風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

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こっから、色々とガラリと変化します。

そうですね、具体的には生徒会。
ええ、その生徒会の中の誰かが色々と捏造をだね……。


※加筆しました。
もうちょい、幼馴染みらしくね!


風紀委員長と生徒会

 突然だが、風紀委員会は委員長である俺以外に委員が存在しない。

 卒業した先代の年代から下が俺一人だけだったってのもあるが、それ以外に委員が居ないのは、この学園の現生徒会が風紀委員会の存在を脅かしてくれたのだ。

 ムカつく話、現生徒会は妙にツラの良い女子ばかりの面子で中々の人気があり、しかも勝手に風紀委員の仕事まで兼任してくれてるお陰で風紀委員の立つ瀬が一気に無くなり、現在は俺一人という完全形骸化となってしまった訳だ。

 

 

「それでは、全委員会が揃った様ですので始めたいと思います」

 

 

 駒王学園会議室。

 この学園は、定期的に生徒会をトップとした各委員による報告会みたいな事をやる慣わしが存在し、形骸化したとはいえ委員自体は存在しているので、一応俺もただ一人の風紀委員としたこの席に座っている。

 

 

「図書委員です。前回行ったアンケートの結果、新たなタイトルの書籍を導入することにしました」

 

「美化委員です。最近生徒達の清掃がいい加減になっておりますので、一週間の期間を儲けて校内清掃の徹底を呼び掛ける事にしました」

 

「放送委員です。前回の――」

 

 

 こんな感じに、わざわざ会議室を使って最近あった事やこれから執り行う事を生徒会に報告するってのが主旨な訳なのだが、さぁて毎度の事ながら困りましたねぇ。

 

 

「ありがとうございました。では次……風紀委員会からは何かありますか?」

 

 

 堅物そうな眼鏡の生徒会長が遂に我が……いや俺一人の風紀委員会を指名してきたので席を立ち、ちょっとした脱力感を感じながら視界に映る各委員長のツラを見る。

 

 

『……………………』

 

 

 いえーぃ、アウェイ空気バンバンだぜヒャホ~イ

 ほら俺ってこんなんじゃん?

 そのせいで風紀委員失格だ的な声が四方八方から言われている訳で、この生徒会長が風紀委員な名を口にしたとたん、各委員長共が歓迎してませんな目で俺を見るわ見るわ……。

 

 

「ありませんか?」

 

「はいはい。

えーっと、生徒会や他の皆様は既にご存知なので報告すべきか迷いましたが、やはりしときましょう」

 

 

 眼鏡の生徒会長に急かされる形で各委員長の様に最近委員内での出来事を報告しようと、先日あったとある事件についての報告を開始した。

 

 

「最近学園周辺に『不審者』が相次いで見られるという報告を受け、早朝・放課後を使ったパトロールをした結果、どうやら女子高を狙った制服泥棒だったらしく、昨日学園をうろついていたおっさんを取っ捕まえて持ち物チェックしたら、見事ビンゴ。

そのまま教師と共に警察に突き出しておきました」

 

 

 まあ、仕事はちゃんとやるから風紀委員会は潰されないんだけどね。

 ありゃ、俺が仕事してますアピールすると胡散臭いものを見るような目を向けてらぁ……。

 仕方ないっちゃあ仕方ないんだが、残念ながらこの話はデマでも何でもないだよなぁ。

 

 

「あの時はご協力感謝します兵藤君」

 

「いえいえ、本来なら風紀委員の俺が一人でやるべき仕事ですからね」

 

 

 何せその不審者捕まえにこの地味っ娘眼鏡さんが協力してくれたんだもんね。ふふ……風紀委員会は暫くこれで不滅よ。

 これに託つけてボディチェックも捗りそうだぜ……ぐふふ。

 

 

 

 

 

「兵藤くん、少しお時間宜しいですか?」

 

「はい?」

 

 

 そんなこんなで委員長定例会議は無事終了し、今日はこのまま帰ってしまうかと考えながら席を立つと、例の眼鏡生徒会長から呼び止められてしまった。

 

 

「……。なにか?」

 

 

 早く帰りたいとかそんな気持ちは今無いが、それでもこの会長に呼び止められると身構えてしまう。

 いやさ、この生徒会長ってあんま得意じゃないというか……あー……うん……言葉悪いけど。

 

 

「今ではたった一人となった風紀委員の委員長として、アナタはその責務を果たしているのは私も知っているつもりです」

 

