風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

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都合主義展開かなー。

※ふと、今の時系列に存在しない筈の存在を入れてることに気づいたのでそこを削除しました。


楽じゃないお仕事

 考えれば考える程に、何故俺がこんな事をしなければならないのかと思う訳で。

 そもそも部下に逃げられたのにしたって、本来ならどーでも良い筈なんだ。

 

 なのに何を俺は……あーくそ、イライラしやがる。

 

 

 

 その日、一般生徒達はギョッとなった。

 

 

「会長さーん、これ何処に運ぶんすか?」

 

「それは二階の物置に……」

 

「へーい」

 

 

 

 

「兵藤が生徒会の手伝いをしてる……だと……?」

 

 

 あの兵藤一誠が。もっといえば伝統的に仲の悪い風紀委員と生徒会が一つの仕事を協力して行っているという、駒王学園の生徒からすればまさに奇跡的な光景に、偶々見てしまった生徒達は夢なのかと疑ってしまった。

 

 

「お、おい兵藤? どうしたお前? 生徒会の仕事を手伝ってる様に見えるけど?」

 

「あん? あぁ、見ての通りだよ。まったく、あの会長と椿――じゃなくて副会長以外が全員近々転校する事になっちまったからさ?

役員が補充されるか代が変わるまで土下座して手伝いを請われりゃあ流石にね」

 

「だ、だとしてもお前、全校集会の時とか毎回野次を飛ばすくらい嫌ってじゃねーか。美少女だってのにさ」

 

「え、あぁ……まあ、別に好みじゃねーからセクハラだけはしねーよ。

ったく、世話の掛かる今代だぜ」

 

 

 重そうな物が入れられた大量の段ボールを其々片手で軽々と10段積みずつ程度に重ねて持ち上げる一誠に、偶々見てたクラスの男子が熱でもあるのかと疑う顔で聞いてくるのに対して、一誠はめんどくさそうに答える。

 

 

「というか待て! 転校するって何だよ!?」

 

「あの憎き匙もか!?」

 

 

 しかしシレッと口に出した転校の文字に、見てただけの生徒達がこぞって終結して一誠に問い詰めんと近寄ってくる。

 隠れがちなものの、オカルト研究部並みに美少女揃いの生徒会の殆どが転校するという話は大なり小なりの衝撃的事実なのだ。

 

 

「理由なんか俺が知るか。どーでも良い」

 

「お、おぉう……」

 

 

 だが一誠はそんな生徒達に邪魔だと云わんばかりの顔で一言に切り捨てると、そのまま軽々と持っていた荷物を両手にこれまた軽々と階段を上がっていく。

 

 

「ま、マジかよ。転校もそうだけど、兵藤が生徒会と仲良くやるとか……」

 

「卒業して行った雲仙先輩が知ったら何て言うか……」

 

 

 そんな背中を見つめつつ、生徒達は去年の小っさい風紀委員長だった者を思い出し、冷や汗が何故か止まらなかったのだという。

 ……。まあ、事の状況はそんな単純じゃあ無いのだが。

 

 

 

「ったく、流れとはいえ、まさか俺が生徒会の仕事を手伝うなんて事になるとはね」

 

「お疲れ様です一誠くん」

 

 

 真実は知る者達の中でのみ。

 ボイッコット状態で機能してない生徒会の手伝いを粗方終えた一誠は、風紀委員室無いのに生徒会室の椅子にふんぞり返って座ると、一般生徒達からの質問責めを思いだして辟易とした様子だった。

 

 そんな一誠に椿姫が苦笑いしながらお茶を出す訳だが、お察しの通りただ今の生徒会室は副会長の椿姫と会長のソーナ以外は居ないというとても寂しい状況だ。

 

 

「ありがとうございます兵藤君。お陰で今日中に終わらせなければならない仕事が無事に終わらすことが出来ました」

 

「どーも」

 

 

 生徒会長のソーナと風紀委員長の一誠が協力したという……駒王学園にしてみれば過去の事情を知る教師達にとっても驚くべき話であり、書類をとある教師に持っていけば驚愕されるわ何やら続きで、正直に一誠は内心二度とやりたくは無いと思っていた。

 

