風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

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かなり駆け足。

そして薄情。


薄情共との縁切り

 追加攻撃で黒焦げになった一誠。

 しかしながら、一言余計だからこその黒焦げなので、正直誰も同情はできないし、彼等にはまだやる事が残っていた。

 いや、寧ろやる事が向こうから自動的にやって来たといった方が正しいのか……。

 

 

「コカビエルを捕らえる為に来てみれば、何だこの有り様は」

 

 

 夜空に似つかわしくない程に輝く純白の鎧をその身に付けた何者かと……。

 

 

「な、何これ……?」

 

 

 家から一歩も出るなとリアスに命じられていた筈の凛、小猫、アーシアの三人が其々のタイミングで現れたのだ。

 

 

「普通に来ましたね……」

 

「え、えぇ……来ちゃってるわね」

 

 

 リアスは凛達の出現にどこか『ガッカリ』した表情を浮かべてしまう事を誰が責めようか。

 また一誠に何か余計な事を言って喧嘩になるくらいなら、家で大人しくして貰った方が精神衛生的にも良いというのに、何故終わった今来たのか。

 

 

「………」

 

 

 幸い一誠は、そんな彼女達には一瞥もくれずに上空から見下ろす暑苦しそうな謎の白鎧Xを見て、『チッ、帰ってエロ本見ようと思ったらまた横槍か』と思いっきり舌打ちをしてるだけで済んでいるが、声を出せば直ぐに喧嘩になるのでそれも何時まで持つのか分からない。

 

 

「凛、それから小猫にアーシア! 家に居ろと言った筈なのに何で来たの!?」

 

「だ、だって木場君が心配だったから……」

 

 

 だからこそ少し厳しい口調で彼女達を帰そうとするリアスなのだが……。

 

 

「祐斗先輩は――っ!?」

 

「木場さん!」

 

「な……!」

 

 

 あろうことか、そんなリアスの怒声を凛以外がガン無視しており、それどころか邪魔だとばかりにリアスの横を通り過ぎた小猫とアーシアが、傷こそある程度癒えてるものの気絶して横たわる木場祐斗を偶々その近くに居ただけのなじみを然り気無く睨みながら、かっさらう様に奪い取る。

 

 

「……。ぜ、全然聞いてない……」

 

「ちょっとこれは無いですよ……」

 

「小猫ちゃんにアーシアちゃん! 祐斗君は無事だからまずは部長に一言言うことがあるんじゃないの?」

 

 

 何時にも増して聞かない様子に朱乃もちょっと声を荒げる。

 だがしかし、朱乃の言葉も無視してるのか、小猫は何を思ったのか祐斗の近くに居たってだけのなじみに鋭い視線を向けながらこう言い出した。

 

 

「祐斗先輩に何を?」

 

「はい?」

 

 

 まさか自分に矛先を向けられるとは思って無かったのか、なじみも少しばかり目を丸くしたものの、それは一瞬の事であり、徐々にめんどくさそうな表情を浮かべる。

 

 

「僕は知らないよ。

その木場君とやらは、僕達が来た時には既に勝手にぶっ倒れてたんだ。

寧ろ治療してやったリアスちゃん達に感謝くらいしたら?」

 

 

 なじみに疑いの目を向ける二人に、なじみは軽くめんどくさそうに返す。

 一誠と常に一緒に行動しているからという理由なのだろうが、それにしたって無茶な因縁である。

 

 もっとも、今の一誠は上空から此方を見下ろす白鎧Xを見上げてるのに忙しいので相手にもしていないが。

 

 

「ぶ、部長……せ、聖剣は……?」

 

 なじみに因縁つけてると感じたリアスが慌てて咎めようと口を開きかけたその時だった。

 

 フリードにやられて気絶していた祐斗が、今頃になって意識を取り戻したのだ。

 そして周囲を見るや否や、リアスに向かって独断専行についての詫びもなく、聖剣はどうなったかについて聞き始めた。

 

 

「聖剣より前に部長に言うことがあるじゃなくて祐斗君?」

 