 

 好きな人種じゃあないんだよね。

 なんていうか、面白くなさそうというべきなのか……。

 今もこうして反応に困る様な口調を聞かせてこられるしな。

 

 

「ですが、最近もまた多数の女子生徒からの苦情が増えてきてます。

主に、アナタからのセクハラ紛いな行動が嫌だと」

 

「ぬ……」

 

 

 ……。まあ、これが最もこの会長さんを苦手とする理由なんだがな。

 確かに、彼女の駒王学園生徒会長として置かれてる立場上仕方ないのかもしれんし、今更セクハラ野郎だとか言われても腹なんて立たない。

 今だって彼女が見せる瞳からは『お前、いい加減にセクハラするなや』と言ってる様にしか見えないし、見たままにクソ真面目そうな顔して、ただただ業務的な口調で注意を受ける俺は、やはりこの会長は見た目からして色々と苦手だと思いつつ、ヘコヘコとその場凌ぎの謝罪で何とか誤魔化す。

 

 

「へぇ……すいやせん」

 

 

 止めろと言われて止めるつもりなんて、性分なんで無いけど、それ言うと話が長くなるのが確定してしまう為、ド三流な演技をかましながら何度も何度もうだつの上がらないノンキャリアリーマンみたいに頭を下げまくる。

 退室しようとしていた他の名ばかりだらけの委員長共が『ざまぁ見ろ』と清々した顔を俺に向けながら次々と帰っていくのが、ちょっと腹立つがな。

 

「………」

 

 

 そんな俺の邪な思考回路を前提としたその場凌ぎの謝罪を、会長さんはただただ『呆れた』様子で見ているだけ。

 考えてみれば、毎度この手で逃げてきては同じ事の繰り返しをしてきたんだもんな……いい加減これがその場凌ぎの嘘だと見破っても不思議じゃあない。

 けれどまあ、ふん……お前ごときに言われて止める風紀委員長様じゃあねーんだよってな。

 

 後ろで控えてるお仲間と一緒になって白い目で見られようとも、男の性なんだからよ。

 

 

 

「絶対に止める気は無いみたいですね、彼は」

 

 

 どう見ても嘘で、これまで何回もその嘘な謝罪を聞かされてきた駒王学園生徒会長・支取蒼那……いやソーナ・シトリーは、そそくさそ退室していった現状たった一人の風紀委員である兵藤一誠に対して、困ったようにため息を吐いて椅子に腰を下ろしていた。

 

 

「セクハラ。委員の私物化……。

それさえなければ、彼は人としてはそこそこ優秀なのにね」

 

 

 

 駒王学園唯一の風紀委員会にて委員長を勤める彼のこれまで起こした数々のしょうもない問題に対してそろそろ委員を解体してしまおうかとすら考えてしまう。

 けれどそれが出来れば今頃自分は此処でため息を吐いてなんかいない。

 一人しか居ない委員会は解体しても然して問題は無いし、多数の生徒からは現に解体してくれとの声が沢山ある。

 しかしそれが出来ない。

 その理由は他でもないあの兵藤一誠という少年が、何だかんだで風紀委員としての責任は一定に果たしてはいるからなのと、もう1つの理由があるからだ。

 

 

「いっそ彼が風紀委員などに加入してなければ良かったのですがね……」

 

 

 そうなれば、単なるお騒がせキャラとして放置できたのもを……何故先代の風紀委員長は彼を加入させたのか。

 人間の学校の生徒会長とはいえ、責任感のある彼女は一誠という目の上――いや下のたんこぶとなる彼に辟易した気分にもなる。

 

 

「会長、お疲れです」

 

 

 そんなソーナの気持ちを近くで見て察したのか、それまで定例会議の時でも黙って参加していた生徒会役員の一人である少年が話し掛ける。

 

「やっぱり、兵藤の奴は言って聞くようなタマでは無かったですね」

 

「……。今回も上部だけの謝罪で逃げましたからね……。

近隣住民からの声さえ無ければ解体するべきなのは分かってますが……」

 

 

 一誠と同学年であり、今代唯一の男子役員である少年――匙元士郎は、会長であり、そしてリアスと同じ純血悪魔の主でもあり、想い人でもあるソーナを、単なる仕事が出来るだけの問題児である一誠が手を煩わせている事に対して密かに怒りながらソーナを心配そうに眺める。

 元士郎自身、役員としても眷属としても下っぱクラスであり、本来ならソーナの近くに居るのは女王であり副会長である少女の役割なのだが、ソーナ自身が元士郎に『経験は大事よ』と、側に置いて貰っている。

 故に、ソーナの悩みの種になっている一誠は寧ろ嫌いだった。

 

 

「でも所詮は部外者の人間達から支持されてるだけで、学園内での支持は皆無でしょう?

