えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第五十話 懸念

 

 

 

 タンニーンさんと酒盛りをするという名目で、行われた皇帝との邂逅。その試み自体は、無事に彼と話し合いをすることができ、さらに一応の方針も決めることができた。だけど、なんだか結局のところ、二人共遠慮なくお酒を飲みまくっていたような気がするけど…。龍って、やっぱりお酒が好きなのかな。ディハウザーさん、めっちゃ絡まれていたよ。

 

 途中から「三男のボーヴァも、荒くれ者のようにふらふらしおってからに。最近の若い者の考えはッ……!」と初耳のタンニーンさんが結婚していて、実は息子もいた報告に俺がジュースを盛大に噴き出したことで大惨事を起こしたりして、最終的にはお開きになってしまった。あと色々話し込んじゃったから、予定よりも時間が過ぎて慌ただしい最後になったような気がする。それにしてもタンニーンさん、本当にお酒を飲んでいただけだったような…。いや、いいんだけどさ。フォローもたくさんしてくれたし。

 

 メフィスト様からアジュカ様に連絡を入れてくれるらしいけど、魔王様は今回のことにOKを出してくれるのかちょっと心配である。ものすごく、ご迷惑をかけちゃうやり方だし。原作では、一応ゲームのことに関して、ある程度の対策はしてある的なことを言っていたけど、突然のことで十年も前だからなぁ…。でもあんな二択なんて嫌だし、魔王様も切り捨てたくない、って言って下さっていた。こればかりは、もう祈るしかないか。

 

「はぁー、終わったんだ……」

 

 俺は、深々と息を吐いてしまった。そう、俺のやるべきことが、ここで全て終わったことになるからだ。もう俺に、この件でできることは何もない。メフィスト様、タンニーンさん、アザゼル先生、アジュカ様、ディハウザーさん。みんなに俺の願いを全て託すことが、俺にできる精一杯だったから。俺の手で解決できないのは、最初から分かっていたことだ。あとは、クレーリアさんたちが救われることを信じて、みんなの結果を待つしかない。

 

 当初の目的だった、皇帝に助けを求めることに成功した。これは、悪魔側に伝手があったからこそできたことだ。だけど、教会側への伝手なんて俺は一つも持っていないため、そっちで俺は裏で動けることがない。『灰色の魔術師』の介入がばれたらまずいので、教会と話をつけることができないのだ。そのため、悪魔側から教会へ働きかけてもらうしかない。もう俺に、できることが見つからないのである。

 

 本当は、最後まで見届けたい。俺にできることは他にないのか、って思う。俺が始めたことなのに、最後は投げっぱなしで他人にお願いするなんて、本当に申し訳ないと感じてしまう。それでも、……ここが限界だろうと思う自分がいるのだ。これ以上先は、人間の俺が土足で踏み込んでいい場所じゃないって。

 

 俺は『灰色の魔術師』の人間だ。メフィスト様にも最初に告げているとおり、俺や組織は裏で動くだけで、表に出てはならない。俺は本来、ここにいてはならない立場である。冥界の問題に関与しないはずの魔法使いがいると世間にばれたら、メフィスト様の政治的介入などと騒がれて大変なことになる。教会側にばれたら、もっとめんどくさいことになってしまう。つまり、皇帝に話をつけられた時点で、俺の役目は終わり。ここから先は、『表』による闘いだからだ。『裏』でもう、俺にできることはない。

 

 

「タンニーンさん、俺はこのまま人間界に戻って、みんなに今回のことを報告して待つ。……ってことでいいんでしょうか?」

「はぁ…、そうだな。お前はもう、十分すぎるほどに役目を果たしただろう」

 

 確認のため俺の今後を聞いてみると、やはりタンニーンさんも俺と同じ見解らしい。確かに俺がこのまま冥界にいても仕方がないし、皇帝の周りはこれから騒がしくなる。手伝えることはあるかもしれないけど、俺の存在がばれる可能性の方が高い。人間界に帰るべきなのは間違いないだろう。