 

「あの子達はどうやら匙と一緒みたいです」

 

「余程大事だったみたいですね、彼が」

 

「まあ、仲間内ではそうでしたね……」

 

 

 しかしその全ては、最早なぁなぁでは片付けられない程までに拗れてしまった一個人悪魔の眷属内での騒動を終わらせる為。

 嫌悪が憎悪を生み、憎悪が報復を呼び寄せ、そして崩壊を促した。

 

 たった一つの理由が全ての崩壊へと繋がってしまったが故、そしてその崩壊に外部で本来なら仲間でも何でもない一誠が関わっていたが故に。

 

 

「放課後……いや、日が暮れてからが良いでしょう。

アンタが呼び出すにしても夜の方がやりやすいでしょうし」

 

「……。ええ、最後まで申し訳ありません」

 

「良いっすよ別に。俺も此処まで事が大きくなるとは思いませんでしたし、これでハッキリ解りましたよ。やるなら徹底的にやるべきだって」

 

「………」

 

 

 風紀委員長の一誠、生徒会長のソーナは手を組み、こうして微妙そうな顔をし合うのだ。

 

 

「さてと、今度は何を言われるのかね。くく、あの腰巾着はどうもアンタが好きだか何だかっぽかったし、『会長を誑かしやがったなテメェ!』とでも言ってくるのかねぇ?」

 

「私からは何とも言えません。ですが私はアナタの事嫌いですけどね。貧乳ってバカにするし」

 

 

 

 

 

 その日の夜ソーナの眷属達は、マイナスに取り込まれて喪った匙と共に、電灯も少ない夜の公園へとやって来た。

 

 

「会長が指示したのはこの公園の筈だけど……」

 

「暗いわね」

 

「良かったね匙くん。もう少しで皆元通りだよ」

 

「お、おう……」

 

 

 

 理由はソーナからの呼び出しであり、ストライキを起こした事で、そのソーナが根負けして許してくれると思い込んでの来場なのだが……。

 

 

「よぉ、ゴミ共。

今日は生憎の曇り空で何よりだな」

 

『っ!?』

 

 

 待ち受けていたのは、匙から全て奪い取った仇である憎き兵藤一誠だった。

 

 

「な、何でアナタが此所に居るのよ!」

 

 

 予想だにしなかった相手の出待ちに、ボーイッシュタイプの少女・由良翼紗が警戒心を剥き出しに一誠へと問う。

 勿論他の者達もその姿を見た瞬間に殺意を増幅させた匙を庇う様にして前に出て一誠を睨むが、本人はヘラヘラと……しかし何処か何時もと違う様子だ。

 

 

「何で? 決まってるだろ? テメー等は俺をぶち殺したい。そして俺はテメー等がいい加減目障り。意味する事は一つしかねーだろう? あ?」

 

『っ……!』

 

 

 まず一つ、目が違う。

 何時ものふざけた目、女を性的に見てるゲスな目とは違う……獲物を射程圏内に捉えた鷹の様な目。

 

 

「つまり、俺かテメー等、どっちが生き残るかシンプルに殺し合おうぜって事だぜ!」

 

「な、なんだと!?」

 

 

 そして二つ目、明らかに自分達を比喩無く殺そうとしてるのが肌で感じる程の濃厚な殺意。

 公園を照らす僅かな電灯の光により見える兵藤一誠は、どこまでも獰猛に嗤い、どこまでも重苦しい殺意を放ち、どこまでも得体の知れない人格を剥き出しにしている。

 

 

「見事に笑えるぜテメー等は。

大人しく黙って下僕でも何でもしてれば、憎まれ口を叩き合う程度で済んだものを」

 

 

 それが今ソーナの眷属達に見せている兵藤一誠。

 

 何しても己が悪いという評価を世界が下すのであれば、俺はその悪くてゲスなゴミ野郎となってやる。

 

 

「テメー等の持つ駒を回収する。

理由? テメー等のツラが気に食わねぇだけだボケ」

 

「だ、誰がアンタなんかに!」

 

「この人数相手にアナタが何を出きるっていうの!?」

 

「私達を嘗めるな!」

 

「匙くん待ってて、今すぐ仇をとってあげるから!」

 

