風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

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テコ入れテコ入れ……。


※消すどころか加筆とは、私も中々救えないぜ……


幼馴染みとの約束。師匠との約束。一度だけ出会った女の子との約束。そして姉。

 やばい、胃がキリキリする。

 やばい、暴飲暴食をしてない筈なのに胸焼けがする。

 やばい、変なストレスで吐きそう。

 やばい、やばい……やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。

 

 

 

 

 

 天然の能力保持者(スキルホルダー)である兵藤一誠。

 突き付けられた現実から逃げたいという強い思いから生まれた過負荷(マイナス)と、二度と失わないために、何も出来ず見ているだけしか出来なかったあの時から這い上がる為に生まれた異常性(アブノーマル)の二つを持つこの少年は、只その日を生きるだけの常人からかけ離れた人間だった。

 彼にそれを教え、使い方を叩き込んだ師匠曰く、一誠もまた人外であるとの事だが、本人にその自覚は無く、まだまだ弱いと自分を卑下しながら毎日毎日己の身体を鍛え、備えていた。

 

 かつて幼馴染みと約束した言葉を守る為に……。

 そして時を同じくして師と約束を守る為に……。

 

 

「酷い目にあったぜ……」

 

 

 嫉妬と暴力渦巻くクラスの処刑にも屈せず、今日も頑張るのだ。

 

 

「生で見てて思うが、お前って周りから全然信用されてないよなー?」

 

「……アンタが余計な事を言ったせいだ。俺は悪くない」

 

 

 安心院なじみという美少女が転校してきた……という話は学年……いや学園全体に広まり、それと平行してド変態の一誠と同棲してますという話も広まった。

 そのおかげで、一誠はこれまで以上に周囲から敵意の視線を向けられる羽目になった。

 女子からは変わらずの『穢らわしいものを見る目』で。

 男子からは『単なる嫉妬』で。

 

 

「お前ってリア充だったんだな」

「失望したよ……もう俺達の同盟もこれまでだな」

 

 

 エロDVD見せ合い隊と表して奇妙な関係だった元浜と松田も同じく、単なるスケベな風紀委員長から実は美少女に囲まれてる羨まし野郎という認識に切り替わった瞬間、冷たく言い放ちながら同盟を切ってしまった。

 ……。まあ、それを言われた一誠はあんまりダメージを受けては無かったが。

 

 

「あーぁ、これでエロDVDを貸し借りする相手が居なくなっちまった……ハァ」

 

 

 あくまで一誠としては、見たことが無いエロDVDをタダで借りる事が出来なくなった事に嘆いており、友人に近いともいえる関係が切れてしまった事に対してはどうでも良かった。

 理由は単純に『むさ苦しいだけの野郎とダチだなんて気持ち悪い。そんな事に時間を使うならおんにゃのこを口説き回ってたほうが余程有意義だぜ』――という、普通に最低な理由であった。

 割りと彼は学園で虐げられてもへっちゃらな気質なのだ。

 

 

「もう帰れよ。俺は今から委員の仕事だし」

 

 

 そんな友達の居ない男……一誠は、只今風紀委員が活動の為に使う部屋に居た。

 豪華な机、豪華なソファ、豪華な本棚、豪華な花瓶に挿された一輪の花。

 元は数年前まで来賓用の応接室として使われたらしいこの部屋は、三代程前に学園に在籍したとある風紀委員長が学園長を脅して用意させたという逸話があったらしい。

 

 今代の風紀委員長である一誠は見たことは無く、先代から聞いただけなのだが、『風紀違反者には、仕込みトンファーで滅多打ちにし、その凶悪な強さと恐怖で風紀を取り締まっていた女風紀委員長』という話を聞いた時は地味に憧れていた。

 もっとも、その女風紀委員長が今の風紀委員長である一誠を見たら間違いなく仕込みトンファーで滅多打ちにするだろうが……。

 

 

