風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

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セラフォルーさんメインになってしまっていた……。


傲慢なる火花

 

 元々無理をするタイプである一誠だけど、今度受けた反動によるダメージは今までの人生の中でも間違いなくトップクラスの激痛であった。

 

 

「全身の筋肉が断裂してる……それに骨も」

 

 

 マッスルリベンジャーなる技で白龍皇を黙らせた直後、激痛の悲鳴をあげながらぶっ倒れた一誠に全力の治療を出来る限りの施すリアス、朱乃、ソーナ、椿姫だが、出血の量もさる事ながら内部の人体ダメージがかなり深刻である事に焦りを覚えてしまう。

 

 首から下の殆どは紫色に内出血し、筋肉も裂傷している……先の黒神ファイナルでヒビの入っていた肋骨が完全に折れ、その一部が内蔵を傷付けている。

 医学の知識は専門外だが、痛みで涙目になってる今の一誠の姿は素人が見ても『無事じゃない』姿だった。

 

 

「痛覚を麻痺させるわ。そうすれば痛みだけは多少マシになる筈だから……」

 

「さ、さんきゅー……。へへ、身体の中で芝刈機が大暴れしてるみてーだぜ……くくく」

 

「ちょっと滲みるけど我慢してね?」

 

「おう――うぐっ!? な、なにこれ、オキシドールか何か?」

 

「冥界で市販されてる傷薬よ。人間界の物と比べたら効力は大分マシだと思うわ」

 

「そ、そうかい……なら良いけど……。くそ、勝手に自爆してこの様とか本当に格好つかねぇや……」

 

 

 しかしそれでも四人の少女達の懸命な応急処置のお陰で、激痛にのたうち回っていた当初と比べて大分落ち着いており、背中に手を当てて微弱な電流を送って痛覚を麻痺させてる朱乃や、冥界からもしもの時の為にと持ち込んでいた傷薬を使って患部を治療するリアスとソーナ、折れてる箇所に添え木を施しながら包帯を巻く椿姫という結構完璧な布陣で治療を受けている一誠は、格好の付かない己に自虐的な笑みを浮かべながら素直にされるがままになっていた。

 

 

「ギャスパーが長ラン着ていてくれて助かった。

もし俺が着てたら、血だらけでボロボロになってたかもしれなかったし……」

 

 

 一瞬意識を取り戻し、スプラッター状態を見てまた気絶したギャスパーに妙に優しげな笑みを見せる一誠……。

 自覚してるものよりも遥かに自分が弱くなっている事を改めて知れたという意味では、ある意味じゃこの騒動を体験しておいて良かったのかもしれない。

 

 

「ふぅ、サンキューねーちゃん達」

 

 

 だが一誠はひとつだけ、絶対に口にしない事だが、やることが残っていた。

 

 

「ちょっと委員室に行ってくる。予備の制服があるから着替えて来るのさ……あぁ、一人で良いよ、着替えるくらい一人で出来る」

 

 

 侵入者は片付けた。

 しかしまだ、侵入者を捌けてきた元凶を片付けていない。

 その元凶はあのレヴィアたんの偽者やってる女魔王が戦っている様だが……。

 

 

「すぐ戻ってくる……」

 

 

 心配では無く、逃がしでもされたら鬱陶しいだけ。

 だからほんの少しだけ様子を見に行って、もし終わってたらそれで良い……。

 

 風紀委員室にある予備の制服に着替えて来る……と付いてこようとした四人の少女に対して上手く誤魔化した一誠は、力の感じる屋上へと走る。

 

 

「死んでたら嗤ってやらぁ」

 

 

 偽者の様子が気になって気になって仕方ないという理由を誤魔化しながら……。

 

 

 

 

 セラフォルーは一度実力という意味でもカテレアに勝利していた。

 だからこそレヴィアタンという魔王の称号のひとつをシトリーという身分でありながら手にし、現四大魔王の一人にまで数えられるまでになっていた。

 だからこそテロ組織にまで堕ちて自分を殺してレヴィアタンを取り戻すと宣言したカテレアと戦う事を決心し、妹のソーナ達を巻き込まない為に学園の屋上で一対一の決闘を開始した。

 

 

「弱くなったわねセラフォルー?