 

 だからこそ一誠は。

 

 

「ヒュウ♪ 愛されますなぁ腰巾着ゥ? 差し詰俺は俺はそこら辺の小悪党か? くくっ、上等だぜカス共が――

 

 

 

 

 

 

 

「小悪党なりのやり方を知りやがれ!」

 

 

 開き直って我が道を進む決心を更に固めた。

 

 

「最後に教えてやるよ……現実逃避だけが専売特許じゃねぇ事をなぁ!!」

 

 

 その決意、その覚悟、その精神が更なる進化を促す事になる。

 

 

 

 

 

 

「み、皆構え――がっ!?」

 

 

 お、俺は……俺は一体何を見てるんだ。

 俺は一体何の現実を見せられてるんだ……こんな、こんな……!

 

 

「おいおいおいおい!!! この期に及んでまだ俺を嘗めてんか? あぁっ!?」

 

「ぎぃぃ!?」

 

 

 俺から意味の分からん理由で奪った野郎が、数も強さもスゴい筈の仲間達を次々と容赦なく潰してる。

 

 

「くっ!? このっ……!」

 

「ポン刀か? ケッ、ナマクラが」

 

「う、嘘……!? 腕を切ったのに折れ――」

 

「オラァ!!」

 

「がばっ!?」

 

 

 女子だろうが、嗤いながら顔を殴り付ける。

 武器を振るっても寧ろ防いだだけで破壊し、その上で殴る。

 

 

「何時まで嘗めてんだよ? 何時まで見くびってんだよ……! 何時まで自惚れてんだボケがァァァッ!!!」

 

「ひっ!?」

 

 

 兵藤は嘗められてると思っているらしいが、それは違う。

 皆其々本気で、慢心なんてしてない。

 

 

「あ……あぁ……あ……!」

 

「おい、テメーのカキタレだが何だか知らねぇこの一山いくらにも満たねぇカス共に言えよ、本気をさっさと出せってよ…………おー腰巾着が!!」

 

「ひ、ひぃ!?」

 

 

 兵藤がおかしいレベルでおかしいだけ。

 それに気付いたのは……皮肉にもたった今であり、あの時の兵藤はただ言葉通りに疲弊していたからなんだ。

 

 

「ふざけんなよ、ふざけんなよゴラァ!! 転生したら強いんじゃねーのかよ! テメー等もあの役立たず共と同じだったのか!? 俺を此処まで駆り立てておいてそんなオチが納得出来るかクソがァァッ!!」

 

「い、いやぁっ!!」

 

「嫌ぁ! じゃねーんだよクソカスが! こちとらさっきから力から何からが溢れてしょうがねぇんだよ!!」

 

「ひ、ひぃ! こ、来ないで化け物!」

 

 

 今理解した。

 兵藤が言っていたのは決して誇張なんて無かったんだって。

 全てその言葉通りで、会長が言った通りだったんだって。

 

 

「や、やめろ兵藤! お、俺が悪かった! だ、だからこれ以上は……!」

 

「許せってか? 散々カス扱いしていて、イザ殺されそうになれば命乞いだと? 嘗めんのも大概にしとけや……!」

 

「うっ……」

 

 

 兵藤は悪魔を越えた化け物なんだって。

 

 

 

 

「何なんだよテメー等は本気(マジ)でよォ?

あの生徒会長の言うこと聞かせる為だか何だか知らねーが偉そうな事しといて、この程度だァ?」

 

「う、あ……ぅ……」

 

「あ、足が……ごほっ!」

 

「い、痛いよぉ……!」

 

「目が……見えない……」

 

 

 殺意を剥き出しにしたまま佇む一誠の近くには、匙を除いた全ての者達が重症を負わされ、地面に転がっている。

 それは勿論、返り血も浴びてない無傷の一誠が引き起こしたモノであるのだが、その張本人足る一誠の表情は怒りに染まりきっていた。

 

 

「なぁ……なぁ!!」

 

「ひぃぃっ!?」

 

 

 あまりにも弱い。あまりにも手応えが無い。あまりにも、あまりにも……。

 

 

