友を訪ねに行きましょう。   作:HIGU.V

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転ー2

「旦那様、おかえりなさいませ」

 

────おかえりなさいませ

 

「ああ、はいはい。ただいま」

 

 

都市の一等地にある為大豪邸と言う訳ではないが、それなりの大きさの屋敷に着いた自分は、新入り庭師に不審人物扱いで出禁を受けそうになりながらも、無事帰宅した。執事長の声の後に唱和するメイドたちを後目に適当にごまかす物の、執事長が後ろからついてきて小言がうるさい。

やれ、お一人で外出しなさるなとはもう言わないが、せめていつまでに帰るなどを告げてからにしてほしいや、今後の演奏予定についてなどである。面倒なことは極まりないが、自分で雇っているのだし彼に抜けられると雑務に追われるから仕様がない。

 

 

「つきましては、さる御方から直々の命令が来ております。元々前皇帝陛下の気まぐれで頂いている爵位故に断ることはできませぬ」

 

「ああ、はいはい。頼むわ。まじで」

 

「タイヨー・キノシ・クゥーケコ・サーシェス・フェメール子爵に命ずる。ワーカーを雇い、さる場所の調査に赴け。そこに有るものは好きにして良い。とのことです。本家の伯爵家からも同様の命が来ております」

 

「あー、なんかそんな名前だったね、自分、適当につけすぎた」

 

今回もまた厄介ごとなのであろう。言葉にしてはないが、恐らくこの国のトップかその裏組織か何かからきているのであろう。さる御方なんて言われるのだから。加えて自分が養子縁組を組んでいるらしい、本家からも同じことを言われているのだ。

 

 

「まぁいいや。ぱぱってやっておいて、自分は新曲のフレーズ制作に忙しいから」

 

「畏まりました。そう言うと思われまして既に命令を出しております。ジャムニスをここに連れてきなさい」

 

「ああ、いいよいいよ」

 

 

彼等の会話を背中で聞きながらこの場から立ち去ろうとするものの、そのジャムニスとやらは前から早歩きで来ているので、逃げられないようだ。

 

「はい。あと半刻ほどでワーカーたちは出立する予定です。既に以来の最終確認の為に我が家の所有する郊外の馬車駅に集合しているとのことです」

 

「そう、今から見送りに行けとか言わないよね?」

 

早馬に乗ればぎりぎり間に合わないこともないが、乗馬は覚えたが苦手と言わざるを言えない故にやりたくもない。今はただ荒削りながら仕上がった。新曲『俺の配下の悪魔の愛が重すぎて骸骨なのに貞操がやばい』の旋律を完ぺきに仕上げたいのだ。神が、いや悪魔か妖精が下りていたかのような天啓と共に降り立ってきたこの曲は本当凄まじい可能性を秘めていると思う。

 

「いえ、最終確認のサインをこちらに頂くために説明をしております」

 

「ああ、魔法書類? 面倒だよね、文言を全部読み上げないとサインできないんだもん」

 

「偽装及び悪用防止の為です。では続きを、参加する全てのチームの目的地は最近王国領に発見された遺跡。ナザリック地下大墳墓「待て」はぁ?」

 

「おい、貴様、今何と言った」

 

 

その名前は、その名前が出てくることを何度も祈り、些細な伝承や民間伝承から噂話にすら耳を傾けてきた。かつて捨ててしまった負い目は未だに心のとげになっているが、だからこそ気にしないようにあえて気楽にふるまって来た。貴族たちの噂話なんかよりもきっと過去に偉大な伝説を残しているであろうと思い、ひたすら探していた。

だが、失念していたらしい。自分が今に来ているのだから、過去か未来にいるかもしれないと、過去に沢山それらしいものがあったから、来ているとして、噂が無いのならば未来であろうと、そう結論付けていた。

 

 

「ナザリック地下大墳墓です」

 

「くくく……ははは。そうだな。『私』が来てから既に未来になっているのだな」

 

 

