◇
いつから、こんなに心を掻き毟られるようになったんだろう?
今はそれが朧気だった。
深呼吸をする。ざわつき始めた胸の内を落ち着かせるために。
玄関を開け家に入る。たったそれだけの為にまごまごとドアの前で悩んでいた。
習い事が終わり、どれみちゃん達と別れ、今は我が家の玄関前。
日は傾いて辺りは赤く暗く陰り始め、影が大地に落ち込む夕方。
ゆっくりと沈み行く太陽。遠くに見える大きな山へと虚しく溶け一日が終わりを告げる。
玄関先からは晩御飯の美味しそうな匂いが漂ってきて、今日は魚か、と何となしに思っていた。
燃え尽きる前の蝋燭の火のように強く差し込んでくる西日が家路へと急き立てる。カラスが鳴いたら帰りましょ~と人々は家族の元へ引き寄せられる。
どれみちゃんも葉槻ちゃんも。何不自由ない生活、幸せな家庭が待っている。帰らない理由などないんだ。今家路を急ぐ多くの人がきっとその筈だった。
手を振ってどれみちゃん達と別れる時、うちは無性に切なくて泣きそうになった。
一緒の道がこのまま永遠に続けばいいのに。そう思っていても別れ道は容赦なくやってきて、葉槻ちゃんが去り、次はどれみちゃん――うちは帰り道、一人きりになった。
一人になると必ずする儀式がある。うちは何時もすんなりと帰る事ができなくて一旦別れた振りをしてこっそりと戻り、どれみちゃんの後ろ姿をじっと見送っていた。そして、その背中に「行かないで!」と叫びたくなる衝動に駈られた。
後、ほんの1グラム。後、ほんの一握りでも素直になれたら……でも、やっぱり何時も勇気がなくて呼び止めることはできない。喉まで出かかっては引っ込みを繰り返し、やがて姿が見えなくなっても、ずっと、どれみちゃんが消えた道の先を無意味に見つめるだけだった。
居たたまれない時間だけが過ぎていく。うちは「また声が出なかった……」と打ちのめされたような気分になり、同時に「呼び止めて何を話すんや?」と安心する。
自分にも分からない苛立ちや焦り。今日も言えなかったと後悔して、明日こそは伝えたいと思う。でも、言えないだろう。明日も、きっと。
じりじりと身の置き所のない気持ちで、それでもその場を立ち去ることができなかった。とはいえ、迫る夕闇に踏ん切りをつけ、これも何時ものように後ろ髪を引かれながら踵を返した。
歩調はゆっくりにも小走りにもなり、鼻歌を口ずさみ、時には止まったりと落ち着かない。
下に広がる自分の影を見つめて、とぼとぼと前へ進んでいく。
「帰りたくない」。自分の気持ちを大きく捉えればそうだ。
だけど、「何故?」と問われたらそれは分からなかった。
まるでこの夕日と同じだ。追いかけても追いかけても永遠に追い付くことはない。
なのに、どこへ逃げてもついて回って追い立てられてる……夢や幻のようなモノ。
現実感のないモノ。どうしたらよいか分からないけど、戻る事もできない。
行けども行けども靄がかる。影踏みのようにケンケンパと飛び越えられたら良いのに。地面に転がる小石のように蹴り飛ばせたら良いのに……。
でも、最後には――ふと顔を上げて、気付いた時には、うちん家の前に辿り着いてしまう。
他に帰る場所がないのだから……うちは何時も絶望していた。
そして、何時までもぼんやりとドアの前で突っ立ったままだ。
呆然と扉のドアノブを注視する。
自分の影が薄く延びて重なっていた。
ドアノブ。うちの胸を貫いているかのように。
うちの中をまさぐる、見えざる手。
溜め息をつく。我ながら情けない。
家に入るだけでこうも迷って、それこそ清水の舞台から飛び降りるほど、勇気が要った。
