風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

32 / 48
最高の依り代と予想外の復活。

しかし、一応『制約』はある。


今回は無駄に長いです





言彦イッセー

 やっとお目に掛かれた聖剣。

 妨害もあったけど、それでもやっと手にした聖剣。

 邪魔はあったけど、それでも再び七本全てを一体化させた時の輝きは、伝説と呼ばれるに相応しい力を放っていた。

 

 

「あ、あぁ……!」

 

 

 それがどうだ。七本全てを一体化させ、今まさにその力を悪魔のガキ共に見せつけてやれると思っていたというのに……。

 

 

「や、刃まで粉々に……! そんな馬鹿な!?」

 

 

 転生悪魔のガキ一人に……しかも何もせず只突っ立っていただけのガキに破壊された。

 

 

 何を言ってるのか自分でもよくわからないし、何も知らない他人に話せば信じられる話じゃないのかもしれない。

 しかし、現実は突然おぞましい変化を見せたただのガキ一人に聖剣は破壊された。

 

 しかも以前の様に折られたのでは無く……二度と修復すら叶わぬ……完全な破壊という形で。

 

 

「ふむ……この内から無限に沸き上がる力。

なるほどなるほど、げげげ……イッセーはやはり使い方を知らぬ様だ」

 

 

 そしてその化け物は……。

 

 

「どこまで俺を愚弄するつもりだ!! ちゃんと戦え!!」

 

 

 今、主犯の堕天使であるコカビエル相手にニヤニヤしながら対峙している。

 聖剣の事なぞ、欠片も考える事も無く。

 

 

「戦え? 儂は何時でも真面目が取り柄の存在なのに遊んでいるだなどとは失礼な蚊よ。

まぁ、よかろう……」

 

 

 一人称どころか外見まで変化した一誠とコカビエルの一対一の戦い。

 七本全てが一体化した聖剣を何もせず破壊したという光景を見たコカビエルが、危険を感じてほぼ一方的に戦えと叫んでいる様にしか見えないが、そんなコカビエルに一誠はやれやれと首を横に振りながらも漸く応じる姿勢を見せた。

 

 

「やはり先程のガキとは様子が違う……! 何者だ貴様は?」

 

 

 そんな一誠の外見と中身の明らかな違いに、コカビエルは重苦しい殺気を放ちながら問い掛ける。

 急に小僧の殺意が膨れ上がったかと思えば、鬼の様な角は生やすわ、一人称どころかしゃべり方まで変わるわで、色々と意味が分からない事になってる訳で……。

 

 コカビエルとしては単なる転生悪魔のガキが七本を束ねた聖剣を何もせずただへし折ったその力を警戒し、そして早い所殺すのがベストと判断している。

 

 しかし一誠は……いや一誠の肉体の主導権を得た獅子目言彦は、翼を広げて空を飛ぶコカビエルに視線を向けながら、ニヤニヤ嗤ってるだけで答えようともしない。

 

 いやそれどころか……。

 

 

「遊ばずに早く終わらせる。

そして終わらせる為にはやはり武器が必要。そこで――」

 

 

 羽織る長ランの懐のポケットを探り始めた言彦イッセー。

 ゴソゴソと何をしてるんだと、コカビエルもソーナ達も目を凝らすが、朱乃だけはその中で辛そうな眼差しを向けていた。

 

 

「げっげっげっ、イッセーも中々良い武器を携帯している」

 

「………」

 

 

 そんな中をマイペースに言彦イッセーはニヤニヤしたまま懐から一本のペンを取り出した。

 そう、ペン……字を書くのに必要なあのペン。

 正確には芯を入れることで長く愛用できるシャーペンなのだが、今はそんな事を説明しても無意味だろう。

 

 

「シャッキーン、聖剣なんぞ過去の異物より時代は未来だ。

ということで完成、持ってて良かった『シャーペン・ブレード』。

げげげげ、さぁ堕天使よ……どこからでも掛かってくるが良い」

 

 

 言彦イッセーは、そこら辺に売ってるシャーペンの先をコカビエルへ向け、まるで武器として使うと宣ったのだから。

 

 

「な、何をしてるの一誠は?」

 

「あれはシャーペンですね……しかもかなり安物の」

 

「あの朱乃? あれはどういった趣向なの?」

 

「…………」

 

 

 当たり前な話だが、そんな言彦イッセーの狂ってるとしか言い様の無い行動にソーナ、椿姫、リアスは一誠自身の無事も去ることながら、困惑も併用していた。

 しかし、朱乃だけはそんな言彦イッセーを睨むように鋭い視線を向けている。

 

 

「ガキが……!

