この作品は独立した世界観を持ち、どちらかと言えば原作の平行世界っぽいです。
執筆裏話は後書きに回すとして……原作と違う出会いを果たしたベル君の
この街のどこに行けばいいか、どこに居ればいいのか……僕はもう何もわからなくなっていた。
でも、僕を受け入れてくれるファミリアはどこにもなくて、
(冒険者にもなれないまま、ただ一人彷徨って朽ち果てていくだけなのかな……)
そんなことまで考えていた時のことだった。
「ねぇ、君……」
「えっと……ぼ、僕ですか?」
僕は小さな女の子に出会った。
「うん。君も一人ぼっちなの?」
僕よりずっと小さくて、もしかしたら10歳にもなっていないのかもしれない……その時は、そう思った。
「はい……」
不思議な女の子だった。
陽光を柔らかく返す腰まで伸びた淡い銀色の髪と、少し垂れ気味だけど吸い込まれそうな深い色合いの大きな金色の瞳……
小さな
ずっと年下に見える女の子に美人なんて表現は、我ながらおかしいとは思うけど。
でも一番印象的だったのは、
「わたしも、だよ」
その子がとても寂しそうに見えたことだった。
「えっ……?」
「わたしも”
そうだったんだ……きっと、この子も僕と同じで何もなくて……
「あの、えっと、よかったらなんだけど……」
その子はもじもじしながらとても恥ずかしそうに、
「わたしの
歯車がカチリとかみ合い、ゆっくりと動き出すのを感じていた……
そう……僕はこの時、確かに自分の
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それは天界でも有数の力を持ちながらも、実はとても寂しがり屋の小さな女の子と、か弱いけどとても強い一羽の白兎の物語……
もしかしたら、ハートフルボッコ・コメディかもしれないけど。
”ブモォォォーーーッ!!”
ハァ……なんて日なんだろう。
「まさか
(僕、なんか悪いことしたっけ?)
取り立てて思い当たるフシが無いんだけどなぁ。
(でも、大人しく逃がしてくれるってわけはないよね……)
ミノタウロスは、なんだかとても怒っていた。
ここで背中を向けて逃げ出しても、すぐに追いつかれてひき肉だろう。
(もしかして、もっと深い層で凄腕の冒険者に襲われたのかな?)
ミノタウロスの出現層は一番浅くて第11階層くらいの中層だった筈だ。
あまり良くないって自覚のある僕の頭で予想できるのは、中層に居たミノタウロスが何らかの理由で上層まで逃げてきたってことぐらいだ。
「でも、ごめんね」
僕は君に殺されてあげるわけにはいかないんだ。
だって、
「僕が殺されたら、”あの子”が一人ぼっちになってしまうから……」
それだけは許されない。
何より……
(誰よりも……僕自身が僕を許せなくなる!!)
「避けられない戦いなら……」
僕は左手に盾を、右手に
「勝てなくてもいい。生き残れれば文句は言わない」
だから今は戦おう。
それが生き残る最善の道と信じて!
「我が身は我だけの身に非ず! 全ては”ハデス様”の為に!!」
覚悟の言葉と共に僕は恐怖で竦みそうな身体に、必死で喝を入れた!
***
「凄い……」
それがアイズ・ヴァレンシュタインが、その”どこかウサギを思わせる少年”を初めて見たときの感想だった。
「まるで兎さんみたい」
白い髪に赤い瞳……なるほど。確かにウサギを連想させる容姿だ。
だが、どうにもそれだけではないようで……
「なんであんなに綺麗に跳ねられるんだろう……?」
そう、確かに白兎の少年は”跳ねて”いた。
例えば、だ。
ミノタウロスがどんなに馬鹿力でも、人間はあんなに綺麗に吹き飛ばない。
だが白兎の少年は、ミノタウロスの攻撃を盾で受けた瞬間、まるで体重やら重力やらを無視したように綺麗にポーンと飛ぶのだ。
いやそもそもおかしいのは、人間の膂力ではモンスターとして恥ずかしくないパワーファイターのミノタウロスの一撃を、片手盾などで防ぎきれるわけはないのだ。
普通に考えれば、受けた盾ごと持ち主がグシャリといくのが当たり前なのだ。
アイズは、そのカラクリを優れた動体視力で見破っていた。
判ってみれば単純な話だ。
盾で受けた瞬間、その白兎は攻撃を盾で受けると同時に後ろに”跳ねて”、威力を相殺しているのだった。
リアルのウサギは跳ねて敵から逃げるが、目の前の白兎は跳ねて敵の攻撃から逃げていた。
それだけではない。
より細かく見れば盾で受ける瞬間、敵のインパクトを斜めにずらすように身体を捻り、生まれた回転運動に重心移動と筋力を相乗させて刹那のタイミングで槍を突き出し、槍が届く腕の比較的獣皮の薄い場所に狙い刺す。その後に、槍を抜く意味をあわせ跳ねていたのだ。
敵の攻撃を利用して非力な自分の攻撃に繋げる……実戦合気柔術や武術太極拳の中である理論であり技法なのだが、アイズはこれを初めて目の当たりにした。
決して華麗な技でもないし、敵を一撃で屠る高威力の技でもないけど、
(力の弱いものが力の強い者に打ち勝つためによく考えられた技だね)
アイズはひどく感銘を受けていた。
「でも、このままじゃ危ない」
