風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

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弱体化して使えなくなったマッスル達の必殺技の代わりに、原点にて最初の技術を復活させよ。


さすればある程度元に戻ろう。


的な


代わりの技術

 突然封印を解くと自分の主であるリアスに言われ、外に連れ出されそうになった時、ギャスパーは初めて風紀委員長と出会った。

 

 

「一応、同業者」

 

 

 駒王学園の旧校舎にて引きこもっていたので、風紀委員という名前の意味は知っていた。

 勿論それは恐怖の権化という意味でだ。

 

 だからこそ当初同業者と名乗られた時、ギャスパーは恐怖でますます外に出たくなくなった。

 だがギャスパーの抱く恐怖心に反し、風紀委員長である一誠は割りと処かかなり人当たりが良かった。

 

 主の幼馴染みであるソーナ曰く、『自分の時より遥かに優しい』との事らしく、現に一誠はギャスパーに対して無理に何かさせる事を強要させるとかは決してせず、自立できるようにと時間の掛かる方法でギャスパーに接していた。

 

 そればかりか、時間を停止させてしまう神器の事やハーフの吸血鬼である事を知っても一誠の態度は予想に反していたものだった。

 

 

「吸血鬼ねぇ? ふーん?」

 

 

 同年代相手には決して見せること無い、子供相手に対する優しさがそうさせたのか、それとも今更ハーフの吸血鬼程度じゃ別に驚くことも無いといった慣れの精神がそうさせたのか。

 ギャスパーがハーフの吸血鬼である事を知った時の一誠の態度はこんな感じであり、知った後の態度が変わる事も皆無なまま、ギャスパー相手に近所の子供を相手にするかの如く接し続けた。

 

 ある意味じゃギャスパーにとって初めてのタイプだったかもしれない。

 何せ自分がこの世に生を受けた時は、今の姿が嘘の様に原型を留めない何かだったし、吸血鬼と人間のハーフという理由で物心が付く前から迫害され、挙げ句捨てられた。

 

 人間のみならず、あらゆる生物に対しての対人恐怖症に陥らない方が無理があるとさえ思える人生を送ってきたギャスパーにしてみれば、自分の正体や力を知っても尚、腫れ物処か時間さえあれば何時でも姿を見せては、遊んでくれる人間は初めて過ぎて逆に戸惑ってしまう。

 

 

「知り合いのコンピューターじーさんからPCパーツを流して貰ったからよ、新しく組んでやるよ。

へっへーん、ほら見ろよ、マザーボードとCPUに至っては世に出回ってない超最新式だぜ? 現状世に出てる最新パーツの寄せ集めを組んだマシンの倍はベンチマークだけでもニヤニヤできるスコアがでること確実よ」

 

「女装? いいんじゃねーの? 女装したって違和感無い顔してるしなギャスパーは」

 

「良いかみてろよ? これがマッスルインフェルノじゃー!!!」

 

 

 女装趣味も否定しない、暇な数だけ来ては妙に子供扱いしてくる事は多いものの優しく何でもしてくれる。

 

 後ろで主や女王達が若干納得できないといった表情で一誠を見てるものの、ギャスパーはたった数日の事ながらすっかりと一誠に懐いてしまったのは云うまでもない。

 

 

 

 

「まだ会議は終わらないのかなぁ……」

 

 

 そんなギャスパーは今、一誠を含めた仲間達が三大勢力のトップ達が出る会談に出席する中、力の制御が不安定という理由で一人残され、お留守番の真っ最中だ。

 数日の内に引きこもりはまだ直らないものの、すっかりと一誠に懐いてしまったギャスパーは、その日その場でノーマルの制服に着替えて出ていった一誠がその場に畳んで置いてあった風紀委員長専用の長ランを眺めながら、今か今かと帰りを待っている。

 

 

「……」

 

 

 会談が終わったら今日はトマトジュースを飲みながらゲームをするという約束もしており、あれだけ怖がっていたのが嘘の様に、今のギャスパーは一誠と遊ぶのが楽しみで仕方ない様子。

 

 一誠と知り合う前の引きこもりをやっていた時は、特に退屈もせずPCやってたりゲームしてたりで充実した気分になっていたが、ここ数日は一人でやっても妙な虚無感に支配されてとても一人でやる気にはなれない。

 

 

「はぁ……」

 

 

 故にギャスパーは封印されていたお部屋の中で一人椅子に座ってぼんやりと待っていたのだが、じーっと何気無く一誠の置いて行った長ランを見ている内に、妙な好奇心に駆られ始めていた。

 

 