俺をどこまでバカにするつもりだ……!?」

 

 

 勿論シャーペンの先を向けられて嗤われてるコカビエルにしてみれば、完全におちょくられているとしか思えない訳で……。

 怒りに顔を徐々に歪ませながら、更に殺意を剥き出しにして言彦イッセーに向かってそう言うのも正直仕方ないのかもしれない。

 

 しかし言彦イッセーは……。

 

 

「寧ろ武器を取る時点で油断してるつもりは無いのだがな。

それとも何だ、お前は儂の主人格であるイッセーが慕うバラキエルより強いとでも? 儂にはそうは見えんが?」

 

「っ……貴様ァ!」

 

 

 ふん、と嗤っていたその表情をつまらそうにしながら、バラキエルよりも劣ってるとコカビエルを逆に煽り返した。

 その瞬間、失望していた相手よりも劣ると断ぜられた事にコカビエルは切れた。

 

 

「ガキが、だったらそのまま死ねぃ!!!」

 

 

 最早何者かなんてどうでも良い。

 そこまでバカにするなら目にものみせてやる。

 仲間もろとも、いやこの地もろとも……塵一つ残さずに消してやる。

 

 極悪なまでに自身の中からひねり出した力を、月を背に空高く舞い上がったコカビエルは、解放するかの様に両手を大きく広げた。

 

 

「っ!?」

 

「ま、まずい!?」

 

「な、何て魔力……!」

 

「…………」

 

 

 その瞬間、コカビエルの周囲に数十、いや数百……否、数千にも近づく無数の光の槍が出現し、その切っ先が全て駒王学園全体へと向けられた。

 その光の槍は一つだけでも学園を吹き飛ばすに充分な力が込められている。

 

 そんなものが数千も降り注いだら学園がいや町全体が消滅するのは避けられない。

 

 

「わ、私たちだけで防げるか……!」

 

「やらないよりはマシよ!」

 

 

 直ぐ様ソーナとリアスは直ぐに互いに協力し、被害の余波を防ごうと学園全体に持てる力を全てひねり出した巨大な結界を展開させようと動き、椿姫は一つでもコカビエルの作り出した光の力を切り落とそうと刀を構えた。

 

 

「……。一誠くん……」

 

 

 ただ一人、そんな事は無いとばかりにイッセーを見つめる朱乃以外は……。

 

 

「後悔してから死ね!!」

 

「っ!? 待てコカビエル! ま、まだ私が……!」

 

 

 そしてコカビエルは、怒りに任せて作り上げた千にも届きうる無数の光の槍をイッセー……いや駒王学園全体に向かって撃ち放った。

 バルパーという老人が焦りながらコカビエルに懇願するが、もはやコカビエルは聞く耳すら持ってない。

 

 

「げっげっげっ……!」

 

 

 リアスとソーナが結界を、椿姫がイッセーの元へと飛び出す中、それでもただその場に突っ立っていたイッセーは、浴びるだけで消滅しかねない光を浴びながら、それでも嗤っていた。

 

 

 単に気が狂ってしまったから……? ノン。

 

 諦めたから……? 更々ノン。

 

 

 全て違う。言彦イッセーにとってすれば、数千ただろうが数万だろうが数京だろうが、同じこと……。

 

 

「どーん」

 

「………!?!?」

 

 

 皆同じ……蚊なのだ。

 持っていたシャーペンをただ真横に振るうだけで、その証明となる。

 

 

「!?」

 

 

 降り注いだ大量の光の槍。

 しかしその力は自分達に届く前に一つ残らず消滅してし、上空に居たコカビエルは目を見開きながら声すら出せないまま地へと堕ちる。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 イッセーを援護しようと飛び出した椿姫も、障壁を張ったリアスとソーナもただ驚愕するしか出来ない。

 

 

「が、がはぁ!?」

 

「ほほう、思いの外生命力だけはあるみたいだな……今の一撃で死なんとは新しい……」

 

 

 死を覚悟させる強大な力は一つ残らず消え失せ、残ったのは腰を真ん中に上半身と下半身を真っ二つにされた状態でイッセーの足元に落ちてきたコカビエルという……あまりにもあんまりな結果だけなのだから。

 

 

「き、さま……な、にを……ごふっ!?」

 

 

 一瞬だ。たった一瞬。

 瞬きすら許されない程のほんの一瞬の内に、街まるごと消滅させてやらんと撃ち放った力ごと、自分は上半身と下半身を真っ二つにされた。

 痛みも、苦しみも無く……ただ何かが自分を通りすぎたかの様に……。

 

