インフルと喘息が半端無くてやばいんです……。
マッスル技を使われ、微妙に立つ瀬が無い気分になる一誠は、手足や首が大変な事になってる侵入者共の屍の山となってる運動場の相俟って微妙にブルーな気持ちになっていた。
「これどうやって片付ければ良いんだろ……。
全員富士の樹海に埋めるにしても時間掛かりそうだぜ」
勝手に入ってきて、勝手に暴れて、勝手にぶちのめされ……。
ハッキリ言って最初から最後まで邪魔だとしか思わない侵入者達の後処理をしないといけないと考えるだけで、一誠は色々と精神的に重くて仕方なかった。
「いえ、兄達がそこら辺は何とかすると思うわよ? 壊れた校舎の一部もちゃんと修繕すると思うし」
「人間同士の小競り合いでこうなった訳じゃありまけんからね。そこは安心して良いですよ一誠」
そんな一誠のブルーな気持ちが全面に出たコメントを聞いた魔王の妹が、安心させる様に後処理についてのフォローを入れる……何故か妙にスッキリした顔で。
「一誠の見よう見真似だったけど、決めるとかなりスッキリするのよね」
「これからはこのやり方をメインに鍛えようかしら」
その理由は、どうやら一誠がよく好んで使用するロマン技に嵌まってしまったらしい。
目の前が屍の山だというのに、やった本人達が妙に爽やかに言うもんだから、絵面としたら相当にシュールだ。
「ねーちゃんもいつの間にあんなの覚えちゃって……」
「だって真羅さんもリアスもソーナ様も『真似する』って言うから……」
「だからねーちゃんも覚えたってか? だとしたらセンスありすぎて嫉妬すら覚えるぜ。アンタ等四人に」
朱乃まで覚えちゃった事もそうだけど、一誠が一番モヤモヤしてる理由が、四人してある意味自分よりセンスがあったという事である。
何度も練習して体得した技を、短時間でああも完璧にコピーされちゃうなんて、ハッキリ言って複雑でしかない。
「別にやるのは良いけどさ、四人共スカートなのにあんな大股開いたりするからパンツ丸見えだったんだけど……」
「え!? あ、そ、そうだったの……?」
「一誠に見られてたなんて、ちょっと恥ずかしいわね……」
「今度から中にジャージでも履きましょうか?」
「一誠くんの顔が何とも言えない顔ですから、それが正解かも」
しかも四人して学園の制服着てたせいでパンツ丸見え……一誠はこれぞ本場の嬉しくないパンモロを体験した気分である。
幸いまだ四人にそこら辺の羞恥心が少なからずあるみたいなので、軌道修正は可能なのかもしれない。
「そこに居たか、赤龍帝の弟よ」
ただその前に『ムカつく』事を処理しなければならないのだが……。
イッセーが好んで使う技を真似てみれば、ちょっとは認めてくれるのでは? というソーナの言葉を受けて秘密に四人で練習してイザ本番に見せてみた私達なのだけど、結果は微妙な顔で笑われてしまった。
何でも……女なのに大股開く技なんて使われてもリアクションに困る――らしい。
下着がモロに見えると指摘されて初めてハッとした訳だけど、技が決まった時の気持ち良さと天秤に掛けてしまうと、スカートじゃなくてズボンを履いてしまえば関係無いと私――いや私達はこれからもこの物理法則完全無視のプロレス技を磨こうと思う。
――――何て、意味の無い前置きは此処までしましょうか。
「この侵入者達を片付けたのは流石だと言っておこうか、赤龍帝の弟君?」
「……………」
ハァ……今日はどうしてイッセーの地雷を踏む輩が多いのかしら。
匙君達の時もそうで、やっと落ち着いたと思ったのに、今度はまた別の誰かが空からやって来たかと思ったらイッセーを見下ろして凛の弟と呼んでるし……。
? そういえば彼って……。
「……。誰だったかしら?」
「何処かで見たような気はするけど何処でだったかしら?」
誰だったかしらね。
さっきからイッセーに気安い態度だし、銀髪で背に白く輝く翼を広げてる辺り一度見れば忘れようも無さそうな姿な筈なのだけど……うーん、私もソーナも椿姫も朱乃も――
「え、先輩さん達の知り合いじゃないの? それか椿姫ちゃんか朱乃ねーちゃんの」
「いえ知らないわ。何で兵藤さんの話を急にしてくるのかもビックリなくらい」
「ちゃんと何処かで見た気はするのだけどね」
そしてイッセーも知らないらしく、凛の話をされて怒るとかいう以前に彼が誰かであることが気になって怒っては無いらしい。
「……………」
そんな会話が聞こえてしまっていたのか、上空から私達を見下ろして微妙に気取っていた銀髪の男の表情が固まっていた。
うん……まあ、恥ずかしいわよね……。
「……五人揃って記憶力がどうしようも無いというのはわかったよ」