「ガッカリさせないくれよ。

頼むぜ……さっきから頭が冴えまくるし、力がみなぎってどうしようもないんだよ! 頼むぜ、なぁお願いだから俺を殺そうと立ってくれよぉ!」

 

「ひ、ひ……!」

 

「な、何な、のよ……アイツ……」

 

「あ、頭がおかしい……」

 

 

 ギラギラと血走った目をした一誠が近くに転がっていた騎士の巡巴柄の首を掴んで持ち上げながら、ハイになりすぎておかしくなりそうな自分の現状を訴えている。

 

 その様子はまさにおかしいレベルを通り越して、危ない奴であり、巡巴柄を含めた全員がただ震えていた。

 

 

「ほら、お前らの受けたダメージを否定して逃がしたからよ……! なっ? 今度は慢心もみくびりも互いに無い状況で殺り合おうぜ? な!?」

 

 

 極めつけは、己で与えたダメージを全て消すという訳の分からない力とその行動。

 ハッキリとそれは異常であり、その全てにおぞましさと吐き気を催すに十分だ。

 

 

「うっ……うえぇっ!」

 

 

 故に全員がその場で吐いた。

 目の前の化け物の放つ異常さに恐怖し、匙も誰も全員が羞恥心も二の次にその場に胃液を吐き出してしまう。

 

 

「ゆ、許してください……!」

 

 

 最早こんな化け物となんて一秒たりとも近くに居たくはないというのが全員共通の本音だった。

 だから一人が涙目になって歯を剥き出しにして怒りまくる一誠にすがるように懇願し、それに続くかの様に残りの全員がその場に土下座するかの如く地面に頭を擦り付ける。

 

 

「も、もうアナタを見くびらないし、見下さない。

だ、だからもう……ゆ、許して……!」

 

「お、俺も悪かった。お前にあんな事して……だから……!」

 

 

 ソーナが未だに来ない事についての疑問も何もかもが考えられず、目の前の化け物からただ助かりたいという防衛本能だけで動く匙や眷属達の行動。

 そんな連中の行為に対して一誠は……。

 

 

「分かった途端に掌を返すか。

く、ははははは……! 挙げ句に媚だと? 目を抉った時の威勢は? 俺の普段の行動に対しての威勢の良い態度はよ!?」

 

 

 余計に怒りという名の炎にガソリンをぶちまけた様な形相となり、今にも皆殺しにしてやらんという殺意を全員に向かって向けている。

 

 

『う、うぅ……』

 

「……。そうかい、わかったよ」

 

 

 それに対して開き直れる度胸を持ち合わせる面子は最早この中には居らず、ただただ土下座の体勢を止める事が出来ずに固まる面々に、とうとう怒りのボルテージを振り切った一誠は――

 

 

 

 

「じゃあ全員人に戻って幸せに暮らすんだな」

 

 

 今さっきまで浮かべていた烈火の感情と形相が全て嘘でしたとばかりな、石像を思わせる冷たき無表情と雰囲気へと切り替わり……。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

『え?』

 

 

 思わず顔を上げた面々に向かって、巨大な釘と杭のどちらかをその額に向かって投擲し、そして突き刺した。

 

 

「え、な……え?」

 

 

 な、何で? さっきまで本気で怒ってた顔だったのに? と、全員が思わず呆然としながらダルそうに脱力しきった顔でポリポリと頭を掻いてる一誠を見つめ――そして唐突にそれは終わった。

 

 

「転生に使うだか何だか知らん、駒だっけ? 確かに全員分回収させて貰ったぞ」

 

 

 全員を転生悪魔である現実を否定させるという幕切れによって……。

 

 

「今在る現実を否定し、己の描いた夢へと逃げるマイナス……それが幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

「ち、力が……!?」

 

「な、無くなってる……わ、私達の悪魔の力が……!」

 

 

 己が動けば世界が悪と下すを

 その異常性に対して半ば開き直った一誠に躊躇も、ましてや罪悪感もない。

 そして怒り狂うという小賢しい演技をする事も……。

 

 

「ほら、アンタの駒を全部回収したぜ」

 

「!?」

 

 