 

「シャーペンとは便利なものよ。何せ芯を通せば何度でも再利用出来るし、削る必要もない。

こんな便利な筆なら斬れぬ物など無い……そうは思わんか?」

 

 

 げっげっげっ、と口から血の塊を吐き出しながら、上半身だけの姿となって地面に横たわるコカビエルに言彦イッセーは嗤って簡単な事よと話した。

 

 シャーペンこそ、聖剣すら越える最強の刀剣だと……大真面目に。

 

 

「……ば、ばけもの……が……」

 

 

 その言葉だけで最早コカビエルの心はへし折れた。

 二十年も生きちゃいない子供一人に伝説とまで吟われた聖剣を……そして自分を、そこら辺に売ってる文房具一つで破壊させられた。

 

 

「その言葉が似合う輩は、儂以上にこの世界には多い気がするのだがな」

 

「…………」

 

 

 最早コカビエルの命も風前の灯火であり、ゲラゲラと嗤いながら自分を見下す、化け物を前に……コカビエルの命は完全に尽きたのだった。

 

 

 

 ふむ、蚊は完全に絶命し、ついでにコソコソとしていた老人も蚊の攻撃の巻き添えで死んだ様だ……直ぐそこで絶望の表情を浮かべて息絶えておるわ。

 

 まあそんな事はどうでも良い。所詮この蚊共は儂が復活した際の余興に過ぎぬからな。

 

 

「さて……折角イッセーから肉体の主導権を奪えたのだ。後はイッセー自身の意識を封じればこの肉体は正真正銘儂のモノへと変わる訳だが……」

 

 

 問題はまず此処からだ。

 折角イッセーの殺意と憎しみが肥大化することで奪えた主導権だ。

 このままにして置くには再びイッセーに主導権を奪い返されては元も子も無い。

 閉じ込めたイッセーの精神を完全に消滅させれば、めでたくこの肉体は儂……獅子目言彦のモノへと変わるのだが、癪な話イッセーの意識を完全に消滅させる訳にはいかぬ。

 

 何故なら儂はイッセーであり、イッセーは儂なのだ。

 どちらかが消滅すれば己も消滅する。つまり一蓮托生。

 半袖の時の失態で一度は完全に消滅した儂がこうして存在出来るのも、イッセーという創造主が居るからに他ならぬのだから。

 

 

「「「「………」」」」

 

「ほう、儂を見て逃げ惑わんのか?」

 

 

 忌々しい話だが、イッセーが死ねば儂もまた消滅する。

 故にイッセーを死なせる訳にはいかん……。

 これまではイッセー自身の現実を否定して逃げるという力により死すら欺けていたが、この……悪魔という蚊の集まりの一人になってしまった今、その力を使うには一定の周期が必要。

 だからこそ、堕天使の蚊に弱体化したまま挑もうと無謀な真似をしたイッセーに代わって儂が出張った訳だが、どうやらイッセーの仲間とやらであるこの小娘共はそれが気にくわないらしい。

 

 

「一誠……では無いんですね?」

 

 

 眼鏡を掛けた……確か悪魔とやらになったイッセーの主という形にはなってる小娘が警戒した面持ちで儂に問い掛ける。

 

 

「流石に見ただけで解るか」

 

「………。姫島さんの説明でね」

 

 

 姫島……? ……なるほどなァ。

 

 

「ほう、姫島……姫島朱乃。イッセーが最も大事にしている小娘。

そういえばお前自身とはその昔、儂という意識が完全に形成された際に言葉を交わした事があったな」

 

「言彦……一誠くんをどうしたの……?」

 

 

 ふん、儂はイッセーとは違って助平では無いが、近くで見ると中々の女にはなったみたいだ。

 師を自称するあの女よりは好みとも云えよう。

 

 

「イッセーなら今儂と意識の主導権を交代し、眠っているが……気になるか? 当然気になるよなァ?」

 

「っ!?」

 

 

 儂の言葉に姫島朱乃の目付きが鋭くなる。

 

 

「一誠くんに身体を返して……!」

 

「返す? おいおい、勘違いするなよ朱乃よ。

儂は確かに獅子目言彦だが、反対に貴様の愛する兵藤一誠なのだぞ? 返すも何も無いだろう?」

 

「違う! アナタは一誠くんじゃない!!!」

 

 

 バチバチと静電気を身体から発しながら激昂する姫島朱乃。

 儂はイッセーとは違う、ね……。

 

