風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

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ちょっと修正と加筆
でもやっぱり長いだけ



風紀委員長の日常
仕事が無い風紀委員長のお仕事


 まいったな。

 やっぱり怒ってない訳がなかったんだ。

 ある意味朱乃ねーちゃんって、あの事件以降のバラキエルのおっさんと同等かそれ以上に師匠――じゃなくて、なじみに敵意を持ってるし、それを考えればなぁ?

 

 

「夢の中では華奢な学ラン野郎にデカイ螺子をぶん投げられるし、起きたら起きたで良いのか悪いのか良く解らん展開になってるし……。

いくら日頃の行いが悪いからってこれはねーぜ……くそぅ」

 

 

 なじみが転校してきてから数日経った訳だが。

 弱ったことにあの時以降からねーちゃんが全く口を聞いてくれなくなった。

 学園内で顔を合わせても無言。

 こっちから話し掛けても拗ねた様にソッポを向かれる。

 ちょっと納得できないけど、何とか謝ろうとしても無視。

 

 

「な、なぁねーちゃん?」

 

「つーん」

 

「た、頼むよ。そんな態度されると調子が狂うというかさ……」

 

「ぷい」

 

 

 まさに取り付く島無し。

 普段は服装チェックの邪魔ばかりするし、最近はところ構わず変に世話を焼こうとするのが鬱陶しくすら感じてたのに、イザこうしてガン無視されると変に調子が狂って日課のセクハラもまるで手が付かねぇ。

 

 

「あぁ……なーんか物足りねぇ」

 

「朱乃ちゃんに怒られないのが物足りないのかい?

とんだマゾだなオメーは」

 

「そうじゃねーし。

俺はどっちかと言うと染められる側より染める側だっちゅーの」

 

「やっぱり幼馴染みなんですね、お二人は」

 

 何も知らん努力もせんで勝手に文句ばっかり抜かすバカどもが『ザマァ見ろ』と言わんばかりな顔をしてくるので、思わずその場でぶちのめしてやりたくなった。

 しかしながら、奴等の気持ちも解らんでもなかったので、それはグッと堪え、ただただ『クラスの友人兼遠い親戚の転校生』という設定で定着しちゃったなじみと、どういう訳かあの時以降からちょくちょく会話をするようになった生徒会の副会長さんが、何時もの通り俺を『兵藤一誠』として接してくれた。

 

 

「やっぱりあの時の女の子はアンタだったんだな。

てか年上だったのか……」

 

「あの時は眼鏡とかも掛けてなかったから、アナタが気付かなかったのも仕方無いと思っていたけど、少しくらいはと怒りを覚えたわ。

ま、結局忘れてなかったから許すけど」

 

「………」

 

 

 昼休みにもう一度朱乃ねーちゃんの教室に行って見事に玉砕し、物凄い惨めな気分で帰ろうとした所にひょいと現れ、驚く暇も無しに意外と誰も来ない屋上に来いと、なじみ共々引っ張ってきた黒髪ロングの眼鏡な生徒会副会長・真羅椿姫さんは、意外を通り越して雨でも降るのではなかろうかと思う気安さで、菓子パンをかじる俺に対して変に年上ぶった喋り方をしてきながら、ちまちまと自前の弁当を口に運んでる。

 

 

「縁というものは不思議なものだと思わないか?

一誠は僕が課した修行の為に、真羅さんは実家の者達からの嫌がらせで置いてけぼりにされた見知らぬ場所でたった一度だけ出会い、僅かな時間を過ごしただけの間柄なのに、今はこうして同じ学校で、同じ場所で再び過ごしているんだもの」

 

「ええ、そういう意味ではアナタに感謝してますよ安心院さん」

 

 

 俺に奢らせたジュースをちびちび飲みながらペラペラと語るなじみに、副会長さんはフッと頬を緩ませている。

 

 

「やっぱりあの時感じた俺の予感は当たってたのか……。内容的に当たって欲しくは無かったが……」

 

