女に対して免疫がなさすぎるからキスするか萌えさせる方が手っ取り早く現実に戻せる」

「そのせいで向きたくもない現実と向き合う羽目になっているんですが!?」

 

 今、涙でこの部屋を満たせる気がする。

 そんなことを考えていると、十蔵さんが言った。

 

「勘違いしているようなので言いますが、私は悠夜君が王族だからと言う理由であなたに専用機を渡したつもりはありませんよ。理事長としては恩賞を、所長としてはあなたの実力を認めたから専用機を渡したに過ぎません。事実、IS学園の部隊はあなたがいるということで救助を放棄したのにも関わらず、あなたは瀕死になってもなお、戦い抜いて勝利をしました。もう一機では疲労しているとはいえ、結果的に3機で対応した機体をです。あの万能パッケージは出力は高いとはいえ合わせても専用機1機分しかありません」

「………そうですか」

「そうですよ、兄様! 兄様は私を助けてくれたじゃないですか!」

「私もだよ。結局、ゆうやんを助けに行くつもりが逆に助けられちゃった時もあるし」

 

 本音はともかく、ラウラの場合は完全に私用だった。

 ラウラの場合、見た目のレベルは高い。もしあのまま帰還した場合、彼女がどんな目に合うかわかったもんじゃない。だから俺が引き取ると同時に着せ替え人形にでもしようと思っていた。

 そして本音は、アレはこっちの事情に巻き込んだだけだ。助けるのは当然だし、前みたいに怒りに身を任せてたら勝手に体が動いただけだ。

 

「まぁ、ワシの結婚相手が日本人じゃから悠夜はハーフみたいなものじゃがな。しかしそれで分かったことが一つだけある。ハーフとして生まれた修吾じゃが、修吾も問題なく能力が使えたのじゃ。つまり、日本人と結婚すれば神樹人の血が色濃く出る。そもそも、神樹人と言っても見た目は様々。色が黒い者もいれば白い者もいる。おそらくは神樹様はこの現状を遥昔から予知していたのじゃろう。少しじゃが、何人かの予知能力者も現れたことだしな。そしてその一人は簪の曾祖母―――フローラじゃ」

 

 俺は思わず簪を見た。ってことはまさか―――

 

「察する通り、簪もお主や朱音と同じ神樹人の血を引くものじゃ」

「だからあの時、私に聞いたんですね~」

「そうじゃ。じゃがよかったのう、本音。これで大分ライバルは減った」

「それってどういうことですか~?」

 

 本音が質問すると、下手すれば重苦しい言葉を堂々と言った。

 

「公平さを保つために禁じられているんじゃよ、四つの従家…正式名称は四元属家の血を引く者と王族が結ばれるのはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 報告書を読み終えた楯無はふと、暁に聞かれた言葉を思い出していた。

 

 ―――あなたは織斑一夏と桂木悠夜、どちらが大切なの?

 

 生徒会長としてなら、弱い一夏を選択する。それは間違いない。

 悠夜は強い。なにせ生身で陽子と少し押され気味だがほとんど対等に戦え、やろうと思えば生身ですらIS学園諸共この島を壊すことさえできるほどだ。それに比べ一夏は弱い。ISにおいても生身においてもまだまだ伸びしろがあるが、自分の立場をまだ正確に把握できていない状態であり、自分から率先して強くなろうとする姿は見えない。鍛えている姿を何度か目撃しているが、それでもどこか嫌々している状態だ。

 さらに言えば悠夜と違って一夏はモテる。女尊男卑となっても結局人は生理行動には逆らえず、今の年頃ならそれなりに異性に興味を持つし、イケメンである一夏は様々なアクセサリを持っている。イケメンで口がうまく、さらに姉はすべての女性の憧れと言っても過言ではないほどの織斑千冬。家事もこなせ、本人は嫌がるだろうが主夫としても十分やっていける素質がある。

 だがそれは、みんなはわかっていないが、悠夜にも言えることだった。入学当初の悠夜はどこ弱々しい雰囲気はあったが、警戒心は強く、頭もよく働く。そして今回のことでかなり露見したが、本音曰く、悠夜が執事服やメイド服を改造しているということは聞いていた。

 

(生徒会長としては、勿論織斑君を選ぶわ。………でももしそれが、一人の女としてなら……)

 

 生徒会長や暗部の長としてではない、もし一般人の更識刀奈としてなら………。

 

(私は……絶対悠夜君を選んでしまう)

 

 彼女は一緒に過ごして理解した。一夏は確かに魅力はある。それは楯無だって認めている。

 

(だって悠夜君だったら……悠夜君だったら私を受け入れてくれるもの……だから私は――)

 

 

 ―――絶対、悠夜君を選ぶ




やっと書けた、悠夜の秘密と楯無の回答。
ちなみに楯無の場合、悠夜との生活が長かったことや簪との関係修復とかも含めてなので、実際こんな感じになるなかぁって。

ちなみに悠夜の秘密に関しては次回に続きます。どう見ても勝手に課した字数制限超えそうだし、ちょうど良いところで切れたので。


※補足説明

・神樹人
地球が誕生してしばらく経ち、成長した樹から生まれた特殊能力を持つ人間。生体機能は現代人と大差がないため、現代人との生殖行為は可能。現に修吾以外にも何人か確認されている。

・神樹様
神樹人を生み出した大樹。現代人が旧石器時代を迎えた時にただの大樹に戻ったらしい。

・四元属家
悠夜ら王族の従家。火、水、風、土の四元素のと同じなため、そういう総称が付けられている。現在判明しているのは土のヤード一族。末代は朱音。

・予知能力者
神樹人の中にちらほら出てきている。







どうでもいい呟き。
王族云々辺りで、悠夜に「だって俺、王子だし」とどこぞの暗殺部隊にいる王子の真似をさせたかった。

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