オーバーロードと豚の蛇   作:はくまい

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そうして天秤は傾いた

一つ、系譜を辿ろう。

 

そもそもメドゥーサというのは、ユグドラシルというゲームの中では種族の一つとして分類されていたけれども、本来はギリシャ神話に登場する女性の名前だ。

ゴルゴーンと呼ばれる三人姉妹の末の子で、元は目も眩むような美女だったという。

しかし傲慢なメドゥーサが「自分の髪はアテナの髪より美しい」と自慢したことで女神アテナの怒りを買い、その美貌は身の毛のよだつような醜さに、そして自慢の髪は一本残らず蛇に変えられたという物語がある。

その他に海神ポセイドンと、アテナの神殿でみだらな行為をしたため怒られた、などという説もあるが神話について語り始めたらきりがないうえに正解もわからないので以下省略する。

そのあとメドゥーサはペルセウスという若者に怪物として退治される、という落ちまであるのだけれど、この辺りもあまり重要じゃない。

 

ここで一つ言いたいのは、メドゥーサというのは大地母神ガイアという偉大な女神を祖母に持っているということ、間違いなく神という一族に血を連ねているということだ。

 

ユグドラシルに話題を戻すと、石化の蛇(メドゥーサ)という種族は皮膚がなかなかグロテスクな見た目もさることながら、あまりにも状態異常に弱いことからたいへん不人気な種族であった。

けれども石化の蛇(メドゥーサ)には重篤な状態異常時に発動することのできる隠しスキルが存在する。

 

蛇神の憤怒(ラースオブゴーゴン)

 

一定時間プレイヤーの操作を受け付けないが全能力の値が三倍に跳ね上がり、攻撃した相手を二分の一ほどの確率で即死させる。また一部の習得していない職業の第八位階までの魔法を使用可能にして、対象の攻撃を行うようになるという壊れ性能のスキルだ。

攻撃判定はパーティを組んでいる仲間にまで及ぶため、石化の蛇(メドゥーサ)の不人気を加速させるものになっていた。しかし趣味によるあれやそれでソロ活動をすることが多かったおれにとっては、一撃必殺ともなるこの能力は素晴らしい恩恵だった。

ユグドラシルプレイヤーの常識のように推奨されている魔法職をかなぐり捨てて「盗賊」として育成したおれの非常事態における切り札だとも言える。

 

ゲームのときならば、おれも自分がそこまで追いつめられた相手に執拗な執着はしなかった。しかしこれは残念ながら「遊び」ではなく「現実」である。

 

――やつらは、神の怒りに触れたのだ。

 

 

×××

 

 

玉座の間は渦巻くような憎悪と怒りに包まれていた。

目に見えるものと錯覚するほど色濃い負の感情がうねり、ないまぜになって、粘着質な空気が広い空間を満たしている。

シャルティアを除いた各守護者たちも、そして彼らの偉大な支配者であるアインズ自身も、この場にいる誰もが例えようのない激情を抱いていた。

 

アインズが「シュヴァインとシャルティアはなにものかによって精神支配を受けたのだ」と確信して守護者たちに召集をかけてから、一時間ほどが経過した。

遠方に出向いている者のことを考えると人をひとところに集めるにはいささか短い時間ではあったが、守護者たちはその半分の時間で集合していた。

 

そうしてアインズは時計を確認するともう一度、今度は何重にも対策を施した〈水晶の画面〉(クリスタル・モニター)を発動させ、シャルティアとシュヴァインの姿を空間に投影させる。シャルティアはやはり微動だにせず同じ場所で佇んでおり、その一方でシュヴァインは人間の死体を引きずって森の中をさ迷っていた。課金アイテムを使用した厳重な対策が功を奏してか、今回の投影はシュヴァインの感知に触れずに映し出すことができたようだ。

シュヴァインに、そしてシャルティアに、なにがあったのかということはあらかじめ聞き及んでいたが、実際にその光景を目の当たりにするとより強い憎しみが守護者たちの身を焼いた。

 