 

 しかし俺の気分は微妙だ。

 なじみの話と、それを否定せず口を閉ざす副会長を見るに、この人も結局は朱乃ねーちゃんと同じような目に遭ったのだと思ってしまうからだ。

 

 

「大衆の殆どは『自分が持ち得ない特別な何かを持つ人間を排除したがる』という習性があり、だからこそこの地球上では人間が多く生き残ってる……か。

胸クソ悪いが事実なんだよな」

 

 

 詳しく聞くのは野暮と思って聞かないが、大体の予想は出来る。

 迫害された理由は、特別な何かを持ってるから……もしくはねーちゃんの様に交わる血を持つ存在だからとか。

 ……チッ。

 

 

「三代前の風紀委員長が言ってたと先代から聞いた話の中に、『弱い癖に、群れを作るバカ共を見ると噛み殺したくなる』と言ってたらしいが、今なら何と無く分かるな」

 

 

 俺は会ったことは無いが、先代曰く『男女みたいでおっかない先輩だった』らしい人。

 何でも、女性でありながら学ランを羽織って二本の仕込みトンファーを武器に学園の――いや街の風紀を守ってたらしいけど、三代前の風紀委員長の言ってた事が今なら何と無く理解できる。

 人より少し違うからだとか、人間と交わった血だからとギャーギャー喚き、汚いやり方で排除しようとする連中は人間だろうと何だろうと俺は平等に嫌だ。 

 ……………。まあ、その被害を受けてるのが俺の知り合いだからというのが殆どだけど。

 

 

「もう過去の話よ。今もこうして生きてそれなりに楽しくやってるしね」

 

 

 なじみが言った通り、奇妙な縁が土台となり、こうしてあの時の以降のまともな会話は、初っぱなから妙に暗い話となったけど、彼女は想像以上に強くなってる様だ。

 決して簡単に流せるものじゃ無いはずの辛い過去を、過去として割りきってるのだからな。

 

 

「へぇ? あの時の迷子になって泣きそうになってた頃と比べると随分したたかになりましたな……椿姫ちゃん?」

 

 

 だからこそ悪魔の女王をやってられるんだろうな。

 おちょくるつもりで、あの時一度だけ口にした呼び方でニヤリと笑って見せると、副会長さんも笑って見せる。

 

 

「そうよ一誠くん。これでも私は副会長よ?」

 

 

 それはねーちゃんには無い……俺のせいでもっと早くに獲られる筈だった強さを感じた。

 ふむ、その強さを持ってるなら、安心して寝ぼけて胸を鷲掴みにした事は忘れ――

 

 

「そうそう、あの時の約束はちゃんと守って貰う――いえ、私の胸をあんなに強く鷲掴みにしたのだし、一回じゃあ足りないわね」

 

「……………。はい」

 

 

 ては無く、しっかり覚えてた。

 それはもう良い笑顔をしてらっしゃいましたぜ……。

 

 

「良かったな一誠、女の子一人GETだぜ!」

 

「……………」

 

 

 なじみ、耳元でうるさい。

 元を辿るとお前が余計な真似をしなければだな……ねーちゃんの事は全然解決してねーのに……。

 

 

 

 

 気に入らない。

 姫島朱乃はここ数日の全てが不機嫌モードであった。

 理由は簡単だ……兵藤一誠の浮気癖(朱乃的には)であった。

 

 

「まだ怒ってるの? 何があったかは知らないけど……」

 

「…………」

 

 

 そんな朱乃の不機嫌さを近くで数日ずっと見てきた紅髪の悪魔であるリアスは、呆れた表情をしながら無言で弁当を食べる朱乃に声を掛ける。

 

 兵藤凛の弟である一誠のクラスに女子生徒が転校してきてからずっとこの調子なのだ。

 リアスが呆れるのも致し方無い部分があるというものだ。

 

 