いや、私が強くなりすぎたせいかしら?」

 

「くっ……オーフィスの蛇を取り込んただけでそこまでやるなんてね……」

 

 

 だがその決闘の状況は正直かなりセラフォルーが圧されており、カテレア自身の魔王の血族としての強大な悪魔の力に加え、無限の龍神と唄われる最強の龍神の一人であるオーフィスの力の一部をその身に取り込んだカテレアの力は予想を越えた力を発揮し、セラフォルーの攻撃手段の悉くを無力化していた。

 

 

「オーフィスの力を取り込むなんて……何て危険な事を……」

 

「リスクを承知で取り込んだのよ。貴女を殺し、レヴィアタンを取り戻せさえすれば……寿命なぞ多少減ろうが関係ない……!」

 

 

 ウロボロスの力を加えたカテレアの魔力の塊が無数の数となりセラフォルーに襲い掛かる。

 その目はあくまでもレヴィアタンを奪ったセラフォルーへの殺意で満ちており、セラフォルーは一誠に見せびらかすつもりで『変身』して着替えた衣装の所々が破けながらも、持っていたステッキで叩き落とそうと乱雑に振り回す。

 

 

「っ!?」

 

「甘い……」

 

 

 しかしカテレアの放った魔力のひとつひとつが、まるで生きているかの如く、弾き飛ばされても尚再びセラフォルーにしつこい蛇が如く襲い掛かり、小規模の爆発をその身に受けて屋上へと墜落する。

 

 

「くっ……」

 

「オーフィスの力を取り込んだ私を以前と同じと思わない事ねセラフォルー」

 

 

 手摺は吹き飛び、石畳が所々剥がれている屋上へと降り立つカテレアの見下すような言葉にセラフォルーは内心『まいったな……』と自嘲する。

 自分を恨んでいるのは分かっていた事だが、まさか他者の力を取り込んでまで殺したがっているなんて……。

 

 

「自慢の氷の魔力も、今の私の前では児戯に等しい」

 

「………」

 

 

 自慢の氷の魔力で周囲の空間を分子の運動量ごと凍らせて完全な停止空間を作りだそうにも、危険すぎてソーナ達を巻き込んでしまうと躊躇するセラフォルーに、カテレアは怨敵にやっと報復出来るという喜びがあるのか、これでもかと歪んだ笑みを見せながらその手に禍々しい魔力を溜め込み始める。

 

 

「死ね、セラフォルー・シトリー!!」

 

「!?」

 

 

 そして溜め込んだ魔力を膝を付くセラフォルー目掛け、積年の怨みと共にカテレアは撃ち放つ。

 勝った……カテレアはその瞬間確かに勝利を確信した。

 

 

 だが……。

 

 

「がばっ!?」

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

 

 怨念を込めた凶悪な魔力はセラフォルーに届くことは無かった。

 そう、両者の間に割り込み、その魔力を全身で……まるでセラフォルーの盾になるかの如く受けた何者かの邪魔によって。

 

 

「ま、また……ボロボロに逆戻りかよ……ツイてねぇ……ガフッ!」

 

 

 そう……その邪魔者こそ、セラフォルーを偽者だと言って聞きやしない茶髪の少年だった。

 

 

「……! アナタは確か転生悪魔……!」

 

 

 砂煙と閃光が晴れた先に、セラフォルーを庇う様に仁王立ちする少年を目にしたカテレアが、チッと舌打ちしながら自分達を手引きする際に利用した人間達の前に出てきた魔王の妹達の中に居た転生悪魔の一人である事を思い出す。

 

 この建物ごと吹き飛ばす程の力を込めた筈なのに、どういう訳か少年の邪魔で少年だけにしか致命傷を負わせられなかった事に少々疑問が残るが、所詮は転生悪魔。

 今度はその身ごとセラフォルーを葬れば問題無いとカテレアは再びウロボロスの力と己の力を混ぜ合わせる。

 

 

「ごほ、い、いってぇ……! あのケバ女ぁ……ふざけたもんぶっぱなしやがって……!」

 

「な……ど、どうして……!?」

 

 

 そんなカテレアが再チャージ中の最中、またしても血まみれのボロボロになってしまった一誠の出現と、自分の盾になった事について目を見開くセラフォルー

 

 服は擦り切れ、全身から夥しい量の血を流しながらも尚膝を付こうとせず、寧ろ今からその様で戦おうとすらする少年……一誠にセラフォルーは思わず駆け寄りながら問い掛けた。

 

 

