えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
「数日ぶりみにょ、カナたん。今日はミルキー・イエロー達が駒王町の良いところを案内するみにょ!」
「えっと、ありがとうミルキー・イエロー。少し前に挨拶へ行くよとは伝えていたけど、まさかこんなに歓迎されるとは思っていなかったよ…。本当によく集まったね、この人数」
「いつもは農業や畜産業、水産業をしている仲間もやってきているみにょ。あと、
「あっ、本当だ。三十年間
ちなみに、人魚さんは地上に下りたら亡くなってしまうので、お父さんとお子さん達だけのようだ。お子さん達は父親と同じようにカイザーさんの怪人技術を受けているようで、水陸両用の万能型らしい。魚類ってたくさん卵を産むらしいから、今後も数は増やしていくことだろう。彼らが海の支配者になる日は、そう遠くないことかもしれない。
そんな風にミルたんと世間話をしていた間に、歓迎ポーズの構えを解いたカイザーさんが合図をすると、魔法少女達もそれに合わせて自然体となる。傍から見ていると、もはや一個の軍隊のような統率さである。さすがは四十年近く、混沌渦巻くこの世界で組織のボスとして君臨していた実力者だ。存在自体は、ギャグ方面の住人なのに。
「歓迎ご苦労っ! では、巡回や他に仕事がある者は各自持ち場に戻るがよい。散会イィィッーー!!」
『ハッ――!』
ドラゴンヘッドを被った魔法少女(カイザーさん)が、マントを翻して手をビシッと上げると、数百人近くが丸太に乗り込んでいき、ものすごい脚力と魔法で丸太と一緒に飛び上がっていった。みんな俺に手を振ってくるので、とりあえず俺も遠い目で手を振り返しておく。さすがに駒王学園の運動場をずっと占領するわけにはいかないしね。本当に歓迎のためだけに、ここまで来てくれたんだなぁ…。嬉しいはずなのに、正直反応に困った。
丸太発射によって舞った土煙が晴れた頃には、数十人ほどの魔法少女が残っていた。どうやら、彼らが送迎と護衛を兼ねてくれるらしい。人数は減ったけど、圧みたいなものは相変わらずすごい…。みんな大変やり切った良い顔をしているので、乾いた笑みを浮かべて受け入れるしかない。実際、十人規模で駒王町を隈なく歩くのは大変だから、乗り物があるのは助かるしな。
そんな風に納得している俺の肩がちょいちょいと叩かれていることに気づき振り返ると、まだ案内が始まってもいないのにもう疲れたような顔をしているクレーリアさんがいた。そういえば、後でお話でしたね。言い訳させてもらえるなら、魔法少女達はただ歓迎したかっただけなんです。俺が可愛い妹分達や将来の管理者が来るよ! って言ったから、めっちゃ張り切っちゃっただけなんですよ。
「ねぇ、カナくん…。前に聞いた時は、魔法少女組織の謎のボス的な立場だって話していたはずだけど、ものすごく認識されていない?」
「えーと、そのぉ…。リアスちゃん達に駒王町を紹介するなら、魔法少女のみんなにもそろそろ俺のことを話しておくべきかなって思って、少し前に挨拶へ行ったんですよ。この駒王町が停戦協定の中心地になるなら、魔法少女達だって今後無関係って訳にもいかないですから」
「そういえば、将来的にこの街に新しい組織も作る予定だったね」
「はい、名ばかりとはいえ二つの組織のトップになるなら、ずっと謎のままは難しいでしょうし、何だかんだで五年ぐらい付き合いのある人達に隠し続けるのも失礼かなって思ったんです。それに、居場所のない人たちのために組織を新しく創るってことなら、もちろん大歓迎だからってミルたん達も言ってくれましたから」
魔法少女達の組織のスポンサーとして支援している見返りと言ったらアレだけど、一応俺の個人戦力として動いてくれることを了承してくれている。もっともこの五年近く、ほとんどお願いしたことなんてないんだけど…。その所為か、自由に活動できてお金ばっかりもらっているから申し訳ない! って思われて、何かと「何か困ってないか?」と言われる始末だ。だから、駒王町の防衛や今日の案内だってハイテンションで応えてくれたんだよなぁ…。その結果が、これだけど。
新しく創る神器所有者のための組織は、聖書陣営が後ろ盾になってくれているとはいえ、そこまで多くの戦力を派遣してもらうのは難しいだろう。自陣営の防衛も必要だし、有事なら駆けつけてくれるとはいえ、常日頃から駒王町に張り付いてもらう訳にもいかない。俺自身の護衛は付くだろうけど、駒王町や組織のために自由に動かせる戦力となると難しかった。
それなら、元から駒王町で活動していた魔法少女達と同盟を結んだらどうかと思ったのだ。一応、トップは俺で同じなんだし、地元を護ってもらうと同時に、新組織の手伝いもしてもらおうと考えた。そんな訳で、メフィスト様達に許可をもらって、魔法少女達には事前に挨拶をしておいたわけである。
「あぁー、だからこんなことになってしまったのねぇ…」
