えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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 こんにちは、不定期な更新になっていてすみません。色々考えて、匿名設定を外してみることにしました。今後の作品に関することなどは、活動報告に書いていこうと思います。


第二百二話 幼馴染

 

 

 

「ふぅ、ごちそうさまでした」

「えぇ、美味しかったわ。日本といえば寿司や天ぷらと聞いていたけど、他の和食もなかなか…」

 

 駒王町のショッピングモールを楽しんだ俺達は、事前に予約していたレストランで昼食を堪能した。日本食に興味津々だった冥界組は、至福の表情で口元をナプキンで拭いている。魔法少女達の送迎のおかげで、駒王町の要所は午前中にほとんど回ることができているので、午後はのんびり見ることができるだろう。といっても、後は駒王町の教会本部あたりや、もう一つの駒王町の有名スポットだけだけど。

 

「それで、これから向かうのはイリナの家でいいのよね? 私たち悪魔は、教会に入ることができないけど…」

「それなら大丈夫。『概念消滅』の異能で、教会の聖なる力を無効化してあげるから悪魔でも入り放題だよ」

「今、さらっととんでもないことを言いましたね」

「ノリで悪魔が神に祈っても大丈夫にした実績持ちだからね、奏太くんは」

 

 俺が持つ神滅具(ロンギヌス)が、これまで確認されてきた十三種の神器の中でも殺傷力や破壊力が低いことを聞いていても、何でもないように世界の常識をぶっ壊してくることに、裏世界の皆さまの顔に心労が見えた。だって、できちゃうんだから仕方がないじゃん。俺だって、ちゃんと問題ない相手にしか能力は使わないよ。世間体があるから、あんまり大っぴらに使う訳にもいかないだろうし。

 

 俺の答えに気遣いができるソーナちゃんですら、めっちゃ困惑が顔に浮かんでいた。ここにいるみんなは、今後の駒王町の重要人物達ということで、異世界関係や相棒の正体以外のことは事前に伝えられている。駒王町に神器所有者のための新組織を創るんだし、ある程度の情報の共有は必要だろう。俺ができることも含めて。

 

「奏太さんの神器って、わりと何でもありですね」

「まぁね。制限はあるけど、わりと何とかなるな」

「こいつが能天気過ぎて忘れそうになるけど、使い方次第では神すら滅ぼす可能性があると認められているのよね…。全然そうは見えないけど」

「一言多いんだよ。相棒のおかげだってことは、俺もよーく理解しているけど」

 

 傍から見て俺のことを強者と判断するのは無理だろうからな、見た目もオーラも。実際、相棒なしだとどうしようもないし、鍛えてはいるけど生き残ること優先の鍛え方なので逃げや受けが中心だ。敵から狙われないために忍者みたいな隠密訓練もしているので、必然的に影がどんどん薄くなっていく。俺の異能的に、敵に侮られる方が隙をつきやすいからむしろメリットの方が多いけどさ…。

 

 だけど、俺だって男である。HSDDの後半のイッセーみたいなムキムキの筋肉にちょっと憧れもある。未だに成長期のラヴィニアに身長を抜かされないか、心配しているほどなのだ。いっそ、髭とか生やして威厳をつけてみる? ミルたんみたいな堀の深い顔になれば、威圧だけで強者感が出るだろう。相棒が俺の身体をケアしてくれているので、きっと頼めば俺も高身長でムキムキな身体と、ダンディな見た目を手に入れることが――

 

《やだ》

 

 引きこもりの相棒に、思念じゃなくて直接声を届けたくなるほど拒否られた。マジで一言だけ神託を下ろして、天界に帰っていったぞ、おい…。

 

 

「……イリナさん、どうかしたのですか?」

「えっ? あっ、ごめん白音ちゃん。ちょっと、ぼぉーっとしちゃってた」

 

 そんなショックで固まっていた俺の隣で、オレンジジュースを両手に持った白音ちゃんが、俺以上に上の空のようだったイリナちゃんを心配げに見ていた。食事が終わったぐらいから、目に見えて元気がなくなっていたようだ。イリナちゃんは申し訳なさそうに頭を掻くと、次にもじもじと両手の指を絡めて視線を彷徨わせた。

 

「その、これから向かう教会の傍にはイッセーくん…。私の幼馴染がいると思うの。こうして裏の世界のことを知って、初めて顔を合わせるからいつも通りにできるかなって」

「その幼馴染さんは、表の世界の人間なのですか?」

「うん。でも、私たちと無関係でもないの」

 

 困ったように微笑むイリナちゃんにみんなが首を傾げる様子を見て、お父さんである紫藤さんが補足するように真面目な口調で言葉を紡いだ。

 