傍目から見れば一方的に手傷を負わされているのはミノタウロスの方だ。
白兎は吹き飛ばされるだけで、飛ばされた方向が床だろうが壁だろうが天井だろうが、勢いを殺しきれずに無様に叩きつけられることはなく、やんわりと足腰の屈伸全てを使って残存衝撃を吸収し、その反動と縮められた全身のバネを解放することでむしろ次の突貫に繋げているほどだった。
そんな敵の力を巧みに利用するヒット&ウェイを仕掛け続けてる為、白兎の少年に目に見えるダメージはないが……それでも疲労は確実に蓄積されていく。
何より厚い獣皮とさらに分厚い筋肉に阻まれ、中々致命的なダメージは与えられない。
しかもショートスピアの攻撃レンジを逆算するなら、ミノタウロスの腕の一本や二本は使い物に出来なくなるかもしれないが、多分そこまでだ。
そして、傷ついて弱くなるのは人間だけだ。
(彼の呼吸の荒さから考えて、多分その辺で力尽きる)
アイズが助太刀を決めたのは、そう判断した瞬間だった。
***
「助けていただいてありがとうございました!!」
深々と頭を下げる白髪頭の少年に、アイズはちょっと困ったような顔をしてしまう。
結局、ミノタウロスはアイズの俊速の剣で細切れにされた。
またアイズは白兎の少年が飛ばされる瞬間を狙って飛び込んだため、白髪が赤毛になることは無かった。
「お礼はいいです。元々私達の不手際で逃がしてしまったものだから」
ちょっとアイズは言いづらそうだ。
救いがあるとすれば、目の前の少年は疲労困憊はしているようだが目立った外傷がなく、少し休めばすぐに回復しそうなことぐらいか?
「そうなんですか?」
「うん」
そう細かく言えば彼女の所属する【ロキ・ファミリア】が第17層でエンカウントしたミノタウロスの群れ、その中で討ち漏らし逃走を許した最後の一匹だった。
「道理で……ミノタウロスがあれだけ怒ってた理由がわかりました」
「一つ聞いていいですか?」
「なんでしょう?」
アイズはさっきからそこはかとなく気になっていたことを聞いてみたくなった。
彼女らしからぬ好奇心の発露というものであろうか?
「どうしてそんなに冷静でいられるんですか? 失礼ながら、あまり経験豊富な冒険者には見えませんけど……もしかしてミノタウロスとソロで対峙するの、初めてじゃないんですか?」
すると少年は苦笑しながら、
「まさか! お察しの通り僕は半月前に冒険者になったばかりのLv.1の駆け出し冒険者ですよ。ソロで対峙するどころか、ミノタウロスを見るのも初めてです。何よりまだ中層に降りたことすらありません」
その言葉に、剣姫の二つ名でよばれるアイズ・ヴァレンシュタインともあろう者が思わず絶句する。
先ほどの戦いっぷりと駆け出し冒険者という単語の間にひどく齟齬を感じた。
だが、そんなアイズの葛藤を知ってか知らずか、少年の瞳は地面の一角に吸い寄せられて、
「あっ!? モンスタードロップだ! らっきー!」
小走りに走って落ちていた”ミノタウロスの角”を拾い上げる。が……
「あっ……」
アイズと目が合ってしまった。
そうなのだ。ミノタウロスを倒したのが自分ではないと、少年はようやく思い出した。
「あの……すいません」
決まり悪そうにミノタウロスの角を差し出す少年にアイズは首を横に振り、
「せめてものお詫びに受け取ってください。よろしければミノタウロスの魔石も」
「えっ? いいんですか!?」
「さっきも言いましたが元々は私達の不手際ですから。あっ、その代わり」
彼女は一呼吸置いて、
「名前、教えてもらって……いい、かな?」
ちょっとだけ口調が砕けたことに、少年は嬉しそうな微笑で答えて、
「はい! 勿論です! 僕は”ベル・クラネル”、【
こうして
それは
なぜならベルはミノタウロスの攻撃を耐え切ってしまったのだから。
これがどのような歴史の差異を生み出すかは誰にもわからない……
もっとも……
皆様、ご愛読ありがとうございました。
この新しいシリーズ、その出だしはいかがだったでしょうか?
前書きに予告したとおり執筆裏話を書くと……
ボストークがもう一本書いてる『ダンまち』の二次、通称『ダンキリ』の方でそろそろベル君が登場しそうなんですよ。
おそらく数話以内に。
その時、ふと気付いたんです。
「あっ、ヤベ。俺、ベル君まともに書いたこと無いじゃん」
とまあこんな感じ。
なので試しにベル君書いて動かしてみよう。どうせ書くなら作品として仕上げてみようと思い立ちまして生まれたのが、この『ハデス様が一番!』というわけです(^^
読んでいただいた方は既にご存知でしょうが主人公はベル・クラネル少年ですが、原作に比べて槍と盾と言うちょっといい装備をもっていたりします。
あとよく跳ねます(笑)
そして女神様はオリ神&ロリ神のハデス様ですな。
ヘスティア様はどうなさってるのかは……今のところ不明です(苦笑)
物語のコンセプト的にも最初のうちはともかく、程なく『ダンキリ』と比べて遅くなるかもしれませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。
それでは、また次回にてお会いしましょう!