あまりにも代わり映えしない日々に忘れていた。自分が最初に来て作ったこの世界の一般冒険者の冒険譚は既に過去の英雄の冒険譚になっている。そうだ、時の経過という要因をすっかり忘れてしまっていた。

 

 

「気が変わった。私も行く」

 

「それはなりません。ワーカーどもを使うようにと言う指示です。そのような場所危険すぎます」

 

「今更であろう。だが……確かワーカーとやらは墓荒らしに抵抗を持たない連中だったな」

 

 

これが考古学者なら別であろうが、日々の生活の糧を命がけで稼いでいる奴らは平気で遺跡の金品を持ち帰る。腹立たしいが仕方あるまい、彼等にも生活が懸かっているのだから。

 

「そうだな。少し彼らの出立を待ってもらってくれ。確か昨日は……よし。執事! ナザリックの大凡の位置を教えろ」

 

「はっ! 旦那様がやる気を出してくださって、私は感激でございます。ジャムニス出発を後らせるように通達してきなさい」

 

 

 

気分が高ぶって来る。まさかこんな形でヒントどころか、大本命の情報を知りえるとは。勿論同名である場合や、偶然の一致である可能性も考えている。

 

だが、それでも自分は行く必要があるであろう。

 

「久しぶりに、友を訪ねに……か。みんな揃っているとは思えないけれど」

 

建物だけ来ていて無人であったり、実は数百年数千年前から有って既に全員死に絶えていたり。はたまた、アインズ・ウール・ゴウンが占拠する前のナザリックだったり。そんな可能性もあるけれど。

 

「未知の場所とは少し違うけれど。冒険しないと」

 

その楽しみを知ることができたのは、アインズ・ウール・ゴウンのおかげだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リザードマンを配下に加え、微量ではあるが、現地調達戦力としてはそれなりの増強をしたナザリック。シャルティアを襲った謎のワールドアイテム所持者の消息も知れないものの、守護者たちの精神的な成長の余地があると知り、今後の躍進が期待できるであろうという状況だ。

王都に送ったセバス達が不在であるが、特に問題もなく日々を過ごしていたナザリックは既に現地の生物などを完全に支配下に置き、優秀な情報網を構築している。

 

そしてその情報網が武装した集団がナザリックに近づいてきているという事実を知らせたのである。

 

 

「まぁ、見たところ大した脅威ではなさそうだがな」

 

「ですが、アインズ様先日の件もございます。今回のこの愚かな来訪者が弱くともいずれはと言う事がございます」

 

 

既に斥候としてインヴィジヴィリティ/透明化を仕様できる配下に探らせて、大した脅威ではないと判断されている。ついでなので避難訓練のように侵入者が来た時の対処がきちんとできるかという演習のように使うことが決定していた。

その為ナザリックの守護を専門とする配下は活躍の場であると非常にやる気に満ち溢れているのだ。

 

「先にも申し上げた通り、私の裁量で動かせる『ぷれいやー』を捜索する部隊の結成を希望いたします」

 

「だがな、アルベド……私のかつての仲間の痕跡を見つけた以上むやみやたらと周囲を騒がせるようなことはしたくないのだ」

 

 

モモンガ、いやアインズとしては、既に人間の頃の感性ではドン引きどころか失神してもおかしくないようなことを幾つもしている。もし仲間がいてそれが原因で仲違いなんてしてしまったならば、今度こそ自害を選んでしまうかもしれない。

だが、そのアインズの保守的な態度こそが、アルベドや他の守護者たちのぷれいやーへの警戒を招いているのだ。いうなればアインズがそうであるから、自分たちが警戒をするべきであるといった形だ。

 

たとえ命に背いても忠義を尽くしてこその守護者なのである。

 

「今回の敵はとりあえず泳がせてよいであろう。このナザリックを土足で歩かせるのは非常に癪だが、背に腹は代えられまい。いざという時にこの体制で強敵を凌げるかのテストは必要だからな」

 

「畏まりました。ですがもし『危険な存在』が痕跡を見せれば私や守護者で『対処』いたしますが、よろしいでしょうか?」

 