「…やはりだめだな。念のために時間を置いてみたが、一定時間を経過してもシュヴァインさんのスキルが解除されないのは、間違いなく世界級(ワールド)アイテムの影響だろう」

 

それでは流れ星の指輪(シューティングスター)の効果は無効になるだろう。

 

明確な敵意を見せたシュヴァインよりも、反応を示さないシャルティアのほうが多少なりと安全だろうと――無論、敵の罠があることを想定して――アインズは転移し、シャルティアの精神支配を打ち消すべく超稀少アイテムである流れ星の指輪(シューティングスター)を使用した。しかしその効果を無効にされたことで、シャルティアに、そしてシュヴァインに使用されたのは世界級(ワールド)アイテムだと知る。

 

敵は世界級(ワールド)アイテムを持つ一団。それがどこかに潜んでいるかもしれない危険を考慮しても、アインズは二人を諦めるつもりなぞ微塵もなかった。けれども、刻一刻と時間が迫っていることもまた事実であった。

 

「シュヴァインさんの蛇神の憤怒(ラースオブゴーゴン)は、無差別に攻撃を行うスキルだ。このままではシャルティアと鉢合わせて、戦いになる可能性もある」

 

そうなればどちらかが死ぬまで戦いは止まらないだろう。それだけは避けねばならぬ事態だ。

ともに同行していたはずが、ああやってシュヴァインがシャルティアから離れて行動している理由はわからない。わからないけれど、それが「不幸中の幸い」とも言えた。

 

「ぼ、僕のせいです…。僕がシュヴァイン様のお側から離れなければ…こんなことには…!」

 

掻き消えそうな声でマーレが言葉を発する。その言葉の後半はもはや涙声で、聞き取ることも難しい声だった。

しかしマーレの言葉を聞いたアインズはゆっくりと首を振る。それは違うともと告げた声は、激情渦巻く腹の底から響くにしてはあまりに優しい声だ。

 

「シュヴァインさんはお前に別行動をするようにと指示を出した。同じ状況であれば、わたしも似た指示を出したことだろう。相手がこれほどの脅威だったことは不運であり、わたしたちの不注意だったと言える」

 

マーレは嗚咽を無理に飲み込んでアインズの声に耳を傾ける。自分の泣き声で至高の御方のお言葉を遮ることは許されない無礼だからだ。

 

「けれども、なんらかの非常事態が起こることを見越して、シュヴァインさんはお前という情報を伝達できる人物を残したのだ。それは事実、お前がいてくれたからこそ今回の事態の情報整理はうまく進んでいる。もしお前が情報を持ってきてくれなければ、わたしはシュヴァインさんという友人を、そしてシャルティアという忠義を尽くしてくれている大切な部下を、ほんの一瞬でも裏切られたのではないかと疑っただろう」

 

そこで一つ呼吸を置く。

 

「マーレ、お前は立派に自分の仕事を果たしたのだ」

 

至高の御方のお言葉を遮ることは許されないことだ。

頭の中ではそう理解しているのにマーレの涙は、そしてのどは、あふれる衝動を抑えられずにとうとう決壊してしまった。

両手で目を擦るマーレには見えなかったが、この場に集った守護者たちは全員、目頭を押さえ、涙を取り出したハンカチで拭い、涙の流れないものはアインズのその慈悲深さの感動と崇拝で身体を震わせていた。

 

「さあ顔を上げろ守護者たちよ。我々はかけがえのないものを取り返さなければならん」

 

穏やかな、しかし見えざる敵に対する憎しみに満ちた声が玉座の間に静かに木霊した。

途端、彼らの表情が引き締まる。そこにあるのは主人の命を絶対とする忠臣たちの姿だった。

 

 

×××

 

 

森の中は風の音と、それに身を揺すられる枝葉の音だけが響いていた。

デミウルゴスは手の中に握った最上級アイテムである小刀の存在を確認してから、ぐるりと周囲を見回した。視界はいいとは言い難い場所だ。盗賊やアサシン、その上位職である忍びが身を隠すのならばこのうえない条件が揃った環境だと言えるだろう。