だったらいっそ、『迷惑になりすぎた』と言って委員から下ろした方が良いかもしれませんよ?」

 

「……。それが良いかもね」

 

 

 何よりもソーナがそんな迷惑人間一人に一々構ってる必要なんてない訳で、元士郎のこの提案に彼女も少しは考え始める。

 ソーナの負担を軽減させるつもりで提案した元士郎も一誠の女子に対するセクハラ行動には常々怒りを感じていたのだ。

 

 

「副会長はどう思います?」

 

 

 それは生徒会役員全員の気持ちでもあり、中でも副会長である真羅椿姫の様なタイプからすれば兵藤一誠の人間性は一番に嫌うタイプだ。

 現に今だって、話さず静かにソーナの傍らに居る椿姫が同じく怒りの表情を浮かべていると、元士郎は同意を求める様に座るソーナの1歩後ろへ控える椿姫に視線を向けるが……。

 

 

「……………」

 

 

 反応が無い。

 長い黒髪と水色縁の眼鏡を掛けた知的美人という言葉がよく似合う少女、真羅椿姫は、元士郎の言葉に反応せず無表情のままその場に立っていた。

 

 

「……。副会長?」

 

「椿姫、どうかしたの?」

 

 

 当然、一誠のような不真面目生徒を嫌うタイプである椿姫のこの無反応さに元士郎とソーナは怪訝に思って椿姫の顔を覗き込む。

 するとそこに来て漸く『ハッ』とした表情を見せた椿姫は、慌ててソーナと元士郎に謝る。

 

 

「ぁ……す、すみません。

ちょっとボーッとしてました……」

 

「珍しいっすね、副会長が……」

 

「疲れてるのかしら?」

 

「い、いえそんなことは……」

 

 

 真面目で優等生な副会長であると全生徒から信頼されている椿姫にしては無防備だった姿に元士郎もソーナも首を傾げる。

 まあ、椿姫だって機械じゃないのだし、ボーッとすることもあるだろうと二人はすぐに納得して目を泳がせている彼女に深くは追求しなかった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 二人が視線を切ったその瞬間椿姫が見せた、『後ろめたい事がある表情』に気付けず……。

 

 

 

 

 

 いっそ気のせいだと思いたかった。

 いっそ違ければ良かったとすら思った。

 けれどこれが現実、これが真実なのだ。

 

 

「さて、私達も戻りましょう」

 

「はい会長!」

 

「………」

 

「? 椿姫?」

 

「……っ!? は、はい!」

 

 

 そうだ、彼はどうしようもない問題児だ。

 風紀委員という責任のある立場にありながら、好き勝手に振る舞う。

 私が最も嫌うタイプの人間であり、我等生徒会のメンバー達もその身勝手な態度の彼を嫌っている。

 私だってそうだ、女子生徒に鼻を伸ばして追いかけ回すようなハレンチな男など、下劣極まりない………。

 

 そう、ない筈なのだ。

 

 

『へーキミ迷子なんだ。

家はどこに……って、ごめん。実は俺も迷子だったり……』

 

『よーし、ここは俺も一緒に探してやるぜ! 可愛い子ちゃんには無償の親切が最近のモットーなんでね、へへん』

 

 

 昔の記憶にありハッキリと覚えている、あの男の子との思い出さえなければ私は絶対に嫌っていた。確実に嫌っていた。ハレンチだと罵っていた。

 

 

『え、真羅……椿姫……? んー……?』

 

 

 この反応さえ、最初の定例会議時の自己紹介の際、私の名前に僅ながら反応を見せ、マジマジと見て首を傾げさえしなければ私は――

 

 

『え、お礼してくれるの?

じゃあさ、覚えてたらで良いから、何時か大きくなったら俺とデート一回してよ。

そうすれば俺は嬉しい! それじゃあね!!』

 

 

 この思い出も……思い出のままで大切に出来たのに。

 

 

「兵藤一誠……」

 

 

 どうして貴方が貴方なのか。

 どうして今になって再会してしまったのだ。

 どうして……どうして――

 

 

「や、やめてくれぇ~!

