えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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 第二章は、裏世界入門編で魔法使いや悪魔に関わっていきます。

―追記(H29 5/23)―
 『魔方陣』の表記について。『魔法陣』の表記が一般的ですが、原作では『魔方陣』と表記されていますので、この作品も原作準拠の表記で統一しています。


第二章 裏世界入門編
第九話 入口


 

 

 

「あー、ちょっと小腹がすいてきたなー。空腹感を消すことはできるけど、根本的な解決にはなっていないし」

 

 公園の電灯の上に新聞紙を敷き、俺は足をふらつかせながら街を一望していた。新聞紙は探索中の必須アイテムなので、必ず朝刊サイズを探索リュックに入れている。寒い時は包まると温かい。電灯の上は鳥の糞まみれなので、こうして新聞紙のおかげで、問題なく座ることができるのだ。

 

 行動開始一日目に、それでちょっと困ったので次から持ってくるようになった。ちなみに「鳥の糞を消す」という選択肢は、俺が「この糞やだなー」と思った瞬間、相棒から先回りの「いやだからね」思念を受けた。相棒の俺への理解に嬉しいような、悲しいような。

 

 さて、そんな風に行動を開始してから四日が経った。さすがに一日で見つけられないかもしれないとは思っていたが、なかなかどこの勢力にも属していなさそうな人物捜索は難しかった。逆に教会関係者は見つけやすい。だってあの人たち、神父やシスター姿だったし。中には白マント女子が何人かいた。あの恰好、原作のゼノヴィアさん達のきわどい戦闘服を思い出してしまい、思わず目を逸らしてしまったのは仕方がないと思う。

 

 念のため、いつでも逃げられるように準備をしながら彼女たちに近づいてみたが、俺の存在に気づかれることはなかった。おかげで、港の中での調査のすすみに関して色々知ることができたのだ。やっぱり女の子が集まると、おしゃべりしてしまうのは表も裏も変わらないらしい。隠蔽係の同僚さんがずっと完徹らしい、のセリフには俺の罪悪感がダメージを受けたが。

 

 

「やっぱり、この『気配を消す』って、本当にアサシンみたいな能力だよなー。便利っちゃ便利だけど」

 

 ちなみにこの『気配』消しだが、厳密に言うとただ存在感を消すだけじゃない。最初はそういう感じの能力だったのだが、道を歩いている時、散歩中の犬に吠えられてしまったのだ。試しに動物に近づこうとすると、すぐに気づかれてしまう。気配も姿も消していたが、結果は同じだった。

 

 その原因は何かと探り、答えは鋭敏な感覚だと俺はあたりを付けた。いくら存在感を消しても、俺の足音や臭い、昆虫なら俺の熱を探知できる。正直盲点だった。はぐれ悪魔は、鋭い嗅覚や聴力を持っている。さらに他の要素で気づかれることだってあるかもしれない。俺はこれに、最初は悩みに悩みまくった。さすがに『足音』や『臭い』まで消していたら、三つの消滅の枠なんてすぐに使えなくなる。

 

 そうして悩んで思いついたのが、「あっ、それら全部を含めて消す様に設定すればいいんだ」というごり押し作戦であったのだ。『気配』という概念を、『相手に己を気づかせる要素の全て』に書き換えたと同時に、動物たちは俺に見向きもしなくなった。改めて、神器すげぇー、と思うよ。

 

 それと、そんな俺のアサシン式情報集めによって、色々なことを知ることができた。はぐれ悪魔が俺のごり押しでしっかりと止めをさせていて、さらにあいつが根城にしていた倉庫の残骸から人の血痕が見つかったため、最近の行方不明者の原因だと判明されたことだ。

 

 それと、そのあたりの行方不明者の遺族やメディア関連への対処が大変だとか、結局犯人の手掛かりが出ていないこととか、何気に助かる情報も多く、最初の三日間を無為に過ごしたわけではない。あと、彼女たちが大きなため息を吐いてしまいたくなる気持ちもわかる。本当にごめんね。

 

 それと、俺がある意味はぐれ悪魔の命を奪ってしまっていたことに関しては、驚きはしたがそれだけだった。直接俺が手を下したわけじゃないのもあるが、あいつには罪悪感より怒りの方が強い。元人間だろうと、あいつはやっちゃいけないことをした。命を奪う抵抗感は消すつもりはないが、俺だって自分にけじめぐらいつける。俺はあいつを倒した、それに後悔だけはしない。

