友を訪ねに行きましょう。   作:HIGU.V

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転ー1

ぽつぽつと降る雨が自分の外套を濡らす。冷えてきていた空気と雨特有の埃臭さはどのような場所でも変わりがないものなのだと認識しながら、自分は歩みを進める。最近はめっきり減ってしまった、自分で荷物を持って自分の足で旅をするという試みも中々に楽しいものだ。

 

「しかし、やはり単独では厳しいな」

 

今回自分は南の方に有ると言われている空中都市とやらの噂を聞いて、周囲の制止を振り切ってただただ南に向けて歩いてきていたのである。

その空中都市と言うのは何百年だか前に八欲王と呼ばれる8柱の強大な存在が作ったとか、拠点にしていたとかいう場所だそうである。その八欲王は非常に強大な力を持っていたが、伝説のドラゴンが数百と束になって戦いを挑んだらしい。何度も蘇る八欲王に一度は絶望したものの、蘇るたびに弱くなっていくことがわかり、死兵となってもひるまずに戦った人とドラゴン達によって討滅されたとされている。

 

伝聞なので、非常にあやふやなのだが、少しばかり思い当たる節が有ったのだ。故に弟子や世話を焼きたがる周囲の人間を振り切って一足南を目指したのだが、都市がある砂漠まで行ったが結局引き返したのだ。

元々、人間が少数で行けるような場所ではないことを知っていたので、砂漠のすぐ北に有るスレイン法国で護衛でも雇うつもりだったのだが、いくら金をつんでも首を縦に振らなかったのである。

それでもあきらめきれずに、砂漠の境界線までと言う事で何とか引張って来た護衛と共に向かったのだが、一人が死に二人が重傷という状態では撤退を選択するしかなかった。レベル20程であろう強さの彼等は人類の中ではかなり強い方なのであろうが、まぁ歯が立たない敵が多い事。一応レベル15もある自分だが、長年の演奏経験で上限まで上がった吟遊詩人のレベルだけである。戦闘経験がないので、筋力や体力などはついたがそれだけの素人に近い。

 

ともかく、自分の空中都市探索旅行は散々な結果に終わり、今は帰路である。カッツェ平野を、アンデット対策に優れた冒険者を雇って何とか危険地帯とされている場所を通り抜けたのだが、なんでも組合と自分の依頼に微妙に齟齬があったらしく、自分の拠点としている街までのつもりが、この平野の護衛任務になってしまっていたのだ。

追加で金を払ってついてきてもらおうとしたのだが、彼等も事情があるらしく断られてしまったのである。

仕方なく、平野の北に有る街の少し手前で彼らと別れたのだが、雨に降られてしまったのである。

 

 

「楽しくはあったが、戻ることを考えると憂鬱だな」

 

金の羽振りが良い理由なのだが、パトロンが沢山いるのだ。道楽趣味の貴族が国内外問わず沢山いるのだ。7人の弟子から始まり、結局直接傍仕えのように近くにいた弟子は累計で30人ほどいるが、その全員が大成し、師として自分の名前を出したのがもう20年も前。諸国会議の余興で自分の弟子と自分で構成された夢の楽団で一夜限りの演奏会なんてしてしまったのも原因かもしれない。

 

ともかく、名無しの吟遊詩人として一世を風靡してしまったのである。今いる国は名前をあげるからうちの所属に成れと言われたので身を置いている。まさかその時は名前をあげるというのが『家名(なまえ)』だとは思わず、気が付けば貴族様だ。養子に入らされたとかなんとかだが、興味が無いので弟子に丸投げしていた。

まぁ自分を貴族にした人の息子が今の国の指導者になってしまっているので、まだ有効なのかは知らないが。

 

 

「まぁ、音楽を高尚な趣味だと誇りたいのは解らなくもないが、独占しようとするのはむかつくんだよなぁ」

 

この世界に来てストリートミュージシャンの楽しみを知ってしまった以上、誰かの専属なんてものは面倒でやりたくなかったが、金があれば色々手に入るものが違ってくると考えた故に今がある。

 

「また、手掛かりが消えた……いや、遠ざかっただけでなくなってはいないのか」

 

 