 始まりはほんの小さな亀裂。

 亀裂は嫌悪となり、やがて嫌悪が憎悪へと変わっていく。

 やる事為す事が気に入らず、主がフォローの言葉を口にするのが許せず、その力の有無を疑い、そして最初は堕天使と別れたところを襲撃して倒して見せた。

 

 ところがどうだ、主からは怒られ、大怪我で再起不能にしてやったと思っていた気に入らない男は次の日にシレッと現れ、そして自分の持つ力を奪った。

 

 

「……。ありがとうございます」

 

「か、会長……!?」

 

 

 それが気に入らないから嫌いだった。

 しかしそれ以上に、リアスの件以降一誠に対してソーナが見る目を変えたのが憎らしかった。

 

 ヘラヘラしてて、伝統的に生徒会と敵対関係である風紀委員で、更には普段からふざけてるのにも拘わらず、リアスの一件から認めるような発言が多くなった事が……。

 

 

「ど、どうして会長が……兵藤と……!」

 

 

 何よりも、ソーナの隣に今こうしてどうでも良さそうに明後日の方を向きながら欠伸までしているのが怨めしい……。

 そう、全ては先走った嫉妬心から始まったに過ぎなかった。

 

 

「どうして……お互いにケジメを付ける為よ」

 

「ケ、ケジメって……」

 

 

 匙だけでは無く、この場に居た全員から悪魔である事を否定され、元の種族へと戻ったそのタイミングで現れたソーナの言葉に全員が唖然としながらただ主だった人物を見つめる。

 

 

「そうケジメ。私は眷属を抱えられる程強くなかった。

だから、アナタ達を自由にする」

 

「……」

 

「ふわぁ……」

 

 

 無表情でソーナの半歩後ろに立つ椿姫とを交互に困惑した眼差しを送る匙と、最早その匙と同じく転生悪魔では無くなった眷属達。

 それはまるで、自分が何を言われてるのか分からない子供の様だった。

 

 

「そ、そんな……! どうして! ま、まさかソイツに唆されて……!」

 

 

 ソーナの言葉を認めたくないと匙がその隣で『っあーたこ焼き食いてー』とさっきまでも態度が全部ブラフでしたとばかりな台詞を吐いてる一誠を睨む。

 すると、それを聞いた一誠がビクッと身体を縮こませた匙に視線を寄越しながら『へっ!』と嘲笑しながら言った。

 

 

「ほーなら、思った通り……俺はアンタを唆したらしいぜ?」

 

「っ! ち、違うのかよ! 俺達が気に入らないからって……」

 

「はぁ? じゃあ聞くが、アスファルトを迂回してる蟻を見つけたら、わざわざ踏み殺して歩くのか?」

 

「な……!」

 

 

 テメーがあの時不意打ち噛まして来なければ、こんな事態にしなくて済んだだけだ。

 そう一言に言い切った一誠は、その手に持っていた悪魔の駒の全てをソーナに手渡した。

 

 

「巴柄。アナタの呪いは彼が悪魔である事のついでに『否定』してくれました。

だから、人に戻っても呪いが戻る心配は無いわ」

 

「あ……」

 

 

 悪魔の駒を受け取るソーナが巴柄に向かって安心させるようにそう言う。

 勿論、他の者達にもそれぞれ一言ずつ最後の言葉を送り――

 

 

「今までありがとう。これからは人として幸せに生きなさい」

 

 

 完全に関係を絶ち切る言葉で締め括った。

 

 

『……』

 

 

 それに対し、誰も言い返せる訳も無く、ただただ俯くしか出来ないのは無理もない話だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……。後味悪っ」

 

 

 なぁなぁで終わらせるではなく、キッチリと清算という形で終わらせる事になった今回の騒動に対し、ただただ力無く去っていく者達を見ながら、一誠は小さくそう呟いた。

 

 

「仕方無いわ。会長はもっと辛いのだから」

 

「そりゃそうだがよ……結局俺のせいかよ」

 

 

 どうであれ、元を辿れば自分になる事に頭では『関係ない』と割り切ろうとするものの、心の奥底では結局は自分が引き起こしたという考えがあるせいか、椿姫の言葉に対して目を逸らしながら小さく毒づいてしまう。

 

 

「良いんです……これで。許されざる事を許したらダメだから……」

 