「兵藤一誠くん。イリナちゃんと同じ年の幼馴染で、彼自身は普通の一般人なんだけど、当代の赤龍帝――神滅具『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の所有者なんだ」

「――ッ! お兄様からお話を伺っていた、私たちが駒王学園で関係を築く人物ですね」

「二天龍は強力な力と引き換えに、戦乱を呼び込むと言われている神器。駒王町で暮らす私たちにとっても、確かに無関係とは言えません。歴代の所有者のほとんどは赤と白との戦いで亡くなり、その中心地となった土地は戦火に消えていったと言われていますから」

「………」

 

 ゴクリと息を呑む面々。一人、赤龍帝の対である白龍皇と面識のある朱乃ちゃんは、不安げに俯いていた。ヴァーくんには、まだイッセーくんのことは伝えられていない。そして、白龍皇が堕天使の組織に保護されている情報は、上層部にしかまだ伝わっていないのだ。世間の混乱を避けるためでもあるけど、ヴァーくん自身がまだ幼く、ルシファーの正当な血筋でもあるため、慎重に動くべきだと判断されたかららしい。

 

 朱乃ちゃんからすると、弟のように可愛がってきた家族の因縁の相手。アザゼル先生から、駒王町の使者として赤龍帝の説明を受けていた時も、驚きすぎてしばらく固まっていたぐらいだ。朱乃ちゃんのイッセーくんへの好感度はマイナスとはいかなくても、警戒対象程度にはなってしまっているかもしれない。原作みたいに二人が仲良く気兼ねのない関係になってほしいけど、こればっかりは巡り合わせだからな。見守っていくしかないだろう。

 

 そんな緊張を浮かべるみんなに、さらに大事なことだと追加情報を紫藤さんは告げていった。

 

「もう一つ、イッセーくんには重要な立場があってね。おそらく、キミたちもそっちの立場で接することの方が多いだろう」

「せ、赤龍帝以上の立場ですか…?」

「あぁ、そうだ。それこそが、魔法少女と並び立つ駒王町の二大巨頭、おっぱい教の教祖としての立場だ」

『…………』

 

 何を言っているの、この人? という視線を全身に浴びながら、至極真剣な口調のまま紫藤さんは高速詠唱のように淡々と説明していった。

 

「この街だって、最初から魔法少女達と共存できたわけじゃない。大半の住人は大らかに受け入れたみたいだが、魔法少女の存在や現実を受け入れられない住民だっていたし、ツッコミに疲れ果てた者もいた。私たち教会側もなかなか自分の中の常識と折り合いを付けられなくて長年悩んだものさ」

「昔は、この街にも常識人がいたのね…」

「人間慣れるものといっても、常識の齟齬は疲れを蓄積させる。そろそろ精神状態がヤバいんじゃないかって時に、彗星のごとく現れた救世主こそがおっぱい教祖だったんだ」

「前半は非常に納得できるどころか共感できるのに、後半に繋がった因果関係が意味不明過ぎる…」

 

 仕方がないよ、黒歌。イッセーくんといえば、おっぱいだったんだから。駒王町の現状にツッコみ続けていた少年は、紙芝居のおじさんとエンカウントしてから吹っ切れてしまった。あのおじさんは原作でもそうだったけど、イッセー少年に革命を起こし過ぎである。現在は魔法少女組織で伝説のエロ漫画家として、世間でブレイクしているけど。何気に魔法少女組織の収入源のトップ層である。尖った才能って、方向性が合っていればすごいとよくわかる。

 

 傍から見たら、小学生の女子たち(娘含み)におっぱいについて語る一児のパパというとんでもない構図だが、今後駒王町で過ごすなら必須級の情報だ。茶化そうとした黒歌も、紫藤さんのあまりに堂々とした真面目口調にちょっと反応に困っている。紫藤さんも冷静に考えたら変態扱いされるとわかっているから、余計な感情を完全に排しているのだろう。これが今後のリアスちゃん達が目指すべき、長年駒王町に揉まれてきた守護者の姿なのだろう。笑えない。

 

「ツッコミに疲れた駒王町住民のために創られた癒し団体、それこそがおっぱい教。男はおっぱいのもつ母性に癒され、女性は胸や胸の中の悩みから解放される。あらゆるおっぱいを愛で、癒されることを目的とした団体。故に、我々教会側にも認められたのだ」

「イッセーくんはおっぱいの感情を見ることができる力を持っていてね、最近はカウンセリングも人気なんだよ。イッセーくんの前では、全てのおっぱいはひれ伏す運命なのよ」

「あの子は努力家でね。伝説のおっぱい伝道師が描いた漫画を予約特典付きで常にガン見し、あらゆるおっぱいに対応できるように妄想を膨らませ、(ニュー)パワーの訓練を欠かさず行い、常に己のおっぱいへの愛を高めようと頑張っている。まだまだ幼いのに、すごい子だよ」

