VRMMORPG-ユグドラシル~非モテ達の嘆歌~【完結!】   作:黄衛門

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第四話 マラを勃たせば

「よくも、よくもくーたんを!」

 

「ハンッ、足下注意だ!」

 

 横に大きく薙ぎ払われたアルフヘイムの剣をしゃがんで避け、ムーンシャドーは足払いする。尻餅を付いたくみんの顔面に、左の剣を突き立てようとしたが、あいんは素早く地面を転がり、それを避けた。

 地面に巨大なクレーターが掘られ、あいんはその中へ、ムーンシャドーは落ちる前に突き立てたバスターソードの柄の底に手をかけ、自重を持ち上げ、穴から脱した。

 

 やはり戦い慣れている。モモンガも、ムーンシャドーの噂は掲示板で小目に触れた事があった。

 曰く、βテスト時代からプレイし、ユグドラシルにおける三割のバグを発見した伝説のプレイヤーと。曰く、希少鉱石の二パーセントの発見と、八パーセントの加工の確立という偉業を成し遂げたと。

 そして初代・第二・第三ワールドチャンピオンにして唯一の伝道入り。某大型掲示板では過去の英雄と称される。が、その実力は常に最先端を行く化け物だ。

 ちなみに三連続でワールドチャンピオンになった際には運営から永劫の蛇の腕輪四つセットを贈られるのだが、未だになし得たプレイヤーはムーンシャドーのみ。

 その事から彼は、とある昔のゲームの主人公の総称から取って、こう謳われている。

 

 イレギュラー、と。

 

 ゲームによくある都市伝説のようなものかと思っていたが、実在したのか。と驚き、そして伝説を刮目出来た事で、モモンガの心の中でるし★ふぁーへの好感度がちょっと上がった。

 

「いい的だな、貴様」

 

「嘗めないでよ旧世代!」

 

 くみんがワールドチャンピオン・オブ・アルフヘイムを、体制を崩した状態で振る。剣は虚空と落ちてきた塵を斬っただけのように見えたが、明らかにオーバーな緑色の波状が放たれた。

 それをムーンシャドーは、上空に居る状態で切り払う。レベルの違う者同士の対決。モモンガのギルドにも一人、ワールドチャンピオンが居るが、彼も同じように戦えるのだろうか。

 

 沸々とそんなドリームマッチを思い浮かべ、胸が燃え盛る炎のように熱くなるのを感じた。

 

 ムーンシャドーの剣を持っていない手首がぱかりと開き、そこから一個の弾が投擲された。

 ボンッ、という鈍い音。しばらくしてからまるで噴火したかのように巨大な爆発が起き、ムーンシャドーの姿を炎で覆い隠す。

 

「……サイボーグまで取り入れてるとは、もはや人間種という名の異形種だな」

 

「色々と規格外過ぎると思うんですけどそれは」

 

 爆発のバーストにモモンガは思わず言葉を差し込む。イビルツリーを爆殺しまくるクリスマスなんぞよりよっぽど楽しく、面白いものを見られた。

 しかし同時に突き付けられた。社会人と本物の廃人との、埋めようのない開きを。

 彼はネオニート、働かずに金が億単位で入ってくる、文字通りの規格外な人間。元より勝てる道理なんぞ無い筈なのだが、こうも見せ付けられたら微妙な気持ちになってしまうモモンガであった。

 思わず放心して、食い入るように見ていたモモンガが率いるリア充狩り部隊。今のうちに他のハッピーloveを狩るべきだろうか。そう計画を立てていると、不意に後ろから声を掛けられる。

 

「……不味いですね」

 

「えっ、永遠の十七才さん。それどういう──」

 

 モモンガの言葉は永遠の十七才が慌てて張った防御魔法と、くみんの放った魔法によって遮られた。

 本来であれば広範囲を焼き尽くす魔法なのだが、クレーター内部で使用しているのでそれらが収縮、凝縮し、さながらレーザー光線のように放たれた超位魔法、フォーリンダウン。

 その名に違わない、天をも焼き付くさんとする炎は、煙の中に居るムーンシャドーに直撃する。

 轟音が鳴り響き、空を焼き尽くす。太陽の光はそれ以上の赤い光によって飲み込まれた。

 フォーリンダウンの余波が、距離も離れ防御魔法を施したというのに、モモンガパーティーのライフを大きく削る。数名かそれに耐えきれず死んでしまったようで、姿を消していた。