「先に帰ってもすることが無いからなぁ。

どうせキミ一人なら他の人に迷惑にもならんし、帰るまで此処に居させて貰うよ」

 

「………」

 

 

 各委員会……それこそ生徒会よりも豪華な部屋を使用してるたった一人の風紀委員会である一誠は、帰れと言っても帰らずに風紀委員室まで着いてきた師匠・安心院なじみのやんわりとした断りの台詞に渋い表情を浮かべる。

 

 彼女のせいで、只でさえ皆無だった支持率的なものが更に消え失せ、彼女の出現のせいで幼馴染みの行動一つ一つに神経を尖らせなければならず、彼女の出現のせいで『リア充野郎』と誤解された。

 

 実年齢が3兆強。

 ババァという概念すら無い人外。

 外面は抜群でも内面はその人外が故に全てをカスと見下す。

 そんな彼女の事実を知れば、誰も彼もが自分をリア充だなんて言えやしないのに……と、一誠は昨晩から自由にやり過ぎて被害を受け続ける原因であるなじみを、若干の恨みが籠った目で睨んでいた。

 

 

「そんな目で見るなよ、照れるじゃねーか」

 

「………」

 

 

 が、通用しない。

 窓際に位置する委員長席に座って、責めるような顔をする一誠に対し、真ん中に設置したソファに座っていたなじみは、言った通りにポッと頬を染めながら照れた表情を見せてくる。

 端から見れば本当に照れているとしか見えない可愛らしい表情を魅せるなじみに、一誠の表情は胡散臭いものを見る顔であった。

 

 

「本当アンタって、演技から何から神がかり的だぜ。

神なんてもんは信じちゃいねーがな」

 

 

 伊達に10年以上の扱きに耐えちゃいない。

 どんなに良い顔をしようが、それが全て嘘だというくらいは分かってるつもりだ。

 

 

「酷い事言ってくれるね。

一応僕だって弟子にはなるべく正直にしてるつもりなんだぜ?」

 

「どうだか」

 

 

 苦い表情と共にたっぷりの皮肉を言われても怒る様子も無く、笑みを浮かべるなじみに、一誠はちょっと拗ねた様子で日が傾き始めた窓の外へと視線を向ける。

 これ以上口で言った所で勝てる相手じゃないのは嫌というほど分かってる。

 ならば黙ってさっさと委員の仕事をした方が余計な体力を使わずに済む。

 そう判断した一誠は、駒王学園の女子制服姿のなじみを放置してファイリングした書類を捌く作業に着手し始めようとするが……無理矢理忘れようとしてた心配事のせいで手に付かない。

 

 

「…………。あの騒ぎでなじみが学生として転校したって話は、朱乃ねーちゃんにも伝わってる筈。

なのに、今日は一度もねーちゃんは俺の前に姿を現さなかった」

 

 

 広げた書類を放置し、血色の悪い顔色でブツブツとなじみの転校から放課後の今まで全く姿を見せなかった朱乃について考えると、いつの間にかお茶を飲んでいたなじみが他人事の様に口を開く。

 

 

「朱乃ちゃんね。

そういえば彼女は僕の事が嫌いだったし、だから出て来なかったじゃないの? 今も『部活』に精を出してるみたいだし?」

 

「………」

 

 

 知ってて尚この態度。

 またもや可愛らしく微笑むなじみに一誠は苦い顔だった。

 

 昔から朱乃となじみの仲は良いとは言えなかった。

 いや、なじみは別にといった様子だが、朱乃は違うのだ……主に一誠のことで。

 

 

『え、師匠が嫌いなの?』

 

『うん』

 

『なんで? 嫌なことでもされた?』

 

『された……私の前で一誠くんにベタベタしてる』

 

『ベタベタ? んー? 俺はしてないと思うけど……』

 

『してるの! 一誠くんのバカ!!』

 

 

 と、この様にだ。

 朱乃からすれば、確かに安心院なじみは一誠を強くした師匠なのかもしれないが、同時に単なる師弟とは思えない異様なスキンシップの多さに危機感を抱いていた。

 

