ハデス様が一番!   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。

今回のエピソードは……ちょっと趣向を変えて、ベルの戦いを「別視点」から書いてみたいと思います(^^
ベルが槍を振るう間、他の面々は何を見て、何を考えていたのでしょうか?

注意:今回はラストのほうにちょいえっちい表現が入ります。苦手な方はご注意ください。


第017話 ”戦術論評もしくは答え合わせ”

 

 

 

さてさて、話はまだベルが30人超のロキ・ファミリア入団1年以内のLv.1(しんじん)相手に模擬戦を繰り広げ、その半ばを過ぎたあたりまで遡る。

 

この時の戦い、実はテラスという特等席に陣取る主神ロキとフィン達”三元老幹部(トリニティ・セナトゥス)”を筆頭に、手の空いていたロキ・ファミリアの多くの冒険者や団員達が観察していた。

 

例えば、前話でロキが集めようとしていた入団して1年以上経つ……もう”しんじん”とルビをふれなくなってしまったLv.1(下級)冒険者達は、嫉妬や羨望という正負入り混じった複雑な感情でこの戦いを見ていたのだった。

 

加えて意外と言えば意外、当然と言えば当然なのだが……

 

「フン……」

 

腕を組み、努めて詰まらなさそうな……興味無さそうな顔をしながら、柱の影からベートがガン見していたりするのはお約束だろう。

 

その後ろ姿を呆れた目で見ていたのは、ベートのお目付け(乱入防止)役をフィンより直々に仰せつかったティオネ・ヒリュテである。

他にも、

 

『見よ! 柱の影のベートきゅんが、まるで片思いの大好きな人を木陰から見つめる素直になれない少女のようではないか! ハッハッハッ! これで勝つるっ!!』

 

と一部の腐敗少女達がインスピレーションを刺激されて大はしゃぎしていたのは、特記しておくべきだろう。

ファミリアの内部に存在すると噂される”非公開会員制秘密(どうじん)サークル”が裏家業として発行している「薄い本」の新刊が、きっと近々秘密裏にオラリオの黒市場に流通することだろう。

ベートが知れば色んな意味で大惨事だが、今のところ機密は守られているようだ。

「知らぬが仏」とはよく言ったものである。

 

『ベル×ベートにするかベート×ベルにするか、そこが問題よね……』

 

『ベートたんなら野獣責め、ベルきゅんならヘタレ責め?』

 

『いやでもベルきゅんって戦い方から考えるとわりと本質はSっぽいから、【狼への兎の強気責め。食物連鎖逆転の悶絶フルコース】とかどう?』

 

『『『それだっ!!』』』

 

 

 

戦闘民族である女傑族(アマゾネス)は目もいいが耳も負けず劣らず高性能だ。

目は1km先の鹿の牡牝を見分けるといわれ、耳は乱戦の最中でも対峙した敵の心音を聞き分けると伝えられてる。

そんな訳で、人目につかないようにコソコソ盛り上がっているBL(腐敗)臭のする会話は、ティオネにはしっかり聞こえていたわけだが……

 

(まったく! あの娘達は、また性懲りも無く……)

 

実はティオネとBL少女隊(サークル)とは浅からぬ因縁がある。

以前、彼女達が「フィン×ベート本」やら「ベート×フィン本」を発行しようとしていることを嗅ぎ付け強襲、極秘裏に一度は組織を壊滅(表向きは事故として処理された)させた上に根こそぎ没収した事があるのだ。

もっとも、サークルはすぐに復活したようだが。

ティオネは、その雑草のごときしぶとさに呆れるより先に感心した記憶がある。

 

(まあ、いいか……)

 

しかし、どうやら今回はフィンに実害が及ばないようなので、彼女は放置することに決めたらしい。

まあ実際に彼女らの裏家業(ふくぎょう)は間接的とはいえファミリアの財政的なメリットはあるし、なにより理解したい趣味ではないが……息抜きや娯楽の必要性はティオネなりに納得していた。

 

「人が集団となり社会を形成するのであれば、その維持のために食料(パン)娯楽(サーカス)は必須である……だっけ?」

 

