考えてみれば、悪魔共に不幸が降り掛かろうが俺には関係無い筈だ。
だってそもそもその悪魔の下僕が最初に仕掛けてきたんだからよ。
それに対して俺はただ報復しただけであって、それによって悪魔の親玉が部下に逃げられちまおうが、考えなくても俺は関係ないったら無いんだ。
「なるほど、腰巾着を元に戻すまでストライキね。
アホらし過ぎて笑えば良いのかもわかりゃしねぇ」
学園の応接室よりも応接室っぽい風紀委員室。
先々代の雲から始まり、先代の冥ちゃん先輩……じゃなくて雲。
二人の雲から引き継いだこの場所は、全盛期を過ぎて衰退しまくってる今でも死守しており、委員一人だけの現在では、俺のサボり場所となっている。
「いっそ戻せば? 俺ももうあんな腰巾着なんてクソどうでも良いし」
そんな風紀委員室に珍しく人が集まってる訳だが、生憎ポジティブな理由では無かった。
「……………。正直、戻した所で私が皆を信じられなくなってるというか」
風紀委員と生徒会。
ほんの少し前までは寧ろ互いに煙たがってた間柄だというのに、ただ今委員長である俺と生徒会長である支取蒼奈――じゃなくてソーナ・シトリーは割りと真面目に話をしていた。
理由はそう……本日から生徒会の活動をピタリと止めた連中についてだ。
「まあ確かにっすね。
寧ろ信じるなんて言ってたら引いてましたわ」
「………」
俺が腰巾着野郎に報復のつもりで転生悪魔と神器使いである現実を否定して只の人間にしてやったのが事の始まり? いや、奴が俺に不意打ち噛まして目玉を抉ってくれた時が始まりか。
とにかく俺の報復のせいか何か知らんが、その事について甘んじて受け入れたソーナ・シトリー……めんどくせ、シトリー先輩がとばっちりをもろに被った。
内容としては……腰巾着を元に戻して元の生徒会に戻る事。
シトリー先輩が腰巾着を許す事。
取り敢えず俺に味方する言動を取って自分達を不安にさせないこと……。
「結局、俺に喧嘩売ってきた話を無かったことにして元に戻せと言いたいらしいね奴等は」
「それがあの子達の要求みたいです」
「……………。俺が本気で只の人間で今も失明したままでも同じ台詞を吐くつもりか聞いてみたいもんだね」
自覚してた上でやってたとはいえ、とことん俺は嫌われてる様で、常人だったら大事件ものというかマジな話警察沙汰な真似をしてくれやがった奴を無条件で許して、俺は泣き寝入りして終われと奴等は言いたいという話にやはり呆れてしまう訳で。
シトリー先輩と、その傍らに付いてる椿姫ちゃんですらそれは道理が通らないと思ってるだけまだ世界は正常に機能してると分かるものの、それにしたってこれはおかしい。
「腰巾着とそれを追ってった連中は今日学校に来てないみたいだけど……」
「此方が折れるまで来ないつもりらしいです……」
てか異常だろ。
何かにつけて俺が関わると、どうにも俺が元凶にされてる感じになるって意味も含めて今の状況が。
「近々教会からの使いがリアスの所に来て話し合いをするので、あの子達が使いの悪魔祓いに何かされてしまう前に何とかしたいのが本音といいますか……」
「それを俺に言われましてもね……勝手にしてろとしか言えねぇですよ」
そして巻き込まれてる事も……。
何処までもメンドクセーぜ。
ソーナの眷属達がストライキを起こした。
その話は当然リアスの眷属達にも伝わったのだが……。
「またあの人が絡んでるんですか?」
「今度は何をしたんでしょうか?」
いくら説明しても、いくらフォローしても、いくらそうじゃないからと言っても……ソーナの眷属達がストライキを起こしたのが一誠のせいだと認識する小猫、祐斗、アーシアの三人にリアスと朱乃は昨晩、安心院なじみがそれとなく話してた事とピッタリ一致していると理解し、兵藤凛も何かにつけて一誠が悪くなる流れにされている異常さに気付き始める。
「待ちなさい。私の話を聞いていたの? 兵藤君はまだ眷属だった匙君に重症を負わされ、その事について報復しただけと言ったわよね?」
「流石に一誠が悪いって言うのは無理があるよ?」
「それでも一誠くんが悪いと?」
「「「………」」」
だからこそ、リアスや朱乃は必死になってフォローしようとするのだが……。
「副部長はともかくとして、部長もあの人の味方になる様になりましたね」
「やっぱり僕たちが役立たずで、彼に助けられたお陰ですか?」
