あぁ、短いっす。本編となんら関係ないっす。最新話更新と共に消す予定。
優しい世界……。
読んで字のごとく、何の柵も無い……皆にとって優しい時間軸。
あの子にとっても、その子にとっても、あっちの子にとっても優しい優しい世界へ……。
「ケッ、ぬわぁにがクリスマスだ! こちとら日本人じゃクソボケ!!」
12月25日。
その前日の24日もそうだが、俺にとってはクソとしか思えない日だ。
何故かって? そんなもん決まってる……クリスマスなんぞメディアに踊らされたバカ共がこぞって要らんイベントをやったり、その日に限って男女が集まってイチャコラしたり……。
とにかく俺にとっては悪夢の日でしかねーのだ。
「死ね! そして死ね! 一々集まってイチャコラしやがって! お前ら皆不幸になっちまえバッキャローが!!」
「寒いから窓閉めてよ」
「…………はい」
俺には聖夜の夜とやらを過ごす女の子なんていやしねぇ……欲しいと頑張ってるけどずっとゲットできねぇ。
だからこそ、世の中の不平等さに対する不満をぶちまけるが如く、俺はクソ寒いのに部屋の窓を開け、そこから全世界のバカップル共に向かって恨みの言葉を叫んだ…………幼馴染みのおねーちゃんの部屋の窓からな。
「ちくしょう、クリスマスなんぞ滅んでしまえ」
「中学の最初の方からよく言うようになったよね、そのフレーズ」
「あぁ、クリスマスに託つけて男女が集まって愛を深めるという名の性の乱れを知った今、節だらな行為を助長するイベントなんぞ全部滅べば良いと僕は思います。」
することも無い、誘ってイチャコラする女の子も居ない……とにかく無い無い無い無い尽くしの俺にとってのクリスマスは、滅ぶべき一年間のイベントランキング堂々第一位だと真面目に思っている。
しかし、メディアとキリストに毒された日本の武士共はすっかり骨抜きにされ、街を出て右見ても左見ても男女の組み合わせだらけ。
ナヨナヨした態度でイチャコラしてるのを見てると唾を吐き掛けたくなる俺としては見るに耐えない地獄絵図……。
だからこそ、家が神社で転生悪魔という、キリストと関わらない唯一の知り合いである朱乃ねーちゃんの所に飯をタカりに来た次第なのだ。
「ほら、蜜柑が剥けたよ一誠くん」
「む……サンキューねーちゃん」
和室、炬燵、蜜柑……日本丸出しなスタイルを聖夜なんぞという馬鹿げた雰囲気が全国を覆ってる日でも崩さない姫島家こそ俺の最後の砦であり、炬燵に入ってるねーちゃんは実に日本人らしくて素晴らしいと思う。
見ろ、飲んでるものだってシャンパンじゃなくて緑茶だぜ!
「手が億劫だから食わせてくれよねーちゃん、あー」
「言うと思った。しょうがない子ねぇ……はい」
聖夜の夜に性夜に勤しむ日本の慎ましさを忘れたバカ共に向かっての呪詛の叫びでちょっと寒くなった俺は、ねーちゃんと一緒に炬燵に入り、手を中に入れた状態で蜜柑を食わせろと口を開けて待機する。
こんな寒い日に外に出て彼氏やら彼女に会いに行く奴等の気が知れんよね。
こういう時は炬燵で丸くなる……それが日本人よ! 違うか!?
「もにゅもにゅ……ん、当たりだ……甘いぜ」
「ん、ホントだ」
ねーちゃんに食べさせられた蜜柑の身が思いの外甘く、炬燵の暖かさと合間って頬がちょっと緩む。
これぞ日本人……これぞ日本の心。
クリスマス? それは滅んでしまえバカ野郎だ。
家柄とこの身の状況により、クリスマスというイベントに関しては私には縁の無い話だ。
けれど、まあ……クリスマス云々抜かして、そんな日に大好きな男の子が来てくれるのは嬉しくない訳がない――どんな理由にせよね。
お母さんはそんな私に気を使って近所の人と日帰り旅行に行ったので、今この家に居るのは私と一誠くんの二人きり……。
「チッ、TVもクリスマス一色でつまらん」
「ねぇ一誠くん。私思うんだけど、一誠くんがそうやってクリスマスに恨み言を言うのは何度も聞いてるけどさ、それって矛盾してない?」
「は? どこが?」
二人きりというシチュエーションは何百何千と経験があるので今更緊張はしないし、多分この鈍感一誠くんは全然自覚もしてないと、この反応を見ればわかる。
「女の子と二人きりじゃないの? 今のこの状況的に」
「は? ……………。ふっ、はっはっはっ、そーだねー? 朱乃ねーちゃんと二人っきりだーわーい(棒)」
一誠くんは全然私を異性として意識していない……私の指摘を鼻で笑う辺りがムカツク……。
「なっはっはっはー(棒)」
「む……」
私を見て半笑いな一誠くんにムカムカして仕方無い。
こっちは一誠くんが女性に興味を持ち始めた頃から、その好みに当てはまる女になる為に今も頑張っているのに、当の本人の一誠くんはこの態度だ。キスまでちゃんとしたのにも拘わらずだ。
これじゃあ私としても悲しくなってしまう……。
「なーんてな」
「……え?」
そんな事を考えつつ、この小生意気な態度に軽くお仕置きしてあげようかと思った時だった。
それまでニタニタと他人の琴線に障る態度だった表情だった一誠くんが、別な意味での意地悪そうな……でもちょっとドキッとする薄い笑みを見せるや否や――
「よっと」
「きゃ……!?」
私の手首と肩を掴み、ちょっと乱暴だけど衝撃は然程感じない力加減で私を押し倒した……はぇ?
