あの日のお姉ちゃんとの仲直りの末、私は何故か引っ越しする羽目になりました。何でかは分かりません。でも、一週間後に私の下へ引っ越し業者さんが押し掛けてきた時は、いきなりで死ぬかと思いました。
そんなこんなで私は今、私服で真新しい家の真ん前に立っていた。左肩に掛けたボストンバッグが、妙なダルさを伴ってずり落ちかける。
綺麗に整った高級住宅街に佇む一軒家。二人で住むにはやや広すぎじゃないだろうかと疑う大きさで、優に二百坪はありそうな家だ。
余り突っ立っていても周りに迷惑かと思い、これから新しい家となる門を早速潜ることにした。外観は私達の実家に近く、和風建築が目立つ。瓦屋根に漆喰の壁、木の枠組みでできた障子窓など、どことなく安心できる見た目がお姉ちゃんの気遣いらしいところが見える。
玄関の引き戸をあらかじめ貰っていた鍵で開け、戸を開くと、中は新築同然の内装だった。後で聞いた話だと、全面リフォームしてこうなった模様。リフォームするだけでも数週間は掛かる筈なのに……もしかして初めから留学を取り消して、ここに住む予定だったのだろうか。
私は小さく「ただいま」と言って、恐る恐るながらも家へ上がる。辺りを見回しつつも私の部屋は何処だろうと探していると、ふと背後から何かの気配がして、振り向こうとした途端に何者かに抱き締められた。
「むぐっ!?」
「マーちゃん確保ぉ!」
常人より遥かに発育した胸部に頭を押し付けてきたのは、この家を買った張本人である私の姉、レイナお姉ちゃんだった。
直ぐに引き離されると、いつもの冷静な貴女はどこへ行ったのと言われんばかりに頬を緩めて、今度は私の胸に顔を埋めていた。
「あぁ、服越しからでも分かるマーちゃんの控えめな胸……撫で回したくなるような小振りなお尻……えへへぇ、私のマーちゃんだぁ~」
「……………はぁ」
何かもうこの時点で疲れてきた。これがあの嫌ってたお姉ちゃんなのだと思うと、独り善がりだったことがどんどん浮き彫りになってくる。と言うかお母さんに似てきた。何なのこの人。
かと言ってこれでもお姉ちゃんだし、突き放したら絶対絶望しそうなので言わないけど。
「お姉ちゃん、そろそろ部屋に行きたいんだけど……」
「うん? マーちゃんのお部屋? そうね、荷物も置いてこないとだし。行きましょうか」
つい数秒前までニヤついていた人物とは思えない切り替えの早さで、お姉ちゃんは立ち上がって早速私の部屋へと案内してくれた。
道中に見かけた部屋の説明もしつつ、二階までやって来るとふとお姉ちゃんが立ち止まる。
「ここよ。マンションの部屋にあったものは一式置いてあるけれど、遠慮せずにばんばん置いちゃって良いのよ? それと、夜は寂しくなったらお姉ちゃんのところに来ても良いのよ?」
「うん、ありがとう。別に一人でも寝れるから心配しないで良いよ」
最後の言葉で固まったお姉ちゃんを放置しつつ、取り敢えず中へ入ってみる。好みで内装を変えられるようシンプルになっているものの、床はフローリングでカーペットが敷かれている。ベッドや箪笥にクローゼット、姿見にテーブルはマンションに居た頃と変わらず、ゲームのパッケージやゲーム機が置かれた棚に、六十インチのテレビとソファーが新しく置かれていた。
お姉ちゃんのことだから、色々と揃えてあるだろうと考えてこそいたけれど、まさか初回生産限定版のゲームだとか、ここまで大画面のテレビを用意しているとは思わなかった。
「……お姉ちゃんには敵わないなぁ……」
「マーちゃん、何か言った?」
「ううん、別に。ありがとうね、お姉ちゃん」
やっぱり何か照れ臭くて、私は誤魔化すように笑顔でお礼を言った。色々なお礼を込めて。