「何でわざわざ私の盾になんか――」

 

「あ゛? 知らねーよ、様子見に来たらケバい女に殺られそうになってたのが見えちまったら勝手に動いちまったんだよ……クソ」

 

 

 ボタボタと失血死すら危ぶまれる程の血を流す一誠は、セラフォルーに対してペッと吐き捨てる様に返す。

 

 

「な、何よそれ……」

 

「だから知らねーよ! 俺だってテメーみてーなレヴィアたんの偽者なんぞ――うおっ!?」

 

 

 意味がわからない。と呟くセラフォルーに一誠が若干イラついた様に怒鳴ろうとする。

 しかしそれを待たずしてカテレアから再びウロボロスパワーを込められた魔力の雨を撃ち込まれ、一誠は反射的にセラフォルーの腕を掴み、覆い被さる様に抱き寄せると、その魔力の全てを背ひとつで受けきる。

 

 

「ぐぁぁぁっ!! いっでぇぇぇ!?!?」

 

「なっ!? な、何ですかあの転生悪魔……私の力を食らって痛いですって?」

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

 

 背中から肉の焦げる嫌な臭いがするのを、思いきり抱かれる様な体制にされてビックリしたセラフォルーが気付き、慌てて一誠を気遣おうとする。

 

 

「せ、背中が……」

 

「よ、余計なお世話だ! つかテメーは何であのケバい女を殺ってねーんだ!」

 

「むっ!? お、思ってたよりカテレアちゃんがパワーアップしてたの!」

 

「だから何だゴラ! テメーそれでも魔王か……ごはっ!」

 

「わっ!?」

 

 

 何処か緊張感を削ぐ会話が、一介の転生悪魔と魔王の間で展開される。

 盾になって貰った恩はあるが、こうも口汚く罵られるとセラフォルーも流石にムッとする訳で……。

 

 

「大体そんなナリで来てもらっても足手まといだよ!」

 

「んだとこの似非女! さっき殺されかけてじゃねーか!」

 

「へっへーん、別に助けて貰わなくても自分で何とか出来ましたぁ☆」

 

「うるせぇ!! 似非の分際でレヴィアたんみたいな喋り方すんじゃねぇ!!!」

 

「ざんねーん☆ 何を言おうが私が本物だもーん!」

 

 

 気付けば両者の間の溝になってる原因を蒸し返し、ガキの喧嘩が開始された。

 

 

「………」

 

 

 これにはカテレアも若干困惑してしまい、このままトドメを刺すべきなのかと一瞬躊躇してしまう。

 

 

「そもそも本物だったら、あんなケバいだけのババァにレヴィアたんが苦戦する訳がねーんだよ!」

 

「……………………」

 

 

 が、一誠がカテレアに指差しながらケバいババァと言った瞬間、その躊躇も一瞬にして消えた。

 いや寧ろぶっ殺してやるという気持ちを改めさせられたくらいだった。

 

 

「汚ならしい転生悪魔ごときが……死ね!!!」

 

「っ!? ど、退いて! カテレアちゃんが怒っちゃった……」

 

「ケバいババァにケバいと言って何が悪い。

へ、真の美女である朱璃と違って、ケバくて香水臭そうだろアレは」

 

 

 しかし一誠は寧ろ煽ってやった。

 来てみればとっくに終わらせてると思ってたのに、実際は普通にやられ掛けていた。

 

 言葉には出さないが、それを最初に見た時は我すら忘れてカテレアの攻撃をまともに受けてしまった。

 偽者と思いたい一誠にしてみれば、こうでも言わないとやってられないのだ。

 

 

「っ!? さっきよりカテレアちゃんの力が強くなって――」

 

「危ないってんだろ!!」

 

「わわっ!?」

 

 

 戦況としては余計不利になったけど、冷静さを欠かせるという意味では大成功ではある。

 セラフォルーを抱えながらカテレアの攻撃を凌ぐ一誠だったが……。

 

 

「ぐぎぃ!?」

 

 

 ボロボロであるその身は正直だった。

 

 

「嘗めた事を言った割にはその程度ですか転生悪魔?」

 

「ぐ……ぅ……」

 

「や、やっぱりその身体は本当に……」

 

 

 ボロボロであるのを無理矢理な応急処置で誤魔化し、今また無理に身体を動かしてきた一誠だったが、それも最早限界だった。

 血を流し過ぎ、全身の筋肉はズタズタに切れ……肋骨の一部が内蔵を損傷させた重症状態で戦える訳が無く、一誠は敵を目の前にバタリと倒れてしまった。

 