「彼のクラスに転校してきた子は確かに私から見ても美少女だとは思うし、妙に彼と仲が良いのも見たから分かるけど、それだけで口も聞かなくなるなんてアナタらしくないじゃない?」

 

「…………」

 

 

 変な時期に転校生。

 それも悪魔が管理するこの駒王学園に。

 妙な引っ掛かりを感じて一応調べてみたが、あの転校生……安心院なじみはれっきとした『一般人』でほぼ間違いなかった。

 両親と死に別れ、親戚に引き取られ、その親戚が個人的に兵藤一誠と親しく信用していたので、資金援助を対価に彼女を学園近くにある自宅に一緒に住むという所に違和感はあったが、それでも彼女からは何も感じない、極普通の人間という判断をリアスは下し、特に触れることもしなかった。

 

 しかしどうやら朱乃は違ったらしく、妙に一誠と親しい彼女と、セクハラもしないで普通に接する一誠の態度が気に入らないらしい。

 

 

「寧ろ彼女が転校してきてからは彼のセクハラは激減したみたいだし、アナタにとってもメリットはあるじゃないの?」

 

「…………」

 

 

 一誠を観察する限りだと、彼女に鼻の下を伸ばす様子も無さそうだし、何がそんなに気に入らないのか……無言で食べて飲んでをする朱乃を見るリアスだが、彼女は知らないのだ。

 

 

「………。(屋上で楽しくやってる。真羅さんも楽しくやってる。楽しく、よろしく)」

 

 

 安心院なじみが『そんな存在じゃない』ということを。

 リアス達悪魔を、冥界に存在する悪魔を、魔王を――いや神ですら『平等にカス』と見下す超存在であり、今持つ一誠の強さのほぼ全てが彼女によるものだということや、一誠を『自分の背を任せる』男にしようとしている事の何もかもを知らないのだ。

 

 

「……。(取られる。一誠くんが取られちゃう……嫌……イヤ……そんなの嫌よ……!)」

 

 

 だからこそ朱乃は半狂乱になりかけてる精神を何とか押さえ付けながら考えるのだ。

 どうすれば取られないのか、どうすればあの人外を出し抜けるのか。

 まさか自分の知らないところで幼い頃に真羅椿姫と出会い、ふざけた約束までしていたという死にたくなる現実もそうだが、一番に危惧するは安心院なじみなのだ。

 

 彼女自身は『一誠が誰と色恋沙汰になろうが僕は何も言わないよ』としたり顔で宣ってる間はまだ良い。

 問題は何時彼女が『気が変わっちゃったぜ』とか言い出すかだ。

 そうなったら最後、恐らく安心院なじみは一誠を永遠に自分達の手の届かない場所に連れ去るだろう。

 途方もない数の能力(スキル)を持つ彼女なら可能だ。

 

 

「……。(そんなことをされたらわたしは……)」

 

 

 想像するだけで身震いが止まらない。

 一誠を失って残るものなんて、この世にはないのだから。

 だからどうしても一誠の気を少しでも引くには、暫く口を聞かずに彼が自分にすがってくるのを待つしかない。

 

 

「……。そうですわね、私も少しは『大人』にならないと……」

 

「……? そうよ朱乃、もっと自信を持ちなさいな」

 

 

 しかしそれでは駄目だ。

 効果は確かにあるが、それだけじゃあ決定打にならない。

 大人……そう、何物にも動じない大人にならなければ意味なんてない。

 それが一誠の理想とする女性像なのだから……。

 

 無表情だった顔を、漸く何時もの二大お姉様と言われる笑顔に変わった朱乃を見て、一瞬の違和感を感じたものの機嫌だけは直ってくれたと思い込んだリアスはホッした――

 

 

 

 ――その瞳の奥の黒さに気付かず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱乃ねーちゃんのお世話焼きが無くて、妙に狂ったままの調子だが、風紀委員のお仕事は忘れない。

