VRMMORPG-ユグドラシル~非モテ達の嘆歌~【完結!】 作:黄衛門
アルフヘイムは、今や現実世界では見られなくなった緑豊かな自然を堪能出来る、デートスポットには最適なフィールドだ。
太陽の光が緑の葉を通り、死神の列を優しく照らす。
ここをずっとずっと進んだ場所には、まるでそこだけ転移したように、ラヴホテルめいた建物が立ち並ぶ歓楽街へと出る。そこが敵のギルド、ハッピーLOVEの分ギルドだ。まだもう少し、時間はかかるだろう。
そんなのほほんと平和っぽい場所に、死神は似つかわしくない。最上位アンデッド魔法使い、オーバーロードであるモモンガは、踏み固められただけの道を歩きながら、ふとそう思った。
「皆さん、毎年このギルドに入っているんですか?」
モモンガがふと、自分の部隊に尋ねる。部隊の数は全部で二十一、一部隊に十人という感じになって、それぞれ別々に進行している。
これでは数が余ってしまうように見えるが、それ以外の者には、欠員が出てしまったギルドの防衛を代行してもらっている。これはルーレットによって決められてる。
るし★ふぁーが防衛に、しかも自分のギルドであるアインズ・ウール・ゴウンの防衛に充てられ愚痴愚痴言っていたのを思い出し、モモンガは心の中で笑う。
ユグドラシルのフィールド一つにつき東京の三つ~四つ分ほどの広さを誇る。βテスト時代は処理落ちが激しかったらしいが、製品版ではそれを全く感じさせない辺り、流石変態技術国というべきか。
部隊の代表として、白く動きやすい服装の人間種、爆発のバーストが答えた。白髪で顔に歴戦の戦士っぽい皺と傷が刻まれているが、プロフィール曰く学生らしい。腰には見るからにレアっぽい、日本刀を携えている。
「そうですね。この部隊で始めて見る顔は二つ、俺も一昨年から参加している口です」
「俺はそっから二年前からかな」
爆発のバーストの後ろ、ボロボロの黒い服に黒いズボン、ドクロをあしらったベルトを巻いた、右腕が巨大なチェーンソーになっているオートマトン、クローバーが口をはさんできた。髪は青年っぽい、黒く顔に少しかかる程度の長さだ。
実力は中々のものだが、大学生なのでアインズ・ウール・ゴウンに誘う事は出来ない。
「最初に始まったのが確か……製品版が出て二年後ぐらいだったかな? 流石にその頃の奴等は少なくなってきているらしい」
「少なく? それまたなんで?」
「裏切りだ」
裏切り者、つまるところリアルでリア充になったという事だ。これが普通のギルドであれば称賛するのだろうが、このギルドでは別。裏切り者には死を、何ともナチかソ連っぽい思想である。
モモンガは乾いた笑い声を出す。なんというか終わってるな、と思ったが口には出さない。るし★ふぁーによって無理矢理巻き込まれたのだが、自分も何か悪い気はしないなーと思っていたからだ。
「テキセッキン、テキセッキン。数は二十、四つ足歩行の犬型。ウッドヴォルフと思われる」
人工知能を搭載したアンドロイドという設定で楽しんでいる魔術師、永遠の十七才が機械めいた口調で知らせる。
姿を消す衣を着ているのでその姿は見えず、探知系魔法にも引っ掛からないスキルを保有しているが、代わりに戦闘能力はからっきしであり、レベル三十にも負けかねん程だ。
爆発のバーストは不適な笑みアイコンを出す。このパーティーにはネクロマンサー特化の魔術師、ゾンビっ子ペロペロが居る。ちょうど良い戦力増強だ。
どうでもいいがアイコンの種類と、いつ使うんだという豊富さはユグドラシルの隠れた売りである。
「さて、いっちょやりますか」
「何だかみんな、キャラが濃いなぁ……」
モモンガの呟きと同時、前方に五匹の、緑色の体毛をした、三つ目の狼が現れる。左右後方にもだ。
ウッドヴォルフは森林内では移動速度がとてつもなく速く、しかもステルス性能まであるという、初心者にとってはかなり厄介な相手だ。
とはいえ所詮レベルは一五止まり、この面々なら数でこそ劣っているものの、余裕の相手だ。