「あ? いきなり何だよテメーは? つーか誰だし? 生憎こっちは全員テメーなんざ知らねーんだけど」
「………………。白龍皇だよ、この前コカビエルの件の時にキミが不意打ちでボコボコにしてくれたね……!」
流石に怒りでもしたのか、やっと正体を明かす銀髪の男はどうやら白龍皇だったらしい。
その名前は流石に知っているというか、コカビエルの件という言葉でそういえば一段階目の弱体化をしたイッセーにズタズタにされていた白い鎧を纏った存在について私達も今思い出す。
「白龍皇?」
しかしそれでもイッセーにしてみれば……あぁ、そういえばあの日は凛達やコカビエル相手に不機嫌だったのと言彦に乗っ取られていた後だったわね。
覚えてないのも仕方ないかも……。
「あー……確か何をしに来たのか解らんだけの役立ず予備軍かぁ。
居たなぁ、そんなの」
「っ!?」
と、思っていたらそこは覚えていたらしい。
見下ろされてるのに、思いきり見下した顔でハッキリ言い切るイッセーの態度に白龍皇の彼の表情が変わる。
「また今度は何しに来たわけ? 白だか青だか知らねーが、俺達はテメーに構ってる時間なんて無いんだよ。
わかったらとっとと消えろよ、邪魔くせぇ」
「相変わらず腹の立つ言い方だな赤龍帝の弟君。
俺だってお前達に用なんか無いし、ただこれを言いに来ただけだ」
「あ?」
けど襲ってくるとかはせず、白龍皇の彼はイッセーの態度に不機嫌な表情を見せると……。
「今日から俺達は、今君達が倒したこの構成員達と同じ禍の団所属になる……というのを伝えに来たのさ」
白龍皇がテロリストになります宣言をした。
「うん」
「あ、そう」
「禍の団ですか、そうですか」
「精々殺されないように頑張ってください」
「だからどうした、消えろ」
ただ、それを言われても関わりが薄い私達は何てリアクションをすれば良いのかわからない訳で、こんな反応しか出来ない私達は多分悪くないと思うの。
「……。フッ、予想通りの反応だが、これを聞けば同じ反応が出来るのかな? 特にリアス・グレモリーと姫島朱乃よ?」
それは向こうも流石に分かっていたのか、特に気にする事もなく――いえ寧ろこれから口にする事がある意味重要だと云わんばかりに、どういう訳か私と朱乃に関係があるという前置きをすると……。
「さっき俺は『俺達』と言った訳だが、ふふ……どうやら禍の団にはお前達の仲間だった赤龍帝の兵藤凛達も勧誘されて加わったらしいぞ? くくく……!」
確かに聞きたくは無かった衝撃的事実を聞かされてしまった。
「……。そう、ソーナの元眷属達を見て何と無く嫌な予感はしていたけど……そう、テロ組織に勧誘されたのね」
「リアス……」
「えぇ……えぇ……わかってるわ。ふふ、本当に何を考えてるのか最後までわからなかったわ……」
凛達が勧誘されてテロ組織に入った。
匙君達の事もあって、ちょっとだけそんな予感をしてしまったけど、何も本当に当たる事なんて無いじゃない。
というか……何を考えてるのよ。
「何で入ったのか知らないのアナタは?」
「さてな、ただ赤龍帝の弟が原因なんじゃないのか? キミ達が自分の眷属だった彼等を解雇してまでそいつを眷属にしたせいとかな」
「……。何も知らない方達からはそう思われてる様ですわね……」
「勝手な事を……!」
「もうここまで来ると誰かが一誠くんを強制的に悪者にしようとしてる風にしか思えませんね」
元とはいえ眷属だったあの子達がテロリストに。
ふふ、今更自分の名前が傷付くだなんてどうでも良いけど、また風当たりが強くなっちゃうんだろうなぁ……あははは。
「という訳だ弟君、精々怨みを持たれて殺されないように―――ぐがっ!?」
「もう良い、テメーは今すぐ消えろ。いや、死ね」
目眩がして朱乃達に支えられた私を見てからなのか、それとも単純にウザいと思ったのか。
上空に居た白龍皇に向かって大きく跳んだ一誠が、思いきり殴り飛ばしていた。
まだ身体はボロボロだというのに、前と違って余裕なんて無いのに、白龍皇に向かって何度も何度も殴り付けている。
「な、嘗めるな!!」
『DIVINE!』
当然白龍皇もタダでやられるつもりも無く、白龍皇の力を使ってイッセーに反撃するのだけど。
「黙れ」
「なっ!?」
白龍皇の力を使っても止まらない勢いのイッセーに驚愕しながら、銀髪の彼はまた殴られた。
今度はくの字に曲がる程の勢いのある拳が腹部に突き刺さって悶絶している。
「ご、ごほっ!?」
「赤龍帝がテロリスト? 本当にどうでも良いなそんな話。
だってぶちのめして処刑台にでも送れば問題無いんだしなぁ?」