 生徒会の勢力が拡大し、あれだけ全盛を極めた風紀委員会は今ではお払い箱で仕事も学園内には殆ど無い。

 が、しかし我が校の風紀委員会は三代前から作られた伝統がある。

 それは――

 

 

「それじゃあイッセーの坊主はこの区域を頼むよ!」

 

「いやぁ、ジジィだらけの町会員にフレッシュな若者が入ると気合いが入りますなぁ!」

 

「まったくだな、それも女の子まで連れてくるとは、坊主も男になってきたってことかぁ? ガハハハハ!」

 

「そうでもあるぜ、へっへっへっ!」

 

 

 駒王学園の制服に身を包み、右腕には風紀委員会の腕章……謂わば俺にとっての戦闘服に身を包んだ俺が今いる場所は、自治会が管理してる民家みたいな建物だ。

 右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても、ヤケにアグレッシブなじーさんばっかりで、熟女や人妻の姿は皆無であり、毎度のことながら自分等よりずっと若い俺がパトロール隊に入ったのがそんなに嬉しいのか、このじーさん共は大きな孫でも相手にするかの如く楽しそうに俺に絡んでくる。

 ぶっちゃけこんなじーさんに可愛がられても……と最初は思ったもんだが、今じゃ嫌味無く迎え入れてくれてるこのじーさん共とは楽しくやらせてもらってる。

 

 

「っし、区域確認完了! では行ってきますぜ!」

 

「終わったらタコ焼き奢ってあげるから頑張れよ!」

 

 

 本日のパトロール区域を指定され、町内会パトロール隊ただ一人の10代(ティーン)である俺は、じーさん共に見送られながら見回りを開始する為にその一歩を踏み出した。

 主な仕事はじーさんに与えられた区域内を見回り、不審な人物が居ないかの調査や家に帰る小中学生の護衛等々……まあ、そんな所を風紀委員会は自治会と連携してボランティアで行っており、たった一人になってしまった今でもそれは変わらない。

 まあ、今日はじーさん共が言った通り一人じゃねーがな。 

 

 

「前に聞いてはいましたが、まさか本当にボランティアをやってたのね?」

 

 

 本日のゲスト……副会長さんが何か付いて来たからな。

 

 

「まぁね。

アンタ等生徒会が風紀委員の仕事の殆んどを取ってくれたお陰で、日陰者の俺はこれしか風紀委員らしい仕事がねーのよ」

 

 

 なじみを先に帰らせ、ねーちゃんは既に部活で会えずに謝ることも出来ないままという状況のまま、予定されていたパトロールをする為に学園を後にした訳だが、何を思ったのか、副会長さんが集合場所に向かう俺の後を付いてきたのだ。

 曰く――

 

 

『ほぼ壊滅状態の風紀委員が、何故潰れないのかを会長から聞いて知ってましたが、それが本当なのか確かめる為に今日はアナタの行動をチェックさせて貰います』

 

 

 と、眼鏡をクイッとしながら涼しい顔をして戸惑う俺にそう言ってわざわざ歩幅まで合わせ隣を歩いた。

 そういや真羅椿姫としてじゃなく、生徒会としては俺の行動に懐疑的だったな……なんて今更思い出した俺は、別にやましいことはしてないので了承・そして今に至るという訳だ。

 

 

「一人しか居ない風紀委員に先代までの仕事をこなすとは、アナタの性格を見ても疑わしかったからよ。

恨むなら普段のハレンチな行動をしていた自分の浅はかさを恨むのね」

 

「……。副会長さんモードのアンタって言い方がキツいな」

 

「優しく言ってもアナタは聞かないでしょう? もしもあの時の事が無くて初対面だったら、話し合いの余地すらなく、アナタをハレンチな問題児として見てたでしょうし」

 

「だろうな。

だからこそ、アンタの滲み出るその雰囲気のせいでセクハラしようとは思わなかったしな」

 

 