 

デミウルゴスがアインズから拝借した小刀は、ユグドラシルプレイヤーからすればなんということはない、ただ回復魔法の回復量が上昇する程度の小道具に過ぎない。アインズ自身も、課金ガチャのはずれとして手に入れた思い入れもくそもない一品である。

けれども今回この道具の役割はその能力ではない。デミウルゴスは鞘に納まった小刀を懐にしまって一歩足を進める。

 

瞬間、獲物はかかった。

 

「なぁんだ、はずれアイテムじゃないですかやだぁ」

 

背後から心臓の位置を一突き。同時に懐にあった小刀の重さが消えた。

その正確な攻撃は即死耐性と何重にも及ぶ防御魔法がなければ致命傷だったことを想像させる。

 

「…私の元までご足労いただきましたこと、お礼申し上げます。シュヴァイン様」

 

身体から引き抜かれた刀は自分に追撃をしてこなかった。

まだ会話をする知性は残っていると判断したデミウルゴスがゆっくりと振り返ると、そこにはやはり探していた人物の姿がある。

 

整った容貌に流れるような蛇の髪と鱗模様の皮膚。

その造形は至上の芸術のようだと感嘆の溜め息を吐きそうになるのを飲み込んで、デミウルゴスは面白くなさそうな顔で小刀を捨てるシュヴァインを見た。その視線に気づいたシュヴァインは肩を竦めて芝居がかった動作で周囲を見回す。

 

「そんなこと言っちゃって、まだ二人隠れてるでしょ。豚君の目はごまかせないですよぉ」

「私どもの浅知恵は見透かされているようですね」

「そう言われると隠れ場所を見つけられない豚君が馬鹿みたいじゃないですか」

「今回の作戦のためにアインズ様よりかきんアイテムなるものを下賜されまして、シュヴァイン様が隠れている二人を見つけられないのはその恩恵かと」

「まじで? 大盤振る舞いだね」

 

会話をしながら、このお方は、本来はこういう口調なのかとデミウルゴスは考えた。

思っていたよりもずっとくだけた口調に不意を突かれたが、そこに軽蔑などというような感情はない。ただ、やはりシュヴァインが信頼するに足る忠実なシモベには及んでいなかったという事実を再確認して自分自身に落胆した。そしてこれから自分が、自分たちが取るのは「忠実なシモベ」という位置からはひどくかけ離れた行為である。

 

「いくつか質問をお許しください。シュヴァイン様の発動されているスキル、蛇神の憤怒(ラースオブゴーゴン)には二つの解除方法が存在するとアインズ様より聞き及んでおります」

「そうそう合ってるよ、時間経過で解除されることが多いけどね。そのときに打ち漏らしがあった場合の過酷さよ」

「…すでにその一定時間が経過しておりますが、第三の選択肢としてシュヴァイン様ご自身の意志で発動している蛇神の憤怒(ラースオブゴーゴン)を解除するということは不可能なのでしょうか?」

「さぁ、どうだろう。豚君難しいことわかんないですぅ。今のところやろうという発想も浮かんでこないですけれど、デミウルゴス君はそんなことを聞いてなにが言いたいのかな? かな?」

「…第二の選択肢を取るしかない、ということですね」

「えへ」

 

急速に放たれたその一撃は、寸分違わずデミウルゴスの首に狙いを定めていた。

それをぎりぎりで回避したものの、すぐさま二撃目が迫り、刀が脳天目がけて振り下ろされる。

 

「今です!」

「シュヴァイン様、オ覚悟ヲ!」

「はぁん? なぁに?」

 

<次元の移動>(ディメンジョナル・ムーブ)で突如シュヴァインの頭上から出現したコキュートスが攻撃を放った。

衝撃で地面が振動し、追い打ちをかけるようにコキュートスのクラス能力「フロスト・オーラ」で周辺が音を立てて凍てついていく。

 