「ウッドヴォルフの攻撃には毒性があります、アンデッドとオートマトン、サイボーグ以外は気を付けてください」
「あいよっ!」
そう爆発のバーストが叫ぶやいなや、足下から大きな爆発を巻き起こし、一気に最高速度まで加速。抜いた日本刀を引き抜き、ウッドヴォルフ三頭の首を切り落とす。
「フレイムランス」
残る二匹が爆発のバーストに襲いかかるが、モモンガの手から放たれた火の槍がウッドヴォルフの身体を突き刺し、前足や後ろ足を突き落とし、木に縫い付けた。
フレイムランスは第六位階の魔法、ウッドヴォルフであればこの程度の魔法で事足りる。
「ナイスですモモンガさん」
「ナイスじゃありませんよ、足がないなんて、アンデッドにする時の性能が落ちるじゃないですか。特に爆発のバーストさん! 首を落としたウッドヴォルフなんて、剣の無い剣士みたいなものですよ!!」
非難の声を上げたのは、角刈り頭の優男、黒い眼鏡をかけ白い研究衣を着ている。黒く少々大きめなズボンを、同じ色のベルトで無理矢理ずり落ちないようにしている。
研究員っぽいがれっきとしたネクロマンサー、ゾンビっ子ペロペロだ。
「その点なら問題ないと思いますよ。カップルスレイヤー=サンがやってくれてますし」
「イヤーっ!」
黒く、そして幾何学的な模様が刻まれた鋼鉄のニンジャ装束に身をまとった、『恋』『殺』と刻まれたメンポを付けたニンジャ、カップルスレイヤーはウッドヴォルフ全ての頸動脈を手刀で断ち切り、あまり傷を付ける事なく仕留めあげた。ワザマエ!
「これで構いませんねゾンビっ子ペロペロ=サン」
「アッハイ、ありがとうございます」
カップルスレイヤーにお礼を言ってからゾンビっ子ペロペロは、アンデッド蘇生呪文を使う。
手をパンと叩き、眼を紫色に光らし、大きく口を開けながら上を向く。するとまるでゲロのように苦悶の表情を浮かべる霊が溢れ出、ゾンビっ子ペロペロの頭上で拡散。ウッドヴォルフの死骸へと降り注ぐ。
まるで紙に水を垂らしたように苦悶の表情を浮かべる霊がウッドヴォルフの身体に溶け込む。
すると絶命した筈のウッドヴォルフが、口から絶え間なく涎を溢れさせ、血走った眼をしながら起き上がった。
更にもう一度、今度はゾンビっ子ペロペロの手が赤紫に光り、その光がウッドヴォルフの身体の形を取ると、そのまま実体化した。
するとウッドヴォルフの数が、倍となった。これにはモモンガも思わず吃驚のアイコンを出す。
「……凄いですね、ゾンビっ子ペロペロさん」
「ネクロマンサーと複製師、この二つを極めておりますので、この程度は造作もありません」
「いや、そのエフェクトの作り込み」
「力作ですから」
ユグドラシルは敵モブ以外は死に際の表情や空、星まで作る事が出来る。
魔法は見えないようにしたり発動を速くしたり、当たり判定を大きくしたりする事は出来ないが、遅くしたりエフェクトを派手にしたり、は出来る。これによるメリットはあまり無いが、強いて言うならカッコいい事だろうか。
欠点としては下手すれば魔法のスピードが遅くなる事があったり、当たり判定が小さくなったりする。
つまり、メリットは全く無いという事だ。
「首の無い方はこれに使いましょうか。上位アンデッド作成」
首が無かったり足が取れてたりしてたウッドヴォルフ達の姿が消え、代わりに人の形をした骨の剣士が現れる。右手に巨大なバスターソード、左手には巨大な盾。
使用回数に制限があるアンデッド製作の魔法だ。
「はぁー……いいですね、これ」
「ふふふふ、いいでしょう。黒魔術師っつったら普通こんなのですよね! 後でデータあげますので、フレンド登録しますか?」
「おおっ、やりましょう! 絶対ですからね、絶対ですからね!」
可愛い精霊でも出てきそうな森の中、マッドサイエンティストめいた男と骸骨魔法使いの不気味な笑い声が響き渡った。
獣型アンデッドは耐久力こそ無いが素早さがあり、奇襲には持って来いという設定です。例えるならバイオハザードのゾンビ犬。