 昼間の打ち解けた感じがまるでしない、ただただツンツンした態度で淡々と話す副会長さんにちょっと圧されてしまう。

 そう考えればある意味公平的だよこの人は。

 

 

「結局はしたじゃない。

寝惚けたフリして私の胸を……」

 

「い、いやフリじゃないっすよ。

アレは本当に――」

 

「ふふ、冗談よ」

 

 

 この前の事故について本当に意図しなかった事故と、ちょっとテンパる俺に副会長さんは小さく微笑む。

 ホント……アレは本気で事故だったんだ。

 

 

「でも掴まれたのは事実よ。

今でも忘れないわ……初めて異性の男の子にあんなに強く掴まれて……」

 

「すいません、すいません」

 

「誰にも触らせたこと無かったのに……」

 

「勘弁してください、勘弁してください……!」

 

 

 意外と根に持つタイプな副会長さんに俺はただただ平謝りというコマンドしか選択できない。

 だって理由はどうであれ事実なのだから。

 

 

「そう思うのならちゃんと誠意を見せなさい。

言っておくけど、私は意外としつこいわよ?」

 

「はい……はいでございまする……!」

 

 

 ヤバイ、何か心がへし折れそうだ。

 意外と大きいとか、言ってる割には最後まで俺をぶん殴らなかったとか言い返せる雰囲気のないまま、これ以上心にダメージを与えないために、彼女言う誠意を見せる為に、俺なりの風紀委員を執行するだけだ。

 

 

「取り敢えず、何時もの様にやるからそれを見て判断してください……っと、着いた」

 

「……公園?」

 

 

 

 何せ、俺が担当する区域は子供達の多くが利用する公園が存在しているので、公園内にも目を見張らなければいけないのだからな。

 第一の目的地に到着した俺は、後ろで目を丸くさせながら付いてくる副会長さんを連れて、わーわーと元気の良い声が聞こえる園内に足を踏み入れ、走り回ってる小学校低学年から園児くらいまでの子供に声を掛ける。

 

 

「おーう、今日も無駄に元気だな小僧共」

 

「あ、変態にーちゃんだ!」

 

「ホントだ! 遊んでよ!!」

 

 

 俺が来た事に気付いた小僧共が一人、また一人と俺の下へと走ってくる。

 仕事柄、実は俺って町内のガキ共と人妻や未亡人さんたちからはちょっとした有名人で通っており、学生服と右腕の腕章を身に付けた俺が公園にやってくると、こんな風に見付けたガキ共がわーきゃー言いながら集まってくるだよね。

 ……。何故か変態という渾名で。

 

 

「へ、変態って……」

 

「いや、何故かそれで定着しちゃったんですよ」

 

 

 わーこらと集まる小僧共の殆んどが俺を『へんたいにーちゃん』と連呼してるのを後ろから眺めていた副会長さんが引いていたので、何もそう呼べとは一言も言ってないとあらぬ誤解をされる前に釘を刺しておくと、小僧の集まりの中の一人が副会長さんを見て、ビックリした顔をする。

 

 

「おおっ!? へんたいにーちゃんが女の人連れてる! もしかして彼女!?」

 

「ホントだ! すげー!!」

 

 

 何でだろ、どうも此処等の餓鬼共はマセてやがる。

 いや確かに普段一人の俺が異性の人を後ろにやって来れば驚くのかもしれんが……はぁ。

 

 

「残念なことに彼女じゃないんだなこれが。

それより、人と会ったら何を言うかお前等忘れてないか?」

 

「あ、そうだった! せーの……」

 

 

 こんにちはー!!!