 

「なら儂を消滅させてみるか? 良いぞ、今から儂は無抵抗になってやるから存分に殺してみろ。

ただし、もし儂が死んだら儂だけでは無くイッセーの自我も滅ぶ事を警告しておく」

 

「!?」

 

 

 無抵抗を示しながら、イッセーと儂の繋がりの深さを教えると、姫島朱乃の身体から迸る静電気が止まる。

 

 

「くっ……!」

 

「……。どうやら嘘では無いみたいですね」

 

 

 悔しそうに儂を睨む姫島朱乃を横目に、確か真羅椿姫だったかが刀剣の柄に手を添えながら警戒した声を出している。

 

 

「儂にとって忌々しい事だが、以前の時とは違って伝承で生き永らえてきた訳では無く、イッセーが自身の意識の一部を苗床に儂を無意識に創造したのでな。

イッセーの意識が消滅すれば儂も消滅するのさ」

 

「じゃあ都合よくアナタの意識だけを消す事も叶わない、と?」

 

「げげげ、貴様等はよほどイッセーを気に入ってるみたいだが、残念ながらそうなるな。

安心院なじみですら儂の意識だけを消滅させる事は出来なかったのだ。まあ、あの女ごときに儂をどうこうできとは初めから思っても無いが」

 

「あ、安心院さんですら何もできない……って……」

 

 

 儂が口にした安心院の名前に、赤髪の小娘が驚いた様に目を――む、こうして直接見ると中々いい身体を――――――ぬぅ!? イッセーの精神を苗床にしているせいで儂にも妙な影響が……!

 

 

「そういう事だ。現に安心院は今まで儂をほったらかしにしていたのが何よりの証拠よ。

げげげ、皮肉な事にあの女からの教えによりイッセーが儂を無意識に創造したのだから、奴にとっては悔しいことこの上無いだろうなァ?」

 

 

 赤髪の小娘を見て変な主観が入ったが、とにかくこの小娘には儂を消滅させる事なぞ不可能だと教えてやる。

 というか、今頃安心院も儂が出てきた事を感じ取ってさぞ焦ってる事だろうよ。

 

 

「なら一誠くんに意識を返してあげることはしないんですか?」

 

「げっげっげっ、折角こうして主導権を得たのに何故返す?」

 

 

 とはいえ、この小娘共はイッセー自身の意識を求めている様で、儂には引っ込んでいろという事らしい。

 まったく、儂はどこでも嫌われものよ。

 

 

「ショックを与えれば元に戻るかもしれない」

 

「ほう? 儂とやるのか?」

 

「そうしなければ一誠くんに戻らないのであれば、獅子目言彦だか何だか知らないけど、ひっぱたいて一誠くんをたたき起こす……!」

 

 

 鞘から刀剣を引き抜いた小娘が、切っ先を儂に向けながらそう強く宣言すると、他の小娘共も構え――む?

 

 

「僕も手伝うよ」

 

 

 全員が構えたその瞬間、小娘共に加勢するという声と共に、懐かしい顔が音もなく儂の前に現れた。

 

 

「やぁ言彦、一誠の意識をよくも奪ってくれたね。

今回はちょっとこの僕もイラっとしてるぜ?」

 

「あ、安心院さん……!?」

 

「母は……?」

 

「大丈夫。コカビエル君が殺られた今、朱璃ちゃんを狙う奴なんて居ないさ。

それより今は、イッセーから主導権を奪ったこの馬鹿をどうにかしないといけないだろ?」

 

 

 無駄に長い髪は相変わらずの安心院なじみ。

 げっげっげっ……!

 

 

「まだイッセーが幼子の頃以来か安心院なじみぃ? 相変わらず顔も姿も変わらん魔女みたいな女よ」

 

「それはお互い様だろ? 不知火さんとめだかちゃんと人吉くんの尽力でくたばったのに、イッセーの意識の中でまた生まれやがって。

あの時お前の話を一誠にしなけりゃ良かったと、心の底から後悔してるぜ」

 

 

 そう不敵に嗤う安心院なじみだが、内心動揺しているのが儂にはわかる。

 

 

「げげげ、不知火の里での時ですら儂に殺されたのに、今ここでオリジナルをも凌駕する一誠の肉体を依り代にする儂を止められるとでも? げげげげ!!」

 

 

 この女は儂に少なくとも1億回は負けている。

 儂があの時消滅したのも、黒神めだかと半袖の中に宿っていた予想外の感情が原因であってこの女はあくまで切っ掛けのひとつに過ぎん。

 

 