 

「ち、ちきしょうが……ねーちゃん達の治療の効果が切れやがった」

 

「ふふ、本当に動けない様ね」

 

「っ!? ま、待ってカテレアちゃん! 彼は関係ない――」

 

「訳無いでしょう? 転生悪魔等というくだらない存在の分際でこの私を侮辱した。

殺す理由としては十二分よ」

 

 

 今度はセラフォルーが庇う様にして一誠の前に立つが、カテレアは勿論そんな話なぞ聞くわけが無い。

 いっそ両方そのまま死ねとすら殺意を纏いながら、その手に魔力を溜め込み……。

 

 

「思わぬ邪魔で興が削がれたけど、これで終わりよセラフォルー!!」

 

 

 最初と同じように、撃ちはなった。

 

 

「だ、だめ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 その瞬間、セラフォルーは倒れた一誠に覆い被さった。

 まるで先程一誠が行った時と同じように、今度はセラフォルーが一誠を庇いだしたのだ。

 

 

「ば、バカかアンタ!? お、おい退け!! これじゃあ何の為にアンタに嫌われる真似したのか―――ぁ……」

 

 

 一誠はセラフォルーに離れろと、思わず本音をポロリと溢しまい、しまったとハッとする。

 そう、さっきから妙にセラフォルーやカテレアに喧嘩を売るような真似をしたのは、セラフォルーに向けられる攻撃性を己に向けさせ、その間にカテレアを始末させらようとしたからだったのだ。

 

 まあ、半分は本人の意地張りな性格が素で出ていたのかもしれないが、ボロボロの自分が明らかに圧されてるセラフォルーを援護するにはこれしか手が無かったのだ。

 

 だからこそ一誠は痛む身体で覆い被さるセラフォルーを突き飛ばそうと手を伸ばすが……。

 

 

「それが本音なんだね? ふふ、ギルバちゃんらしいや……☆」

 

「う……」

 

 

 その手をセラフォルーは握り締め、ニコリと微笑んだ。

 

 

「ごめんね、ガッカリさせちゃって……。

でも、本物だっていうのだけは信じて欲しいな? あ、でもこのままじゃ二人まとめて死んじゃうし、意味無いかな?」

 

「…………」

 

 

 セラフォルーの笑顔を見せられた一誠に言葉は無い。

 分かっていた……自分が振ったネタを知ってる時点で目の前の女魔王がレヴィアたんだってのはわかっていた。

 けど、何となく認めたくなかった……何となく変な意地が出てしまった。

 

 

「…………。わかったよ……俺の負けだクソッタレ」

 

「……え?」

 

 

 カテレアの強大な魔力が禍々しい光を放ちながら今まさに二人を消し飛ばそうとする刹那、一誠は伏し目がちに確かにそう呟いた。

 その声にセラフォルーは一瞬だけ目を丸くなり、握ったその手に力が込められるのをハッキリと感じ取る。

 

 

「サインくれよ……後でな」

 

 

 それはセラフォルーを本物と認める言葉だった。

 本物と認め、負けたよと呟いた一誠の瞳に力が戻る。

 

 

「だから、やっぱりあんなケバい女に殺らせねぇよ……!!」

 

「ぁ……」

 

 

 そして握っていた手を逆に握り返され、ボロボロの身体が嘘の様に力強く肩を抱かれたセラフォルーは。

 

 

「まあ、俺がこれで生きられたらの話だけど……」

 

「!?」

 

 

 セラフォルーと無理矢理体勢を変わり、再びその身一つで盾となった。

 

 

「!? しぶとい……!」

 

「ぐ……ぼぉ……!」

 

「な、何でよ!? 今私が盾になってたらそんな事にはならなかったのに!」

 

 

 凄まじい魔力の塊がぶつかり、激しい爆音が屋上に鳴り響く。

 そして砂煙が晴れた先には、先程と同じく身ひとつでセラフォルーを庇いきった転生悪魔の少年……。

 

 ズタズタという言葉すら生易しい程にボロボロとなる一誠に舌打ちするカテレアは間髪入れずにトドメを刺そうと、今度は学園全体ごと吹き飛ばすレベルの力を溜め込む中、セラフォルーはヨロヨロと立ち上がろうとする一誠に悲痛な表情で叫ぶ。