 

 

「あ……こ、こんにちは……」

 

 

 大事な事を忘れてる小僧共に促し、挨拶をさせた途端、副会長さんの顔が面白いことになってた。

 ははは、写メでも撮っときたい気分だが止めとこ。

 

 

「よーし、それだけ元気良く言えたら充分だ」

 

「じゃあ遊ぼう!」

 

「あー……すまんな小僧共。

俺は今パトロール中でね、遊んではやれんぞ」

 

「えー?」

 

「また今度な」

 

 

 餓鬼ってのは見所がある。

 なんというか、マジで圧倒されるガッツがあるからな。

 誰とでも仲良く出来るポテンシャルがあり、俺みたいなアホにも隔てなく接してくれる。

 嫌いじゃないタイプだ。

 

 

「子供から慕われてるのね」

 

「慕われてるというか、遊び相手にして貰ってるだけだと思いますがね」

 

「………」

 

 

 ド変態なセクハラ野郎の側しか学園では見せておらず、そしてこんな活動を内緒でしていた事を詳しく知らなかった副会長さんは、鳩が豆鉄砲を喰らった顔をしていた。

 まあ、生徒会副会長として見た風紀委員長は救い様の無い馬鹿にしかみえないからな……っと?

 

 

「あ、あの……お兄ちゃん……」

 

 

 わんぱく小僧共が園内を駆け回るのを、二人して眺めていた時だった。

 様々な小僧やお年寄りが様々理由でやって来るこの公園は、当然走り回りたくない奴は来ちゃいけないという決まりなんて無い。

 中には運動が苦手な子だって居るし、そういう子が来る場合は大抵ベンチか何かに座って本を読んだりのんびりしたりしている。

 で、この時も、何時も来ては隅のベンチで小難しそうな本を何時も読んでるだけで、他のガキ共と一緒に走り回らないタイプの子が遠慮しがちに近付いて来たので、俺は表情を緩めながら目線を合わせるためにしゃがむ。

 

 

「お、今日は本を持って来てないのか?」

 

「う、うん……。

おじいちゃんから『お兄ちゃんが此処に来るかも』って言ってたから……」

 

「おじいちゃん? あぁ、源さんか」

 

 

 恥ずかしそうに、もじもじと両手の人差し指を絡ませながら話す女の子の言葉に、俺と同じパトロール隊なんて名前負けも良い町内会員のじーさんを思い出す。

 

 

「わざわざ会いに来てくれたのか?」

 

「う、うん……」

 

「へ、そっかそっか」

 

 

 源さんていって、あのパワフルだらけのメンバーの中でも一、二を争うレベルの元気さを誇るじーさんで、そのお孫さんがこの子って訳だが、何だろうな、あのじーさんがこんな随分と大人しい子を孫に持ってるのが未だに信じられん。

 

 

「それで、その……今度のお休み、お兄ちゃんさえ良ければ一緒に図書館に連れていって欲しいなって……」

 

「え、俺に――ぅ!?」

 

「…………………」

 

 

 そんな女の子に俺は誘われているという変な状況に突入した。

 そしてその瞬間、学園でやらかしてる俺を知る副会長さんのジロッとした視線が背中越しに伝わるので、内心『ロリコンじゃねーよ』と思わず呟くのと同時に、人妻レベルの熟女にはこんなお誘いが無い現実に軽く凹んでしまう

 

 いや、悪い子じゃないのは分かるんだけどね? それにしたって小学生に誘われるとか、こんなん事情を知らんウチの学校の生徒に見られたらロリコン呼ばわりされても言い訳が効かなそうだぜ。

 つか、そうでなくても此処には元気の良い少年・少女だらけな訳で……

 

 

「あー! 変態にーちゃんをゆーわくしてる!」

 

「でーとってやつかー!?」

 

「ち、違うよぉ……!」

 

 

 ほら、言葉を知ってても意味はあんま分かってなさそうなガキ共がこぞって騒ぎ出しちゃったじゃんか。

 ったく……。

 

 

「はいはい、オメー等もこの子をからかうのはその辺にしときな。やりすぎは苛めに繋がるんだぞ?」

 

「「はーい、ごめんなさーい……」」

 

 