「はい、こんなことになってしまいました」
「うん、了解。衝撃が大きすぎて、感覚が麻痺している今のうちに管理者として挨拶をしておくわ」
混乱冷めやまぬ探検組の中で、溜め息を吐いて一番に頭を切り替えたクレーリアさんは、紫藤さんを正臣さんに託すとミルたん達の前へと歩み出た。これまで培ってきた耐性スキルが、彼女をここまで強くしたのだろう。その様子にリアスちゃん達はごくりと唾を飲みこむ中、クレーリアさんは真っすぐに顔を上げて貴族令嬢らしく優雅な挨拶を行った。
「ごきげんよう。こうして直接顔合わせをするのは、初めましてになります。私は悪魔の代表として、今後この街の管理者に再び就くことになったクレーリア・ベリアルです。教会の皆さまと同様に、皆さまとは良き隣人として付き合っていきたいと思っています」
「ほぅ、丁寧な挨拶感謝する。儂はこの組織の開発局長兼、ミルキー・ドラゴンのカイザー・ヴォルテックスだ。これまでボスと同じ組織に留学されていたと聞く。こちらとしても、管理者とは友好関係を築いていきたい。我々は、この街でしか居場所がないからな…」
「私は戦闘ではあまり役に立てないので、皆さまのご協力があると助かります。……自分が自分らしくいられる居場所の大切さは、私自身もわかっているつもりですから」
「ふむ、そうか…」
クレーリアさんの穏やかな微笑みに、カイザーさんも深く頷いている。五年前に自分らしく生きるために元いた居場所を無くし、『
「すごいわ、五年のブランクがあるとは思えない。これが魔王様達も認めた敏腕管理者の交渉術とメンタルなのね…」
「私たちも見習わないといけませんね。この街の管理者になる覚悟が、まだまだ足りなかったとわかります。クレーリアさんの後を継ぐ管理者として、狼狽えているばかりではならないわ」
「これに私たちも、順応していかなければならないんですね…。が、頑張らないと」
それから傍にいたミルキー・イエローにも五年前のことでお礼を告げ、しっかり友好関係を築いているクレーリアさんを見て、後方で様子を窺っていたリアスちゃん達の目が尊敬に輝いていた。どうやら先輩の威厳は、魔法少女達によって無事に見せられたようだ。そういえば、子どもたちには敏腕管理者としての情報しか送られていなかったもんね。メンタルを鍛える大切さをしっかり後輩に伝えられたようである。
「ドラゴンの被り物の目がピカピカと光って…、カッコイイです…」
「私は白音に悪影響を及ぼす前に、早く帰りたいんだけど…。うぅー…、グレイフィアのやつ、この混沌な状況から運よく逃げてぇ……」
ちらりと旧校舎を恨めしそうに見つめる黒歌。たぶん、グレイフィアさんも旧校舎の窓から見える惨状に言葉を失っていると思うよ。教官も昔の魔の山事件で魔法少女(漢)にちょっとトラウマが出来ていたから、先に帰って正解だったかもしれないなぁ…。
「ここに残っているのは、相乗りができる熟練者のみ。安全運転は保証しよう。さぁ、好きな丸太に乗り込むがよいッ!!」
「ちょっと奏太。当たり前のように、丸太に乗る流れになっているんだけど。あんたがボスなら、ありがた迷惑だってちゃんと断りなさいよ」
「無茶言うなよ…。魔法少女達のあの穢れなき善意の目を見てみろ。それに今回の俺達の目的は、駒王町を知ることと合わせて、そこで暮らすヒト達への挨拶回りも含まれているんだ。友好関係を築くなら、今回の申し出は受けておくべきだろ。実際に移動が楽になるのは助かるし」
「はぁ…、何なのよ本当に。この街は……」
「項垂れているところ悪いけど、他のみんなは柔軟な対応力でもう受け入れているみたいだぞ」
そう言って指を差すと、我先にと目を輝かせて乗り込んだ白音ちゃんとイリナちゃんが目に映り、次にリアスちゃんが「観光事業にするなら、もう少し改善策を考えないと…」と乗り心地を確かめながら、ぺちぺちと丸太を叩いている。将来的にミリキャスくんへグレモリー家の当主の座を渡すことを理解しているためか、自身が独立した時の備えとかに敏感らしい。生粋のお嬢様なのに、商売根性がすごい。
そして、諦観の眼差しでもうなるようになるしかないと受け入れる大人組。朱乃ちゃんとソーナちゃんは乾いた笑みを浮かべながら、お互いに手を握り合って一緒に頑張ろうと声を掛け合っていた。原作の朱乃さんはリアスさんと一緒に育ったから感性も似ていたけど、性癖以外はまともな感性を持っている両親と、天然な
「ほら、行くぞ黒歌。みんなを待たせているし」
「ねぇ、私がおかしいの? 丸太に乗るのよ? それに戸惑っているのが私一人って…」
「そういうもんだって受け入れた方が楽だぞ」
「そうしてツッコミが諦めていった結果、エスカレートしたのがアレな訳か。まぁ、私も反発し続ける気力はないけどさ。楽な方に流れるっていうのも、案外難しいものなのね…」