『意味が分からない…』

 

 イリナちゃんと紫藤さんの説明に、全員が声を揃えて思ったことを口にしていた。たぶん、赤龍帝の正体を知った衝撃とか緊張は、彼女たちの中で間違いなく跡形もなく吹っ飛んだだろう。伝説のドラゴンを宿す者として怯えるよりも、真摯なおっぱい教祖と思った方が接しやすいと判断したのだと思う。ドライグの存在が、どんどんおっぱいに埋め尽くされてきている…。イッセーくんが中学一年生になったら、ドライグのことを伝えるとはいえ、それまでに彼の居場所は残っているのだろうか。

 

 今後もおっぱい教祖として有名になると、敵側の認識が初期からもう「ドラゴン」と「おっぱい」で同列になりそうである。原作のイッセーは、変態ではあったけど最初にドラゴンの力が目覚めて、有名になってからおっぱい覚醒した。だから、わんわん泣くドライグに申し訳なさや、自分が変態であることを謝っていた。どうしようもない宿主でごめん! ってよく言っていたし。

 

 だけど、こっちではおっぱいの力が乳神様の精霊によって、既に開花してしまっている。幼少期から常におっぱいと共にあり、しかも周囲にも大々的に受け入れられ、おっぱいの力で人々を癒してきた実績すら持っている。彼は自分のことを変態だと思っていない。おっぱいは癒しであり、崇拝対象であり、傍にあって当然の認識になっているのだ。その考え方は、神様を信じる教会の信徒と似ているだろう。そういう意味では、イッセーくんはこの世界で乳神様の唯一の信徒なのかもしれない。

 

 つまり、ドライグの嘆きを真に共感できるかわからないということだ。駒王町が魔法少女に溢れ、その傍で育ったイッセーくんは当然ながら清廉潔白な人生を歩んできている。変態や犯罪行為によって、魔法少女に変身させられてきた大人達(紙芝居のおじさんなど)を見ながら成長してきたのだ。見方によっては、壮絶な幼少期である。

 

 そんな彼が、果たしておっぱいと同列扱いされることになる伝説のドラゴンを慰めることができるのか…。むしろ、嬉々としておっぱい道へ引きずり込もうとしないだろうか。あれ、これ真剣にドライグを慰められるというか、彼の気持ちと共感し合えるのって、もうアルビオンしかいなくないか? さすがのアルビオンも、ドライグの現状を知って追い打ちをかけることはしないだろうし。

 

 

「あれ、ちょっと待てよ…」

 

 思わず、小声でポツリと呟いてしまった。万が一、「二天龍の和解」という聖書の神様が絶対に起こらないだろうと想定して作った封印を初対面で解除できれば、赤龍帝も白龍皇も初期からかなりパワーアップされないか。赤龍帝のもつ「倍加」と「譲渡」、白龍皇のもつ「半減」と「吸収」。しかしそれだけでなく、「透過」と「反射」という反則技まで実は隠されているのだ。この力はなかなか凶悪なのだが、ドライグとアルビオンの確執が解消される原作十八巻分まで待たないといけなかった。

 

 術や特殊な防御法、それこそあの超越者に数えられるリゼヴィムの「神器無効化」すら「透過」させて、力をダイレクトに与えられる能力。この能力の発現は、イッセーのリゼヴィムをぶっ飛ばしたいという思いに応えて初めて顕現したものだ。だから、不意の一発を食らって慌てふためくリゼヴィムの様子は見れたけど、イッセーもまさか当たるとは思っていなかったから、当然ながらそこまで重い一撃ではなかった。

 

 ということは、初期からこの第三の異能を鍛えておけば、リゼヴィム戦で「神器の攻撃だから大丈夫」と油断しまくっているおじいちゃんを真正面から全力で潰せる。むしろ、仲間の神滅具全員集合させて、無駄だと油断しまくっているおじいちゃんの前で「透過」を「譲渡」して袋叩きにしてもいい。原作でのヴァーリ・ルシファーは、家族を攫われたイッセーに勝負を譲って、復讐対象である祖父に結局一撃も入れずに終わってしまった。話の展開的に仕方がなかったとはいえ、ヴァーくんの思いを知っている俺としては複雑な気持ちである。彼の無念を晴らす方法を原作知識から導き出せるのだから、少しでも協力してあげたいのだ。

 

 リゼヴィムは、朱芭さんと掲げた目標である「666(トライヘキサ)の復活阻止」の最大の障害でもある。乳神様の存在を隠し続ければ、リゼヴィムの暴走も起こらないかもしれないけど、倒すための想定はいつでもしておくべきだ。本気を出されたらヤバいのなら、「神器無効化」で油断しまくっている隙に一撃で沈めればいい。倒せないまでも、今後の活動に支障が出るぐらいの大打撃は与えるべきだ。そこまで考えた俺は、思考をぐるぐると回し、そのための最善の流れを見据えていった。