「これがイッセー先輩の風紀委員の制服かぁ……」

 

 

 勝手に触ったら駄目だという良心はあった。

 が、ぼんやり見てる内に何となくその手に取って見たくなったのか、同じく椅子に畳んで置いてあったその長ランを手に取り、広げて前や後ろを交互に見ながら、背に刺繍された風紀という文字等を観察していく。

 

 所謂一昔前の不良が羽織ってたそれと酷似しまくりな作りであり、ギャスパーにしてみればネット上か漫画の中でしか見たこと無い服であってなのか、生で見た感想としては重そうな制服だなといった感じであった。

 

 

「…………」

 

 

 しかし変な魔力を感じるのは気のせいなのか。

 作りやデザイン、ボタンの数なんかを眺めている内にザワザワと落ち着かない気分にさせられていくのと共に、ギャスパーの鼻がヒクヒクと動く。

 

 

「……。ちょっと、ちょっとだけ試しに……」

 

 

 最近身近に感じる匂いが長ランからクリーニングしたての独特な香りと共にギャスパーの鼻腔を擽り、それが原因では恐らく無いが、ギャスパーは誰も居ないにも拘わらず誰かに言い訳するかの様に小さく声を漏らすと、徐にその長ランを羽織ってみた。

 

 

「わ、やっぱり大きいや……」

 

 

 当然ながら一誠に再度採寸を合わせ直した長ランなので、小柄なギャスパーでは大きすぎる。

 裾は床に付くし、袖に至ってはオバケごっこができるぐらいにダボダボだ。

 

 

「何でだろう、ちょっと嬉しい気分……?」

 

 

 だけどギャスパーはサイズも合わず、不格好極まりない姿になっても妙な安らぎを感じていた。

 レヴィアたん……いや、どう見ても魔王のセラフォルー・レヴィアタンに対して、レヴィアたんだレヴィアたんだと意味不明な拘りを見せたり、初対面の時に至ってはパンパンされたりと変な所はかなり多い。

 

 けどそれ以上に悪い人間には思えない。ギャスパーはよれよれの袖を揺らしながらただひたすらに一誠達の帰りを待ち続けた。

 

 

「お前が停止世界の邪眼を持つハーフ吸血鬼だな?」

 

「え……!?」

 

 

 だが、その寂しくも少し幸せに感じる時間は唐突に終わりを告げてしまった。

 

 

「その力、我々の為に利用させて貰うぞ?」

 

「っ!?」

 

 

 必要も無い存在共により……。

 

 

 

 

 

 既にリアスからギャスパーの力については聞いていた。そしてその力を目の前で体験させて貰ってもいた。

 だからこれがギャスパーの力というのは直ぐにわかった。

 

 

「チッ、だから出たく無かったんだよ……クソッ!」

 

 

 それ故に、力を恐れるギャスパーが力を発動させたのはほぼ何かあったからだと予想できたし、現にギャスパーの力で周囲の空間の時が停まったその瞬間、会議室の窓から見える運動場に無数の転移の魔方陣が出現している。

 

 

「停止世界の邪眼か? おい、確かグレモリーの所にハーフ吸血鬼が居るって話だが、もしかしてそいつが?」

 

「え、ええ……でもこれは恐らく無理矢理……」

 

 

 一度体験し、『慣れた』事によって何とか弱体化した身でもギャスパーの神器発動間でも動ける様にはなれてる一誠は、アザゼルの質問に答えるリアスの声を横に、会議室を出ようと扉へ走ろうとする。

 

 

「待ちなさい一誠くん! リアスの僧侶の所に行くつもりだね?」

 

 

 が、それに待ったを掛けたのはサーゼクスだった。

 

 

「あ? そうだよ、だからどうした!」

 

 

 一々呼び止めんじゃねーよ、と言わんばかりの顔でサーゼクスに返す一誠は、そのまま会議室の扉を開けようと手を伸ばすが。

 

 

「いで!?」

 

 

 その手は扉に届く事は無く、まるで見えない壁か何かに憚れてしまった。

 

 

「っ!? 閉じ込めたつもりか? ふざけやがって……この、ゴミがぁぁぁっ!!!」

 

 

 見えない壁に邪魔され、突き指した一誠はそれでいよいよガチギレし、そのまま見えない壁に向かって本気のパンチで破壊してやろうと拳を突き出すが……。

 

 

「っ!?」

 

 

 グチャという嫌な音が会議室内に響き渡り、そして一誠は己の手を見て驚愕する。

 

 何と、結界を破壊してやろうと繰り出した一誠の拳はその壁の強度に負け、自らの拳を破壊してしまったのだ。

 