こんな人の多いところで処刑なんて勘弁して――」

 

「それを言って私が止めた事が? ふふふ、浮気は許さないと言った筈よ一誠くん」

 

「いぎぃ!? 俺の腕はそんな逆に曲がらないぃぃ~!?!?」

 

 

 

「またやってますよ、兵藤のやつ。

聞けば姫島朱乃は幼馴染みらしいですよ」

 

「言った側から、困った人ですね彼も」

 

「………」

 

 

 そんなに親しい女性(ヒト)がいるの?

 私は聞いていない……いや、この学園にアナタが入学して、風紀委員長になってから始まったあの定例会議の時に再会してから一言も会話すらしていない。

 学園中の女子生徒にちょっかいをかけながら、何故私にはそれをしないの?

 私がアナタの好みじゃないからなの?

 

 

「デートしてくれるんじゃなかったの……? ウソツキ…」

 

 

 どうしても胸が痛い……。

 昔の小さな記憶での小さな話だけだというのに、私の胸の中は何かに引き裂かれたように痛い。

 

 

「え、副会長?」

 

「最近の椿姫はやはりどこか変ね……。

確か、彼が風紀委員長になってからが特に」

 

 

 …………。

 

 

 

 浮気て……。

 オイラねーちゃんの亭主じゃねーちゅーねん。

 それなのに、ちょっとおんにゃのこにお触りしようとするだけで、手首をへし折ろうとしおってからに。

 幼馴染みながら朱璃さんに似た美人ちゃんになってるのは全面的に認めるけどよぉ、割りに合わなすぎるぜ。

 ここ最近はひた隠しにしてきた俺の努力を粉砕する勢いで、他の人達の前で接触してくるし……。

 お陰でその度に男女問わずの敵意の視線がバリバリだし……もう。

 

 

「部活が終わるまでって、夜になっても此処に居なきゃなんねーのかよ……あぁ」

 

 

 浮気じゃないと散々言ってるのに聞きやしない処か、『一人にさせると不安だからだから、今日は一緒に帰りましょう。だから部活が終わるまで帰らないで』――なんて釘まで刺した朱乃ねーちゃんに当然逆らえる訳もない。

 おかげで俺の予定が大幅に狂い、さっさと帰っておっぱいバカンスDVDでも視聴して、心に癒しを与えようとした計画も、何もかもおしまいだぁ……状態で、完全下校時刻すら過ぎて暗くなり始めた校内を無駄に徘徊していた。

 部活をやってた他の生徒達ですら既に帰り、校舎の電気は職員室と生徒会長……そして旧校舎の一室以外は全て消えている。

 

 

「終わるまで帰らず、ただ待ってろなんて言われて怒る気になれないのは、やはり甘ちゃんだからかなのかな……。

独り言も多くなってるくらい暇なのにな」

 

 

 こんな事まで言われても尚、俺は不思議と朱乃ねーちゃんを嫌うとか怒るとないう気になれない……いやならない。

 例え電気が消え、非常口を示す看板の緑色の光だけが小さく照らし、かえって不気味に思えてならない廊下内をボソボソと独り言を呟いてフラフラ歩かされる羽目になろうとも、そうさせてきた朱乃ねーちゃんに対しての怒りや不信感は全く沸いてこない。

 理由は簡単だ……シンプルにねーちゃんが大事だからだ。

 

 他に理由なんて無い。

 どうでも良い他人じゃないから、今だそのレベルにも達せてないのに無責任な約束をしてしまった相手だから……まあ、色々とあるのよ。

 複雑な気持ちとやらがね。

 

 

「しょうがない。

ここは一度はやってみたかった、『廊下の真ん中で腹筋・腕立て・背筋』を……」

 

 

 好きか嫌いかを問われれば、間違いなく好きと答えるよ。

 だけどそれは、朱乃ねーちゃんが駄々をこねながら常に俺に対して言う好きとは違う。

 大切だから、2度とあの時の様に失いたく無いから、おかしくなった周りから逃げ出した俺を、兵藤一誠として認めてくれたから。

 だから2度と失わないために、何よりあの時ねーちゃんの中に残ってしまったトラウマを少しでも無くす為に、俺は『負け犬』や『神の加護が一切無い』という運命すらぶち壊して守ると決めた。

 

