風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん   作:超人類DX

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シリーズ中多分ここでは彼女が一番一誠と距離が近いですね。




安心院さんとの昔と今

 弟じゃねぇ。

 俺は何度もそう訴えた。

 しかし訴えた所で、世界の理はアレを兵藤一誠の姉として刻み込んでいるので、寧ろ俺が頭のおかしなバカだと思われている。

 

 姉を無視する酷い弟。

 両親と喧嘩別れした親不孝者。

 良い一家に生まれ落ちた唯一の汚点。

 

 世間の奴等の俺に対する評価は概ねこんな感じであり、俺は落ちこぼれで吠えるだけのクズだと言われている。

 

 それならそれで構わない。

 だったら俺が……汚点が居なくなれば良いのだから。

 兵藤という名字を返還し、俺を俺と認めてくれる大事な人の為に生きるから。

 俺はそう何度も言った、餓鬼の癖に法的保護者も居ないのに、結局助けられて生きてる癖にと言われたけど、俺は奴等と関わるくらいなら他人に寄生してでも独りで生きたかった。

 

 それなのに、それだってのに……。

 

 

『何で凛先輩を避けるんですか?』

 

『キミのお姉さんだろ?』

 

『家族なのに……』

 

 

 どいつもこいつも……同じ能書きしか垂れねぇ奴等はうんざりだぜ。

 

 

「随分とストレスが溜まってるみたいだね一誠」

 

「…………。朱乃ねーちゃんや椿姫ちゃんと呑気にのほほんしたら消えると思ったんだけど、そうでも無かったみたい。

頭の中で千回は聞かされた能書きが聞こえて、爆発しそうだぜ」

 

 

 安心院なじみは師匠だ。

 何時でも何処でも俺の近くに居て、何時でも何処でも教えてくれる。

 彼女が居なかったら今の俺は無かった――それほどまでの人だ。

 

 何の気紛れか、只今学生中で爆弾投下をしまくってるけど、それでも俺は師匠が好きだ。

 あ、恋愛とかいう意味じゃなくね?

 

 

「なるほどね、さしずめあの子達は彼女を慕うボディーガードって所かな?」

 

 

 何時でも余裕で、何時でも不敵。

 これこそ安心院なじみであり、俺はその弟子である事に幸運すら覚える。

 故に、だ。

 

 

「どっちでも良いぜ、相容れる事なんて死んでも無いし」

 

 

 例え朱乃ねーちゃんのお仲間だとしても、俺は奴等と仲良しこよしは絶対にしないのさ。

 どう思われようが、どうほざいて来ようが、それ等全てを鼻で嗤いながら『で、だから?』と返せる強さを持つ為に、今日も夢の中でも現実でも師匠に食い付くんだ。

 

 

 

 

 安心院なじみが一誠を見付けたのは、ほんの偶然だった。

 目的も理由も無く、ただ己の膨大な力故に永久を生きる彼女からすれば、全てをある日取り上げられ絶望して死ぬ子供なんてどうでも良かった。

 

 

「よくもまあ、めだかちゃんと日之影君の戦い方を再現したもんだ。

口頭説明でここまで……しかもめだかちゃんと日之影君の先の域に到達し、今尚無限に進化させるのは中々居ないぜ?」

 

「よしてくれよ。

なじみの話に聞いたその二人って偉い凄い人だったんだろ? 俺なんて単なる猿真似だ猿真似」

 

 

 しかし結果的に安心院なじみは、死に逝こうとした一誠少年を拾った。

 自分でも気紛れ過ぎるだろと思ったが、死の間際この世界では決して開花出来ない己と同じ領域の片鱗を見せられてしまえば、安心院なじみの気紛れ好奇心は、試しに完全な自分好みに仕上げてみるか……という結論を抱かせるに充分だった。

 

 

「謙遜するのは良いが、謙遜し過ぎても嫌味になる。

それにだ、僕の言うことを否定された気になって地味に傷付く」

 

「別にそんなつもりは……」

 

 

 堕天使が住みかにしていた教会だった場所。

 一誠がレイナーレ、カラワーナ、ミッテルト、ドーナシークを無傷で殲滅させた後のこの場所は誰も近寄る事は無く、今では一誠の修行場所になっていた。

 

 そんな修行の場にて、暫くほのぼのとした生活をエンジョイすると告げて一誠の傍らに居付く様になった安心院なじみは、吹けば飛びそうな程脆い子供だった一誠の成長を何時もの薄い笑みを浮かべながら、教会内部から持ってきた木椅子に座って見つめている。

 

 この世界で唯一自力で覚醒させた能力保持者。

 イレギュラーにより失った力を埋めるが如く発現させたイレギュラー故のイレギュラー

 それが、あの安心院なじみが、能力(ショートカット)を一切使用せず、0から全てを丁寧に叩き込んだ唯一の弟子である一誠だった。

 

 