 

「一誠!」

 

「こ、こいつ……」

 

 

 拳がグチャグチャになってしまったのを見た朱乃達は直ぐ様一誠に駆け寄る。

 しかしそれよりも一誠自身は痛みを感じる以上に自分が信じられないといった様子で立ち尽くしていた。

 

 

「リアスの駒まで受け持った時点で、相当に弱体化しちゃったみたいだね一誠くん?」

 

「………」

 

 

 その理由は分かってるが考えたくは無かったのだが、サーゼクスにやれやれといって顔で指摘されてしまい、4人から無理矢理治療を受けながら、悔しそうに顔を歪ませる。

 

 

「チッ、クソが……」

 

「おいどういう事だサーゼクス? 弱体化って何の事だよ?」

 

「僕じゃなくて彼本人に聞きなよ。本人の許可無く僕は喋るつもりは無い」

 

「チッ、お前も黙りかよ」

 

 

 一誠の回復力の高さもあって、短時間で治療自体は済んだものの、自分達を閉じ込める様にして展開された結界と、学園を破壊しようとうようよ現れる謎の集団に段々焦りを見せ始める。

 

 

「どうする……どうする……!?」

 

「私がやってみるわ」

 

「うぇ?」

 

 

 そんな一誠を見かねたのか、ここで椿姫が会議室の壁に立て掛けておいた刀を鞘から抜くと、間抜けな声を出してる一誠を尻目に自分達を取り囲んでいた結界に向かって綺麗に一閃する。

 

 

「へぇ?」

 

「椿姫ちゃん……」

 

「これで大丈夫よ……」

 

 

 するとどうだ、弱体化していたとはいっても一誠の一撃で破壊できなかった結界が、椿姫の一閃を軸にガラスの様に砕けて破壊された。

 過程をキャンセルし、結果だけを残す椿姫の異常性だからこそ出来るその芸当に一誠達も、そして初めて直接目にしたサーゼクスも感嘆する。

 

 

「お、おい? シトリーの女王がやったのか今?」

 

「……。サーゼクスとグレイフィアが時折見せる雰囲気を一瞬だけ感じましたが……」

 

 

 だがやはりアザゼルとミカエルだけは妙な疎外感を感じしまうのは云うまでもない。

 

 

「それがキミのって訳か……へぇ、一誠くんと昔出会ったのが切っ掛けと聞いたけど」

 

「はい、私にとっては彼との繋がりを感じられるものです」

 

 

 サーゼクスの興味深そうな問いに椿姫は刀を鞘に納めながら答え、手首を回していた一誠に向かって口を開く。

 

 

「結界は斬ったわ。さぁ、これで外に出られるわ」

 

「……。何かすまねぇな」

 

 

 刀を持ち、ギャスパーの所へ行こうとする一誠に付いていくといった様子で話す椿姫に一誠は少々罰の悪そうな顔で謝りながらも、頷き合いながら共に部屋を出ようとする。

 だが……。

 

 

「それは少し待って貰いましょうか?」

 

 

 会議室の真ん中に現れた魔方陣と声により、再び邪魔をされた一誠達は本気でウザいぞといった顔をしながら、出てこなくても良い招かねざる客を睨み付ける。

 

 

「お初にお目に掛かります、現三大勢力達」

 

 

 そして現れたのは……フードを目深く被った魔法使いと思われる男だった。

 

 

「誰だい? ……って聞いてはみるが、予想はつくよ?」

 

 

 クソ邪魔な……。

 再び自分達を閉じ込める結界に憚れた一誠は舌打ちをしながら、椿姫……それからソーナ、リアス、朱乃を呼び寄せて、アザゼル、ミカエル、セラフォルー、サーゼクス達と何やらゴチャゴチャくっちゃべってる侵入者を置いて耳打ちをする。

 

 

「ギャスパーの所に転移とかできませんか?」

 

「椿姫が結界を斬った直後ならできたけど、こうも速く簡単に張り直されると邪魔されて……」

 

「そっすか……くそ、早くギャスパーの所に行かないとヤバイのに……」

 

 

 ヒソヒソと、上手くギャスパーの所に飛んでいけないかの相談をする5人の若者を横に、サーゼクス達はサーゼクス達で現れた魔導師相手に殺気を向ける。

 

 

「禍の団だなテメー等?」

 

「ご名答、流石は堕天使総督殿。そう、我等は禍の団、あなた方の妨害をしに来ました」

 

「何の為だ?」

 