 

 

「夜は悪魔関係らしい人が何人かいたな。堕天使がよくわからないんだよなー、さすがにボンデージを着て歩き回る人はいなかったし」

 

 悪魔かどうかは夜の闇の中を明かりもなしにどんどん進んでいる姿を見たら、夜目が利くのが嫌でもわかる。羽を広げ、空を飛んでいる悪魔も何人かいた。こちらも俺には気づかなかったようなので、俺のスネークはどうやら三大勢力にもある程度通じそうだと確信を得られた。上位者はわからないので、偉そうな人には一切近づかなかったけど。彼らは一般人に見られない様に気をつけてはいるが、だいたい堂々としていたのでよく目立っていた。

 

 逆にどこにも所属していないような人たちは、教会や悪魔のように組織の後ろ盾がない個人のためか、慎重に動いている節が見られる。思えば夜は、表の目が消える分、三大勢力組が活発に動いているのだ。そのため、下手に近づけなくて当然だろう。

 

「となると、朝や昼に人ごみに紛れながら調査をしている可能性がある訳かー。木を隠すなら森の中。一応明日は休みだし、裏路地とか怪しそうな人を色々探してみるかな」

 

 電灯から衝撃を消しながら着地し、使った新聞紙をちゃんとゴミ箱に捨てておく。環境は大切にだ。さて帰るか、とふと視線を巡らせると、遠くのベンチで誰かが寝ているらしいことに気づいた。こんな夜に公園で寝ているなんて、酔っ払いかと呆れてしまう。行方不明者事件や原因不明の港事件があったばかりなんだからさ、今はどこよりも安全だろうけど。

 

 後ろ姿だから顔は見えない。でも、身長や体格的にたぶん黒髪のおじさんらしい。胸は規則正しく動いているので、病気ではないだろう。というかこの人、よく見たら浴衣じゃねぇか? 港の近くだから、風だって十分に冷たい。絶対に風邪をひくだろう。冬じゃないから凍死はしないだろうけど、ちょっと失礼ながら頭は大丈夫かと思ってしまった。でもさすがにこのまま放置して帰るのは、少し気が引ける。せめて起こすべきだろうか。でも話しかけるには、俺は小学生だし、絡まれるのもな…。

 

 そこで俺は数秒ほど考えて。

 

「あっ、もしもし。警察ですか。すみません、たぶん酔っ払いなのか公園で浴衣を着て寝ている人がいて……、はい本当に浴衣です。ちょっとさすがに色々心配なので、起こしていただけたら。はい、あっ、俺もすぐに家に帰りますよ。最近怖いですからね、はい。心配して下さり、ありがとうございました」

 

 声を低めにして、公衆電話終了。よし、帰ろう。どうでもいいけど、浴衣なら女の子の方が見たかった。原作でも、浴衣を着るおじさんはいたが……。そこまで考えて、俺は一瞬足を止めてしまう。いや、まさかな、うん。もう通報しちゃったし、こんなところに堕天使トップが寝ている訳がないだろう。アザゼルさんは、できるチョイワルオジサンなんだから。うん、だから俺は間違った対応は何もしていない。

 

 いやー、善良な一市民を寒空に放置なんてことにならなくてよかったー。俺は早々に家に向かって、真っ直ぐに帰還した。

 

 

 

――――――

 

 

 

「へぇー、俺の予想では酒場みたいな所かと思っていたんだけど、意外にしっかりした建物なんだな」

 

 それから運よく、俺の予想は当たった。港へ続く路地裏を張ってみたところ、フードを被ったいかにも怪しい風貌の男が現れたのだ。しかし何故か認識しても、ふと意識から外れてしまうことに、なにかしら術を使っている可能性があると判断した。俺は『姿消し』から、試しに『俺が受けている術消し』に変更すると、ようやく男の姿をしっかり捉えることができた。この神器、便利すぎる。

 

 どうやら、自身に意識を向けさせないようにする何かしらの術だったようだ。通行人も誰もフードの人物に目を向けていない。たまに視線を向けても、あっさり外されるのだ。確かにこんな怪しげなフード男がいたら、誰だって目を向けてしまうだろうからな。

 