 まあ、確かになじみは幼い頃の一誠に――

 

 

『良いかい、今日の修行はかくれんぼだ。

僕が適当に隠れるから、一誠は僕を探すんだよ?』

 

『おう!』

 

『それで、見つけた時は僕が逃げないようにしっかり抱き付いてから、『なじみおねーちゃんみーつけた!』と言うんだ。

言わなければもう一度最初からになるから忘れるなよ?』

 

『おう、絶対に忘れねーぜ!!』

 

 

 

『…………』

 

 

 なんて事をわざわざ見学していた朱乃の前で言ったり……。

 

 

『ねぇ、一誠くん。

あの人の言うことを全部聞くのって、間違ってない?』

 

『えー? そんなこと無いと思うけど。

ほら、俺結構強くなってるし』

 

『…………』

 

 

 当時、色を全く知らなかった無垢なしょただった一誠に味方までされ……。

 

 

『い、一誠くんを誘惑しないでください……!』

 

『誘惑? 何の事かな朱乃ちゃん』

 

『だ、だからその……必要以上にベタベタしないでください!!』

 

『あぁ、そう言うことか。

何を言うかと思ったら、一誠が年上好きだからって妬いてるのか?

はっはっはっ……彼が誰を好きになろうが彼の自由だろろうに。

キミみたいなちっぽけな小娘じゃなきゃ駄目なんて法律は存在しないだろう?』

 

 

 なじみもなじみで煽る煽る。

 それ故に朱乃は昔から師匠というポジションに居ることを良いことに一誠の周りをウロチョロするなじみが嫌いだったという訳だ。

 

 

「どうも昔からねーちゃんはアンタを気に食わない様だったが……」

 

「さぁてね、キミが僕に取られるとでも思ってるんだろうよ。

本当に面白いよね、既に恋人気取りなんだぜ? あの小娘は」

 

「……。そうさせたのは俺のせいなんだけどな」

 

「違うな。堕天使に殺されたトラウマをキミの与えた情で誤魔化してすがってるだけさ」

 

 

 朱乃をそうさせたのは自分の安易な言葉のせいだと目を伏せる一誠に、なじみは珍しく詰まらなそうに鼻を鳴らしながら指摘する。

 

 

「それを彼女は恋心と信じてるらしいが、すがり付く相手が消える事を恐れてるってだけの餓鬼の我儘にしか僕には見えねーな」

 

「おい」

 

 

 指摘をすることはあれど、批判をすることはあんまりないなじみの割りと辛辣な言い方に一誠が少し顔を曇らせながら制止させようと声を出す。

 

 

「んー? あーはいはい、相変わらず甘ちゃんだな一誠は。

間違ってると気づいてるくせに、彼女の心配を優先して黙ってる……聞こえは良いが、彼女の為にはならないぜ?」

 

「分かってるよ……。

分かってるけど……さ」

 

 

 師匠だけあって、朱乃に対する複雑な気持ちもお見通しであるなじみの指摘に、一誠は言い返す事が出来ず軽く俯く。

 そうだ……守りたいという自分の自己満足の為に朱乃の心を縛り付けてしまった。

 自分なんかより余程素晴らしいクソッタレな異性だっている筈なのに、縛り付けてしまったせいで見向きもしない。

 

 

「でも、約束したからこそアンタの扱きに耐えきれたのも事実なんだよ。

……。案外俺もねーちゃんに拘ってるのかもね」

 

「ふーん? それなら僕はこれ以上言わないけど、覚えとくと良いよ一誠」

 

 

 朱乃がそうである様に、自分ももしかしたら程度は違えど同じなのかもしれないという告白に、なじみは一瞬だけ目を細め、スッと立ち上がる。

 そして一京分の一である腑罪証明(アリバイブロック)というスキルで椅子に座って俯く一誠の膝の上に一瞬で移動し、対面するように乗ると、ギョッとする顔をする暇もなかった彼に対してゾッとしつつも見惚れる様な笑みを薄く浮かべて言った。