 

 そんな一誠にソーナは儚そうな表情で言うが、それがまた変な罪悪感を生み出し、ますます一誠は舌打ちしながら目を逸らしてしまう。

 

 

「ありがとうございました。そして、ごめんなさい」

 

「何がっすか? 言っときますけど、アンタに礼も謝罪もされたくありませんね」

 

 

 だからソーナの謝罪と感謝にも突き放す様な態度をしてしまう訳で……。

 

 

「自己満足ですから……。では、私はこの辺で……」

 

「会長に付いてあげたいから私も……」

 

 

 どうみても精神ダメージ半端無いソーナが、力無くトボトボと心配そうに付いてあげる椿姫と共に去ろうとしているその背を見た一誠は……。

 

 

「だぁぁぁもう!!」

 

「「!?」」

 

 

 何から何まで面倒になり、それを払拭したいかの如くヤケクソ気味に叫ぶと、びっくりしたかの様に振り向く二人――というかソーナに大股で近く。

 

 

「え、えっ?」

 

 

 フンスと鼻息荒めに近付いてくる一誠に、ギョッとなるソーナと椿姫は何事かと思って足を止める。

 

 

「ど、どうしたのよ急に?」

 

 

 誰に対してなのか、急に怒りながら寄ってきた一誠に困惑する椿姫とソーナ。

 椿姫にとって悔しいが、こういう時に朱乃かなじみでも居れば直ぐにでも今の一誠が示す意図を探れるのだが、今は居ないのでそれも分からない。

 

 

「寄越せ」

 

「「え?」」

 

 

 だから一誠がソーナに手を差し出しながら寄越せと言っても、何の事だか分からない。

 

 

「な、何を寄越せと云うんですか? ま、まさかこの前言ってた胸の話――」

 

「アンタじゃ無理だし違う!」

 

「じゃあ一体何を……」

 

「駒だよ駒! さっき回収した駒を寄越せ。全部だ! ……………全部だっ!」

 

 

 フンスフンスと興奮した面持ちで、何故か全部だを二回続けて声を大きめに言う一誠。

 何で今更駒? とソーナと椿姫は思うものの、こうして手元にあるのは一誠のお陰なので嫌とは言えず、取り敢えず回収した戦車・騎士・僧侶・兵士の駒全てを一誠に手渡す。

 

 

「チッ」

 

「あ、あの……?」

 

 

 一体何がしたいのか全く分からないソーナが、渡した駒を手に、舌打ちしながらジーッと眺めている一誠に問い、椿姫も首を傾げてその様子を観察する。

 

 突拍子が無いのは分かってるが、それにしてもソーナの悪魔の駒に一体何の用があるのか……と二人しておっかなビックリに一誠を眺めていた……その時だった。

 

 

「ふん!」

 

「え!?」

 

「は!?」

 

 

 何を思ってそうしたのか、ソーナも椿姫も解らずに思わず声が出てしまった。

 

 それは仕方の無い事なのかもしれない。

 何せまさか、匙達を人間に戻した時に使った巨大な釘と杭……今一誠が使ったのは釘だが、その杭を自分の右胸――つまり心臓目掛けて突き刺したのだから。

 

 

「な、何してるんですか!?」

 

 

 正直、見ていて気持ちの良いものじゃない訳で、ソーナも椿姫も顔を歪めて声を張り上げるが、それ以上に起きたその現象に身体が固まってしまった。

 

 

「え、こ、駒が……!」

 

 

 自らの心臓に突き刺した釘がボロボロと土くれの様に崩れていくのと同時に起きたその現象。

 それは、一誠に渡した戦車・騎士・僧侶・兵士……つまり匙達人数分の駒全てがソーナの力も無しに――いや、厳密に言えばソーナの力がソーナ自身の意思とは無関係に駒に送り込まれ、そのままその全てが一誠の中へと入ったのだ。

 

 

「な……え……?」

 

「何をしてるのよ……」

 

 

 流石に程度は違えど、この儀式染みた現象は寧ろソーナと椿姫の方が詳しい。

 そして、その意味もよーく解っている。

 一瞬の閃光が晴れ、あった筈の駒は全て一誠の手から消え、その中へと入った。

 