「やりましたか?」

「イヤ、サスガ至高ノ御方ダ…全撃避ケラレタ」

「万全の装備ではないとはいえ、ご自身のスキルによってシュヴァイン様は普段よりもお強いはずよ。二人とも気を引き締めなさい。そうしないと私たちの首が飛ぶわ」

 

魔法を発動させた以上、位置は感知されてしまったと判断したのだろう。ヒールを鳴らして森の中から現れたのは、先程<次元の移動>(ディメンジョナル・ムーブ)を発動させたヘルメス・トリスメギストスを身に纏ったアルベドだった。

これで周辺に隠れていた人物は出揃った。シュヴァインはそれぞれの顔を見て舌を打つ。

 

「隠れてた二人ってアルベドとコキュートスかよ…がち勢とかつらすぎ…。てか寒い…」

 

コキュートスの攻撃地点からおよそ二十メートル。あの一瞬であの場所まで移動したのか、と守護者三人は舌を巻いた。

だが感心してばかりはいられない。彼らがアインズから命じられたのは、蛇神の憤怒(ラースオブゴーゴン)の二つ目の解除条件である、使用者の体力を現時点から七割を削り取れというものなのだから。

 

「なに? みんなしておれのこといじめに来たの? それとも、…おれにアイテムくれるの?」

 

けして殺さず、しかし体力のほぼ七割という生き物がぎりぎり動ける程度の傷を負わせること。

蛇神の憤怒(ラースオブゴーゴン)が解除されれば、生死の境界に足をつけたような自分の姿を、そしてそこまで追い詰めた守護者たちを「至高の御方」はどう思うだろうか。

きっと、お隠れになってしまうだろう。

アインズの命令を聞いて守護者たちが真っ先にたどりついたのが、その結論であった。

しかし拒否することもまたできなかった。それも「至高の御方」の指示であり、なによりシュヴァインを救出するために示された唯一の手段だったからだ。自分たちの存在理由と至高の御方の開放と。それを天秤にかけたとき、はかりは容易く後者に傾いた。

 

ならばと、そこから彼らの行動は早かった。

現在のシュヴァインの装備による強さの計算を行い、そしてシャルティアと戦うほうを請け負ったアインズとアウラに接触しないようマーレの魔法で広範囲の防御壁を展開させ、シュヴァインをその中へ隔離する策の提案など、綿密な計画が立てられた。

 

至高の御方にお仕えするシモベの中でも計画の立案者がその頭脳の一、二を誇るアルベドとデミウルゴスであり、それを切り込んでいくのが守護者随一の攻撃力を持つコキュートスだ。

そしてシュヴァインにダメージを与える際、一番の難関であるだろう徹底して作られた「問題の装備」は、ナザリック地下大墳墓のシュヴァインの自室にあることは確認済みである。

蛇神の憤怒(ラースオブゴーゴン)を発動させたシュヴァインであっても、三人同時に相手をするのは至難の技であるだろう。

 

けれども。

 

「お許しください、シュヴァイン様」

「ああ、お前の全てを許すとも。……なんちゃってぇ」

 

いつか言われた言葉に、自分が仕えるべき主人の言葉に、アルベドの決意が揺らぐ。一気に距離を詰めて繰り出されたシュヴァインの攻撃はアルベドの脇腹を強く叩いた。

すぐさまコキュートスが切り伏せようとしたところを潜り抜け、シュヴァインは甲冑とも表現できる屈強な肩を押さえ、飛び上がり、虫類の弱点とも言える頭と身体を繋ぐ首の節を狙う。

構えた武器の切っ先は常時発動能力(パッシブスキル)の効果により表面にどろりと毒がにじんだ。

 

「ジュデッカの凍結!」

 

レベル差によって、デミウルゴスがシュヴァインの時間を止めたのはほんの一瞬のことだった。

けれどその一瞬はコキュートスに十分な時間を与える。斬神刀皇が傷を負ったシュヴァインの腹を捉え、叩きつけるように放たれた。

 

「ぃ…ッ!」

 