「……。リンさんまで……」
何を言っても、何故か一誠が悪いじゃないか的な流れに……そして態度をする三人やソーナの眷属達の態度に異常さがより肌で感じる。
「ま、待ってよ! リアス部長はそんな意味で言ってないのに、どうしてそんな言い方を――」
「む……凛先輩がそう言うのであるなら……」
「確かに今のは僕達が失礼だったね」
「弟さんですものね……」
「え、い、いや……そんな意味じゃなくて――」
「……私、やっぱり嫌われてるのかしら」
「一誠くんを悪人の対象にして置かないと気が済まないみたいですわね」
「それが異常なのよ。
おかしいじゃない、彼は私達の恩人なのに……」
まるで見えない何かが、些細な事でも一誠を悪人に仕立てたがるかの如く。
今だって一誠をフォローした自分よりも、アッサリと凛の言葉に意見をねじ曲げた三人を眺めながら、リアスはますます疎外感を感じてしまっても、多分仕方のない事なのかもしれない。
故に自然とリアスは――
「いや、来られても困るんですけど。シトリー先輩といいよ」
生徒会室よりも、そしてオカルト研究部の部室よりも豪華な風紀委員室へとやって来てしまうのだ。
「あらリアス。
その顔からしてまさかとは思いますが……」
「フォローしてもしても兵藤くんが悪いって空気になるし、私の言葉を信じないで凛の言葉はすぐ信じる。
居心地がどうにも悪くてね……」
「真羅さんも大変ですわね」
「それこそお互い様ですよ」
色々と居心地悪くて朱乃と一緒に風紀委員室へと訪れてみると、既にソーナと椿姫がそこに居り、顔を見るや否や嫌そうな顔をしつつも追い出すことはしない一誠に挨拶をしたリアスは、ほんの一週間前の時とは見る影もなく疲れた表情をしてるソーナが心配だった。
「チッ、何時から風紀委員室は体の良い避難場所になったんだ。
大体、朱乃ねーちゃんと椿姫ちゃんはともかく、アンタら二人は基本信用してねーんだけど?」
先々代が学園長を脅して買わせた高いソファーを四人がすっかり占拠するのを、隠すことなく嫌そうな顔を風紀委員長の机に座りながら向ける一誠だが、律儀なのが何なのか、一応きっちりとお茶だけは淹れて出す。
「この光景を見たら腰巾着共と役立たず共が勝手に勘違いしそうだぜ……ったく」
変に気を利かせるというか、口調とは裏腹に律儀にも二人の現状は自分のせいじゃないのかと気にしてるからこそ、奇跡的にソーナとリアスは異常な状況でも冷静になれている訳だが、本人達にそんな自覚はまるで無く、適当に淹れて出したお茶を受け取った四人は其々ペコリと頭を下げてから口をつける。
「あ、美味しい」
「意外な一面を垣間見た気がしました……」
そんな一誠作のお茶だが、意外な事に温度調節から漉しまでほぼ完璧であり、リアスとソーナは初めて口にした一誠作のお茶を素直に誉めた。
「先代……いや、全員知ってると思うけど、冥ちゃん先輩のお茶汲みをやらされてましたからね。不味かったらカップ投げ付けられるからそら必死で覚えましたわ」
そんな二人の誉め言葉に対して、一誠は特に嬉しがる事もなく委員長席に座りながらソッポを向きながら先代風紀委員長の愛称を口にする。
「先代……あぁ、雲仙先輩の事ですね?」
「小猫より小さいけど、おっかない人だったわね……」
「風紀の取り締まりに関してはやり過ぎな気がしましたが……」
「毎日の様に一誠くんを連れ回してましたわね、そういえば」
一誠にとっては二つ上。リアス、朱乃、ソーナ、椿姫にとっては一つ上であった先代風紀委員長について懐かしむかの様に顔を綻ばせる四人にとってもその先代はおっかなかったらしい事が伺える。
「やりすぎなけりゃあ正義じゃねぇ……を素でやってたからなあの人は。
今じゃ一緒に卒業していった先輩風紀委員達と先々代が興した風紀財団だか何だかに対抗する組織を作ったらしいが……」
しかしそれも今じゃ良い思い出。
スーパーボールみたいな武器で風紀を乱した輩を血祭りにあげていた先代から受け継いだ風紀委員は今も一人だけながらちゃんと在る。
在るからこそ、現状のこのがんじがらめな厄介事をさっさと片付けなければならないのだ。
「いっそ俺はクソ野郎と罵られても構わねぇから、アンタはその薄情な部下共ときっちりケジメをつけちまえ。
悩んだって所詮は奴等の決めた事なんだからよ。つーかそこまで俺を嫌うなら、いっそ俺からやらかしてやるよ」