傷が開き、全身から血を噴き出しながらも嗤って悶絶する白龍皇の頭を掴んだイッセー。
……。実物を見るという意味ではこれが初めてかもしれないし、実際この目で見るまで信じられない話だと思っていたけど、どうやら本当らしい。
「だからテメーもぶちのめす、良かったな……今の俺は全身がズタズタだから満足に使えねぇ。
だから死にはしねぇよ……死にはな」
「な、なにを……だったらバランスブレ―――うわっ!?」
戦えば戦うほど、相手が例え強くても瞬く間に適応し、そして進化をし続けるイッセーの異常性。
「テメーはこの兵藤一誠が直々にぶちのめす! 消えて無くなれぃ!!!」
「がっ!? ぐあっ!? がはっ!?」
転生した事により得た悪魔の翼を背に広げ、白龍皇を頭突きで何度も打ち上げる。
「ぎっ!? く、クソ……折角回復したのに、こんなカスにまたボロボロかよ…………だがっ!!」
「ぐはっ!?」
そして上空高く打ち上げた白龍皇目掛けて自分も跳び、腕と足を固める。
それは私達も初めて見るイッセーの新しい物理法則完全無視のプロレス技だった。
「う、動けない……!?」
「さっきはあの四人に見せて貰った。だから今度は俺の番だぁぁぁっ!!」
それはまるで不死鳥だった。
いや……ライザーとかいう意味ではなく、本当の不死鳥の姿がイッセーの背中に見えた気がした。
白龍皇が固められてるあの姿を女の子がされたらかなり恥ずかしいのかもしれないけど、生憎あれは技の一つなので、考えたら失礼に値する。
もしかしてイッセーは凛達の事について私に気を遣ったのかもしれない。
だからズタズタの身体に鞭打ってまで……。
「マッスル・リベンジャー!!!!」
「うわぁぁぁぁっ!?!!?」
魅せてくれたのかもしれない。
白龍皇を地面に叩きつけたその瞬間まで、私はその姿を只見つめていた……。
……。あ、が……!?
「あ、あがががっ!? か、身体がぁぁぁっ!?」
い、痛い……やばい、死ぬ!?
「は、反動がやばい……! く、クソッタレ……いでででで!?!??」
この意味わからんガキは黙らせたけど、やっぱりここまで弱体化してる上にガタガタの身体でやるのは間違ってた。
泡吹いて気絶してる程度にしかダメージも与えられず、代わりに自分はさっきの百倍の激痛。
今回ばかりは本当に一歩も動けない。
「一誠くん!」
「ね、ねね、ねーちゃん……今ばかりは強がれない、本気で痛い……」
ねーちゃんに泣き付くくらいに本当に痛い辺り、自分でもかなり余裕が無いとわかる。
というか、さっきの傷が開いて血が半端無い。
「い、いてぇよぉ……こんな雑魚になんで使ったんだ俺は……」
「か、軽く電気を流して痛みを麻痺させるわ……」
「ほ、包帯も取り替えましょう」
「一応冥界で市販されてるお薬もつかいましょう!」
「さっきまでのブルーな気分が一瞬で吹き飛んだわね……。凛達の事は気になるけど」
ねーちゃんから電気治療っぽい処置や、先輩さん達から傷薬を与えられ、椿姫ちゃんからは包帯の取り替えをして貰う等々、今日の俺は役立たずも良いとこだ。
終いには……。
「せ、先輩!? ど、どうしたんですかぁ!?!? …………あ、あぅ……」
「あぁギャスパー!? し、しまった……俺のスプラッターな姿見て意識が……」
折角意識を取り戻したギャスパーを気絶させる始末。
マジで俺、本当に駄目だわ今回は……。
けど、この後俺はこれ以上に身体をズタボロにすることになる。
「う……く……」
「弱くなりましたねセラフォルー。私がばら蒔いた駒共は全滅させられた様ですが、私としては貴女を殺せればそれで良い」
「ま、まだまだ……!」
そう、別に助ける義理なんてない偽者の為にまで……。
終わり
補足
はい、大人しくしてたと思ってたらそんなカラクリがありました。
ちなみにですが、このヴァーリは凛さんに嵌まりつつあるとかないとか……。
その2
で、わざわざそれをリアスさんと朱乃ねーちゃんの前で言ってくれちゃうもんだから、二人の反応を見てカチンと来たイッセーくんは、予告無視のマッスルリベンジャーを解放してぶちのめしましたとさ。
その3
何でここまで弱体化してるのに戦えてるのか。
それは、やはりイッセーの異常性が弱体化前とまではいかずにかなり遅いとはいえ、進化を促しているということです。
とはいえ、瞬間風速的にしか力も発揮出来ずに反動でズタボロですけど。
最後。
イッセーのマッスル技を『ふつくしい……』とか思い始めてる辺り、もしかしたら四人の乙女達は色々と手遅れかもしれない。
セラフォルーさんもサーゼクスさんも泣くかも。