 

「あの、タンニーンさん。俺に手伝えることって、まだ何かあったりしますか?」

「俺としては、お前はもう大人しくしていてほしいんだが……。どうかしたのか」

「その、俺は本当に……後悔しないぐらいに、ちゃんと全部できたのかって。えっと、わからなくて…」

「……あれだけ俺たちを振り回しておきながら、弱気なのは相変わらずか」

 

 龍王様から、どでかい溜息を吐かれた。それに、俺だってちょっと不貞腐れる。だってそう言われたって、不安なものは不安なんだし、しょうがないじゃないか。俺にできることは、全部やるって決めたんだ。何もできなかったことを後悔しないように、俺にできることは頑張るんだって。

 

 目指すべき目標があったから、俺はここまで真っ直ぐに走ってくることができた。だけど、それを完遂してしまった今、本当にこれでよかったのかと不安がふつふつと浮かんでくる。何かやり残しが一個でもあったら、後悔してもし切れないから。もしそれで、クレーリアさんたちが原作と同じように死んじゃったら、……たぶん俺は、立ち直れないような気がするのだ。

 

「だって、俺はみんなにお願いしただけで、全然大したことしてないですし…」

「魔王級の悪魔複数を振り回し、ストライキを唆しておきながら大したことがないか。クククッ、……ちょっとお前の頭、パーンしていいか」

「えっ」

 

 あの、タンニーンさん。実は酔っているんですか。いきなりの頭パーン宣言に訳がわからない顔をしていたら、お店の人に魔力通信でお土産にお酒をまた注文しだした。ドラゴン様、さっきお酒を飲みまくったばかりでしょ。あと皇帝も、「私もお土産に一杯」って一緒に手を上げないでください。お二人共、これからまだ飲む気ですか。

 

 正直、俺のこの考えは、ただの心配のし過ぎなだけなんだろうなと思う。それに、みんなを信じていない訳じゃない。本当に臆病なだけなんだと感じる。それでも、原作の紫藤さんのように、何もできなかったことを後悔して、悔やみ続ける人生なんて送りたくない。俺は、みんなと一緒にこれからも笑っていたいと思うから。

 

 

「まったく、倉本奏太よ。それはな――」

「カナタくん。明日の夜、私と話せないだろうか?」

「えっ?」

「……皇帝?」

 

 迷いが拭えない俺に向けて、ディハウザーさんがどこか逡巡したような様子で声をかけてきた。三日後に話し合うだろうロイガンさんやビィディゼさんについて、考えていた彼の表情はどちらかと言えば暗い。それでも、俺にかけられた声は真っ直ぐに芯が籠ったようなものだった。

 

「時間は作る。私の眷属に協力を頼めば、監視の目を誤魔化しながら、アグレアスを離れることができるだろう。少しの時間でいい、キミと話ができないだろうか」

「そこまで危険を冒して時間を作ってまで、俺と話し合うことなんてあるんですか?」

「……ないだろうね。でも、お互いに必要なことだとも思うんだ」

 

 皇帝の要領を得ない言葉に、俺は首を傾げてしまう。ディハウザーさんには、クレーリアさんのことも、『王』の駒のことも、これからのことも全て話をした。俺からはもう、彼に話をすることが思いつかない。皇帝から俺に話す内容も思いつかない。俺の役目は終わっちゃったんだし、……もしかして、クレーリアさんへの伝言とかだろうか。だけど、お互いにとって必要である、という言葉には何故か説得力を感じた。

 

 話があるというのなら、俺は別にかまわないと思う。どうせあとは、人間界に帰って報告をして待つだけだから。一日ぐらい、帰りが遅くなってもなんとかなるだろう。ただラヴィニアには連絡を入れておかないとまずいから、メフィスト様に言っておかないといけない。あとで謝っておかないとな。