疎外感を覚える程度にまだ収まるリアスは兎も角、短期間で此処まで色々と崩壊したソーナに関しては本人も最早去っていった連中を心の底からは信じられないと告白してる。
ともなれば、一誠の考えは一つだった。
「……。叩き潰すと……?」
どうしても自分を悪人と思いたければ思えば良い。
自分のせいで失ったと思いたければ自由にすれば良い。
「違うな、腰巾着と同じく人間としてこれからは健全に生きて貰えば良いのさ。
そうすれば綺麗さっぱり解決でしょう?」
それなら此方は便乗してなってやるまで……連中が思う悪とやらに。
一度スイッチが入ると女子供だろうが容赦する気配しか無い一誠が、不安そうな声を出すソーナに首を横に振りつつ、いつの間にか手に持っていた匙を突き刺した巨大な釘と杭を机に突き刺して嗤うと……。
「ほら、俺って奴等からしたらゲス野郎だし?」
てっとり早く終わらせると宣言した。
「え、何処からそんな釘と杭を……!?」
「なるほど、匙の時と同じ事を……」
一誠の異常性を見た事はあれど、こんな禍々しそうなものを何処から途もなく取り出すのは初めて見るリアスはびっくりした顔をするが、既に見たソーナは一誠がしようとしている事を察して納得しつつも、割り切れてない分複雑な表情だ。
「……。転生しなければ死んでしまうために転生した事情を持つ子が居ますが、そこら辺は……」
「言ったろ、只の人間にするって。
だからその背景も……否定してやるよ」
「そうですか……それなら――」
「せめて主として最後にあの子達がはぐれ悪魔にならないように……お願いします」
だけどソーナは決心する。
椿姫と大学部の戦車以外は居なくなってしまうけど、進んで自分の下を去ってしまったのであれば強制はしない。
人に戻り、残りのまだまだ長い人としての人生を全うして欲しい……ソーナはそう願い、目の前の風紀委員長へと頭を下げた。
終わり
オマケ
結局そんな流れになった訳だけど、よくよく一誠は思った。
あれ、割りに合わないと。
「ぶっちゃけ、俺的には連中がはぐれ狩りされても知らんしって感じだし、タダでやるのもなぁ……」
「……。う、な、ならそれ相応のお礼を……」
だから一誠は言った。
「よし、全部うまく行ったらアレだかんな、おっぱいサンドイッチの一つや二つでも頼むぜ」
おっぱいを寄越せと。
「えーっと、ねーちゃんはある、椿姫ちゃんはある、グレモリー先輩もあるから頼めるとして……ええっと、シトリー先輩は――ごめん、無理ですね」
「なっ、ま、また私を貧乳とバカにしますか! で、できますよそれくらいなら!」
「いやすんません、固い胸板押し付けられても虚しいだけなんで虚勢は要りませんから」
「で、出来る! 出来るったら出来ます!」
「いやだから要らねぇっての、この貧乳めが」
「ひ、貧乳言うな! そこの三人が無駄にあるだけで、私は体型とバランスが――」
「フハッ! おい今の聞いたかよ? バランスなんてほざいたぞこの貧乳は!
無いのをそんな言い訳で誤魔化すとか笑えるぜオイ!」
「きゅ、急に生き生きと私をバカにして……!」
ケタケタケタケタと両手で胸を抑えながら上目使い気味に睨んでくるソーナを、これでもかもな嘲笑面でバカにしまくる一誠。
そんな一誠を見た三人は……。
「少し前ならあり得ないやり取りですね、あのお二人……」
「風紀委員と生徒会は昔から代が変わっても仲が悪かったですからね……」
「というか、ああいった感じでソーナが半泣きになるなんて思わなかったわ……」
しょうも無さすぎるやり取りに呆れたのはいうまでも無かった。
「貧乳は俺に対しての発言権なぞ無し! つーか、あの腰巾着はこの貧乳の何が良かったのかねー?」
「あるったら! あ、あるもん……!」
補足
どうフォローしても一誠が元凶扱いされる。
強ちでも無いにしろ、最早呪われてるとしか思えない何かが働いてる。
その2
他勢力に狙われる、しかし仲直りするには信頼がぶち壊れてしまった。
故にソーナさんは最後の手向けとして……。
その3
何故かカウンセラー化してる一誠くん。
ソーナさんへのカウンセリングは……貧乳連呼でブルーな気持ちをぶっ飛ばせ。
ひんぬーじゃないのがミソ。
貧乳言われて泣きべそかくから可愛いで済ませられる。
決して、どこぞの拗らせひんぬーにならせてはならない(戒め