数秒ほど黄昏た黒歌は深呼吸をした後、次に開いた目は覚悟を決めたものだった。妹の白音ちゃんがノリノリな時点で逃げ道はなくなったも同然なので、深く考えることをやめたらしい。こうして駒王町新人組の最初の度胸試しは無事に完了したようだ。まだまだ挨拶回りするところはいっぱいあるからな、この登竜門を越えることができたのなら、この後もたぶん大丈夫だろう。おっぱいとか色々、うん…。
「行くぞ、魔法少女達よ。愛と希望と勇気が溢れる、遥かな空の彼方へとッ!」
「みにょォォォオオオッ!!」
『ウオォォォォオオオッ!!』
野太い大合声が駒王学園のグラウンドに響き渡り、ビリビリと空気が震え、建物が微かに軋む音が鳴る中、俺達を乗せた丸太が魔法少女達の脚力と魔法によって飛び上がった。昔タンニーンさんの背中に乗せてもらった時のように、魔法で衝撃を緩和するという高等技術を使用しているらしく、ジェットコースターのような圧を感じはしたが振り落とされることはなかった。背中に感じる圧(魔法少女)はヤバいけど、精神衛生上気にしないことにした。
そして、だんだんと
「ここが、駒王町…」
「ふーん、街並みは普通って感じなのね。こんなにも堂々と丸太が空を飛んでいることを、日常の一部と認識する街を普通って表現してもいいのかは
「あはははっ…。でも、表の世界で暮らすことを心配していた気持ちが、不思議と小さくなったような気はします。この街でなら、そこまで肩身を狭くして暮らさなくても大丈夫そうですから」
「もう、油断してはいけませんよ。……でも、おっしゃりたいことはわかるような気がします。ここが一年後、停戦協定の中心地を管理する者として、私たちが守っていく居場所になる。改めて、そのことを胸に刻みたいと思います」
風に靡く黒髪を片手で押さえて、街並みを感慨深く眺めるソーナちゃん。その言葉に同意するように、小さな管理者達は静かに頷き合っていた。クレーリアさんと正臣さんも懐かし気に街を見つめ、微笑みを浮かべている。そんな彼女たちを見て、紫藤さん達もどこか安心したように笑っていた。魔法少女を背に、丸太で飛んでいるとは思えない穏やかな時間が流れた。
「……一年後、リアス姉さんは冥界の公爵邸からいなくなっちゃうんですよね。そうなったら、姉さんの家庭教師をしている姉さまと、ただのお客さんであるだけの私は――」
「白音ちゃん?」
「あっ…。す、すみません」
「……まぁ、そうよね。ずっと今のままでいることが、無理なのはわかっていたことよ。だから白音、私たちもどうしていきたいか考えておきましょう。一緒にね」
「……はい、姉さま」
そんなリアスちゃん達を寂しそうに見つめる白音ちゃんの呟きに顔を向けると、ふるふると首を横に振られてしまう。黒歌は白音ちゃんの不安を感じ取ったのか、普段の緩い態度ではなく、真っ直ぐな言葉を妹にかけていた。そういえば、二人の立場が未だに不安定なままだったことを、俺は思い出した。
今はリアスちゃんの家庭教師として身分が保障され、グレモリー家に保護されているけど、黒歌は転生悪魔なのである。本来は主である『
黒歌のレーティングゲームでの戦績は悪魔貴族の中でも有名だから、黒歌の新しい主になりたいと候補に名乗り出る悪魔も多いだろう。黒歌が望むのなら、白音ちゃんの待遇も頼めるはずだ。魔王を輩出したグレモリー家が後ろ盾だから、丁重な扱いだって受けられると思う。それこそ、もうレーティングゲームに関わりたくないのなら、ゲームに参加しない貴族悪魔を主にしてもいい。グレモリー家との縁ができるメリットを考えれば、主になりたいと手をあげる悪魔は少なからずいると思うから。
だけど――、俺は猫又姉妹を見た後、リアスちゃんの方へ視線を向ける。秋に黒歌から仙術を教えてもらった時に行った戦闘を思い出すと、彼女は戦うことを楽しんでいたと思う。不意を衝かれたことに、悔しそうに頬を膨らませていた。黒歌は確かにレーティングゲームの闇に触れ、これまで義務のように戦うだけだった。彼女にとって戦いは楽しむものではなく、生きるための糧でしかなかったのかもしれない。
だけど、彼女の――リアスちゃんの下でなら、きっと思う存分力を振るえるはずだろう。警戒心の強い猫又姉妹が、気を許した公爵家のお姫様。白音ちゃんを妹のように慈しみ、黒歌とは言いたいことを言い合える仲だ。リアスちゃんの眷属になれば、だいたいのことが丸く収まる。むしろ、真っ先に思いつく案だと思う。白音ちゃんのことも、彼女が望むのなら純粋な妖怪として生きることもリアスちゃんの下でなら可能だろうから。
「黒歌、リアスちゃんには…」
「奏太。これは私たちの問題なんだから、あんたは首を突っ込まなくていいの」
「それは、そうだけど」
「……だいたい、あの子は私たちにただでさえ甘いのよ。こんな野良猫同然の私たちを家族みたいに扱ってさ。そんなリアスに、私たちの身分のために眷属の枠を使わせて、なんて厚顔無恥なことを言えるわけないでしょ。あのバカはきっと、受け入れちゃうだろうから余計に」
「…………」