「もちろんだ。この今のナザリックにおいてお前たちより価値のあるものなど……そうだな宝物殿に少しばかりある程度だ。言い方が悪いがお前たちは非常に大切な存在だ」

 

「ああ、アインズ様! そのような慈悲深きお言葉! 恐悦至極に存じます!」

 

 

こうして、栄えある『ナザリックへの侵入者第一号(いけにえ)』たちの運命は決まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリックに向かう事になったワーカーのチームは4つ。総勢で20人満たない程度の人数だった。彼らは到着後すぐにチームを分けて行動した。一つは墳墓の近くに有ったログハウスへの偵察。残りの3つが侵入して探索を行うというものだ。

 

彼等の運命は特に語る必要が無いであろう。無慈悲にそして残酷で冷酷に苦痛と絶望を与えられ、最後に慈悲を与えられた。慈悲を与えられなかった者も数名いるが、その者たちの末路も人間としては悲惨なものが殆どだった。唯一奴隷として強制的についてこさせられていたエルフだけはナザリック配下に組み込まれたが、それ以外は最大限言葉を良く言うとして大変丁重に扱われる研究室のモルモットが良い所だ。

 

数刻後にそんな末路を迎える事を露ほども知らずに、ワーカーチーム『フォーサイト』はナザリックに無数に仕掛けられている罠に誘導され、気が付けば殆どの侵入者にとって未踏の地である第六階層の円形闘技場に迷い込んでいた。

 

 

「ここがどこだか分からないけど、今までとは雰囲気がまるで違うわね」

 

「帝国の闘技場の様な場所ですが……」

 

メンバーの一人で神官のロバーデイクが、ハーフエルフで盗賊のイミーナの言葉に対してそう言うと、無言でマジックキャスターのアルシェが頷く。そんな様子をリーダーであり戦士のヘッケランは見詰めながらもメンバーに周囲への警戒を促す。

今いる通路はいうなれば選手が入場するのに使う最下層の通路であり、背後は閉ざされているために進むしかない。彼らは最大限の警戒と共に慎重に歩を進めて、闘技場のバトルフィールドとも呼ぶべき場所へと足を踏み入れた。

開けた視界に映りこんでいたのは無数のゴーレムたちが座る観客席に、見たことのない様な星座が並ぶ満天の星空。そして強大な白い柱によって作られたこの世の物とは思えないほど立派な闘技場の全貌であった。

 

「外に出たのか?」

 

「ならば、飛行の魔法で」

 

「挑戦者! 入ってきました!!」

 

彼等は既にここに来るまでに散々な目にあっている。ようやっと逃走経路が見えた故にすぐにでも離脱しようとしたが、当然のように邪魔が入る。その声は魔法によって拡声されているのか、酷く響き渡るが、変声期を迎える前の少年か少女のような声であった。便宜上彼とするが、彼は闘技場の中心に飛び降りてこちらに向けて手を大きく広げて叫んだ。

 

「挑戦者はナザリック大地下墳墓に侵入した命知らずの愚か者達4人! そして、それに対戦するのはこのナザリック大地下墳墓の主、偉大にして至高なる死の王。アインズ・ウール・ゴウン様!」

 

そして、そう宣言すると反対側に向けて手をさし伸ばす。そしてその言葉と共に反対側の通路の扉が開き、黒く重厚なフルプレートメイルに身を包み、巨大なバスターソードを背に持つ一人の戦士が現れる。

 

 

即座に臨戦態勢に入る4人。この状況で、目の前の少年が迷い込んだ人物で助けるべきだという発想は一切出てこない。自分たちは罠にはめられたのである。

この闘技場も良く見ると貴賓席の様な場所にはゴーレムではなく悪魔や巨大な昆虫と思わしき存在が並んでいる。完全に待ちかまえられているのだ。見た感じこの場にいる存在の中で最弱なのは自分たちだ。

 

ゴーレムたちは一切のずれが生じない拍手でその漆黒の大男を迎える、それに合わせるように余裕たっぷりの様子で彼はこちらに向かって来た。

 

「みんな、すまない。私のせいでこんなことに巻き込んだ」

 