「そ、それは……! あ、後で謝りますけど、それよりも聖剣がどうなったか――」

 

「…………聖剣ならもうこの世に無いわよ祐斗」

 

「なっ!?」

 

「えっ……!?」

 

 

 朱乃の忠告を無視するそんな祐斗に対し、リアスは何とも言えない表情で聖剣が完全に破壊されて存在すらしていないことを告げる。

 

 

「そんな、嘘だ!」

 

 

 当然祐斗は驚愕に染まった表情を浮かべながら、ガタガタの身体を無理矢理起こしてリアスに詰め寄ろうとする。

 

 

「こ、この世からとはどういう意味ですか!? バルパー・ガリレイは!? コカビエルは!?」

 

「…………そこで死んでるのがそうよ」

 

 

 何故か凛まで驚いてる訳だが、思わずといった具合にリアスの両肩を揺さぶりながら、必死の形相をする祐斗に、リアスはコカビエルと絶望の表情で息絶えてるバルパーの亡骸が転がっている箇所を顎で差す。

 

 

「なっ……!?」

 

「うっ!?」

 

「し、死んでる……二人とも……」

 

「ひぃ!?」

 

 

 絶望に染まったまま、下半身が無いまま……と、色々とショッキングな形相で死体となっている今回の事件の主犯格二人の死に様を前に、4人の表情が大きく歪む。

 

 

「はぐれ神父も向こうの方で死んでると思うけど……」

 

「だ、誰が殺ったんですか!? あのコカビエルを、それに聖剣が完全に破壊ってどういう事ですか!?」

 

「う……うぅん……」

 

「あ、あれ……生きてる……?」

 

 

 当然そんなリアスの微妙に冷めた言い方に納得できない祐斗が大きく取り乱しながら更に問い詰める。

 それと同時に然り気無くコカビエルに一撃でのされて気絶していた教会の使い……ゼノヴィアと紫藤イリナが意識を取り戻すのだが……。

 

 

「な、何だこれは!?」

 

「こ、コカビエル……それにバルパー・ガリレイ……!? う、うそ……死んでる?」

 

 

 目の前に広がるスプラッターに、祐斗と同じくらい取り乱し、聖剣は!? 聖剣はどこにあるんだ!? と大騒ぎだ。

 

 

「ソーナ、私ちょっとめんどくさくなってきた」

 

「ちゃんと説明してあげてください。命令無視して此処に来てしまった以上は仕方ないでしょう」

 

「何だと!? おい悪魔共、お前達がコカビエルを殺したのか?」

 

「そうなの凛ちゃん?」

 

「ち、違う、私達も今来た所で……えっと、リアス部長とソーナ先輩と……一誠達が……」

 

 

 ギャーギャーと今回の解決に一役買った5人を無視して勝手に騒ぎだすその他達。

 白鎧Xもこの状況に上空からどうしたら良いのかわからずにただ黙ってる訳だが、既に言彦という超存在と対峙して慣れてしまったのか、リアス達はその圧力を蚊とも思わずスルーしながら、こうなった経緯を簡単に説明してやるのだった。

 

 

「まず、コカビエルを倒したのは一誠君よ」

 

「なっ!? 兵藤さんの弟が……!?」

 

「本当ですか部長?」

 

「アナタ達は信じたくないみたいだけど、本当よ。

それと、聖剣はその時の戦いの事故で完全にこの世から消えたわ……破壊されてね」

 

「なっ!?」

 

「は、破壊!?」

 

 

 案の定、コカビエルを殺したのは一誠で、その戦闘の際に事故で破壊されたというリアスの説明に事情を知らない全員が絶句する。

 

 ちなみに……。

 

 

「喰らえぇ! 地獄の断頭台ーーっ!!!!!!」

 

「がはぁ!?」

 

 

 朱乃のお仕置きと、言彦が勝手に身体を乗っ取って好き勝手されてボロボロの身体だというのに、コカビエルを殺したという理由で軽く売られた喧嘩を買うかの如く、白鎧Xに向かって悪魔の将軍が得意とする必殺技を何の遠慮も無しに使って半殺しにしていた。