「それに、まだやる気状態のアンタに触れることすら出来ねぇんだぞ? 謙遜じゃなく力不足の実感だよ」

 

 

 成長し、青年らしい身体付きになった一誠は、上半身裸の姿でぶっきらぼうに言いつつ片腕倒立の状態で腕立てをしている。

 実に原始的だが、かつて黒神めだかと時計塔で会話をした頃を思い出す気がするので、なじみ自身は割りと楽しんでいる様子だった。

 

 

「一誠とめだかちゃんは本当に真逆だ。

友達の頼みとはいえ、自分が間違ってると判断したら迷い無く突っぱねるのがめだかちゃんだけど、お前は友達の願いを何だろうが全力で叶えようと突っ走る。

世界中の人間が大好きだと当たり前の様に公言するのがめだかちゃんなら、友達以外は滅んでくれても構わないと平然と宣うのが一誠……」

 

「へ、だから言ってるだろ? 俺は黒神めだかじゃなく、単純でバカで底が浅いんだけの男だっつーの」

 

「そうだな、お前は決してめだかちゃんの様にはなれない。

戦闘技術は真似られても、中身決して相容れない」

 

 

 黙々淡々となじみの会話に付き合いながら筋トレを続けるその内容は、なじみが会った主人公(めだか)についてのお伽噺。

 

 どこまでも主人公で、どこまでも人を好きで、一周回って馬鹿な、なじみが勝てないと思った主人公の話は、何時聞いても一誠を飽きさせなかった。

 

 

「そもそも彼女は女なんだろ? 性別からして違うんだから違うもんは違うだろ? つーか、本人に会ってみてーわぁ、おっぱいボインなんだろ?」

 

「そればっかりだなお前は。

ったく、年を重ねるごとにスケベ小僧になっちゃってさ」

 

「思春期に目覚めた切っ掛け朱璃さんだからねー……そらこうもなるだろ?」

 

 

 ケタケタと笑った一誠は器用に倒立していた腕を代えて再び腕立てをする。

 なじみ相手にヘラヘラと軽口を叩けるのも一誠ならではだった。

 

 

「くぅ~ 朱璃さんにちょー甘えてーぜ!」

 

「バラキエル君が聞いたら追いかけ回されるだろうね、その言葉」

 

「まあ、そうだろうけど……。

ちぇ、バラキエルのおっさんは幸せもんだぜ……。

これで朱乃ねーちゃんと上手く仲直りしてくれればもっと良いんだけどよ」

 

「朱乃ちゃんか……。僕が今一誠とイチャコラしてるのは知ってるのかな?」

 

「イチャコラ?

いや、その冗談はともかく朱乃ねーちゃんは知らないよ。

てか知ってたら此処で筋トレなんざ呑気にできねーだろうってか、何か冥界からお客がどうとか言ってて今ガッコーの部室じゃねーか?」

 

「ふーん?」

 

 

 倒立腕立てから今度はブレイクダンスの様に踊り出しつつ、朱乃の今日の予定についてなじみに説明する。

 まあ、言わずともなじみなら直ぐに知れるだろうけど……と内心思う一誠だが、こうやって聞いてくる時は自分の口から聞きたいという意味が込められているのは十年程のまだまだ短い付き合いの中で知っているので、一誠は説明した。

 

 

「そういえば、危うく喰われそうになったんだろ? 僕がちょっとお散歩してる間に朱乃ちゃんなお家で」

 

「う……。そ、そこはキッチリお見通しかい。

いやまぁ――当然何もしなかったようん……」

 

 

 ちょっと悪戯っぽく聞いてくるなじみに、ブレイクダンスの基本技の一つであるウィンドミドルを思わず途中で止めてしまった。

 

 

「あらら、さぞ朱乃ちゃんは残念だっただろうねー?」

 

 

 中途半端に止めた体制のまま、ニコニコと駒王学園の女子制服に身を包んでいたなじみは、微妙に丈を短くしてるスカートで木の椅子に座ったまま脚を組んでからかうような口調であり、一誠は思わず表情を渋くした。

 

 

「の、割りには楽しそうだな。

そーだよ、俺はどーせヘタレですから? 朱乃ねーちゃんには何にもできませんよーだ」

 

 

 組んだ脚から覗く太ももから目を逸らして、拗ねた子供の様に喋った一誠になじみは『いやいや……』と首を横に振る。

 

 

「ヘタレとは思わないさ。

一誠は大事に思う相手を大事にし過ぎて自分を下に置く性格だからね。

大方、自分なんぞが――とでも思ったんだろ?」

 

「……。まぁ……」

 

 

 ほぼその時の心情を当てられた一誠はますます気まずそうな顔でちょこんと座る。

 一誠は一度人間不審になる程の精神ダメージを受けており、それ故に手を差し伸べてくれた……居場所となってくれた者には、口では色々言っているものの大切に思っている。

 