「どうかな、お前はあの時何も無いのに戦える僕を思い出してかなり狼狽えていた様だが?」

 

「……」

 

 

 だが安心院なじみは取って付けた様に儂を挑発してきた。

 

 

「なるほど、だから前の時の様にはいかんと? げげげ―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いだろう……やってみろ」

 

 

 

 よかろう、だったら思い出させてやる。

 あの時敗北したのは認めてやる……だがな。

 

 

「儂がイッセーと同じ進化を遂げて居ないと思ったら大間違いだぞ? げげげげー!!!」

 

 

 それはもう、昔の事だよ。

 

 

 

 

 

「儂がイッセーと同じく進化を遂げて居ないと思ったら大間違いだぞ? げげげげー!!!」

 

 

 獅子目言彦としての人格がメインとなった一誠が、高らかに嗤うと同時にその荒れ狂う暴力的な殺意を剥き出しにする。

 その威圧感はコカビエルの時等とは比べ物にすらならない程の、世紀末のモヒカン共を思わせる傍若無人なものであり、真正面から受けた朱乃、椿姫、リアス、ソーナはその一瞬のみで力の差を悟った。

 

 

「チッ、一誠の特性を学習してたのは予測してたが、確かに前よりやべーな」

 

 

 それは安心院なじみですら、京を越えて一誠により無意識に与えられた可能性による進化を以てしてもヤバイと悟らせるものであった。

 

 

「な、何よ……これ……あ、悪魔だとか堕天使だとかの次元じゃない……!」

 

「こ、こんな力が……うぅ、私ってやっぱり一誠の主なんて器じゃなかったのね……」

 

「弱気にならないでください会長! これからその器に足りれば良いのです!」

 

「こればかりは真羅さんに同意ですわ。

だから、絶対に一誠くんを取り戻すんです!」

 

 

「……なに?」

 

 

 だが誰一人として言彦の威圧に屈する事無く、逆にこれ程の差を悟らせても尚、一誠の人格に戻すと意気込む4人の小娘に言彦の眉が僅かに潜む。

 

 

「どういう事だ? 朱乃や真羅椿姫はともかく、あの純粋悪魔の小娘が一誠にそこまでする義理なぞまだ無かった筈だが……」

 

「それがわからないから、お前はその程度なんだよ。

オリジナルのお前なら分かってた筈なのに、皮肉なもんだ」

 

 

 解せない表情の言彦に、スキルを総動員させた状態で指先を言彦に向けたなじみが、一誠との違いを指摘しながら重火器系統のスキル約1000万程を叩きつける。

 

 

「ふん!」

 

 

 だが流石はなじみに1億回土を付けた英雄。

 常人どころか神ですら致命傷は避けられない膨大な数のスキルの連打を前に、それがどうしたとばかりに蚊を払うかの如く軽く手を振るだけで、全てを無に帰す。

 

 

「同じパターンとは芸が無いな安心院ゥ!」

 

「っ!?」

 

 

 鉱物を連想させる鋭い拳が、破壊したスキルの残骸を縫って肉薄し、なじみの顔面目掛けて容赦無く振るわれる……。

 しかし……。

 

 

「と、思うのかい?」

 

「ぬう!?」

 

 

 その拳はなじみの目と鼻の先でピタリと停止し、言彦が若干驚いた声を発した。

 

 

「これは、いつぞやの電気マッサージ……!?」

 

 

 全身を流れる痺れ。それが言彦イッセーの動きを一瞬のみだが停止させた原因であり、なじみは直ぐ様後ろへと飛び退きながら刀剣系のスキル1500万発程叩きつける。

 

 

「ぬぅ……」

 

「ぜ、全然効いてない……!?」

 

「あ、朱乃の全力の雷撃も、安心院さんのスキルも……!?」

 

 

 しかしそれでも言彦イッセーの身にはカスリ傷すら付いておらず、寧ろ首をゴキゴキ鳴らしながら余裕の表情だ。

 

 

「ふん、そういえば朱乃は電撃が得意だったな。

何時もイッセーの仕置きに使うもんだから、慣れすぎて忘れていた程だ。良いマッサージを感謝するぞ?」

 

「一誠くんじゃないアナタに気安く名前なんて……!」

 

「落ち着けよ朱乃ちゃん。忌々しいかもしれないが、今は一誠の意識を引きずり出すことが先決だ」

 

 

 名前呼びに怒る朱乃の肩に触れて落ち着かせるなじみ。

 それと同時に椿姫が刀を抜き、言彦に向かって斬りかかる。

 