 

 俺がいないのに、倉本家のお世話になるのは、ラヴィニアも抵抗があるだろうと考えていた。だから今日の夜は俺の家に暗示をかけたら、ミルキー魔法使いさんたちの家に泊めさせてもらえるようにお願いしていたのだ。自分の組織のトップのお姫様なんだし、彼らだって丁寧に対応するだろう。ミルキー的にぶっ飛んでいる以外は、普通に良いヒトたちではあるからな。同士勧誘だけは、切実にやめてほしいけど。

 

 話をするのが明日の夜ということなら、帰りも遅くなる。もう一日、ラヴィニアを泊めてもらえるように、お願いしておかないとな。せっかく来てくれたラヴィニアや、メフィスト様にも色々お願いすることになって、申し訳ないんだけど。さすがに皇帝がここまでお願いすることを断るのは、俺も抵抗がある。それに俺自身も、彼と話をしてみたいという気持ちは確かにあった。

 

 

「はぁ…、わかった。皇帝よ、このバカを任せるぞ。こいつがいるのは、俺の眷属の巣の一つだ。こちらから、指示は出しておこう」

「すみません、タンニーン殿。……彼を不安にさせてしまったのは、おそらく私の態度もあるでしょう。そして、何より私自身が、私のファンだと言ってくれた彼と話をしてみたいのです」

「ふん、それで決着はつけられるのか」

「……つけます。これから先の戦いに、迷いを生じさせてはなりませんから」

 

 二人で酒盛りをしまくったおかげか、気安く言葉を交わす程度には親睦を深められたらしい。それにしても、ファンとしての話が聞きたいってどういう意味だろう。確かにクレーリアさんの布教と、実際にゲームを見ていた感想から、にわかだけど彼のファンになったのは事実だ。それでも、俺は人間だからあんまり参考にならないと思うんだけどな。

 

 俺のそんな疑問は、結局は明日に持ち越しとなってしまった。窓の外はさすがは観光地だからか明るいが、それでも空は真っ暗に淀んでいる。人間界の空に比べて、やっぱりどんよりとしている感じだ。時間が迫ったディハウザーさんは、二通の手紙と資料を魔力を使って厳重に転移させると、お酒を片手に椅子から立ち上がった。鳶色のマントを広げた彼に、俺も慌てて椅子から立ち上がって頭を下げた。

 

「ディハウザーさん、その、ありがとうございました」

「あぁ、私の方こそキミにお礼を言うべきだ。私たちのために、この時間を用意してくれてありがとう」

「いえ、俺はみんなにお願いしただけですので」

 

 謙遜や遠慮というか、本当に俺は周りへお願いしただけだからな。皇帝は俺の返答に小さく笑うと、なんだか肩を竦められてしまった。次に、タンニーンさんへ頭を下げてお礼の言葉を告げた後、時間もおしているからか真っ直ぐに部屋の出口へと向かっていった。俺はそれを静かに見送り、扉が閉まった音が耳に入ると同時に、大きく息を吐きだす。やっぱり緊張していたらしく、疲れがドッと一気に押し寄せてきた感じだ。

 

 思えば、テレビとか映画で見るハリウッドスターと、直に話していたようなものなんだよな。クレーリアさんに大量に映像を見せられて、人間なのに冥界のゴシップが詳しくなっていたから余計に。皇帝の出てくる雑誌とか、彼女はいったいいくつ持っていただろう。冥界のベリアル家の実家には、これの数十倍はあると聞いた時のルシャナさんの遠い目が思い出される。布教の恐ろしさが、身に染みて感じられた。

 

 さて、重要なイベントが終わったことで急に重くなった身体に、今さらながら眠気も起こってくる。たぶん、あと少ししたら一日が終わる時間帯だろうし、疲れも相まってうとうとしてきたようだ。予定よりも話し込んじゃったからなー。ちゃんと目に力を入れないと、意識が持っていかれそうだ。