「魔王の妹で公爵家のお姫様の眷属になりたいヤツなんて、山のようにいるのよ。私よりも、もっとリアスの眷属にふさわしい相手はいるわ。私は学もないし、この力で暴れまわることしかできない。それに、……バカマスターを。自分のために主を殺して、全てから逃げ出そうと考えたことだってあったわ。そんな私が、お人好しのお姫様の情愛をもらう資格なんてないのよ」
後半の言葉は白音ちゃんには聞こえない声音で、自嘲気味に笑う黒歌に俺は口を噤むしかなかった。実際に彼女が話した通り、黒歌が主を殺めた未来を俺は知っていたから。それでも、自分には資格がないと嘲笑を浮かべる姿は納得できなかった。もちろん、黒歌の言うとおり俺は部外者だ。それでも、弟子として師匠に言っておくべきことはある。
「実際に手を下すのと、心の中で思うのとでは、雲泥の差があるぞ」
「あら、慰めのつもり? でも、残念。割と本気で殺そうと思っていたのよ」
「だけど、殺していないだろ。だから、黒歌の手は綺麗なままだ。妹の手を堂々と掴めるぐらいにはな」
「…………」
「あと、『彼女』を見くびらない方がいいと思うぞ。俺が知っている『彼女』なら、自分が欲しいと思ったもののためなら絶対に譲ったりしないだろうから」
「何を言って――」
不意にブォン、と丸太の高度が下がったため、最初の目的地に近づいてきたことがわかった。それに舌を噛みそうになった黒歌が、慌てて口元を閉じるように力を入れる。着陸の衝撃に備えて構えることになり、景色を楽しんでいた子どもたちも真剣な表情で丸太にしがみ付いていた。当然ながら丸太で空を飛ぶのは初体験なので、いくら魔法や謎技術があったとしても、怪我をしないように気を付けるのは当然だ。
ジェットコースターの急降下を思い出すような速度と角度にちょっとビビりながら、こうして俺達の駒王町探検は流星群となって始まったのであった。
――――――
「
「白音、その歌は何なの?」
「さっき商店街を歩いている時に流れていた曲です。サラマンダー富田さんという方が作曲した『尻子玉ラプソディー』という名曲みたいです。素晴らしい歌だったので、忘れないように思わず口ずさんでしまいました」
「なんてもんを平和な商店街に流しているのよ」
さて、あれから様々なところを俺達は回ることになった。駒王町の空を横断しながら、この街での重要拠点はあらかた見ることができただろう。もちろん、他勢力に見せられない場合は近くまで丸太で運んでもらい、あとは歩いて散策したところもあるけど、予定よりかなり余裕をもって見学することができたと思う。みんなも丸太送迎にだんだん慣れたようで、後半になるとレースみたいに走順を競うぐらいには適応していた。それを見たリアスちゃんの目が、「丸太、奥深いわ…」と大変輝いていました。
「さて、ここが駒王町の商業の中心地であるショッピングモールよ。食材や家具、お洋服みたいに必要なものがあったら、だいたいここで揃えられると思うわ」
「あとね、電気屋さんとか映画館もあるし、アミューズメント系の店舗も多いから、一日中ママと買い物をしたこともあるの!」
「なるほど、確かに便利なところのようですね。お店を眺めながら歩くだけでも、時間がかかってしまいそうです」
「すごいわ、面白そうなお店がたくさん…」
クレーリアさんとイリナちゃんの説明に、冥界組は珍しそうにきょろきょろと見まわしていた。二人とも生粋のお嬢様だから、自分の足で買い物をした経験も少ないだろうしね。魔力というファンタジーパワーで転移配達もお手の物なので、外にわざわざ買い物へ出る必要性もないらしい。意外にハイテクな冥界である。
そういえば、リアスちゃんって買い物が好きで、よく買い過ぎてヴェネラナ様に怒られているって聞いたことがあるかも。ちなみに、高価な物を買い過ぎるという訳でなく、これ一体何に使うんだというものを複数個購入してしまうらしい。今も「
「ミルキー・イエロー達も、よくここでヒロインショーをやっていたりするみにょ。駒王町の子どもたちにも大人気なんだみにょ」
「幼い頃から駒王町で暮らすための英才教育を、子どもたちに施しているのですね…」
「感心しているんじゃないわよ。というか、なんで私がツッコミ役になっているの。十人もいるのに、比率がおかしい…」
駒王町教育に感嘆の声をあげるソーナちゃんに、着々とツッコミスキルを磨いていく黒歌だった。見てみろよ、黒歌の
「それじゃあ、魔法少女のみんな。ここまでの送迎ありがとう。おかげで移動が楽だったよ」
「喜んでもらえてよかったみにょ。魔法少女は困ったとき、いつでも駆けつけるみにょ!」
「駒王町は今後停戦協定の中心地として、様々な勢力の目が向くことでしょう。この街で元々暮らしていた人たちにご迷惑をかけることがあるかもしれません。それでも、共に協力し合っていけたらと思います」
「争い合っていた勢力同士が和解し、平和な時代を築いていこうとしているのだ。魔法少女とは、Love&Peaceの精神を胸に刻む者。その助力ができるのなら、拒む理由はない。ではな、其方たちがこの街の新たな守護者になることを楽しみにしている」