 

 

「誰とヤろうがキミの自由だ。

そこら辺の女と色恋沙汰になろうが文句は言わないよ。

けどな、朱乃ちゃんとの約束と同じくして僕と交わした約束は何があっても守って貰わないと困るんだよ……」

 

「ぬ……」

 

 

 互いの身体が密着し、互いの顔が近付き、互いの鼻の先がくっつくその刹那に聞かされた言葉に、一誠は相変わらずビックリするくらいに良い匂いがする女だな……とか余計な事まで考えつつも黙って頷く。

 

 

「忘れてないさ……一応な」

 

「よろしい。

ふふ、あの時は生意気なチビだったが、随分と図体だけはデカクなってくれたものだ……」

 

 

 お互いの額が重なる程に近い状況で、お気に入りの玩具を楽しそうに眺める表情を見せながら下手に動けない一誠の背中と肩に腕を回すなじみ。

 端から見れば、学校内でするな的絵面だがこの場に二人しか居ないために誰も咎めるものはいない。

 互いの顔と身体が超至近距離まで迫り、目を何と無くで逸らす一誠と、見透かすような瞳で見つめるなじみ。

 

 この世に初めて生まれた能力保持者(スキルホルダー)と人外は、只の師弟というには違和感すら感じる奇妙な繋がりが形成されているのだ。

 

 そしてその奇妙な繋がりこそが、朱乃の危惧する所であり――

 

 

「な、何をしてるのですか……お二人とも……?」

 

「っ!? あ、朱乃ねーちゃん……と、あれ?」

 

「ん、おやおや?」

 

 

 最も嫉妬する所なのだ。

 姫島朱乃にとって……そして――

 

 

「……。昼間の騒ぎの事についての話がしたくて訪問させて頂いのですが……」

 

 

 困惑と、妙に泣きそうな顔をして朱乃の後ろから顔を見せた生徒会副会長の密かな思いは。

 

 

「お久し振りですね、安心院さん。

暫く姿を見せないと思ってましたが……ほほ、ほほほ……取り敢えずその訳の分からない体勢を止めて離れてくださるかしら?」

 

「………」

 

 

 それまで姿を現さなかった朱乃の突然の訪問に、一誠は今さっきまでも落ち着いた気分をひっくり返し、ただただ今のこの『誤解されかねません』な体勢について言い訳する台詞をアレコレ考えようと頭をフル回転させる。

 けれど朱乃はそんな一誠を気にせず、ただただ対面座位の様に一誠の膝の上に乗っていたなじみに、笑顔でありながら、100%果汁ジュース宜しくな殺意を向けて退けと言い放つ。

 

 

「やぁ朱乃ちゃん、こうして顔を合わせるという意味では久し振りじゃないか。

うん、退けと言われりゃあ退くのも吝かではないよ、特に何をするって訳でもないしねー」

 

「なら早く……!」

 

「おっと待ちなよ、その前にキミの隣に居る子を無視しちゃ可哀想だろう?」

 

 

 常人なら裸足で逃げ出すだろう強い殺気を物ともせずといった様子で朱乃の隣に静かに佇んでいた眼鏡を掛けた少女に、全員の視線が移る。

 

 

「し、真羅さん? 何故貴女が……」

 

「おいおい、気付いてなかったのよ?」

 

「いや、確かに何でこの人が此処に?」

 

 

 怒りに囚われ過ぎたせいなのか、後ろから着いてきていた椿姫の存在に気付かなかった朱乃は大きく狼狽え、同じく一誠も全然絡みの無かった人物の出現に困惑の表情を見せる。

 

 

「……。会長に頼まれ、昼間の騒ぎの当事者であるお二人から事情聴取を行おうと来ただけです。

……お取り込みの様でしたが」

 