 

 

「確かに私はレヴィアたんなんて自称してたけど、けど……けど、それは所詮設定の――」

 

「し、知るかよ……身体が勝手に動くんだから……ごふっ」

 

 

 直接会って、しかもイザコザだらけの関係なのにどうしてここまですると問うセラフォルーに、一誠は痛々しいまでの身体でヘラヘラ笑いながらただ一言返す。

 

 

「お、俺の知ってるレヴィアたんが負けて堪るかよ。

ほ、本物なら知ってるだろ……俺は……ギルバはレヴィアたんの大ファンなんだよ!!」

 

 

 レヴィアたんのファンだから。

 たったそれだけの為に一々肉の壁にすらなると言い切った一誠にセラフォルーは困惑するものの……。

 

 

「な、何よそれ……変なの……」

 

 

 嬉しかった。

 そして人間界唯一のファンが彼であって良かったと……心の底から喜んだ。

 

 

「次はこの街ごと破壊する。

そうなれば無駄にしぶといアナタでも無事じゃあすまないでしょう?」

 

「くく、さっきから横でうるせぇんだよケバいババァが……。

やれるもんなら……やってみろぉぉぉっ!!!」

 

 

 そしてセラフォルーは見て端的に理解した。

 ファンである少年が何故コカビエルを倒せたのか……そしてサーゼクスに目を掛けられ、同じ気配を感じたのかを。

 

 

「つーか撃たせるかボケぇ!!」

 

「なっ!? 見え――ガッ!?」

 

「ふ、クハハハハ!! 何か知らねぇけど、身体が異様に軽いぜ!!」

 

「こ、このっ! 調子に――ぐぅ!?」

 

 

 見た目は確かにズタズタとなっている一誠。

 しかしどういう訳かセラフォルーの目には、それを感じさせない力強い力をカテレアの身に叩き込んでいる。

 

 

「ば、バカな……この力はオーフィスの―――っ!? ま、まさか貴様、手引きの駒に分けた蛇を……!?」

 

「あぁん? 何言ってんだかわかんねー……よ!!」

 

「ぎゃ!?」

 

 

 そしてセラフォルーは見た、一誠の技を。

 

 体をブリッジさせるように何度も勢い良く反らせながら、その腹筋でカテレアを弾ませるように跳ね上げる。

 

 

「な、何だこれは……っ!?」

 

「何か知らんが、今なら行ける!」

 

 

 跳ね上げた空中で相手の首と片足を固定し、両腕は相手の後ろに交差するように無理矢理組ませ、そのままエビ反りになるようにクラッチ。

 

 

「あ、あれは……」

 

 

 その姿に固定されたカテレアの身から骨が砕ける音が聞こえ、口から夥しい量の血の塊が吐かれるのをセラフォルーは呆然と見つめている。

 

 

「グフゥ!?」

 

「慈悲の心は無いからな……悪く思うなよケバ女ァ……!」

 

 

 その後一誠は、続けざまに相手と背中合わせの姿勢で手足を固め、首を外側に無理矢理固定させると……。

 

 

「喰らえ、俺の現状最強奥義! アロガント・スパァァァァァァクッ!!!」

 

 

 そのまま勢いよく相手の頭と体を地面に叩きつけるように落下した。

 尊大・傲慢な火花と叫びながら……。

 

 

「がばぁぁぁっ!?!!」

 

 

 その技は殺意に満ち溢れた技だった。

 地面に叩きつけた瞬間、カテレアの手足……そして首はあらぬ方向へとねじ曲がってしまい、たった一度の技でカテレアは戦闘不能へと陥った。

 

 

「そ、そんな……ばかな……こんな意味不明な子供に……」

 

「くっ……やっぱ失敗か。決まれば問答無用で殺す技なのによ……。やっぱなじみに見せてもらう漫画の様にはいかねぇや……ぐっ」

 

 

 カテレア・レヴィアタン。

 アロガント・スパーク(仮)により完全敗北。

 

 

 

 

「っ……ぎぇぇぇぇ!?!?!?!?」

 

「!? ど、どうしたの!?」

 

 

 アロガント・スパークなる得意の物理法則無視技でカテレアを潰した一誠だが、それまで分泌されていたアドレナリンが完璧に切れたのか、手足と首が滅茶苦茶に折れ曲がっているカテレアを放置して歩こうとした瞬間、全ての反動が襲い掛かり、激痛にのたうち回るという三度目のオチを迎えてしまった。