「ミルキー・ドラゴンさん…」
「これは魔法少女からの土産だ、受け取るがよい」
そう言って、少女達の手の平にポンッと置かれるコンパクト。さっきこれで数百人が変身していたもんね、衝撃のお土産に言葉を失っている。
「魔法少女への扉はいつでも開けている。達者でな」
「いや、ちょっと、いらな――」
ビカビカとドラゴンの被り物の目玉が発光しながら、カイザーさん達はサムズアップして丸太と共に土煙を撒いて去っていった。なんて手際のよい去り方だろうか。お土産に呆然とする少女達は、それでもさすがに友好の証にいただいたものを捨てるわけにもいかず、いそいそと荷物の中へと入れているのが見えた。大変良い子たちである。
「奏太、これあげる」
「俺、試験品も合わせて大量に持っているからいらない」
「――――」
「おい、そんな絶句した顔で距離をとるんじゃねぇよ。そのコンパクトは攻撃手段として、めちゃくちゃ有効なんだ。魔王クラスでも魔法少女に強制的に変身させる兵器だから、格上と戦う上でデバフは必須だろ。一個ぐらいお守りで持っていても悪くないと思うぞ」
「カナくんの思考って、勝つためなら本当に合理的というか、無慈悲だよね…」
しみじみと呟かれたクレーリアさんの言葉に、同意するように何度も頷く正臣さん。実際、このコンパクトで格上の部隊を退けたことがありますからね。元龍王の最上級悪魔のドラゴンですら恐れた兵器だ。護身用に一個ぐらい持っておいていいと思う。過去にその効力を目にした朱乃ちゃんは、ちゃんといつでも携帯しているみたいだし。そのことで、あとで教官にぐりぐりされたけど。
「さて、魔法少女さん達のおかげで、時間に結構余裕ができちゃったわね。せっかくだから、ショッピングモールの中を見て回ってみる?」
「いいのですか?」
「私も駒王町に初めてきた時は、ここで買い物をして家族にお土産を買ったりしたもの。みんなも気になっているんじゃない?」
「でも、あまり持ち合わせが…」
「さっき奏太からもらったお年玉を使えばいいじゃない。どうせ使えるのが一年後なら、今散財に使った方がいいに決まっているわ。私はバッチリ使う」
「もう、黒歌姉さま…」
俺が渡した諭吉さんを高らかに掲げる黒歌に、白音ちゃんが小さく溜め息を吐いている。申し訳なさそうに頭を下げられたけど、あげたお金をどのように使うかはもらった側の自由だ。まぁ、喜んでもらえたのなら良しとしよう。
「それじゃあ、いったん解散にしましょうか。十人が一緒に歩くには狭いし、他のお客さんの邪魔になっちゃうものね。この建物から出ないってことにすれば、迷子になることはないだろうし。待ち合わせ場所は、一番目立つ一階の催し広場にしましょう」
「そうですね。ただ私たちは人間界に不慣れなので、案内が出来る方が一緒にいてくださると助かります」
「うーん、それもそうね。じゃあ、行きたいお店に合わせてグループを作っちゃいましょうか。さすがに全部見て回る時間はないしね」
そう言ってグループを分けた結果、人間界の書物に興味があるソーナちゃんと料理本を探したいクレーリアさんが一緒になり、俺は護衛が必須だから正臣さんと二人でリアスちゃんと朱乃ちゃんを見守ることになった。シスコンで距離が縮まったとはいえ、まだまだ二人の間にぎこちなさはあるみたいだからな。原作のような親友関係になれるかはわからないけど、友人同士として気の置けない仲になってくれたら嬉しいと思う。
「ねぇねぇ、白音ちゃん。私たちはどこに行こうか。何か欲しいものってある?」
「欲しいもの…。『尻子玉ラプソディー』のCDって、ここに売られているのですか?」
「むしろ、アルバムも売られているよ」
「行きます。せひ連れて行ってください!」
ご当地シンガーとして、駒王町のみ限定販売されているサラマンダー富田さんの曲集と聞いて、白音ちゃんはガシッ! とすごい勢いで食いついていた。このメンバーの中で最年少で小っちゃい白音ちゃんを、子どもたちのトップとして見守ってきたイリナちゃんは年上として構いたいようだ。そんな二人を、後ろの方から保護者のように見つめるお父さん。姉は知られざる妹の好みに頭を抱えていた。
「えっと、私たちはどこへ行きましょうか?」
「今回の主役は二人なんだから、二人が行ってみたい場所で構わないよ」
「行ってみたい場所…。リアスはどうしたい?」
「私はエイドリアンのお友達を見つけてあげたいかなぁ…」
「エイドリアン…」
俺が秋の冥界でリアスちゃんにあげたお土産の木彫りの熊だと説明すると、公爵令嬢に何をプレゼントしているの? みたいな視線を朱乃ちゃんに向けられました。確かに常識的に考えたら、貴族の幼女に木彫りの熊をあげるという選択肢はないのかもしれない。だが、俺は原作知識でリアスちゃんの好みを知ることができたのだ。だったら、それを活用しない手はない! 例え妹に、「兄さまのセンスって…」と引かれても――、やっぱりちょっと傷つきました。
