前回の教訓から気をつけてるつもりですが、ティオネとティオナの名前の取り違えが怖いボストークです(^^
さて今回のエピソードは……いよいよ、混沌の宴(?)の終わりですね~。
果たして無事に終わってくれるのでしょうか?
「はい。アイズもあーん」
「あーん」
”ぱくり”
フォークに刺した一口サイズのワイン煮込みにした仔牛肉を、かの”剣姫”ことアイズ・ヴァレンシュタインにあーんさせてぱくつかせるベル・クラネル。
なんのことはない。
ベルがアイズの餌付けに成功したに過ぎない。
過ぎないのだが……
「「「「「えええぇっ~~~っ!!?」」」」」」
うん。それを”
というか普通はそうだろう。
しかし、アイズはそのリアクションを特に気に留めた様子もない。
もしかしたら下手にリアクションに反応したら収拾が付かなくなるのを経験則で判っていたからかもしれないが。
いや、むしろその先のアイズの行動こそが真の驚嘆だったのかもしれない。
つまり、何が言いたいかと言えば……
「じゃあ、お返し。ベルもあーん」
アイズは目の前にあった親しみ易い大衆酒場的な店の雰囲気のわりには繊細な味付けがされた”
無論、アイズに特に頬も赤らんでないし緊張したり照れた様子もない。
アイズにとっては本当に、「あーんしてもらったからあーんしかえす」という返杯程度の感覚なのかもしれないが、その行動その物が彼女をよく知る人間にとっては驚愕だということを、アイズが理解している様子はなかった。
***
アイズにとっては特に意識した行動ではないが、それに過剰反応というか劇症反応しそうな人物がいた。
広い意味では複数いるのだが、実力行使で宴をぶち壊しにしそうな最右翼は間違いなくベートだろう。
別にこういう展開を予想したわけではないだろうが……いや、このファミリアきっての
「アイズのあーん」というカウンター・ショックで【
”チラッ”
目線だけで姉が妹が互いが何をするかを悟った”
”ダダンッ!”
「ぐえっ!?」
瞬時にテーブルの下で今にも立ち上がろうとしていたベートの右足をティオネが、左足をティオナが踏みつけ床に縫い付けると、
”ガッ! グキッ!”
「ぐぁっ!?」
間髪入れずに右手をティオネ、左手をティオナが固める!
一見すると美人アマゾネス姉妹に左右から両腕を乳挟みされてる「爆発しやがれ! くされケダモノ!!」状態(いや、実際にそういう視線を向けてる冒険者も店内にいる)なのだが、その実は肩/肘/手首の三ヶ所を高度な関節技でがっちり極められ、その様はロメロ・スペシャルやパロ・スペシャルを喰らったが如しなのであった。
ベートが席を立つ
まさにLv.5の戦闘力が発揮された……無駄にハイレベルな戦いだった。
そして……
「あはは。ベートには僕が『あーん』してあげよう」
”ぐにゅう”
フィンがとどめに痛みで開いたベートの口に、大振りな
なるほど。さすがはオラリオ最高峰を誇る巨大ファミリアの団長、諍いの種を未然に潰す直感と洞察力、何より抜群の判断力と行動力に長けている。
まだ団員がいないとはいえ、駆け出し冒険者であると同時に新米団長でもあるベルは色々と見習うべきことも多いだろう。
余談ながら”団長のあーん”が心底羨ましく妬ましかったティオネの腕の力がついつい強くなり、人間より頑丈なはずの獣人の骨が激しく軋み、粉砕骨折直前まで追い込まれたことは追記しておこう。
***
「あっ……」
ベルがためらいなくフォークの先のパテ・アンクルートをぱくつき、「あっ、いける」とか頬を緩ませたとき、ふと何かを気付いたような顔をするアイズである。
「アイズ、どうしたの?」
「あっ、ごめん。このミートパテ、
「あの~、どうしてそこで謝るのかな?」
アイズは小首をかしげ、
「共食い?」
ベルはかくんと肩を落として、
「ねえ、アイズ……まさかとは思うけど、僕を本当に白兎だとか勘違いしてないよね?」
「うん。でも、
「ちがうからねっ!? 僕、ウサ耳とかないからねっ!?」
アイズは想像する。
脳内でベルにウサ耳とウサ尻尾を付けてみる。
ついでにシルクハットとかどうだろう?
