VRMMORPG-ユグドラシル~非モテ達の嘆歌~【完結!】   作:黄衛門

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第三話 平成魔法合戦どんぱち

 森を抜けた先、切り開かれた大きな場所にはラブホめいた建物が立ち並ぶ中堅ギルド、ハッピーLOVEである。

 光輝くネオン、綺麗に舗道された道。噴水や映画館のようなものがある所から、とても綺麗だったのだろうと推測出来る。

 だがそれも、過去の話しだ。

 

 何せ今は、黒い煙が立ち上る戦場と化しているのだから。

 

「おっ、やってますね」

 

「ですねぇ……さて、私達もやりましょうか」

 

 ゾンビっ子ペロペロが指をパチンと鳴らすと同時に、ゾンビが作り出したアンデッドが走り出す。

 別に思考ルーチンを弄ったとかそういうのではなく、NPCが敵を察知し走り出すと同時にタイミングを合わせ、指を鳴らしただけだ。技術の無駄遣いとしか言いようがない。

 逃げ惑うハッピーLOVEに所属していると思わしきエルフやドワーフ、純人間に異形。必死に抵抗する者も見受けられるが、やはり離れすぎているレベル故に全く相手になっていない。

 ウッドヴォルフゾンビはこちらに向かって逃げてきたエルフの頭に噛みつき、勢いよく身体を回転させる。ネジ切れた首と胴体から、まるで水芸めいた柱を作る。

 ウッドヴォルフゾンビのレベルは七十程度、廃人にとっては取るに足らぬ雑魚ではあるが、エンジョイ総にとっては手強い相手なようだ。

 

「あれ、カップルスレイヤー=サンは?」

 

「……モモンガさん、あそこにいますよ」

 

 爆発のバーストが指差した先では、ゴウランガ!数名程のプレイヤーを空中コンボでバスケめいてドリブルし、空中に浮かんでいた。

 

「切り捨て、ゴーメン!」

 

 そのまま空中で身体を海老ぞりめいて回転させ、足元を爆発。勢いそのまま手元に呼び出した刀ベッピンが、数名の人間種を一気に切り裂く。ワザマエ!

 一人だけやっているゲームが違う気がするのは、きっと気のせいである。

 更に着地した衝撃そのまま勢い付けて、ハッピーLOVEの群生にミサイルめいて突っ込む。まさに無双、ワールドチャンピオンを超えるやもしれんワザマエ。凄い、実際凄い。

 

「……あまり気は進みませんね、PKされた事のある身としては」

 

「テメェ等よくも! 童貞共が俺達に逆らってんじゃねーよ糞が!」

 

「くたばれ!」

 

 モモンガの手から第十位階の魔法、インプローションが放たれ、ハッピーLOVEのギルドメンバーらしき人間を体内から爆発させた。

 何とも綺麗な掌返しではあるが、非モテであるモモンガの地雷を踏みぬいた奴の自業自得である。

 

「ぐぎゃっぱあ!」

 

「勝って勝って、最後に負ける運命かよ……」

 

「何だ、何が起きている!?」

 

 アンチカップル・ハッピープレデターの軍勢が、突如起きた黒い風によって一気にデリートされた。一気に二千人程ロストし、その代わりに五本足の肉塊から無数の触手が伸びている巨大な異形の化物、黒い子山羊が五体召喚された。

 モモンガの所はギリギリ範囲外であったようだが、一気に大部分のギルドメンバーが削られてしまった。

 

「超位魔法、イア・シュブニグラス……だと……」

 

 黒い子山羊を第九位階の魔法で蹂躙しながら、思わずモモンガは呟く。超位魔法、最大レベルの者にだけ許された、一日四回しか使えない魔法。魔法陣といった発動時に現れるエフェクトも無かった事から、相手は即座に発動出来る課金アイテムを所持している事がうかがえる。

 カップルスレイヤーも巻き込まれたのか、姿が見えない。

 日本刀で襲い来る触手を斬り落としながら、思わず爆発のバーストは舌打ちを溢す。十中八九、超位魔法の天才と呼ばれている者の仕業だ。しかも冷却期間があるとはいえ、後三回も使用する事が出来る。

 非常に面倒で厄介な相手だ。

 喧しいモーター音と共に、クローバーのチェーンソーによって二匹の黒い子山羊が瞬時にミンチされる。黒い子山羊はギルドに所属しているプレイヤーとNPCのレベルの平均を半分にし、更にそれを五等分にした性能となる。やはりそれほど脅威ではない。

 脅威ではないが、無視できない相手だ。

 爆発のバーストは二匹のそっ首を斬り落とし、その隙を狙おうと飛びかかって来た二匹のうち一匹をゾンビっ子ペロペロがメスで眼を突き刺し、もう一匹の方をモモンガが心臓のようなエフェクトの出る魔法で一撃で仕留める。

 

 遠くでギルド長らしき金髪のエルフ、くーたんと神話級アイテムに身を包んだ男、ムーンシャドーがつばぜり合いをしている。くーたんの手には一本のショートソード、ムーンシャドーの手には巨大で黒く、文字化けめいた模様の刻まれたバスターソードが二本。ワールドチャンピオン・オブ・アースガルズ。その剣は双剣であった。

 

「何故貴様らは現れる、何故邪魔をする!」

 

「ふん、知れた事よ。リア充を殺す、それが我らだ。論理の有無ではない、我らにはそれが必要なのだ」

 

 一気に後ろへと倒れ、ムーンシャドーはくーたんの腹に蹴りを入れる。緑色の布の服、一応聖遺物級アイテムであるロキの布かけなのだが、アースガルズの名を持つワールドチャンピオンにして、それ専用の装備で身を固めているムーンシャドーにとってはただの布きれ同然。ワールドチャンピオンの前には超位魔法も、使われたらちょっとヤバめな魔法程度でしかないのだ。

 モモンガ率いる部隊はそれの援護をしようとし、すぐにやめた。ムーンシャドーが遊んでいると解ったからだ。

 ワールドチャンピオンであれば、あの程度の相手に後れを取るはずが無い。既に敵ギルド長を倒していてもおかしくない筈だ。

 

「くーたん、私が変わる!」

 

「ふん、いいだろう。やってみろ!」

 

 ムーンシャドーが聖遺物級のアイテムを破壊し、回し蹴りを背中に打ち込み、くーたんをモモンガ達の方へと蹴り飛ばした。

 ロケットめいて突撃してきたくーたんをモモンガは避け、姿を消していた永遠の十七歳に当たって止まる。

 そして代わりにムーンシャドーと戦うようになったのは、同じく金髪の、長い髪のエルフ。くみんだ。装備はワールドチャンピオン専用装備、左手薬指には超位魔法の発動時間をカットする伝説級アイテムの指輪がはめられている。森のように緑色で、カマキリめいた鎧。そして手には同じくワールドチャンピオン専用のアイテム、ワールド・チャンピオン・アルフヘイムが握られている。

 モモンガ達はその戦闘に意識を向けながら、無茶苦茶くーたんを囲んで武器で殴った。




 何故平成なのかというと、タイトルの元ネタが平成だからです

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