頭を振って前を睨み付ける。ついにドアノブを掴む。
震えを誤魔化すように、手が白くなるくらい強く握って、そろりと回した。
「たっだいまぁ~」
まずはジャブ。ドアの隙間から声を滑り込ませる。自然な笑顔をと自分に言い聞かせて。
まるで台本を読み上げるよう。けれど、それを決して悟られてはいけない。
ガチャリとドアノブの音。それが合図だ。耳の奥、頭の奥、心の最奥で響く。日常という名の舞台装置が動き出す。
ここから先、うちの役柄は『妹尾愛子』。可愛くて、生意気で、両親想い。誰も心配させない。親切でいじらしい。愛情をたっぷり受け育つ娘の
ト書きに記された通りだ。『暖かい家庭』。柱にはそう書かれている。その暖かさそのままの仄かで質素ながら、慈しみに溢れたスポットライトの中へと歩み出る。
「お帰り、愛子。もうすぐご飯出来るからね」
心臓がドキリと跳ねた。唾を飲み込む。だけど、それをおくびにも出さない。大丈夫、動揺は最小限。再度自分に言い聞かせる。違和感無く、するりと顔を向けた。
直ぐ真横からの声。優しく、うちを出迎えてくれる。
玄関を入ったらすぐ隣はキッチン。
二階建て、メゾネットタイプと言われるアパート。うちとお父ちゃんが美空に越してからずっと住んでいる。
そこで器用にフライパンを振るう大人の女性。
おっとりとした瞳が印象的な美人だ。少しだけ、葉槻ちゃんに似たどこか浮世離れした雰囲気を持つ。
実際、御令嬢なんだ。本来ならこんな場末のアパートなど相応しくない身の上。自炊などせず高級料亭だとかパーっと外食に行く方が似合いそうな華やかさ。豪奢な衣装を纏わずとも体からそういう気品を感じさせる人だ。
だけど、彼女はそうはしない。キチンと家を守り、帰ってくる家族を迎え入れる。料理の腕はきびきびとして手際が良い。狭いキッチンを行ったり来たり、鼻歌混じりに作業を進める。慣れた身のこなしだった。
髪を纏め上げ曝されたおでこに汗が滲む。パラパラと零れた髪が数本、頬に張り付いていた。腹を空かせた家族のためにご飯を用意してくれる理想の母親像がそこにあった。
凛として淑やかな大和撫子。しかし、少し草臥れていて庶民的。良い意味で愛着があり、家に馴染んだ光景。
こんなにも日常に溶け込んでしまうほど、彼女がここに来て随分立つ。
お父ちゃんの再婚相手――うちの継母である妹尾緑里さんが柔らかく微笑んでいた。
うちは鼻で息をつき呆れ混じりに言う。
「もう……『お母さん』。料理はうちがやるって言うたよ。お父ちゃんも早く帰るようにしとんのに……これじゃあ意味ないやん」
「だって、家に居ても暇なんだも~ん。お医者さんも少しは体動かした方が良いって言ってたし。大丈夫だって。ほら、イエイイエイ!」
「もう、しゃ~ないなぁ。ハハハ……ランドセル置いたら手伝うわ。待っとって」
元気をアピールするみたいにブンブンと腕を振って悪戯っぽく微笑む『お母さん』に、うちは照れなのか戸惑いなのか、よく分からない微妙な気持ちになって曖昧に笑い返す。
ビクつくのは最初の一瞬だけ、そこさえ越えれば後は流れ任せ。分かってはいても滑り出しが成功すると何時も安堵してしまう。
気取られない内にお母さんの横を通りすぎる。2階に上がって自分の部屋にランドセルをポーンと放った。
さっさと階段を降りてリビングへ。黄昏が落ちる室内はしんと静まり返って冷気を帯びていた。梅雨が開けて随分経つけど秋にはまだ程遠い。美空の夏夜は涼しかった。
日が落ちればクーラー無しでも快適。大阪の夏などじっとしてるだけで汗が滴り落ちたものだが、今は半袖では肌寒さを感じる。逆に冬は暖かいし、美空は驚く程過ごしやすい町だった。本当に同じ日本なのか疑ってしまう。