吹き飛ばされたシュヴァインの身体は木々をなぎ倒して見えない壁にぶつかった。マーレによって展開された防御壁である。

 

「アト何撃ダ。…至高ノ御方ニ我ガ剣ヲ振ルウ日ガ来ルトハ、自責ノ念デ身ガ裂ケソウダ」

「全員が同じ気持ちだともコキュートス。そしてさすがと言うべきか、悲しむべきか、今の攻撃ならばあと数十回は繰り返す必要があるようだ」

 

フロスト・オーラの効果も出ているようだが、この調子だと三日はかかるね、と<生命の精髄>(ライフ・エッセンス)を発動させたデミウルゴスの目はシュヴァインの残りの体力を正確にコキュートスへ伝言する。

 

「…シュヴァイン様?」

 

けれど、戦闘の最中だというのにのろのろと立ち上がって、ぶつかった壁の向こう側へ視線を送るシュヴァインの様子に、追撃を放とうとしたデミウルゴスの手も止まる。解放するために攻撃をしなくてはいけないと理解していても、相手は全てを捨ててでも仕えたい至高の四十一人の一人である。身を案じて心配してしまうのはしかたのないことだった。

 

「アインズ様がいらっしゃる方向ね」

 

体勢を立て直したアルベドが、シュヴァインの見つめる先にいる人物を思い出す。けれどシュヴァインはその方向にアインズがいることを知らないはずだ。盗賊のスキルで感知するにもあまりに距離が遠い。

しかしシュヴァインがその向こうにいると知っている人物をあげるとすれば、それは、

 

「…やめろよ、おれ、こっちには行きたくない」

 

鉄の塊を打ち合わせたような音と、静かな声が響く。

再び距離を詰めてきたシュヴァインの武器とアルベドのバルディッシュがぶつかり合う音、そして嫌悪するかのような表情で呟かれるシュヴァインの言葉だ。

 

「それは、なぜでしょう? …はァッ!」

「なんでだろう、ね、っと、危なかったぁ! はい次ィ!」

 

シュヴァインの攻撃は、三者に、平等に切りかかる。誰かの攻撃を避けるついでとばかりにその先にいる誰かへその切っ先を振り下ろすのだ。踊るように三人の輪の中から外から繰り出される攻撃は、武器の性能もあり大きなダメージを与えてはこない。けれども確実に蓄積していく。

そうして思うようにこちらの攻撃を与えられないこと、耐性を持っていない状態異常が負荷されていくことが、ゆっくりと守護者たちの身体と精神を蝕んでいた。

 

少しずつ動きが鈍くなれば、その隙を逃さずシュヴァインが攻撃を畳みかける。

三人の守護者を同時に相手にしてもこれほどの力を持っているのだ。尊敬の念を抱くと同時に、焦りが守護者たちの内心に産みつけられていく。

 

けれどその心を打ち直したのは、皮肉にもシュヴァインの言葉であった。

 

「ああそうそう、思い出した! 巻き込むから!」

「巻き込む? ぐぅ…ッ!」

「そう、蛇神の憤怒(ラースオブゴーゴン)って無差別じゃん? だから豚君は問題の婆さんだけ殺して、こんなところまで引きずってきたのよぉ。戻ったら意味ないじゃん?」

 

いったい誰を巻き込むというのか。そう問いかける必要もなかった。

 

精神支配を受けた影響でスキルの能力に浸食される直前に、このお方はシャルティアを巻き込むまいと距離を置いたのだ。それが、この不自然に開いた距離の真実だ。そしてその意志は浸食されてなお、堅牢に保たれている。

 

アルベドは唇を噛み締めてシュヴァインをきつく睨んだ。そうでもしないと、すぐに泣いてしまいそうだったから。泣けばさらに隙ができて、相手はそれをついて切りかかってくるだろう。作戦を遂行するためには自分が動けなくなるわけにはいかないのだ。

 

「必ず、必ず私たちが、シュヴァイン様をお助けします」

 

それは言うまでもなく、ナザリックに属するもの全ての総意だった。

 


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