 

 初期で「二天龍の和解」を起こすメリットは、非常に大きい。そして、それによって起こるデメリットを頭の中で考えて天秤にかけてみた。……原作知識を知る俺がこれからすべきこと。俺が考えた最善策。それは――

 

「大丈夫だよ。イッセーくんはすごくいい子で、おっぱいの愛に溢れた善良な後輩なんだ。確かに伝説とされる赤龍帝を宿しているけど、そんなことよりもイッセーくんはこの世界で初めておっぱいの恩寵を受けた奇跡の申し子だからね。みんなの胸の悩みとかも真摯に聞いてくれると思うよ」

 

 すまない、ドライグ。世界のために、おっぱいに埋もれてくれ。

 

「そ、そうなのね。赤龍帝の事実って、そんなあっさり隅っこに置いてもいいのかしら…?」

「うん、大丈夫。だって、まだドラゴンは目覚めてもいないんだし。先生も調べたみたいだけど、宿主の素養を考えても赤龍帝が目覚めるのはまだ先になりそうって話だったよ」

「そうなのですか…」

 

 イッセーくんには、今後もおっぱい愛を貫いてもらおうと結論した。むしろ、全力で背中を押そう。キミは目覚めた瞬間から、「おっぱいドラゴン」になるんだ。ドライグの精神はもちろん心配なので、仏教陣営との伝手ができたら、すぐにお薬をもらえるように配慮しておくからね。

 

 そして、アルビオンと早急に和解してください。精神世界で存分に語り合ってください。おっぱいの理不尽さを存分に語って、同じ二天龍として同情をもらって、聖書の神様の思惑を二天龍で打ち破ろう! アルビオンも何故か時々情緒不安定になるから、きっと語り合いたいことも多いだろう。そうしたら、名誉回復のために俺も出来る限り手伝うから。そんな俺の援護フォローに、子どもたちも安心したようにホッとしている。うん、ナイスフォローだったようだ。

 

 おっぱいがゲシュタルト崩壊して、色々パンク気味な子どもたちを乾いた笑みを浮かべるクレーリアさんが先導し、教会及びおっぱい教の総本社に向かうことになった。今更だけど、原作のメインヒーローとメインヒロインの初邂逅なんだよなー。それにわくわくしていたが、まだどこか元気がなさそうなイリナちゃんに、お父さんが心配げに声をかけている。イリナちゃんのオーラは、不安げだが不思議と決意を感じさせた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「クレーリア、ここが僕が使っていた教会の部屋だよ」

「わぁー、正臣が協会に行った後も残してくれていたのね。あっ、ここの柱にある傷って、もしかして…」

「よく見つけたね、懐かしいなぁ…。子どもの頃は早く大きくなって教会の戦士として貢献したかったから、戦士の基礎である身体つくりのために身長が伸びていないか、よく測ってもらった記憶があるよ」

「ふふっ、このぐらいの正臣も可愛かったんだろうなぁー。もちろん、今も可愛いところがあるけどね」

「クレーリアには、いつでもカッコいい僕を見てほしいけど、キミのためならどんな姿でも受け入れるよ。もちろん、クレーリアの可愛いところも」

「もう、正臣ったら!」

 

 これまでは悪魔であるクレーリアさんは教会に足を踏み入れることができなかったが、俺の飛ばした概念消滅の蝶を肩に乗せて、意気揚々と正臣さんとイチャついていた。数年ぶりに会えたエクソシストの同僚とも少しぎこちないながらも挨拶を交わし、教会の人達はクレーリアさんに頭を下げていた。それに、自分達も悪いところがあった、とお互いにペコペコと頭を下げ合っている。その後、この二人のラブラブっぷりを間近で見て、何人かが悔しそうに唇を噛んでいたので、正臣さんが後ろからまた襲われないことを祈ろうと思う。

 

「うわぁー、本当に悪魔が教会に入れちゃったわ。身体は何とも感じないのが、なんか気持ち悪いわね…」

「最初の感想がそれかよ」

「黒歌みたいに明け透けじゃないけど、でも違和感はちょっと感じるわね。たぶん悪魔としての本能というか、意識の問題なんだと思うけど」

「リアスの考えもあっていると思います。本能的な畏れのようなものもそうですが、教会のオーラ自体は私たちを排除しようとしています。しかし、それが害を及ぼす前にこの蝶の力で搔き消されているだけのような感じです。ダメージはありませんが、常にオーラの攻撃を受けている状態とも受け取れます」

 