「気にするな、皆で選んだ仕事だ」

 

「そうです、あなただけの所為ではありませんよ」

 

「そーいうことよ」

 

軽口をたたくものの、状況は依然最悪のままだ。リーダーのヘッケランは半場無理であろうと思いながらも対話による平和的解決の道を探ることにした。

 

 

「まずは、無作法に立ち入ったことを謝罪させていただきたい。あぁー」

 

「……アインズ・ウール・ゴウンだ」

 

「アインズ・ウール・ゴウン殿」

 

ヘルムのせいでくぐもっているが、思ったよりも若い男の声だった。ヘッケランは慎重に慣れない言葉を選びながら、口を開いた。

 

「あなたの墳墓に立ち入ったことに関して謝罪させて頂いきたいと思います。この不法侵入を許していただけるのならば、それに相応しいだけの謝罪金として金銭をお支払いしたい」

 

此処まで立派な墳墓が個人の物だったとすると、自分たちの用意できる金額など端金であろうと、内心思いながらも、交渉のテーブルに着かせるための一言として彼はそう言った。しばしの沈黙が場を支配し、ヘッケランは冷や汗を感じながらも彼がこちらの提案を吟味しているのであろうかと内心分析していた。

 

 

「ナザリックに許可なく土足で入り込んだ者に対し、無事に帰したことは私達が占拠して以来一度も無い。例えお前達が勘違いしてようが、知らなかっただろうが関係は無い。その命を持って愚かさを償え」

 

それだけ言うと目の前の男────アインズ・ウール・ゴウンは剣を構えて戦闘態勢を取った。そしてヘッケランは今までの経験に基づく直感から、この場こそが運命の分水嶺と感じ取りカードを一枚切った。

 

 

「もし許可があったとしたら?」

 

「……何?」

 

ぴたりと男の動きが止まった。激しい動揺に苛まれているかのような様子を鎧の上からでも感じる。ヘッケランは獲物が釣り針を突き始めたことを感じ取り、慎重に冷静に自身の動揺を隠しつつ話をつづける事にする。

 

「もしも許可があったとしたら?」

 

「馬鹿な……まさか、彼が? いや、だが彼には口が無かったはず……可能性はない訳ではないが、なぜここに来ない?」

 

ヘッケランは自分がいま綱渡りをしている事を自覚している。しかもその綱が本当に向こう岸まで続いているかも知らないで、真っ暗闇の中の綱渡りだ。しかし、その綱こそが彼の、彼等フォーサイトの紛うこと無き生命線であるのだ。

 

「誰が許可した?」

 

「貴方の想像通りの彼ですよ。名前は口にしてませんが」

 

「彼だと? どのような外見をしていた?」

 

ここだ、ここで失敗をすれば死ぬ。そう直感が働いた。今までのアインズ・ウール・ゴウンとやらの様子と、あの貴賓席の存在、そしてこの墳墓からして、口が無いそして恐らく人間ではない存在が幻影のように取りついているみたいである。ならば、その幻影を大きくして誤解してもらうしかない。

 

 

「顔と思える部分以外を隠していたので何とも。ただ口はありませんでしたので、おぼろげなメッセージ/伝言 で伝えてきました」

 

「……どのようなことを言っていた」

 

「ナザリック大地下墳墓にいる友人によろしく────

 

そこまで口にしてヘッケランはアインズ・ウール・ゴウンの動揺を明確に感じ取った。あと一押し、そうあとほんの一押しで押し切れると。そう判断した。蘇るのは出立を送らせてまで会いに来なさった依頼主の伯爵だか子爵の命令だ。

「可能な限り墳墓の中を荒らさずに、そして住んでいる存在がいたら友好的にして、もし誰かに会えたなら────」

その先が思い出せなかったが、ヘッケランはとにかく、友好的にあろうと数瞬の合間で思考を回転させて、言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────アインズによろしく頼むと言ってましたね」

 

その瞬間、アインズ・ウール・ゴウンの動揺らしい感情がはたりと消えた。ヘッケランは不味いことを言ったかと表情を引き締める。友好的過ぎたが、だがもう引き下がれまい、そう通すしかない。