 俯く女の子を見かねて、騒ぐ小僧共を咎めると、根が素直な小僧共がシュンとなって女の子に謝るのを見て、ちょっと満足した気分になった俺は女の子と小僧共の頭をガシガシと撫でる。

 

 

「謝れるなら上等だ。

よし、そんなお前等に褒美として今度の休みこの子と一緒に図書館に行った後、何かご馳走してやるよ」

 

「マジかよ変態にーちゃん!」

 

「おう、その代わりちゃんと父ちゃん母ちゃんに今の事を話して『許可』を貰ってからだがな」

 

「言う言う! 母ちゃんだったら『にーちゃんなら安心だ』って言ってたし絶対大丈夫だもんね!」

 

 

 手放しで喜ぶ小僧共に、『俺も昔はこんくらい単純だったんかねぇ……』と昔を思い出していると、大人しめの女の子がさっきと同じく遠慮しがちに此方を見上げている。

 

 

「……。私も、良いの?」

 

 

 歳は小僧共と同じなのに、やっぱりしっかりしとる女の子のおずおずとした口調に、俺はヘラヘラ笑いながら首を縦に振る。

 

 

「源さんにゃあ結構世話になってるしな。

それにそんな歳から遠慮してたら損しかしねーぞ?」

 

「う、うん……!」

 

 

 俺のヘラヘラした笑顔で安心したのか、それまでの不安そうな顔が漸く引っ込み、実に子供らしい無垢な笑顔を浮かべる女の子。

 うんうん、こういう場面に出くわすと風紀委員やってて良かったと思えるわ。

 ……。学園内じゃド変態だけど。

 

 

「…………」

 

 

 

 そんな訳でこの仕事だけは、一人だけになっても絶対に生徒会に渡す気は無く、公園を出てから一切無言となった副会長さんを連れて無事不審者無しでパトロールを終える事ができた。

 自治会のじーさんばーさんに感謝とお裾分けを貰い、ホクホク気分にもなれたし、ねーちゃんの事はあれど今日はまだ良い日だなと思いながら暗くなってきた道を歩いていた時だった。

 

 

「何故会長が風紀委員を解体できないのか、その理由がよくわかりました」

 

「え?」

 

 

 下手っぴな鼻歌なんてしながら、貰った野菜やら煮物やらにウキウキしながら歩いていると、半歩後ろを付いて来ていた副会長さんが唐突に声を出し、俺の足は自然と止まって彼女の方へと振り向く。

 

 

「良いでしょう。

『私個人』としてならアナタが風紀委員長として在籍することを認めてあげます」

 

「は、はぁ……そりゃどうも」

 

 

 何だ急に? そりゃ副会長さんの目的が学園外でやってる俺の行動を監視する事なのは最初に聞いたから知ってたが……。

 

 

「それに、これで確信が持てましたし」

 

「は――え?」

 

 

 取り敢えずはこの人に風紀委員の活動を認めて貰えたという点では内心ホッとする俺は、紙袋に詰めた本日の戦利品を持つ手を入れ換えて逆で持とうとした瞬間、ちょっとだけ固まってしまった。

 というのも、さっきまでツンツンドラドラ満貫6000オールです的な態度だった筈の副会長さんが、その表情をフッと揺るめたどころか、昔を思い出させる笑顔を見せたのだ。

 そして、俺にこう言った。

 

 

「良かった……。

あの時のアナタもちゃんと残ってて」

 

「は?」

 

 

 あの時? 初めて会った時の事か?

