やはり捻くれボッチの青春は大学生活でも続いていく。   作:武田ひんげん

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昨日に続く連投です。


第八話

「これでよしっと」

寮の中にある荷物をようやくまとめ終わり、後は日本に送るだけとなった。部屋の中は元々備え付けられていたもの以外がなくなりすこし寂しく感じる。曲がりなりにも一年近く住んでたんだ、そこを離れるのはやはりさみしい。

 

もう既にこっちで関わりのあった人達への挨拶も済ませてあとは出国を待つだけだった。

 

……ここまでイギリスという異国に留学をして、俺は色々なことを学んだ。本場の英語を学べただけでなく、人間関係において重要なことも学べた。いろんな国からいろんな人が集まってる大学において、やはり偏見や差別的な意識を無意識にでも向けていたこともあった。だけどそれは間違っていて、どの国の人でも優しいヤツや、仲間思いのヤツもいるし、その誰とも仲良くすることが出来るんだ。サークル仲間にも地元のヤツもいれば南米から来たやつもいるし、俺みたいな極東から来たやつもいる。

俺はこの留学を通して、いろんな偏見を捨てることが出来た。日本という単一民族の島国ではきっと経験できないであろうことを経験できた。

 

「八幡ー、行くよー!」

「ほいほい」

 

おっと、もう出発か。

俺はすっかり慣れ親しんだ部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

空港に向かう前に俺と陽乃はすこしロンドン市内をぶらつくことにした。

これまでも何回もデートしてきたロンドン市内であるが、たった1年とはいえやはり離れるとなると寂しい気持ちがあった。

 

「なんだかもうここにこうしていつでも来ることがなくなるって寂しいね」

「俺もちょうど今それを思ってたことだ」

 

陽乃も同じことを考えていたようで少し嬉しい気持ちになった。やっぱり好きな人と同じ気持ちを共有できるって嬉しいことだよね!

今日の陽乃は白のカーディガンに黒のロングスカート、カーディガンの下にはライトグリーンの薄いシャツを着ていた。相変わらず似合っている。春の初めのこの季節にはぴったりだ。

 

さて、テンションも上がってきたところでまず俺達が向かったのは行きつけとなった服屋だった。

 

「いらっしゃいませー!……あらっ、ハルノとハチマン!今日も相変わらず仲がいいわね!」

 

勘のいい人は気づいているだろう。行きつけの服屋とは陽乃が黒のワンピースと白の長袖のカーディガンを買ったあの店である。あれから何回かこの服屋に行ったが、店員のあの女の人にすっかり顔を覚えられたらしくいつも幾度に俺達に付いてくれる。

その店員、グリーンさんはそそくさと服を持ってきた。グリーンさんいわく、新作を持ってきているとのこと。

 

「今回はこの白のロングスカートが入ってきたの!ねえ、ハルノに似合うと思わない?ハチマン!」

「あ、ああ、似合うと思うぞ」

 

陽乃はグリーンさんに合わせているが、俺はどうもこのハイテンションにはいつまでも付いていけない。グリーンさんも俺のそんな様子にはいつも気づかない。まあそこがグリーンさんのいい所だよね、うん。

 

そこから女子2人で商品をあーだこーだいいながら選びまくっていた。その光景はなんだか笑えてくるほど楽しそうなものだった。

これからはこんな愉快な店にも来れなくなると思うと少し寂しいな……。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「え?日本に帰っちゃうの?寂しいー!」

「ごめんねグリーン。でも決まっちゃったから」

「ハルノとハチマンをこれから見れないって寂しいよぉ!」

 

グリーンさんは涙目になりながら残念がってくれた。

 

「まあ、いつか会えるわよ。私達がまたロンドンに遊びに来ればいいしね」

「うん……確かにそうね……。あ、そうだ!ねえハルノ、あなたの電話番号教えてよ!」

「え?どうして?」

「今度私時間が空いたら日本に行くからさ!その時案内してよー!」

「……ほほぉ、日本に来るのね……日本が騒がしくなっちゃうわね」

「いいじゃない、私ちょっと憧れだったのよ!サムライ、ちょんまげ、帯刀!」

 

グリーンさん、間違ってるって!もうそんな日本人いないから!明治維新で欧米化したからっ!

 

「よし!そんなに日本が好きならぜひ案内してあげるわっ!電話番号はね……」

 

陽乃も突っ込んでやれよ!教えてやれよ!そんなニヤけてないで!絶対これからかう気だな、悪魔めっ!

そんな俺の視線を察してか、こちらを見てウインクした。……くそう、可愛いじゃねーか。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

服屋を出た後、俺達はランチを済ませることにした。もちろんこちらも行きつけの日本料理店へ。今から日本に帰るってのに日本料理店ってのもおかしいが、やっぱりここの店長さんとも顔なじみになったし、挨拶がてらということもある。

 

「まあた熱いカップルだこと!」

 

店長のおっちゃんが注文表を持ってきながら冷やかす。これもいつもの通りだ。

俺達は二人共和風定食を頼んだ。

和風定食は味噌汁、漬物、白米、そしてトンカツというコテコテの日本料理が並んでいた。なんでも店長はかなりの日本通で、わざわざ日本から味噌や米を取り寄せてるらしい。

そんな店長自慢の定食をいただく。

……うん、旨い。これは日本人として充分な味だ。店長のこだわりの赤味噌はまったく日本の家庭の味に引けを取らないし、塩漬けも旨い。ご飯もメチャ旨い。もう全部旨い!