 

 本来ならもう少し早く終わる予定だったから、俺はこの話し合いが済んだら火龍さんの巣で一泊することになっていた。タンニーンさんは明日も忙しいだろうし、これ以上迷惑はかけられない。必死に顔を横に振って眠気をとばすけど、これちょっときついな。顔を洗ってきてもいいだろうか。

 

 

「相棒、この眠気を消し飛ばしてくれないか? ちょっとこれで龍の巣に帰るのはきつそうだ」

「……いや、無理をしても仕方がないだろう。今日はこのままアグレアスに泊まるぞ」

「えっ、タンニーンさん。大丈夫です、まだまだいけます!」

「あぁー、あれだ。人を乗せて飛行をするには、この暗さでは視界が悪い。……だから、お前は特に気にする必要はない」

 

 そこまで甘える訳にはいかない、と慌てて俺が言うと、タンニーンさんは少し逡巡した後、なんでもないように告げてくれた。宿泊費とか宿探しで迷惑をかけてしまうと思ったけど、飛ぶのが危険だってことなら仕方がないのかな。確かにこの暗さで飛行するのはまずいよな。冥界の夜って星がない分、人間界以上に真っ暗だから俺も全然見えない。パタパタと小さい翼を羽ばたかせて飛ぶドラゴンの後ろを、俺も遅れないようについていった。

 

 その時、相棒からの紅の光が頭をよぎる。どうしたんだろうと意識を向けると、タンニーンさんに向けての温かい思念がふと浮かんできた。これは、お礼だろうか? 確かに彼にはお世話になっているしな。

 

「タンニーンさん。相棒からタンニーンさんへなんだかお礼? っぽい思念が送られてきました」

「何、……神器がか?」

「えっ、そうですけど」

「……そうか。いや、俺も息子がいるからな、意地を張るバカにはこっちが折れてやる方が楽なだけだ。気にするな、と言っておいてくれ」

「……どういう意味ですか?」

「さてな。働かない頭で考えても仕方がないだろう。さっさと寝て、すっきりしろ」

 

 相棒からお礼があると告げると、タンニーンさんは眉根を顰めて訝し気な声をあげた。それから、俺にはよくわからない内容を告げられ、首を傾げてしまう。相棒に意識を向けてみるけど、「気にしなくていいよ」的な感じでよくわからない。なんだろう、俺が馬鹿だから理解できないだけなんだろうか。それはそれで、ちょっと心に来るんだけど。

 

 タンニーンさんの言うとおり、あんまり集中できないのは事実である。なんだか相棒がお礼を告げる理由を、タンニーンさんはわかっているみたいだ。あぁー、確かにもう考えるのが疲れてきたかもしれない。とりあえず、アグレアスに泊まるのは決まったんだし、タンニーンさんの言う通り一回眠ってからすっきりしよう。さすがに、今日は本当に疲れたや。

 

 そうして、観光客で賑わう都市の中をタンニーンさんの後ろにくっ付いて必死についていく。もう夜も遅いというのに、様々なところから賑わいを感じられる。こういうところは、人間界の観光地と変わらないな。むしろ、悪魔だから夜の方がはっちゃけているように思う。人間の生活リズムを基盤としているみたいだけど、体力がある分、夜通し騒ぐことができるのだろう。こういう体力面は、羨ましいなぁーとちょっと思う。俺はもう何度目かの欠伸を手で隠しながら、とぼとぼと夜の街を歩いた。

 

 

「倉本奏太」

「あっ、はい」

 

 いくらか歩き、相棒にも何度か眠気を消してもらいながら歩を進めた俺の目には、グレードの高そうなホテルが見えた。もしかして、ここに泊まるのだろうか。結構タンニーンさんって、食べ物や泊まるところとか細かいところも妥協しないよね。さすがは王様だ。生まれも育ちも庶民の俺は、金銭感覚が狂いそうです。