 

 

「アルティメット・スカーバスター!!」

 

「ごはぁ!?」

 

『ヴァ、ヴァーリィィィ!?!?』

 

 

 

 

 

 

「………あの様子を見れば嘘じゃないってアナタ達でもわかるでしょう? というか、何をしてるのよ一誠君は?」

 

「何でもコカビエル君を倒したのが本当にお前なのか? って白龍皇の少年に煽られたから、言彦に乗っ取られた鬱憤晴らしにぶちのめしてるんだって」

 

「はぁ、白龍皇……って、あれは白龍皇なんですか?」

 

「うん多分ね。詳しくはそこでビクビクしてる赤龍帝さんに聞けばわかるんじゃないかな?」

 

 

 言彦のせいかあの白いのが白龍皇だと言われても、割りと平然としているリアス、ソーナ、椿姫、朱乃。

 逆に祐斗達や教会組は驚いている様だが、さっきから派手なプロレス技の餌食になっているせいか、イマイチ信用できない様子だ。

 

 

「どうなんですか凛先輩?」

「う、うん……ドライグが間違いないって……でも……」

 

「その白龍皇が単なる転生悪魔の弟君にやられてるせいで嘘くさく見えるんだけど……」

 

 

 どこまでも一誠の実力を過小評価したがる面々に、リアス達はほとほと呆れてしまう。

 そんなに自信があるなら今すぐ戦ってみれば良い、手負いの状態だろうがまずアナタ達が負けるから……と。

 

 

「が、ぎ……が……」

 

「けっ、偉そうに上から目線でほざいた割りには根性のねぇ小僧だなぁ? おら、まだ俺のターンは終了してねーよ」

 

「が……が……!」

 

「そぉら!輪廻転生落とし(グリム・リーインカーネーション)ーー!!!」

 

『ぐわぁぁっ!?!?』

 

 

 ニヤニヤしながら、白龍皇らしい少年をズタズタにしてるのを見てもまだ分からないのであれば、もう只の馬鹿としか言いようが無いのだから。

 

 

 

 

 ………。やべぇ、俺言彦の馬鹿に乗っ取られる前から明らかに強くなってる。

 

 

「か、勘弁してくれ……あ、あれ……こ、コカビエルの遺体を回収して、赤龍帝に挨拶したら帰るから……」

 

「へ、じゃあとっととやれよ負け犬が」

 

 

 満身創痍な筈なのに、全身がめっちゃ痛い筈なのに……なじみに最近読ませて貰ってるこの世界じゃ売られてないらしい漫画の登場人物が繰り出す複雑な技が再現できる。

 悪魔になって感じていた身体の重さもなる前と同じくらいに戻っている。

 

 進化の異常性が俺を引き上げたと言えばそれまでかもしれないけど、それにしてもこんな短時間で次元の違うレベルアップをした事が無かったので、正直この銀髪をこうも意図も簡単にぶちのめせてる自分に内心かなり戸惑ってる。

 

 

「や、やぁ……キミが赤龍帝さんだな? お、俺は白龍皇のヴァーリ……」

 

「あ、あの……腕が変な方向に捩れてるけど……」

 

「だ、大丈夫さ……わ、わははは……と、ともかく俺達はライバルだ……いずれ殺し合うから精々強くなってくれよ?」

 

「あ、う、うん……あの――」

 

「話は終わりですか? ならさっさと帰ってください。

凛先輩に近いんですよアナタ」

 

「それにリンさんと殺し合わせるなんてさせません」

 

「もし無理強いするなら僕達が黙ってないからな」

 

 

 相変わらず変なものに庇われてるな、あの姉貴様は。

 今回も余計な真似しかしてないし、役にも立ってねぇし、グレモリー先輩の命令まで完全に無視しやがった。

 

 まさかとは思うが、なぁなぁで許されるとか思ってるのか? だとしたらゴミ以下だぜ奴等は。

 

 

「さて、コカビエルの事はあの白龍皇らしい彼に任せるとして、アナタ達に一つ言っておく事が――」

 