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

店長のおっちゃんに別れの挨拶をして、俺達はいよいよ空港に向かった。

ついにこの国を旅立つ時が来たか……。

ここに来て一年、いろいろ苦しんで、いろいろな出会いがあったが、ついにそれも終わり。母国に帰る時がやってきた。

 

「さ、帰ろうか、日本に」

「おう」

 

俺達は出発口へと、向かった。

 

「待って!ハチマン!」

 

ん?俺を呼ぶ声が聞こえてきた。誰だ?もう挨拶は終わったが……。

と、遠くから金髪の女が……。

あっ!ジェシカだ!そういえばジェシカだけタイミングが合わなくて挨拶してなかったんだ!すっかり忘れてた。

 

「ジェシカ……」

「はあ、はあ、ちょっと、挨拶もなしに、帰るなんて許さないよ?」

 

必死に走って来たのだろう。ゼエゼエと息を切らしていた。

 

「あー、そのタイミングがな……」

「タイミングもクソもあるか!タイミング少しでも見つけて挨拶こいや!」

 

うおっ、こりゃ相当怒ってんな……やべー。

これはもう素直に謝るしかないな。

 

「すまん」

「……まあ、私も忙しいし?仕方ないから許したゲル」

「お、おう」

 

とりあえず、許してもらえたみたいだ。というかジェシカには早くご退場願いたい。さっきから横から冷たい殺気が漂ってきてるから。……怖いって。

 

と、とりあえず、出発口に向かうか。

 

「よし、とりあえず、もう出発するから。んじゃな、ジェシカ」

 

俺は陽乃の手をとりそそくさと逃げるように出発口に向かおうとした。が、

 

「ちょ、ちょ待ちなさいよハチマン!こら!話は終わってないわよ!」

 

ジェシカから肩をガシッと持たれた。……やべ、こいつ、振りほどこうとしてもほどけねー。力強いな以外と。

もうこれは堪忍して振り返るか。と、渋々ジェシカの方を振り返った。

 

……ん?

振り返った時、視界の端に何かがこちらに向かってくるのが見えた。俺が振り返った先に見えるのは一面ガラス張り。つまり、外の状況が丸見え。空港ではよく見かける構造だ。そして、それを真正面から見ている俺の視界の左端から、なにかの物体が近づいているのが見えた。

異変を感じそちらの方を向く。

 

「なに?どうしたの?ハチマン?」

 

ジェシカも振り向く。そして陽乃も。

そして陽乃が、

 

「あれ、車じゃない?しかもなんかスピードが出てる?え?」

 

どんどん近づいてくる黒い車。それはメチャクチャ早いスピードで――――

 

 

ガッシャーン!バリバリバリバリ

 

一瞬の出来事だった。その黒い車はガラスを突き破り空港内に侵入してきた。そして、

 

 

ドガーーーーン!

 

ものすごい音と共に爆発した。

 

―――逃げ惑う人々。俺達は突然の出来事に固まってしまった。そして、1台の黒いセダンが空港前に止まり、その中から出てきた武装した男達が空港内に侵入し、そして、その手に持っているマシンガンを天井に向かって乱射した。

 

ババババババババン

 

俺はこの一連の出来事から瞬時に悟った。

 

これはテロだと……。

 

「逃げるぞっ!」

 

俺は未だ固まったままの陽乃とジェシカの手をとり、走り出した。

陽乃とジェシカはしばらく放心状態のまま俺の手を引かれていたが、やがて

 

「あ、え?え?」

「あ、あ、うそ、これって……」

 

陽乃がまず反応を示し、そしてジェシカも現実を受け入れ始めたようだ。

 

俺はとりあえず、外に出ようとした。しかしほかの人々も同じように外に出ようとしたため、出入口がものすごく混雑した。

 

ババババババババン

 

奴らが銃を乱射している。これは無差別だ。そう悟った。

 

「は、八幡……」

 

陽乃が俺の手をとり、必死に深呼吸して落ち着かせようとしていた。そう、悲鳴を上げて目立たないようにするために。

だんだん混雑していて動かなかった人の流れもようやく動き出し、俺達は出口へ、外へと向かい始めた。

あと少しで外へ……。と、

 

「い……」

 

隣てジェシカがガタガタと震えだし、

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

一際甲高い声で叫び始めた。しまった、と俺は思い、必死にジェシカの口を抑えた。

がしかし、奴らにバレてしまうのにそう時間はかからなかった。奴らはこちらに向けて銃口を向けた。

……やばい

 

ババババババババ

 

奴らはこちらに発砲してきた。と同時に俺達も外へと脱出出来た。これで一安心……。

 

 

 

 

 

グチゃっ

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?なんか脇腹が熱い。疑問に思い脇腹に手を当てると、

 

 

 

 

 

「あれ?赤い……」

 

 

 

 

 

それを確認すると同時に目の前が暗くなってきた。

 

 

……あれ?目の前がグラグラして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はちまーーーーーーーん!」

 

 

 

 

 

あ、陽乃、なんで叫んで……というか景色が逆さに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の意識は―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリス留学編、完。

 

 

 

 




さて、昨日に続く連投となりました。お楽しみ頂けたでしょうか?
今回で第一章イギリス留学編は終わりとなります。次回からは第二章に入っていくわけですが、さあ果たしてどうなるでしょうか?主人公の運命は??

さて次回の投稿は未定です。年内にかけるかどうかも微妙です。努力はしていきますが……。

というかやはりブランクというのは大きいですね。昨日投稿した話なんか中身の描写やら、セリフやらがかなり下手くそ丸出しでしたね。結構忘れてしまうんですよ、時間が経つと描写の仕方とか。まあ、元々そんなにうまい方ではないですが苦笑

それから今回から残酷な描写というタグを追加してます。今回はかなりブラックなところまで足を突っ込みましたからね……。

さて、次回のお話、是非是非お楽しみください!応援コメントも受け付けてます。応援していただけると非常にありがたいです!
ではまた皆さん次回お会いいたしましょう、さようなら!

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