 つまり、ゲームでいう攻撃力0の攻撃を一方的に受けているようなものか。損害はないけど、邪魔くさいし気分はあまり良くない。こういう常時発動型の場合は、俺の異能もちょっと弱いんだよな。受けたものを消して0にするのは簡単だけど、常に状態異常を与えてくる場合は毎回消していかないとならない。受けた影響を消すことはできても、受ける前に防ぐことはできないのだ。

 

「私は悪魔ではないですけど、ちょっと気後れしそうな荘厳な感じはします」

「明確に拒絶されるのは悪魔だけらしいけど、妖怪も魔の者って括りに入っているからかな。白音ちゃん、大丈夫?」

「姉さまたちほどじゃないので、大丈夫です」

「なぁ、黒歌。仙術で教会のオーラを散らすとかはできないのか?」

「聖なるオーラの混ざったものだと、通常の自然界のオーラを操るよりも難しいってわかるでしょ。できなくはないけど、疲れるし数秒ぐらいしか効果もないから意味もないわよ」

「なるほど。……大本の聖なるオーラを出す供給元に相棒の「概念消滅」をすれば、しばらく止められそうだけど」

「教会が阿鼻叫喚になるからやめなさい。私が後で止めなかったことを、グレイフィアに叱られるでしょうが」

 

 ちらりと聖堂の祭壇にある巨大な天使像を見つめる俺の頭をバシンと叩く黒歌。この聖なるオーラを使って円滑に回るシステムもあるだろうし、こんなことで止められたらたまったもんじゃないだろうと言われる。邪魔くさくはあっても、損害はないから別にいいと告げる黒歌に返事をし、何だかんだで周りのことを考える彼女に成長を感じてしまった。

 

「……けど、そんな状態であそこまで恋人とイチャイチャできる、クレーリアさんと正臣さんって」

「愛だねー」

 

 恋人の生家に初めて入ってハッスルするバカップルそのものだ。両親が異種族同士だからか、朱乃ちゃんは二人の仲をいつもキラキラと見つめている。堕天使である朱乃ちゃんは教会の敷地内も特に問題ないようで、悪魔側が教会に用事があった時は彼女に任されることも多くなるだろう。俺の能力があっても、リアスちゃん達の様子的にあんまり来たい場所ではなさそうだからな。クレーリアさんなら、嬉々として来そうだけど。

 

「ご無沙汰しています、奥さん。五年前は、本当にご迷惑をおかけしました」

「お久しぶりね、八重垣さん。元気にやっているみたいで安心したわ。あの人ったら、あなたが駒王町に帰って来るって聞いてから、ずっと落ち着きがなかったのよ」

「そ、それは言わなくてもいいじゃないか…」

「パパはママには、頭が上がらないもんねー」

 

 娘と妻に弄られる紫藤さんに、正臣さんは懐かし気に笑っていた。正臣さんにとって、師であり、父であったのが紫藤トウジさんなら、きっと母親のように感じていたのがイリナちゃんのお母さんだったのだろう。心配をかけたことや、迷惑をかけてでも我が儘を通したことを、しっかり頭を下げて謝っていた。それに仕方がなさそうに笑った奥さんは、「今後は、娘のこともよろしくね」と寂しそうに微笑みを浮かべた。悪魔と教会関係者では、なかなか会うのも難しいだろうから。その願いに、正臣さんは力強く頷いているのが見えた。

 

「まぁ、クレーリアさんは外国で喫茶店を経営していたのね」

「はい、といっても趣味のようなもので、日本食がやっぱり恋しかったんですよね」

「羨ましいわ。私ね、いつか自分の店を持ちたいって思っていたの。表で暮らしていた私が夫を射止められたのも、胃袋を先に掴んでおいたのが大きいものね」

「素敵なお話です! 私も駒王町の管理をリアスちゃん達に引き継げたら、この街でお店をもう一回開きたいなって思っているんですよ」

「あら、本当に? イリナが私の手を離れたらって思っていたけど、その時は私も一枚かませてくれないかしら。これでも調理師の免許はしっかり持っているのよ」

「もちろんです!」

 

 イリナちゃんのお母さんは溌溂とした人で、無邪気な笑顔が娘さんそっくりだった。悪魔であるクレーリアさんと楽しそうにおしゃべりをする姿に、さすがは紫藤さんの奥さんだなとしみじみした。彼女は元々一般人で、夫である紫藤さんの仕事についても全ては知らないらしい。それでも、献身的に夫を支え、原作では突然のイギリスへの引っ越しにもついて行き、天使になった娘の将来を応援していたのだから。イリナちゃんのテンションの高さと天真爛漫さは、お母さん譲りなんだな。

 