「私個人はただ命じられたに過ぎませんが、この会談で同盟を組まれたら困るのは多いのですよ。

例えばそう、今回我等の襲撃作戦の指揮を取る方とか、ね……」

 

 

 三大勢力のトップから囲まれているにも拘わらず、飄々とした態度の魔導師の口にした指揮を取っている存在。

 その存在は特に悪魔であるサーゼクス達にしてみれば馴染みがあるといえばある存在の一人であった。

 

 

「カテレア・レヴィアタン。

今回の襲撃作戦のリーダーは彼女となっております」

 

「カテレア?」

 

「おいおい、その名前って先代レヴィアタンの血族者で今は冥界の隅でひっそりしてる連中の一人だろ? まさかテロ組織に加わったとでもいうのかよ?」

 

「その通り。どうやら彼女達旧魔王派は、現政権を敷くアナタ達が思ってる以上にアナタ達という存在を許せないみたいですな」

 

「カテレアちゃんが……」

 

 

 サーゼクスは魔導師の話を聞き内心『何だよ、命乞いしたから見逃してやったのに、結局こういう真似するのか……』と若干めんどくさい気分になりつつも、ベラベラと勝手に得意気になって色々と喋ってくれる魔導師から情報を引き出そうと耳を傾ける。

 

 

「カテレア・レヴィアタンは今どこに?」

 

「彼女なら、停止世界の邪眼の力を無理矢理引き出させる作業をする為に、ハーフ吸血鬼の傍らに居ますよ。

何でも『手引きをしてくれた人間達』がどうのとも……」

「人間だと? おい待て、それはどういう事だ?」

 

 

 旧魔王派が人間の手引きを受けたという話に、アザゼルが眉を潜めながら質問を投げ掛ける。

 すると魔導師はそんなアザゼルに特に勿体振る事もなく、あっさりとその質問に答えた。

 

 

「さぁ、私もその人間を見たのは襲撃前の一度きりでしたからね。

何でも、王が洗脳されたせいで眷属を剥奪された恨みを持つ人間――――がっ!?」

 

 

 しかしその答えはある意味タブーであってらしく、それまでベラベラ勝手に喋っていたその男は一瞬の内に、鬼の形相をした少年によって首を掴まれ、そのままつるし上げにされてしまう。

 

 

「おい、その人間とやらに興味があるから今すぐこの邪魔な壁を何とかしろ? それとも今すぐテメーぶっ殺せば無くなるのか? あ?」

 

「か……かかっ……!?」

 

 

 さっき治療を受けた方の手に巻かれた包帯が、力を込めたせいかビリビリに破け、ズクズク色になったその手で締め上げる姿はちょっと怖い。

 

 

「ストップ一誠くん! 殺すのはやめてほしい。

まだソイツからは色々聞きたいからね、結界なら僕とグレイフィアが何とかする」

 

「……ふん!」

 

 

 だがしかし具体的過ぎて一瞬でその人間とやらの正体の予想がついてしまった一誠……いや、一誠達だからこそ、今すぐ確かめないといけなくなった訳で。

 適応する事で一つ進化を遂げた一誠は窒息寸前の魔導師をサーゼクスの言葉通りに生かしたまま、顔面目掛けて膝を入れて気絶させると、それでも消えない結界をどうにかするというサーゼクスにこう言った。

 

 

「今すぐ此処から出せ。

正直、始末を付けなきゃならねぇボケ共が居る」

 

「………。そうみたいだね、その手引きした人間というのはどうやらキミ達の知り合いみたいだしね。

良いだろう、キミの深刻な弱体化が心配だが、それ以上にキミは異常な成長力と適応能力がある。

見せて貰おうじゃないか……リアスとソーナさんの為に弱体化までした今のキミをさ」

 

「ケッ……」

 

 

 ニヤリと意味深に笑うサーゼクスに小さく悪態を付いた一誠達は、グレイフィアが即時展開させた転送用の陣の中へと入る。

 

 

「ご武運を……後継者よ」

 

 

 そして眩い光と共に一誠達がサーゼクスの言葉を受けて今まさに転移しようとしたのだが……。

 

 

「待った、私も行く」

 

 

 オマケが付いてくるのは予想外であった。

 

 

 

 

 

 自分達を陥れた憎き男。

 その男に対する恨みはあの日以来一日足りとも忘れやしなかった。

 

 

「……」

 

 

 だからこそ復讐する。

 より強大な力を持つ後ろ楯を得て、その男を殺すことで全てを取り戻す。

 そうすれば、彼女も目を覚ます……そう思い込んで。

 

 

「さ、匙……それに皆まで……!」

 

 