 なんだよ、昔も今も変わってねーとなじみに言われてるせいで全然分かんないんだけど……。

 急に機嫌が良くなってる副会長さんに頭の中が?だらけとなる横で、彼女は微笑みながら急に俺の手を取ると……。

 

 

「一回とは言わないわ。

忘れてた分、私が満足するまでデートしてね?」

 

「うへ……!?」

 

 

 両手で俺の手を包み、モロに不意打ちな笑顔とギョッとするほどに『女の子らしい声色』でそう言われた。

 真面目に唐突に……それこそメチャクチャ気難しいギャルゲーキャラがデレたみたいなシチュに、不覚にも心の臓が大きく鳴ったのは絶対に誰にも言わない。

 

 

「姫島さんには悪いけど、ふふ……もう決めちゃったわ♪」

 

「あ、いや……はい……」

 

 

 急に副会長モードを止めてからのこの威力は、マジでヤバく、まだ俺の手を離さず笑う彼女が直視出来ずに、あっちこちに視線を動かし、平静を取り戻そうとするが……あんまり効果がない。

 あーちきしょう……女の子って卑怯だわ。

 

 

 

 真羅椿姫という個人としても、生徒会副会長としても、兵藤一誠が風紀委員として在籍することに関しては首を捻る側だった。

 確かに昔私は、小さな事だが彼に救われたし、その時の思い出で彼に好意を持っている。

 けれどそれでは不公平だ。

 あくまでも今回の話は、彼が風紀委員長として勤まっているのか、そして何故一人しか居ない委員会が潰されずにいるのか、その理由を探らなければならない。

 

 その為には彼の学外に措ける『活動』というものを見学し、近隣住民からの絶大な支持を獲ている理由を探ることが私の目的だ。

 何せ今の風紀委員はおかしなことに、近隣住民から『潰さないでくれ』という声が大多数あるお陰で存命しているようなものであり、常日頃から我等生徒会は何故近隣住民からという疑問があった。

 だから、あの時の男の子だった彼と個人的に上手いこと親しくなれたこれをチャンスと思い、あの時の頃と今の彼がどう違うのか調べるためにも、放課後人知れず学外に出た彼の後を付いていった。

 

 意外なことに、付いて行くと言っても彼は何も言わず『面白くないと思いますよ?』とだけ言って、同行を許可してくれた。

 そして知った……何故近隣住民の方々が風紀委員会を解体するなと言ったのか……。

 

 何というか、彼は良くも悪くも『普通』にしていれば好かれるタイプなのだ。

 人懐っこく、子供相手には同じに目線に立てる。

 

 そうだ……これは私がかつて出会った彼そのものだ。

 相手が人見知りでも、その心に不快感無く簡単に入り込み、そしていつの間にか仲良くなる。

 なるほど……意外と彼は人タラシという奴なのかもしれない。

 そして私もその人タラシな性格に……。

 

 

「急にデレるのは卑怯なんすけど……」

 

「今日の生徒会としての仕事は終わったのよ、ふふん」

 

「あ、そ、そっすか……。あ、あの副会長さん? そろそろその白くてキレーなお手てを離し――うっ!?」

 

 

 幼馴染みの姫島さん。

 師匠の安心院さん。

 うん、うん……二人とも彼に最も近い女性なのは百も承知だし、私は単に昔出会っただけの、部外者にも近い女でしかない。

 けどもう決めた。恐ろしく彼に……一誠くんに執着している姫島さんには、さっき言った通り悪いけど決まってしまったものは仕方ない。

 私だって、あの時出会いと約束をずっと夢見て来たのだ……それに彼自身はフリーを自称しているみたいだし?

 

 

「もう学校は終わってるわ、だから……あの時みたいに椿姫って呼んで?」

 

「うぉぉっ!!? や、柔かいおもちが腕いっぱいに……!?」

 

 

 大好きらしい胸もそれなりにあるし、現にこうして腕を絡ませて然り気無く押し付けたら喜んでる。

 うん……別に私が彼と何度もデートしようが責められる謂れは無い……そうでしょう?

 

 




補足

安心院さんは誰とイチャコラしてようが別に構わないタイプ。

朱乃さんは許したくないタイプ。

椿姫さんは不倫してでも諦めず、デレる時は凄まじくデレるタイプ。

……。取り敢えずまともにお話がしたいお姉ちゃん。




 その2
次回から原作イベントを交えます。

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