 

「やぁぁっ!!」

 

「ぬ!?」

 

 

 本来なら言彦にすれば避けるまでも無い残撃なのだが、椿姫の持つ『過程をキャンセルして結果だけを残す』というスキルにより斬ったという結果が言彦の肩を僅かに斬った。

 

 

「くっ、全力でもこの程度……!」

 

「少しチクりとしたが、手品の種は既にイッセーの中から見ていた!」

 

「うっ!?」

 

「椿姫が! リアス!」

 

「わかってるわ!!」

 

 

 よろめく事すら無く、逆に嗤いながら椿姫へと手を伸ばそうとする言彦に向かって、すかさずリアスとソーナが滅びと水流の魔力を全力で叩きつける。

 

 皮肉か、火事場のバカ力とでも云うべきか、この時二人から捻り出された魔力は最上級――いや魔王クラスにまで高まっていたりするのだが……。

 

 

「悪魔の力を直接受けるのは初めてだ、げげげ! 新しいィ!」

 

「う、うそ……?」

 

「ぜ、全然効いてない……」

 

 

 相手が相手故に、無意味な結果だった。

 滅びの魔力だろうが、水流の魔力だろうが滅ぼす事も傷付ける事も叶わない言彦の強靭な防御力は、既に進化という概念すら超越していた。

 

 しかし二人の魔力をわざわざ真正面から受けたがる事で椿姫に対しての意識だけは逸らせる事が出来たのはまごう事なき二人のファインプレーだ。

 

 

 

「た、助かりました会長、リアス様」

 

「え、ええ……」

 

「全然役に立ってない気がしますけど……あははは」

 

 

 礼を言う椿姫に対し、二人は自身喪失気味に笑うしか出来ず、あの暴力的な規格外の意識を本当に退けられるのかとすら思い始める。

 自分達にスキルが無いのも自身喪失の一端だったりもするのだが、椿姫も朱乃もなじみも全然諦めてる様子が無い今、自分達だけ折れる訳にはいかない。

 

 

「やるだけやってやるわよ……」

 

「ええ、最悪無理心中よ……!」

 

 

 例え場違いを感じるほどの力を前にしても、恩人であるスケベな少年の為に……悪魔の二人は覚悟を決める。

 

 

「げげげ、ではそろそろ儂からも行かせて貰おうか……!」

 

 

 だがそんな覚悟を前に、無駄な事だと云わんばかりに極悪な圧力をむき出しにする言彦が、遂に自分から攻撃に転ずると宣言すると、足場に偶々落ちていた小枝……それも枯れて中身がスカスカの直ぐにでも朽ちそうな枝を拾い、コカビエルの時を思わせる構えを取り始める。

 

 

「貴様等らしくネームを付けるとするなら、魔剣・小枝ソードとでも名付けるか?」

 

「相変わらずムカつくな言彦。だから僕はお前が嫌いなんだよ」

 

「一誠くんの身体で……!」

 

 

 それはある意味死刑宣告に近いものがあった。

 ありふれた物を武器とする事が出来る獅子目言彦の真骨頂の一つ。

 どんなものでも殺人級の威力を放てる異常さ。

 

 枯れ枝でしかないものですら、5人の少女――いや、一人はアレかもしれかないが、とにかく5人を真っ二つにするには充分すぎる得物。

 

 

「今から僕が盾になるから朱乃ちゃん達は一誠の意識を少しでも起こしてくれ」

 

「ど、どうやってそんな事……!」

 

 

 故になじみは覚悟を決め、囮になる事を4人に伝え、その隙に言彦に主導権を奪われた一誠の意識を一瞬でも良いから叩き起こせと頼む。

 

 だがそんな方法を知るわけも無い4人は当然なじみに聞き返す訳だが、なじみはフッとそんな4人に笑み浮かべてこう言った。

 

 

「悔しい事に僕じゃあ一誠を起こせない。けど君達なら――特に朱乃ちゃんならそれが出来る。

ちょっと悔しいから言いたくは無かったが、一誠にとって一番大事なのは朱乃ちゃんだからな」

 

「! 私が……?」

 

「ったく、それなのにキミはちょっと他の女の子に鼻を伸ばすだけで騒ぐもんだから、ちょっと嫌いなんだぜ実は?」

 

「…………」

 

 

 叩き起こせる可能性は自分より4人……特に朱乃にあると。

 散々自分から一誠を取って楽しくしていたなじみにそう告げられた朱乃は、自分でもわかる位に困惑の表情を浮かべたが、やがては真剣な表情へと変わり……小さく頷く。

 

