一人、また一人とログインしなくなるギルドのメンバーを見て、寂しくないと言えば嘘になる。
けれども、
人が少なくなったのは、なにもアインズ・ウール・ゴウンだけではない。どのギルドも、全盛期のような勢いは持ち合わせていないのだ。だからこそ、たとえ一人であろうと、おれは奴らの足元から切り崩していくことを決めた。
すべてはそう、
…
「と、思っていた時期がわたしにもありました」
「お久しぶりです、シュヴァインさん。ログを見たら何度もログインされてるのに、全然会えなくて寂しかったですよ」
「モモンガさんおひさです。いやあ、仕事が夜勤ばかりで自由な時間が昼しかなくてですねえ、皆さんが汗水流して働いている間に遊んでいた豚とはおれのことです」
今日と明日は
「皆さんいらっしゃいますかね、モモンガさん。特にタブラさんが今のおれの心境としては来てほしいんですけれども」
「どうでしょう、一応全員にメールは送りましたけど、…皆さん忙しそうですから」
「あちゃー…。まあサービス終了まで一時間はありますし、気長に待ってみましょうよ」
「そうですね」
モモンガさんを慰めるために声をかけたけれど、飽きたゲームの終了日に集まるほうが珍しいだろう。それを言わないのはやはり、目の前のモモンガさんが他のギルドメンバーが来てくれることを信じているからだ。
なんて誠実な人だろうか。そして悪く言ってしまうと、とても、重いです…。
「さて、と。まだ一時間もあることですし」
「シュヴァインさんは外に出られるんですか?」
「ええ。弱小ギルドなら三つくらい落とせるので、行ってきます」
「好きですねえ。弱小ギルドじゃ、レアなアイテムなんてないでしょう?」
「いやいや、最近は過疎化してますから、そうでもないですよ。前なんて平均レベルが七十程度のところが
「それはすごいですね」
「そうなんです! これだから物集めはやめられないです!」
「だいぶ前にペロロンチーノさんが言ってましたよ。シュヴァインさんほど収集癖を拗らせてる人はいないって」
「強欲な豚と呼んでくれてもいいのよ?」
「アバターが
「ぶひー」
蛇なのに豚なのはな、しょうがないな。だって名前がドイツ語で
このハンドルネームにした理由? ギャップ目当てかな。がっかりする的な意味で。
×××
サービス停止日だからといって浮かれていたな? ヴァカめ! たとえサービスが停止する十分前だろうがギルド武器を狙って襲いかかる、それがおれだ!
弱小ギルドは阿鼻叫喚。そうしてスキルで奪い取ったそこそこレアなアイテムデータの一覧を眺めてご満悦なおれ。さすがに
盗賊という職業は、まさに「ころしてでもうばいとる」を体現した素晴らしいスキルが多い。自分の性格を考えて選択したが、このゲームがここまで楽しめるとは思わなかった。
「蛇に盗賊? それで豚とか救いようがねえな!」と笑ったペロロンチーノは絶対に許さないけどな。上位職のアサシンが火を噴くぜ。
そうこうしている間に、モモンガさんから
「ヘロヘロさんがログインしました」
「ヘロヘロさんがログアウトしました。お仕事でお疲れのようで、今日は最後までは残っていかないようです」
「俺は、玉座の間で最後を迎えようと思います。申し訳ないですけど最後の最後ですから、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンも持っていきたいんですけど、いいでしょうか?」
モモンガさん、くっそおもたいです…。
「お、ヘロヘロさんおひさですー」
「おつですー、また会いましょう!」
とヘロヘロさんに
「ぎるめんきたー!」
「ありゃ、残念」
「間に合うかどうかわかりませんけど、今からそっち行きますね」
「それはモモンガさんの武器なんですから、最後くらいどこに持ち出したって誰もなにも言いませんよう!」
とモモンガさんにフォローを入れるおれ、なんてできた豚…! 種族は
×××
「でもこれ無理じゃない? あと一分二十秒で今日が終わるおっおっお」
独り言が悲しいとか言ってる場合じゃない。
最後の記念に弱小ギルドを狩れるだけ狩ってやるぜ、と決めて持ち物のストックを全部空けてナザリック地下大墳墓から出てきたのだからどうしようもない。どういうことかって?
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンもお部屋に置いてきたってことだよ(はあと)はい、しんだしんだ。
しかたないじゃん! 身につけるものを減らせば持てるアイテムが増えるんだもん!
そうして慌てて駆け抜けております第七階層、溶岩。
蛇系の種族の特徴として暑さに、そして熱さに弱いので、視界の端のヒットポイントケージが地味に削れてきております。いや、
それだけではなく、灼熱地帯では蛇系種族はことごとく能力値が下がるから厄介だ。なにこの移動速度。アサシンぞ? おれ
普段なら寒冷地や灼熱地が負荷してくる状態異常を無効化するアクセサリを身につけてお外に出てましたけどね。そうです、手荷物増やすために全部取りました。
自分の予測能力の低さを後悔しつつ愚鈍ながらも走り続けていると、突如として広大な世界を映す視界が傾いた。どうやら走る姿勢を前傾にしすぎたのがだめだったらしい。
こういうリアルな作り込みいらないです。
残り時間は二秒。どうあがいても間に合わない。
「モモンガさん間に合わなくてごめん、今日までありがとう」と
ただ心の中で思いながら、近づいてくる灼熱の地面を見つめていた。
…初めてここまでやり込んだDMMORPGの最後の視界が床ってお前。
「シュヴァイン様!」
身体に衝撃、というか、身体全体を使って転びかけたのを保護された。誰に? 知らん。視界は灼熱の地面と似たような朱色で染まっている。
そうして考えている間もなく支えられた身体を引き剥がされる。ものすごい速度だが、手荒さは全く感じなかった。
「お怪我は!?」
「え」
誰お前、とは言えない。めっちゃ心配していますと言いたげな表情でおれを見上げて来た顔は、ギルドの友人であったウルベルトが自分の中の「悪」という定義を徹底的に詰め込んだNPCそのものだったからだ。
NPC。つまりノンプレイヤーキャラクター。
「ん?」