 故になのか、与えられてばかりだと思っている一誠は大切な者達に対して少しだけ神聖視に似た感情がある。

 故に迫られても『自分程度が……』と理由を付けて逃げようとする事が多く、危うく理性が吹っ飛びそうになった朱乃とのあのやり取りもまた、自分の余計な一言で朱乃ねーちゃんを螺子曲げてしまったから……と受け身ななってしまうのだ。

 

 

「朱乃ちゃんの味方をしたら朱乃ちゃんに嫌がられるだろうけど、僕は良いと思うけどね。

というか、逆に勇気を出した女の子に対して失礼だぜ?」

 

「……。そりゃそうだけど」

 

 

 可愛らしい容姿は何処ででも持て囃されるなじみの笑みだが、それすら一誠は決して虜にはならず、師としての慕うだけだった。

 

 なじみとしても、気付けば逆光源氏計画の様に育て上げ、今まさに自分の容姿だけで虜にならない変な精神力を身に付けた一誠は寧ろ大好きとも云うべき気持ちがある。

 あるからこそ、さっきからわざと短めのスカートを履いた状態で脚を組み替えてやってるのに見ようとしない一誠はちょっと負けた気分だった。

 

 

「わっかりやすい色仕掛けをしてやってるのに、引っ掛かってくれないとは、僕も育て方を間違えちゃったかな~?」

 

「いや……パンツ見えそうだし、あんまり見るのもどうかと思うだろ。

ましてやアンタだぞ?」

 

「そこだ。

そこで何でクソ真面目な回答するのか。

無垢な頃のお前は何の疑問も持たず、僕の言うことを聞いてくれたのに、悲しいったらありゃしないよ」

 

 

 わざとらしく悲しそうな表情を浮かべるなじみに一誠は渋そうな顔をする。

 

 『どんな女と遊ぼうが構わない、最後の最後で僕のもとに戻ってきてさえくれれば良いからさ』

 

 と笑って言われたのは今でも忘れない。

 殆ど面白半分でものを言うなじみが、わざわざ密着しながら言ったのだ。

 何か入れ込みすぎて別れたがらないダメ女みたいな物言いにも聞こえるが、逆を返せば『お前はずっと僕と一緒』と言われてるのと同義であり、簡単に解釈すれば安心院なじみから逃げられないと釘を刺された様なものだった。

 

 

「恋愛感情ってのを鼻で笑ってやってた僕だが、一誠相手にのみは笑えなくなっちゃったのは割りと本当なんだぜ?」

 

「……」

 

 

 故に、薄い笑みを浮かべて椅子から立ち上がったなじみが地べたに座ってる所に近寄り、しゃがんでその頬に触れても一誠は振り払わない。

 

 

「この僕を師匠と言いながら、大切で大好きな人と笑いながら昔言ってくれたからね。

恐れも、魅力に取り込まれないままのお前に言われちゃえばこうもなるさ」

 

「単に馬鹿で考え無しの餓鬼の戯れ言なんだけど……」

 

「そこが良いんだよ。何て言うか、あの時僕に言ってきた台詞『なじみ的にポイント高い!』みたいな?」

 

「いや、急に声質変えるとこかそこ――もぷ!?」

 

 

 彼女もまた、一誠にとっては血の繋がりだけの関係よりも遥かに優先させる――大事な人の一人なのだから。

 

 

「うんうん、こうすると大きくなった事が直接感じられるぜ」

 

「ぷは! っ……アンタってホント変わらねーな。

餓鬼の頃とまんま同じ匂いだ」

 

「巨乳好きの一誠には僕では物足りないかな……? んっ……」

 

「いや……別にそうは思わないけど――って、どした?」

 

「ちょっと息が当たってくすぐったかっただけさ。

これは困った、なるほど……発情しちゃったよ僕」

 

「はっ!?」

 

 

 安心院なじみの反転じゃない、安心院なじみが本当の意味で助けに参上し、安心院なじみが当然の様に頼る存在になる男。

 それこそが兵藤一誠がかつて彼女と交わした約束であり、幼い頃からされ続けてきたハグもまた約束の内の一つだった。

 流石に最近は恥ずかしくも感じるのであんまりやりたくは無い……と言うとなじみは目に見えて不機嫌になるので一誠は何も言わないが。

 

 

「よし、ここが熱くなっちゃったし、子供でも作ってみるか!」

 

「は!? お、おいおい……そんな可愛らしい顔で何を言ってんだよ!」

 

「いやほら、他の女と遊んでも構わないけど、先に済ませてからでも良いんじゃね、みたいな?」

 

「えぇ……?」

 

「どうする、今すぐここでしてみる?

まあ、外でが好きなら僕は従うよ?」

 

「いやパスに決まってんだろ。この絵面ですら朱乃ねーちゃんにバレたら殺されるわ」




補足

『俺は、俺の好きな人達以外は勝手に死のう滅ぼうが知ったこっちゃない』

これが一番強く前面に出てますね。


その2
ヒロインにとって最も高い壁でありラスボス――それが安心院さん

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