 

 そんな風に圧倒されていた俺に、タンニーンさんから声がかけられた。慌てて姿勢を正すと、彼は相変わらず威厳の感じられる声音と、つぶらなミニドラゴンの瞳を俺に向けてくる。この緊張するんだけど、同時に癒される心境。いかん、変なことを考えていると勘のいいタンニーンさんにどつかれる。ミニサイズだから、容赦なく尻尾で頭を叩かれるのだ。

 

「また変なことを考えているだろ」

「……数秒だけなので、ノーカンでお願いします」

「数秒は考えたのか。……まぁ、いい。先ほどのことだがな、皇帝に任せることにするが、俺からは一つだけ教えておく」

「俺に教えること…」

 

 なんだか、メフィスト様は後ろから背中を押してくれて、アザゼル先生は横で色々教えてくれて、そしてタンニーンさんは前から俺を引っ張ってくれているような気持ちになる。俺に足りないところを的確に告げて、静かに見守ってくれるドラゴン様。彼の小さな背中を見据えながら、俺は彼の教えを待った。

 

「戦いとは、直接矛を向けることだけをさすものではない。今のクレーリア・ベリアルたちのようにな」

「今の、クレーリアさんたち?」

「この先は自分で考えろ。身に余るものを背負いすぎれば、潰れるのは自分自身だ」

 

 いつもとは違い、どこか抽象的な宿題を出されてしまった。頭を捻る俺を一瞥した後、タンニーンさんはそのまま豪華そうな宿泊施設の中へ行ってしまった。泊まることを予定していなかったから、予約していないけど大丈夫なのかな。

 

 そんな風に、夜中にいきなり宿が取れるのか心配だったけど、そこは天下の最上級悪魔の元龍王様。VIPはやっぱり違った。仕方がないとはいえ、一人分の料金しか払えないのが申し訳ない。俺、慎ましくソファーで寝ますので。王様をベッド以外で寝かせたら、他のドラゴンたちに燃やされる。

 

 そうして部屋に着いた俺は、ふかふかのソファーに倒れ込み、すぐに意識が薄らいでいった。正直、こんなにも心臓に悪いことをもう体験したくないな。平和でのほほんとした日常が恋しい。俺、絶対にお偉いさんとかには向いていないや。ディハウザーさんに会えたのはよかったけど、心底自分が小市民なことを実感した。緊張のし過ぎで、情けないけど寿命が縮んだかもしれない。

 

 それにしても、タンニーンさんが言っていた、背負いすぎているって言葉…。頭ではわかっているつもりだけど、それでも俺はみんなと違って知識を持っているんだ。俺は、クレーリアさんと八重垣さんの死を知っている。それが、本当に怖い。世界の流れを知っている、ってすごく大きいことだったんだって、今さらながら感じてしまう。

 

 今までは、皇帝に会うんだ! ってでかい目標があったから他のことを考えずに済んだ。魔王様との話し合いだって、ある意味開き直っていたおかげもあって勢いでやってしまったような気がする。それでも、俺が止まったら、みんなと一緒にいられなくなるかもしれない。それが、俺の行動の原動力になっていたのだ。

 

 だけど、もう俺は止まってもいい立場になった。ずっと目指していた目的を完遂できたことは嬉しい。だけど同時に、懸念が生まれてしまった。どうしたらいいのか、迷子になってしまったようで。

 

 

「……俺も、ちゃんと決着をつけられるのかな」

 

 そんな俺の呟いた声に呼応するように、ふと相棒から思念が感じられた。センチメンタルになっている宿主に対して、「さっさと寝ろ」的な容赦のないものが。……はいはい、わかりましたよ。どうせ考えすぎてもネガティブになりそうですからね。ありがたいけど、手厳しくていじけたくなったよ。

 