住み良い気候だけでなく、うちら家族が美空に来てから良い事が沢山あった。まるで何か、キラキラしたものが宙を舞っているかのような……そんな奇跡が幾度と舞い降りてきた。
うちやお父ちゃんが頑張ってきたというのも勿論あるだろうけど、何より――遠くで見守ってくれる人がいるからこそなんだと思う。
部屋の真ん中には団欒のテーブル。それを囲むように戸棚とお母さんが持ち込んだアップライトピアノがある。
そして――うちは隅にある仏壇の前に姿勢を正して座った。
「ただいま、『お母ちゃん』……」
残照を浴びる写真に向けて話しかける。写真の中の『お母ちゃん』は笑顔のまま動かない。
――『お帰りなさい』
もう二度と、返ってくることはない。
◇
今から四年前の話。うちん家は三人暮らしから二人へと欠けてしまった。
とても大切な、大切な、家族が一人。突然、いなくなった。
うちとお父ちゃんを残して『お母ちゃん』――うちの生みの親である妹尾敦子は病気で死んでしまった。
高熱で寝込んで風邪かなと病院へ行ったら、単純ヘルペス脳炎なんて訳の分からない病名を付けられた。そして突如、お母ちゃんは意識を失い数日後そのまま逝った。
お父ちゃんは口をあんぐり開けて唖然としていた。うちだってそうだった。余りにも、呆気なさ過ぎた。最後に何を話したかも思い出せない。
悲しみよりも何よりも、まずうちが感じたのは恐怖だった。こんな、誰がこんなことを。まるでスリのようにこうも易く、軽く、人の命が拐われてしまう。
涙が流せない。目が枯れた。嗚咽が漏れる。喉が震えた。
瞬きも忘れるほど、うちはお母ちゃんの死に、覗いてはいけない暗闇、深淵のようなおぞましさを感じてビクビクと怯えていた。
人生何が起きるか分からない。生きて死ぬのが当たり前。頭では分かっていた。だけど、最早言葉では片付けられない。目を覆いたくなる惨劇だった。
どうしてこんな惨いことを? 母の何が気に食わなかったんだろう? ……問いても誰も答えてはくれない。
最初から答えのない『問』。これ以上の皮肉がこの世にあろうか?
そして、その皮肉に抗うように――。
祖父の怒号が響いていた。式が終わり、広い斎場の一室でお父ちゃんが来るのを待っていたうちの耳にもその声は届いていた。
ぎゅっと目を瞑り膝を抱える。怖くて堪らなかった。祖父の声が、目が、今にも迫って来そうで。
記憶の中、お母ちゃんを殴り付けた祖父の形相が、今も脳裏から離れない。
◇
お父ちゃんとお母ちゃん。二人は仲良し夫婦だったけどその結婚は祝福はされていなかった。
周囲の反対を押し切り、駆け落ちして同棲を始めた。以来、狭いアパート暮らし。
決して裕福という訳ではなかった。それでも幸せで。本当に幸せな家族だった。
お父ちゃんとお母ちゃんは呆れるくらいラブラブで、そして駆け落ちするほどの互いの愛情を娘であるうちにもありったけ注いでくれた。何一つ、不満などなかった。
二人が愛し合って自分が生まれたんだと、確かに信じる事ができる。そんな毎日だった
しかしある日、お母ちゃんのお母ちゃん――おばあちゃんが亡くなってしまった。
駆け落ちしたお母ちゃんは実家から勘当されていておばあちゃんが死んだ時も連絡一つなく、親戚筋に後からやっとその訃報を聞かされた。
死に目にも会えなかったお母ちゃんは酷く悲しんで、せめてもの弔いをと家族三人で墓参りに出掛けた。
そしてその日偶然にも。お母ちゃんのお父ちゃん――うちの祖父と居合わせてしまった。