 その為には、ねーちゃんが生き延びる為に俺の命が消えるなら喜んで代わりに死んでやるくらいの覚悟がある。

 つまり、なんだ……愛だ恋だの感情じゃない。

 ただただ、自分の自己満足でねーちゃんを縛り付けてしまった最低野郎なんだよ俺は。

 

 

「201、202、203、204……!」

 

 

 この筋トレだってそうだ。

 ただ2度と失わなわず、守り通すという俺の自己満足の為にやってるだけ。

 本来ならねーちゃんだって、俺なんかが余計な事を言わなければ普通――――とまではいかないかもしれないけど、グレモリー先輩の女王としての力を遺憾なく発揮し、俺が嫌いになりそうなイケメンか何かと普通に恋して……って人生を歩む筈だったんだ。

 それを俺が、自分の満足感を満たすために余計な事を言ったせいで、俺なんかに執着させてしまった。

 だから俺にねーちゃんを貰うなんて資格なんてない……いや、そもそもあのバラキエルのおっさんが烈火の如く反対するだろうしね。

 

 

「499……500っと」

 

 

 いっそのこと『2度とその顔を見せないで』とでも言ってくれたら朱乃ねーちゃん自身の為になるんだけどなぁ。

 けど1度たりとも言ってこないんだよなぁ。

 つーか、好かれる要素も無いと思うんだけどね……こんな、真っ暗な廊下のど真ん中で発作的に筋トレしてるバカなのによ。

 多分クラスメートのおんにゃのこだったら『気色悪い!!』と罵倒してくれる筈なのによー……。

 

 

「まだまだ約束果たせるだけの強さは俺には無いみたいだぜ……ねーちゃん」

 

 

 何やかんやで、腹筋・腕立て・背筋500回のセットを廊下のど真ん中でやりきるという、ある意味勇者的行為を終えた俺は、柄にも無くモヤモヤした気分で携帯の画面を確認する。

 

 

「終わったよ……か。オーケー朱乃ねーちゃん、今すぐ行くぜ」

 

 

 ただシンプルなメールの文面を寄越してきた相手に、ちょっとセンチな気持ちで『yes』とだけ返信した俺は、汗ばむといけないからと予め脱いでほっぽってた制服の上着から携帯用のボディシートを取って身体拭く。

 

 あ、言ってなかったけど、突発的な衝動で始めたこの筋トレの最中の俺は上半身裸だったよ?

 だって汗かいてYシャツとかがベトベトしたら嫌じゃん? どうせ完全下校時刻も過ぎて夜の20時過ぎで、だーれも居ないし、見られる訳でもないしな。

 

 

「っと、スッキリ爽快したところで行きますか……!」

 

 

 清拭も終え、リフレッシュした俺は待ってるだろうねーちゃんが居る旧校舎を目指し、モヤモヤした気持ちが何時か無くなれば良いなと思いながら……いや、無理矢理忘れて歩くのであった……。

 

 

 

 

 姫島朱乃。

 リアス・グレモリーの右腕にて女王(クイーン)の駒を持つこの少女は、一般生徒達から憧れの的であった。

 主にそのおっとりした雰囲気とぐうの音すら出せない美貌から、(キング)であるリアスと並んで学園二大お姉さまと呼ばれ居る。

 

 しかしそれは表向きの顔であり、彼等は知らない。

 姫島朱乃の本来の顔を……いや、それも朱乃が心から自分をさらけ出す者達を前にしか見せないその姿を。

 

 

「~♪」

 

「連中に見られでもしたら確実に投石されるなこれ……」

 

 

 悪魔としての業務をカモフラージュする為の部活動が、本日は特に人間からの契約願いも無かったので早め終わった朱乃は機嫌が良かった。

 理由は簡単、電灯に照らされながら彼女の隣を歩く人間の少年の存在がそうさせていた。

 

 

「ただ帰るってだけなのに、ヤケに機嫌が良いな?」

 

「一誠くんと帰れるだもん♪」

 

 

 母親と同じく、最も親しく、最も大好きな少年・一誠が側に居るから……それが朱乃の機嫌を現在進行で急上昇させる理由であった。

 普段の彼女しか知らない者からすれば仰天ものの子供口調と笑顔を浮かべ、何とも言えない複雑な笑みを浮かべる一誠の腕に自分の腕と手を絡ませて密着しながら帰路に着く――いや、理由なんて何でも良い……ただ一誠に甘えられれば朱乃にとっては理由等何でもよかった。