「だったら、特産品が置いてあるお土産コーナーがいいかもしれないな。朱乃ちゃんもそれでいい?」
「はい、私も父さまと母さまにお土産を買いたいので、それで構いません」
「なるほど。それなら僕もバラキエル教官との訓練でお世話になっているから、何か贈り物をあげたいな。朱乃ちゃん、何かいいアイデアはない?」
「そうですね…。父さまは停戦協定のためにずっと忙しくしていたから、何かリラックスできるものが――」
俺達の目的地が決まったため、ショッピングモールの中を四人で進んでいく。朱乃ちゃんと正臣さんがバラキエルさんのお土産について相談している後ろを、遅れないようについていく俺とリアスちゃん。リアスちゃんは楽しそうに目を輝かせてお店を眺め、時々どんなお店なのかを俺が説明しながら歩いていた。
そんな風に数分ほど歩いた先で見つけたお土産コーナーは、全国の食べ物や民芸品が所狭しと並んでいた。子どもたちは早速商品を吟味し、相談をしながら楽しそうな声をあげている。ショッピングモールで食事と買い物を済ませた後、次は駒王町の教会本部とおっぱい教の祭壇へ行くから、悪魔と堕天使の二人には今のうちにゆっくりしてもらいたいものだ。魔力や魔法で買い物袋はしまえるし、こういう時裏の技術は地味に役に立つ。
「あっ、リアスちゃん。お土産は決まった?」
「奏太さん。はい、先ほどついに運命の出会いをしてしまって、これでエイドリアンも寂しくありません!」
少し探索するだけで発見できた目立つ紅髪を見つけて声をかけると、弾んだ様子で紙袋を見せてくれた。どうやら無事にエイドリアンの友人を買うことができたようだ。熊の友達だから、同じように熊にしたのだろうか。そんな風に考えている間に紙袋からいそいそと取り出されたのは、――大きなこぶだった。
「この子が、グレゴワールです」
「……えっ、ラクダ?」
「鳥取のお土産コーナーにあって、このこぶとか本当に素晴らしいわ。ラクダはグレモリー家の象徴でもあるから、こんなにご利益のありそうな置物は他にないと思うの。こっちはお父様やお母様やお兄様の分で、あとグレイフィアやミリキャスの分のラクダのご加護も見繕ってみたの。ラクダの表情を見極めるのが、なかなか大変だったわ」
「ラクダの表情…。えっと、良いのが見つかってよかったね」
「はいっ!」
わぁー、すっごくいい笑顔だ。木彫りのラクダを胸いっぱいに抱える美少女の満面の笑み。果たして六体ものラクダの木彫りを持って帰って大丈夫か心配ではあるけど、こんなにも幸せそうな様子を見たら、グレモリー家のヒト達も無下にはしないだろう。たぶん。ラクダの表情が一体ずつ微妙に違うことを力説され、グレモリー家のラクダ愛に感心するしかなかった。
「グレモリー家ってラクダが好きなの?」
「家でいっぱい飼っています」
「……あの豪華な城に、ラクダがいっぱいいたのか」
「まぁ、一年ほど前に家で飼っているラクダに構い過ぎて逆襲されかけたこともあったけど、その時は黒歌が助けてくれて…。その後、ちょっと本物は苦手になってしまいましたが、これぐらいデフォルメされたものなら大丈夫になりました」
現在は黒歌が動物代表(猫又)として、ラクダたちをしめてトップに立っているようで、グレモリー家の動物ピラミッドは制覇したようだ。何だかんだでお姉ちゃんしていたんだな、あいつも。素直に認めはしないだろうけど、たぶんリアスちゃんの為にやったんだろうし。
「さてと、お土産が決まったのなら、座って待っておこうか。朱乃ちゃん達ももうすぐ決まりそうだし」
「わかりました。奏太さん、改めて今日はありがとうございます」
「いいよ、そんなに気を使わなくても大丈夫。……みんなとは仲良くできそう?」
「はい、おかげ様で。最初はずっと敵対していたということに不安はありましたが、朱乃もイリナも優しい子でした。クレーリアさんもすごく頼りになるヒトで…。一年後、彼女たちと一緒にこの街を守っていくのだと考えたら、少し楽しみなぐらいです」
ふふっ、と口元に手を当てて優雅に笑うリアスちゃんに、それが本心なのだとわかる。初っ端に駒王町の洗礼を受けたにも関わらず、さすがは赤龍帝と共に世界を駆け抜けたメインヒロイン。胆力やバイタリティもすごいし、向上心も高い。原作と比べて、駒王町の防備や管理体制がかなり整っているとはいえ、その分のしかかる重圧も大きいはずだ。それでも、不敵に微笑む紅髪のプリンセスに、俺も安心から笑みを浮かべてしまった。
「一年後か…。何だか実感が湧かないけど、これまでの激動の日々を考えたらきっとすぐに来ちゃうんだろうな」
「そうかもしれないですね。私もこの一年で出来る限りの準備と身辺整理をして、ここの管理に全力を注ぎたいと思っています。……だからこそ、黒歌や白音のこともどうしたらいいかずっと考えているんです」