 

 

「……アインズによろしくと言ったんだな?」

 

「ええ。そのように解釈しました。アインズが何かは知りませんでしたが」

 

「くはははははは!」

 

 

 ヘッケランの答えを聞いて、アインズは高らかに笑う。それは気持ちの良いものではない。まるで駆け出しの道化師のショーを最後まで見てつまらなすぎて逆に面白かったというような、最後まで見てしまった自分への呆れというようなそんな笑いだ。

 

 

「……ああ、なんて愚か者なんだ。サーシェスとやらの件で随分と気が浮ついていたようだ。まさか、こんなことも気づけないなんて」

 

 

空気が変わる。目の前の男から発せられるのは憤怒。

自分の一番の宝物を奪われ汚され壊され価値のないものだと言われたかのような、非常に強烈な怒り。

 

「クゥ、クズがぁあああああああ!! この俺がぁ!! 俺と仲間達が、共ににぃぃぃいいいいい!! 共にぃい作り上げた俺達の、俺達のナザリックに土足で入り込みぃい!さらにわぁあ! 友の、俺のもっ、最も大切な仲間の名を騙ろうとするぅう! 糞がぁああ!! 許せるものかぁああああ!!」

 

彼等は知る由もないが、アインズ・ウール・ゴウンはこの激しい激情の中、何度も感情を冷静なそれへと冷却されていた。しかし次の瞬間には再燃するような激しい怒りが彼の体を支配していたのだ。

 

 

「ふん……アウラ、予定通り下がっていろ。アルベド、例の件だが条件付きで許可しよう。まずは目の前の奴らの排除だ。遊んでやろうと思ったが、それすら生ぬるい」

 

そう言うと同時に宣言をしないでアインズは切りかかった。フォーサイトもすぐさま対応に移る。ヘッケランが武器を構えてアインズの突進を止めるために前に出る。彼の獲物の双剣ならば、懐に潜り込んで一撃を当てればあの大剣では防げないであろう。

 

「マジック・アロー/魔法の矢」

 

「レッサー・デクスタリティ/下級敏捷力増大」

 

そしてそれに合わせるようにアルシェから魔法の矢が、ロバーデイクからはヘッケランへの支援が飛んでくる。盗賊のイミーナは矢を放ってくる。普通の敵ならば2回は殺せるコンビネーションだ。

 

 

だが

 

 

 

「戦士として戦い経験値を稼ぐ価値など貴様らにはない」

 

 

その言葉と共に切りかかって来るヘッケランを物ともせずに、アインズは大剣を投げ捨て腕を横に振うと、一瞬黒い靄が彼を包み込む。そして彼の正装とも呼べる装備達に包まれた絶対の死の支配者が君臨する。

 

「ただ一言 死ね」

 

────タイム・ストップ/時間停止

 

アインズはその言葉で時を止めた。そして適当に頭に思い浮かんだ即死効果のある魔法を4回発動させた。

 

 

 

それだけでフォーサイトのメンバーは物言わぬ屍になった。

 

 

「ふん、この程度か。時間対策もなく第六階層まで来た記録は今後破られることはないであろうな」

 

 

他愛もない。そう口にしながらふと、許し難い事にこちらをだまそうとした男の死体を見詰める。先の会話の時にアインズが逡巡するとき、一瞬だが胸元に手が行っていたことが気になったのだ。

 

「アインズ様! 片付けはドラゴンキンがやりますので、その死体はどうか気にせずに」

 

アウラの声を聴きながらもアインズはヘッケランの胸元に探査系の魔法をいくつかかけると一枚の羊皮紙が入っている事に気が付いた。それを魔法で取り出して手に取ってみるとそこに有ったのは彼にとっては見慣れた、そしてこの場にいる者たちには全く見覚えのない形の羅列だった。

 

 

 

────次の満月に伺います。くけこさしす

 

時間が無かったのか走り書きで書かれた汚い字は、アインズにはそう読めた。

 

 

 


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