「待ってください。僕はまだ聖剣について納得が出来てません」

 

「……。言ってご覧なさい?」

 

 

 傷の舐め合いが好きなのか知らん。

 けどそれを許容するにはあまりにもやり過ぎた事すらまだ自覚できてないのか、聖剣が聖剣がと喧しい役立たず共。

 俺が……というか言彦がぶっ壊した事は一応納得してるみたいだが、例の教会の使いとやら共々俺をどういう訳か責める様な視線を向けてきやがる。

 

 

「あ? 何だ役立たず共。まさか俺が聖剣をぶち壊したのがそんなに気に食わねぇのか?

まあ、そこの教会とやらの使いがそう思うのはわかるが、悪魔のテメー等が納得できないってのは理解できねーな?」

 

「っ、僕はその聖剣に復讐したかったんだ……! それなのにキミが壊したせいで……!」

 

「はぁ? おいおい、何を言ってるのコレは? 勝手にぼろ雑巾になって転がってた癖によ?」

 

「っ!? この……!」

 

「やめなさい!!」

 

 

 聖剣に復讐。物に復讐したい理由なんざ知ったこっちゃ無いが、突っ立ってただけの言彦に自爆してへし折ったあのはぐれ神父とやらを恨めよな。お門違いも甚だしいわ。

 まあ、俺の言葉にイラついて剣を持ち出した所で、グレモリー先輩に一喝されて黙っちゃった訳だけど。

 

 

「本当にいい加減に……いえ、もう良いわ、今まで黙ってあげてたけど、もう今回で決心した。

アナタ達は私の器じゃ御せないって事をね」

 

「「「「!?」」」」」

 

 

 あーぁ……あのハンチクコゾー共と同じ道を辿っちゃって。ホント、姉貴様姉貴様で散々役立たずのままだったことをとっとと自覚してりゃあ良かったものを……。

 

 

「……。アナタ達ももう自分で生き方を選べる歳になった。だからもう……私に従う必要も無いわ」

 

「な、何を言ってるんですか部長!」

 

「ま、まさか私達を……!?」

 

「ええ、眷属から外す……いえ、転生悪魔から解放するわ」

 

 

 ほーらこうなった。俺しーらね。

 

 

「あ、やべ……さっきので足に全然力入らねぇ……」

 

「無茶するからよ。ほら、私で良かったら肩貸すわ」

 

「おう、サンキュー椿姫ちゃん」

 

 

 まあ、ほぼ自業自得だし、最近の話じゃ姉貴様を中心にグレモリー先輩相手に反抗的だったらしいし、義務教育とは違って辞めるのもある意味自由だから役立たず共にしてみればある意味御の字かもな。

 

 姉貴様が勝手に絶望顔してるのが意味解らないけど。

 

 

「あー……足に力が全然入らなーい(棒)」

 

「きゃ!? ちょ、ちょっと……! こ、こんな所で……んっ!」

 

「うぇへへへ、柔らかいのぉ! ぐぅへへへへ!」

 

 

 ま、あんな役立たず共なんかほっといて、俺はご褒美でも堪能しましょう。

 いやー……椿姫ちゃんめっちゃ良い匂いするわぁ……うへへへ。

 

 

「……………………」

 

 

 後ろから凄い殺気を感じるのは気のせい気のせい。

 

 

 

 

 

 

 その日、リアスに居た下僕は朱乃を残して除籍された。

 理由は単純に『リアスの手を離れて好き勝手が多すぎた』という、リアス自身の名が傷つきかねない理由だった。

 けれどリアスはそれでも4人を解雇した。

 

 

「しょうがないな、一誠はまだ無理だから今回は僕が手を貸してあげよう」

 

 

 安心院なじみの力により、転生悪魔から元の種族へと戻されるという形で。

 当然4人はそんなありえない力に絶望したかと思われた……しかし。

 

 

「……。行きましょうリン先輩」

 

「転生悪魔じゃなくても僕達は友達でいられる」

 

「リンさんが皆大好きですから……」

 