 

「………。盾になるくらいなら全員で突撃しましょう」

 

「は?」

 

 

 そして、なじみに盾になるのはやめろ……なんて言い出した。

 これにはなじみもきょとんとしてしまう。

 

 

「アナタが盾になったお陰で一誠くんが起きても、それを知ったらアナタにばっかり構いそうなのが嫌なんですよ」

 

「…………」

 

 

 不敵に笑う朱乃が、冗談混じりにそう口にする。

 

 

「げげげ、コソコソするのを見逃すサービスはこれまでだ!!!」

 

 

 それを受けて何かを言おうと口を開き掛けたなじみだが、空気を読まずに襲い掛かってきた言彦のせいで中断させられてしまい、五人は慌てて散らばる様にその場から跳ぶ。

 

 

「まずは安心院、貴様からだ!!」

 

 

 それを目にした言彦は、これでもかと嗤い……なじみへとターゲットを絞り、地を抉る勢いを付けた跳躍で肉薄する。

 

 

「させないっ!!」

 

 

 しかしそうはさせるかとリアスが火事場状態で限界以上に捻り出した滅びの魔力を言彦めがけてぶつける。

 

 

「げげげ! もうそれは慣れ――ぐぅ!?」

 

 

 しかし効かない。全く効いてない。

 だがリアスとてそんなことは百も承知であり、強者が故の意識の散漫さを突いてなじみから意識を逸らせる事が出来ただけでも大いに意味のあるものだった。

 

 

「斬る!」

 

 

 その隙を突き、椿姫が渾身の一撃を言彦の身体に叩き込む。

 斬ったという結果が残るという力は、いくら言彦でも抗えず、肩から血を流すが……。

 

 

「げげげげ!!! こそばゆいぞ!!」

 

「くっ!」

 

 

 黒く濁る瞳をカッと見開きながら、カスリ傷だと云わんばかりに大きく咆哮する。

 

 

「「はぁっ!!!」」

 

「ぐぉっ!?」

 

 

 だがそれで良い。

 規格外に今さらまともなダメージを与えられるだなどと椿姫も思っていない。

 ソーナと朱乃がそれぞれの特性を合体させて効力を底上げさせた雷撃を言彦に直撃させられればそれで良いのだから。

 

 

「ぐぬ、存外粘るな蚊なりに!」

 

 

 水の上に雷撃を直撃させられた言彦もこれには少しばかり身体をよろめかせる。

 しかしそれでも致命傷にはほど遠く、寧ろ粘る小娘達相手に楽しむという余裕すらあった。

 

 

 所で、先程から言彦が何故これほどまでにまともに攻撃を食らっているのか。

 彼という存在を知る者がもしも見ていたら、おかしいと首を傾げるだろう。

 

 避けるまでも無いと言われたら確かにそれまでだが、それにしても格下の小娘相手にいくらなんでも時間が掛かり過ぎに加えて、まだ一人も絶命させてすらいないという事を考察するに、獅子目言彦にしてはやけに時間が掛かっているという違和感は確かにあった。

 

 が、その答えは意外にも簡単な話だった。

 

 

(チッ、イッセーの奴め……もう起きたか……!)

 

 

 そう、その答えは主導権を奪われ精神の奥底に押し込められた一誠の人格が徐々にまた言彦から主導権を奪い返さんと暴れていたのだ。

 

 

「どうした言彦? お前らしくないな、僕達相手にまだ誰も倒せないなん―――っ!?」

 

 

 なじみの爆殺系スキル350をその身に直撃しても尚、ニヤニヤと嗤いながらそれだけで死ぬだろう鋭い蹴りを彼女の脇腹にめり込ませる。

 

 

「今、何か言ったかぁ? げっげっげっ!!」

 

「ぐっ!?」

 

「あ、安心院さん!」

 

 

 乱回転しながら校庭の隅っこまで人形の様に吹っ飛ぶなじみにニヤニヤとわざとらしく煽り返す言彦。

 しかし内心はかなり『焦っていた』。

 

 

(チッ、儂の力がイッセーに塗り替えられ始めてる。

痛いと感じるなぞ何千年振りだ……!)

 

 

 そう、イッセーと己の精神の主導権の取り合いが、一時は完全に自分が優位に奪っていたものが徐々に削り取られ、今の時点で既に半分近く一誠が主権を奪い返していた。

 

 故に言彦は何千年振りかに感じる明確な痛みを先程肩に受けた刀傷やらから強制的に感じさせられており、言彦主体の容姿であったその角や瞳も右から半分は一誠本来の容姿へと戻っている。

 

 

「ごほっごほっ!