「いや……」

 

「フッ……」

 

 

 自分の置かれる状況に言い返せず目を逸らす一誠――ではなく、小さく笑うなじみに眼鏡越しから伝わる鋭い視線

を寄越す椿姫は、低い声で言った。

 

 

「少し、おふざけが過ぎるようですね……安心院なじみさん。此処は学舎ですよ?」

 

「ふーん?」

 

 

 どういう訳か『朱乃と類似した殺気』を放ち、鋭い眼光で睨む椿姫に、隣でそれを感じた朱乃は嫌な予感を瞬時に察し、なじみは完全に察した様な意味深な笑みを浮かべている。

 ……一誠は『早く帰りたい……』と泣きそうになってて気付きもしないが。

 

 

「なるほど、実にキミらしい言い方だね。

自分の気持ちよりも置かれた立場を取るのは、中々居ないのにさ」

 

「っ……! それならさっさとそのハレンチな――」

 

「そ、そうですわ! 早く彼から――」

 

 

 見透かすような言い方に一瞬だけ顔を歪める椿姫と、そろそろ本気で爆発しそうな朱乃は取り敢えずさっさと一誠から離れろと声を荒げようとした。

 しかしその刹那、なじみは『キミ達二人が最初からこのタイミングで来ると分かってたんだよ』的なニヤニヤ顔で『退け』と向けてくる殺気を受け流すと――

 

 

「わかったけど、その前に此処まで自力で成長した弟子にささやかご褒美をあげることくらいは許してくれよ? 例えば――」

 

 

 朱乃と椿姫の見ている前で、動揺しまくって頭が既にパンクし始めていた一誠と思いきり唇を重ねた。

 

「んむっ!?」

 

「なぁっ!?」

 

「!?」

 

 

 当然こんな不意打ちを食らった一誠は、塞がれた状態のまま変にもがき、朱乃も椿姫も顔を真っ赤にしながらショックでその場から動けない。

 

 

「ん……久々だからちょーっとマジになっちゃったぜ……」

 

 

 30秒程の時間を使ったキスに満足したのか、わざとらしく頬を染め、しおらしい表情を見せつける。

 

 

「う、うへ、うへへ……」

 

「な、な、な……!」

 

 

 された本人は意識がショートしたのか、間抜けな声を出しながら目を回し、見せつけられた朱乃はショックと怒りで上手く声が出せない。

 その中を、なじみはケロッとしながら一言――

 

 

「言っとくけど、僕なりにマジでやったから他の女とやってもこの子は満足できなくなってるぜ……とだけ言っとくぜ朱乃ちゃんと真羅椿姫ちゃんや?」

 

 

 己の所有物に手を出すのは構わないが、出したところで無駄だと、気絶した一誠の頭を胸元に抱き寄せ撫でながら見下した表情でバリバリと身体から電撃を無意識に放出してる朱乃に言い放つのであった。

 

 

 

 

 

 ハイスクールD×D……だよね、この世界?

 なのに何であの人が……。

 

 

「ふへ、ふへへ?」

 

「あーらら、ちょいと舌入れてやっただけでパンクしちゃって」

 

「な、な……ななっ!」

 

 

 私が持つべきじゃなかった赤龍帝の力の代わりに得たと聞かされた時から、変だとは思ってた。

 だってその力は、少年ジ○ンプの戦うヒロンインが主人公の漫画の登場人物が持つ異常で過負荷な異能力なのだから。

 それを一誠が持ったということは、もしかしたら背後に誰かが……原作には居ない誰かが付いていると思ってたけど、まさかそれが彼女だったなんて。

 全然知らなかった……。

 

 

『り、凛……あの女は"何だ?" 人間……なのか?』

 

 

 赤い龍(ウェルシュドラゴン)ことドライグも、よりにもよって一誠にベタベタしてる彼女を私の中から見てたのか、動揺した声で問い掛けてくる。

 

 