■
改めて荷物を置いてから、今度はリビングに来ていた。だだっ広く、二階の天井まで吹き抜けになっているリビングは、庭が望める縁側や少し広めのキッチンと、開放感ある印象を持たせた。
そこへお姉ちゃんが紅茶とケーキを持ってきてくれ、お茶をすることになった。
「マーちゃんにあんなにお友達ができてて、本当に良かった。お母さんも知ってるの?」
他愛もない話から派生して、学校の話になった途端、お姉ちゃんはそんな風に切り出してきた。
「うん、パパもママも知ってるよ。月に一回は電話するのが二人との約束だし」
「そっか……知らなかったのは私だけなのね……」
「ママは兎も角、お姉ちゃんしっかりしてるから、パパは放任してるもんね。そう言えば、カナリアさんやディーネは?」
「あの二人なら仲良くしてるわよ? 最早どっちが姉でどっちが妹か、見てて面白かったわ。ディネットちゃんも、マーちゃんに会いたがってたし、秋には来るんじゃないかしら」
「何で秋?」
懐かしい親友とその姉の話に移ると、ふとお姉ちゃんは秋に来るんじゃないかと言った。そこで疑問に思うと、お姉ちゃんは思い出したかのように私に説明する。
「ガンプラバトル選手権世界大会があるからよ」
「世界大会……」
「昨年カナがまたドイツ代表になったから、今年も狙ってくると思うわよ」
「お姉ちゃんは出るの?」
その世界大会とやらに。私は流石に出ようとは思えないけれど、お姉ちゃんが出るなら応援したいなぁ。
そんな気持ちで返事を待っていたら、お姉ちゃんは首を横に振って答えた。
「私は辞めておくわ。クロイツじゃ、そろそろ味気なくなっちゃうもの。それに私は別の義務があるし」
「私はその前に全国大会と前期期末テストかぁ……」
「あら、楽しみにしてるわよ? 全国大会。一度見てみたかったし、PPSE社の社長が初めて顔を出す噂があるらしいし」
ふと社長が出てくるということに、ジンナイ先輩が前にお茶会をした際に言っていたことを思い出した。その時の皆の表情も。お姉ちゃんが「全国大会へ進んだら」と危惧していたことも思い出す。……何か関係があるのだろうか。
「私達、絶対優勝するの。だから絶対に止まれない」
「ええ」
「お姉ちゃんは私を思って止めようとしてくれたんだろうけど、折角皆で頑張れるって思ったこと、辞めたくないの」
無言で頷くお姉ちゃんに、私は心の底で安堵した。
もう一人じゃないから、皆が居るから、だからこそやり遂げたい。全国大会で勝つことを。ジンナイ先輩との約束、ユー君やツクモ先輩の熱意、無駄にはできないから。
紅茶を一口飲んでから、お姉ちゃんはクスクスと微笑みながら納得したように口を開いた。
「ふふっ、そうよね、マーちゃんだもの。……でも後悔は必ずやって来る。それだけは覚えておいて。それまでは止められなかった分、お姉ちゃんとしてマーちゃんを応援してあげるから」
「うん!」
初めて見た姉の本当の笑顔に、私も満面の笑みで頷き返した。
それからはまた他愛もない会話をしながら、お茶の時間を精一杯楽しんだのだった。
バトローグ、GMの逆襲と、再びガンプラと燃え上がる夏がやってまいりましたね。カミツです。
去年はセカイ達のターンでしたが、今年は時を戻してセイ達のターンですね。やっぱりビルドファイターズと言えばセイ達の方がしっくりきます。不思議。
しかしこちらは別の意味で燃え上がりますよ。夏祭りでもよかったんですけどね。浴衣姿でも良いかなって考えたけど、やっぱり水着の方が良いじゃないですか。乙女の柔肌は地獄への渡し賃とか言いますけど、それに優る贅沢はな(ウワキサマナニヲスルヤメry
ではまた次回、ノシ