 久々に見る恋した悪魔をこの手に……少年とそれに追従する少女達は再び相まみえた。

 

 

「会長ぉ……お久しぶりですね……」

 

「………」

 

 

 ソーナはショックだった。

 いや、ショックは受けたくなかったけど受けてしまった。

 何せあの会議室に現れた魔導師の言った事が本当だったから。

 

 

「何故アナタ達が……!?」

 

 

 縁を切った筈の元眷属達との要らぬ再会。

 本当にテロ組織に手引きの真似をしていたという現実は喩え元眷属であろうとショックな事に変わり無かった。

 

 そしてそんな妹と共にこの場に来た姉もまた、彼等の傍らに立つその存在を前に顔を曇らせる。

 

 

「本当にアナタだったんだ、カテレアちゃん」

 

 

 レヴィアタンの称号を持つ事で妬まれた存在、カテレア・レヴィアタンにセラフォルーは複雑な気持ちを胸にその名前を口にする。

 

 

「久し振りねセラフォルー

私から奪ったレヴィアタンの称号……返して貰うわよ?」

 

 

 旧校舎の一室にて展開される両者の強い殺気。

 そしてその中でも取り分け強い殺意を放つは、虚ろな瞳で何故か自分の長ランを着てその場に崩れ落ちてるギャスパーを前にした、一誠だった。

 

 

「くく、くくくくく……!!」

 

 

 一誠は今嗤っていた。

 楽しいから嗤っているのでは無い、ただ可笑しくなるから嗤っていた。

 

 

「兵藤ォ……!! 会いたかったぜクソ野郎……!」

 

「あ、アナタ達! 自分が何をしてるのかわかってるの!?」

 

「ギャスパー君を離しなさい!」

 

 

 リアスと朱乃が殺気を向けながら威嚇するが、匙達はどういう訳かまるで動じない。

 いや、逆に何処かがおかしい……。

 

 

「交換条件ですよ、今すぐここで兵藤を殺してください。そして駒を俺達に返してください。

そうしたらこのギャスパーは解放しますよ?」

 

「な、なにを……! 今更アナタ達を眷属に戻せと言いたいの!? ふざけないで!」

 

「じゃあギャスパーは返しませんよ。くく、流石に兵藤でも魔王クラスのこの人には勝てないでしょう? だったら傷が広がらない内に兵藤だけに犠牲になって貰ったら良いんですよ」

 

「話にならないわね……」

 

 

 嫌悪に顔を歪めるソーナにニタニタ嗤う匙達に、椿姫も一緒になって否定しつつもやはり何かが変だと匙達の様子の違いに目を細める。

 

 だがしかし、それを一々待ってられる程今の一誠はもう冷静では無かった。

 

 

「ほんと……」

 

「あ?」

 

 

 小さく呟く一誠の言葉に匙達が反応する。

 

 

「本当にテメー等って……くく、訂正してやるよ。

お前等は天才だぜ……本当によ――」

 

 

 

 

 

 

「この俺の癪に障る事に関してはなぁぁぁぁっーーーー!!!!!!」

 

 

 押さえ込んでいた全ての怒りが爆発するかの如く、一誠の怒号が旧校舎全体を揺らす。

 

 

「……。悪いけどカテレアちゃん、アナタにレヴィアタンの称号は渡せないよ」

 

「ほう、ならばアナタを排除して奪い返すのみですね」

 

 

 その怒号を横に、カテレアとセラフォルーの戦意も上がる。

 

 

「私は負けないよ。だって私は――」

 

 

 そしてセラフォルーは地味だったその服を妙な光と共にチェンジしながら言った。

 

 

「魔王☆少女レヴィアたんだもん!」

 

 

 然り気無く、髪の色を真っ赤に染めながらマジギレする一誠の傍らで……である。

 

 

「…………」

 

「ぁ……レヴィアたん……」

 

 

 きらーん☆ みたいな擬音がどっかから聞こえてきそうなポーズで変身を遂げたセラフォルーに、カテレアを含めた全員の時が一瞬止まる中、ギラギラと殺意剥き出しの一誠がポカンとしながら思わずといった様子でセラフォルーの事をレヴィアたんと言ってしまう。

 

 

「っ!? ち、ちげぇ……! あ、ありゃ偽者だ……!」

 

 

 しかし、直ぐ様ハッとなって首を横に振って否定するや否や、何故か自分の横に立って唖然とするカテレアに啖呵を切ってるセラフォルーを軽く突き飛ばした。

 

 

「あっち行け偽者め」

 

「………」

 

 