 この程度の術なら、神器で俺への効果を打ち消せるようだ。気配は消せているが、俺は慎重に男の後を追うように移動を開始した。しかしさっきの術、いったいどうやったんだろう。魔力だったら悪魔かもしれないけど、一応魔法使いという線もある。魔術って、人外だけの特権ではなかったはずだし。昼に行動しているから、人間だとは思うけど。まだ確証はないから、下手な行動はしない方がいい。

 

 だけどたぶん、あれはそんなに強い術じゃなかった。目的を持って意識して追えば、たぶんなんとか追えたと思うから。消した時に、俺への負担もほとんどなかったと思う。とりあえず、俺が考えてもわからないことは後回しだ。彼の行動を観察しながら、正体やヒントがないか探っておこう。

 

 そうして、港の辺りを遠目からうろうろしたり、隠れて地域住民の噂話を集めたりする地道な作業の様子を、俺は見学することとなった。この様子からして、彼は情報屋なのかもしれない。それでいて、たぶん術者や人外ではないと考えた。人外なら、こんなまどろっこしいことなんてしない。何かしら術が使えるのなら、もっと効率よく情報を集めるはずだろう。

 

 故に俺は、このまま仕事の様子を見物しながら、最後まで尾行することに決めた。情報集めの勉強にもなるし。そしてやっと終わったらしい作業に伸びをして身体を解していると、フードを公衆トイレで脱いで、そのまま電車に乗ろうとしていた。俺も慌ててついて行くが、どうしよう無賃電車だ。ちなみに『術消し』はすでに切って、『姿消し』に変更している。彼がフードを脱いだと同時に、外界に向けていた術がなくなったのだ。すごい便利道具だな、俺もほしい。

 

 

 そうして俺自身も初めて降りた遠い駅から、ひたすら尾行し続けた結果、見えた建物こそがここだった。なんというか、普通にどこにでもあるオフィス会社みたいだ。まさかの情報屋の正体が会社員かもしれないことに、俺の頬が引きつる。それとどうやら、この建物全体にあの情報屋さんのフードのような効果も感じた。

 

 とりあえず、彼が入り口の自動ドアを開けたと同時に、俺も素早く入り込んで端に移動する。中はエントランスのようで人が何人かいたが、俺に視線を向ける人物はいないようだ。しかし、どうやら俺の心配は大丈夫だったみたいだな。中にいたのは、明らかに会社員らしくない人たちばかりであった。

 

 情報屋さんらしき人は、受付っぽいところで話をしているので、中の様子をじっくり観察しておく。中はそれほど広くない。受付には職員らしい人がいて、待合用の椅子の方には大剣を立て掛けている男性がいる。向こうにいる人は、何やら拳銃の手入れを普通にしているようだ。見られたら、確実に銃刀法違反者である。どうやら色々と俺の想像とは違ったが、ここが俺の求めていた場所のようだ。

 

 それから道案内してくれたおじさんに感謝を心の中で告げ、残りの時間をここに来る人たちの観察に費やした。エントランスの飾りである植木鉢の隅に隠れて、入ってくる人やその様子を見るだけだが、今まで見たこともない世界だった分飽きることはなかった。気持ち的に、段ボールがなんだか欲しくなったけど。

 

 賞金稼ぎっぽい人や情報屋らしき人、人相が悪そうな人もいれば、気弱そうな外見の人がうっとりと鞘に収まっている刀に頬ずりしていたりする。人数は多いという感じではなかったが、濃い人が多いなー、とこんな人たちにこれから関わるかもしれないことに遠い目になった。

 

 しばらくの間はここを観察して、情報を集めよう。大丈夫そうなら、ここと安全にコンタクトが取れるように作戦を練るつもりだ。どんなに頑張っても、俺は子どもでド素人である。不審に思われるのは当然だろうし、見くびられるぐらいならいいけど、それで裏関係初心者であることを理由に騙されたらたまらないからな。

 

 自分でも思うけど、俺のこの臆病な性格はなんとかならないかなー。治したいとは思うけど、……ならなさそうだなー。そんな俺の思考と連動するように、相棒からも何だか肯定されたような思念を感じた。泣きそうになった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 そんなこんなで、早三ヶ月ぐらい過ぎました。俺は会社に偽造しているフリーの集まりの場に、最初はこそこそと入っていたが、今は堂々と入り口から中に入っていた。

 