「…………」

 

 

 凛を除いて、あまりにも残りの三人が薄情だった。

 命を救われて転生させて貰ったにも拘わらず、安心院なじみの力で駒を取られて元の種族へと戻った三人は、寧ろリアスに捨てぜりふまで吐いた……。

 

 

「そんなに兵藤先輩が良いんだったら私達だってもう良いですよ」

 

「元部長をそこまでたらしこんだんだ、キミが責任を持つべきだね」

 

「……さようなら」

 

「…………」

 

 

 

 

「……」

 

「これは俺も流石にぶっ殺したいわコイツ等。なあ、ダメなの?」

 

「ええもう良いわ。は、ははは……私ってとんだピエロよね……あはははは」

 

 

 恩というのを完全に仇で返された。

 リアスもこれには心を折られそうになり、ヘナヘナと朱乃にもたれ掛かってしまったのは仕方無いのかもしれない。

 

 

「馬鹿だねあの子達。

敢えて悪魔の力は残してあるから、今後他の勢力にはぐれとして狙われるかもしれないのに」

 

 

 だからこそなじみは敢えて保険を打っていた訳だが、遠からず彼等が不幸に見舞われるという暗示なのは云うまでも無い。

 だがともかく、ソーナと同じく女王を除いた全ての眷属を失ったリアスはこの先どうなるのか……。

 

 

「今日も朱乃の家にお邪魔して良いかしら? 誰かと居ないと堪えられないから……」

 

「……ええ、勿論」

 

 

 今のかなり傷ついたリアスにすら、それは解らなかった。

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 オマケ・洗脳イッセーくん。

 

 

 朱乃に肩を貸されながら、フラフラと学園を後にしようとするリアスの背中を椿姫とソーナに肩を貸されながら見ていた一誠。

 最初は他人事の様に思っていたのだが、学園を出て全員して朱乃の実家へと歩いてる最中、あんまりにもしょんぼりしてるリアスを見ている内に……。

 

 

「そういや、悪魔の駒ってどんなのでしたっけ? 俺この前の時はヤケクソで転生したからよく見てなかったんだよねー……」

 

「あ、うん、見たいならあるわよ。

僧侶一個と女王以外の騎士と僧侶と戦車と兵士全部あるわ………」

 

 

 何となく一誠はリアスから女王以外の悪魔の駒全てを見せて貰う様に誘導し、リアスも『しょんぼリーアたん状態で持っていた駒を全部渡す。

 

 

「ギャスパー君がこの事を知ったらショックでしょうね……」

 

「ええ、何て説明したら良いのかしら……」

 

 

 僧侶が一個足りないというのが若干気がかりだったのだが、それを受け取った一誠は手の中でその駒達を適当に弄りながら暫く見つめていると、やがて何かを決心したのか、師である安心院なじみに向かってこう切り出した。

 

 

「なじみ、俺のマイナスを一度きり使える様にしてくれ」

 

「え?」

 

 

 幻実逃否の使用インターバルのキャンセルの懇願。

 その言葉にいち早く反応したのは、その中身を知る朱乃だった。

 

 

「一誠くん、アナタまさか――」

 

「何のことかな朱乃ねーちゃん? 俺はただマイナスの再利用を今だけしたくなっただけだぜ? な、何とかならないかなじみ?」

 

「弱体化のせいでインターバルが必要になったそれを短縮できるくらいなら出来ないこともないよ」

 

 

 朱乃の察した様な声に一誠がすかさずすっとぼけた顔をするのだが、誤魔化すにしてはお粗末すぎるせいなのか、なじみはやれやれとため息を吐いている。

 

 

「けど、よくもまぁそんな事を思い付くというか、お前ってホント肝心な所で甘いよねー?」

 

「うっせぇな。俺だってんなめんどうな事なんざゴメンだよ。

けど、あんなしょんぼりされたら、思うところはあるだろ……全くの無関係って訳じゃねーし」

 

 