「ねぇ、ママ。今日もイッセーくんはいつものところにいる?」

「えぇ、いつものお社にいるわよ」

「そっか、うん…」

「イリナ、イッセーくんにあのことを伝えるのは、もう少し先でもいいんじゃない? 別に今日じゃなくても…」

「ううん、いつか言わなくちゃいけないことに変わりはないから。それに一年だけだもん。教会の使者の代表として、うじうじなんてしていられないわ!」

 

 初めて目にした教会の建物の内装を物珍しそうに眺める探検組だったが、ふと耳に入った紫藤母娘の会話に俺は首を傾げた。先ほどから目に見えて元気がなかったイリナちゃんだけど、もしかして何かイッセーくんに伝えることがあったからだろうか。裏のことを話すのはイッセーくんが中学生に上がってからのはずだから、それ以外のことだろうけど彼女がこんなに深刻な顔になる話なんてあったっけ?

 

 彼女たちに事情を聞くことに躊躇した俺は、傍にいた紫藤さんに声をかけて、先ほどのことを聞いてみた。家庭内のことや個人的なことならあまり深入りはしない方がいいんだろうけど、とりあえず聞いてみるだけ聞いてみたのだ。それに紫藤さんは一瞬難しい顔をしたが、これまでイリナちゃんと過ごしてきた俺も無関係ではないからと口を開いてくれた。

 

 

「奏太くんには、まだ伝えていなかったね。イリナちゃんが一年ほど、英国の教会本部に行くことを」

「えっ!? 英国の教会本部にですか?」

「イリナちゃんは教会の代表として、将来この駒王町で使者の役目を担うことになった。だけど、これまであの子は一般人として過ごしてきたんだ。教会での暮らしや思想は知っていても、裏の世界についてはほとんどわかっていない。教会で正式に洗礼を受けたわけでもなく、きちんとした訓練も受けていない。教会の代表なのに、教会の在り方や戦士としての覚悟もなく、重要な役目を任せるわけにはいかないだろう」

「だから、イッセーくんが駒王学園に入学するまでの間に、教会側の在り方や戦闘訓練を本場で受けてくると…」

 

 まさかの内容に言葉を失ったが、教会側の考えもわからなくはない。イリナちゃんは確かに教会所属のエクソシストである紫藤トウジさんの娘で、教会暮らしだから神様の教えを理解していて、重要人物である赤龍帝の幼馴染である。しかし、それでも少し前までただの一般人の小学生女子だったのだ。悪さをする悪の組織や不良高校生を拳でアーメンする行動力はあったけど。

 

 教会側も、代表として着任してもらうイリナちゃんを知らないまま任せるのは無理だろうし、それなりの力量が求められる役職だからこそ、しっかり訓練も受けさせたい。イリナちゃんも最初は日本から離れることに悩んだみたいだけど、英国で修行をしなければイッセーくんの傍にいられないと言われて決断したらしい。ここに来てのイリナちゃんの教会入りは予想外だったけど、イッセーくんの傍にいるために覚悟を決めたイリナちゃんの決意に驚かされた。

 

「イリナちゃんは一年という短い期間で、立派な教会の戦士として認められなくてはならない。親としては無理をしすぎないか心配ではあるが、きっとイリナちゃんならやり遂げてくれるとも信じている」

「はい、俺もそう思います」

「あと、イリナちゃんは友達作りが上手だからね。教会から駒王町に派遣できそうな同年代の戦士と何組か組み合わせて任務を受けさせたいらしい。イリナちゃんとの相性もあるだろうし、そのあたりの選定も兼ねているようだ」

 

 そういえば、以前ミカエル様達が教会から駒王町に派遣できる、赤龍帝と同年代の戦士を複数人送りたいって言っていたはずだ。その内の一人がイリナちゃんで、もう何人かは彼女と相性の良い人物を選びたいってことか。今後の聖書陣営の中心地となる駒王町を守護する役目を担うなら、それなりに高い実力者が必要だろう。あと、裏方のサポートとしてバックアップする人材だって重要だ。これはもしかしたら、原作の教会三人娘が見られるかもしれない?

 

 同年代ってところはクリアーしているし、二人とも選ばれるだけの実力やサポートスキルは十分にある。それに神器症の治療や妹分のイリナちゃんのパートナー探しと称して、デュリオ達と教会の様子を見て回れる機会もあるかもしれない。イリナちゃんを口実にするのは申し訳ないけど、聖剣って強そうだからって理由をつけて回っていけば、イザイヤさんのいる聖剣の研究施設にいずれ辿り着く可能性はあるだろう。

 

「外国への出発って、もしかしてもうすぐですか?」

「急ではあるけど、英国での暮らしにも早めに慣れておかなくてはいけないからね。今回の探検ツアーで悪魔側と堕天使側の使者と問題なく手を取り合えそうなら、本格的に修行の準備を始めると事前に家族で決めていたんだ」