「あっ、師匠。こんばんは」

「ん、おぉショウか。元気に情報作業は捗っているかな。情報収集は一日にしてならず。地道に足で探り、隅々まで目を凝らし、細部まで耳を傾ける。これが、大事だからな」

「はい、いつも勉強になります」

 

 事なかれ主義というか、余計な諍いは遠慮したい俺は、基本低姿勢で相手に接するようにしている。簡単に言えば、相手の話に合わせたり、相手に不快な思いをさせないように配慮しているだけだ。もちろん、不当な扱いにはしっかり抗議をしないとどんどん悪化する場合があるので、そこはけじめをつける。前世の記憶で、目上の人をしっかり敬う大切さを知っているし、上司にかわいがってもらえるのは、色々とプラスになることが多いのを知っていたからだ。うん、典型的な日本人思考だと思う。

 

 ちなみにこんな風に俺が接するのは、接するだけの価値がある人だけである。フリーの裏関係者は濃い人が多く、中には俺のこの態度を軟弱だと気に入らない相手だっているだろう。みんなと仲良く、なんてまずできる訳がない。俺もわざわざそんな相手に遜りたくないし、いちゃもんをつけられたくもない。そのため俺がここに来るときは、俺に好意的、または無関心な人しかいない時を狙うことにしていた。

 

「それにしても、相変わらず運がいいな。さっきまで『大剣』がいて、獲物に逃げられたって大荒れして、大変だったんだぞ」

「うわぁー、本当ですか。危なかったー」

 

 ちなみに俺は、神器でその時の中の様子を窺って知っていたので、一時間ほど近くの古本屋で立ち読みして難を逃れました。

 

 さて、フード男こと地道に情報集めをして、俺にこの場所を教えてくれた彼は、俺の情報屋の師匠である。あれから何日もこの場所を探り続け、ここで働く人や仕事の情報を俺はたくさんかき集めてきた。それにより、ここがフリーのための依頼所であることをしっかりと確認でき、それなりにルールがあって秩序も守られていることがわかった。ここにしよう、と決められるだけの決心はついたのだ。

 

 そして俺がここに入るために目を付けたのが、俺があの時、尾行していた男性であった。最初に出会った人ということもあり、彼を自然と目で追うことが多く、噂話もよく耳にしたおかげで彼の人柄や性格を把握するのに時間はかからなかった。俺がここに入る手段として考えたのは、ここで働く人からの紹介である。いきなり子どもがこの場所を突き止め、さらに働きたいなんて言っても、間違いなく最初の不審な目は免れないからだ。

 

 俺が隠れて集めた情報を使って黙らせることはできるだろうけど、俺は石橋はとにかく叩いて渡りたい主義なのだ。ちょっとでも不安に思ったら、多少手がかかって遠回りをすることになっても安全を選ぶ。神器で色々情報は探れるが、さすがに裏関係の暗黙のルールとか、実際に関わらなければわからないことは多い。素人が一人でやるより、プロにそのあたりのお約束を習う意味もあって、紹介や仮の保護者(師匠)が欲しいと考えていた。

 

 そんな俺の条件に合いそうだったのが、偶然にも師匠だった。彼は長い間この世界で仕事をしており、仕事を誇りに思っている。情報収集の実力は可もなく不可もなくらしいけど、特殊な力もなく長いこと裏の世界で生きていけるだけの実力はあった。さらに情報は信頼が大切だと誠実な態度で、受けた恩はしっかり返す義理堅い性格。話が長いのが玉に瑕だが、色々勉強になるのは事実なので、必要なことはメモするようにしていた。

 

「それにしても、お前がここに入って三ヶ月か。お前のような子どもが情報屋になりたい、と私に言ってきた時は本当に驚いたな」

「師匠だって、俺をよく弟子にしてくれましたよね」

「くくくっ、私の性格、用意周到な手土産の情報。それだけでお前の本気もわかる。私の情報を調べられ、私の欲しい情報を手土産に持ってこれる時点で、実力があるのもわかった。子どもと甘く見て、命を落とす馬鹿を私は見てきたからな。嘘の可能性も考えたが、私はそれなりにここでやっている。年齢にそぐわぬ力はあっても、年相応にお前の感情は読み取りやすかった。頑張って冷静そうにしていたが、内心テンパりまくっていただろう?」

「……おっしゃる通りです」

 