いや、ここまで来たならいっそタキシードとチェック柄のヴェスト、おまけに大きな懐中時計も持たせてしまおう。
なにやら下手に追いかけたら”
(かわいい……)
それはそれでいいかとアイズは思う。いざとなれば”
”
「ベル」
「な、なにかな?」
いきなり真剣な瞳を、いやどちらかと言えば……しなやかな猫科の肉食獣が兎を狙うような視線をアイズより向けられたベルは若干身を引かせるが、
「今度、ウサ耳と尻尾を試しにつけてみよ?」
「絶対にイヤだぁ~~~っ!!」
***
ハデスを膝に乗せて上機嫌なロキは、不思議そうに酒の場を見ていた。
ベートとヒリュテ姉妹+フィンの掛け合い(物理を含む)は、いつものことだから看過していい。
これに”
問題はそこじゃない。
(明らかにアイズたんの様子がおかしな……もしかして『はしゃいで』るんか……?)
その結論のあまりの違和感に、『アイズがはっしゃぐ』というシチュエーションのありえなさにロキは思わず
きっとこの違和感、「おかしなアイズ」の様子は皆が気付いてることだろう。
なにやら宴会の時間経過に伴いダメージが蓄積しているベートはともかく若手はなんとなくかもしれないが、間違いなくフィン/ガレス/リヴェリアの”
きっと気が付いていながら、
(好意的に捉えてスルーしとるんやろな)
普段はおちゃらけてるロキだが……その実は
結構、世話好きで面倒見がいいのもこの元悪神の隠れた一面と言える。
「なあ、ハデスたん」
抱きしめるだけでは物足りず、猫の毛並みを確かめるようにハデスの
「ん?」
特に嫌がる様子もなく大人しく髪を撫でられていたハデスは、リヴェリアがあーんさせた鴨肉のソテーを飲み込んだ後、短くそう応える。
リヴェリアはハデスの口の周りにかすかに付いた脂を拭き取りたそうだったが、ロキの雰囲気を読んだのか後回しにしたようだ。
なんのかんの言いながら、時にはハチャメチャな行動もするが……ファミリアの皆が自分の立ち位置を弁え、その時に何をすべきかきちんと考えて行動し、全体として調和と調律が取れているのがロキ・ファミリアであり、同時にロキ・ファミリアの強さの秘密だった。
「ベルやんって不思議な子やな……」
「どうして……そう思った、の?」
「アイズたんって色々あってな……ホンマは、ゴッツう人見知りで口下手やねんな」
何か遠くを見るような視線でアイズを見るロキ……
「そうはみえないね」
「せやろ? ウチかて今のアイズたんはそう見えへんもん。そう、そこがホンマに不思議なんや。アイズたんとベルやんは、ついこないだ出会ったばかりやろ? それなのにもうあんなに打ち解けとる。まるで古馴染みの親友みたいや」
そしてロキはちょっと困惑気味に、
「あんなアイズたんを見るのはウチも初めてでな……」
「ロキ」
ハデスは膝の上で振り返り、ロキを大きな金色の瞳で真っ直ぐ見ると、
「”繋がり”の深さは、時間の長さじゃ計れないよ?」
「えっ?」
「どんなに長く付き合い知っていても信頼できないこともある。会った瞬間に『ああ……この
ロキは一瞬、驚いたように糸目を大きく見開き、まじまじと幼い容姿の冥府の女王を見る。
気が付くと、ロキの口元には優しい笑みが浮かんでいた。
それを自覚したロキは、その笑みをより優しく変えて、
「ホンマ、ハデスたんにはかなわへんなぁ……ウチの完敗やんか」
「我が神よ、そのわりには嬉しそうだな?」
そうロキと同じ種類の笑みのリヴェリアの突っ込みに、ロキは「うるさいわっ」と軽く返してから、
「ハデスたん、改めて言わせてもらうわ。心からウチと
するとハデスはちょっときょとんとしてから、まるで
「あれ? ロキとわたしはもう友達のはずだよ……♪」
ロキは無言でハデスを抱きしめた。
それは、即席肉体言語のレムリア・インパクトならぬリヴェリア・インパクトが脳天に炸裂するまで続いたという。
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さて、色々とアクシデントやらハプニングやらもあったが、宴も