かってフィンから聞いた言葉を反芻するように呟くティオネ……まあ、次の瞬間には「いつもの可愛い団長も勿論いいけど、理知的(クレバー)な団長も素敵♪」とかその時のフィンの顔を思い出しながら頬を”でへへ~♪”と緩ませたりするのだが。

 

 

 

***

 

 

 

だが、そんな【ロキと愉快な眷属たち(ロキ・ファミリア)】の中で最も熱心にベルを見ていたのは……

 

「”あの盾”も凄いけど、白ツノ兎(ラッセルボック)君自身も凄いね~♪ 彼、本当に冒険者になって半月のLv.1なの?」

 

そう切り出したのは、嬉しそうに楽しそうにどこか頬を上気させたティオナ・ヒリュテであり、

 

「うん。本人はそう言ってたけど……」

 

と答えるのは、アイズ・ヴァレンシュタインだ。

武器の安置室(モスポール・ヤード)】から中庭までエスコートしたのがフィンならば、中庭でベルを迎え入れるホスト(いや、この場合は二人とも女性だからホステスか?)役なのはティオナとアイズだった。

この配置についてはロキが悪乗りして、「新人達のベルに対する敵愾心を煽るため、必要以上に親しげにすること」と言い出したからなのだが……フィンも「真剣さを引き出す演出としては、それぐらい必要かもね」と賛成したため実行された。

 

ティオナもアイズも特に異論は無かったし、むしろ昨晩の宴会とアフターで打ち解けて”ラッセルボック”なんて愛称をベルつけたティオナはノリノリだった。

おかげで腕を絡めたり抱きついて平たい乳を押し付けたり、訓練が始まるまで結構やりたい放題だったのだ。

アイズは「それ”必要以上に親しげ”じゃなくて”必要以上にべたべた”……」と思わなくも無かったが、あえてそれを口にする必要はないと結論したようだ。

 

「そのわりには戦い慣れてる……元々センスがありそうだけど、それ以上に戦うことに躊躇いも迷いも無い……そんな気がしない?」

 

ティオナの疑問にアイズは頷き、

 

「同意する。ベル、冒険者としての経歴(キャリア)だけを考えたら、あの戦闘力は不自然だよ」

 

「ホント、興味津々だよね~。ねえ、アイズ……」

 

「ん?」

 

「ちょっと”答え合わせ”をしてみない?」

 

アイズは小首をかしげ、

 

「答え合わせ? なんの?」

 

「ラッセルボック君の戦い方の……論評? 寸評? それとも検証?」

 

なんとなくティオナの言わんとすることがわかったアイズは肯定の意を示し、

 

「いいよ。まずはどこから?」

 

「じゃあ”円形盾”から。あの盾の性能も凄いけど、ラッセルボック君はその頑強さに任せた防御一辺倒に至ってない。そのココロは?」

 

「うん。ベルは盾を『防御のため』に使ってるんじゃない。『攻撃に繋げるための基点』として使ってる」

 

「私も同じ解釈だよ。どんな理由かまではわからないけど、ラッセルボック君はカウンター・アタックを攻撃の主点にしてるよね? だから盾は『相手の攻撃を受け止める』んじゃなくて、『相手を崩して最大効率でカウンターを叩き込む』ために使ってるね……その意味、アイズはわかる?」

 

「憶測が入るけど、いい?」

 

「もちろん」

 

「私はベルがミノタウロスと戦ってるのを見たけど……盾の性能とベルの技量の組み合わせでの防御力は、既にLv.1の領域じゃなかった。ミノタウロスと単独で戦って、それも遭遇戦の心理的圧迫が強い中で、致命傷どころか怪我一つ負ってなかったのがその証拠。でも攻撃力は贔屓目に見てもそこに及んでない」

 

「ミノタウロスと単独で戦って、傷一つ負わないって……それLv.1どころか並みのLv.2でも無理だって。あ~、でもその結論だとラッセルボック君って攻撃力が小さい……これは語弊があるね。決定打になる攻撃選択肢(オプション)が無いから、『意表を突いて防御反応を取らせず、その上相手の速度や体重を自分の攻撃に相乗できるカウンター・アタックで威力を補ってる』って解釈でいい?」