 さすが師匠。俺の浅知恵なんて、簡単に見通された。彼に対しては、からめ手で行くより、直接交渉をする方がいいと判断した。さらに、こちらからお願いをするのだから、きちんと手土産を用意する。手土産は、彼が探っていた港に関する情報だ。当然話したのは、白ローブの女の子たちから聞いた内容だけだ。事件の調査状況を彼は探っていたため、最も彼が欲しがりそうなものを渡したのだ。

 

 その対価として、裏の世界に関わる切符をもらえるように手続きをお願いした。そんな俺に、彼は色々質問してきて、俺も答えられるものは回答すると、自分の弟子として連れて行ってくれることになったのだ。めちゃくちゃ顔に出るぐらい驚いたが、師匠曰く「お前そのままじゃ、とてもやっていけねぇよ」と容赦なく言われた。三ヶ月経ったからわかるけど、おっしゃる通りでした。師匠がいなかったら、問題を起こしていた件がいくつもあった。

 

 ちなみに、ショウは俺の偽名だ。本名を名乗るなんて、よっぽど自信があるか、後ろ盾があるか、馬鹿だけらしい。名前を考える時、神器の名前からちょっと拝借しようと考えたが、さすがに(くれない)とかカッコいい名前は恥ずかしかったので、普通に消滅の(ショウ)からもらった。

 

 ちゃんと師匠に会った時も変装はしていたんだけど、「お前、変装術下手すぎ」でこれまた一蹴されたな。今はぶかぶかだけど、師匠のお下がりのローブをもらっている。この認識阻害のフードは、布地の裏にルーン文字式が描かれていて、やはりあの認識阻害は魔法力による効果だった。

 

 なんでも、魔法使いの協会『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』で研究している魔法使いが作った作品らしい。まさかここで原作に出てきた、魔法使いの組織の名を聞くとは思わなかった。魔力は悪魔の特権であるが、確か騎士王伝説にも出てくるマーリンという人が、悪魔の魔力などを解析して、人間が使用できるように魔法力を開発しちゃったのだ。

 

 その魔法が使える人間の多くが所属しているのが、番外の悪魔(エキストラ・デーモン)であるメフィスト・フェレスが理事を務める『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』である。俺が人間界で、駒王町以外に居場所がわかっている悪魔の一人だ。確か、旧四大魔王と同じ年ぐらいの古い悪魔だったはず。まぁ、俺が関わることはないだろうけど。

 

 それは置いといて、魔法使いが研究の小遣い稼ぎで、作品を売ったりするようで、それがこういう風に裏で利用されているようだ。効果は一般人に自分の顔が見られないようにする程度なので、小遣い稼ぎで売っても大丈夫なのだろう。原作でも聞いた組織の名前だったけど、魔法使いかー。なんか魔法って響きに憧れちゃうのは、仕方がないよな。

 

 

「それで、次はどんな仕事をするんですか?」

「港の方はだいぶ落ち着いたからな。少し遠出をして、買い物をしようと考えている。来週の休みはあけておけよ」

「日帰りでいけます? あと旅費とか」

「あぁ、安心しろ。稼ぎのない弟子に払わせる気も、遅くまで拘束なんぞもせん。ちょっとした実地体験だ」

 

 やめて下さい、そのニヤニヤ顔。この三ヶ月はとにかくここのルールを覚えるのに必死だったから、依頼なんて受けていなかった。情報集めは最低限行っていたが、港の方は結局俺のところまでたどり着くことはなかった、ってことがわかったから万々歳だ。なんか情報集めの時に、堕天使側が表の警察とよくわからないが少しトラブったらしい、的なことを聞いた気がしたが、たぶん気のせいだろう。

 

「ほれ、とりあえず今日は依頼の選び方を教えてやろう。変な依頼に当たると、お陀仏コース一直線もあるからな」

「はい、本当によろしくお願いします。あっ、いつものお礼に師匠の好きな和菓子をもらってきましたので、よかったら後で食べて下さい」

「……お前、そういうところは本当にまめだな。いただくが」

 

 好感度上げは大事です。俺の前世の記憶にある、育成ゲーやギャルゲーなどで周りの好感度を上昇させる攻略知識は万全だからな。ここの仕事上、女性が少ないから対象はほぼ男性だけど。

 

 何はともあれ、こうして俺の裏世界への介入は少しずつ始まったのであった。

 

 


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