お母ちゃんの結婚に一番強く反対していたのは祖父だった。家を出るお母ちゃんに向けて最後には縁切りまで叩きつけ、ずっと疎遠のまま。
それから顔を会わせる事もなく、数年ぶりにおばあちゃんの墓前で再会したお母ちゃんに……祖父は……。
『敦子‼ お前という奴は……! 二度と顔を見せるなと言うたぞ‼ 親に散々迷惑をかけた癖にどの面下げてお母ちゃんに会いに来た⁉ お母ちゃんがどれだけ心配してたと思う⁉ お前は……お前が……‼ お前がお母ちゃんを殺したんや‼』
うちらが供えた花を投げ捨てて、お母ちゃんを張り倒す。
項垂れて何も言わないお母ちゃん。慌てて止めに入ったお父ちゃんも殴り飛ばされる。
騒ぎを聞き付けたお寺の人が押さえるまで、祖父はずっと暴れ続けた。
うちは弱々しく膝をつく母ちゃんに抱き着いて、ずっと泣きわめいていた。
それから二年後、そのお母ちゃんもおばあちゃんの後を追うように息を引き取った。
「何も親孝行をしてやれんかった」――お母ちゃんは大きく落ち込んでいたけど、そこから一念発起して介護の勉強を始めて施設で働きだした。
自分の行いを償うために、自分の母と同じように寂しい思いをしているお年寄りを支える道を選んだ。前を向いて、頑張って生きようとしていたんだ。
――そんなお母ちゃんに何の罪があったんやろか?
お母ちゃんに何か恨みでもあったんだろう? 死ななければならないほどの理由が、罰を受けなくてはならなかったんだろうか?
お母ちゃんの誓い、そんなものは全て無意味だと断ずるかのように、死は何の躊躇いもなく命を奪っていった。悲劇などと生温い話ではなかった。
明るくて、優しいお母ちゃんだった。深い後悔を背負って、それでも尚強く生きようとしていたのに。命を奪うというのなら一体、何の権利があって?
神も、仏も、誰も、答えてはくれない。皮肉と矛盾の自問自答が心を延々と掻き毟る。その掻痒だけが残された者に与えられる、生きた地獄なんだ。
その時、うちとお父ちゃんは。
お母ちゃんの死が与えてくれた『問』に、確かに愛されていた。
そして、それは祖父も同じだった。
葬式で久々に会った祖父は終始静かだった。
粛々と葬儀をこなし、口数も少なく押し黙ったまま。柱が折れたかのように心ここにあらずの姿。
でも、時折、うちとお父ちゃんに向ける視線は射抜くように鋭かった。
その眼光は涙ではなく、ふつふつ沸き上がる感情で激しく煮えたぎっていた。その視線はうちとお父ちゃんを容赦なく苛む。
うちは顔を上げる事ができなかった。
そこにあるのは憎しみと怒りを湛えた瞳だと、分かっていたから。
葬式が終わり、人が捌けていく後も祖父は居残っていた。
お父ちゃんは覚悟を決めたかのように「ここで待っててや」と、うちを残して部屋を出た。自然と、祖父もその背中を追った。
すぐに大きな物音が聞こえた。壁を打ち付けるような音。何かが床に落ちる音。
そして、祖父のけたたましい怒鳴り声。内容はよく聞こえなかったけど、悲鳴のように甲高い、この世のものとは思えないゾッとする声で、お父ちゃんを詰っているのだけは分かった。
悪魔――。
うちの目に、お父ちゃんを追って外に出た祖父はまるで影に潜む悪魔のように映った。
悪魔がうちのお父ちゃんを連れ去ろうとしている……そんな想像がまざまざと思い浮かんで振り払うことができない。
胸が重苦しく澱む。喉が締め付けて声も出せないほど、うちの体はぶるぶる震えて恐怖に怯えていた。
うちの中で悪魔というイメージが自分の父を奪っていくというイメージと縺れ合ってほどけない。
――どうかお父ちゃんを連れていかんといて。