 

「うん。その解釈で間違ってないと思う。だけどそれはまだ解答の半分」

 

「半分? じゃあもう半分は?」

 

「多分、体力……スタミナの温存。ベルは半月前に冒険者になったとはおもえないほど持久戦や耐久戦に慣れてる。まるで冒険者になる前から、長時間戦闘になることが少なくないダンジョン内での対モンスター戦を想定して訓練してきたみたいに」

 

もっともこれはアイズの思い違いだ。

ベルはダンジョンを潜ることを想定して持久戦や耐久戦の経験(ノウハウ)を吸収したわけではない。

むしろハリス村で生まれ育ってきた経験……その大きな時間を長期戦となることが当たり前の牧童(バケーロ)として過ごしてきたことが大きい。

 

「ふ~ん……だからもう二十人近く倒してるのに息一つ切らせる様子も無い、か。でも、だとすると体力を温存しながら一方的に相手を崩してカウンターを叩き込む。そんな『地味な出鱈目』できる根本は……やっぱ”重さ”かな?」

 

「うん。単純な盾の性能じゃなくて、”盾を用いた防御”その物が途轍もなく重いんだと思う。あの時もミノタウロスが相手だったから『自分が後ろに跳んで威力を相殺』していただけで、相手が同じ人間(Lv.1)だったら……」

 

「一切攻撃が通らず、いいように崩される?」

 

”こくり”

 

「同じレベルならベルに力押しは通じない。それにベルは目もいいから見切るのも上手い。見切りの良さはカウンター・アタックだけでなく的確に相手の攻撃を逸らせるから、ダメージも蓄積しない。なら速度で翻弄しようとしてもベル自身も俊敏だから上手くいかない。そもそも動体視力も敏捷性も双方がハイレベルだから、あの動きが可能なんだと思う」

 

「うわぁ~っ……改めて言葉にしてみると、呆れるほどの”難攻不落”っぷりよね? おまけに消耗しない戦い方に慣れていて、見た感じ本人もスタミナはありそうだから体力切れも期待できない、か……」

 

呟くようなティオナの言葉にアイズは相槌を打って、

 

「これも憶測だけど……ベル、1対1だけじゃなくて”少数対多数””1対多数”の戦いも慣れてると思う。視野が凄く広いから不意打ちもやりにくいかも」

 

 

 

ファミリアでも有数の近接戦巧者(インファイト・スペシャリスト)の二人の少女は、言葉を交わしながら目はずっとベルを追っていた。

そして現実は彼女達の言葉を裏切らない。

今は既にベルが倒した新人は20名を越え、残るは1桁になっているのだが……にも関わらず、ベルには人間にあって当たり前の『疲労による集中力の低下や体動の劣化』が起きてる兆候は見られなかった。

ぶっちゃけてしまえばベルの戦闘は最初の1人と今、倒したばかりの25人目と比べて目に見える変化が無いのだ。

 

 

 

***

 

 

 

「ねえ、アイズ……アイズだったらラッセルボック君の鉄壁をどう攻略する? あっ、魔法関係は封印で純粋体術と剣術だけって前提」

 

するとアイズは唇に指を当てて考える仕草をしながら、

 

「やっぱり速度で翻弄する……かな? 得意分野を用いた集中攻撃が一番効率がいい」

 

なるほどとティオナは頷く。

そして改めて理解する。

ベル・クラネルという少年は、かの剣姫が「一番効率のいい戦術を選択」するほどの相手なのだと。

 

(そうでなくっちゃ……♪)

 

ティオナはベルの戦闘を見ながら、ずっと背筋に悪寒ではないゾクゾクする感覚を感じていた。

その感覚は間違いなく”歓喜”……

繰り返すことになるかもしれないが、アマゾネスは戦闘民族であり同時に情熱的だ。

平たく言えば闘争本能旺盛で血の気が多い。

ゆえに戦闘で普通の女の子よりずっと興奮しやすい、ティオナはその血筋というか気質と言おうか……先祖伝来の民族的なそれに抗おうとはせず、むしろ積極的に身を任せるタイプだった。