 あくまでも偽者扱いしてくる一誠の、まるで犬でも追っ払うかの様な態度に若干カチンと来てしまうセラフォルーだが、自分はお姉さんだからと言い聞かせ、取り敢えず余裕ぶった態度で頷いておく。

 

 

「素直じゃないなー?☆ ま、良いけどね……じゃあカテレアちゃん場所……移動しよっか?」

 

「相変わらずフザケタ女ですねアナタは。ですが良いでしょう、捨て駒を大量に侵入させられた時点で既にそのハーフ吸血鬼に用は無い。付いて来なさいセラフォルー」

 

 

 よく分からない茶番を見せられたカテレアが、セラフォルーの言葉に妙な自信を持って着いて来いと促すと、揃って転移魔法で姿を消す。

 そして残ったのは一誠達と、彼等と相対する元眷属達なのだが……。

 

 

「3秒数える内にギャスパーを放せ。そうしたら苦しませてからぶっ殺してやる……」

 

 

 ギラギラと殺意にまみれた……されど言彦に乗っ取られてないといった状態の一誠が、両手の指をパキパキ鳴らしながら手引きという真似をした匙達に忠告する。

 

 

「無理だな、寧ろテメーが会長の洗脳を解け。

じゃないとコイツは解放しない」

 

 

 しかし匙達は元の非力な状態へと戻っているにも拘わらず、何故か妙に強気な態度で例の如しな台詞を宣う。

 

 

「まだそんな事を……!」

 

「誰が誰を洗脳しているというのよ……!」

 

 

 何かアレば一誠を嫌う者は何時だってそう言う。

 まるで自分達がアッサリそれに引っ掛かった馬鹿だと云わんばかりに……。

 ソーナと椿姫も……いや、リアスも朱乃もいい加減うんざりだった。

 

 

「もう良い……アナタ達を捕らえるわ。

今回の騒動の手引きまでしてくれた罪でね……!」

 

 

 だからこそソーナは、元眷属であるという情も何も全てを押し込み、匙達を捕らえると宣言して構えた。

 それは隣で殺す気満々である一誠に対してのある種の牽制の意味も込められていたりするのだが、それとは別にこんな騒動まで引き起こした時点で無罪な訳が無いのだ。

 

 

「やっぱり兵藤を潰さないとダメか……」

 

 

 

 そんなソーナ達に対し、匙達は小さくため息を吐いて首を横に振った。

 愛しのソーナの洗脳を解除するにはやはり兵藤をどうにかしないといけない。

 ……まるで勝てる見込みがあると云わんばかりにだ。

 

 

「やっぱりテメーは許せないな兵藤」

 

「見当違いも甚だしいなゴミ共。

許せない? テメー等に対して何の許しを乞えってんだ? 笑わせるなよカス」

 

 

 そんな匙達に一誠は髪の色を真っ赤に染めさせた状態で、より重圧的な殺意をむき出しにする。

 しかし一誠はそんな匙達にソーナ達と同じく何処か違和感を覚えていた。

 

 妙に以前と違ってまるで動じて居ないし、寧ろ余裕綽々といった態度なのだ。

 

 

「さっきから変よ彼等……」

 

「頭のネジが全部抜けたって感じでも無さそうですし……」

 

 

 それが余計に違和感を感じさせる訳であって……。

 焦点の合わない目でその場にヘタリ込んだまま動かない、長ランを羽織るギャスパーを気にしつつ、四人が警戒をしていると……。

 

 

「この前の時の様にはいかねーぜ兵藤!」

 

「……!」

 

 

 匙……いや、ソーナの元眷属達は一斉にその違和感の正体を力として解放した。

 人の身に戻った……いや、転生悪魔だとしても持ち得ない筈の……(ウロボロス)の力を。

 

 

「こ、これは……!」

 

「匙達から異様な力が……!?」

 

 

 その気配は直ぐに感じた……いや視えた。

 匙達の背後を渦巻く様にして出現するオーラと無数の蛇達が、尋常では無い力と共に一誠に襲い掛かかったのだ。

 

 

「……」

 

「っ! 一誠!」

 

 

 幻なのか現実なのか、どう見ても正気に見えない形相の匙達から出てきた無数の蛇が一誠の全身を食らい付くさんとばかりに噛みつく。

 

 それを一誠は目を凝らしながら受け、ソーナ達は咄嗟にまとわり付いたその蛇を叩き落とすのだが……。

 

 

「くくく、流石に無限の龍神の力の一部である蛇には何にも出来ねぇわな兵藤? ほら、食い殺される前にさっさと会長達の洗脳を解除した方が身のためだぜ?」

 