 というかそこはさ、慰めてくれたりするところじゃない? はぐれ悪魔の倉庫に向かったときみたいに、「一緒にいるよ!」的なイケメンオーラはどこにいったの。最近俺に対して、本当に雑な感じになっていないかな。

 

 そういえば、相棒って何歳ぐらいなんだろう。赤龍帝のドライグは宿主が移り変わっていたから、相棒も同じように俺の前には別の宿主がいて、その人のことも支えていただろう。だから年上かなー、って思っていたけど、もしかして俺が生まれたと同時にだったら、同じ年だったりするのだろうか。それか、俺が神器に目覚めた時だったら五歳ぐらい? 実は反抗期だったりしているのだろうか。

 

 よし、俺もディハウザーさんに言った通り、自分の気持ちを正直に相手へ伝えてみようじゃないか。話し合いによるコミュニケーションは、大切なものだからな。おーい、相棒。聞いてるー? 宿主は、相棒からの優しさを所望していまーす!

 

 その後、気づいたら意識が途切れていた。寝落ちしたのか、一瞬紅の光が見えたからまさかなのかは、俺の精神衛生上の理由から考えないことにしたのであった。とりあえず、調子に乗りました、と相棒に謝ってはおいた。

 

 

 

――――――

 

 

 

『今日の魔法少女様 事件はお泊りで起こるよ! ラヴィニアちゃん!』

 

 

 

「みなさん、今日の夜はお世話になります。よろしくお願いしますなのです」

「あぁ、食事は簡単なものなら用意できる。ついでに食事中のテレビでは、ミルキーアニメを共に鑑賞しよう。解説は任せておけ」

「お姫様のサイズに合う着替え用の服もいくつかあるから、好きに着替えて構わないぞ。全部魔法少女の正装だから、着てくれたら後で写真を撮らせてほしい」

「せっかくの機会なので、ミルたんもお泊りを楽しむにょ。そういえば、ラヴィたんは魔法が使えるんだにょ。ミルたんと一緒にミルキー魔法を勉強しないかにょ?」

 

 丁寧に頭を下げるラヴィニアと、それを温かく迎え入れる三人。自分たちのトップのところのお姫様故に、彼らなりにしっかり気を遣っているのだが、ところどころミルキーが普通に入り込む。彼らの中では、平常運転なので特に疑問に思わない。ラヴィニアは、これが日本風の歓迎の仕方なのかな? と明らかに間違った知識を植え込まれながら朗らかに微笑んだ。

 

 基本、ラヴィニアは悪意には敏感に反応するが、善意に対しては相当寛容な感性の持ち主である。元々大らかでマイペースな少女なので、相手の価値観や考え方を否定することをしない。また彼女が怒るときはだいたいは他人のためであることが多く、あのヴァーリ・ルシファーでさえ彼女の前ではたじたじになるぐらい頭が上がらない存在なのだ。そのため、善意100%なミルキー信者たちを彼女は当たり前のように受け入れてしまったのであった。

 

 

「ミルたんさんは、魔法を習っているところなのですか?」

「そうだにょ。カナたんも誘って、一緒に魔法使いさんから習っているんだにょ。ただ、カナたんはなかなか都合がつかないみたいで、少ししかできなくて残念だにょ」

「カナくんは今、お友達のことでいっぱいみたいですからね…。そうです、今回の件が終わったら私も一緒にカナくんと習いに行くのです。魔法使いとして、新しい魔法は私も気になるのですよ」

 

 お互いに善意100%、悪意一切なしでほのぼのと会話をする魔法少女(真)と魔法少女(壊)。奏太がなんだかんだ理由をつけて逃げている魔法少女講座であったが、そんなことを知らないラヴィニアは友達と一緒に頑張ろうと逃げ道を無自覚にガンガン塞いでいく。ミルキーについて彼女に詳しく語ろうとしなかった奏太の考えが、ここにきて裏目に出たのだ。南無。

 