 離れていてこれなのだ、直撃したムーンシャドーは無事では済むまい。

 

 大きな黒い煙が、未だにムーンシャドーの姿を隠している。既にキルされたか、それとも。

 

「ふはははは、甘いな! さながら砂糖にメイプルシロップとガムシロップをぶっかけたように!」

 

 煙が晴れ落ちてきたのは、ワールドチャンピオン専用の鎧と剣であった。

 巨大なバスターソードが、くみんへと落ちてくる。

 そして声の主は、ムーンシャドーは、壊れ傾いているバトルホテルの上に立っていた。

 

 嫉妬マスクを被り、パンツを両肩にクロスするようにかけた、筋肉モリモリマッチョマンの変態。両手には没データとなって手に入らない筈の双剣、アヘガオとダブルピース。

 

「たかがワールドチャンピオン程度では、ワールドチャンピオンをも超える難易度と冷たい眼に耐える忍耐力が無ければ手にする事すら不可能な職業に、勝てる道理が無いだろう!」

 

 喋る度に股間がピクピク動き、マスクも輝く。そして指をパチンと鳴らすと、落ちた筈のワールドチャンピオン専用の装備が分解し、ムーンシャドーの股間に集まる。

 ブッビガンと昔のアニメのような音が鳴り響き、ムーンシャドーの股間に息子が形成されていく。

 ずる剥けの大きな刀が、天をも突き犯さんとする息子がいきり勃つ。世界級アイテムとワールドチャンピオン専用の装備が組み合わされた、ユグドラシル史上最高火力とロマンを誇るそれは、決してちんこではない。

 ちなみに根本には蛇が自らの尻尾を加えている模様が描かれている。一応永劫の蛇の腕輪で規制を解除させているのだ。多分世界一の世界級アイテムの無駄遣いであろう。

 

「むっはははははは、新参者に負ける訳にはいかんのでな。とうっ!」

 

「ぐっ、このっ!!」

 

 左手でくーたんを蘇生させる魔法を唱え、右手をムーンシャドーに向け第九位階の雷撃を叩き込む。

 しかしミミズめいて身体を無駄に気持ち悪くくねらせ、それらを全弾回避。

 ちなみに復活したくーたんは囲まれて武器で叩かれている。復活した意味無し。

 肉薄したムーンシャドーはアヘガオとダブルピースでクロス状に斬りかかるが、くみんが咄嗟に爆破スキルを使用し、距離を取ろうとした。そのスキルはワールドチャンピオン専用スキル、ニュークリア・エクスプローション。超巨大な爆発が巻き起こり、大陸を抉るように炎が上がる。

 だが、一歩遅い。ムーンシャドーの股間に取り付けられたムーンシャドーから白い光が溢れ出、その爆発を押さえ込むように広がり、くみんごと爆発を覆い隠す。

 

 そして突如、収縮。それと同時に大きな白い光の搭が、天高くそびえ立った。

 

「これが私の、ドミナントだ!」

 

 爆発をバックに決めポーズを取るムーンシャドーに、モモンガと爆発のバースト、ゾンビっ子ペロペロ、クローバーは惜しみない拍手を送った。

 この時、誰もが勝利を確信していた。アンチアベック・ハッピープレデターの勝利だと、非モテこそがユグドラシルにおいて最強なのだと。

 後はハッピーloveのギルド武器を破壊するだけ、赤子の手をひねるより簡単なお仕事だ。

 

 この時までは、誰もがそう思っていた。

 

「こうも弱者を虐めるのは関心せんぞ、ムーンシャドー」

 

 白い籠手と赤いマントが、煙のなかから覗く。

 モモンガはその声と姿を見て、逃げ出したい気持ちになった。

 とても、顔向け出来ない。半ば巻き込まれたとはいえ、どう言い訳が出来ようか。というかこれの後に待っている説教がとても怖い。

 

「はんっ、戦場に男も女もあるものか。たっち・みー!」

 

 そこに現れたのはアインズ・ウール・ゴウンの前進となった最初の九人の一人、ユグドラシルで三本の指に入る純銀の聖騎士。ヘルヘイムの名を持つワールドチャンピオン。たっち・みーが、くみんを庇うように前に立っていた。

 

「登場早々ロールプレイとは、流石だな」

 

 思わず呟いたクローバーに対し、注目するのはそこじゃないだろとモモンガはツッコみを入れたくなった。




 これ大丈夫かな、ギリR-15だよね……モノホンじゃないし。

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