幼心にそう願うしかなかった。そして、やっと音が止んだ。
うちははたと顔を上げる。じっと部屋の入り口を凝視して、父が来るのを待った。
やがて、ずるずるとした音と共にお父ちゃんが現れる。うちは一瞬喜んだけど、すぐに押し黙ってしまった。言葉が出せなかった。
体を引き摺るように歩くお父ちゃんに違和感を覚え、近付いてくる姿に息を飲んだ。
葬祭用のキッチリとした服は乱れに乱れ、顔は青アザだらけ。
唇は切れて血が零れて、目は真っ赤に腫れ上がっていた。
ぼろぼろの父は何も言わず、うちの前に立った。目線を合わせるように膝をついて、うちの頭を優しく撫でてくれた。
「……全部終わったで、愛子……帰ろうか。今日は疲れたやろ? 帰ろう、一緒に……」
そう、囁いた。目が合うと胸に熱いものが込み上げてきた。うちは思わずお父ちゃんに抱きついてしまう。風景が揺れながら滲んだ。そのまま堪えていた涙が溢れ落ちて止まらなくなった。
ワンワンと泣き出したうちをお父ちゃんは抱き返してくれて、
「頑張らんとなぁ。お母ちゃんはおらんけど……お父ちゃん、明日から頑張るから。愛子は何も心配せんでええから。なぁ、愛子……二人で幸せにならんとなぁ」
呟くように言った。
その時になってやっと、うちは、お母ちゃんが死んだんだ、と真に受け容れる事ができた。
お父ちゃんの腕の中で、踏ん切りをつける事ができた。覚悟を決めた。
うちとお父ちゃん、二人で生きる。明日からも、また一緒に。お母ちゃんの分まで――。
傷だらけのお父ちゃんを見て、その勇気が湧いた。
お父ちゃんの姿がお父ちゃんの覚悟を全て物語る。お父ちゃんは何一つ抵抗せず祖父の怒りを全部受けたんだ。自分だって苦しいはずなのに、弱音や恨み言一つ吐かず全部受け止めた。
お父ちゃんが何も言わなくても、うちはそれを確信していた。心に染みていたんだ。
胸が空くような思いだった。自分がお父ちゃんの娘であることを心底、誇りに思う。
どんなにボロボロでカッコ悪くても、お父ちゃんはこの地球上で一番の男だった。それが分かる。
妻と娘を失った祖父は確かに哀れだった。うちやお父ちゃんよりも悲しみは計り知れないと不憫にも思う。
それでも、家族を亡くして悲しいのは何も
祖父にも、きっとあったはずだ。
謝っても取り返しのつかない後悔が。
重荷を背負った所で何とも引き替えにできない日々が。
いっそ罵られた方が楽な罪悪感が。
自己満足だと苛まれても償わずにはいられない痛みが。
それを思えば、仕方のない事かもしれない。だけど……お父ちゃんは一人で全部受けたぞ。
アンタのやり場のない猛りを、全部その身で背負って受け止めて、うちを守ってくれた。それがどれ程勇気が要ることか、アンタには分からないんだろうな。
うちだって黙ってお父ちゃんを迎い入れた。うちとお父ちゃんはアンタよりも……何倍も何百倍も強いんやろが‼
幸せになろう――お父ちゃんはそう言ってくれた。だったら、うちも支えなきゃ。
うちもお父ちゃんを幸せにしてあげる。楽させてあげたい。明日から、絶対、うちも頑張る。
それをお母ちゃんも、きっと願っている。
だから、明日から二人家族だけど、『三人』で、幸せになる。
お母ちゃんは、もういない。それは分かってる。
でも、きっとそれは嘘なんかじゃないんだ。
こうして、うちとお父ちゃんは心機一転、美空町に引っ越して再起を図ることになる。
そこで、うちには新しい出会いが待っていた。
そして、それはお父ちゃんにも訪れた……。
◇
うちには二人の母がいる。
『お母ちゃん』と『お母さん』。
何一つおかしなことなど、ない。
◇