「わ、私にもよくわからないけど、唯一理解してるのは『何でもアリ』という事だけ……。

わかる様に言えば、神器(セイクリッドギア)を複数持ってる様な人としか……」

 

 

 アニメのヒロインみたいな声。

 実物で見ても感じてしまう魅力的な容姿。

 何もかもが女の子として理想的な姿をして、持ってる力も途方なき数。

 ……………。いや、それはもう良いよ。

 何でめだかボックスの登場人物が、この世界に居るのかとかそんなのは実際にこの目で見てしまってる以上認める他ない。

 私にとって重要なのは……そうだよ。

 

 

「一誠が彼女に気に入られてるなんて……どうすれば良いの……?」

 

 

 一誠がめだかボックスの登場人物みたいな能力(スキル)を持っている理由はこれで理解したけど、よりにもよってそれを促したのが、神様ですら手に終えないだろう安心院なじみ(じんがい)だったという点だ。

 しかも、見るからに一誠を気に入ってるというオマケ付き。

 朱乃先輩……そして、まさかの真羅先輩が安心院さんに食って掛かるのを一切怯まず、目を回してる一誠を抱き寄せて意味深に笑ってる姿を見せられてる私は、胸が引き裂かれる思いしかない。

 

 

『凛……俺はこれ以上お前の弟含めて奴と関わるべきじゃないと思う。

あの女、俺達を封印してくれた神以上に……』

 

「…………」

 

『おい凛! 聞いているのか!』

 

 

 うぅ……只でさえ一誠に嫌われてるのに……これじゃあ。

 

 

 

「離れて……一誠くんから離れて!!」

 

「どうしてキミにそんな事を言われなければならないのかな? 一誠はそんな必要はないと言ってるけど?」

 

「うへ……うひぇひぇひぇ」

 

「ほら」

 

「だ、黙りなさい! そんなこと言ってない!」

 

 

 分かったことがある。

 ……。多くの者達はその性格故に疎ましく思っているが、極一部はそれを気にしないで彼の……何とも言えない包容力とでも云うべきか、ある意味正直なその姿に惹かれる者がいるということに。

 隣で鬼のような形相で威嚇している姫島さん然り、この部屋の出入り口の扉から覗き見てる兵藤凛さん然り、この訳の分からない転校生然り……私然り。

 

 

「此処で暴れるのはよくないですよ姫島さん。

まだ一般人も多く居ますので」

 

「ぐっ……」

 

 

 まあ、私の場合は女々しく昔の約束に本気になっているだけだが……。

 

 

「貴女もですよ安心院なじみさん。

今後、校舎内ではそのようなハレンチ行為は慎んでください」

 

「へぇ、キミは騒がないんだな?

ま、一回のキス程度で大騒ぎするような歳でも無いといえばそれまでだけど」

 

 

 今にも魔力を辺りに撒き散らしそうな姫島さんを諌め、未だ彼にベタベタとくっついている安心院さんも、大胆すぎるその行動を止めろと注意し、一応は落ち着いた空気に戻る。

 が、私は姫島さんの気持ちの方がわかる。

 ハッキリ言えば私だって腸が煮えくり返ってるのだから。

 

 

「今更何しに……!」

 

「決まってるだろ? 何れは僕の背中を任せる男なんだぜ? そろそろまた彼の持つスキルをステップアップさせてやろうとな」

 

「それは単なる建前でしょう!?」

 

「……」

 

 

 それにしても、あの姫島さんが年相応な口調なのは意外だ。

 どうやらこの安心院なじみという人とは昔からの顔馴染みというのが会話を横から聞いてて分かるのだが……。

 

 

「私から一誠くんを取らないで!」

 

「取らないで? は、おいおい、何を言い出すのかと思えば……。

相変わらず一誠を縛り付けて成長を阻害させるだけしかできねー小娘だなぁ?」

 

「……………」

 

 