「無限の龍神……!? あ、アナタ達はまさか……!」

 

「ええそうです会長。

手引きの代わりにさっきの旧魔王派って人から私達はオーフィスの力を一部借りたのです」

 

「馬鹿な……! 何て愚かな……」

 

「それもこれもまた会長と私たちを引き裂いた兵藤一誠を消すためです。わかってください……会長」

 

 

 カテレア経由でオーフィスという無限の龍神なる存在の力の一部を間借りして使役しているという匙達に、ソーナ達は絶句するしか出来なかった。

 

 妙に攻撃的な性格も、その正気とは思えない形相も、全ては力を間借りした影響であったというのだから……。

 

 

「動けないだろ兵藤! 流石にオーフィスの力には勝てないもんなぁ!? そのままくたばれぇ!!!」

 

 

 もう一度言うが、ソーナ達は只でさえ失望していて関わりたくすら無くなっていた匙達に対し、どうして分からないのかと思うしか無かった。

 

 確かにオーフィスの力を間借りすればそれなりに拮抗出来るかもしれない。

 しかしそれは所詮間借り物の力であり、本人の力じゃない。

 

 弱体化してるとは知らないにしても、どうしてそれで勝てると思っているのか。

 

 

「がべっ!?」

 

『………え?』

 

 

 ソーナ達四人はつくづく、どうして一誠はこうも過小評価されやすいのか……言彦の件から生き残ったせいか、勝った気で飛びかかった匙の顔面にカウンターで拳をめり込ませて壁まで吹っ飛ばした真っ赤な髪になってる一誠を見つつ、それが理解出来なかった。

 

 

「え……え?」

 

「さ、匙くん!」

 

 

 喉元を切り裂こうと飛びかかったその刹那、気付いたら壁に思いきり背中を打ち付けながら崩れ落ちてる自分に、鈍い痛み共に理解できないといった表情の匙は、生ゴミを見るような顔で見下ろす一誠に視線を向ける。

 

 

「み、見えない……う、嘘だろ? オーフィスの力を借りてるのに……無限の龍神なのに……?」

 

「…………」

 

 

 寧ろ転生悪魔の時より強くなったつもりだっただけに、呆気なくカウンターで迎撃されたのが信じられないといった匙とそれに駆け寄る仲間達は、そういえば先程から何のカラクリなのか、一誠の髪の色が真っ赤に………………あれ? 今度は黒くなってる?

 

 

「殺す価値すら感じなくなるっても、生まれて初めてかもしれないな」

 

 

 匙達の知るところでは無いが、一誠は二重の転生によって全盛期の遥か地にまで力を落としていた。

 それは、簡単な障壁も素手でぶち壊せなくなってる程に。

 

 しかしそれはあくまで素の状態である事が前提であり、足りない分を技術で補えば十二分に戦えるレベルにまでは、二重転生後のソーナ、リアス、朱乃、椿姫達の協力によって取り戻していた。

 

 

「今度は髪が真っ黒に……」

 

「さっきのが確か乱神モードって奴だから今のイッセーは……」

 

「改神モードですわ。

一誠くんが使う所久々に見ました」

 

「確か、『あんまり好きじゃない』って理由で使わなくなった技術なんですよね、安心院さんから教えられたものの一つとか。二人きりの修行の際に一度見ましたけど」

 

 

 先程までの荒れ狂う殺意が嘘の様に消え、今度は鋭い刃を思わせる殺気へとその髪の色と共に変化した一誠を見て、四人はここ最近付き合わされてる修行での一幕を思い返しながら、困惑する匙達を憐れむ様に見据える。

 

 

「良かったわね。物理法則無視のプロレス技の餌食にはならないわ。それでも痛い目には遇うけど」

 

「今度は記憶も消して一般人に…………という訳にもいかないかもね」

 

 

 スッとその場にクラウチングスタートの体勢に入る一誠を横に、四人は最早助け船も出す事もなく言い放つと……。

 

 

「黒神ファイナル……」

 

 

 音もなく姿を消した一誠を最後に、匙達の記憶と意識は完全に消し飛んだ。

 

 

「赤と黒に変わるのって、偶然だけど私とソーナとお揃いになるのよね……」

 

「何でしょうね、この繋がってる感。覚えさせられた身としては中々どうしてって感じよね」

 

 

 終わり

 

 

 

 

 

オマケ

 匙達は結局全員呆気なくお縄になった。

 あんまり好きじゃない技術の一つの封印を解いた一誠により。

 

 

 そしてギャスパーの事を任せた一誠は、残りの侵入者を始末せんと運動場に来たのだが……。

 