思わず、俺はリアスちゃんに視線を向けた。先ほど、駒王町の空を飛んでいる時に黒歌と話していた内容だ。そもそも黒歌や白音ちゃんと同様に、リアスちゃんだってある意味で当事者である。気にして当然のことだろう。そんな俺の視線に、彼女のエメラルド色の瞳はどこか不安げに揺れているようだった。
「駒王町を丸太で飛んでいた時、少し奏太さんと黒歌の会話が聞こえてしまいました。二人のことだったので、聞き耳を立ててしまって申し訳ありません」
「いや、俺は別にいいよ。あんなところでおしゃべりしていたのは、こっちの方だし。……単刀直入に聞いちゃうけどさ、リアスちゃんは、その…、黒歌の主になりたいとは思ったりしなかったの?」
「そんなの、思うに決まっています」
俺からの問いに、力強く肯定を返したリアスちゃんに面を食らったが、彼女は膝の上でギュッと拳を握りしめていた。
「少し前に、お父様にも言われました。黒歌の主になる気はないかって。グレモリー家が、ただ善意で彼女たちを保護したわけではありません。仙術を使い、高い実力のある、主のいない転生悪魔。まだ眷属のいない私のために、周りがお膳立てしてくれたのだろうことぐらい、私だってわかっていました」
「リアスちゃん…」
「もちろん、黒歌を眷属にするかは私と黒歌の意志次第です。私が選ばないなら、彼女たちの希望を出来る限り叶えた進路を提示するつもりです。だけど、黒歌と白音が一緒にいるためには、黒歌には『主』が絶対に必要でした。だから、きっと、私が彼女の『主』になるのが一番丸く収まることも理解しているんです。私だって、黒歌や白音とこれからも一緒にいたいから…」
『……だいたい、あの子は私たちにただでさえ甘いのよ。こんな野良猫同然の私たちを家族みたいに扱ってさ。そんなリアスに、私たちの身分のために眷属の枠を使わせて、なんて厚顔無恥なことを言えるわけないでしょ。あのバカはきっと、受け入れちゃうだろうから余計に』
たぶんだけど、リアスちゃんから黒歌に眷属になってほしいと言えば、彼女は受け入れるような気はする。リアスちゃんは黒歌の意思に任せるだろうけど、きっとそんな気はした。実際、リアスちゃんの言うとおり、今の温かな居場所を壊さない方法はそれしかない。将来のことを考えれば、リアスちゃんの眷属になった方が安泰だし、ネビロス家を追うという黒歌の目的にも沿う。あいつは戦いそのものは嫌っていないから、リアスちゃんのためなら存分に力だって振るえるだろう。
「じゃあ、何をそんなに悩んでいるの?」
「……私に、黒歌の主として認められるだけの力がないことです」
「力?」
「黒歌の元主のことは、お兄様から聞いたわ。白音を人質にとって、眷属たちを酷使して、黒歌にレーティングゲームを嫌いにさせた悪魔。私の夢は、レーティングゲームのプロプレイヤーになること。それには、当然眷属の力が必要になる」
そこまで言うと、リアスちゃんは懐に手を伸ばし、ごそごそと何かを探りだした。少しすると、取り出された小さな手に何かが握られていることに気づく。ゆっくりと開かれたその手の平から取り出されたのは、真っ赤な
「リアスちゃん、この駒って…」
「『
確かに、今のリアスちゃんの素養では、どう考えても黒歌を眷属にするなんて不可能なのだ。だけど、この駒が手元にあるのなら、話は変わってくる。実際、原作のリアスさんも『僧侶』の変異の駒を持っていた。つまり、リアスちゃんが黒歌を眷属に出来るだけの下地はすでに整っていたのか。
だけど、彼女がこの駒を黒歌に使うことになると、ギャスパー・ヴラディを転生悪魔にすることはできなくなる。彼は本物の魔神、バロールの一部を宿した準神滅具の所有者なのだ。むしろギャーくんの素養を考えれば、『
「この駒を黒歌に?」
「……この駒を使えば、私は黒歌という強い眷属を得られます。レーティングゲームで好成績を残していた黒歌の実力なら、きっとトップのプレイヤーになれると思う」
「………」
「だけど、そんなの、……黒歌が嫌っていた前の主のやり方と何が違うの? 全く同じじゃない。私は黒歌の力が目的なんじゃない。あの子を一人で戦わせたいんじゃない!」
……そうか、だからリアスちゃんはずっと悩んでいたのか。黒歌に未熟な自分の眷属になってほしいと言えなかったんだ。心のどこかで、自分が望めば黒歌が頷いてしまうだろうとわかっていたから。レーティングゲームを嫌う彼女に、レーティングゲームの楽しさを伝えたいがために、安易な道を選びたくなかったんだ。
「私は、黒歌と一緒にレーティングゲームの楽しさを味わいたいの。一緒に戦って、上を目指すために作戦を考えて、黒歌と肩を並べられるような
「……自身の素養を越えても眷属にさせてしまう『
「……無茶なことを言っているのは、わかっているわ。だって、黒歌って本当に強いもの。どれだけ頑張ったら、黒歌の主になれるだけの力が身につくのかもわからない。だけど、今の私が黒歌の主になっても、きっと頼り切って重荷になってしまう。それだけは嫌だったの」