 殆ど部外者である私には情報が足りない。

 故に余計な口は挟まず、ソファに寝かされて魘されてる彼を横に言い合いを……いや、どちかと言えば姫島さんが安心院さんに一方的な敵意を向けた発言をしている内容を聞いて情報を得る事に徹する。

 

 

「僕は別に一誠が誰とヤろうが、色恋沙汰になろうが自由だと思ってるし実際好きにさせてるよ。

けれどキミはなぁ……? 浮気は許さないって…あっはっはっはっ、まるでメンヘラだぜ?」

 

「うぐ……!」

 

 

 

 

「うーん……」

 

「………。(綺麗な肌……頬も柔らかい)」

 

 

 魘されてる彼が気になり、横になる彼の隣に座りながら話を聞いてみたところ、どうも姫島さんを小娘呼ばわりしている辺り、この安心院なじみという人物は実年齢がもしかしたら高いのかもしれず、我等の様な存在なのかもしれないという疑惑が生まれた。

 しかしだとするなら一体どんな存在なのか、悪魔では無いことは分かるが、だといって堕天使とは思えないし天使でも無さそう。

 妖怪……というの線があるが、それでも何か違う気がしてならない。

 

 

「ぅ……」

 

「ぁ……兵藤くん?」

 

「うーん……ね、螺子はやめろぉ……」

 

 

 様々な推論を展開させるも、結局はどれも彼女が魅せる雰囲気のせいで当てはまらず、『正体不明の得体の知れない存在』ということしか分からないまま、言い合いをする様を眺める。

 これは会長に報告すべきなのか……すべきなのだろう。

 けれど何故か私の中で『それはすべきでは無い』という警告がアラーム様に繰り返される。

 彼女がその気になれば『私達なんて紙屑の様に消し飛ぶ』という予感が……。

 

 

大嘘憑き(オールフィクション)はやめれぇ……」

 

「さっきから何の夢を見てるのかしら……?」

 

 

 それにさっきから変なうわ言を苦しそうに呟く兵藤くんは、彼女を師匠と呼んでいた。

 それはつまり、あの時の彼が得意気に口にしていた『師匠』が彼女という事であり――

 

 

『師匠?』

 

『そうそう俺の師匠! 今その師匠と『鬼ごっこ』をしててな? 師匠を追いかけて捕まえるのが修行なんだ!』

 

 

 かつて見知らぬ町に訪れ、迷子になり、偶然彼に出会って助けてくれた時の記憶に残る会話。

 その中には彼の『師匠』について話もあった。

 

 

『変な修行……』

 

『うーん、仕方無いんだよねぇ。

師匠が言うには『まだ小僧のお前にはこれが一番効率が良い』らしいし』

 

 

 あの時の話を思い出せば、彼女がその見た目とは裏腹に、実年齢が相当に高いことが予想できる。

 恐らく当時も今の姿と変わってないのだろう……私も似たような状況になってるし今更驚く事でもない。

 

 

『お礼? いや要らないよ。俺も早く師匠を捕まえないといけないしな』

 

『で、でも……』

 

『じゃあ、お互いに大きくなって、何処かでまた会ったときに覚えてたらデートしようぜ! なーんてね、にしし!』

 

『で、でーと……?』

 

『そ、デート! 本当は『ねーちゃん』に怒られるかもしれないけど、俺も男だし、可愛い子とデートくらいしてみたいんだよね』

 

『か、かわいい……わたしが……?』

 

『? うん、椿姫ちゃんは可愛いよ?』

 

 

 まだ覚えている。

 家柄と性格が理由で余り友人というものが居なかった私の前に現れた元気な男の子。

 どちらかと言えば余り好きではない騒ぎ、私にちょっかいをかけてくる同年代の男の子と変わらないただの男の子。

 けれど、迷子になって寂しくなった私に手を差し伸べ、自分だって土地勘が無いのに最後まで一緒に探してくれた、今にして思えば変な男の子。

 気取ってるとか、良い子ぶってるという理由でからかう周りの男の子とは違い、可愛いと言ってくれたおかしな男の子。

 だからなのか鮮明にあの時の事も約束の事も覚えている。

 