 ふん、と恥ずかしそうに目を逸らす一誠に、ソーナやリアスは首を傾げるが、椿姫は何と無く察する事が出来たのか、逆に心配そうな顔だった。

 

 

「えっと、今やっと何と無くわかったのだけど、そんな真似して大丈夫なの? かなりどころか歴史上初じゃ……」

 

「何のことよ椿姫?」

 

「朱乃も分かった様な顔をしてるけど……」

 

「えーっと、まあ、見てればお分かりになるかと……」

 

 

 それが本当に罷り通れば、それこそある意味激レアな存在になるのだが、一誠はそんなものに興味は無く、単純に甘さから来る行為に他ならない。

 

 

「次の周期を短縮しただけだから、この次使えるまでの期間が延長されるよ? 良いんだね? それと二度は無いよ?」

 

「良いぜ全然、だったらマイナスに頼らずに俺が無敵になりゃあ良いんだからよ」

 

「あっそ……ホント、そういう所好きだぜ僕は。ほら……もう良いぜ?」

 

 

 椿姫とソーナに支えられたまま、なじみの手が一誠の胸元に触れられ、その瞬間一誠の身体の傷が綺麗さっぱり消え去る。

 

 

「え、傷が……?」

 

「そういえばマイナスがどうとかって―――え?」

 

 

 そして……

 

 

「The reality escape」

 

 

 リアスから受け取った悪魔の駒は、ソーナの時と同じく現実と夢を好きに入れ換えるスキルにより、一誠の中へと全て入り込んだ。

 

 

「は!?」

 

「あーぁ、本当にやりやがった」

 

「ちょ、リアスの駒が一誠の中に……」

 

「ええ、だから私はさっき歴史上初の試みだと言ったんですよ」

 

 

 女王と僧侶ひとつを除いた全ての駒が一誠の左胸の中へと吸い込まれていく。

 それがどういう意味なのかはリアスでもわかる事であり、全てを取り込み終えた一誠は……前よりも更に重くなったと感じる自身の身体を掌を通して確認し、自重気味に笑う。

 

 

「あーあ、折角言彦のバカから奪い返した時に感じた進化の感覚が全部無かった事にどころか、もっとレベルダウンしやがった……」

 

 

 それは暴挙に近い行動だった。

 何せ自分の進化した分を更に犠牲にし、無理矢理悪魔の駒を自分の中に宿したのだ。

 しかも、ソーナのに続いてリアスのという二重状態でであり、これこそ人間の時の方が遥かに強い癖に、自分で枷を付けたのと同じ事だった。

 

 

「ちぇ、これでどちらのパシリもしないとならんのかぁ……。

ま、仕方ねーか」

 

 

 しかし一誠は成立させた。

 夢と現実を作り替えるという卑怯とも言える裏技を使って、夢物語を現実に変換する事で……。

 

 

 兵藤一誠

 

 種族……転生悪魔

 

 備考・ソーナとリアスの駒を取り込んだ両陣営のパシリ化完了。

 

代償・言彦に乗っ取られてた分の成長リセットに更なる弱体化。

 

 

「まぁ、これで言彦のバカまで弱くなれりゃあ御の字だし良いかな」

 

「な、なんで……そんなこと……」

 

「だってしょうがねーじゃん、あんな糞薄情な役立たず共に好き勝手言われてしょんぼりしてるの見せられたら閃いちゃったんだから……。

はぁ……パシリのご褒美にパフパフしてくれるのとか考えといてくださいよ?」

 

 

 肩を貸してくれたソーナと椿姫にお礼を言いながら離れた一誠は、唖然としながら何故と聞いてきたリアスにグルグルと肩を回しながら軽口気味に返す。

 

 基本的に一誠という男は口も悪ければ、態度もデカい。

 オマケに暴力的だし致命的なまでにスケベだ。

 

 故に初見の時点で友達になろうと思う人物はほぼ皆無であり、そんなだから一誠に近しい人物は年上のじーさんばーさんやら、一回り年下のロリショタ……そして姫島一家くらいで同年代からは寧ろ毛嫌いされていた。

 