少なくとも今までの様子を見る限り、単純なダンジョン攻略慰労会としても、なにより『ロキ・ファミリアとハデス・ファミリアの交流を深めるための親睦会』として大成功と言っていいだろう。
まあ、もっともあまりに大成功過ぎて、某銀髪ウエイトレスが店の備品破壊数の記録を更新し、今夜分の給金がマイナスを示すという珍事も発生したようだが。
さて、今のシチュエーションであるが……何を思ったかフィンとついでにティオネとティオナがわざわざ椅子を移動させ、ベルと話し込んでいた。
情況を見るに、ティオネはいつものように単にフィンの傍にいたいだけのようだが、ティオナはむしろベルに興味津々のようだ。
「なるほど……それで槍が壊れてしまったのか」
話題はどうやら、今日のダンジョンでついにベル愛用の
「ええ。ハデス様によれば、『モンスターに力負けして壊されたならともかく、自分の力で壊してしまったなら変え時』ってことらしいです」
「確かにその通りだよ。自分の身体にフィットする装備を選ぶのは、冒険者の基本中の基本さ」
「ですよね。だから明日、ダンジョンに潜る前にギルドに寄って相談しようかと思ってるんですよ。エイナさん、いればいいんだけど」
とベルはあの美人なのにどこか愛らしい理知的なガネっ娘ギルド職員を思い出すが、
「はいはーい! それならここでティオナちゃんから提案がありマース!」
「ちょっとティオナ」
元気に挙手しながら話に割り込む妹にティオネは少し呆れるが、
「要するに”ラッセルボック”君は槍を新調したいけど、どんな槍が自分にいいか判らない。だから色々試してみたい……ってことでいいんだよね?」
その快活かつ明晰な言葉にベルは驚き、
「ええ、その通りです。なんで全部わかっちゃうんですか?」
するとティオナは『にししっ♪』と笑って、
「だってそれ、冒険者なら誰でも通る道だもん♪ かくゆう私だって、
実にチャーミングなウインクをベルに贈る。
「ならさ、別にギルドまで行く必要ないよ」
「えっ?」
「だって、
「ああ、なるほど。その手があったか」
フィンはティオナの提案にポンと手を打ち鳴らし、
「ベル君がかまわないなら、そうして欲しい。ファミリアの武器庫には使う当てもないまま半ば放置されてる武器も多いからね」
「えっ? えっ? でも、本当によろしいんですか?」
フィンは頷き、
「君さえ良ければだけどね」
「是非に! 願ってもないことです!」
素直に喜ぶベルにフィンは、
「ベル君、明日は何か予定はあるかい?」
「いえ、ダンジョンに潜る以外は特にないですが……」
「ならちょうど良かった。膳は急げだ。早速、明日来るといい」
するとフィンは笑みの種類を変え、心なしか「団長の顔」になると、
「ちょうど君に頼みたいことを思いついたんだよ」
どうやら
皆様、ご愛読ありがとうございました。
今回は、アイズが「不思議の国のアリスの時計兎コス姿のベルを妄想」するという一部軽度のHENTAI化してしまう回でしたが、いかがだったでしょうか?
個人的に書いてて楽しかったのはヒリュテ姉妹のツープラトンとかが特に(笑)なんですが、ロキとハデスの会話が……いや、これは言うほうが無粋ですね?(^^
そしてベルとアイズは、明らかに「原作と全く異質の関係」になってしまったようです。
この二人が恋愛感情を持つのは、もしかしたら原作より色々な意味でずっと難しいかもしれないですね~。
そして、またしてもティオナが活躍♪
おかしいなぁ……作者的にはそこまで意識してるわけではないんですが、何故か彼女は前へ前へと出てきます(^^
いわゆる「キャラが勝手に動く」状態?
ラストにティオナが呼び水になりフィンが新たなイベント・フラグを成立!
いやまあ、実は第008話の伏線回収だったりするわけですが。
そして、新しい曲が始まるのです……ってこれは別の作品か(笑)
それでは皆様、また次話にお会いしましょう!