 

「覚えないなんて……酷いわよバカ」

 

「うーん、うーん……!」

 

 

 名前を耳にして首を傾げていただけ。

 それから一度もまともに会話なんてしない。

 忘れているのか、それとも自分の置かれたこの状況を知られたくないからわざと避けていたのか、それは聞いてみないとわからない。

 

 

「でも私はちゃんと覚えてるわよ……一誠くん?」

 

「んー……んー……」

 

「ふふ、早く目を覚まさないと、鼻だけじゃなくて口を塞ぐわよ?」

 

 

 それももう良い。

 覚えているにしても忘れてるにしても、どっちでも良い。

 姫島さんだとか、この得たい知れない安心院さんがとかもどうでも……。

 忘れてるのであれば、思い出させるだけなのだ。

 シンプルで簡単で、一番手っ取り早い……。

 

 

「私は約束を破るのも、破られることも嫌いなの……」

 

 

 例えスケベな男になろうとも、ね。

 

 

「……。真羅さん、もう彼の事は良いので早くお帰りになられたらどうですか?」

 

「そうしたいのは山々ですが、アナタ達を放置して暴れられても困りますからね。

まずはその言い合いを止めて頂けるかしら?」

 

「確かにキミの言う通りだね。

この僕もムキになりすぎてるし、ちょいとは反省しないとな」

 

 

 全く私も中々趣味の悪い女だ。

 まあ、不思議と後悔はしてないけど。

 

 

「そういう訳です、彼も魘され―――――」

 

 

 とにかくこれで決心は固まった。

 あとはこの幼馴染みだとか師匠だとかをどう出し抜くか……と妙にスッキリした気分で考えていた私だが。

 

 

「うー………ん……」

 

 

 彼が苦しそうに唸りながら手を動かしたその瞬間、一気に思考が停止した。

 

 

「はぅ……!」

 

「ま、ましゅまろはやめれ~……ぐぅ」

 

 

 何かに追いかけられてる夢でも見てたのか、魘されながら身体をもぞもぞと動かしていた彼の手が、ちょうど一番近くに居た私の……その……胸を思いきり鷲掴みにしたのだ。

 

 

「な、なにを!?

や、やめ……あっ……!」

 

 

 ビックリなんてもんじゃないし、変な声も出てしまった。

 特に姫島さんや、扉の外から見てる兵藤さんから殺気めいた何かを感じるが、それどころじゃない。

 こんな人前で……こんな……!

 

 

「あーらら、僕しーらね」

 

「し、知らないって……止めさせ……て…ぁん……!」

 

「揉まれて感じながら『止めろ』と言われてもねー? 僕は別に誰とシッポリしてようが構わないと思ってるし。ねぇ朱乃ちゃん?」

 

「……………………」

 

 

 な、なん何ですかその余裕は……!?

 姫島さんは違うようですが……ひん!?

 

 

「もにゅもにゅ…………………………………ふぇ?」

 

 

 誰にも触らせたことないのに……。

 今更起きたって遅いのよバカ……!




補足

実のところ、このやり取りを凛ちゃんは影から見てます。

そして『安心院なじみ』の存在にビックリしてます。
何せ、チートオブチートだと知ってますからね……。


副会長と彼が小さいときに会った理由は。
『其々の理由で互いに土地勘の無い街に訪れ、偶然出会った』だけです。


そして一誠が親切をした理由も『何と無くあの時から少し経った後のねーちゃんみたいな雰囲気で放って置けなかった』という感じですかね。
当時の彼はマセてるようで、そうでないショタ状態でしたし。


……。っとこれで恐らくヒロインは固定され、後は増えることも無いですかね。

あっても、一誠がナンパして即玉砕するだけみたいな。
基本、そのドスケベな性格で損してる事に気付いてませんからね、彼は。

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