ぼ、僕を殺せなかったな言彦? ふふ、既に顔の半分は一誠のものに戻ってるぜ?」

 

「!? た、確かに変な角も怖い目も顔の半分からは無くなって何時もの一誠くんのものになってる……」

 

「………」

 

 

 この時点でもはや言彦は主導権を得て復活した直後の時より1000億分の1にまで弱体化しており、現に殺すつもりで蹴り飛ばしたなじみは脇腹を押さえてフラフラになりながらも死んでは居らず、不敵な笑みまで浮かべていた。

 

 

「一誠を叩き起こす為にこの子達に攻撃させた。

特に女の子をナンパしてはお仕置きで受けた朱乃ちゃんの雷撃は良い目覚まし代わりになったみたいだぜ」

 

「私の……? ちょっと複雑なのですけど……」

 

「……。その通りだ、既に八割方儂はイッセーに主導権を奪われている。押さえ込んだと思ったが、やはり儂という存在を造り上げただけはある」

 

 

 ともなればなじみとて叩き潰せなくも無いし、言彦の中で目覚めたイッセー自身の妨害で上手く身体を動かせ無いのを考えれば、ここは一旦大人しく引くしか言彦には無かった。

 

 

「良いだろう、今日のところはここまでだ」

 

 

 そう5人に冷めた顔をしながら告げた言彦は最後に……。

 

 

「だが、儂はまた機会があれば主導権を奪って出てくる。その時は完全にイッセーの意識を押し込み、儂が唯一の存在となってやろう……げげげげ!!」

 

「………」

 

 

 静かに睨む5人の少女に向かって嘲笑いながら、目を閉じ……そのままイッセーに全ての主導権を明け渡した。

 

 

「……っ、お……」

 

 

 荒れ狂う威圧が一気に霧散し、顔から半分はまだあった角も濁った黒目も元に戻った瞬間、それまで何をしても倒れなかった一誠の身体が、痛みに苦しむくぐもった声と共に前のめりに倒れる。

 

 

「一誠くん!」

 

 

 それを見てすかさず朱乃が飛び出し、ピクピクしてる一誠を抱き起こす。

 

 

「大丈夫? 一誠くんよね?」

 

「……お、おう」

 

 

 所々先の雷撃で黒焦げ。椿姫から受けた刀傷。

 言彦の時はまるで効いてない様にしか見えなかった姿も、元の一誠の状態だと不思議と効いている様に見えるのは多分気のせいでは無い……てか、現にかなり苦しそうな顔なのにヘラヘラと笑って誤魔化そうとしてる。

 

 

「待った。

一応確認するけどお前の好きな女の子のタイプと趣味を言ってごらん?」

 

「へぁ? そ、そんなのボインで色気むちむちのおんにゃのこに決まってんだろ。

趣味は今も昔もおっぱいパフパフよ……ぐぇへへ……いででで……!」

 

「……。一誠くん本人ですよ間違いなく」

 

「ええ、このスケベな笑い方は間違いないわ」

 

 

 ともあれ、性癖の確認で確実に一誠本人だと確信出来た事で漸くイレギュラーな騒動は一応の収束へと向かっていった。

 

 

「あの脳筋野郎、いきなり俺の意識ごと乗っ取りやがって……! おかげで全然カッコ付かねぇよ……ちきしょう」

 

「ま、まぁでもコカビエルとか聖剣とかの騒動も次いでに片付いたし……私はアナタのお陰だと思うから……ね?」

 

「え? じゃあご褒美にグレモリー先輩の持つその素晴らしきおっぱいでパフパフさせて―――あぁん!?」

 

「元気そうでなによりよ……ホントに……!!」

 

「あべべべべ!? じょ、冗談だっつーの!? もうビリビリはいらねーよ!?」

 

「ほら、パフパフさせてあげるわよ? ねぇ一誠くん?」

 

「そ、それは地雷だからご遠慮ねが――ぎゃん!?」

 

 お約束のオチもおまけに……。




補足

一誠が安心院さんのお伽話を元にほぼほぼ百パーセントの言彦を無意識の内に自分の意識の一部として作り上げてしまった。

故にどちらかが消滅すればどらかかも消滅する。
一蓮托生……それが復活しちゃった言彦の制約であり、復活に貢献した一誠にはある種逆らえるけど逆らえないという所がある。

ええっと、例えるなら再初期のツンしかほぼ無い九喇嘛さんとナルトの関係……か?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。