 それはつまり――

 

 

「………………。なるほど、これが悪魔ね」

 

 

 今この瞬間、一誠は転生したのだ。自分が胡散臭いと思っていた悪魔に。

 

 

「な、何で……どうして!」

 

 

 類を見ない数の……というか滅茶苦茶過ぎる転生を自分でした一誠にソーナは訳が解らずといった顔で声を張り上げる。

 それは声には出さなかったものの椿姫も同じであり、自分の掌を確かめる様に眺めてる一誠を見つめる。

 

 すると一誠は言った。

 

 

「いや、アンタの背中が虐められた野良犬みたいなソレに見えてしまったから……的な」

 

「は、はい?」

 

「いやだから。これから引き摺る気満々に見えたからだよ! 曲芸でも見せてやろうとしたら成功しちゃったの!!」

 

「………」

 

 

 的を得ない言い方で誤魔化してる感満載だが、結局の所一誠はこう言いたいのだ。

 

『流石に見てられませんでしたし、元凶はどうせ俺なんで暫くは代行になってあげますよ』

 

 と。

 

 

「俺が高校を卒業するまでに、俺以外の仲間とやらを集め直してしまえ。

その都度、俺の中にあるアンタの駒を抜き取るからよ。それまでは……まあ、アレだよ……ほら、な?」

 

「? 何がほら何ですか……意味が――」

 

「つまり、今回の事について罪悪感が凄いので、会長が仲間を集め直し終えるまで一誠くんが会長を助けてくれるって事ですよ。ね、一誠くん?」

 

「え?」

 

「あ……ま、まぁ……今回のゴタゴタについてだけは俺のせいってのもあるし……うん」

 

 

 ただ、それが悪魔相手なのと、生徒会長なので言えずに遠回しに誤魔化そうとしてしまう。

 まあ、椿姫が何処か嬉しそうに微笑みながらソーナに教えたので伝わる事は出来た訳だが。

 

 

「……ふ、ふふ」

 

「あ? んだよ」

 

 

 チッ! と何度も舌打ちして態度悪く見せてる一誠の内心を知ったソーナは、最初こそ唖然としていたが、やがてそのチンピラ崩れみたいな態度が途端に可笑しく思えて来たのか、クスクスと笑いながら言った。

 

 

「意外と可愛いところがあるんですね。椿姫が言ってた通りというか」

 

「うるせぇぞド貧乳! 眼鏡叩き割るぞゴラ!!」

 

「はいはい、ふふ」

 

「チッ、サーゼクス・ルシファーといい、純粋な悪魔はやっぱムカツクぜ」

 

 

 と、このようなオチとなった今回の騒動。

 ソーナが再び仲間を結集させるその日までは手伝うという形で無理矢理己を転生させた一誠に明日は何処に行く。

 

 

 

 

 

「あ、言っとくけどな。俺の力を利用したいと思う所に釘刺す様で悪いっすけど、さっき無理矢理転生の時に、アンタの器にはみ出ない程度に力を押さえ込んでしまったから、相当今の俺は弱体化してますから」

 

「え……そ、そこまでして転生したのですか? な、何で」

 

「何でも良いでしょう? てことで椿姫ちゃんよ、暫くこの状態から強くなるから協力してちょ」

 

「勿論。でも姫島さんと安心院さんは何て言うのかしら……」

 

「う……なじみは兎も角、朱乃ねーちゃんが怖いな……やべ、お、おい王様。明日一緒に謝りに行ってくれません?」

 

「は、はぁ……それは良いですけど」

 

「っし! イザとなったらこの人盾にできるぜ!」

 

「…………」

 

 

それ相応の代償までわざわざ払って。




補足

見てて侘しくなった上で、ノリがそうさせた結果、取り敢えず新しい仲間が出来るまでは付き合う事になった。

理由……基本チンピラだけど、変な所で繊細な面があるから。

その2
その理由により、IFの無理矢理転生みたいな感じに弱体化しました。
とはいえ、駒の数が自殺行為レベルの数なのであのレベルの弱体化ではありません。

その3

こうなると、リアスさんの所とレーティングゲームが可能になる。
つまり……?

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