故郷に哀愁や愛着は不思議と無い。しかし、ユグドラシルとの繋がりをどうしても目で追ってしまうのだ。現地調査の一環として英雄たちの話を集めるにつれて、どんどんこの世界には過去にユグドラシル産の存在がいたという逸話があふれてきた。

それを追っていけばいつかは自分も。 そう思ってしまうのだ。

 

 

ようやっと見えてきた町を見詰めながら自分は思考と足を同時に進めていく。すると馬の蹄が地面をたたく音が聞こえてくる。目を凝らすと町から放射状に町から延びる道でいうと、自分の隣の道から聞こえているようだ。少し後方であり、このままだと街入口の検問所でかちあってしまうと気付き足を速める。馬車と言う事は自分の前に入られてはこの雨の中、しばし待つことになるのだ。

 

「おーい、そこの旅人さん。良かったら乗っていかないかい?」

 

「大した距離じゃないが、雨宿りは出来るだろ?」

 

 

向こうもそれに気づいたのか、こちらに声をかけてきた。彼らの馬車は布で側面から上部の骨組みを囲っているように屋根が付いており、トンネルのようになっている。確かに雨宿りは出来るであろう。正直彼等と共に行くメリットは少ないのだが、断れば先に行かれてしまうであろう。まぁ別に良いかとお礼を言って、土で踏みしめられた道から一端それて草原を駆けて彼らの元へ向かう。冒険者のランクでいうと金程の身体能力だけはある自分にはどうってことはないが、草原を結構な速度で荷物を背負って駆ける自分に驚いたのか、御者台にいた恐らく護衛も兼ねているのであろう御者がこちらを警戒するが。気にせずに正面まで行き止まる。

 

「おお、流石こんな場所を一人旅しているだけはあるな、アンタ」

 

「全くだぜ、家の護衛がビビっちまってるぁ」

 

「おい、オッサンども、こいつが化け物だったり悪人だったら損するのはあんたらだろ!!」

 

 

中々楽しそうな連中のようだ。ふと記憶に残る映像が思い浮かんできたが、直ぐに立ち消えていく。

 

「今は分け合ってフェメールと名乗っている。いや、フェルールだったか?」

 

「ハハハ、あんた、自分の名前も覚えてないのか?」

 

「随分愉快な人のようだな」

 

「思いっきり偽名ですって言ってんじゃねーか、オッサンどもが!」

 

 

そんな一騒動在りながらも、馬車の荷台に入ると沢山の武器や鎧などが載せてあった。なるほど、彼らは武器商人のようだ。引いている馬も良く見ると随分立派な身体つきだ。扱っているのは量産型の安価な物であろうから、重さあたりの収益は低いであろう。盗賊に狙われる危険性も低いであろうが。そんなどうでもいいことを考えながら話に興じている。結局待つことになったために、検問所で待っている間は暇なのだ。

 

 

「それにしてもフェルなんとか、あんたは冒険者かなんかかい?」

 

「いや、このフエメなんたらは一人だったからワーカーかなんかだろ」

 

「外れだ。自分はお忍びで旅をしている貴族だからな」

 

「だめだ、このオッサンどもまともに会話してねぇ」

 

 

御者がうるさいが、商人らしき二人の男性は非常に友好的である。

 

「あの身のこなし流石のもんだぜ」

 

「ああ、中々できるやつはいねーな。アンタ程の年でそれだけ動ければ十分すげぇよ」

 

「そう褒めるものでもないさ。生まれてこの方楽器より重いものは持ったことのない身体なのでな」

 

事実である。楽器より重いものをもとうとすると、直ぐに傍仕えが止めるのだ。

 

「そういや、ここに来る前に通った街でも、凄い冒険者がいたらしいな」

 

御者が思い出したかのように唐突に口をはさんでくる。なんだかんだ言って彼も暇なのであろう。

 

「ああ、なんでも『凄まじいアンデットの魔法でドラゴンを倒す墓場の黒騎士』だっけか?」

 

「いや? 俺の記憶だと『アンデットの黒騎士が墓場のドラゴンを倒した』のはずだ」

 

「あぁん? それって俺の言おうとした『美女がドラゴンをぶっ殺して、アンデットの黒騎士が神獣に乗ってる』って噂とは別の奴か」

 