 

 

「一誠くん……一誠くん……うふふ♪」

 

「……。この状態のねーちゃんを見ても、他の連中は偽物と思うだろうな……」

 

 

 おっとりしたキャラも、お姉様と言われる雰囲気も全く無しの、ただただ無垢な少女のように明るい笑顔と口調ですりすりと一誠肩に顔を寄せる朱乃。

 確かに一誠の言う通り、こっちが素だと言っても誰も信じないだろう反転っぷりだ。

 

 

「大丈夫だよ、本当の姿は一誠くんとお母さんにしか見せないから」

 

「……。てことはグレモリー先輩達も知らんのか……」

 

 

 姫島朱乃。

 かつて父である堕天使・バラキエルが不在だった際に襲われ、母親共々一度は死んでしまった身。

 しかしその運命は、彼女の隣で好きにさせている一誠の持つ『全ての現実を否定して書き換えるマイナス』によって螺子曲げ(ネジマゲ)げられて生きている。

 故に朱乃は、後に一誠がボロボロになりながらも笑って口にした『絶対に強くなって守る』という言葉と合間って彼に惹かれた。

 それは間違いなく少女とっての明確な恋心であり、絶対に離したくないと思える程の強烈な依存でもあった。

 

 

「一誠くん」

 

「んー?」

 

「好き」

 

 

 日はとっくに沈み、三日月と星が照らす夜道を端から見れば恋人のように並んで歩く最中でも、朱乃は忘れずに想いを何度もぶつける。

 けれど一誠は表情を曇らせながら真っ直ぐ見つめるその目から顔を逸らす。

 

 

「んー……う、うーん……」

 

「む……そんな反応しちゃイヤ」

 

 

 端から見ればそれは間違いなのかもしれない。

 現に一誠は朱乃を『異性としての恋愛対象』とは違う気持ちであるし、朱乃自身も何度も聞かされてきた。

 

 しかしそれで諦めるには、余りにも彼女自身が一誠に対して依存しすぎている。

 故に『じゃあこれからもお友達として……』だなんて考えは無い。

 そう思えないのなら思って貰うまで。

 本当の意味で好きになってもらうまで。

 例え、今一誠が見せてる『返事に困ってる顔』をされようとも関係ない。

 

 

「一誠くんは私を幼馴染みとして大切だと思ってるのは、わかってるつもりよ?

でもね、それなら一誠くんが本当に好きになって貰うまで私は諦めない。

こうやって恋人みたいに並んで歩くし、キスだってする……いえ、それ以上の事だってする」

 

「……ぬ」

 

 

 どんなにスケベになろうとも。

 どんなに他の女性に鼻を伸ばそうとも。

 その程度で嫌うなんて事は、お仕置きはすれど決して無い。

 

 

「だから、大好きよ一誠くん……」

 

 

 それが幼い頃から抱き続ける、少女想いなのだから……。

 

 

「あはは、これも聞かれたら石どころかナイフでも飛んで来そうだな」

 

「むむ……またはぐらかした」

 

「いやほら、まだまだ俺も修行不足だからさ……」

 

 

 何時ものように逃げようとする一誠に、朱乃は頬を膨らませ抗議の視線を向け、一誠は気まずそうに明後日の方向を向く。

 資格が無いと逃げようとする少年と、そんなものは関係ないと追い掛ける少女の長い追い掛けっこは、まだまだ続きそうだ。

 

 

 そう……

 

 

 

 

 

「………………………………………。一誠」

 

 

「………………………………………。ウソツキ」

 

 

 色々とその追い掛けっこに障害が増えてしまうことになるとも知らずに。




補足

 石を投げつけてこい!
 崖から紐なしバンジーもしてやる!

それでも大まかな変化は彼女なんだよ!!


理由は簡単だ……お姉ちゃんをギリ含めてこれで固定の予定だからな! 多分ね!


……。ちなみに、彼自身は親しい人が姫島一家と師匠だけのままスクスクと育ったので、割りと覚えて――――るかは不明。
ただ、『何と無く』な理由でセクハラはしてません。


そして加筆した結果……。

う、うん 、約束をすっぽかすのはよくないよね! 最低だぜ一誠!


ちなみに凛さんは、朱乃さんが幸せそうに一誠をお持ち帰りする姿を涙目の指くわえで見ており、金髪イケメン君が他の女性には見せない目一杯の優しさで慰めてました。

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