「ちなみに、ミルキー魔法とはどのような魔法なのですか?」

「魔法使いさんから教えてもらいながら、魔法についての資料を貸してもらっているにょ。ラヴィたんも見てみるにょ」

「……ッ、これは!? なんて高レベルな術式を用いた魔法なのですか。これほど複雑な方程式を用いながら、使い手が使いやすいように工夫されている。魔法を使用する時、決められたワードと合わせることでキーにして、陣の回路を回すようにしているのですね。さらに、衣装にも特殊加工の術式を使うことで、更なる効率化を図っています。何よりも、ハート形や星形という相手が油断しそうな形状をあえて使うことで、敵の警戒心を緩ませるテクニック。そこに、想定外の破壊力を打ち込むという容赦のなさ。ミルキー魔法が、これほど戦闘に特化した高度な魔法だったなんてっ……!」

 

 今までアニメでしか聞いたことがなかった魔法が、実はとんでもなかったことに日本の魔法少女に戦慄するラヴィニア。ちなみにこのミルキー魔法は、当然のごとく魔王少女様からの改良改善が数百枚の書類からなされた、本物の魔法少女改め――魔王少女魔法である。魔王少女様が、自身の番組で山一つ消し飛ばす時に使用するような魔法だ。そのため可愛らしい見た目に反して、超攻撃特化型なのは言うまでもない。

 

 魔法少女(真)は、本物の魔法使い故に、その魔法の恐ろしさを理解できた。日本の魔法少女、恐るべし。まさか冥界産の魔王少女が介入しているなど、普通に思いつかないことのため、ラヴィニアの魔法少女への理解がインパクトで多少吹っ飛んでしまったのは仕方がないことであろう。これは、誰も悪くないことである。ただ偶然とタイミングが神がかり的に、マッチングしてしまっただけであった。

 

 ラヴィニアの勤勉で真面目な魔法使いとして鑑のような部分が、魔法少女魂に火をついてしまったのだ。これほどの神秘を無下にして、何が魔法使いであろうかと。のほほんとしていた少女の目は、挑戦を受ける様に真っ直ぐに見据えられる。資料を握る手に力が籠り、彼女は決意を新たにしたのであった。

 

 

「頑張りましょう、ミルたんさん! 私も共に頑張るのです。この『ミルキー・サンダー・クラッシャー』の素早い相手にも届かせるホーミング性能、そして『ミルキー・スパイラル・ボム』の熱気による副次的効果と威力。どれも、一級品の魔法なのです。魔法を撃ちだす時に、決められたポーズをとって、セリフも言わなければいけませんが、これほどの魔法です。条件や制限があって、むしろ当然でしょう」

「ミルたんは、ポーズとセリフはすでに習得済みにょ。そこなら、ミルたんが教えられるにょ」

「なるほどです。ミルたんさんのその衣装は、よりこの魔法少女魔法を効率的に扱うために着ていたのですね…。それほどまでに真摯に魔法へと向き合う姿勢、同じ魔法使いとして尊敬に値します。ミルたんさん。これから、カナくん共々よろしくお願いするのです!」

 

 全くかみ合っていないのに、お互いにマイペースに物事を進めて、お互いにそれを訂正せずに受け入れちゃったことで起こった奇跡の調和。ラヴィニアはミルたんの魔法少女(魔法)に向かう姿勢に敬意を称し、ミルたんは仲間と共に魔法の訓練へさらに打ち込むことができる。全然かみ合っていないのに、お互いにWin-Winの関係を築き上げた。さらっと奏太が巻き込まれているのは、もはや仕様なので気にしない。人間界でほのぼのと過ごそうと決めている奏太は、果たして色々な意味で立ち直れるのか。槍さんは真っ先に諦めそうだ。

 

 そんな本人の知らないところで、ざっくざくフラグを勝手に建築していく魔法少女(カタストロフィ)なのであった。

 

 


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