 

「……ほう。そんな話があったんだ、詳しく聞きたいね」

 

 

吟遊詩人としての経験が、面白い冒険譚が聞けると感じ取ったのだろう。自分はその話に非常に惹かれた。彼らの不明瞭な話を統合していくと、この近くのエ・ランテルという町でひと騒動あり、それを黒騎士だか美女だか神獣が解決したという事らしい。

 

 

 

「ん、まてよ……」

 

「おう、どうした急に黙り込んでよぉ」

 

「ボケでも始まったか? そんな年でもないであろうに」

 

「ははっ、ちげーねぇ」

 

 

 

 

共通するアンデットという単語、墓場やドラゴンと言う言葉。そして美女に黒騎士。

 

 

 

雷に打たれたような衝撃が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の歌はアンデット美女に迫られるドラゴンナイトの話にするしかないな。いや、ドラゴンレベルに強い美女に迫られるアンデットの方が受けがいい気がする。悩ましいな!」

 

心の羊皮紙に記しながら、雑談に興じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリックの地下深く。至高の御方と呼ばれる41の偉大なる存在達。そのプライベートルームとされる場所。最近忙しくなかなか帰ってこないこの部屋の主人に代わって、アルベドはベッドに自分の匂いをマーキングしていた。

 

白いシーツ以外は何も身に纏っていないで豊満な肉体とすらりと伸びた四肢をさらけ出しており、自らの長い黒髪を流れるように広げたその姿は非常に魅力的で蠱惑的で退廃的で非現実的であった。

 

「はぁ……此処の所アインズ様のご様子が、少々おかしいわ」

 

彼女が思うのは愛しい愛しい、狂おしいほどの愛をささげる唯一の存在についてだ。少し前、下等生物の街に呼び出されたからと言う無礼千万不届き極まりない理由で出かけていたのだが、直ぐに帰還し意識の無い下等生物の男を差し出して、この男の持ちうる全ての音楽に関する情報を吐かせろと命じて消えて行かれた。

 

その後も人間の街に潜入して情報収集しているセバスに、サーシェスという人物の作った音楽、その人物そのものに関する情報をどんな些細でも良いから集めろと厳命したりと強権を振っていらっしゃるのだ。

 

最初はシャルティアとの一件で、上に立つものとしての自覚や自身を新たにして支配者としてより一層君臨されるのかと、その深淵へと続くような深い思考から何十手先の布石の為に動かれているのかと思ったのだが、このナザリックで最もアインズ様の愛を受けている(アルベド調べ)彼女だからこそ気付けるものが有った。

 

 

「まるで、焦っていらっしゃるご様子。でも、他の守護者は特に疑問に思ってないみたいだし」

 

 

アインズ様、いやモモンガ様は他の至高の方々が御隠れになってから、どこか遠くを見つめられているようになった。それはアルベドの思考の多くにもやがかかっていたかのような時期からすらそうだった。

この異世界に行くという天変地異の後は、少し心境の変化をなされたようで、どうにも今までと少し印象が違いそれがまた魅力的なのです!!

 

話がそれたので戻すと、今のモモンガ様はまるで昔に戻ったようなのだ。

 

それも、悪い意味での。至高の方々が少しずつ御隠れになっていっている時の、感情を押し殺していらっしゃるような、それでいて焦燥感を隠せていないような、そんな気配をモモンガ様をこの三千世界で最も愛している(ここ重要)アルベドだから気づく事ができたのだ。

 

 

「もし、モモンガ様をもナザリックから遠ざけるものであれば」

 

 

────それがたとえ神でも悪魔でも至高の御方であろうとも

 

「私の手でそれを排除させていただきます」

 

 

全ては『アインズ・ウール・ゴウン』の為にと

全ては『アインズ』・ウール・ゴウンの為に

 

いうなれば後者であるこの世界で唯一の存在、アルベドは心の底でそう誓いを立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全裸で主人のベッドにマーキングしながらであるが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナザリックか。法国が手を出して火傷したと風のうわさに聞くが」

 

「探りを入れられるので?」

 

「ああ、適当な「捨て駒」を立ててやらせておけ、細かい所は任せる」

 

「畏まりました。皇帝陛下」

 

 

 








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