 

「がぁぁぁぁっ!?!? か、身体がいでぇぇぇ!?!?」

 

 

 マッスルリベンジャーなる物理法則無視のプロレス技を、弱体化した肉体で無理矢理使ってぶちのめした反動は、技術で誤魔化しても無理だった。というか、その前に散々カテレアにズタボロにされてたので余計だった。

 

 

「だ、大丈夫……?」

 

 

 オーフィスパワーでドーピングされたのもあってか、セラフォルーも衣装をボロボロにされて傷付いてたのだけど、それ以上にズタボロになってしまってる一誠を見て心配になってしまう。

 

※流れは前回の嘘予告参照

 

 

「ほら、肩貸してあげるよ?」

 

「いで、でで……!?」

 

 

 盾になった上で、無茶をやらかしたのはセラフォルーだって分かってるので、親切心で肩を貸してあげようと声を描けるのだが……。

 

「い、要るか! ひ、一人で歩けるわい!」

 

 

 さっきのデレっぽい台詞は何だったのだろうか。

 セラフォルーに対して再びツンツンした態度に戻った一誠はその手を払いのけて自分で立とうとし始める。

 

 それにムッとするセラフォルーもムキになって肩を貸そうと手を伸ばしたのだが。

 

 

「あぎゃぁっ!?」

 

「うわ!?」

 

 

 触れた瞬間、一誠の全身に猛烈な激痛が走る。

 そしてそのあまりの痛みに涙目になった一誠は暴れてしまい、その拍子に思いきりセラフォルーに向かって倒れ込んでしまった。

 

 

「い、いだい……や、やべぇ……かつて無い激痛……」

 

 

 激痛が強すぎて自分の状況なんて二の次状態の一誠。

 

 

「…」

 

 

 に、押し倒された状態にかなりビックリなセラフォルー

 そして……。

 

 

「大丈夫ですか一誠! 援護に――」

 

「こ、これはまた随分と暴れたみたいで……って」

 

「これは……」

 

「…………」

 

 

 最悪のタイミングで援護に来てくれた四人。

 

 

「い、いでで……か、身体ガタガタだから手ェ貸して欲しい……って、何だよ揃ってその顔は?」

 

「……。ひょっとしてわざとやってるのかしら?」

 

「? 何が……」

 

「下、アナタが今思い切り押し倒してる方よ」

 

「あぁん? あ、そういや地面にしてはやけに柔らかい様な―――――」

 

 

 

「………気付いた?」

 

 

 そして言われて気付くこの状況。

 

 

「いや、違うし。見てわかるだろ? 俺身体ガタガタだし、つーかこれにそれは無いからね? バチバチモードでニコニコしないでくれねーかな朱乃ねーちゃん?」

 

 

 当然即座に違うと弁解しようとするも、普段が普段過ぎてイマイチ説得力に欠ける。いやそれどころか、そう言っておきながら退こうとしない時点で説得力以前の問題だった。

 

 だがしかしそれは身体がガタガタで満足に身動きも儘ならないといった理由が今回ばかりは本当にあるので、一誠の言ってることは割りと本当だったりはする。

 けれど、セラフォルーは押し倒してるわ、際どい衣装状態だからアレだったりだわ、さっきから喧嘩売ってるのかってくらいセラフォルーの胸に顔半分突っ込んでるわ……極めつけは。

 

 

「あの……そ、そこに手は恥ずかしいよ……」

 

「は? ……………!? ち、ちげぇよ馬鹿! ありえるかそんなの!?」

 

「ぁ……! う、動かさないでよぉ! へ、変な気分になっちゃうからぁ……」

 

 

 まるでこれから『始めます』的な……セラフォルーの短いスカートの中というか、アウトな箇所に手が入ってたというか……。

 まあ、何というか……。

 

 

「ま、まだ誰にもさせなかったのに……」

 

「知るかぁ!! いでぇ!? か、身体ががが……!!」

 

『…………』

 

 

 アウトだった。

 

 

前回と前々回含めて全部嘘。




補足

まあ、黒神ファイナルで済んだだけ、ある意味マッスル達の必殺技フルコースよかマシじゃね? まあ、捕らえられて大変な人生になるけど。


その2

ギャーきゅん、若干風紀委員に興味深々――いや、つーか単純に懐いちゃっただけ。


その3

まあ、所詮嘘ですからね。

屍だらけの運動場のど真ん中で、押し倒されたあげく下腹部に手突っ込まれましたー……ってなっても嘘だし仕方ないんだよ。

 ……ここで変にスイッチ入ったらさぁ大変になるけどね。

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