 

 これにはポケーッと一誠の技を見つめていたセラフォルーもハッと現実に返され、慌てて痛くて泣いてる一誠に駆け寄る。

 

 

「あががが……! さっきの更に千倍痛い……!」

 

「だ、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫じゃない……てかねーちゃん達にバレたら怒られる……」

 

 

 セラフォルーの前だからなのか、痛い痛いと言うものの子供みたいに泣き叫ぶ事はしない一誠の言葉にセラフォルーは取り敢えず安全な場所に一誠を運ぼうと手を伸ばす。

 

 

「肩貸してあげるから……」

 

「………」

 

 

 妙に美しさを覚える技を見せられた余韻もさる事ながら、ちょっと教えて欲しいとか思ってしまってるセラフォルーの手を一誠は珍しく素直に取る。

 だが……。

 

 

「うぎ!?」

 

 

 手を取った瞬間一誠の全身が悲鳴をあげ、体内をチェーンソーで切り刻まれる様な痛みに襲われる。

 その痛みに思わず手を握ったセラフォルーに向かって全体重を掛けて倒れ込んでしまった。

 

 

「わっ!?」

 

 

 思いきり倒れ込んで来た一誠を受け止めたセラフォルーだが、勢いまでは殺せずそのままひっくり返る。

 

 

「い、痛い……」

 

 

 先に言っておくが今の一誠に下心の類いは一切無い。

 というか、全身がガタガタ過ぎてそんな余裕は無い。

 

 しかし手足と首が滅茶苦茶になってるカテレアを抜かせば、今この場には一誠とセラフォルーしか居らず、しかも今の転倒後の体制はかなりマズイものがあった。

 

 

「あ、あのさ……」

 

「い、いてて……な、なに?」

 

 

 別に今更恥ずかしがる歳でもないとセラフォルーは常日頃思っていた。

 己の趣味のせいで嫁に行けないといった状況だったが、そんなものより趣味の方に人生を傾けた方が有意義と思っていたので気にも止めなかった。

 

 なので別に気にしてないつもりだったりこれからもそんな感じなのだろうと思っていた。

 

 

「わ、わかってるよ? これ事故だもんね? 身体がボロボロだからわざとじゃないんだよね?」

 

「はぁ? 何を………………あ」

 

 

 例え、人間界のファンで最近妙に一番関わりがえるかもしれかい妹の代理下僕になってる男の子に押し倒されて、片手は胸を鷲掴みにされ、片手は下腹部というかスカートの中にその手が入ってしまったとしても……セラフォルーは気にしないつもりだった。

 

 

「いや……あ、いや……これ違う。違うから……」

 

「う、うん……わかってるよギルバちゃん。

で、でもさ……スカートの中は恥ずかしいかな……あ、あははは」

 

 

 実際やられてみるとアレだった。

 セラフォルーは後々『嬉しそうに』語るのだったとか。

 

 そして……。

 

 

「もしかしてと思ったら……!」

 

「楽しそうねイッセー?」

 

「ハァ……セラフォルー様に何をしてるのよ」

 

「…………………」

 

 

「げげっ!? こ、このタイミングで来るなよ!? 違うからね!? 俺別に何もやましいこと思ってないか……」

 

「ぁ……ちょ、ちょっとギルバちゃん……もそもそしないでよ……へ、変な気分になっちゃうよぉ……」

 

「うるせぇバカ!! 何もやってねーよ!? ………あ、ちょっと待とうぜ朱乃ねーちゃん? マジで違うし今ねーちゃんのびりびり食らったら死ねるから――」

 

「ひゃん!? そ、そんな強く掴まないでぇ……」

 

「ちっがぁぁぁぁう!!!」

 

 

 オチは何時もの同じなのだ。

 

 

侵入者片付け……完了

 

 




補足

体勢としては、ベッドイン的な体勢だったらしい……。

流石にセラフォルーさんもビックリだった。


その2
気付けば悪魔さんとフラグばっかり立ってた一誠くん。

これが初期だったら手放しで喜んでたでしょうが、いかんせんライザーさんの件があったせいで……。

いやホント間が悪かったのだ。


その3
………………。あれ、セラフォルーさんはヒロインなのか?

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