「じゃあ、イッセーくんには…」

「イリナちゃんが外国に行くことを、まだ兵藤家の皆さんには伝えていない。一年だけとはいえ、幼い頃からずっと一緒に育ってきた友達と離れ離れになるんだ。お別れはちゃんと自分から言いたい、というイリナちゃんの気持ちを親としては汲んであげたい」

 

 それから、何回も深呼吸をするイリナちゃんの後に続いて、教会の隣にある敷地に設置されたおっぱい(やしろ)に向かって歩を進めた。リアスちゃんたちもイリナちゃんの外国修行のことを聞いて、それならイッセーくんとの初邂逅は短めにして、まずは彼女の事情を優先してあげてほしいと告げてくれた。上の空だったイリナちゃんのことをずっと心配していたからな。出会ってまだ半日ぐらいだけど、彼女たちの中でしっかり友情を築くことができていてよかったと思う。

 

 

「じゃあ、これからおっぱいカウンセリングを始めます!」

 

 そして辿り着いた先で、おっぱいの悩みを打ち明けに来た女性を前に、癖のある茶髪の男の子が真剣な表情で片手を掲げていた。以前乳神様の精霊さんからいただいた加護を鍛え上げ、教祖としておっぱいの悩みを聞いてきただけあってか、小学五年生にも拘わらず不思議と貫禄を感じてくる。

 

 兵藤一誠とおっぱいは運命共同体ぐらいな気持ちではあったけど、こうして目にするとどうしてこんなことになっちゃったんだろうとしみじみ思う。原作同様におっぱいで突き抜けているのに、方向性のベクトルが迷子である。目を瞑っていたイッセーくんがカッと目を見開くと、突き出した右手を女性の胸に向けていた。

 

「美しいおっぱいさん、あなたの胸の奥に隠してしまっていた気持ちを今こそ解き放つんだ! 『乳 心 解 放(パイフィーリング)』ゥゥッーー!!」

「あぁぁんっ! あぁァァァッーー!! ひゃん、む、胸が熱く…、気持ちが高ぶってっ……!?」

 

 やだ、この子。いつの間にかおっぱいの新技開発しちゃっているんだけど…。胸を手で押さえてビクンビクンするお姉さんと、おっぱいの周囲をキラキラと輝かせるイッセーくん。とんでもない構図である。

 

「お姉さんの胸の内に隠してしまっていた気持ちを俺が解き放ったんだ。おっぱいは素直な思いを俺に教えてくれる。その胸に感じる熱さこそ、お姉さんの思いの強さなんだよ」

「こ、こんな私に、こんなにも熱い気持ちが…」

「お姉さんは夢を諦めなきゃいけないって話していたけど、本当にそれでいいの? 後悔しないって言えるのか? 俺は子どもだから無責任なことしか言えないかもしれないけど、それでもお姉さんの胸の内に秘めていた思いの強さは本物だよ。だから、俺としては諦めてほしくないって思うかな」

「うっ、うぅっ……! ほ、本当は諦めたくない。だけど、私じゃ無理だって思って、勝手に後ろ向きになって…。でも、私、もう少し頑張ってみてもいいのかな。この胸の気持ちと一緒にっ!」

「もちろんだよ、お姉さんならできる! お姉さんの未来に、おっぱいの加護がありますように」

 

 めっちゃカウンセリングしてるー。泣き止んだお姉さんは、ペコペコとイッセーくんに頭を下げると、大変晴れやかな表情でおっぱい教から去っていった。乳神様の精霊がイッセーくんに授けた加護は、原作の胸の内を盗み聞ける「乳語翻訳(パイリンガル)」の下位互換で、おっぱいの感情がわかるという些細なものだったはずだ。それをここまで昇華させるとは、イッセー少年のおっぱいにかける情熱の高さを遠い目になってしまうほど感じた。

 

「お疲れ様、イッセーくん!」

「あれ、イリナ。今日はおばさんから大事な用事で出かけているって聞いたけど、もう帰って来たの?」

「うん。私の家……教会をお客さんに案内するついでに帰って来たの」

「お客さんって…」

 

 イリナちゃんの呼びかけでようやく気付いたイッセーくんは、こちらに目を向けて驚いたように目を見開いた。お馴染みの俺のことはさておき、赤髪や白髪や灰色、よく見る黒髪だけどどこか浮世離れした容姿を持つ美少女たちが並んでいるのだ。それなりに駒王町の女子グループに揉まれてきたイッセーくんでも、さすがに目を奪われているようだった。

 