「え……ぁ……い、いっせー……くん?」
「…………」
吸い込まれそうになる真っ直ぐな瞳、さっきまでふざけて居たのが嘘のような表情と体勢に私は頭の中が真っ白になってしまう。
「な、なにするの?」
「何って……うーん……さぁ?」
ドキドキする胸。徐々に熱くなるカラダ……。
何時もの子供っぽい笑顔じゃない、妖しさを感じる笑みを押し倒された状態の間近で見せられ、ますます頭の中がゴチャゴチャしてしまう私は抵抗しなかった。
いや、抵抗をする気が無かった……。
「ここ朱乃ねーちゃんにもんだーい。
命すら掛けられる程大切な幼馴染みに好きだ好きだと言われ続けても逃げ続けてきたクソバカ野郎が、今こうしてまーす! さぁ、その意味は?」
「わ、わかんな――んんっ!?」
一誠くんがヘラヘラと逃げるからという理由で私からこうする事は数多かったけど、一誠くんからこうされたのは初めてだった……だから一誠くんの逃げ口上みたいにわざと惚けたけど、最後まで言わせてくれなかった。
…………。私からじゃない……一誠くんからのキスのせいで。
「ん……は……ぁ……い、いっせーくん……」
「……。正解はこの為……嫌だった?」
唇が重なります、互いに額がくっつく距離で一端離した一誠くんがちょっと悪びれた顔で私に問う。
その質問に対して私は、答えの代わりにもう一度――今度は私からのキスで応える。
「嫌な訳ないじゃない……。
嬉しいわ……一誠くん……」
幸福。
その言葉が私の全身を包んでいた。
私を縛り付けたのは自分のせいだと、ずっとヘラヘラと逃げていた一誠くんがやっと向き合ってくれた。
それだけで充分幸せで、それ以上の事なんて望まなかった。
けど、やっと逃げずに向き合ってくれた一誠くんは、私の上に覆い被さったままキスをした後、ちょっと乱暴だけど私の上着のボタンに手を掛けながら首筋に舌を這わせてきた。
「……。ムシが良いのはわかってるんだけど……あはは……ちょっと我慢が……」
つまりそれは、一誠くんが『私を求めてる』という事実に他ならない訳で……。
私自身もずっと夢見てきた事が今こうして現実になっている訳で……。
再び罰が悪そうに笑う一誠くんが求めてくれている事実に、更なる幸福を噛み締めた私は黙って身体の力を抜き、繋いでいた方の手の指を絡ませながら一誠くんに言った。
「良いよ一誠くん……。
私のカラダ……好きにしても」
ずっと夢見てきた事なんだ……断る理由なんてない。
寧ろやっと一誠くんが逃げずに私を見てくれたんだ……断るわけが無い。
「……。遅くなったけど言うよ……こんな俺にずっと優しくしてくれた朱乃ねーちゃんが好きだ」
「私もよ……一誠……」
私を救ってくれた男の子。
私だけの男の子……。
他の誰にも渡さない……実の姉だろうと誰だろうと渡さない……。
好きだと言ってくれた大好きな男の子に自分も変わらずに大好きだと返した私は静かに目を閉じ、薄暗くなった部屋で再びその影を一つにした。
「いやねーちゃん……。
それはねーよ、いくらねーちゃんの妄想日記でもそれは無いわ」
「っ! な、何でよ……。私、一誠くんがそうしたいなら何時でも――」
「何でよって……。餓鬼の内からそんな真似したらバラキエルのおっさんにぶっ殺されるだろ……間違いなく俺が」
「あんな人知らないし関係ないもん……」
……。あれだよな、いくら机の上に置いてあったからって、人の日記帳は見るもんじゃないよね。
今日ほどそう思った日はなかったよ……マジで。
「どうせだったら、そこから朱璃さんが登場して瞬時に朱乃ねーちゃんを気絶させ、寝てるねーちゃんの横で朱璃さんによる持て余してた人妻筆下ろしがスタートするってんなら喜んで――――あ、嘘……冗談だからビリビリはヤメテ」
「お母さんと似てるって言われるもん……」
「いや似てるけど、朱璃さんは人妻特有のムラムラさせる色気が……ぐへへへへへ――びべ!?」
「お母さんばっかり贔屓するなんてひどい!」
「ひ、贔屓じゃなくて事実――だもももももも!?!?」
以上……幼馴染み朱乃ちゃんの願望日記の一部。
補足
本当は特別編というのでもっと先を書くつもりでしたが、そのままR-18になるんで妄想日記で片付けました(笑)