 だがしかし、関わりが深くなればなるほど……案外情にほだされやすいという一面があるので、既に知らない仲では無くなっていたリアスのあっさり裏切られて本気で傷付いていた姿を見た一誠は、ソーナの時と同じく気休め程度の元気付けをしたつもり……なのだ。

 

 

「あ……」

 

 

 とはいえそんな本音を言うほど一誠も素直では無いので、ヘラヘラとセクハラ発言をして誤魔化す訳だが、リアスからしてみればそんな建前なんてどうでも良かった。

 

 

「あ、ぅ……」

 

「あ、でもこの場合どうなるの? やっぱり貧乳さんとグレモリー先輩両方のパシリ?」

 

「いやパシリになんてしないというか、貧乳言うのやめてもらえます? 無い訳じゃないし……」

 

「え? なじみにも負けてんじゃんアンタ」

 

「う……! で、でもあるもん!」

 

「もんって……ぶふっ!! に、似合わねー口調すんなよ、笑っちまうぜ。なぁグレモリー先――」

 

 

 

 

「う、うぅ……」

 

「ぱ、い……? あ、あれ?」

 

 

 一誠から貰った妙ちくりんな優しさが、まるで優しいおじさんに優しくして貰ったギャンブル中毒者よろしくに、染みて涙がボロボロ流れてしまうのだから。

 

 

「え? え!? な、なに泣いてんすか?」

 

「あぅ……あぅぅ……!」

 

 

 そんなリアスに一誠はといえば、肝心な所を察せないが故にオロオロし始めると、見ていたなじみが茶化し出す。

 

 

「あーあ、リアスちゃん泣かした~ いけないんだ~」

 

「え、俺!? な、なんで!? やっぱりこのパターンじゃ駄目だったの!?」

 

「いや寧ろ逆というか……そこは察せ無いんですねアナタって」

 

「昔からそうですよ一誠くんは……」

 

「肝心な所で締まらないというか……」

 

「はぁ? 訳わかんねーな……」

 

 

 しらーっとした目で睨まれて尚困惑する辺りがバカと言われる由縁で、妙に納得できない気分にさせられた一誠は、取り敢えず泣いてるリアスを何とかしようと身ぶり手振りで動く。

 

 

「あれっすよ嘘だからね? パフパフしないで良いからね?」

 

「くすん……」

 

 

 

 

「ある意味あの連中の言って洗脳って奴かもしれないね。一誠って突拍子無く不意打ちしてくるしさぁ? だろ、経験者のソーナちゃん?」

 

「えっと……ま、まぁ確かに洗脳かも……」

 

「……。何でちょっと恥ずかしそうにしてるのですかソーナ様? 言っておきますけど一誠くんは渡しませんからね?」

 

「べ、別に私は……!」

 

「あぁ、確かに洗脳ですねこれは」

 

 

 

 

「ほ、ほら牛丼音頭とか踊るから泣くなって!?」

「くすん……くすん……」

 

 

以上、一誠くんの洗脳術。




補足

転生姉の事ばかりしか考えずにさっさと消えましたけど、ある意味こっから最悪の不幸に見舞われることは間違いない。
なんせ、庇護が完璧に消えて路頭にぶん投げられたのと同じだもの。

その2
この一誠くんはドラゴソボールより、なじみさんから貸し出されてる別世界の某肉漫画の方が好きらしい。

それこそ、技を完コピする程に。

特に某将軍様の九所封じは死ぬほど特訓中であり、最近は某傲慢火花……じゃなくてアロガント・スパークも特訓中らしい。

  ちなみに喰らえばどっちも死ねる。


その3

しょんぼリーチェ……じゃなくて、しょんぼリーアたんを見てたら物凄く居たたまれなくなったので、ほぼ反則技を使用して、自分が使う分を犠牲にした上で、リアスさんのパシリまで引き受けてしまった一誠くん。

ここら辺の甘さが現在の言彦には理解できる様で出来ないらしく、一誠も一誠で気恥ずかしいのでセクハラ言動で誤魔化そうとする。


まあ、これこそ洗脳じゃね?

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