取り出していた変異の駒を再び懐へとしまうと、リアスちゃんはそっと目を伏せた。リアスちゃんが人間界に留学するまで、あと一年。その間に黒歌を眷属に出来るだけの実力を身に着けるのは厳しいだろう。だけど、変異の駒を使いたくないという彼女の気持ちも痛いほどわかった。我が儘なのかもしれない、それでもこれがリアスちゃんが必死に考えた決意なのだ。
それに何というか…。黒歌とリアスちゃんの不器用な思い合いを感じてしまい、二人ともちゃんと絆を深めてきたんだなと感じた。だけど、このままって訳にもいかないだろう。こういう時こそ、第三者視点からのお言葉ってね。
「リアスちゃんも黒歌も、お互いのことすっごく好きなんだなぁー」
「えっ――?」
「今のリアスちゃんの気持ち、黒歌やグレモリー家のヒト達に絶対に伝えるべきだ。『
ここでお互いに遠慮しても、余計に拗れるだけだ。だから、リアスちゃんが黒歌を眷属にしたいことも、すぐにそれができないことも正直に打ち明けるべきだと思った。それに今の時期から強くなるために修行を始めておいた方が、後々彼女にとってもメリットになる。俺の行動によって、だいぶリアスちゃんの眷属関係を変えてしまった責任もあるから、俺も協力できるところは手を貸すつもりだ。
題して、『黒歌の主になるために、リアスちゃんを強化しちゃおうキャンペーン!』である。元々才能だってあったし、イッセーと一緒にたった一年で上位クラスにまで上り詰めていた。命がけの戦いを経験したからっていうのもあるだろうけど、今後のことを考えれば黒歌ぐらい強くなってもらった方が間違いなくいいのだ。それに、そこまで分が悪いとも思わない。
実力差は開いていても、上手く駒を組み合わせれば、何年も時間をかけずに黒歌を眷属に出来る可能性はある。駒にはそれぞれ駒価値というものがあって、『
「でも、あと一年しか…。それに私が黒歌に追いつくのに、どれだけ時間がかかるか……」
「待ってもらえばいいじゃん」
「そんな無責任な――」
「待つよ、黒歌なら。リアスちゃんが本気であいつと肩を並べて一緒に戦いたいって願うのなら、黒歌は他の主を見つけるよりも、リアスちゃんを待つことを選ぶさ。それでも心配なら、待つかの意思は黒歌に持たせたらいい」
黒歌はこれまで過ごしてきた環境もあって、あまり自分を大事にしないところがある。だから、リアスちゃんぐらい情愛に溢れた主の下にいた方が、ちょうどいい塩梅になるだろう。だいたいこんなにも自分のことを考えてくれる相手を、何だかんだで義理堅い黒歌が切り捨てられるとは思えない。ブーブー文句を言いながら、早く強くなれと発破をかけ続けることだろう。
「悪魔の眷属っていうのは、リアスちゃんにとって一生ものの家族みたいなものなんだろ。だったら、キミの我が儘は通すべきだ。リアスちゃんの眷属なんだから」
「……けど、黒歌の身分が曖昧なままだと危ない目に」
「うーん…。その時は、メフィスト様みたいな上位者にお願いして、余っている駒で黒歌の一時的な主になってもらうとか色々手はあるだろ。メフィスト様の眷属になっている間は、働くことになるだろうから、メフィスト様の部下である俺の補佐として一緒に駒王町で仕事をしてもらうとかもできるだろうし」
「あっ――」
メフィスト様にまたご迷惑をかけてしまうだろうけど、『
黒歌は素直じゃないし、リアスちゃんは意地を張っちゃうところがあるから、この問題は放置せずにさっさと解決しておいた方がいいと俺の勘が告げている。時間が経つほど、変に拗れて面倒くさいことになって、弟子の俺に被害が来そうだしな。
「想いっていうのは口に出してちゃんと言わないと、相手に気持ちは伝わらないよ」
「……はい、そうですよね。家に帰ったら、まず両親に相談してみます」
「それがいいと思う。それに、リアスちゃんの滅びの魔力は、元々バアル家の力だ。それなら、この一年はヴェネラナ様にミッチリ修行を付けてもらったらどうかな。自分の根源を理解するって、強くなるためには必須の項目だよ」
「はいっ」
こくりと力強く頷くリアスちゃんの表情は、先ほどまでよりも晴れやかにさっぱりとしているような気がした。黒歌と白音ちゃんのことは俺も気にしていたから、良い方向に話が進みそうでよかったと思う。もちろん、未来の道を決めるのはリアスちゃんと黒歌次第だけどね。結果的にリアスちゃんブーストフラグも立ったし、こうやって他者を想える彼女ならきっと素敵な眷属を見つけられると思えた。
それから、買い物を十分に楽しんだみんなと合流し、事前に予約していたショッピングモールのレストランで昼食をとることになった。大盛メニューをぺろりと平らげる白音ちゃんに唖然とし、リアスちゃんのラクダ六頭に黒歌が「無駄遣い!」とツッコみ、それに反論するように木彫りのラクダの違いを力説するリアスちゃん。そんな風に騒ぎながら、こうして駒王町探検ツアーの前半が終わったのであった。