 

ちなみに、ではあるが……

アマゾネスが戦闘で興奮し易いのは何も戦闘を日常としてきた民族というだけでなく、吊橋効果を高めるためという説もある。

つまり戦いの中で、より強き者……「強い子孫を残すための伴侶を見つけるため」ということらしい。

人間も動物の一種ということを考えるなら、実はこの発想あるいは本能は自然なものである。

また、この説を裏付けるようにかつてアマゾネスと戦った敵は「アマゾネスの女性と交配可能な種族の強い男性ほど生存率が高い」という統計があるよううだ。

 

 

 

「ティオナだったら、どう攻める?」

 

「私? 決まってるじゃない……」

 

ティオナはにっこりと笑い、

 

「力技での正面一点集中突破よ♪ あの難攻不落の鉄壁防御を正面から力で破ることに意味があるからね」

 

(『汝、欲するものあらば、自らの力で勝ち取れ』だよね? お婆ちゃん♪)

 

それは歴代のアマゾネス達に受け継がれてきた金科玉条だった。

 

「ねえ、アイズ……もうすぐ、新人さんたちは種切れになると思うの」

 

「そうだね」

 

「だからさ……ラッセルボック君との戦い、私に譲ってくれないかな?」

 

 

 

***

 

 

 

「ティオナ、ズルい」

 

ほんの少しだけ表情を変えてアイズはささやかな抗議を試みる。

 

「私だってベルと戦いたい」

 

アイズのこの手の自己主張は珍しいが、だからと言ってティオナに引くいわれは無い。

 

「ごめんね? でも、もう駄目なの……」

 

ティオナはロングパレオの合わせ目をそっと開き、何故か普段はどんなに動いていても特にファミリアの男性陣がお目にかかれない下着をご開帳する。

 

アイズが思わず凝視したそこは、ティオナの胎内から溢れた透明な粘液で濡れ溢れ、既に下着が下着の役割をなしていなかった。

濡れて半分透けた布地に割れ目はくっきり浮かび上がりヒクヒクと微かに動き、肉芽はぷっくりと起き起ち小さいながらも激しく彼女の心と肢体の状態を主張する。

 

「あんなの見せ付けられたら、もう肢体(からだ)が疼いて駄目なの。この火照りを鎮められるのはきっと、ラッセルボック君との戦いだけだから……」

 

薄い布地に吸収しきれなくなった体液が、つーと糸を引きながら太ももの内側を伝わった。

 

アイズは溜息を突いて、

 

「貸し一つ……今回は譲る」

 

「ありがと♪ でもアイズも正直だね?」

 

「なにが?」

 

「”今回は”ってことは次もあるってことでしょ?」

 

「当然だよ?」

 

まるでベルと自分が戦うことが当たり前のように静かに、だけど自信満々に言うアイズになぜかちょっと面白くない……小さな胸の奥にチクリと小さな棘のような痛みを感じるティオナだったが、

 

(まあ、いいや……)

 

今はそんな正体不明の痛みを気にするよりも、

 

「ラッセルボック君とシなくちゃね♪」

 

 

 

そして新人の最後の一人、”ミシェル・バルカ”が、ベルの放った【滑飛射貫槍(スリングショット・ピアース)】による槍版のクロスカウンターで倒れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございます。

ロキ・ファミリア腐女子隊(?)が書いてて妙に楽しかったボストークです(^^

ティオナとアイズ視点からベルの戦いを振り返りながら検証する回でしたが、いかがだったでしょうか?

ついでに言えば、「ティオナにフラグが立った経緯(微エロ含む)」を書いてみたかったというのは内緒です(笑)

それにしても我が作品ながら亀進行っぷりですね~。
ベルとティオナの戦闘シーンまで入れるかと思いきや、結局まとめられたのは”寸止め”まででした。
というわけで「鉄壁防御 vs 豪腕一撃」のバトルは次回に持ち越しと相成りました。

ボストーク作品は進行遅めになることが多いので、それにご了解いただければ幸いです。

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!


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