 イリナちゃんが呆けているイッセーくんにムッと唇を尖がらせると、「初対面のヒトを見過ぎだよ、イッセーくん」と軽くチョップをしていた。それで正気に戻ったイッセーくんは、慌てて挨拶をしてペコリと頭を下げている。おっぱい技を初見で見てしまった面々もようやく正常に動き出し、「これが今代の赤龍帝……、いえ、おっぱい教祖の力なのね」と感心するように呟いていた。もう彼女たちのイッセーくんの印象は、完全におっぱいで固まってしまった瞬間であった。

 

「ごきげんよう、私たちはイリナの友達なの。一年後に日本に留学をするために、下調べとしてイリナにこの街を案内してもらっていたのよ」

「えっ、この街にですか!? 大丈夫でしたか? 普通の人は丸太が飛んでいたり、魔法少女がいたり、雪女(ゴリラ)が道路を走っていたりして、すごく驚いたと思うんですけど」

「こいつ、女の胸を光らせておきながら、この街に来て一番まともな感性をしているわ…」

 

 そりゃあ、何年もこの街の現状を諦めずにツッコミ続け、それにちょっと疲れてしまった結果、目覚めたのがおっぱい教祖な訳ですから…。おっぱい関係以外は、本当に一般的な感性を持っている貴重な人材だよ。俺がそう言うと、さっきまでおっぱい技に頬を引きつらせていた黒歌も、「変態でもいいか、感性がまともなら」と好感度が上がったらしい。黒歌の中の好意の基準が、この街に来てからだいぶバグってきている件。

 

「えぇ、魔法少女には驚いたけど、丸太に乗せてもらえて貴重な経験ができたわ。一年後の留学が楽しみなぐらいよ」

「さすがはイリナの友人、メンタルが強すぎる…。それでえっと……」

「ごめんなさい、まだ名乗っていなかったわね。私はリアス・グレモリー。今日は見学のみだけど、一年後この街に留学に来たらぜひ仲良くしてほしいわ」

「えっ、俺とですかッ!? は、はい、俺でよければ喜んで! あっ、俺は兵藤一誠で、みんなからはイッセーって呼ばれています」

 

 年上の美少女外国人にニッコリと笑顔を向けられて、照れくさそうに頬を赤らめるイッセーくん。女の子に揉まれまくった所為で、若干悟りが入り出していたから心配だったけど、ちゃんと男の子らしい初々しさが残っていて何よりである。その後、ソーナちゃん達も自己紹介をして、白音ちゃんは胸を光らせる技を見てちょっと及び腰だった。大丈夫だよ、イッセーくんも理由なくおっぱい技は使わないと思うから。魔法少女達に道徳を鍛えてもらったという実績持ちだし。

 

 「ふーん、弱そうだけど、まぁ合格にしてあげるわ」と上から目線でイッセーくんに告げる黒歌に俺がチョップをお見舞いしておき、クレーリアさんの挨拶の時に豊かな胸をガン見するイッセーくんにイリナちゃんがチョップをお見舞いしながら、こうして初対面の邂逅は無事に終わったのであった。何だかんだで最終的には「イッセー」呼びにみんななっていたし、彼も大概コミュニケーション力が高いと感心した。

 

 

「それじゃあ、私たちは先に教会に戻っているわね」

「えっ、じゃあ俺もそろそろ…」

「ま、待って、イッセーくん」

 

 あまり長い時間立ち話をしてもアレかと、リアスちゃん達は教会に戻ろうとし、それについていこうとしたイッセーくんを呼び止めるように服の裾を掴むイリナちゃん。掠れるような小さな声だったけど、イッセーくんは振り払うことなく不思議そうに振り返っていた。俺達は頷くと、イリナちゃんを応援するようにこの場を離れることにする。たぶんイリナちゃんの性格的に、ボロボロに泣きながらのお別れの話になりそうなので、俺達には見られたくないだろう。

 

 紫藤さんが昔、外国に治療のために向かって彼女が寂しくて泣いていた時も、イッセーくんが傍で慰めて見守っていたらしいし。イッセーくんなら、今回もしっかり男を見せてくれるだろう。甘酸っぱい青春に思わずにやけそうになりながら、微笑ましい気持ちで教会の敷地に戻る直前――

 

「イッセーくん、すごく大事な話があるの! でも、私ずっと不安で……だから、私にさっきのお姉さんと同じように『乳心解放(パイフィーリング)』をお願いっ! 私の思いを受け取ってほしいの!」

「えっ、イリナに? よ、よくわからないけど、イリナが言うならわかった! 受け取れ、イリナっ! 『乳 心 解 放(パイフィーリング)』ゥゥゥゥッーー!!」

「ああァ――……!!」

 

 俺達は無言で全力疾走して逃げた。

 

 なお、二人で泣きはらしながら笑顔で帰って来た後、お父さんとお母さんによる雷が二人に落ちたのは言うまでもない。

 

 


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